はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part138 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第37譜

2019年12月08日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第37譜 指始図≫


    [チェス人形]
 二人がチェスをしている間、ポーンはテーブルチェス盤の下でじっと聞き耳を立てていた。時折、少年のぶらぶら揺れる足に尻尾を巻きつけたり、マスターの爪先を舐めたりした。
 よし、遠慮せずにとことんまで考えてやろう、とある瞬間から少年は覚悟を決めた。
「ポーンを抱いてもいい?」
    (中略)
 マスターは少年の好きにさせた。少年はテーブルチェス盤の下に潜り込み、ポーンを抱き寄せ、チェス盤の裏側の一点に視線を集中させた。
    (中略)
「はい」
 掛け声とともに少年はテーブルの下から頭を出し、自分の白いナイトでc6のポーンを取った。今度はマスターは何も言わず、駒を元に戻しもしなかった。
 ポーンは自分の役目を心得ているかのように、テーブルチェス盤の下で、じっとされるがままになっていた。 
       (小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』より)



 後にリトル・アリョーヒンと呼ばれることになった少年は、“マスター”にチェスを習った。
 “マスター”は猫を飼っており、その猫に“ポーン”という名前をつけていた。「ポーン」は“マスター”の一番好きな駒だった(「ポーン」は将棋の「歩兵」に対応する地味な動きをする駒)
 リトル・アリョーヒンは、テーブルの下に潜って“ポーン”(猫)を抱いてとことん考えるというスタイルが身についた。 “マスター”はそれを許した。
 少年は強くなっていったが、しかし、少年の「テーブルの下に潜って考える」というスタイルはルール違反ということで、公式戦では認められなかった。つまり、正式なプロ棋士にはなれないということである。
 やがて悲しみが少年を襲う。 
 “マスター”に死がおとずれ、猫の“ポーン”は姿を消してしまった。
 そして少年は、「チェス人形」の “中の人”、としての道を歩み、美しい棋譜を残すリトル・アリョーヒンと呼ばれるものとなるのである。

 小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』は、そのような話である。
 時代設定は書かれていないが、おそらく20世紀後半の物語ということになるだろう。
 小説としては、少年と“マスター”との関係が、とても美しい物語となっている。


 ところで、現実の世界で、それよりも200年ほど昔に、「自動チェス人形」という存在があった。
 その「チェス人形」は、頭にターバンを巻いて長いキセルを持った人形で、「トルコ人(ターク)」という名前で呼ばれた。
 製作者はハンガリー人ヴォルフガング・フォン・ケンペレン。 ケンペレンはハプスブルク家女王マリア・テレジアを喜ばせるために、1770年にこの「自動チェス人形トルコ人」を制作した。
 その後、1783年に、この「トルコ人」を連れて、パリやロンドンにツアーを行い、評判を得た。 
 この「チェスを指せる人形」は、テーブルの下に人間が入って動かす“マジック”だったが、なかなかそのからくりを見破ることができなかった。
 しかもチェスの腕前も強く、だいたいの挑戦者には勝利した。 “中の人” には、テーブルの上のチェス盤の動きが磁石をつかってわかる仕組みになっており、“中の人”の操作で、「トルコ人」は機械の腕をつかって、チェスの駒を正しく運んだ。

 ケンペレンは1804年に死去し、「トルコ人」はその息子が所有していたが、それをヨハン・ネポムク・メルツェルという男が買い取った。
 このメルツェルは、音楽に使用する機械メトロノームの最初の特許所有者として名を残してもいる(ただし、本当のメトロノームの最初の発明者はまた別にいるようだ)
 「自動チェス人形トルコ人」を手に入れたメルツェルは、それを修理・改造し、1809年から約10年間、フランス、イギリス、イタリアなどをめぐるツアーを敢行した。「トルコ人」は評判を呼び、この興行は大成功となりメルツェルに富をもたらした。その後1820年代にはアメリカに渡っている。

