はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part154 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第53譜

2020年03月29日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第53譜 指始図≫ 7八歩まで

指し手  △7六歩


    [モンデンキント! 今ゆきます!]

 涙が頬(ほお)を流れたのにバスチアンは気がつかなかった。なかば気を失ったようになって、かれは不意に叫んだ。
 [月の子(モンデンキント)! 今ゆきます!]
 その瞬間、多くのことが一度に起こった。

 大きな卵の殻(から)が遠雷(えんらい)のようなにぶい響きをたてながら、ものすごい力で砕けちった。ついでにかなたに巻き起こった突風が近づいたかと思うと、

 バスチアンが膝にのせていた本のページから吹きだし、ばたばたとはげしくページをあおった。風はバスチアンの髪や顔に吹きつけ、息のできないほどになった。七枝燭台(しちえだしょくだい)のろうそくの炎がおどり、水平にのびた。と、第二の、さらに強力な突風が本の中へと吹き込み、光が消えた。
 塔の時計が十二時を打った。

 (『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』ミヒャエル・エンデ著 佐藤真理子訳)



 「女王」に、「モンデンキント(月の子)」という新しい名前をつけて、バスチアンは「ファンタージエン(想像力の国)」に飛び込んだ。
 そして――――

 「ぼく、あなたをもう一度見たいな、月の子(モンデンキント)。あなたがぼくを見つめた、あのときのこと、覚えていますか?」
 するとまたあのかすかな、うたうような声で笑うのが聞こえた。
 「どうして笑うんですか?」
 「うれしいから」
 「何がうれしいの?」


 これは、ほとんど恋愛の始まりの会話である。




<第53譜 千日手の軌道に入る>


≪最終一番勝負 第53譜 指始図≫ 7八歩まで

 我々終盤探検隊が先手番を、そして≪亜空間の主(ぬし)≫が後手番をもって闘う「亜空間最終一番勝負」は、この≪指始図≫の ▲7八歩 まで進んでいる。

 実戦の進行は、以下 △7六歩 だが、7八同と7六と ではどうなっていたか。
 今回の調査報告では、まずそのことを調べていきたい。


7八同と図
  7八同と(図)の場合。
 ≪指始図≫から「7八歩、同と」を利かせたことで、先手玉には簡単に詰めろが掛からない形になった。そして金や飛を後手に渡しても詰まない形である。
 ただし、依然として角を渡すと後手7九角がある。だから、この図で3三歩成、同銀、5二角成はうまくいかない。
 しかし、3三歩成、同銀、3八香は、先手に勝ち筋があるかもしれない。

 もっと勝ちやすい手は 7八同と(図)に、「2六飛」と打つ手である。

変化7八と同図01(2六飛図)
 「2六飛」(図)と打って、すでに先手優勢である(最新ソフトの評価値は+1000くらい)
 以下、その具体的手順の確認をしていく。

 2六飛は、次に2五香と打つのがねらいだが、後手はこれをどう受けるか。
 この場面で、後手の攻めの手は7六歩や9五歩になるが、それは2五香ではっきり先手優勢になる。
 (1)9五歩で、それをまず確かめておこう。

変化7八と同図02
 (1)9五歩に、2五香(図)と打つ。
 2五香は“詰めろ”なので後手は受けなければいけない。
 9六歩、同玉、3一桂、2三香成、同桂、2四金と攻めて行く(3一桂に代えて2四桂には同香、同歩、1五桂で先手勝勢)

変化7八と同図03
 これで、先手勝ち。
 「2六飛」と打つ前に、「7八歩、同と」を利かせた効果がはっきり現れた局面である。それがなかったら、後手9五香で先手玉は詰まされていた。これが「7八歩の効果」の一つ。

変化7八と同図04
 「2六飛」に、(2)6二金(図)。
 これは2筋を先手が狙ってきた攻めを受け流そうとする手で、“2五香”、1一桂(代えて3一玉は5二金で先手良し)、2三香成、同桂、2四金、3一玉と進めば、後手良しになる。
 いまの手順で、途中、“2五香”、1一桂に、3三歩成なら先手良しになる順があるが、それよりもわかりやすい先手の勝ち方がある。
 
 ここは、(2)6二金に、“3三香” がわかりやすい攻めになる(次の図)

変化7八と同図05
 “3三香”(図)と打って、先手勝勢。
 同桂なら、2一金がある。以下同玉、2三飛成、1一玉、3二角成で先手勝ち。
 3三同銀、同歩成、同玉は、5一竜で、先手勝勢である。
 また、3三香に3一銀は、5一竜が“詰めろ”で、受けもないので、先手勝ち。

変化7八と同図06
 「2六飛」に、(3)3一桂(図)
 これには素直に2五香で良い。
 そのままなら、2三香成、同桂、2四金で後手“受けなし”になるので、後手は6二金とする。
 6二金に対して、2三香成、同桂、2四金では、今度は3一玉で角を取られてしまうので、先手が悪い。
 6二金には、3三歩成とする手がある(次の図)

変化7八と同図07
 3三歩成(図)を後手は何で取るか。
 同桂は2三香成、同桂、2一金、同玉、2三飛成、1一玉、3二角成で、先手勝ち。
 同歩は2三香成以下後手玉“詰み”
 同玉には、4五金と打つ。これは3六飛以下の寄せを狙っている。以下2二玉には、3四金と出て、後手玉に受けがない。

 なので後手は3三同銀と、銀で取る。
 これには、5一竜がある(次の図)

変化7八と同図08
 5一竜(図)に、さて、後手に受けがあるか。
 ほうっておくと、3二角成、同玉、2三香成、同桂、3一金以下の“詰み”
 1四歩なら、2三香成、同桂、3一金が鋭い寄せである。以下3一同玉に、2三飛成で、後手“受けなし”
 3四銀には、5四歩がある。同銀なら、4二竜である。

 そして、4二銀右には、3四金が決め手である(次の図)

変化7八と同図09
 3四金(図)は2三金以下の“詰めろ”である。
 3四金を、同銀なら、4二竜で、先手勝ち(7七にいた「と金」を7八に動かしているので、金を捨てる攻めが有効となっている)
 図からは、5一銀、2三香不成、同桂、同飛成、1一玉、3三金で、先手勝ち(7七飛には8七桂と受けて問題ない) 

変化7八と同図10
 (4)1一桂(図)の場合。
 (3)3一桂の場合との違いは、「3一」に空間があること。
 同じように、2五香と打つ。以下、6二金、3三歩成、同玉と取ったときに“違い”が出る(次の図)

変化7八と同図11
 (3)3一桂のときには3三同玉には4五金と打ったが、この場合4五金、2二玉、3四金とすると、そこで3一玉があって、“逆転”を喰らってしまう。
 だからここは4五金ではなく、3六飛とする。以下、4四玉に、3七桂(次の図)

変化7八と同図12
 4五金の一手詰なので、後手はこれを受けなければいけない。
 5四銀には、3五金、5三玉、4五桂、同銀、同金で、先手勝勢。
 また、3三桂には、8四馬、同銀と金を取り、以下、4五金、同桂、3五金、5四玉、4五金、6五玉、5五金、同玉、6六銀、4四玉、4五歩、5四玉、4六桂まで、後手玉“詰み”

 この図では5六銀が一番粘りのある受けになる。
 この手には、4六金とし、以下5四銀、3二飛成、3三桂、4二竜と進む(次の図)

変化7八と同図13
 5五銀、3二角成、4六銀、4三竜、5五玉、8四馬(次の図)

変化7八と同図14
 先手勝勢になった。8四同歩に、3三馬以下、後手玉“詰み”

変化7八と同図15
 (4)1一桂、2五香に、3一銀という受けもある。
 しかしこれは、最初のイメージ通り、2三香成、同桂、2四金と攻めていけばよい。
 以下、2五歩、同飛、1一玉、2三金、2二歩、3二角成(次の図)

変化7八と同図16
 3一銀と受けたのは1一に逃げ込むのが後手の狙いだったが、結果的には、先手の攻めのほうが強力だった。
 図以下、2三歩、3一馬、2二金、3三歩成、同桂、3四桂(次の図)

変化7八と同図17
 先手勝ち。
 この攻めも、やはり「7八歩、同と」を利かせた効果で、金を渡しても先手玉は詰まないので、攻めを継続できたというわけである。

変化7八と同図18
 (5)2四桂(図)の受けにはどうするか。
 この手にも、2五香で良い。
 このままなら、2四香、同歩、1五桂、2三香、同桂成、同玉、3五金で、後手“受けなし”になる。
 だから後手は、4四銀上と受ける。今の変化の先手3五金の手がなくなった。1五歩のような甘い手を指していると、後手3五銀でやられてしまう。
 4四銀上にも、2四香といく。以下、2四同歩、1五桂、2三香までは同じだが、そこで、2四飛があった!
 2四同香に、2三金、1一玉を決め、そこで8四馬とするのである(次の図)

変化7八と同図19
 これで、先手勝ち。
 2二歩には、3二角成があるので、後手玉に受けはない。6七飛の王手には9八玉でよい。以下8八と、同玉、7六桂には、7八玉、6八飛成、8七玉で、先手玉に詰みはない。

変化7八と同図20
 (6)1四桂(図)には、2五飛でも先手良しだが、ここでは3六飛を紹介する。
 3六飛は、後手は9五歩や7六歩の攻めの手を指せば、3三香と打ちこんで、先手の勝ちがほぼ決まる。以下3三同桂、同歩成、同銀、5二角成、9六歩、8七玉で、先手勝勢である。この3三香の狙いがあるので、3六飛と指したのだ。
 よって後手は4四銀引と「3三」を受ける。
 対して先手は1五歩。先ほどの後手1四桂を“悪手”にしてやろうという手。
 しかしそこで後手6一歩という受けがある。これを同竜なら、6二金で、形勢は逆転して後手良しになる。
 なので先手は1四歩が正しい。以下6二金、3三香(次の図)

変化7八と同図21
 3三同桂、同歩成、同銀引に、2五桂と打つ。
 そこで3四香なら、4六飛で先手十分。そのままだと後手玉は1三歩成、3一玉、3三桂不成、同銀、4三飛成で“寄り”。だから後手1四歩とするが、3三桂成、同玉、2五桂、2四玉、3二角成で、先手勝勢である。

 後手が6二金としたこの形で先手が気をつけるべきは、後手玉に3一~4一~5二の逃走をさせないことである。
 2五桂と打って、ここで後手が3一玉なら、3三桂不成、同銀、同飛成、4一玉、4三竜で、後手玉を捕まえることができる(角につなぐ桂の“不成”が大切なところである)
 2五桂に、1四歩、4五桂で次の図となる。

変化7八同と図22
 4四銀右なら、3三桂左成、同銀引、同桂成、同銀に、4二銀と打って、後手玉“寄り”
 また、やはり3一玉には、3三桂右不成がある(成だと後手良しになる)

 3四香と受けて、どうなるか。
 これには、3三桂左成、同銀に、2一銀が“、決め手”である(次の図)

変化7八同と図23
 これで先手勝ち。
 2一同玉に、3三桂成で、後手“受けなし”。
 そして、銀を渡しても、先手玉は詰まない。8八銀、9八玉、9九銀成があるが(同玉と取ると9七香、9八桂、8七桂で詰む)、9七玉(次の図)

変化7八同と図24
 これで、(6)1四桂も先手良しが証明された。

 つまり――――

7八歩図(再掲)
 7八同と(図)は2六飛で先手良し。


7六と図
 次は、7六と(図)。
 この手には、3三歩成、同銀、5二角成で、先手良しになる。この先手玉は角を後手に持たれても詰まない形だから(次の図)

