昨日の図から
▲6六歩△8五歩▲同銀△7三桂▲9四銀△6六歩
▲8六飛△8三歩▲6六飛△9三歩▲9五歩 (図a)
とすすんで今日の図aとなる。さらにこう続く。
図aから
△7五歩▲8五銀△8四歩▲9六銀△7四飛▲7八歩
△6四飛▲6五歩△7四飛 (図b)
これが坂田三吉「泣き銀」の局である。
この「銀」は、初めは7九にいた左銀だが、6八、5七、6六、7五、8六という軌跡をたどって、そしてこのように9四にやってきた。
関根金次郎の△8五歩が挑発的な手であった。そして坂田は、その挑発に乗ったのである。乗ったはいいが…
じつはこの「銀」、坂田としては関根に取って欲しいのである。取ってくれると9九の香がはたらいて攻めになる。ところが、関根は、取らない。そのほうが坂田は困る、とわかっているから。
「銀」は「殺せ、殺せ!」と叫んでいるのに、敵は殺してくれない。それで彼(銀)は泣いているのだ。死に場所をもとめて。
ここからさらに「銀」の「泣き」が続く。
こうなった。
▲7八歩がなんともつらい。攻めに使いたい7筋の歩をこんなところに使わされては…。関根八段は次に△7六歩をねらっている。
図bから
▲9四歩△同歩▲9五歩△7六歩▲9四歩△9二歩
▲9五銀△7七歩成▲同歩△8三桂▲8六銀△8五歩
▲9七銀△9四飛▲5八金引△6八角成▲同金△7四飛
▲8六歩 (図c)
坂田三吉は後日、このあたりを振り返ってこう言った。
〔… (あの銀は)ただの銀じゃない。それは坂田がうつ向いて泣いている銀だ。それは駒と違う、坂田三吉が銀になっているのだ。その銀という駒に坂田の魂がぶち込まれているのだ。その駒が泣いている。涙を流して泣いている。今までわたしは悪うございました。強情過ぎました。あまり勝負に焦り過ぎました。これから決して強情はいたしません、無理はいたしません、といって坂田が銀になって泣いているのだ。この一番を負けたら何年かの苦労が泡と消える、スゴスゴと旗を巻いて退却せねばならぬ。何でも勝ちたい、勝ちたいと …(以下続く)〕
(うーむ、坂田さん、こんなにだらだらと長くしゃべっていたのか…。)
ここから坂田七段、▲9四歩△同歩▲9五歩となんとかこの「銀」をさばこうとする。しかし、この9六の「泣き銀」は、さらにもがくことに…。
そして、こうなった。
「泣き銀」はさらに退却を余儀なくされ9七にバック。それでも坂田はこの銀を使わないと勝負にならないから、▲8六歩と指したのが図cだ。
関根の桂得となり、関根優勢が明らかになってきた。午前に始まったこの対局は深夜をまわり、夜が明けようとしていた。(すでに書いたが持時間は無制限である) それでも観戦者11人が勝負の行方を見届けようと残っている。
たしかにこの局面、関根八段が優勢なのだが、戦っている場所が関根玉の玉頭だけに、関根としてもまだまだ慎重を要する場面なのである。差はわずか。勝負はまだ、決まっていない。
ここから関根の手番だが
△4六歩▲同歩△6四歩▲8五歩△6五桂▲8六銀
△7一玉
とすすんだ。
100手目、ここで坂田三吉、起死回生の妙着を放つ。
ちからのある人は、その手を考えてみてほしい。当たれば、あなたは、坂田三吉並の将棋センスを持っていることになる。
▲6六歩△8五歩▲同銀△7三桂▲9四銀△6六歩
▲8六飛△8三歩▲6六飛△9三歩▲9五歩 (図a)
とすすんで今日の図aとなる。さらにこう続く。
図aから
△7五歩▲8五銀△8四歩▲9六銀△7四飛▲7八歩
△6四飛▲6五歩△7四飛 (図b)
これが坂田三吉「泣き銀」の局である。
この「銀」は、初めは7九にいた左銀だが、6八、5七、6六、7五、8六という軌跡をたどって、そしてこのように9四にやってきた。
関根金次郎の△8五歩が挑発的な手であった。そして坂田は、その挑発に乗ったのである。乗ったはいいが…
じつはこの「銀」、坂田としては関根に取って欲しいのである。取ってくれると9九の香がはたらいて攻めになる。ところが、関根は、取らない。そのほうが坂田は困る、とわかっているから。
「銀」は「殺せ、殺せ!」と叫んでいるのに、敵は殺してくれない。それで彼(銀)は泣いているのだ。死に場所をもとめて。
ここからさらに「銀」の「泣き」が続く。
こうなった。
▲7八歩がなんともつらい。攻めに使いたい7筋の歩をこんなところに使わされては…。関根八段は次に△7六歩をねらっている。
図bから
▲9四歩△同歩▲9五歩△7六歩▲9四歩△9二歩
▲9五銀△7七歩成▲同歩△8三桂▲8六銀△8五歩
▲9七銀△9四飛▲5八金引△6八角成▲同金△7四飛
▲8六歩 (図c)
坂田三吉は後日、このあたりを振り返ってこう言った。
〔… (あの銀は)ただの銀じゃない。それは坂田がうつ向いて泣いている銀だ。それは駒と違う、坂田三吉が銀になっているのだ。その銀という駒に坂田の魂がぶち込まれているのだ。その駒が泣いている。涙を流して泣いている。今までわたしは悪うございました。強情過ぎました。あまり勝負に焦り過ぎました。これから決して強情はいたしません、無理はいたしません、といって坂田が銀になって泣いているのだ。この一番を負けたら何年かの苦労が泡と消える、スゴスゴと旗を巻いて退却せねばならぬ。何でも勝ちたい、勝ちたいと …(以下続く)〕
(うーむ、坂田さん、こんなにだらだらと長くしゃべっていたのか…。)
ここから坂田七段、▲9四歩△同歩▲9五歩となんとかこの「銀」をさばこうとする。しかし、この9六の「泣き銀」は、さらにもがくことに…。
そして、こうなった。
「泣き銀」はさらに退却を余儀なくされ9七にバック。それでも坂田はこの銀を使わないと勝負にならないから、▲8六歩と指したのが図cだ。
関根の桂得となり、関根優勢が明らかになってきた。午前に始まったこの対局は深夜をまわり、夜が明けようとしていた。(すでに書いたが持時間は無制限である) それでも観戦者11人が勝負の行方を見届けようと残っている。
たしかにこの局面、関根八段が優勢なのだが、戦っている場所が関根玉の玉頭だけに、関根としてもまだまだ慎重を要する場面なのである。差はわずか。勝負はまだ、決まっていない。
ここから関根の手番だが
△4六歩▲同歩△6四歩▲8五歩△6五桂▲8六銀
△7一玉
とすすんだ。
100手目、ここで坂田三吉、起死回生の妙着を放つ。
ちからのある人は、その手を考えてみてほしい。当たれば、あなたは、坂田三吉並の将棋センスを持っていることになる。