 「トルコ人」は、1854年にその生涯を終えることになる。アメリカのある美術館が所有していたが、火事とともに消失してしまったのであった。
 その後、「トルコ人」の内部構造がそれを最後に所有していた人物らによって明らかにされた。
 「トルコ人」の、メルツェルのツアー時の “中の人” も、今では正体がわかっている。
 ウィリアム・シュルンベルジェという人物で、「トルコ人」の操作者としてのチェスの戦績は9割以上で、ほとんど負けなかった。 この「自動チェス人形トルコ人」のツアー大成功の要因として、この人物のチェスの強さは欠かせないものであろう。 “人間よりもチェスの強い機械”というものに、人々は興味をそそられたのである。 そして実際には “中の人” が指していたのであった。

 1800年頃の欧州は、「機械の大発展の時代」であった。
 1810年代の「チェス人形トルコ人」のロンドンでの興行を見た数学者チャールズ・バベッジ(当時は20代の青年)は、“考える機械”というものに、強い興味を持った。以後、「計算する機械」の作成に意欲的に取り組むこととなる。現代のコンピューターの先駆けとなるもので、バベッジが設計した蒸気機関で動くその「計算する機械(解析機関)」は、機関車の車両よりも大きなものだった。 残念ながら、その「巨大な計算する機械」の製作は実現しなかった。最終的には資金的に行き詰ったようである。



<第37譜 5四歩の研究>


≪最終一番勝負 第37譜 指始図≫

 今回も、この図を一手戻した図、「6七と図」を研究する。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 形勢不明
  〔柏〕2六飛 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 今回の、“戦後研究”は、〔杉〕5四歩 についてである。 これは再調査になる。


[調査研究:5四歩]

5四歩基本図
 〔杉〕5四歩 は、敵陣を乱す手である。
 この手は、実戦中の判断は「形勢不明」。
 ある程度読んで、先手がやれそうという感触はあったのだが、変化が多いので、読み切れなかった。 正確に言うと、読み切ることをあきらめたのであった。
 実戦中の我々の“相棒”は「激指」であったが、今は“戦後”なので、最新ソフトを使用することができる。 最新ソフトなら、実戦中はあきらめたこの〔杉〕5四歩 のその先を、“読み切る” ことができるかもしれない。

 〔杉〕5四歩 には、4通りの対応がある。
 [A]5四同銀、[B]6二銀左、[C]4四銀上、[D]7五桂の4つ。

 最も有力とみられるのが、[D]7五桂だが、[A]から順に見ていく。
 [A][B][C]については、いずれも、5二角成と攻めていって、先手良しになる。 まず、それを示していこう。

研究5四歩図01
 [A]5四同銀(図)に、5二角成と指す。
 以下、5二同歩 には、4一飛、3一角、5三歩、6三銀(次の図)

研究5四歩図02
 先手の5三歩を、同歩なら5二金で先手良し。 よって、後手は6三銀(図)と応じる。
 この手には、6一竜とすればよい。
 次に5二歩成が入れば後手は困るので、その前に攻めようと7五桂。以下、9七玉、7七と、8九香(次の図)

研究5四歩図03
 後手の攻めはもう続かない。3一角と打ってしまって攻めがなくなるのでは後手に希望がない。
 先手優勢。

研究5四歩図04
 今の手順を途中まで戻って、先手5二角成のときに、後手7五桂(図)としてどうか。
 以下、9七玉、7七と、9八金。ここは「金」で受けないといけない。8九香では、5二歩と角を取って、それが次に後手7九角からの“詰めろ”になってしまい、その変化は後手良しになる。
 つまり後手が早く7五桂以下先に詰めろで攻めていけば、先手は「金」を使って受けるしかないのだ。これによって、先手の手を限定できる。
 9八金と受けさせて、後手は5二歩と手を戻す。
 やはり先手は4一飛と打ち、後手は3一角と受ける(次の図)

研究5四歩図05
 さて、先手はどう攻めるか。
 ここでも、先ほどと同じように5三歩でよい(最新ソフトの推奨手は7八歩だが5三歩がわかりやすい)
 以下6三銀、6一竜、9五歩、5二歩成、9六歩、同玉、5二銀(次の図)

研究5四歩図06
 単純に5二同竜でもよいが、ここで“3三歩成”がよりきれいな決め手になる。
 3三同桂は、3一飛成、同銀、1一角以下、“詰み”
 3三同玉には、5二竜と銀を取る。次に3六香がきびしい。
  以下9五歩、9七玉、2二玉(代えて4四玉には4八香)、3六香(次の図)

