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予防できません: ワクチンもどき?

2012-04-27 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
母親からの相談
「助産院での出産を決めていますが、保健所の母親教室で「そこの助産院は新生児の出血予防のビタミンK2シロップを飲ませていないそうだから気をつけて」というようなことを言われてしまいました。心配で、育児書などで調べましたが、本によって「必ず飲ませてください」「出血がおこったら飲ませれば良い」など記述が様々です」(2002年)

2010年には、これに関連して赤ちゃんが死亡するという事件がおきました。

全体について詳しく紹介してくださっている先生の記事:「ケーツーシロップ、助産師、ホメオパシー」 (ある町医者の診療日記)

赤ちゃんはビタミンK2のかわり(のもの、と助産師が考えたもの)を投与されてしまったようですが、
「・・のようなもの」は本物とは違います。

このニュースのあとに、ホメオパシーの認知度は様々なかたちであがりました。
特に、8月24日「ホメオパシーについての会長談話」(日本学術会議 2010年)が発表され、それまではスルー&黙殺していた人も、関連の発言をしていました。


反論も紹介しておきます:「ホメオパシー新聞(号外)」日本ホメオパシー医学協会
"日本学術会議という一機関の見解であり、政府の見解ではありません"

この事件で、ずっと問題指摘されていた日本助産師会もコメントを出しています。
8月26日「「ホメオパシー」への対応について」日本助産師会 2010年

下記のワクチンにも関連するのですが、助産師会は国家ライセンスを保有する医療者として、もっと立場を明確にしたほうがよいと思います。
(菊池先生ブログ参照 ビタミンK問題: 助産院とホメオパシー[追記は随時あり]




なぜ、この話を引用したかというと、「自分の子どもについてはワクチンと同じような効果があるもので予防している」というコメントをしている人がいたから、そして、助産師から「ワクチンはしないほうがいい」と助言されたために感染・発症してしまったお子さんの保護者が「専門家の指導に従ったのに」と憤られるケースの相談が寄せられているためです。

ワクチンと同じようなものってなんでしょう?

日本は予防接種のデータベースがデジタルで構築されていないので、保護者や当事者に「罹患したことがあるか?接種したか?」と口頭で確認するしかありません。母子手帳が唯一の手がかり状態です。
しかし、中学の時点ですでに「捨てた」「なくした」「離婚した親がもっていってしまって連絡がとれない」など、手元にないこともあります。
その場合は親の記憶しか手がかりがありません。
ときどき経験する事例として、「麻疹になったことがある」→突発性発疹、蕁麻疹、風疹のまちがいだった、、、「水ぼうそうになったことがある」→手足口病のまちがいだった、、、、「すべてやってことがある」→別のきょうだいの話だった、、、など信じるには危うい状況があります。


本来のワクチンのかわりにホメオパシーで予防ができますよ、という説明があるため、「これでワクチン完了!」と誤解をしている保護者は一定数いるのかもしれませんね。

しかし、母子手帳に正式に記載できるものでなければ、周囲や専門家に説明はつかないので、「ワクチンのようなもので予防」といった誤解をしている人がいたらそのような補足もぜひしてみてください。

なぜ信じてしまうのか?は社会学や心理学の人たちの解説などを読んでみたいと思うのですが、例えば、学者による講演は説得力を感じる人もいるのかもしれません。「ホメオパシー的予防レメディー

助産師による説明例養護教諭の活動例なども医療関係者は知っておくべき話題なのだと思います。



日本助産師会で、予防接種の研修会を企画したら却下されたというエピソードが紹介されています。

「ホメオパシーと日本助産師会」 blog Chromeplated Rat 2010年8月11日

(ちなみに2012年の今年、日本助産師会は予防接種の研修会を東京と大阪で開催します。教育担当部署が企画したそうです。)



世界全体では、2000年と比較して2010年の麻疹での死亡は73%も減少していますが、欧米では麻疹が再流行したり、百日咳のアウトブレイクで子どもが死んだりしているために、入学時や新学期再開時の接種証明提出を義務づけたりと、再び厳密な対応になってきています。
と、同時に、反ワクチン運動も活発になっています。

