一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第9期女流王座戦二次予選の勝敗予想

2019-05-30 00:14:07 | 勝敗予想
第9期女流王座戦の二次予選は6月3日から行われる。今日は全10局の勝敗予想をしよう。

1枠
●加藤結李愛女流2級VS○山田久美女流四段

2枠
●松下舞琳アマVS○室田伊緒女流二段

3枠
○飯野愛女流初段VS●山口恵梨子女流二段

4枠
●脇田菜々子女流1級VS○谷口由紀女流二段

5枠
●伊奈川愛菓女流初段VS○鈴木環那女流二段

6枠
●藤田綾女流二段VS○香川愛生女流三段

7枠
○水町みゆ女流1級VS●長谷川優貴女流二段

8枠
○上田初美女流四段VS●野原未蘭アマ

9枠
○中井広恵女流六段VS●和田あき女流初段

10枠
●塚田恵梨花女流初段VS○藤井奈々女流1級

女流王座戦は、意図的にカードを組んでるんじゃないかと疑うくらい、好カードが多い。まあ、厳正に抽選はしているんだろうが。
一次予選でだいぶ篩にかけられたが、挑戦権獲得までまだ先は長い。が、一つ一つ勝って行くしかない。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プロはそんな手を考えない

2019-05-29 00:06:22 | 将棋雑考
渡部愛女流王位に里見香奈女流四冠が挑戦している第30期女流王位戦五番勝負。第2局は8日、渡部女流王位の出身地・北海道帯広市で行われた。結果は渡部女流王位が勝ち、1勝1敗のタイに持ち込んだ。
その第2局で私が注目したのは、第1図である。里見女流四冠が△5七歩と叩き、▲同金に△4六歩▲同歩と突き捨てた局面だ。

ここで私が気になったのは△5六歩である。これに▲同金と▲4七金は△6七歩成だから、先手は▲6六金と逃げるしかない。しかしそこで△5七桂が痛打である。
これに▲同飛は△同歩成だから先手は▲5九玉と寄るが、さらに△4九桂成▲同玉△4七金(参考A図)でどうか。

参考A図で▲5六飛なら、△6六馬▲同歩△4八金打で詰み……というのはいくらなんでもココセで、手順中▲6六同歩で▲7四桂△9三玉▲6六角として先手勝勢。
とはいえ△5七桂までの手順は、アマ同士では相当先手が気持ち悪いはずで、実際ツイッター解説の長沼洋七段も、▲5七同金の局面で「△5六歩とか△5六香が嫌ですね」と述べていたのだ。
しかし△4六歩▲同歩の時に、「後手は桂も香も渡しにくいんですね」と見解を修正した。
本譜は第1図以下△8九成香▲6八銀△8八馬▲2二歩と進んだのだが、これは先手陣が厚くなった形だ。
里見女流四冠はそこで△5六歩と叩いたが証文の出し遅れっぽく、▲同金△8七馬▲5九玉△4七歩に▲2一歩成(第2図)が大きな手で、以下は渡部女流王位が華麗にまとめた。

それにしても分からないのが、第1図で本当に△5六歩がなかったのか、ということだ。
解説はあのあと△5六歩に一度も触れなかったし、感想戦でもこの周辺の感想はなかったっぽい。
ということは、プロレベルでは▲4六同歩の局面で△5六歩は「ない手」なのだ。もう、解説するまでもないのだろう。ここに私は、プロとアマのレベルの差を見たのである。
(6月1日追記:△5六歩▲6六金△5七桂には、▲同飛△同歩成▲7四桂で、後手玉に詰みあり、の指摘が読者からあった)

さて、今日29日は女流王位戦第3局である。実は両局の間にも清麗戦で2人の対局が組まれ、それは負けた方が予選敗退という大一番だったが、里見女流四冠が制した。
渡部女流王位は残念だったが、女流王位防衛のために、一局助かったと思えばいい。
第3局も、双方力一杯戦ってください。
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鈴木九段と藤森五段の新橋解説会(第77期名人戦第3局)・5+補足版

2019-05-28 00:16:03 | 将棋イベント

第10図以下の指し手。△6七歩成▲同金△6六歩▲6八金△3一飛▲7六歩△7五歩(第11図)