変化7六と図01
 以下、7五桂、9八金、5二歩、3一飛が予想されるが、先手優勢である。


≪指始図≫(7八歩図)
 以上の通り、7八同と7六と では後手が勝てない道となる。

 ということで、▲7八歩 に対しては、△7六歩 しかなさそうである。



≪最終一番勝負 第53譜 指了図≫ 7六歩まで

 実戦は、そう進んだ。
 後手の≪ぬし≫は、△7六歩 と応じてきた。上で述べてきたような事情で、この手が後手の最善手になる。

 しかし、するとこれは、「千日手コース」ということになるかもしれない。
 ここから、7七歩、同歩成と進めば、結果的に、2手前の図に戻ることになる。


7七同歩成図
 すなわち、この「7七同成図」である。

 ここから「7八歩、7六歩、7七歩、同歩成」をあと2回繰り返せば、この図が「4回目」となり、「千日手」が成立する。

7七と図(7七歩同成図)
   【1】3三歩成 → 後手良し
   【2】3三香 → 後手良し
   【3】8九香 → 先手良し
 この図については、前回の調査研究で、このことが判っている。
 つまり、【3】8九香なら先手に勝ちがあるということだ。

 しかし、それを実戦中に、終盤探検隊は発見できるのであろうか。
 いや、それとも他にこの図から、「先手勝ち筋」が存在するのであろうか。

 ここから他の候補手――【4】2五香 と、【5】5四歩――について、考えていこう。


2五香図
 「【4】2五香(図)と打って勝てないか」―――というのが、この「最終一番勝負」の実戦中の我々(終盤探検隊)の思いだった。
 しかし、この【4】2五香 で勝つのは難しい。「勝ち筋」はあるかもしれないが、“戦後”、時間をかけて頑張って研究してもそれを特定できなかった。いまも、できていない。
 それを実戦中に見つけることは、さらに困難なことだったのである。
 
 具体的には、ここで後手7五桂と指し、それには9八金と受けることになるが―――(次の図)

変化2五香図01
 こうなってみると、この図は、「9七玉図」の“2手前”の「6七と図」で2五香とした場合の“研究済み”の変化に、完全に合流している(→第34譜

 ここで後手は、(先手の2六飛に備えて)6二金とする。これは次に3一玉の狙いがあり、それが実現すると後手に角の入手が確実となり、7九角と打たれる筋があって、先手が悪い。
 なので、6二金に対しては、2三香成と行くのが必然なのだ。以下、同玉に、2五飛、2四歩、5五飛と進む。
 そこで後手は6九金(次の図)

変化2五香図02
 先手の手番だが、ここからの指し方が難しい。
 そして、はっきり先手が良くなる道が、まだ発見されていない。

 というわけで、2五香は「互角」という結論で、それ以上の探索を止めている。
 だが、実戦中は、そういうこともわかっていないので、「2五香で勝てないか」とずっとこの道に希望を持っていたのであった。


5四歩図
 ここでの【5】5四歩 は有望な手ではあるが、ここで5四歩を指すなら、この“2手前”に5四歩と指す方が勝ちやすかった。

参考5四歩図
 この「参考5四歩図」が“2手前の5四歩”である。
 この図に較べると、先手が9七玉、後手が7七ととした上の「5四歩図」の先手玉は、狭い。そしてその形は角を渡すと先手玉がすぐ詰めろになる形である。その分だけ、先手はより“難しい戦い”を強いられるわけである。
 (この図の結論は先手良し。しかし実戦中は変化が多すぎるという理由で、この手の先は早めに読みを打ち切った)

 そういうわけなので、ここでの 【5】5四歩 の手は、実戦中、我々は眼中になかった。まったく調べていない。
 (「参考5四歩図」でさえ調べることをあきらめたのだから、さらに複雑になるこの道を好んで選ぶ理由がないのである)

 しかし、研究として、「真実はどうなのか」、それに興味はある。
 最新ソフトが使えるいま、これを調べてみよう。

5四歩図(再掲)
 ここで後手の手番。4つの指し手がある。〈a〉5四同銀と取る手。〈b〉4四銀または〈c〉6二銀左とする手。それから、〈d〉7五桂。
 〈d〉7五桂は、「参考5四歩図」から後手7五桂とした変化と合流する。調査済みの変化である。
 まずその結果を再確認しておこう。
 7五桂、9八金、7六桂、8九香と進む(次の図)

変化5四歩図01(8九香図)
 こうなって、「参考5四歩図」からの7五桂の変化に合流している。これは、攻略するのにかなり苦労した図であった。
 先手が8九香(図)と受けたところ。ここで、後手は5四銀を取るか、あるいは4四、6二、6四へ銀を動かすかの「4択」になる。
 “戦後研究”では、6二銀左(この変化が一番たいへんだった)に対しては―――(次の図)

変化5四歩図02
 6三歩(図)で先手良し、という結論を出している。
 6三同銀なら、3三歩成、同銀、5三歩成で先手良し、6三同金なら、3三歩成、同銀、4七飛と打って、先手良しというのが、第37譜での研究調査であった。

変化5四歩図03
 そして「8九香図(変化5四歩図01)」から、6四銀左上 とした場合には、7一飛(図)で、先手が勝てる。
 4四銀5四銀 に対しても、同じく7一飛が有効手になる。

5四歩図(再掲)
 もう一度この図に戻って、〈d〉7五桂以外の手を考えよう。 
 すなわち、〈a〉5四同銀、〈b〉4四銀、〈c〉6二銀左の変化である。
 これがいずれもまだ未調査の変化で、最新ソフトの評価も互角の範囲なので、調べてみないと形勢ははっきりしない。

変化5四歩図04
 〈a〉5四同銀は、3七飛(図)で先手良し。
 次に3三香が効果的な攻めになる。それを4四銀と受ければ、7七飛とと金を払い、以下7六歩には3七飛と戻って、先手が優勢である。

変化5四歩図05
 〈b〉4四銀上(図)には、7八歩と打つのが良い。以下7六歩に、8九香(次の図)

変化5四歩図06
 どうやらこれで先手が良いようだ。
 以下、7五桂に、7一飛と打つ。これは先手5二角成があるので、以下6二銀右、6一飛成、6三銀と応じて、その筋を防御する。
 そこで先手は8五歩。同金に、9八金とする(次に8五香と金を取る狙い)
 以下8四歩に、9四馬(次の図)

変化5四歩図07
 先手は、上部開拓しての“入玉”を狙っている。ここでは後手6六銀くらいしか手がないが、先手は8六歩と打って、以下8七桂成、同香、7五金に、9五歩で、“入玉”をめざす。以下7八とに、9六玉――
 先手優勢だろう(最新ソフトの評価値は+700くらい)

変化5四歩図08
 〈c〉6二銀左(図)。 これが、残された“問題”となった。
 しかし、ここからの「先手勝ち筋」が見つかっていない。

 ということで、いまのところ、【5】5四歩 についての調査結果は、「形勢不明」である。


 以上の調査結果を加えて、「7七と図(7七歩成図)」の結果をまとめると、次の通りになる。

7七と図(7七歩成図)
   【1】3三歩成 → 後手良し
   【2】3三香 → 後手良し
   【3】8九香 → 先手良し
   【4】2五香 → 互角(形勢不明)
   【5】5四歩 → 互角(形勢不明)


 この図での、この5つの手を“戦後調査”したが、「先手勝ち筋」は、まだ、【3】8九香以外には確認されていないことになる。




≪最終一番勝負 第53譜 指了図≫ 7六歩まで

 「最終一番勝負」は、「千日手コース」の軌道に入った。
 終盤探検隊は、はたして、「勝ち」に辿り着けたのであろうか。



第54譜につづく
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終盤探検隊 part153 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第52譜

2020年03月22日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第52譜 指始図≫ 7七とまで

指し手  ▲7八歩



    [鏡に映った鏡は何を映すか]

 「では、この本はどこにあるのですか?」
 「この本の中に。」
 「それではこの本は幻(まぼろし)と、その幻の反映(はんえい)にすぎないのですか?」
 古老は書き、幼ごころの君はそれを聞いた。
 「鏡に映った鏡は何を映すか、望みを統(す)べたもう金の瞳の君、ご存じかな?」

 (『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』ミヒャエル・エンデ著 佐藤真理子訳)


 
 バスチアン少年が『本』を読んでいる。
 この『本』の中心は「幼なごころの君=女王」であり、彼女の使命を受けて、この世界(ファンタージエン)の滅亡を防ぐ道をみつけるために、草原の狩人の少年アトレーユが活躍する物語がこの『本』に描かれている。その物語にバスチアンは引き込まれた。
 アトレーユの探索の旅でわかったことは、“世界の滅亡を止めるためには「女王」に新しい名前をつけてくれる「人間」が必要なのだ”ということ。だが、同時に、人間世界に行く道はないこともわかり、アトレーユの探索の旅はそこで行き詰まった。アトレーユは「女王」に会い、それを報告した。
 しかし、「女王」は、アトレーユに、「あなたはかれを連れてきてくれました」と感謝した。
 なんのことだろう? アトレーユにはわからなかった。
 「かれ」とは、バスチアンのことである。「かれ」はすぐ近くまで来ている。あとは、バスチアン少年が自分の意志でこの『本』の世界(=ファンタージエン)に飛び込んできてくれればいい。
 「女王」は、アトレーユを連れて、「さすらい山の古老」に会いにいく。「さすらい山の古老」とは、この物語の“書き手”であった。ファンタージエンに起こる物語を書き留め記録しているのが「古老」なのだ。つまりこの『本』の作者の位置にいる人物である。「世界=ファンタージエン」そのものでもある「女王」と、その記録者(作者)である「古老」は本来出会ってはいけない関係である。それが出会う時は、物語が閉じてしまう時だから。
 「さすらい山の古老」の前には、『本』が空中に浮かんでいる。「古老」は筆を手に持っており、今もそれを走らせている。
 「女王」は、「古老」と対話しながら、その背後からその場面を見ている「かれ=バスチアン少年」を意識して、こう言う。
 この物語をもう一度はじめから書いてくださいと。
 すると「古老」の筆によってその新しく書かれていく物語は、バスチアン少年が、ある本屋で偶然に『本』と出会うところから始まる物語となっていた。

 『本』の中で、その「書き手」と、「中心登場人物」が出会い、話をしている。かれらの前には、『本』がある。
 それを外から見ている「読者(バスチアン少年)」がいて、その姿をまた外から見て書き留める「書き手」。
 そして、それを読んでいる、“私たち”
 もしかすると、外からその“私たち”を見て、記録しているだれかがいるのかもしれない…
 くらくらするようなイメージである。

 平面の鏡を二枚組み合わせた時、その中に“無限の奥行きのある絵”が生まれることを、我々は鏡をつかって遊んだ体験から知っている。
 この物語の構造は、それに似ていて、たいへんに面白い。




<第52譜 いよいよ終盤の終盤>


≪最終一番勝負 第52譜 指始図≫ 7七とまで

 ≪最終一番勝負≫は、いよいよ、決着のつく時が近づいてきた。「終盤の終盤」である。

 ▲9七玉 に対し、△7七と と迫ってきた。この7七とは最善手であろう。

 今回の報告では、ここで、【1】3三歩成、【2】3三香、【3】8九香 の指し手について調べた結果を発表する。
 しかし、【1】3三歩成 および【2】3三香 については、先手の攻めはうまくいかない、ということをここで先に述べておく。


3三歩成基本図
 【1】3三歩成(図)