研究5四歩図07
 3六香(図)は、3二香成、同玉、3一飛成以下の“詰めろ”で、受けもない。
 先手勝ち。

研究5四歩図08
 “3三歩成”に同歩の場合は、3二金(図)がある。
 3二同玉なら、3一飛成、同銀、5二竜、4二金(飛)、4一角以下、“詰み”
 1一玉なら詰まないが、3一飛成で先手勝ちとなる。

研究5四歩図09
 [B]6二銀左(図)にも、5二角成 でよい。
 以下、7五桂、9七玉、7七と、9八金、5二歩、4一飛と、同じように進む(次の図)

研究5四歩図10
 ここで7九角は、8八香で先手が良い(7九角を打つなら、[C]4四銀上の場合のほうが良い。その変化は後述する)
 よってここでも、3一角と受ける手を見ていく。
 先手は3三歩成を利かす。同玉(代えて同歩には5三歩成、同銀右、7一飛成で先手良し)に、6五金(次の図)

研究5四歩図11
 「6五」に金を打った(この金打ちは「後手5四銀型」だったら打てない場所だった)
 この6五金(図)は、5五の銀取りであり、しかし、5六銀なら7五金があり先手良しになる。
 両方は受からないので、後手は9五歩と攻めてくる。
 5五金、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、7一歩。
 7一歩で、後手は先手からの3九香、2二玉、3三歩の攻めに備えた。
 それなら、2六香(次の図)

研究5四歩図12
 2六香(図)と打って、次に4五金とし、3四銀~2三銀成がねらいになる。後手に適当な受けはない。
 それよりも早く後手が先手玉に迫るなら7六桂だが、4五金、8八桂成、同金、同とのときに、3四銀、2二玉、2三銀成、1一玉、2二成銀、同角、2三桂(詰み)がある。
 先手勝勢である。

研究5四歩図13
 [C]4四銀上 の場合。これも同じように進める。
 5二角成、7五桂、9七玉、7七と、9八金、5二歩、4一飛(次の図)

研究5四歩図14
 ここで 3一角7九角 の2つの応手がある。
 3一角 には、7一飛成とする(次の図)

研究5四歩図15
 銀をたすける7四銀なら、4一金で先手の攻めのほうが早い。 6六銀も遅い。
 よって後手は7六桂。
 先手は、5三歩成(詰めろ)、同歩、8九香と応じる(5筋の歩を成り捨てることで2段目に竜が行くときの変化を効果的にした)
 こう受けられると、(先手4一金よりも早そうな攻めは)後手はもう9五歩の攻めしかない。
 以下、9五歩、同歩、9六歩、同玉、9四歩、8五金(次の図)

研究5四歩図16
 こう進んで、先手優勢になっている。もう少し進めてみる。
 6四銀引、7四歩、9五歩、同金、7四金、8三馬、8七桂成、7四馬、同銀、同竜、(次の図)

研究5四歩図17
 先手玉が捕まる見込みはほとんどなく、先手優勢である。

研究5四歩図18
 戻って、先手の4一飛に 後手7九角(図)の場合。
 先手は8八香と受け、対して1四歩が後手期待の一手。
 そこで4二飛成と銀が取れるが、しかしそれは8八とで後手勝ちになる。
 だから先手は8九金と受ける(次の図) 

研究5四歩図19
 後手玉はもう1三から逃げるしかないが、そうなったときに、4四銀や7九角が後手玉の脱出をアシストしている―――というのが、この一連の手順である。
 8九金(図)に、8八と、同金寄、3五角成と進む(4六角成は1五歩で先手良し)
 そこでどう指すか。4二飛成もあるが、2一飛成、1三玉、3二竜と指すのがより早い攻めになる(次の図)

研究5四歩図20
 先手の次のねらいは、8四馬で金を取って2二金と打つこと。
 図で2四玉の早逃げは考えられる手だが、それは2一竜左と“二枚竜”で追って、先手良し。
 後手は、攻めるなら、9五歩だ。しかしそれにはやはり8四馬がピッタリの切り返しになる(9一竜が受けに利いてくる)
 9五歩、8四馬以下、3一歩、4二竜、8四銀、3三銀、同銀、同歩成、6七角、3四銀、2一香、3七桂(次の図)