豊島将之二冠は、△6七歩成とした。「怒った」と藤森哲也五段。
鈴木大介九段は、「▲8九金の夢か……」と、意味不明の指し手をつぶやく。
先手は▲8八銀を出動させて、後手玉を仕留める変化があるらしい。その時▲7八金を移動させておけば、△8七玉で詰まない。それを見越しての歩成のようだった。
しかし佐藤天彦名人は、少ない持ち時間(10分)の中で考える。
「これはもう、形勢は五分ですね。先手は▲同金と取って、後手のミスを誘うしかない。仮に▲8一ととして8分使ったら、残り2分で二択の時、必ず間違えます。それより▲6七同金と取ったほうがいい」
果たして佐藤名人は▲6七同金と取ったが、やや時間を使い過ぎたか。
△6六歩▲6八金。
「こうなってみると、▲5九銀が囲碁みたいに左右の2枚の金に連結して、堅いですね」
ここで豊島二冠は△3一飛。しかしこの撤退は痛い。
「ここで▲8六歩が考えられます。もし△7六歩なら、▲8五歩△7五玉▲8七桂△8六玉▲9七銀△8七玉▲7八金△9八玉▲8八金△9九玉▲8九金(参考6図)まで詰み」

オオーッ!! と会場がどよめく。これがさっきの夢の手順の正体か。
棋士は時々意味不明の符号をつぶやいたりするが、それが十数手後の指し手だったりして、そのたびに私は、プロの読みの深さに感嘆するのである。
時刻は午後9時にならんとしている。そろそろお開きの時間で、プロの矜持として、どちらが勝ちか断定しなければならない。
「どう藤森君、どっちが勝ちだと思う?」
「佐藤名人でしょうか……」
「藤森君がここまで言ってんだから、佐藤名人が勝つでしょう。ただ私は、まだまだ難しいと思います」
ええっ!? 鈴木先生、土壇場で裏切るなあ……。
というところで、▲7六歩が着手された。逆に打たれると、制空権を支配されそうだかららしい。
そして△7五歩。

「えっ、歩を!? 歩を打ったの?」
鈴木九段が最後に叫んだ。「これは▲8六歩△7四馬▲8五歩で先手がいいでしょう。△7四馬の形は、自分から技を掛けなくちゃいけなくなるから、大変なんですよ」
先手が馬を取って、それを▲5二角から▲3四角成とする変化も並べられる。こうなれば名人勝ちだ。「後手の△3一飛、△3二金、△3四金の形がヒドイですね」
鈴木九段が嘆いた。
時刻は9時をとうに過ぎており、さすがにこれでお開きである。しかし名人戦屈指の熱局だっただけに、惜しい。どんなに遅くなってもいいから、勝負の行方を見届けたかった。
「第4局の新橋解説会はありません。でも(第3局は佐藤名人が勝つだろうから)第5局はあります。対局はそこの増上寺でやるんで、私も理事として同行します。新橋の解説は、どなたかが出ると思います」
と、鈴木九段は言った。
私は就職が決まり、その会社も残業はあるが、解説会を聞ける環境になるかどうかは分からない。
いずれにしても、鈴木九段、藤森五段、そして藤森女流四段のお三方は、今回2時間半に及ぶ解説会となった。長い時間、お疲れ様でした。

   ◇

私は電車に乗ったが、考えてみればAbemaTVで続きを観られるのだった。改めて、恐ろしい時代になったものである。
観ると、△2九馬が先手の駒台に乗っていた。もちろん先手が優勢なのだろうが、何か後手陣がサッパリしたようにも見える。
次に観た時は、佐藤名人が▲8五桂と跳ねた。
次に観た時は、豊島二冠が△4八飛成と金を取った。……あれ? これ、▲4八同銀は△6八銀成から先手玉が詰むじゃないか。
……ということは、この局面で後手玉が詰むのか?
佐藤名人は▲7三桂右成から追う。だけどこれ、△9二玉▲7四角成に△8一玉で、連続王手の千日手に見える。といって先手にそれ以外の追及はなく、となれば後手の勝ちである。
ええー!? そんなことがあるの?
豊島二冠は△8一玉と着手する。そこで最寄り駅に着いたので、私は下車した。

後になって、その局面で佐藤名人が投了したことを知った。私はビックリである。
あの将棋を、豊島二冠が勝った? じゃあ、鈴木九段と藤森五段の予想は何だったのか?
いやはや、勝負事は分からないものだ。
……あれ? じゃあ、次の第4局を豊島二冠が勝ったら、第77期名人戦は終了ではないか。そして新橋解説会も終わりとなる。何と中途半端な!