 この手は、3三同銀に、5二角成といく意味である。 後手5二同歩として、次の図。

変化3三歩成図01
 「7七と」の位置は、このと金のベストポジション。その効果で、先手玉は後手7九角からのの“詰めろ”になっている。
 先手はこれをを受けなければならない。ここで受けるのでは面白くないのでこの局面に進めること自体気が進まないのだが、ここは“研究調査”と割り切って、以下を調べてみよう。
 先手どう受けるか。
 8九金の受けには9五歩があって、これでもう先手は受けがない。9五同歩には、9六歩、同玉、8七角、9七玉、8五桂、同歩、9六歩、8六玉、7六とまでの詰み。
 8九香は、7九角、9八玉、7六桂がピッタリの攻めとなる。以下3八飛に7五桂で、"受けなし"となる。
 8八香と受けるのも考えられる。しかしこれには9五歩、同歩、9六歩、同玉、6九角、8七金、8八とで、後手勝ち。9五歩に手を抜いて3一飛は、9六歩、同玉(9八玉には7六角)、6九角、9七玉、9六歩、9八玉、8八と、同玉、7六桂以下、詰み。

 というわけで、ここは7九金と受ける。
 以下7五桂に、8九香と受ける。
 そこで後手は7六角と打ちたいが、それは―――

変化3三歩成図02
 2一竜(図)があって、なんと、いきなり後手玉が詰んでしまう!
 こういう手があるのなら、この変化、先手にも希望が出てきた。
 2一同玉、4一飛、3一飛、同飛成、同玉、6一飛、4一飛、同飛成、同玉、6一飛、5一飛、同飛成、同玉、6三桂、6二玉、6一飛、同玉、7一馬まで。

変化3三歩成図03
 したがって、後手はいったん3四銀(図)と受けに回るのが正解である。
 そこで先手の手番である。ここで有効な手があるかどうか。
 3七飛3三歩7八歩 が候補手。
 先手玉は次に後手7六角でほぼ"受けなし"になる。だから攻めるならそれより速い攻めが必要だし、受けるなら 7八歩 ということになる。 そして 3七飛 は攻防手である。

変化3三歩成図04
 3七飛 は、“両取り”だが、4六角(図)がそれを上回る好手となる。
 3四飛は、7九角成から先手玉が詰まされてしまうので、7七飛とと金を消すが、以下6六銀、7八飛、7七歩、6八飛、6七歩となって、これは先手負け。

変化3三歩成図05
 7八歩(図)は、後手から7六角(6五角)と打たれる前に受けた手で、対して7六とや7六歩なら、(後手7六角がなくなるので)3一飛や7一飛で勝負になる。
 しかし、そうはならないだろう。 7八歩 に、5七角(図)と打ってくる。以下6八歩、同とに、3七飛でどうか。
 2四角成、1五金と進む(次の図)

変化3三歩成図06
 図以下、7九と、2四金、同歩。
 後手からの次の攻めは、8九と~8七金。3四飛と銀を取りたいが、それは8九とで先手に勝ちがない。
 ということなら、3一角、3三玉、8四馬、同銀、4五金と攻めるのはどうか。しかし――(次の図)

変化3三歩成図07
 しかし、4四金(図)で、先手のこの攻めは続かない。以下、3四金、同金、4五銀に、3五金打で受け止められ、どうやらこれは、後手勝ちがはっきりした。

変化3三歩成図08
 さて、後手3四銀のところまで戻って、3三歩(図)から攻めるのはどうか。
 これには3三同玉。そこで3五歩が筋だが、(7六角なら3四歩、4四玉、4七飛で先手良しになるが)5七角、3四歩、4四玉と進むと、後手良し。
 なので2一竜とするが、後手は6五角と打つ。これで先手受けが難しい。
 以下7六歩、同角に、2五桂(同銀に3七飛のつもり)、2四玉、1五金、3五玉、3七飛、4五玉、7七飛とし、これでなんとか先手陣に迫る危機を受け止めることができた。
 しかし、6七桂成で―――(次の図)

変化3三歩成図09
 先手玉はすぐには寄らないが、それ以上に後手玉が安全になっている。後手勝勢。

 このように、【1】3三歩成 は後手良し、である。



3三香図基本図
 次は、【2】3三香(図)
 これを、同銀(同桂)、同歩成、同玉は、3五飛、3四香、5五飛で、先手良しがはっきりする(3三同桂、同歩成、同銀なら5二角成)
 よって、3三香には、3一銀と受けるしかない。
 そこでどうするか。5二角成で角を渡すのは(後手7九角があるので)やはり先手悪いので、ここで何か工夫が必要なところ。
 3七飛と打つ(次に8四馬と金を取れば後手玉への詰めろになる)のは、4二金があって、後手優勢になる。6一飛にも4二金がある。

 では、7八歩でどうか。
 これを「同と」なら、6一飛と打って、以下4二金なら、6三角成、6二銀右、4五馬となったときに、4五馬が7八との取りになっている。これは形勢不明の戦い。
 7八歩に「7六歩」が問題だ。これは「千日手コース」かもしれない。
 しかし、「7六と」がもっと手強い手になりそう(次の図)

変化3三香図01(7六と図)
 「7六と」としたこの図は、どうやら「後手良し」である。
 以下はその研究結果の確認となる。

 この「7六と」(図)に対し、〔r〕3七飛は考えられるところで、今度は4二金、5一竜、4一金、同竜と進めば、後手によい受けがなく、これは先手が指せる。この場合は角を渡しても大丈夫なので。
 しかし〔r〕3七飛に、4二銀引とされると継続手がなく、後手が良いようだ。
 なお、〔s〕3九飛は、4二金、5一竜、4一金、同竜、4四銀引で、後手良しになる。3七に飛車がいればそこで4五歩で先手良しになる変化なのだが、この場合は7五桂が詰めろになっており、8八金では、7九角、9八金打と金を受けに使わされては先手に勝ち目がないし、7五桂に9八玉と逃げるのも、8七桂成、8九玉、7七歩で先手負け。

 〔t〕5二角成はどうか。これを確かめておこう。
 5二同歩なら、4一飛で先手の勝ち筋に入る。その場面で後手に受けがないのだ。
 しかし、5二角成のときに、7五桂がある(次の図)

変化3三香図02
 7五桂(図)は、先手玉に“詰めろ”を掛けた手。
 これは先手、飛車か金か持駒を使って受けるしかない。8八金と受け、そこで後手は5二歩と手を戻す(次の図)

変化3三香図03
 今度は4一飛と打っても、4二銀引で受かるのだ。そのとき、先手がもし「金金」と持っていたら、4二銀引には、同飛成、同銀、3二香成以下、後手玉が詰んでいた。けれどもこの場合は駒が足らないから、4二銀引で受かっている。
 このままなら6五角または7九角がきびしい手になる。だからといって、さらに金を投入して受けるようでは先手に勝ち目はない。先手はなんとか攻めなければいけない。

 ここで5一飛と打って、4二銀引に、5二飛成が工夫の攻め。これは3一竜、同銀、3二香成以下の詰めろになっている。
 よって後手は1四歩。以下3二香成、1三玉、1五歩(同歩なら5五竜で先手勝ち)、7九角(次の図)

変化3三香図04
 7九角(図)で、後手の勝ちがはっきりした。この詰めろを受けるには9八金打くらいしかないが、7七歩(8八角成以下詰めろ)で、受けがなくなる。
 〔t〕5二角成では先手に勝ちがないとわかった。

変化3三香図05(8八金図)
 「7六と」に、〔u〕8八金(図)と受けてどうか。
 ここは後手の手が広いところ。4二金なら、5一竜、4一金、同竜と進んで、これは先手にもチャンスが出てくるようだ。
 だが、〔u〕8八金に、9五歩が先手にとって厳しい。9五同歩なら同金で後手の攻めが速くなる。
 なので先手は6一飛と打ち、以下9六歩、9八玉、8六と、5二角成、8五桂(次の図)

変化3三香図06
 8五桂(図)は、後手9七歩成、8九玉、8八と、同玉、7六桂以下の“詰めろ”
 8五同馬、同金、5七馬が考えられるが、そこで7六桂が詰めろになり後手勝勢。
 よってここは8七金打と受けるしかないようだ。同と、同玉、4二銀引と進む。
 以下、“4一馬”に、3三歩が好手。香を入手して7六金以下先手玉が詰めろになっている。
 3三歩成、同玉、3四歩、2四玉、7七歩、7四香と進む(次の図)

変化3三香図07
 後手良し。次に後手からの7七香成、同金、同桂成、同玉、7六歩で、先手玉は寄ってしまう。

変化3三香図08
 いまの変化を途中まで戻って、“4一馬”の手に代えて、“6三馬”(図)はどうだろうか。7三の銀取りになっているし、5四馬~5五馬のように馬を中央で使う狙いがある。
 この手にも、やはり後手は3三歩と「香」を取る。以下同歩成、同玉。
 先手玉は7六金以下の“詰めろ”になっているので、やはり7七歩が考えられるが、先ほどと同じように7四香が有効になる。以下4五馬には4四金と打って後手優勢。
 7七歩では勝てないのなら、5四馬として、「7六」に利かせてどうか。
 以下、7六金、同馬、同桂、同玉、7九角(次の図)

変化3三香図09
 こうなって、この図ははっきり後手良し。
 2五桂には、2二玉と逃げ、以下3三歩、8八角成と進んだ図は、後手勝ちの図になっている。8四馬で金を取ってもまだ後手玉の詰めろにはなっていない。
 ということであれば、この図では8九金のような手になるが、5七角成で、先手に勝ち目がなさそうだ。

 〔u〕8八金には、後手の9筋の攻めと、先手が3三に打った香車を逆用する手が機敏だった。

 以上の調査により、【2】3三香 は後手良し、が確認された。



8九香基本図
 【3】8九香(図)でどうなるかを調べよう。
 二手前の8九香(「6七と図」での〔栗〕8九香=第39譜参照)は、先手良しの結論になっている。もっともそれは“戦後”の研究で知ったことだが。

 ここで後手最有力の手は[A]7五桂である(次の図)

変化8九香図01(7五桂図)
 [A]7五桂(図)と打つことで、もしも後手に「角」が手に入れば、8七桂成、同香、7九角以下、先手玉が詰んでしまう。だから、これで先手は、ねらい筋の攻めである「3三歩成、同銀、5二角成」と行けない、という状況になる。
 この[A]7五桂がここで“後手最有力手”とみるのは、そういう理由である。

 そして、ここから「7八歩、7六歩、8五歩と進めて先手良し」というのが、この図の結論である。
 以下、そのことを確認していこう。

 まず、“ここで単に8五歩では先手勝てない”ということを先に確認しておく(次の図)

変化8九香図02
 「7五桂図」から、8五歩、同金(図)と進んだところ。
 ここから 7八歩 の手と、3三歩成、同銀、5二角成 の攻めでどうなるかを見ておこう。
 (他に、8六金 は8四銀で後手良し。9四馬 も8四銀で後手良し)

 ここで 7八歩 は、“手順前後の失敗”となる。 7八歩 に7六歩なら先手良しのルートに戻るのだが、ここでの 7八歩 には、7六とと対応される(次の図)

変化8九香図03
 ここで3三歩成、同銀、5二角成は、8六金、9八玉(8八玉なら6九金)、8七と、同香、同金、8九玉、7六桂で、先手玉に“必至”が掛かって負けになる。
 だからここでは、7五馬と桂を取って、同金に、3三桂と攻めて行く手が考えられる。しかし以下、7九角、9八玉、8六とと進むと―――(次の図)

変化8九香図04
 これで後手勝ち。
 3七飛には7七歩。8八香と受けても、7六桂、8九歩、8八桂成、同歩、8七香で、もう受けがない。

変化8九香図05
 「8五金図」から、3三歩成、同銀、5二角成(図)の変化。
 5二同歩のときに、先手玉には8七桂成、同香、7九角以下の“詰めろ”が掛かっているので、先手は7五馬、同金としてから、3一飛と打つ。
 3一飛には、後手は4二銀左しかない。以下、2一飛成、3三玉と進んで、次の図になる。