研究5四歩図21
 どうやら後手玉は捕まり、先手勝勢になった。
 後手玉は次に2五桂打、2四玉、2三と、3四玉、3三竜までの“詰めろ”になっている。2五桂打を同馬と取っても、2三と、同香、2五桂、2四玉、4六角、同銀、3三竜、3五玉、2六金まで。

5四歩基本図(再掲)
 [A]5四同銀、[B]6二銀左、[C]4四銀上はいずれも“5二角成”と指して先手が良くなった。
 [D]7五桂が4番目の候補手である(次の図)

研究5四歩図22
 〔杉〕5四歩 に、[D]7五桂(図)。 この手が、最大の“強敵”だ。
 以下、9七玉、7七と と進み―――(次の図)

変化5四歩図23
 ここで、「8九香」 と、「9八金」 があり、どちらも有力で判断が難しい(どちらを選んでもたいへんな変化になる)
 ここでは、「9八金」 の道を進んでいく。

研究5四歩図24(9八金図)
 7七とに、「9八金」(図)
 ここで5四銀や6二銀左、あるいは4四銀上では、上の変化に合流する。つまり、「先手良し」である。
 なので、後手はここで「7六桂」と指す。 6四に打った桂を活用する手だ(次の図)

研究5四歩図25
 「7六桂」に、「8九香」(図)と受ける(代えて5三歩成は8八桂成で後手が勝つ)
 金と香の両方を受けに使わされたのは悔しいが、これで後手の攻めは止まった。ここで後手は手を戻すことになる。
 ここで4通りの応手がある。
 (タ)4四銀上(チ)5四銀(ツ)6四銀左上(テ)6二銀左 の4つだ。
 (タ)(チ)(ツ)は、7一飛と打って、先手が勝てる。まずその手順を紹介する。

研究5四歩図26
 (タ)4四銀上 には、7一飛と打って次に5二角成の寄せをねらう。1四歩とそれを受ければ7三飛成(銀を取る)だ。
 だから、7一飛に、6二銀右が考えられるが、それでも5二角成(図)が成立するのである。
 図以下、7一銀に、4二馬が後手玉への“詰めろ”で、先手優勢である。金と香とを投資して受けてある先手陣は飛車を渡しても詰みがない。

研究5四歩図27
 (チ)5四銀 にも、同じように7一飛(図)と打って、先手が勝てる。
 先手の2つの狙い(5二角成と7三飛成)を受けて、〈s〉6二金が考えられる受け。
 これには3三歩成(次の図)

研究5四歩図28
 3三同銀は5一飛成。 3三同桂でも、5一飛成とし、同銀、同竜で先手勝勢である。
 よって、ここは3三同玉と取る。
 この手に対しては、8五歩。 以下、7四金に、同角成、同銀、同竜、6三金、7五竜、7九角(次の図) 

研究5四歩図29
 先手は相当駒得をしたが、7九角(図)、8六玉、7四歩となって、先手の竜が詰まされた。
 以下、6六竜、同銀、同馬、4四歩、6一竜、6八角成(次の図)

研究5四歩図30
 ここで2二銀がある。同玉なら4四馬以下詰むので、4三玉とかわすが、これで後手玉が狭くなった。
 5五桂が継続手。3四玉に、5六馬で王手。
 4五歩(代えて4五銀では2五銀、同玉、4七馬以下詰む)に、3五歩(次の図)

研究5四歩図31
 3五同玉だと、3六銀、4四玉、3五金、同馬、同銀、同玉、1七角で先手勝ちになる。
 よって、3五同馬だが、そこで2六銀は逆転して、5三馬、7七玉、5五銀以下、後手良しになる。
 3五同馬に、「6三竜、同銀、2六銀」が、正解手順である(次の図)

研究5四歩図32
 「6三竜、同銀、2六銀」としたことで、5五の桂馬を後手は外せない。5五桂が「4三」を押さえている。それがこの場合大事なのである。
 図以下、5三馬、7七玉と進めば、後手玉は2五金以下“詰めろ”になっており、先手優勢である。

研究5四歩図33
 7一飛に、〈t〉6三銀(図)という手もある。
 先手の5二角成を受けた手で、3三歩成、同銀、5三歩には、6二銀があって後手良し。
 〈t〉6三銀 には、3三歩成、同銀を利かし、7三飛成と銀を取っておく(次の図)