第5局の解説会に行ける保証はないけれど、でも何となく、名人戦は第4局で終わりそうな気がした。

第11図以下の指し手。▲8六歩△7四馬▲7三と△同馬▲同成銀△同玉▲6五桂△8三玉▲5二角△6七銀▲8五桂△4八飛成▲7三桂右成△9二玉▲7四角成△8一玉(投了図)
まで、136手で豊島二冠の勝ち。

(おわり)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鈴木九段と藤森五段の新橋解説会(第77期名人戦第3局)・4

2019-05-27 00:14:35 | 将棋イベント
「どっちにしても、ストレート負けはマズいよね。私も喰らったことあるけど。もうね、4連敗したら主催社に申し訳ないんですよ。今も叡王戦が0-3でしょ? どっちもマズイよね」
と、鈴木大介九段。
「先生は4連敗あるんですか」
と、藤森哲也五段。
「ない。1-4(竜王戦)と0-3(棋聖戦)。竜王戦で藤井猛さんに3連敗して、4局目でやっと勝ったけど、ホッとしました。だけど5局目で負けた。やっぱり6局までは行きたいよね。これは4勝2敗だから、まあ形になる。
佐藤康光先生だったかな、ストレート負けすると、棋士としての格が落ちるって言ったのかな。4連敗すると、何かが落ちるらしいですね。もっとも佐藤先生もストレート負けを何度か喰らってるんだけど。
あのね、予選のトーナメント戦は、まだ緩いものがあるんですよ。勝っても負けても、その棋士とはその棋戦でもう指さないしね。
だけどタイトル戦は、トーナメントと違う。人間同士の戦いっていうか、旗が一本立っていて、それを取り合う激しさがありますね。相手をとことんまで叩きのめさなきゃいけないから、それは大変です。
とにかく、理事としては佐藤名人を応援していますよ。
さて局面ですが、私の予想は▲7三歩ですね。次に▲7二銀があるから取るしかないけど、△7三同玉は一手パス。△同金と取るよりないけど、それは△6二玉・△7三金の形になる。
私が主張した△6二金なら、この時点で金と玉が逆なんです。本局の場合、上のほうが安全地帯だっていうのが分かりますよね。だから玉は三段目がいい。△6二金のほうがよかったんです」
私たちは妙に納得させられる。そこに指し手が伝えられた。

第9図以下の指し手。▲5二銀△5三金▲6三歩△7三玉▲7七桂△4四金▲6二歩成△3四金▲6三銀成△8四玉▲7二と(第10図)

「▲5二銀!?」
鈴木九段が頓狂な声を上げた。
「名人が指したんじゃなかったら、筋悪くないですか? と言いたくなりますね」
と、これは藤森五段。
「そうだね、▲7三歩じゃダメだったのかなあ」
「ああ、中継のコメント欄に、▲7三歩は手筋、と書いてあります」
「うん、これは何か喰らうね、先手が。後手は△6二玉から、値切りにいってるんですよ。ここで△5三金とされたらどうするんだろ。これは8:2で豊島二冠有利になりましたね」
▲6三歩には△7三玉と上がった。「△7三玉は、局面に自信ありだと思います。もう先手は▲7七桂しかないでしょう」
そこに▲7七桂が指され、会場から拍手が起こった。会場は大介ライブの趣になっている。
△4四金▲6二歩成に豊島二冠は△3四金と角を取り、これは佐藤名人の指し切りがハッキリしたと思った。
しかし▲6三銀成が意外な迫力で、△8四玉の局面は、後手にも危険なところがある。
「ここで▲7六桂は△7五玉で、ここがあったかいか。これは△7六玉となかなか桂を取らないのがいいんです」
しかし佐藤名人は▲7二とと迫る。
「これは後手もあぶないですね。何か手段があるのかな。……これか! △4七馬。▲同金は△7八飛成▲同玉△6七角▲6九玉△7八金(参考5図)まで。だけどこれ、△4七馬に何もしなければ詰めろではないんですね。