変化8九香図06
 この図の形勢が問題である。
 この図で、先手は後手玉に“詰めろ”で迫らなければ7六金で負けになる。どうやって“詰めろ”を掛けるかの問題になるが、答えを言うと「どうやって詰めろをかけても後手に正しく応じられると先手勝てない」となる。
 3五金は、7九角、8八歩、3五角成で、大失敗。
 また、3七桂も、これは3四歩以下の“詰めろ”になっているが、しかし、7九角、8八歩、7八角が"詰めろ逃れの詰めろ"で、後手勝ちになる。
 後手玉を4四から5四に逃がしてはいけないので、そうすると先手に残された手は4五金しかない。
 しかしその手には、8六角、9八玉、5四角という手順があるのだ(次の図)

変化8九香図07
 これで、後手勝ちになる。5四同金、同銀と進むが、先手玉は9七金で一手詰の状態になっている。
 (しかし、もしもこの図で後手が7六歩を打っていたとしたらこの“5四角の王手はない”、ということを留意しておいてもらいたい)

 以上が、後手7五桂に「単に8五歩では先手負け」ということの証明である。

変化8九香図08(7八歩図)
 「7五桂図」まで戻って、8五歩を突く前に、「7八歩」(図)が正解である。
 「7八歩、7六歩」の手交換をしてから、8五歩と突けば、結果が変わる。
 その手順の前に、この「7八歩」に、同と の変化と、それから 7六と の変化を確認しておこう。

変化8九香図09
 同と(図)の場合。
 これには、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛が成立する(次の図)

変化8九香図10
 「3一」に飛車を打った理由は、3四銀に4一竜という手をつくった意味である。
 7八ととと金を移動させた効果で、7九角には9八玉で先手玉は詰まない。だからこの飛車打ちが指せたのである。
 図以下、4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金で後手"受けなし"となる(3四角なら、3五金打、4五角に、2五桂で“詰み”である)

変化8九香図11
 「7八歩」に、7六と(図)の変化。
 これも同じ攻めで良い。すなわち、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛、4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金(次の図)

変化8九香図12
 ここから8七と、同香、同桂成、同玉、5四角という切り返しがあるが……。 しかしこの場合は、先手玉が安全になっているので大丈夫。
 5四同金、同銀に、3五金と打てば―――(次の図) 

変化8九香図13
 もう後手玉は逃げられない。先手勝ち。

変化8九香図14(8五歩図)
 というわけで、「7八歩」には、後手は 7六歩 と応じることになる。
 そこで、8五歩(図)である。
 すなわち、「7五桂図」から、「7八歩、7六歩、8五歩」と進めるのが、最善の手順である。

 そしてこの図になると「先手良し」というのは、すでに第39譜で証明済みである。この図は、そこで研究調査した「6七と図」からの〔栗〕8九香の変化に合流して、「先手良し」の結論が出ている図なのである。

 8五歩に7四金なら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で先手良し。7九角には8六玉と逃げるスペースができている(このとき、「7八歩、7六歩」の手交換が入っていなかったら8六玉に7六とがあるので先手負け)
 よって、後手は8五同金だが、それでも3三歩成、同銀、5二角成と攻めて行く(次の図)

変化8九香図15
 ここで 5二同歩 を本筋として見ていくが、他に 8七桂成、同香、同と、同玉、8六香 以下の勝負手もあるのでその変化は後で触れる。
 5二同歩 に、7五馬が大事な一手(次の図)

変化8九香図16
 桂馬をはずして、先手玉に掛かっていた“詰めろ”を消す。
 7五同金に、3一飛と打つ。以下、4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金(次の図)

変化8九香図17
 先ほど調べた図とほぼ同じである(変化8九香図07)
 そのときと違うのは「7八歩、7六歩」の手交換が入っているということ。これが大きな違いで、後手に「7六歩を打たせてある」ので、ここから8六角、9八玉に、5四角の手がない(王手にならない)
 しかし、7九角、8八歩、8七と、同玉、7七歩成、同歩、5四角という手段はある(次の図)

変化8九香図18
 しかしこの場合は、5四同金で先手が良い。先手玉がまだ詰めろではないので、先手に“攻めの手番”があるからだ。
 5四同金、同銀に、3七桂とする。以下、4四玉、1七角、3五金、3六桂(次の図)

変化8九香図19
 後手に金を使わせて、先手玉はより安全になり、攻めだけに専念できる。
 5三玉、6一竜右、7六歩、7一竜左(次の図)

変化8九香図20
 先手勝勢。

変化8九香図21
 途中、先手5二角成のところまで戻って、8七桂成、同香、同と、同玉、8六香 の変化。
 以下、9八玉、7七歩成、同歩、5二歩、3一飛、6五角、7六桂(次の図)

変化8九香図22
 いま、後手玉には簡単な“詰めろ”が掛かっているが、この詰めろの状況が解除されれば、7六金などで後手が勝ちになる。つまり、後手玉の詰めろを解除する手があるかどうかが問題となる。
 1四歩は、2一飛成、1三玉に、5七馬、4六角、3五金で、先手勝ち。
 4二銀左は、2一飛成、3三玉、3五金で、後手玉は“受けなし”だし、先手玉は詰まない。
 3四銀は4一飛成がある。しかしこの場合、さらに4四歩という受けがある。6五の角が自陣に利いている。これで詰めろが続かなくなれば後手の勝ちになるが……
 しかし5七馬があった(次の図)

変化8九香図23
 2一飛成、3三玉、2四金以下の詰みがある。これで、先手勝ちが確定した。

 以上で、[A]7五桂には、「7八歩、7六歩、8五歩」で、先手が勝てると証明された。

8九香基本図(再掲)
 以下は、[A]7五桂以外の手を考えていこう。
 しかし、[B]6六銀や[C]6九金のような手では、次に先手玉の“角を渡しても先手玉が詰まない”という状態になっているので、「3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛」の攻めが有効になり、先手が勝てる。

 [D]9五歩と[E]3一銀を、以下、調べていく。

変化8九香図24
 [D]9五歩 には、どうするか。
 これには同歩もあるが、ここは8九香と打った手を生かす8五歩(図)がおすすめの手だ。
 8五歩に7四金なら、8六玉で、以下7六と、9五玉、8二桂、8四歩で、入玉できる。後手の9五歩突きを逆用する手順である。入玉すれば、先手勝ちだ。
 8五歩に7六とは有効手だが、この場合、7七歩、7五と、8四歩で、先手優勢がはっきりする。
 なので後手は6六銀と指し、8四歩に、そこで7六ととする。これで先手玉の入玉は阻止された(次に7七銀不成~8五桂のような攻めがある)
 しかしここは、先手の勝てる局面になっている。手段はいろいろあるようだが―――(次の図)

変化8九香図25
 3三歩成(図)。 例の「3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛」の攻めで先手が勝てる。

8九香基本図(再掲)
 もう一度この「8九香図」に戻る。
 [A]7五桂、[B]6六銀、[C]6九金、[D]9五歩 はすべて、先手良しになると確認できた。
 残る手は、[E]3一銀 である。

変化8九香図26(3一銀図)
 [E]3一銀(図)は実戦的な好手で、ここで先手の勝ち筋を見つけるのがけっこう難しい。指せそうな手がいろいろあって迷いやすい局面だ。
 この[E]3一銀は、タイミングを見て4二金(3三を強化しながら角取り)の手を含みにしている。
 たとえばここで3七飛と打って、6二銀右、7七飛、7六歩、3七飛、4二金と進むと、後手良しになる(6二銀右に8五歩なら互角)

 ここは、3三歩成と指すのが良いようだ(次の図)

変化8九香図27(3三歩成図)
 3三歩成(図)には同歩が本筋。
 3三歩成を同桂なら、5二角成(同歩なら2一金以下後手玉詰み)で、先手勝勢。
 3三同玉にも、5二角成で良い。5二同歩に、3一竜、7九角、9八玉、7五桂、4八飛(次の図)

変化8九香図28
 4八飛(図)は、"詰めろ逃れの詰めろ"
 先手勝勢。

変化8九香図29(3四歩図)
 というわけで3三歩成は同歩と取るが、それには先手は3四歩(図)と歩を合わせる。

 ここで後手の対応は、(ア)3四同歩、(イ)3二銀、(ウ)4二金、(エ)4二銀引、(オ)4四銀引 がある。
 (これ以外の手で、放置して(カ)7五桂や(キ)9五歩なら、3三歩成、同玉、5二角成、同歩、3五飛で先手勝勢となる)

変化8九香図30
 (ア)3四同歩には、3三歩(図)と打つ。
 これを同桂と取るのは5二角成だし、3三同玉にも5二角成。放っておくと3二飛から詰む。
 4二金は、5一竜、4一金、同竜、3三玉、3一竜、4四玉、4七飛で、先手勝勢。
 ということで、後手は3二桂(図)と受ける。

 これには7一飛と打つのが良さそう(次の図)

変化8九香図31
 7一飛(図)と打って、先手良し。
 3三玉なら7三飛成で良い。
 このままなら5二角成があるので、4二金が考えられるところ。その手には、3二香成、同銀、同角成、同金、5一飛成と進めて、先手優勢。
 6二銀左はどうか。6一飛成ならそこで4二金で後手良しになる。だから6二銀左に、3二香成、同銀、5二角成と攻めて行く。これを5二同歩なら、3一飛成、3三玉、4一竜で、先手勝勢。
 5二角成に7一銀と飛車を取れば、同馬と対応する(4二馬は9五金のような勝負手があって面倒) 後手は飛車を手にするが、先手玉に良い詰めろを掛ける手がない。といって5二歩(角を取る)なら、3一銀、同玉、5三馬から後手玉にかんたんな詰みがある。ということで、7一同馬の局面は、先手勝勢になっている。

変化8九香図32
 (イ)3二銀(図)には、3三歩成。同桂なら、1一飛と打つ手がある。同玉に3二角成で、先手勝ち。
 なので3三同玉と取るが、それには今度は3一飛がある(次の図)

変化8九香図33
 以下4二金、5一竜、7五桂、6三角成(次の図)

変化8九香図34
 次に3四歩(同玉に4二竜)を狙って、先手勝勢。3四歩に2二玉は、3二飛成、同金に、3三銀と打って後手玉詰み。

変化8九香図35
 (ウ)4二金(図)
 これには3三歩成とする。これを後手は何で取るか。
 同桂や同金は5一竜で先手良し。3三同金、5一竜、6二銀右、6一竜と進めば、先手優勢。
 3三同玉には、6三角成。以下6二銀左、4五馬、4四銀、3四金、3二玉、2三金、4一玉、4六馬(次の図)

変化8九香図36
 先手優勢。次に6三歩、同銀、6一飛、5二金、2四馬のような攻めがねらい筋となる。

変化8九香図37
 (エ)4二銀引(図)
 この手には5三歩がある。5三同金なら、7二飛(4二飛成と7三飛成の両狙い)がある。
 よって、6二金だが、先手は3三歩成。これを同桂は、3二歩、同銀、1一飛で、先手の勝ちが決まる。
 後手は3三同玉と応じるが、それには4五金(次の図)

変化8九香図38
 7五桂なら、8四馬、同歩、3二金、同銀、3四飛の寄せがある。4四銀に対しても8四馬でよい。
 よってこの図では2二玉が最善と思われるが、5五金と銀を取って、先手良し。以下は3七飛と打つ手や、8五歩が狙いになる。

変化8九香図39
 (オ)4四銀引(図)と受ける手。この手に対して3三歩成、同銀と進むと、後手陣の攻略は難しくなる。
 ここは4五歩と打つ。4五同銀なら、そこで3三歩成とし、同玉に5二角成(同桂でも5二角成)で、先手優勢。
 だから後手は4五歩に、4二金と応じる。以下6三角成、6二銀右、7二馬(次の図)