California Bill AB 2109: The Antivaccine Movement Attacks School Vaccine Mandates Again 2012年3月26日 Science -Based Medicine

The history of the anti-vaccination movement, includes a theme song 2012年3月30日 


嘘を信じたために、子どもが死んでしまう、、という状況は、分母が大きくなれば当然表面化します。
Anti-vaccine child deaths based on lies

予防接種でも議論になりますが、「こども」と「親」は別人格であり、保護者のフィーリングや指向、信仰等によって、子どもの健康リスクが生じていいのかという問題があります。

2009年、大学でホメオパシーの講師をしている親のこども(9か月)が死亡した事例では有罪判決が出ています。
オーストラリアの事例"Couple jailed for manslaughter of baby who died after they used homeopathic remedies for skin disorder"

「ホメオパシーによる被害者の情報」 blog warblerの日記 2010年12月30日

2011年10月、イタリアでの事例。"Parents face inquiry for treating son with alternative medicine"




医療関係者の警告も行われています。

Doctors warn over homeopathic 'vaccines' BBC 2010年9月13日

オーストラリア:予防接種センターが出しているファクトシート Homoeopathy and vaccination
オーストラリア:ホメオパシーワクチンについての規制 Homeopathic vaccine regulation 2012年3月26日


「効果は証明されている」という主張。
Homeopathic Immunizations: A Proven Alternative to Vaccinations Homeopathy Vancouver BC


Homeopathic Travel Vaccines 2011年6月
「トラベルワクチンもある」、、、ということで、レプトスピラ、ポリオ、コレラ、日本脳炎、ジフテリアのホメオパシーワクチンがあるそうです。


「台所でつくるワクチン」(?)についての質問もきているのですが、通常、子どもが接種する感染症予防/重症化予防のためのワクチンのかわりにはなりません。念のため書き添えておきます。


以下は関連事項の参考資料:

ケンブリッジ大学での講義 動画で見ることができます(約60分/英語) 
From Jenner to Wakefield: The long shadow of the anti-vaccination movement
Wednesday, 28 September 2011 - 6:00pm Barnard’s Inn Hall


『Deadly Choice』ポール・オフィット先生の対談動画(Medscape One on One)が Youtubeにありました。(21分/英語)
Dr. Paul Offit on the Dangers of the Anti-Vaccine Movement

A survey administered by a German anti-vaccine homeopath backfires spectacularly Science Blogs 2011年8月
For example, four years ago, J.B. Handley's (now Jenny McCarthy's) anti-vaccine propaganda group Generation Rescue did what was billed as a "study" of vaccinated versus unvaccinated children. It was nothing of the sort. Rather, it was a poorly designed phone survey whose results in some groups suggested that vaccines protected against autism, although Generation Rescue spun it as supporting the vaccine-autism hypothesis.


Homeopathic Vaccines Science Based Medicine
Homeopathic preparations have not been shown to raise antibody levels. Smits tested the titre of antibodies to diphtheria, polio and tetanus in ten children before and one month after giving homeopathic preparations of these three vaccines (DTPol 30K and 200K). He found no rise in antibody levels (Smits, 1995). He speculates that protection afforded by a homeopathic remedy acts on a “deeper” level than that of antibodies. Other homeopaths have stated similar opinions. Golden says, “unlike conventional vaccines, the Homeopathic alternative does not rely on antibody formation.



その他、時間のあるときに。歴史を知ると参考になります。
Historical Review:Alfred Russel Wallace and the Antivaccination Movement in Victorian England
EID Volume 16, Number 4―April 2010

The Anti-Vaccination Movement in England, 1853-1907
J R Soc Med August 2005

The impact on public health of the 19th century anti-vaccination movement
Microbiology Today 2003

History of Anti-vaccination Movements

Impact of anti-vaccine movements on pertussis control: the untold story The Lancet, Volume 351, Issue 9099, Pages 356 - 361, 31 January 1998
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