研究5四歩図34
 後手はここで7二歩を入れる。先手は8二竜。(この「7二歩、8二竜」を入れないで6六銀は、先手の5三歩が厳しかった)
 以下、6六銀、8一竜直、6七銀不成、5三歩と進む(次の図)

研究5四歩図35
 後手のねらいは7八銀不成~8九銀不成である。
 7八銀不成に、5二歩成。これは3二角成、同玉、3一金以下、“詰めろ”になっている。よって、5二同銀 と応じる(1四歩は後述)
 これを同角成ならその瞬間後手玉は詰まないので、8九銀不成(詰めろ)で後手勝ちになる。
 だが、3一銀なら、先手が勝てるのである(次の図)

研究5四歩図36
 3一同玉に、5一竜で、後手玉は“必至”。
 銀を後手に渡したが、先手玉は詰まない。 よって、先手勝ちになっている。

研究5四歩図37
 後手が5五の銀を一直線に6七~7八と進めていくと、先手勝ちになった。
 それでは、どこかで後手が一手“1四歩”と玉の懐(ふところ)を広げる手を入れるとどうなるか。
 この図は、上の手順の 5二同銀 に代えて、1四歩 としたところ。
 これには、8五歩とする。7四金には、8六玉、8九銀不成、4二と(同銀は6三角成)で先手が良い。
 よって後手は8五同金と応じ、それには先手8六金が用意の一手(次の図)

研究5四歩図38
 この「8五歩、同金、8六金」という手順は、上部脱出を図っている。 8四歩なら、8五金、同歩、7五馬で先手良し。
 後手は7四銀として、8五金(これを同銀なら7五馬がある)に、8九銀不成とする。以下、8六玉、8七桂成、同金、同と、同玉、8五銀(次の図)

研究5四歩図39
 これが7四銀からの後手の意図。 8六歩なら、8四香、8五歩、7五金で後手良しになる。
 先手ピンチかに見えるが、大丈夫。
 3二角成、同玉、3一金、2二玉、2一金、3二玉、3一金、2二玉、1一銀(次の図)

研究5四歩図40
 1一銀(図)で、後手玉は詰んでいる。
 1一同玉は、2一金、同玉、5一竜、2二玉、3一竜、1三玉、2五桂、2四玉、3三竜以下。
 1三玉と逃げても、5七馬がある。2四歩、2五桂、2三玉、5六馬、3四銀、3五桂まで。

 これで、(チ)5四銀 も7一飛で先手良しと示された。

研究5四歩図41
 (ツ)6四銀左上
 この手にも、7一飛と打つ。
 6四銀と出た手が7三の銀とつながっているところがこれまでと違う。
 しかし先手の次の5二角成の攻めを、後手はどう備えるか。
 ここで後手3つの候補手を挙げておく。 〈1〉6二金、〈2〉6一歩、〈3〉1四歩 の3つの手。

研究5四歩図42
 〈1〉6二金(図)には、8五歩と突くのが良い。7四金ならそこで6三歩と打ち、7八と、6二歩成、8九と、5三歩成、同銀引、3三歩成、同玉、7四角成、同銀、同竜で、先手が攻め合い勝ちできる。
 なので、後手は8五歩に、3一玉で勝負する。角を取りに来た。8四歩と金を取ると4一玉で形勢ははっきりしない。
 それよりも先手は、後手の3一玉に、5三歩成、同銀引、5二歩とするのが良い。
 以下、6一歩、5一歩成、同銀、8四歩、4一玉、8三歩成(次の図)

研究5四歩図43
 先手優勢である。
 ここで8五歩が最新ソフトが示す手だが、7五馬、6四角、同馬、同銀引、2二角(次に6一飛成、同金、同竜をねらう)で、先手が勝てる。
 また図で8八桂成には、同香、同と、8六玉でやはり先手が良い。

研究5四歩図44
 〈2〉6一歩(図)という手がある。
 これを同飛成と取るのは、6二金で、後手に“一手”を稼がれて、これは後手ペースになる。同飛成と取れないようでは、7一飛は失敗にも見えるが……
 ここで7八歩 が先手の好手となる。同と と取らせて、そこで5二角成、同歩、6一飛成と攻めるのだ。
 後手は7九角と打つ(次の図)