変化8九香図40
 ここで5五銀と銀を逃げても、3三歩成、同金に、5四歩と打てばいずれかの銀が取れる。
 なので後手は7一歩。先手は6一馬。以下4五銀、3三歩成、同桂、8五歩(次の図)

変化8九香図41
 7四金、7五歩、7三金、9五歩と進める。9五同歩なら、8六玉で先手勝勢になる。
 ここで後手の手は色々あるが、大駒を四枚を有し、玉も比較的安全な先手がたしかに優勢である。

 以下変化の一例として、後手5四銀引以下を示しておく。5四銀引、9四歩、6三銀引、5四歩と進める(次の図)

変化8九香図42
 後手は5四銀引~6三銀引で、次に7二銀の角の捕獲を狙ったが、先手は9四歩で歩を補充し5四歩(図)と打てた。
 7二銀なら、5三歩成、6一銀、4二とで、いっきに先手勝勢になる。なので5四同銀右と戻ることになりそうだが、9六玉、6三銀引、8二金(次の図)

変化8九香図43
 ここで後手7八となら、9二馬~9三歩成~9五玉で、先手勝勢。
 7二金、9五玉、7六と、8四歩、同歩、9二馬(次に9三歩成をみせて動きを催促する)、8二金、同馬、7二銀、同馬右、同歩、8四玉、7三銀、9三玉(次の図)

変化8九香図44
 3段目まで“入玉”できて、8九の香車も働き、先手満足の展開である。
 ただし後手も駒を多く手にしており、先手玉の安全はまだ十分ではないので油断はならないが、先手が勝ちに近づいているのは間違いない。

変化8九香図29(再掲 3四歩図)
 以上の調査により、[E]3一銀には、3三歩成、同歩、3四歩(図)と指し、以下(ア)3四同歩、(イ)3二銀、(ウ)4二金、(エ)4二銀引、(オ)4四銀引 いずれの応手にも、先手良しになる道があることがわかった。どうやらこれで先手が勝てそうである。

変化8九香図45(6一飛図)
 また、[E]3一銀には、6一飛(図)でも、先手良しになるようだ(その調査内容は省略する)


8九香基本図(再掲)

 とうわけで、【3】8九香 は先手良し、が結論である。

 結局、この【3】8九香 に対しては、後手[A]7五桂 がいちばん手強い手のように思われる。
 しかしそれも、「7八歩、7六歩、8五歩」の正解手順が発見できれば、先手良しになるのである。

 逆に言えば、それが見えていないと、「【3】8九香で先手良し」という判断はできない。
 実際、我々は実戦ではこれを発見できていなかったし、これが見えていれば、2手前の「6七と図」での〔栗〕8九香 も選べたかもしれない(そっちのほうが7五桂以外の変化が少なかった)


指始図(再掲 7七と図)
 今回のレポートで我々が示したことは、ここで
   【1】3三歩成 → 後手良し
   【2】3三香 → 後手良し
   【3】8九香 → 先手良し
 ということである。
 少なくとも一つは、「先手の勝ち筋」(【3】8九香)がこの図で存在したことが明らかとなった。


 しかし、我々が実戦で選んだ手は、別の手だった。



≪最終一番勝負 第52譜 指了図≫ 7八歩まで
 
 我々――終盤探検隊――は、▲7八歩 を選んだ。



第53譜につづく
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終盤探検隊 part152 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第51譜

2020年03月10日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第51譜 指始図≫ 9七玉まで

指し手  △7七と



   [わたしが、そのアトレーユだ]

 するとそこに、壁穴に鎖でつながれ、飢えて息も絶えだえのとてつもなく大きな人狼がいた。
   (中略)
 「そういうおまえは――おまえはだれだ?」グモルクがたずねた。
 アトレーユはしばらく考えてから答えた。
 「わたしは、だれでもない。」
 「どういう意味だ、それは?」
 「わたしには名前があったけれども、それはもう呼ばれたくない名になってしまった。だから今、わたしは、だれでもない」
 人狼は唇をちょっとそらせ、恐ろしい歯をむき出した。それがかれの笑いのようだった。心の闇に関することならすべてを知っているグモルクは、今自分と相対しているのが、ある意味で互角のものであることを感じとったのだ。
    *    *    *    *
 グモルクが頭をもたげた。少年は一歩さがると、姿勢を正していった。
 「わたしが、そのアトレーユだ。」
 やせこけた人狼の体に、ぴくっとけいれんが走った。そしてもう一度、またもう一度、しだいにはげしさを増してけいれんした。ついで息たえだえの咳(せき)のような音がその喉からもれ、ごろごろと高まったかと思うと、ついにあたりの壁にこだまする吠え声に変わった、人狼の笑いだった!
 世にも恐ろしい響きだった。あとにも先にも、これほど身の毛のよだつ恐ろしい声を、アトレーユは聞いたことがなかった。
 そして、突如、音がやんだ。
 グモルクは死んでいた。
    (中略)
 虚無(きょむ)が、町を囲む黒い高い市壁(しへき)を音もなくつっきって、少しずつ少しずつ、とどまることなく四方から押しよせていた。

 (『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』ミヒャエル・エンデ著 佐藤真理子訳)



 探索の旅に行き詰まってしまったアトレーユ少年は、大風坊主たちの力くらべが巻き起こした突風に吹き飛ばされてしまった。
 この旅の途中で友となった「幸いの竜フッフール」(映画版ではファルコンという名に変わっている)とはぐれてしまい、「女王」から「勇者」として任命されたしるしである“アウリン”も失ってしまっていた。

 気がつくと、「妖怪の国」の誰もいない不気味な建物が並ぶ町を一人歩いていた。
 いつのまにか、少年は、自分の名前も忘れてしまっていた。世界を滅ぼそうとしている“虚無”が近づいてきていて、それを初めて見たからかもしれない。この町に住んでいた妖怪たちも、自ら“虚無”の中に入って行ったらしい。“虚無”が近づくと、その中に自らとびこみたくなるような気持ちを起こさせるのだ。それでこの妖怪の住んでいた町は、今、無人の廃墟になっているのだった。
 そこに、“咆哮”がきこえてきた。それは、絶望しきった、救いのない響きをもっていて、少年は心をひきさかれる思いがした。その声は、少しずつ低くなり、やがてかすれたすすり泣きになった。
 アトレーユである「名前のない少年」が、声のする方へいってみると、そこには鎖につながれた大きな人狼がいた。
 それは、アトレーユの探索の旅を邪魔するために闇の中から生まれてきたあの「グルモク」だった。アトレーユはその狼に追跡されていたことを知らなかったが、アトレーユと「グルモク」はこういうかたちで、ついに出会ったのだ。
 「名前のない少年」は、鎖につながれたこの人狼を憐れに思い、助けてやろうとするが、しかしその鎖はほどけるものではなかった。
 少年は鎖につながれている「グルモク」の話を聞いた。「人間世界」や「人間」について、それから、この<ファンタージエン>を滅ぼそうとしている“虚無”のことなどについて、狼は知っていることをおしえてくれた。“虚無”に飛び込むと「人間世界」に行けるのだという。しかし、そうするともう戻ってはこれないし、自分を失ってしまい、その先にどのようなむなしい運命が待っているかもすべて狼は話してくれた。
 そして、この大きな人狼が最後に語ったことは、自分の「任務」についての話だった。狼の「任務」は、「女王=幼ごころの君」に任命された「勇者」を追跡して殺してしまうことだった。そのことを「グルモク」がしゃべっているうちに、「名もなき少年」は、自分の名前と使命を思い出した!
 というより、この狼が教えてくれたのだ。狼が「そいつの名はアトレーユといったよ」と。

 「わたしが、そのアトレーユだ。」

 狼(=グルモク)はそこで突然、死んだが、その死に際、アトレーユの脚に噛みつき、離さなかった。
 そこに、親友「幸いの竜フッフール」が、アトレーユの居場所をやっと探してやってきた。「フッフール」はアトレーユが失っていたあの「勇者」のしるし“アウリン”が、海の底に光っているのを発見し、その“アウリン”がアトレーユのところまで導いてくれたのだった。
 少年はこのようにして、この“虚無”にのみこまれようとしている「妖怪の国」を、からがら脱出できたのであった。

 「グルモク」とアトレーユ少年とは、実に不思議な関係である。
 この両者は、結局一度も戦ってはいない。
 アトレーユを殺すために闇から誕生したこの「グルモク」とここで出会わなかったら、もしかするとアトレーユは、この「妖怪の国」の廃墟になった町で、名前を失ったまま、生きる目的も失って、近づく“虚無”の中に自らを投じてしまったかもしれないのだ。「グルモク」の話が少年に、自分の名前と「勇者」としての任務を思い出させた。そして、この人狼が死に際にアトレーユの脚を噛んで離さなかったから、少年は結果的に“虚無”に吸い込まれずにすんだという描写もある。
 もしかするとこの闇から生まれた「グルモク」は、アトレーユ少年を、このピンチの時に救うために生まれてきたのかもしれないと、そういう見方もできるというわけだ。



<第50譜 玉は待望の逃げ場所「9七」へ>
 

≪最終一番勝負 第51譜 指始図≫ 9七玉まで

 ▲9七玉(図)と指したところ。
 この「9七」に逃げ込んで戦うのが、8六歩と歩を突いたとき(11手前)からずっと描いていた「戦いの構図」であった。読み通りに進んできたわけではないが。

 とにかく、今、▲9七玉 と逃げたのだ。


 ここで後手の候補手は、〈A〉7六歩、〈B〉6六銀、〈C〉9五歩、〈D〉7五桂、〈E〉7七と、がある。


7六歩図
 〈A〉7六歩(図)に対しては、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めで、先手が勝てる。〈A〉7六歩の瞬間、先手玉が後手に角を渡しても詰まないから、それでこの攻めが成立する。
 〈A〉7六歩、3三歩成、同銀、5二角成に、同歩なら、3一飛と打つ(次の図)

変化7六歩図01
 これで、先手勝勢。
 1四歩なら2一飛成、1三玉、2六香で後手玉は逃げられない。
 だから図では4二銀左しかないが、2一飛成、3三玉、4五金で、先手勝ちとなる(4五金に代えて、うっかり3五金と打ってしまうと7九角~3五角成で先手逆転負け)

変化7六歩図02
 5二同歩に代えて、4二銀右としたのがこの図。
 これには、3四歩や4一馬でも先手が良いが、ここでは4一飛と打つ手を紹介しておく。
 4一飛は後手が7七歩成なら、3四歩と打って、この手が3三歩成、同銀、2一飛成以下の詰めろになっている。なので、後手は3一桂と先受けする。
 そこで、4二飛成、同銀、同馬と“決め”にいく。以下、7七歩成には、3三銀(次の図)

変化7六歩図03
 後手玉は、“詰み”である。


6六銀図
 〈B〉6六銀(図)でも、同じように攻めて、先手が勝てる。
 すなわち、「3三歩成、同銀、5二角成」である。この攻めは、先手がずっと狙っている攻めなのだ。角を渡しても先手玉が詰まないときには、この攻めが成立する場合が多い。


9五歩図
 〈C〉9五歩(図)には、今度は「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めると、同歩、3一飛、9六歩、同玉、8一桂(同竜なら6三角がある)で後手良しになる。
 (この変化の途中、9六歩に8八玉とするのは、7六桂以下先手玉が詰まされてしまう)

 だから 〈C〉9五歩 には、同歩 と応じるか、あるいは 2六香 が正解手になる(他に5四歩も有力)

