はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

銀が泣いている(2)

2008年04月09日 | しょうぎ
 昨日の図から

  ▲6六歩△8五歩▲同銀△7三桂▲9四銀△6六歩
  ▲8六飛△8三歩▲6六飛△9三歩▲9五歩 (図a)

とすすんで今日の図aとなる。さらにこう続く。

 図aから
  △7五歩▲8五銀△8四歩▲9六銀△7四飛▲7八歩
  △6四飛▲6五歩△7四飛 (図b)


 これが坂田三吉「泣き銀」の局である。
 この「銀」は、初めは7九にいた左銀だが、6八、5七、6六、7五、8六という軌跡をたどって、そしてこのように9四にやってきた。
 関根金次郎の△8五歩が挑発的な手であった。そして坂田は、その挑発に乗ったのである。乗ったはいいが…
 じつはこの「銀」、坂田としては関根に取って欲しいのである。取ってくれると9九の香がはたらいて攻めになる。ところが、関根は、取らない。そのほうが坂田は困る、とわかっているから。
 「銀」は「殺せ、殺せ!」と叫んでいるのに、敵は殺してくれない。それで彼(銀)は泣いているのだ。死に場所をもとめて。
 ここからさらに「銀」の「泣き」が続く。



 こうなった。
 ▲7八歩がなんともつらい。攻めに使いたい7筋の歩をこんなところに使わされては…。関根八段は次に△7六歩をねらっている。

 図bから
  ▲9四歩△同歩▲9五歩△7六歩▲9四歩△9二歩
  ▲9五銀△7七歩成▲同歩△8三桂▲8六銀△8五歩
  ▲9七銀△9四飛▲5八金引△6八角成▲同金△7四飛
  ▲8六歩 (図c)


 坂田三吉は後日、このあたりを振り返ってこう言った。

 〔… (あの銀は)ただの銀じゃない。それは坂田がうつ向いて泣いている銀だ。それは駒と違う、坂田三吉が銀になっているのだ。その銀という駒に坂田の魂がぶち込まれているのだ。その駒が泣いている。涙を流して泣いている。今までわたしは悪うございました。強情過ぎました。あまり勝負に焦り過ぎました。これから決して強情はいたしません、無理はいたしません、といって坂田が銀になって泣いているのだ。この一番を負けたら何年かの苦労が泡と消える、スゴスゴと旗を巻いて退却せねばならぬ。何でも勝ちたい、勝ちたいと …(以下続く)〕

 (うーむ、坂田さん、こんなにだらだらと長くしゃべっていたのか…。)  

 ここから坂田七段、▲9四歩△同歩▲9五歩となんとかこの「銀」をさばこうとする。しかし、この9六の「泣き銀」は、さらにもがくことに…。



 そして、こうなった。
「泣き銀」はさらに退却を余儀なくされ9七にバック。それでも坂田はこの銀を使わないと勝負にならないから、▲8六歩と指したのが図cだ。
 関根の桂得となり、関根優勢が明らかになってきた。午前に始まったこの対局は深夜をまわり、夜が明けようとしていた。(すでに書いたが持時間は無制限である) それでも観戦者11人が勝負の行方を見届けようと残っている。
 たしかにこの局面、関根八段が優勢なのだが、戦っている場所が関根玉の玉頭だけに、関根としてもまだまだ慎重を要する場面なのである。差はわずか。勝負はまだ、決まっていない。

 ここから関根の手番だが

  △4六歩▲同歩△6四歩▲8五歩△6五桂▲8六銀
  △7一玉

とすすんだ。

 100手目、ここで坂田三吉、起死回生の妙着を放つ。
 ちからのある人は、その手を考えてみてほしい。当たれば、あなたは、坂田三吉並の将棋センスを持っていることになる。  

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