……あれ? じゃあこれちょっと、だいぶ差が詰まってきましたよ。野球で7回まで勝ってたのが、8回裏に満塁ホームランを打たれて7-4になった感じです。流れ的には、もう逆転のニオイしかしない」
「誰かツイッターにそう書いてください」
と藤森五段がおどける。
「これ、現状は名人が駒損しているけど、駒の損得は関係ないよ。もう、4×4の脱出ゲームになっちゃってる。ここを逃げきれなかったら、後手負けです」
あまりの急転直下に、私たちは声も出ない。「△4七歩ですかね。ああ二歩か。……私はプロになってから反則負けはないんですよ。私は今45歳だけど、(この分だと)現役中に3回は反則負けをやりますね」
もう、どこまで本気で言ってるのか分からない。「いやー、しかし豊島二冠も、10通りくらい勝ちがある中で、最も手堅い手を選んだはずなんですよ。それでこの進行ですからね。混乱してるんじゃないでしょうか」
「先生、先ほどは8:2で佐藤名人持ちと言ってましたけど、今は」
「6:4ですね。しかも流れがありますからね、この差もすぐになくなるでしょう。ヒドイです。……あ、私、対局中に『ヒドイ』って言ったら、その将棋は必ず投了します」
「本当ですか?」
と藤森奈津子女流四段。
「本当です。2、3手指すかもしれないけど、投げます」
「じゃ、『いやー』はどうですか」
「いやー、ね……。それは投了しないかな。いやー、はアツイ演出ですから。
あのー、森内先生も、頭抱えて55秒まで読まれて、いい手を指すんですよね。態度と指し手は分からないんですよ。
あと島九段の、窓からビル群を眺めるやつね。島九段は淡白で、早く投げることも多いんだけど、稀に新宿のビル群を眺める時があるんですね。その時はとことん粘るぞ、と自分に言い聞かせているという……」
鈴木九段は、時々知られざるエピソードをぶちこんでくるので、油断がならない。
しかし時刻は午後9時近くなろうというのに、まだ終わる気配がない。この解説場は、9時まで使えるのだが、これは私初の、中途で終了、ということになるのだろうか。「とにかく将棋に流れがあるならば、逆転してるんですよ」
鈴木九段は、妙に自信のある声で言った。

(つづく)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鈴木九段と藤森五段の新橋解説会(第77期名人戦第3局)・3

2019-05-26 00:11:02 | 将棋イベント
「大内先生の記録係をやって、大内先生が『お茶』と言うんだよねえ。すぐ出さないと怒られてね」
と鈴木大介九段。「解説会の時でも、大盤で変化を並べて、元の局面に戻らないと怒られた。厳しい人でした」
「私も、歩の数だけ頭に入れていました」
と、これは藤森哲也五段である。ただこれらはあくまでも師弟愛であって、大内延介九段の厳しさの中に温かさを感じ、私たちは微笑ましく思うのである。