研究5四歩図45
 7九角(図)には、8八香と受けるのが予定の受けだ(持駒の金は攻めに使う)
 これが「7八歩、同と」を利かせた効果で、もしも7七と型のままだったら8八香では8七桂成以下詰まされていた。
 そして、1四歩、2一飛成、1三玉に、1五桂が、“必殺の寄せ”(次の図)

研究5四歩図46
 この1五桂(図)があるので、7八歩から5二角成以下の綱渡りのような一連の攻めが成立した。
 この1五桂を同歩なら、1二竜、同玉、1四香以下、後手玉が詰むのだ。
 よって、後手は2四玉と逃げるが、1二竜、3四玉、3六金、1五歩、8四馬(次の図)

研究5四歩図47
 先手勝ち。

研究5四歩図48
 7一飛に、〈3〉1四歩(図) と、玉の懐(ふところ)を広げて応じた場合。
 ここで5二角成は、同歩、2一飛成、1三玉で、後手良し。
 1五歩が良さそうだ。 同歩なら、5二角成、同歩、2一飛成、1三玉に、1二竜(同玉に1四香)がある。
 しかし、そこで6一歩と受ける手がある(次の図)

研究5四歩図49
 「1四歩、1五歩」の手交換が入ることによって、今度はここで7八歩~5二角成はうまくいかない。
 この場合は、じっと「1四歩」と端を詰める手を指すのが正しい(次の図)

研究5四歩図50(1四歩図)
 ここで、6六銀9五歩 が有力手。

研究5四歩図51
 6六銀 と銀を出た手には、7八歩(図)が好手となる。
 7八同とで後手の駒を呼び込むことにもなるが、7八同との瞬間は角を渡して7九角と打たれても先手玉が詰まないので、この瞬間に攻め切ってしまうという意思を持った手である。
 7八歩、同と、5二角成、同歩、6一飛成。
 6一飛成で、後手玉は2一竜までの“詰めろ”になっている。後手7九角は、8八香で受かる。
 後手はしかたなく5一角と受けるが、先手は1三金(次の図)

研究5四歩図52
 1三同香、同歩成、同桂、1四歩、1二歩、1三歩成、同歩、2五桂(次の図)

研究5四歩図53
 受けがなくなった。1二金と受けても、5一竜、同銀、3三角から詰んでいる。

研究5四歩図54
 「1四歩」に、9五歩(図)。 これは厳しい手で、先手は正確に対応しないとやられてしまう。
 これには同歩とするのが良い(8五歩もあるが形勢不明)
 9五同歩、8八桂成、同香、9六歩、同玉、9四歩、9七玉、9五歩、5二角成(次の図)

研究5四歩図55
 このタイミングでの5二角成(図)が先手唯一の道(代えて8五歩は、8八と、同玉、6六銀で、後手良し)
 5二同歩に、8四馬が連続した好手になる(次の図)

研究5四歩図56
 8四同銀 は、6一飛成で先手良し(1三金以下の詰めろなので5一角と受けるしかない)
 なので、ここで 8八と と香を取る。同玉に、8四歩と手を戻し、6一飛成に、5一香と受ける。
 先手は2五桂(詰めろではない)
 後手は香車を受けに使い、後手は角を二枚手にしている。 その角を6八角と打つが―――(次の図)

研究5四歩図57
 5二竜(図)で、先手良し。 5二同香は、1三金から詰んでしまう。
 また、後手玉はこのままでも、3三金、同桂、同歩成、同銀、2一金、同玉、5一竜直以下の“詰めろ”になっている。その詰みを2四角打で受けても、それでも3三金以下詰んでしまう。 
 この図で考えられる手は7九角打だが、それには8九玉と逃げる。そこで5二歩と手を戻せば、後手の二枚の角が1三に利いていて、1三金以下の詰みは消えている。
 しかし、先手玉も詰めろは掛かっていないので、3三歩成、同歩、4一竜と迫って、先手の勝ちは揺るがない。
 正確に指せば、この図は「先手勝ち」である。

研究5四歩図58
 先手8四馬のところまで戻って、そこで 9六歩(図)もある。
 これを同玉と応じると、先手は負けになってしまう。それをまず確認しておこう。
 9六同玉、8四銀、6一飛成、7八角、8七桂、7四角、9七玉、9六歩(次の図)

研究5四歩図59
 9六同竜に、3四角成で後手玉にかかっていた詰めろが解除されてしまう。後手優勢。
 9六歩を、同玉と応じるとこうなってしまう。 7八角~3四角成が入ると先手たいへん。

研究5四歩図60
 9六歩には、同竜(図)が正着だ。
 後手は8四銀。次に後手から9五歩と打たれる手が厳しいが、この瞬間は駒を渡しても詰まされにくい。だから、ここで“"詰めろの連続”で後手玉にせまれば、先手が勝てる。
 6一飛成(1三金以下詰めろ)、5一角、1三歩成、同香、5一竜(3三金以下詰めろ)、同銀、1三香成、同玉、3一角(次の図)

研究5四歩図61
 2四玉、2六金、4五飛、3八香、4四角、1六桂、1四玉、3五金打(次の図)

研究5四歩図62
 次に2五金直までの一手詰。それを防ぐ2四香には、同桂、同歩、1六香、2三玉、4五金として先手勝ち。
 図では、後手1三桂もある。 その手には、6四角成で、やはり先手勝ち。

研究5四歩図63
 後手の最後の候補手 (テ)6二銀左(図)はどうなるか。(これを攻略すれば「先手良し」が確定する)
 対して先手は、「6一竜」または「6三歩」が有力のようである。 ただしどちらも変化は多い。
 「6一竜」については省略し、「6三歩」を本筋として紹介していく。

研究5四歩図64(6三歩図)
 「6三歩」(図)と打って、後手の対応を待つ。
 〔ⅰ〕6三同銀、〔j〕6三同金 があり、他に攻める手としては〔k〕9五歩 が候補になる。

 〔ⅰ〕6三同銀には、「3三歩成」だ(次の図)

研究5四歩図65(3三歩成図)
 「3三歩成」(図)は、同銀 と取るのが最善だが、同桂同玉 ではなぜダメなのかをまず見ておこう。

研究5四歩図66
 3三同桂 には、8五歩(図)だ。
 8五同金でも、7四金でも、7五馬と桂馬を取るのがねらいである。桂馬が入れば3四桂の“必殺手”がある。
 7四金、7五馬に、4五桂なら、そこで5二角成とする(次の図) 

研究5四歩図67
 5二同銀には、4二馬がある。 先手勝勢だ。

研究5四歩図68
 「3三歩成」に、3三同玉(図)の場合。
 これには、8四馬がある。金を入手。
 8四同銀に、3五飛、3四角、4五金(次の図)

研究5四歩図69
 先手勝ち。

研究5四歩図70
 というわけで、3三同銀(図)と銀で取るのが正しい。
 すると、ここで5三歩成が入る。 これを同金は5一竜で先手優勢だ。
 なので、5三歩成に、後手は9五歩。
 先手は4三と が良い手になる(5二とでは先手悪い)(次の図)

研究5四歩図71
 9六歩、同玉、9五歩、9七玉、4三金、5一竜(次の図)

研究5四歩図72
 後手玉は3二角成以下“詰めろ”。
 それを防ぐ1四歩には、6三角成。 4二銀なら、5五竜で銀を取っておく。
 はっきり先手優勢である。

研究5四歩図73
 〔j〕6三同金(図)はどうなるか。
 これには、3三歩成、同銀、4七飛がある(次の図)

研究5四歩図74(4七飛図)
 薄くなった「4三」をねらって4七飛と飛車を打つ。
 4三飛成とされては後手困るので、4四銀引。 以下、7七飛、6八桂成、8五歩、6七桂成、7六飛、7四金寄、8六玉(次の図)

研究5四歩図75
 7八成桂寄、9五玉、7七成桂寄、2六飛、8九成桂、7五歩、6四金、9四玉、7一歩、9二馬(次の図)

研究5四歩図76
 9二馬は、後手の狙っていた9一香に対応した手。
 しかしまだここで3一玉(角を取りにいく)や8八成桂引(金を取りにいく)などの手があり、たいへんなところはあるが、先手優勢はまちがいない。

研究5四歩図74(再掲4七飛図)
 4七飛と打ったこの図に戻って、ここで 8八と を見ておく。「8八と、同香」を決めておくことで、いつでも香車を取れるようにした。そうしておいて、4四銀引だ。
 8八と、同香、4四銀引、8五歩、7四金、7七歩(次の図)

研究5四歩図77
 7七歩(図)で、8八香成を催促する。先手は攻め駒が欲しいのだ。
 8八香成、同金、9五歩(同歩なら8五金で後手良し)、5五桂(次の図)

研究5四歩図78
 5五桂(図)の絶好手があった。4五香と打っても、4三桂成、4七香成、3二角成、1一玉、4四成桂で先手良しがはっきりする。
 よって5五同銀と取るが、4三飛成、3一香、3四歩、2四銀、8六玉、8四歩、9五玉(次の図)

研究5四歩図79
 玉を8六~9五とさばいて、一転して先手は"入玉"を計る。玉が8三まで侵入すればもう捕まらない。
 しかたなく後手は8二桂と打つが、これを先手は待っていた。8二同竜、同銀、同馬。
 これで攻め駒(銀桂)が手に入った。
 7三銀に、1五桂と打つ。同銀に、3三銀(次の図)

研究5四歩図80
 後手玉は寄り。3三同歩に4二竜と入り、3二桂に、3三歩成、同桂、1五歩で、先手勝勢である。

研究5四歩図64(再掲6三歩図)
 もう一度この図に戻る。 〔ⅰ〕6三同銀、および〔j〕6三同金は、先手良しになった。
 それ以外の手だとすると、後手が攻める手になる。
 攻めるとすれば、〔k〕9五歩だ(次の図) 

研究5四歩図81
 〔k〕9五歩(図)は、8八桂成、同香、同ととする手と組み合わせて「香」を手にして、それを9筋に打って攻める狙い。
 〔k〕9五歩、6二歩成、8八桂成、同香、9六歩、同玉、8八と(次の図)

研究5四歩図82
 うっかり8八同金とすると、9五香で先手負けだ。
 ここは、8五歩とする。以下、9八と、8四歩、同銀に、3二角成(次の図)

研究5四歩図83
 先手は、「6三歩」を打った時点では歩以外の持駒は「飛」のみであったが、こう進んで「飛金銀桂」と持駒が増えた。そして3二角成(図)以下、後手玉に“詰み”が生じていた。
 3二角成、同玉、4一銀、同玉、5二と、同玉、6二金、同玉、6一飛(次の図)

研究5四歩図84
 5二玉に、5三金以下、詰んでいる。先手勝ち。

 これで、(テ)6二銀左には、6三歩(または6一竜)で、先手良しが結論となった。

研究5四歩図25(再掲)
 この図は、「先手良し」が確定した。
 すなわち――――


5四歩基本図(再掲)
 この〔杉〕5四歩 は、「先手良し」が結論である。


研究5四歩図85(8九香図)
 なお、この図は、〔杉〕5四歩、7五桂、9七玉、7七とに、「8九香」 と受けた場合。(上の研究は「9八金」
 これでも「先手良し」になると、我々の調査研究では結論が出たということを書き添えておく(その内容については省略する)


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 形勢不明 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 以上の調査により、〔杉〕5四歩 は、最新ソフトによって、「先手良し」と結論付けることができた。 実戦では読み切れなかったのを、なんとか“読み切る”ことに成功したのである。(使用したソフトは主に「dolphin1/orqha1018」)



第38譜につづく
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2 コメント

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ご無沙汰しています (マーキー)
2019-12-14 01:01:48
はんどろやさん、ご無沙汰しております。いつも冒頭のエッセイの部分を楽しく拝読しております(終盤の詳細な分析は私の棋力では理解不能なので)。一時は、はんどろやさんの健康状態を心配しておりましたが、最近の健筆ぶりは脅威です(笑)。本当に信じられません。アンビリーバブルの一語です。今回の「チェス人形」の話は大変面白かったです。次回を楽しみにしています。
ありがとうございます (handoroya)
2019-12-14 21:28:11
マーキー様、ご愛読ありがとうございます。

「終盤探検隊」の報告を書いている人は、≪亜空間≫にはまって抜け出せなくなった終盤探検隊の一員という設定なので、これ以上の話はできない事情があります。コメントは寡黙になることをお許しください。

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