変化9五歩図01
 ここでは、2六香(図)以下を見ていくことにしよう(この手が、はっきりした先手の勝ち筋に辿り着きやすいので)
 “端玉には端歩を突け”の〈3〉9五歩は、たしかに急所を攻める手で、先手からすれば怖い手ではあるが、しかしまだ先手玉は大丈夫だ。
 先手は 2六香(図)と打って、後手がこれを放っておけば―――たとえば(h)7六歩や(i)6六銀 なら、「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めて先手がやれる。
 (i)6六銀に、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、2一竜(次の図)

変化9五歩図02
 2一同玉、2三香不成、2二歩合、4一飛、3一桂合、1一金(次の図)

変化9五歩図03
 あっという間に、後手玉は詰んでしまった。

変化9五歩図04
 それなら、後手は(j)7七と(図)を選んでどうか。
 それでも、「3三歩成、同銀、5二角成」はある。以下、7五桂、4三馬、4二銀右という展開になる。
 それでも先手が良いようだが、(j)7七とには、“2五飛”のほうがより勝ちやすいように思う。
 “2五飛”以下、3一桂、5五飛と進む(次の図)

変化9五歩図05
 後手は桂を3一に使ってしまい、5五の銀も取られてしまったので、攻め駒が不足している。このコースを「先手が勝ちやすい」と述べたのはそれが理由だ。
 ここで後手は 7四銀 と、この銀を活用することになるだろう(7五銀~7六銀が狙い)
 先手は1五歩。

変化9五歩図06
 1筋を攻めるのがこの場合の好着想となる。9筋を攻められて、先手は後手に駒を渡しにくい状況になっているが、歩の攻めなら問題ない。
 7五銀に、1四歩から端攻めを決行する。1四歩は詰めろである(1三歩成、同桂、同香成、同香、3二角成、同玉、3三銀以下)
 1四同歩に、1三歩。
 これを同香なら、1二歩と打って、同玉(放置すると1一銀以下詰み)に、3二角成で、後手“受けなし”である。
 よって、1三歩を、後手は同桂と取るが、 そこで8四馬が決め手になる(次の図)

変化9五歩図07
 次に3二角成、同玉、3三銀とすれば、同銀、同歩成、同玉、3四歩以下、後手玉は詰んでいる。この詰み筋は、先手の5五飛がとてもよく働いている。
 この図で4四銀としても、やはり3二角成、同玉、3三銀、同銀引、同歩成、同銀、4一銀、同玉、5二飛成以下、詰んでいる。

 通常は1五歩から1四歩では間に合わないケースが多いのだが、この場合は、後手が9筋の攻めに一手を使ったこと、それから2五飛と打って後手に桂馬を受けのために使わせたことで後手の持駒が歩だけになり、先手玉に詰めろが掛かりにくくなっている。そうした条件がそろって、先手の1筋の攻めが間に合う将棋になっている。

変化9五歩図08
 今の手順の途中、7四銀 の手に代えて、7六桂(図)の攻めはどうか。
 7六桂 に、1五歩では今度は先手の攻めが遅く、8八桂成で、後手良しだ。
 8八桂成を許すと先手もたいへんになる。だから8九銀と受けるのは考えられるが、それよりもここは「7八歩」がセンスの良い受けになる。この手は「7八歩、同と、8五歩」が三手一組の手順で、後手の8八桂成に8六玉とかわしていこうという意味だ(8五歩に、同金、同飛、8四銀なら、8六玉で、先手勝勢)

 7六桂、7八歩、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、6四銀右、2五飛、7八と、8五歩(次の図)

変化9五歩図09
 後手が6四銀右としたのは、8五歩(図)に7五金という手を可能にするため。しかし先手は2五飛と後手の玉頭に飛車を回ってこれも有効手になっている。
 7五金には、3七桂とする。この手が、7五馬、同銀に、2三飛成、同桂、同香成、同玉、3五桂以下の、“詰み”をみている。
 それを受けて、5四銀とするが―――(次の図) 

変化9五歩図10
 しかし、ここで5二角成で、後手玉は寄っている。同歩に、2三飛成、同桂、同香成、同玉、2四金、同玉、2五金(次の図)

変化9五歩図11
 後手玉は“詰み”

変化9五歩図12
 戻って、2六香 に後手(k)3一桂(図)と受けるのは、どうか。
 これには、1五歩として、次に1四歩からの端攻めを狙えばよい。
 先ほどと違うのは、後手は5五の銀を取らせていないという点である。そのかわり、先手は飛車を手に持っている。
 以下、6六銀、1四歩、同歩、1三歩、同桂(やはり同香には1二歩がある)、1五歩、同歩、9五歩で、次の図。

変化9五歩図13
 1五同歩に、9五歩として歩を補充した。次に1四歩と打てばよい。わかりやすい攻めだ。
 図で9五同金なら、6六馬、同と、1一銀、同玉、3二角成があるので、ここは7七銀不成(次に9五金を狙う)くらいだが、1四歩、9五金(先手玉への詰めろ)、1三歩成、同香、2三香成(次の図)

変化9五歩図14
 2三香成(図)が決め手。2三同桂なら1二飛、同玉、2四桂以下“詰み”
 よって2三同玉だが、2五飛、2四歩、9五飛と玉を安全にして、先手勝勢がはっきりする。

 〈C〉9五歩 は、先手良し。


9七玉図(再掲 指始図)
 〈A〉7六歩、〈B〉6六銀、〈C〉9五歩 は、先手良しがはっきりした。
 後手は、先手に余裕を持たせないために、なるべく早く、先手玉に“詰めろ”をかけたい。
 そのためには、やはりここで〈D〉7五桂 か、〈E〉7七と が本筋の手になる。この二つの手を指せば、先手玉に“詰めろ”が掛かり、すると先手に金か香車を受けに使わせ、攻め駒を減らすことができる。
 後手の立場からみて、ここでの問題は、そのどちらの手を先に指すのが良いか、ということである。

 〈D〉7五桂 を見ていく(次の図)

7五桂図
 〈D〉7五桂(図)と〈E〉7七と との“違い”は、はっきりとある。
 〈E〉7七と の場合は、角を渡すと、7九角以下先手玉が詰まされてしまう。
 しかし、〈D〉7五桂 の場合には、この瞬間だけなら、角を渡しても先手は詰まない。
 ―――これが大きな“違い”なのだ。

 その“違い”を衝いた攻めが、(1)「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めである。この攻めは、この調査ではもう数十回と見てきた攻めである。
 5二角成に、同歩なら、3一飛で、先手良し。これは先手玉は「9七」に逃げているし、難しいところもなく、先手が勝てる。
 なので、後手は5二角成に、7七ととする。これには先手は、「4三馬」の一手になる(次の図)

変化7五桂図01(4三馬図)
 この図は、すでに“研究調査済み”の局面で、「先手良し」の結論を出している。
 どこでそれを見てきたかと言えば、第33譜である。

参考8七玉図
 この図は、今譜の指始図(9七玉図)より2手前の図で、後手の6四桂の王手に、8七玉とした場面。
 本譜は、以下6七と、9七玉と進んだのだが、「ここで後手7五桂ならどうなったか」という研究調査をしたのが、第33譜 でのことだった。
 この図から、7五桂、9七玉、7六歩、7八歩、6七とに、3三歩成、同銀、5二角成と攻めて行くと、以下7七歩成、同歩、同と、4三馬で、今回の調査研究に合流するというわけだ。

 このときの調査での結論は、「先手良し」で、その結論に、今も変更はない。
 (最新ソフトも評価値+700くらいで先手優勢としている)

 ―――ということで、〈D〉7五桂 の結論は、「先手良し」で確定である。

 ただし、第33譜での調査を補完する意味で、4三馬図からの変化を改めてもう少し研究してみよう。

変化7五桂図01(再掲 4三馬図)
 ここで最新ソフトが示す手は、[ア]7六桂である。
 以下、8九香、4二銀左、2五馬と進む。
 第33譜の研究では、そこで6六銀を調べた(以下7八歩、同と、3四金で先手勝ち)
 ここでは、8七成桂、同香、8八桂成と絡んでいく手があるので、その変化を紹介したい(次の図)

変化7五桂図02
 これには、7八金と受ける(代えて7九桂と受かるのもあるが、桂馬は攻めに使いたいので金で受けた)
 7八金はこれを同とと取らせて詰めろを解除して、3四桂で攻めて行こうという手だ。
 後手はしぶとく7六歩と応じるが、やはり3四桂が決め手になる。
 以下、3三玉に、4二桂成(次の図)

変化7五桂図03
 先手勝勢である。

変化7五桂図04
 「4三馬」に、[イ]4二銀右の変化。
 以下、5四馬、8七桂成、同馬、同と、同玉と進み、第33譜ではそこで6九角以下を調べた。
 ここでは、「6六銀以下」を見ておこう。
 6六銀には、4三歩(次の図)

変化7五桂図05
 4三同銀なら、4一飛と打つつもり。
 それでは勝ち目が少ないと見て、後手はここで攻めてくる。7六歩、7八歩、7七歩成、同歩、7六歩、同歩、6九角、7八香、7七歩(次の図)

変化7五桂図06
 厳しい攻めだが、4二歩成で先手が勝てる。同銀に、4一飛と打つ。
 以下7八角成、9八玉、7六桂(次の図)

変化7五桂図07
 7六桂で先手玉に“詰めろ”が掛かったが、ここで3四桂が予定の切り返し。
 3三玉なら4二飛成以下詰むので、後手は3四同馬とするが、これで先手玉の“詰めろ”は消えた。
 先手は4二飛成で良い(次の図)

変化7五桂図08
 わかりやすい形になった。先手勝勢である。1四歩には、3一銀、1三玉、4五金で、先手勝ち。

7五桂図(再掲)
 「7五桂図」にもう一度戻って、ここで(1)「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めて先手勝ちというのが今の研究だった。
 実はここから、他にもいくつも「先手勝ち筋」があるので、それに触れておきたい。

 一番簡単な勝ち方はここで(2)3三香という攻めである(次の図)

変化7五桂図09(3三香図)
 3三同桂なら、同歩成、同銀、5二角成で、先手勝勢。
 したがってここは後手3一銀の一択だが、その手には、5二角成で良い。
 7七となら4三馬で、これは先ほどの「変化7五桂図01(4三馬図)」に似ているが、これもまた先手優勢である。
 5二角成に同歩なら4一飛と打つ(次の図)

変化7五桂図10
 4一飛(図)と打ってみると、これで後手玉に受けがない。
 4二銀引は、同飛成、同銀、3二香成以下、後手玉詰みだし、4二角と受けても、3一飛成、同角、3二香成、同玉、4一銀以下、詰んでしまう。


7五桂図(再掲)
 (1)3三歩成(同銀、5二角成)と、(2)3三香で、この図は先手が勝てるとわかった。

 それ以外にも、この「7五桂図」から、先手に勝ち筋がある。以下の手からはじまる勝ち筋である。
    (3)8九香
    (4)2五飛
    (5)5四歩
    (6)2六香
    (7)2六飛
    (8)3七桂
    (9)3七飛

 これらの「先手勝ち筋」は、ほとんどが、これまでの「6七と図」における研究調査の蓄積がそのまま生きて、だいたいその時の研究に“合流”して、「先手良し」となるのである。

 この中からもう一つ、(3)8九香以下を最後に確認しておこう。

変化7五桂図11
 〈D〉7五桂に、(3)8九香(図)と打ったところ。
 以下、7七と。これ以外の手なら、3三歩成~5二角成の攻めが有効になる。
 そして、この図は、すでに 第39譜(〔栗〕8九香の変化)で研究した図に合流しているのである。
 7七とに、7八歩と打つのが急所の手。
 7八同となら、やはり「3三歩成、同銀、5二角成」が成立する。以下5二同歩に、3一飛と打つ。7九角には9八玉で大丈夫。
 7八歩に、7六とも、同じ攻めで良い。
 「と金」の位置をずらせばこの攻めが成立するのだ。しかしこの位置のままなら、角を渡すと7九角、9八玉に、8七桂成、同香、8八角成で詰まされてしまう。
 だから、7八歩に、後手は7六歩と抵抗する。以下7七歩、同歩成、7八歩なら、千日手コースになる。
 しかし先手は勝ち筋があるので、千日手にはしない。

変化7五桂図12
 8五歩(図)とこの歩を突いて、「勝ち筋」に乗れる。7四金なら「8六」の空間ができているので、「3三歩成、同銀、5二角成」が成立する(7九角に8六玉と逃げられる。このとき後手に7六歩を打たせていることが生きて後手7六との手がない)
 よって、8五同金だが、この場合、それでもこの「3三歩成、同銀、5二角成」を決行する。以下、5二同歩に、7五馬(桂馬を取って先手玉の詰めろを消す)が大事な手。7五同金に―――(次の図)

変化7五桂図13
 3一飛(図)
 これで先手優勢になっている。角を二枚渡してしまったが、先手玉は大丈夫。このとき、後手に「7六歩と打たせている」ことが、ここでも先手にプラスに働いているのであった(8六角、9八玉、5四角が王手にならないなど)

 このとおり、(3)8九香以下は、先手勝ちになる順がある。

7五桂図(再掲)
 つまり、〈D〉7五桂(図)に対しては、先手良しになる道が多数あり、少なくとも9つの手が先手良しに導く道になっているのである。


9七玉図(指始図)
 以上の調査研究から、先手の9七玉(図)に対し、〈A〉7六歩、〈B〉7六銀、〈C〉9五歩、〈D〉7五桂 では、後手の勝ちの目はなかったことがはっきりした。


 ということで、後手の最善手は、〈E〉7七と ということになるだろう。
 実戦は、そう進んだ。



≪最終一番勝負 第51譜 指了図≫ 7七とまで

 後手番の≪亜空間の主(ぬし)≫は、△7七と と指してきた。

 これは予想通りである。
 先手が(我々終盤探検隊が)▲9七玉 を選んだのは、後手の指し手を「この △7七と に限定させる」という意味もあったのだ。相手の攻めの手を限定させると、その先が読みやすくなるから。



第52譜につづく
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終盤探検隊 part151 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第50譜

2020年03月04日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第50譜≫ 6七とまで



    [鏡の中の少年=バスチアン]

 前をみると、わずか二十歩ほどをへだてて、つい今しがたまでは限りもなく空虚な広がりにすぎなかったところに、今や魔法の鏡の門があった。それは大きくてまんまるで、第二の月のようだった。(というのは、ほんとうの月が今もなお空高く浮かんでいたからだ。)そして磨きあげた銀のようになっていた。この金属のようなものを貫いて向こうにゆけるとは信じかねたが、アトレーユは一瞬も躊躇(ちゅうちょ)しなかった。エンギウックがはなしてくれたように、この鏡に何か自分自身のぎょっとする姿が映しだされるであろうとは考えたが、一切の怖れを捨てさってしまった今、それはとるにたらないことと思えた。
 ところが、アトレーユが見たのは、何かぎょっとする姿ではなくて、全然思いもかけない、また、理解のつかないものだった。それは顔色の悪い、太った、自分と同じ年ごろの少年だった。少年はマットの上にすわりこみ、灰色のすりきれた毛布にくるまって本を読んでいた。少年の目は大きくて、とても悲しそうだった。

 (『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』ミヒャエル・エンデ著 佐藤真理子訳)



 少年バスチアンは、古本屋で盗んだ『本』を読んでいる。
 その『本』の中に描かれている世界は<ファンタージエン(Phantasien)>と呼ばれる世界で、今、その世界が滅亡の危機に直面している。
 その“世界の滅亡の危機”の謎を探れという「女王=幼ごころの君」の命を受け、草原の狩猟民族に生まれた緑の肌を持つ10歳ほどの少年アトレーユが北へ南へと奔走しているところであった。
 アトレーユは、「南のお告げ所」へ入る「スフィンクスの大いなる謎の門」をくぐっていく。するとそこには“第2の門”があって、それが「魔法の鏡の門」であった。その「鏡」の中に何が現れるかは、そこに立ったものによって変わる。ある人の場合には、おそろしい怪物が現れたということだった。
 アトレーユ少年の場合、この「鏡」の中には、「顔色の悪い、太った、自分と同じ年ごろの少年」が映っていた。
 そして、「鏡の中の少年」は、『本』を読んでいる。

 その「鏡の中の少年=バスチアン」こそ、<ファンタージエン>の滅亡を止めるために必要な人物であった。
 だが、アトレーユは、まだこのとき、そのことを知らない。
 「鏡」の中の少年は、ただの“像”にすぎない。アトレーユは、この「鏡の門」をくぐり抜け、そして次の“第3の門”へと進む‥‥

 このようにして、アトレーユがこの探索の旅によって調べてわかったことは、この<世界>の滅亡を止めるには、この世界の中心である「女王=幼ごころの君」に“新しい名前”を授けてくれる“だれか”が必要だということだった。そして、その“だれか”は、この<ファンタージエン>のかなたにある「外国(とつくに)」に住む「人間」という種族の中の“だれか”だということもわかった。

 だから、次にアトレーユがとろうとした行動は、この<ファンタージエン>の“はて”まで行って、「外国(とつくに)」へ行く道を探すことだった。
 けれども、それぞれ東西南北の“はて”を知り尽くしている4人の大風坊主たちに聞いても、そんな道はないという。かれらはアトレーユに、こう問い返すのであった。
 「ファンタージエン国には境がないと知らないおまえはだれだ?」

 アトレーユの探索の旅は、ここで行き詰まってしまった。




<第50譜 「真実」とソフト評価値の間にある“ズレ(gap)”>

6七と図(一番勝負39手目)
 前回に示した、この図での候補手群の終盤探検隊的「勝ちやすさランキング」をもう一度示しておく。
 カッコ内の数値は、終盤探検隊による主観的感覚的評価値である。

    1. 〔橘〕3三香   (+1200)
    2. 〔栗〕8九香   (+600)
    3. 〔楓〕2五飛   (+500)
    4. 〔柳〕7八歩   (+450)
    5. 〔桃〕2六香   (+300)
    6. 〔桜〕9七玉   (+250)
    7. 〔杉〕5四歩   (+150)
    8. 〔桐〕9八玉   (+100)
    9. 〔柊〕3七桂   (+90)
    10. 〔柏〕2六飛   (+80)
    11. 〔松〕3三歩成  (+50)
    12. 〔桑〕3七飛   (+40)
    13. 〔楢〕7六歩   (+30)
    14. 〔竹〕5二角成  (+1)
    15. 〔梅〕2五香   (-40)

 この14.5個の「先手勝ち筋」が我々終盤探検隊の“戦後調査”によって発見されたのだった。



 次に、この「6七と図」について、各将棋ソフトでの次の手の候補手(上位5つ)とその評価値を、参考資料として並べてみる。

6七と図(再掲)

「激指14」
 9七玉(-49)、9八玉(-417)、3三歩成(-471)、8九香(-472)、7八歩(-570)

「Apery STD5」
 3三歩成(+475)、7八歩(+334)、9七玉(+225)、2五香(+106)、2六飛(+67)

「技巧2」
 2六香(+414)、3三歩成(+400)、9七玉(+321)、9八玉(+288)、7六歩(+277)

「市販版やねうら王2018年版」
 3三歩成(+224)、9七玉(-1)、2五香(-62)、9八玉(-143)、5四歩(-171)


「dolphin1/orqha1018」
 3三歩成(+324)、9七玉(+246)、8九香(+166)、2五香(+124)、7八歩(+74)

「dolphin1/Kristallweizen」
 9七玉(-1)、9八玉(-1)、5四歩(-1)、3三香(-76)、8九香(-121)

「dolphin1/illqha4」
 2五香(+341)、7八歩(+313)、3三歩成(+236)、8九香(+232)、5四歩(+204)

「dolphin1/水匠改」
 2五香(+135)、7八歩(+120)、9七玉(-1)、9八玉(-1)、3三香(-21)


 最後の4つのソフトが「最新・最強ソフト」になる(この4つのソフトの強さはほぼ同じ)


 こうして並べてみると、多いのは(4つ以上のソフトが挙げている手は)、「9七玉」、「9八玉」、「3三歩成」、「2五香」、「8九香」、「7八歩」である。
 どういうわけか、最終的に我々が“最も勝ちやすい手”と評価をした手 「〔橘〕3三香」を、コンピューター・ソフトは見逃す傾向がある。この「3三香の筋」をなぜか後回しにして考える傾向があるので、結果的にこの「6七と図」からの「勝ち筋」の発見が遅れてしまっているように見受けられる。
 そして、「〔梅〕2五香に過大に期待を抱いてしまう傾向」があるのは、人間もコンピューターも同じというのが、面白い。この〔梅〕2五香の手は、我々もかなり調べてみたが、結局「先手の勝ち筋」を見つけ切れず、探索を断念して「互角」と結論したのであった。
 (「激指14」は、今回は「2五香」を6番目の候補手に挙げていたのでここに出ていない。しかし場合によってはこの手が第2位に上がってくることもある)

 また、他のソフトがベスト5の中に示していない「2六香」と「7六歩」を、(この中では強さでは下から2番目の)「技巧2」だけが挙げているというところも、面白い。

〈注意〉 コンピューター・ソフトの評価値・順位は、同じ環境においても、毎回調べる都度に変わってくる。上の評価値・順位は、今回、5分ほど考慮させて(ノード数はだいたい5億くらいになる)出た結果である。



 なぜコンピューター・ソフトは「6七と図」において実際よりも「後手寄り」の評価値を出すのか ?

 いや、それはこの「6七と図」だけの話ではない。
 この「亜空間戦争最終一番勝負」においては、ほとんどの場合、ソフトは(「激指」も最新ソフト群も)、「後手寄り」の評価を出してきているのである。
 にもかかわらず、よくよく調査をしてみると、「先手の勝ち筋」が発見される。それはつまりその局面の「真実」は「先手良し」だということなのである。


 なぜか。この“ズレ(gap)”はなぜ生じるのか。
 今回は、それについて考えてみたい。



 次の2つのグラフは、実戦中に我々が相棒としたソフト「激指14」と、それから最新ソフトの代表として選んだ「dolphin1/Kristallweizen」(通称;白ビール)とによって、この「最終一番勝負」の「亜空間初形図から6七と(38手目)まで」の棋譜を解析した変動グラフである。
 (注:これらの評価値変動グラフの値は、一手一手についてほとんど時間を使っていない評価値であることを認識した上で見てほしい)


激指14 評価値の変動(平均値は-500くらい)


「dolphin1/Kristallweizen」(白ビール) 評価値の変動(平均値は-150くらい)

 全体的に、評価の値がマイナス(つまり後手寄り)になっていることがわかるだろう。

 この「最終一番勝負」のここまでの戦いは、“戦後”にその棋譜を綿密に調査すると、ほとんどの場面で先手に「勝ち筋」があることがわかっている。
 わずかに一ヵ所、先手が7三歩成と悪手を指した場面(一番勝負31手目)のみ、後手に勝ち筋がある局面になっていた。
 つまりその一局面をのぞくと、理論的には(すなわち「真実」は)、ずっと「先手良し」なのである。
 すると、ソフトの評価値はプラスでないとおかしい。それが「真実」なのだ。

 それが、ソフトの評価はそうなっていないのは、ソフトが“読みきれていない”からだ。
 しかし、読み切れていないにしても、ソフトはなぜ「どちらかといえば後手寄り」という、「真実」とは逆方向に振れる評価になっているのだろうか。



3二歩図(一番勝負34手目)
 上の「6七と図」(一番勝負39手目)より5手前の図がこの「3二歩図」になる。
 もう一つ別の例として、この図を採り上げてみる。

 この図についての、最新ソフト「dolphin1/Kristallweizen」(白ビール)と「激指14」の評価値、および候補手(1~3位)は次のようなものである。

 「dolphin1/Kristallweizen」評価値は、30秒の考慮では -354、5分の考慮でも -362 である。
   6七歩(-362)、8七玉(-367)、8九香(-438)

 「激指14」評価値は、30秒の考慮で -655(5分の考慮でも同じ)
   8七玉(-655)、6七歩(-700)、8九香(-723)

 この評価値と各候補手を見て、さらに「真実」と照らし合わせて見ると、こうした強いソフトをもって戦ったとしても、そう簡単に「正解」が見えているわけではないとわかるだろう。この図は、正しくは「先手良し」なのに、ソフトはマイナスの評価値を出している。
 「真実」は、この図では「6七歩が正解手でそれなら先手良し、それ以外では後手良し」なのである。

 この図の局面については、基本的に先手の指し手は6七歩か8七玉の“2択”である。実戦中はどちらを選ぶか我々はおおいに悩んだ。結局、それを読み切れずに6七歩を選んだ。そして“戦後調査”で、「6七歩なら先手良し、8七玉なら後手良し」がはっきりした(→第29譜
 (その2つの手以外の手では、はっきり先手が悪くなる順がある。8九香は7五桂以下先手負け。8五歩は6六と以下先手負け)
 6七歩を指した我々の“選択”は正しかったのだ! (読み切れてはおらず、偶然に近い決断ではあったが)


 そうして、ここから6七歩の正着を先手が選び、5手進むと、「6七と図」になる。
 「6七と図」に」進むと、「先手勝ち筋」は14.5個に増大し、ずいぶん先手が順調に勝ちに近づいているはずだ。「真実」はそうなのだが、まだソフトの評価は、先手に辛い。ややプラスには転じているが、「互角」の域をでない。
 ソフトは、まだ「勝ち筋」を一つも見つけていないということである。
 でも、見つけてはいないが、“あるかもしれない”とは思い始めているようである。プラスに転じたということはそういうことだ。


6七と図(再掲)
 もう一度確認するが、上で示している通り、この「6七と図」について、最新ソフト群は先手が最善手を選んでも評価値はせいぜい「+400~ゼロ」くらいしかならず、しかも先手良しの側(評価値プラス)に振れる手は数個しかない。
 (「激指」の場合にはさらに先手の評価が低くなる)
 しかし実際にしっかり調べていくと(つまり「真実」に近づいていくと)、この局面が「先手良し」であることははっきりするし、「先手勝ち」に至る手は、このように「14個」もあると判明したわけである。
 そうであるなら、この図の評価値はプラス1000以上でなければ、おかしくないか?


 なぜ、このような「ソフト評価」と「真実」とのあいだに、“開き(gap)”が生まれるのか。


 原因は、この「最終一番勝負」の将棋に関しては、次の要素があるから、というのが我々の考えである。
   1.「先手玉のほうがうすい(裸玉に近い)」
   2.「先手の持駒が多い」
   3.「先手の(盤上・持駒の)大駒が多い=四枚すべて先手のもの」

 つまり、この条件によって、「後手が先手を攻める手段がわかりやすい」ということなのである。後手には大駒がなく、持駒が少なく、そして攻略すべき先手玉は守りが薄い。それはすなわち、先手玉を寄せる手順が「わかりやすい」、ということになる。
 「わかりやすい」というのは、つまり「手が狭い(変化が少ない)」ということでもある。
 
 先手の立場は、この“逆”である。つまり、「手が広く、攻め方がわかりにくい」
 先手が後手玉を攻める順は「わかりにくい(発見しにくい)」。後手玉が先手玉よりも「堅い」からである。
 そして、「手が広い」。「手が広い」ということは、「攻めの手段が多い」ということである。
 「持駒が多い」「大駒が多い」ことは間違いなくメリットのはず。しかし、それだけ組み合わせが多く、その多い組み合わせの中から、数少ないであろう「正解」となる“黄金の組み合わせ”を見つける作業を求められているのが、この場面なのである。
 この図を丹念に調べていくと、先手には「持駒が多い(しかも大駒が一枚)」「盤上に大駒が三枚ある」ということが効力を発揮して、うまく手を組み合わせていけば、攻め切れる可能性が出てくるというわけなのだ。
 つまり、先手には、「読み切れていない勝ち筋」が眠っている可能性があるということになる(あくまで“可能性”であって、手によっては「勝ち筋」がない場合もある)
 そして実際、探してみた結果、「14.5通り」の、「眠っている勝ち筋」を発見することができた。“戦後”の調査で最新ソフトを使えたからであるが、それを使ってもその調査は、それぞれ、辿り着くまでに困難を伴う探索であった(だからこそやりがいがあって面白かったのだが)
 我々の“戦後研究”は、最新ソフトもまだつかまえていない「先手の勝ち筋」を発見する作業であったのだ。


6七と図(再掲)
 この図での先手評価値がわずかプラス300程度しかないのは、その「眠っている勝ち筋」を、コンピューターがまだ見つけていないということなのである。
 だから、時間をかければ、その「先手勝ち筋」が見つかっていく確率が高くなるのだが、それでも、“深く読む”というのはコンピューターでも難しい。“深く読む”という行為は、実は人間のほうがコンピューターよりも優れている面がある。人間は、直感を頼って、「ここはこう指すところ」というように決め打ちして深く読む。枝葉をすべて読んで行くほどの能力がないので、そうするしかないのだが、それで根性で読み進めたとえば30手先まで読んで「詰み」を見つけたりすることもある。
 ところが、コンピューターは、その“枝葉”まで拾って読むことが得意なので、20手以上の深さになると、変化が膨大になっていき、たとえ10億の局面が読めても、全然足らない。だから最新のコンピューター・ソフトであっても、15手先・20手先の局面まではきっちリ読めていても、もっとその先となると、ぼんやりとした無難な評価しか出せないというわけだ。コンピューター・ソフトは、人間ほどには指し手を限定する大胆さがないので、広く丁寧に読む分、“深く読む”という行為を、後回しにするのである。
 (詰将棋ソフトには数秒で見えている25手詰くらいの詰み筋を、将棋ソフトでは逃すことがよくあるのはこのためである)

 そういうわけで、この「6七と図」のような、「先手に持駒が多く、先手だけ盤上に大駒がある」というような状況で、ソフトの評価値が「互角」という局面なら、実は厳密には「先手勝ち」の可能性が高いのである。調べ尽くせば、「眠っている先手の勝ち筋」が掘り出されてくるからだ。

 しかし、実際の対局となると、そうはいかない。隠れている「先手の勝ち筋」がたとえあったとしても、それを具体的に発見できなければ、先手は負ける。“困難”を乗り越えなければいけないのは先手のほうであり、対して、後手の攻めにはそれほどの“困難”は伴わない。
 「後手玉のほうが堅い」ので、先手が下手に攻めると後手に持ち駒が入り、その駒で先手玉がやられてしまう(実際この「6七と図」では4一に打った角が取られてしまう可能性がある)
 逆に、後手の指し手は、先手に較べると、選択肢が少ない分、わかりやすい。だから、「先手が良い攻め筋を発見できるか」に、この勝負は掛かってくるのである。
 とはいえ、現実に、最新コンピューター・ソフトでさえまだ特定できていない「勝ち筋」を見つけ出さなければいけないのだから、先手はたいへんだ。ソフトがまだ発見していない妙手順を発見する必要があるということになるわけである。
 ということであれば、この図は、現実的には、「後手が勝ちやすい」ということにもなるのである。

6七と図(再掲)
 「6七歩図」で先手の指し手の可能性(場合の数)は199通り(盤上の駒31通り 持駒168通り)
 そしてこの図の一手前の後手の可能性(場合の数)は80通り(盤上の駒31通り 持駒48通り)
 つまり、先手の手の選択肢が、後手の「2.5倍」なのである。
 持駒の多さがこの数の違いを生み出しており、先手のほうが、指し手の組み合わせの数が圧倒的に多いことがわかる。この多い組み合わせの中から、正しい道を見つけるとなると、その“困難さ”が少しは想像できるだろう。

 また、一般に、「大駒四枚vs金銀六枚」の戦いは、「互角」であると見られている。人間同士の戦いであれば、「金銀六枚」の側が勝ちやすい場合が多いようにも思われる。
 ところが、この「6七と図」においては、「大駒四枚vs金銀七枚」なのである。ということは、その一般論に当てはめれば、この図は、後手有利であろうということになる。その上に、「玉の堅さ」は後手が優る。
 けれどもこの図の場合、持駒が先手に多いこと、後手は七枚の金銀をすべて盤上に打ち尽くしているということなどの条件があって、ギリギリの均衡を保っており、そして厳密には「先手良し」という図になっているのである。“ふつうならば先手が負けてしまう状況”なのだが、持駒と盤上の大駒をうまく組み合わせて使う妙手順を見つければ、「勝ちへの道」が開けるというわけだ。


6七と図(再掲)
 まとめると、「6七と図」は、理論的には先手にいくつもの勝ちがあり、「真実」は「先手良し」となる。
 しかし現実的には「後手が勝ちやすい局面」、ということになる。


 だから、この「亜空間最終一番勝負」の将棋については、ソフト「激指14」の評価値はだいたい「-500くらい」を示してきていたが、“現実的”には、これは正しいのである。後手の手がわかりやすく実際には勝ちやすいという意味において。
 実は、ソフトの評価値は、「真実」を示しているのではなく、「勝ちやすさ」を示している ということなのである。
 最新ソフトよりも強さで劣る「激指」では、この「亜空間戦争一番勝負」の将棋では、より後手が勝ちやすい将棋になるのだ。最新ソフトの強さがあって、やっと「互角」になる。
 つまりこの将棋を、「激指」よりも弱い実力を持つ人間同士(ほとんどの人間はそうなる)が先後をもってこの将棋を戦うなら、おそらくはもっと「後手が勝ちやすい将棋」になるのだろう。


 ちなみに、「亜空間戦争初形図」の評価値(考慮時間5分)は次のようになっている。

亜空間戦争初形図

 「激指14」 -1076
 「dolphin1/Kristallweizen」 -396

 つまり、以上のことを考慮してこの評価値をみれば、“人間的”には、この図は後手が優勢と言ってよいだろう。
 「真実」は、先手良しなのだが。



 我々(終盤探検隊)は、この「激指14」を相棒として、この将棋を闘っていた。 
 「激指14」のこのマイナス500前後の評価値を示すが、この将棋は、ほんとうは(つまり最善を尽くせば)「互角」なのであると、我々(終盤探検隊)は、このソフトを扱っているうちに感じるようになってきていた(調査の結果、「真実」は、互角以上に先手が良かったわけだが)
 だから、評価値がずっとマイナスでも、我々は勝負をあきらめることはなかった。

 なので、「6七と図」に進んで、「激指14」評価値が「-49」にまでなったとき、我々は「これは間違いなく先手が良くなった、きっと勝ち筋があるはずだ」と確信したのである(6七との2手前の後手6四桂が「悪手だったのでは?」と感じた根拠の一つはここにある)
 「玉の堅さ」を大きく評価する傾向のある「激指」が、ほぼゼロに近い評価値を出したということは、「真実」の形勢は、もう、玉のうすく持駒の多い先手の側に傾いているはずなのだ。

 そして、その「激指14」の示す、「最善手は9七玉」という選択を、我々は信用してその道を進んだのであった。


9七玉図
 最終一番勝負33手目、我々は▲9七玉(図)を選んだ。
 次回からは、ようやく、この先の棋譜を紹介することができる。



第51譜につづく
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