さて局面はどうなのか。「あ、分かった」と鈴木九段。
「△6二金ですかね。
ここで△3九馬は攻めの手なんだけど、馬の筋が守りから外れるんですね。いずれにしても熱戦ですね。
ウン、これは△6二金ですね、これだけ考えているということは。先手からしたら、もう△6二金の一本釣りで、その応手を20分くらい考えますよ。持ち時間が30分を切ったら、相手の手を予測するということも大事なんです」
双方、かなり持ち時間を使っているようだ。名人戦でこの時間になってもまだ優劣不明というのは珍しく、時刻はあと10分足らずで午後8時だ。私は9時までには帰宅できると踏み、刑事ドラマの予約録画をしてこなかったのだが、それが悪手になるとは思わなかった。
「名人が△3九馬から読んで、それは後手が難しいから、△6二金を読むのがアマヒコ流なんです。それで相手が△6二金を指したら、その手は読んでましたよと、次の手を余裕で指す。それが勝負の呼吸です。持ち時間が10分切ると心拍数が上がってくるからね、早く指さないといけない。
……だけど△6二金はいい手ですよね。もう、当たる気しかしない。私は△6二金という手で勝ってきた。これが『昭和の手』なんです」
鈴木九段は△6二金に、妙に自信を深めている。
しかし豊島将之二冠は容易に指さない。鈴木九段は、佐藤大五郎九段の話を始めた。
「藤森君は佐藤大五郎先生知ってる?」
「いえ、知らないです」
ええっ!? 藤森五段の代で、もう佐藤大五郎九段を知らないのか……!?
こりゃ私も、歳を取るわけである。「いえもちろん、お話では知っていますけど」
「うん、マキ割り大五郎だよね。大五郎先生は面白くてね、先生ちょっと目が悪かったんですけど、ある将棋の終盤で勝ちになった。金を打てば詰み、銀を打てば不詰みなんですけど、大五郎先生、駒台から銀を持って、対局相手に『キミ、この駒は金カニ? 銀カニ?』って聞くんですよ。ヒトが悪いよねえ」
鈴木九段がゲラゲラ笑いながら言う。「先生と対局した時もね、先生、6九に玉を置くんですよ。こっちもしょうがないから5一に玉を置くじゃないですか。すると先生は、7九金、8九銀、9九桂と置いていくわけです。だけど香車が置けない。そしたら『あれ? 香車を置くところはどこカニー?』だもんね」
私たちもゲラゲラ笑う。何だか鈴木九段の独演会みたいになってきた。
「そういえば、お昼休みにコーヒーを飲みに行って延々と帰ってこない棋士がいた、と聞いたこともあります」
「昔はよかったよねえ」
と、鈴木九段が遠くを見る。現在の棋士は、対局中はカゴのトリだ。別に同情はしないけれど、過ごしにくい環境になったとは思う。
「昔は、午前中はゆったりしていたよね。だけど今は一手一手が厳しいから、午前中からピリピリしてる。
今の若手は、終盤で悪くなっても諦めないよね。私が勝勢になっても相手が投げないから、ちょっと緩い手を指してやると、そのまま逆転されちゃうんだよね。こっちがからかってんの気付かないんだよね。
さて△6二金だけど、コンピューターは指摘してないの?」
「△6二金は候補手に上がってないですね」
藤森五段が散文的に答えた。
「ない! AIにはない!
……うーん、私も今は最高速度が110キロなんで、昔は140キロをガンガン出してたんだけど、今はストレートを投げてもフツーに落ちるナチュラルフォークしかないんで、ここは△6二金という手しかないんですね。
現在駒の損得を見ると、飛車と銀桂の2枚換え。そして先手は遊び駒がまったくない。後手は△3二金、△2一桂あたりの働きが弱い。それ考えると先手が圧倒的にいいが、▲8八銀の形がひどいんです。それで形勢が分からない」
時刻は午後8時になった。この会場を使えるのは午後9時までだという。しかし1時間で決着がつくのだろうか。
「△3九馬と指せば、いいも悪いも結着がつきます。だけどこれ、豊島さんがつんのめると負けるでしょ。攻めの反動がキツすぎて。
……藤森君ならどう指す?」
「私は△3九馬ですね」
豊島二冠の考慮は30分を越えた。「30分考えても指せないということはどうなんでしょう」と、藤森奈津子女流四段。
「勝負の分かれ目は7七の地点に何がくるかということですね。三段リーグなら、▲7七銀かもしれません。だけどこれもね、将来△9九銀とかあるんですよ。▲8八銀~▲9九銀とかでタダ取りしても、9九に自分の駒が邪魔駒として残っちゃう」
そこに指し手が伝えられた。△6二玉!!(第9図) 
会場がざわめいた。

「△6二玉か! 惜しかったな、狙いは同じだったが」
「でも△6二玉と△6二金は違いますよね」
「うーん……」
早速△6二玉での変化を並べる。
「▲7五桂の他には、▲7三歩がありますか。△7三同玉▲6五桂△7二玉▲7三歩△8三玉に▲7二銀。ここで中盤なら、飛車を助ける△9二玉、終盤なら△9三玉です。
……でも△6二玉は惜しいんだよ、(考え方としては)タッチの差」
鈴木九段は△6二金にまだ未練があるようだ。
後手は△2九馬が盤上からなくなると、▲3九金で飛車を詰ます変化もある。
「これは、飛車を詰ましてよろこぶ永瀬流になります。
……いろいろ変化がありますが、この時△9四歩が大事だということが分かります。△9三玉で、容易に詰まないもんね。これが△9四玉しかないと、相当危うい」
「先生は△9三玉の位置が好きですもんね」
「うん、序盤の忙しい時に、なぜ△9四歩と一手かけるか。それはそれなりの価値があるからなんです」
なるほど、と思う。「いずれにしても、△6二金ないし△6二玉は、勝てば勝着になるでしょうね」
鈴木九段が、そう予想する。でも何となく、その予想は外れるような気がした。
(つづく)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする