はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part141 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第40譜

2019年12月29日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第40譜 指始図≫


    [赤の王さま]

 近くの森でなにやら蒸気機関車のしゅっしゅっぽっぽみたいな音がきこえたんだ。ただそれがなんだか野獣の声みたいに思われてね。「ライオンか虎でもここにいるのかしら」アリスはおそるおそるきいてみた。
「赤の王さまがいびきをかいているだけさ」とソックリディー。
「まあ見に行こうや」兄弟はそういうと両側からアリスの手をとって、王さまの寝ているところへ案内していった。
「なかなかかわいいだろ?」ソックリダムがいう。
 アリスは正直な話、そうは思えなかったね。王さまは赤い房のついたとんがりナイトキャップをかぶって、ぼろの山みたいに体をまるめて、高いびきをかいている――ソックリダムにいわせれば「頭もいびきとばさんばかりの」いきおいだ。

     (『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)



 「4マスめ」で、アリスはソックリダムとソックリディーの兄弟に会う。
 そしてそこには、大いびきをかいて眠っている「赤の王さま」も。



<第40譜 深化する研究調査>


≪最終一番勝負 第40譜 指始図≫ 9七玉まで

 ≪亜空間戦争 最終一番勝負≫は、この図まで進んでいる。
 そして今、我々(終盤探検隊)は、この図を一手戻した図――次の「6七と図」を目下研究調査中である。


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 先手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 今回は、まず〔梅〕2五香についての、最新研究内容を発表する。
 そして、続いて新手〔桃〕2六香の研究を。



[調査研究:2五香] 

2五香基本図
 〔梅〕2五香(図)については、すでに、第34譜 と、第36譜 において二度にわたり、その研究内容を発表済みである。
 この「2五香基本図」から、7五桂、9七玉、7七と、9八金と進め―――(次の図)

研究2五香図01
 そこで、「6二金」と進んでこの図になる。
 7五桂と打って後手は先手に9八金と受けさせた。しかし桂を使ってしまったので、次に先手に2六飛と打たれるともぅ「2三」の地点の受けが利かない。
 だから、「6二金」(図)である。ここで2六飛は、3一玉、2三香成、4一玉と角を取られ、次に後手からの7九角が厳しい。これは先手負ける。
 なので、ここで2三香成、同玉、2五飛と攻めることになる。以下、2四歩、5五飛と進み、これは「やや先手良しか」という形勢となる。その先は変化が広くてはっきりしないし、具体的な先手の勝ち筋も見つからなかった。よって、現実的には「互角」である。
 「一番勝負」の戦闘中はそういう“読み”だった。(第34譜

研究2五香図02
 しかし、“戦後”の調査研究によって、「後手良し」の結論に変わった。(第36譜
 「6二金」ではなく、「2四歩」(図)がある。 金は5二金のままで香車を取って9五歩と後手から端攻めをするのが、すぐれた組み立てとなると判明したのだ。
 「2四歩」以下、同香、2三歩、同香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、4四銀(次の図)

研究2五香図03
 4四銀(図)として、5九飛と引かせてから、9五歩と攻める(このときに6二金型より5二金型がよい)
 これで後手優勢になる。

研究2五香図04(7八歩図)
 ということであれば、「2四歩」、同香、2三歩、同香成、同玉と進んだ時に、2五飛と打ち手に代えて、7八歩と工夫したのがこの図である。
 これも、第36譜で調査したが、その結果は「後手良し」となっていた。

 図の「7八歩」に対しては、〈a〉同とおよび〈b〉7六歩は、先手良しになる。
 しかし、〈c〉7六と、2五飛、2四歩、5五飛、9五歩、同歩、同金以下「後手勝ち」―――というのが、そのときの調査研究であった。

 ところが、我々は、この手順に“再々調査”が必要なのではないか―――と、気づいたのであった(次の図)

研究2五香図05
 いまの手順の後手9五歩(図)まで進んだところ。
 ここで前の研究では “9五同歩” だったが、その手に代えて、“5二角成” があるのではないか―――というのが、今回の新テーマだ。

研究2五香図06(5二角成図)
 この手である。 5二同歩なら、2一竜で後手玉詰みだ。
 問題は、9六歩でどうなるかだ。 9六同馬なら9五歩、6三馬、9六香と進み、これは後手優勢。
 よって、9六歩に、8八玉だが、後手は7七歩と追撃する(次の図)

研究2五香図07
 先手玉はかなり追い詰められた。ただし7七歩はまだ“詰めろ”にはなっていない。
 ここで3三歩成を利かす。 後手は同玉と取る(代えて3三同桂は3四歩が詰めろになる)
 そこで8四馬(金を入手)で勝負する。
 以下、8七香、7九玉、7八歩成、同玉、6七桂成、7九玉(次の図)

研究2五香図08
 後手7八歩は打てない(打ち歩詰めの禁じ手)。 7七歩で “詰めろ” になるが―――

研究2五香図09
 4二馬(図)。 銀を一枚補充して、金銀が四枚になった。
 同銀に、3四銀、同玉、3五歩(次の図)

研究2五香図10
 後手玉は“詰み”である(この詰みは8四馬が盤上から消えても成立する)

 つまり、〈c〉7六とは「先手良し」 になった。 結論がひっくり返った のである!!

研究2五香図11
 「7八歩」に、〈a〉7八同と、〈b〉7六歩、〈c〉7六とはすべて「先手良し」になるとわかった。
 では、〈d〉9五歩(図)はどうか。
 これに対して、7七歩があるが、以下9六歩、8八玉、9七香、8七金、9九香成の進行は、きわどいが「後手良し」になるようだ。

研究2五香図12
 なので、9五同歩(図)と先手は応じる。
 ここで攻めを続けるなら、9六歩 または 9五同金 だろう。
 9六歩 は、同玉、9四歩だが、そこで2五飛がある(次の図)

研究2五香図13
 後手は歩切れである。2四香は5五飛で、後手の攻めが続かない。
 だから3四玉と応じるが、そこで先手は8四馬がある。同銀なら、3五金、3三玉、5二角成で、先手玉は詰まず、先手勝ち。
 したがって、8四馬に2五玉と飛車を取るが、7三馬と銀を取れば、これは先手有望の図になっている。

研究2五香図14
 9五同金(図)の変化。
 これは 9六歩 と受けるが、8七桂成、同金、同と、同玉、7六金と攻めが続く。
 以下 8八玉、8六金右に、5七馬(次の図)

研究2五香図15
 5七馬(図)で、攻守が切り替わった。
 2二玉に、2五飛、2三香、2四桂、3一銀、5二角成(次の図)

研究2五香図16
 5二角成(図)のこの瞬間は、1二桂成、同玉、2三飛成以下の“詰めろ”になっている。
 5二同歩なら詰みはない。 しかし3三歩成、同玉、3五飛、3四角、4五金として、先手勝勢である。
 この変化も、先手良しになった。

研究2五香図17(3四玉図)
 だから、〈d〉9五歩、同歩のところでは、3四玉(図)とするのが後手最善手だろう。
 この局面は手が広く、実戦的には「互角」。 しかしそこで終わらず、もうすこしがんばって、この図の形勢を見極めたい。

研究2五香図18(3七桂図)
 我々(終盤探検隊)の“調査”では、どうやら「3七桂」(図)で「先手良し」だ。
 先手には5二角成と8四馬の二枚の「金の質駒」があるのが心強い。
 具体的に、調べた主な変化を示しておこう。
 まず(1)3五玉。 この手には5二角成、同歩、4五飛、3六玉、4七金(次の図)

研究2五香図19
 2七玉に、2一竜以下、先手良し。

研究2五香図20
 「3七桂図」に、(2)5六銀なら、7七歩、3五玉に、5七歩(図)で先手が良くなる。
 以下、たとえば4七銀成なら、5二角成、同歩、4五飛、3六玉、2一竜で、また5七同銀成には2六飛が絶好の手になり、いずれも先手良し。
 3六玉なら、5六歩、3七玉、8五銀(次の図)

研究2五香図21
 この8五銀は、次に8四銀、同歩、8三馬と、馬を活用する狙い。
 勝負的にはまだ紛れがあるが、大駒四枚を有している先手が優位なのは間違いないところ。

研究2五香図22
 「3七桂」に、(3)3三桂(図)の変化。
 これには3六歩。 続いて、4六銀に、4七歩、4四玉、4六歩、5五玉、7七歩、9六歩、同玉、9四歩、5七銀(次の図)

研究2五香図23
 9五歩、9七玉、9六歩、8八玉、6七桂成、3五飛(次の図)

研究2五香図24
 4五香、同桂、5七成桂、5三桂成、6六玉、5二成桂、6七成桂、7五銀、5七玉、5五飛(次の図)

研究2五香図25
 4八玉、8四銀、同銀、8三馬、7七成桂、同玉、7六銀、8八玉、7七銀打、8九玉(次の図)

研究2五香図26
 先手勝ちになった。

研究2五香図17(再掲3四玉図)
 以上のように、3四玉 と出た図はどうやら「先手良し」―――というのが、我々の調査結果である。


2五香基本図(再掲)
 さてもう一度この2五香基本図に戻って、再整理しよう。
 ここで7六歩のような攻めだと、2六飛と打って、3一桂と受けても、2三香成、同桂、2四金で、先手勝ち。
 だから後手は7五桂と打っていく攻めがベストの順になる。 以下、9七玉、7七と、9八金と進んで―――(次の図)

研究2五香図27(9八金図)
 そして、この「9八金図」で後手、後手「2四歩」以下、同香、2三歩、同香成、同玉、7八歩で、「先手良し」 ということになった。
 これまでは後手良しだったのが、評価が逆転したのである。

 そうなると、後手としては、今度はここで「6二金」を選ぶのが、“正解手”になる。

研究2五香図01(再掲6二金図)
 こちらの変化を“再調査”する必要が出てきたようだ。
 「6二金」(図)には、2三香成、同玉、2五飛しかない(3一玉とされると後手優勢になる)
 以下、2四歩、5五飛と進む(次の図)

研究2五香図28
 ここから変化はいろいろあるが、最善と思われる手順が、以下の手順である。
 6九金、3三歩成、同玉、5七飛、6七歩、7八歩、7六と、3七飛、4四玉(次の図)

研究2五香図29
 ここで3二飛成として―――
 3三桂、7七歩、同と、4六銀、5四銀、7八歩、5五銀(次の図)

研究2五香図30
 「6二金」以下、ここまでの手順の意味は、第34譜で解説している。 形勢は「やや先手良し」と見ていたが、先手が勝てるという自信もなかった。

 そしていま、この後を改めて調べてみても、「互角」としか言えないような判断の難しい局面だということが再認識されることとなった。
 変化の一例を示しておく。
 5七銀、8七と、同金、同桂成、同玉、7六金、9八玉、8六金(次の図)

研究2五香図31
 9七桂、5六香、4八銀、5八香成、8七歩、9七金、同玉、4八成香、9八玉、5二金(次の図)

研究2五香図32
 形勢不明である。
 3二飛成と飛車を成ったのなら、4二竜と銀を取れなければおもしろくないが、結局その余裕が得られなかった。

研究2五香図33
 ということで、これは、4四玉に、(3二飛成の手に代えて)6五歩とした変化。
 この手はどうだろうか。
 9五歩、同歩、同金、9六角成(次の図)

研究2五香図34
 9六角成(図)で、受かっているかどうか。
 以下、9四歩、同馬、同金、同竜、8四銀(次の図)

研究2五香図35
 これも、形勢不明。
 どこまでいっても、「先手の勝ち筋」は見えてこない。といって、逆に先手がはっきり悪くなる筋が出てきたわけでもないので、これはもう「互角」と結論するしかないようだ。
 
 この道(〔梅〕2五香)の調査は、ここで打ちきりとする。


2五香基本図(再掲)
 〔梅〕2五香は、「互角」。 これを、結論とする。




[調査研究:2六香]

 そして、新たに有力手として浮上してきたのが〔桃〕2六香である。

2六香基本図
 〔桃〕2六香 と打った。 2三の地点を狙う場合は、2五飛と打っていくことになる。
 この場合は、後手は2つの有力な指し方がある。
 1つは、先手〔梅〕2五香の場合と同じように、すぐに【P】7五桂(王手) と打っていく手。
 もう一つの手は、【Q】7六歩(7八歩に6六銀)とする指し方である。 これは桂馬を温存して攻めるという意味である。

 まず、【P】7五桂 から。 以下、9七玉、7七と、9八金と進む(次の図)

研究2六香図01(9八金図)
 【P】7五桂とすぐに攻めたのは、7七とで先に先手玉に“詰めろ”で迫り、「先手に金を使わせた」ということである。その分だけ、先手の攻めが細くなる。
 しかし、もう持駒は歩しかない。 すると、次に2五飛と打たれると2筋は受からないので、後手は困ったように見えるが、「6二金」がある(次の図)

研究2六香図02
 「6二金」(図)として、先手の2五飛に備えた。これで2五飛には、3一玉と応じ、2三飛成、4一玉、2一竜、5二玉で、次の後手7九角が厳しく、後手良しである。
 〔梅〕2五香のケースでは、6二金に、以下2三香成~2五飛と進み、形勢不明(互角)となった。ここでも2三香成とすれば、その変化に合流する。
 しかしこの場合、“3三歩成” というはっきり先手良しに導く好手がある

研究2六香図03
 ここで “3三歩成”(図)があるのが、「2五香型」との違い。「2五香」と打っている場合には、3三歩成を同桂とされて、その桂が2五香を取れる形になっているので、後手良しになる。ところが、この場合は「2六香」と一つ下に打っているため、同桂が香取りにならず、だから 3四歩と打って先手有利に働くのだ。
 なお、“3三歩成” に、同玉は8四馬、同歩、3五飛、3四角、4五金だし、3三歩成に同銀は、5一竜で先手良し。
 なので、結局、“3三歩成” は、同桂になるが、以下3四歩。

 ここで(ア)4五桂 と(イ)5四銀 を見ていこう。
 (ア)4五桂には、5二歩と指す(次の図)

研究2六香図04
 後手はここで攻めたいが、7六桂や9五歩としても、2五飛と打つ手が“詰めろ”になり、受けもないので、先手勝ち。
 なので後手は6一歩と受ける。先手は5一歩成(5一同銀なら、8四馬、同銀に、3三金で、後手玉詰み)
 後手6六銀(次に7六歩と打てば先手玉に詰めろがかかる)には、2五飛(次の図)

研究2六香図05
 2五飛(図)と打って、後手玉に先に“詰めろ”がかかり、受けもなし。先手勝ち。

研究2六香図06(6三歩図)
 (イ)5四銀(先手の3三歩成、同玉、8四馬、同歩、3五飛を先受けした手)には、6三歩(図)
 そこで後手がどう指すか。
 5三金6三同銀、それから 6五銀7六桂 が考えられる(同金7二金 は5二角成がある)
 まず 5三金 には、3三歩成、同玉、3六飛、4四玉、8四馬(次の図)

研究2六香図07
 これで先手勝ち。

研究2六香図08
 6三同銀(図)の変化。
 この場合は先に8四馬と金を取り、同銀に、3三歩成とする。これを同玉なら、3五飛、4四玉、4五金、5三玉、6五桂でぴったり詰みになる。
 なので3三歩成は同銀だが、5一竜で―――(次の図)

研究2六香図09
 先手勝勢である。

研究2六香図06(再掲6三歩図)
 「6三歩図」まで戻って、後手がここで攻めの手を指すなら、6五銀7六桂 になる。 しかし 6五銀 は、3三歩成、同玉、6二歩成で、後手玉が3五飛以下の“詰めろ”になっているので、次の後手の狙いの7六銀が間に合わず、先手勝ち。
 よって、後手は 7六桂 に期待を賭ける(次の図)

研究2六香図10
 7六桂(図)、3三歩成、同玉、6二歩成、8八桂成、3六飛(次の図)

研究2六香図11
 4四玉、3四金、5三玉、8八金、同と、6五桂(次の図)

研究2六香図12
 6四玉に、6三と、同銀、同角成、同玉、7三桂成以下、後手玉が詰んでいる。

研究2六香図13(2四歩図)
 後手7七とに先手9八金のところまで戻って、そこで、「6二金」に代えて、「2四歩」(図)という手もある。 2六香に対しての2四歩は緩い感じだが、しかしそれでも先手の2五飛打ちの攻めは消している。
 この「2四歩」には、同香、2三歩、同香成、同玉に、7八歩とすれば、上の[調査研究:2五香]で調べた変化に入り、それの研究結果は、「先手良し」だった。
 だから先手はその順を選んでもよいが、ここはもっと有力な指し方がある(次の図)

研究2六香図14
 3七桂(図)と跳ねるのが良い。 そうして、次に、5二角成(または8四馬)から金を入手すれば、2四香以下の“詰めろ”になる。
 それを先に受ける6二金があるが、その手には3三歩成、同桂、3四歩と指す(次の図)

研究2六香図15
 これで先手良し。
 3三桂と跳ねさせたので、後手の3一玉には1一飛と打てる(以下2二玉に、8四馬)
 図の3四歩に2五桂なら、4五桂として、次に3三歩成をねらえばよい。

 これで、【P】7五桂 は先手良しがはっきりした。

2六香基本図(再掲)
 「2六香基本図」に戻ろう。
 【Q】7六歩 が、後手のもう一つの有力手である。
 (〔梅〕2五香の場合にはこの7六歩はなかった。2六飛と打てば3一桂に2三香成、同桂、2四金であっさり先手勝ちが決まるから)

研究2六香図16(7六歩図)
 【Q】7六歩(図)は、桂馬を使わず攻めようという意図がある。桂馬を持っておいて、この桂を攻めと受けの両方に使う可能性を残しておく。
 7八歩に、6六銀とする。 そこで、9七玉とする(次の図)

研究2六香図17(9七玉図)
 9七玉(図)として、後手がどう攻めるか様子をみる。
 7五桂のように桂を使ってくるなら、2五飛と打って、後手に受けがないので、先手勝ちになる。
 よって、後手は桂を使わず先手玉に迫る手を指したい。すると「7八と」か、「7七歩成、同歩、同銀成」、あるいは、「7七歩成、同歩、同と」の3通りの手が考えられる。
 “正解”を先に言っておくと、「7七歩成、同歩、同銀成」が最善である。
 「7八と」は、3七桂、7七銀不成、5二角成で、先手良し。
 「7七歩成、同歩、同と」なら、 7八歩と打つのが良い(次の図)

研究2六香図18
 7八同となら、2三香成、同玉に、2六飛、2五歩、6六飛と銀を取って、先手良し。
 そして7六とは、5二角成で、先手良し(5二同歩に2三香成、同玉、2一竜)

 なので7八歩に、7六歩が有力手となる。
 先手は2五飛と打つ。 3一桂の受けに、3七桂(次の図)

研究2六香図19
 こうなって、先手優勢。
 8四馬で金を取れば、2三飛成以下の“詰めろ”になる。5二角成もある。

研究2六香図20
 先手の2五飛に、2四桂と受けた場合には、8五歩(図)がある。 7四金なら6六馬がある。
 よって後手7五金だが、同馬、同銀、同飛で、“二枚替え”。
 この時に、「7八歩、7六歩」の手交換の効果で、もしこの手交換がなかったら、ここで7九角、8六玉に、“7六と”があって、後手良しになっていた。 この場合は後手に7六歩と打たせてあるため、その“7六と”がない。
 この変化は、先手良し。
 以下、6二金に、2四香、7九角、8六玉、2四角成、3五銀(次の図)

研究2六香図21
 以下、3一玉、5二角成、同金、2四銀、同歩、7三飛成が予想されるが、先手優勢である。

研究2六香図22(7七同銀成図)
 そういうわけで、「研究2六香図17(9七玉図)」から、「7七歩成、同歩、同銀成」(図)が後手の “正解手順” となるのである。
 ここで、先手の有力手は、2五飛 である。

研究2六香図23(2五飛図)
 さて、2五飛(図)と打ったこの図は、どちらが良いのだろうか。(最新ソフト評価値は -7 を示している)
 後手は2三飛成以下の“詰めろ”を受けなければならない。 こういう時のために、温存していた「桂」がある。
 受けは3種類である。
 〔1〕3一桂、〔2〕1一桂、〔3〕2四桂 の3つ。
 (これについて調べ始めた時には先手たぶん勝ちだろうと思っていたが‥‥意外にも苦戦するのである)

研究2六香図24
 〔1〕3一桂(図)は、先手が勝てる。 先手は3七桂と桂をはねる。
 そこでたとえば後手7六桂なら、8四馬、同銀、2三飛成、同桂、同香成、同玉、3五桂(次の図)

研究2六香図25
 後手玉が、“詰み”。

研究2六香図26
 戻って、今の詰み筋を消して5四銀には、5二角成(図)がある。こちらの詰み筋もあったのだ。 
 〔1〕3一桂、3七桂 と進んだ局面では、もう後手によい手がなく、先手良しになっているようだ。

研究2六香図27
 〔2〕1一桂(図)。
 これは上の〔1〕3一桂と同じように見えるが、そうではなかった。 〔2〕1一桂は「3一」が空いているのが大きい違いとなる。
 上と同じように、3七桂とするが、そこで6二金がある(次の図)

研究2六香図28
 今度は8四馬(金を取る)には、3一玉と応じ、後手優勢になる(1一に桂を打ったので3一玉の手が可能となる)
 なので、6二金には、5二歩としてどうか。以下6一歩に、6三歩がある。以下、3一玉(次の図)

研究2六香図29
 6三歩には後手受けがないので3一玉(図)で勝負。
 以下6二歩成、同銀右、5一歩成、同銀右、6一竜(次の図)

研究2六香図30
 これは先手良しになった。

研究2六香図31
 しかしまだ、後手には “別案” がある。 先手の3七桂に、3一銀(図)という手がある。
 この手は、「4二」に空間ができたことで、後手玉が広くなっている。なので8四馬で金を入手しても、同銀で(後手玉が詰まず)後手優勢になる。
 だからここで先手は4五桂と跳ねたいところ。以下、4四銀に、そこで8四馬(後手玉は3三金以下詰めろ)とする。
 以下、4二金、7三馬、4一金と進んで、これは形勢不明(どちらかといえば後手寄り)
 4五桂で勝ちきれないなら、先手はもうだめかとも思ったが、6一竜が発見できた(次の図)

研究2六香図32
 3一銀に、6一竜(図)とする。
 「6一竜」と竜を近づけることで、8四馬、同歩に、2三飛成、同桂、同香成、同玉、3五桂、3四玉、4五金、3三玉、2三金、4二玉、5二角成、同歩、4一金までの“詰み”となる。この最後の5二角成を同玉と取らせないための、「6一竜」なのであった。
 この詰み筋を受けるには、後手5四銀(4五に利かせ5三の空間をつくった)がある。
 しかし、8四馬、同歩、3三金(次の図)

研究2六香図33
 それでも、後手玉に“詰み”があった。 3三同歩、同歩成、同玉、3四歩、4二玉、3三金以下。これは長手数になるのでその先の手順は省くが、どうやら「6一竜で先手勝ち」として良さそうである。
 後手〔2〕1一桂の受けは、苦労はしたが、なんとか撃破できた。

研究2六香図34(2四桂図)
 第3の手として、〔3〕2四桂(図)がある。
 こう桂を打って受けられてみると、先手は攻め手がわからない。
 飛車を渡す攻め(2四飛)も角を渡す攻め(5二角成や8四馬)も、先手玉がすぐ詰まされてしまうので、できない。
 8五歩がありそうだが、同金、同飛、8四銀で、後手良しになる。この筋がうまくいかないのが痛かった。
 ここは「7八歩、同と、8五歩」が最善手順のようだ。これで先手も闘える。 今度8五同金には、6六馬という活用があって、先手優勢になるという仕組みだ。
 「7八歩、同と、8五歩」に、8八と、8六金と進むことになる(次の図)

研究2六香図35
 以下は(複雑すぎて大変なので)解説抜きで、有力手順のみ示す。
 6二金、8四歩、3一玉、8五角成、8四銀、4一金、2二玉、7八歩、8五銀、同飛、9九と、6六馬、4四角(次の図)

研究2六香図36
 7七馬、8四香、5五飛、9八と、同玉、8六香、8八歩、7六桂(次の図)

研究2六香図37
 盤上の桂を活用する7六桂(図)という味のある技が飛び出した。以下、9七銀、8八桂成、同銀、同香成、同馬、8六銀と進みそうだ。こう進むと、やや後手ペースの戦いという感触。 先手はなかなか2四香という攻めの余裕がつくれない(「dolphin1/orqha1018」評価値は-258)
 途中、お互いに変化する手はあるし、形勢は「互角」とするしかないが、“感じ”としては、先手はおもしろくない戦いになっている。


2六香基本図(再掲)
  〔桃〕2六香 は 7六歩以下 形勢不明(後手寄り)



 そして、「6七歩図」の調査研究のまとめは、こうなった。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し → 互角
  〔栗〕8九香 → 先手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉
  〔桃〕2六香 → 形勢不明(後手寄り)


第41譜につづく
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終盤探検隊 part140 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第39譜

2019年12月22日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第39譜 指始図≫


    [機関車が宙に立つ]

 「きみ、ともだちだよね。親友だよね、昔からの」小さな声は言い続けている、「ぼくが虫だからって、いじめやしないよね
「どんな虫?」アリスはちょっと心配になってたずねた。ほんとは刺す虫かどうか知りたかったのだけれど、そんなことをきいては失礼だと思ってね。
え、じゃあきみは――」小さい声がいいかけたのに、そこへ機関車のけたたましい汽笛が鳴って、かき消されてしまった。お客はみんなびっくりしてとびあがったよ。アリスももちろんだ。
 馬が窓から首をつきだしてみて、そっとひっこめていうには、「なんだ、小川をひとつ、とびこすだけのことさ」これでみんな安心したみたいだったけれど、アリスとしては汽車が跳ぶなんてどういうことになるか気がもめる。「でも、それで4マス目に入れるんだから、まあ、いいか」と思いなおした。そのとたん、汽車がまっすぐ宙に立つのがわかって、アリスはこわさのあまり、手近のモノにしがみついた。なんとそれはヤギのひげだったよ。

     (『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)



 世界最初の「SL(蒸気機関車 Steam Locomotive)」は、イギリス南西部コーンウォール生まれのリチャード・トレビシックが1802年につくったものである。
 その後、有名なジョージ・スチーブンソン(スコットランド生まれ)とその息子ロバート・スチーブンソンなどを中心とする人々の仕事によって、「蒸気機関車」は実用的なものへと成っていった。 1825年に営業を開始したストックトン・アンド・ダーリントン鉄道(全長約40キロ)を最初に走ったその「SL」の名は、「ロコモーション1号」である。 そして1830年には、リバプール・アンド・マンチェスター鉄道(全長約56キロ)が開通した。
 イギリスの「蒸気機関車」の歴史はこうして、1830年頃から、本格的に実用化されはじめている。 それを追って、アメリカ、ドイツ、フランスでも、鉄道がつくられていく。(1940年代のイギリスでは、鉄道への投資熱が上がり「鉄道狂時代」と呼ばれるほどになる)
 なお、『アリス』の作者ルイス・キャロルが生まれたのは1832年。 つまり彼が子どものときに、鉄道が大発展していったわけである。
 一方、「蒸気船」もこのころに発展した。 1807年のアメリカ人ロバート・フルトン製作のハドソン川に浮かべた「蒸気船」の実験が有名である。 19世紀の間、「蒸気船」はまだ長い航海に取り入れるには効率が良くないしコストもかかるので主流にはならなかったが、それでもゆっくり確実に「蒸気船」の割合は増えていった。
 1853年に日本の浦賀にやってきたアメリカの軍艦4隻のうちの2隻が「蒸気船」であった。 そして、日本での鉄道は1872年に始まったが、このときの「蒸気機関車」の車両はイギリスから輸入されたものである。 日本のオリジナル設計の蒸気機関車の登場は大正時代(1911年~)まで待たねばならない。

 さて、「SL」の中心核である「蒸気機関」の発明と言えば、スコットランド生まれのジェームズ・ワットのそれ(1776年)が有名であるが、「蒸気機関」そのものは、ワット以前から存在する。それまでは、1712年にトーマス・ニューコメンが発明した「蒸気機関」がよく使用されていた。使用されていた場所は主に炭鉱である。炭鉱の坑道内に発生する水を汲み上げる自動ポンプとしての「蒸気機関」が必要とされていたのである。(最初に「SL」をつくったトレビシックも鉱山技師であった)
 ジェームズ・ワットの改良された新しい「ワット式蒸気機関」の自動ポンプによって、その排水能力が上がり、それによって炭鉱での仕事効率も向上した。 そうして、「石炭の時代」が訪れることとなったのである。
 そのワットの「蒸気機関」の特許の権利が1800年に終わり、そうしてリチャード・トレビシックが、炭鉱の業務をラクにするため(石炭を運ぶなど)の「蒸気機関車」を発明する流れとなるのであった。


 アリスは、「蒸気機関車」に乗って、2マス目から4マス目に進んだ。 この汽車は、上にある通り、川を飛び越えるのに「まっすぐ宙に立って」進んだのであった。 なんと大胆な機関車であろう。 「銀河鉄道999」以上のダイナミックなシーンだ。
 チェスの初形図では、「ポーン(歩兵)」の駒は2段目(2マス目)に配置されている。 そしてその位置からは「ポーン」は「2マス進んでよい」というルールがある。 これは将棋にはない、チェスの「ポーン(歩)」の特殊な性質である。
 そして、このチェスの「ポーン」という駒は、敵の駒が目の前にいるときにはもう進むことができない。 そのかわり、一歩ななめ前に敵駒がある場合には、その駒を取って、「ななめ一歩前」に進むことができるのだ。
 チェスと将棋は、似ているところがたくさんあるが、このチェスの「ポーン」の動きは、将棋にはまったくない奇妙なものである。 将棋を普段指している人がチェスをやるときに、もっとも慣れないのが「ななめに駒を取って進むポーン」というこの変な動きであろう。
 なお、このアリスの乗った「鏡の国」での「SL」の乗客は、白い紙の服をきた紳士、ヤギ、カブトムシ、蚊、馬など。 蚊は、アリスの耳元で話しかけ続けるのだが、声は小さいし姿がみえない。
 ともあれ、アリスは、赤の女王(正体は子猫のキティ)の道案内のとおりに、「汽車(SL)」に乗って、小川をとびこし、「4マス目」へと進んで行ったのであった。
 「8マス目」に行くことができれば、「白のポーン」であるアリスは「女王」に成ることができる。



<第39譜 新しい勝ち筋がまた一つ>


≪最終一番勝負 第39譜 指始図≫

 この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 すでにこのとおり、少なくとも5つの「先手の勝ち筋」が発見された(“戦後研究”での発見ではあるが)

 今回の報告では、〔栗〕8九香 と〔柿〕7九香 について、「戦後の再検討」を行う。



[調査研究:8九香]

 〔栗〕8九香について、「再調査」した。

8九香基本図
 後手6七とに対し、〔栗〕8九香(図)と打ったところ。

 ここで、【1】7五桂【2】7六歩、そして、【3】6六銀 がある。
 「【1】7五桂 なら先手良しになるが、【2】7六歩 なら後手良し」―――というのが、戦時中に下した我々の結論だった。


研究8九香図01
 【1】7五桂(図)が考えられる。
 しかしこれは手順を尽くせば、先手良しになる。
 9七玉、7七とに―――「7八歩、7六歩、8五歩」というのが、その手順である。
 「7八歩」に、7六とや7八同となら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、先手が勝てる。角を渡しても先手玉が詰まないので。(7九角には9八玉でよい)
 だから後手は「7六歩」と踏ん張るのだが、こうしておいて8五歩が好手となる。(次の図)

研究8九香図02
 8五歩(図)に、7四金なら、「3三歩成、同銀、5二角成」で、やはり先手が良くなる、7九角と打たれても、8六玉と逃げられるから。(この時に後手7六とがないのが「7八歩、7六歩」の効果である)
 したがって、先手の8五歩を後手は同金と取るが、以下3三歩成、同銀、5二角成、同歩、7五馬(次の図)

研究8九香図03
 7五馬(図)として、先手玉にかかっていた“詰めろ”を消す。この手を指すためのその前の8五歩でもあった(8筋の歩が切れたので、後手の7九角に8八歩の受けがあるのも8五歩の効果)
 7五同金に、3一飛、4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金(次の図)

研究8九香図04
 もしも「7八歩、7六歩」の手交換が入っていなかったら、8六角、9八玉、5四角(同角、同金のときに先手玉が“詰めろ”の状態になっている)があって、後手良しになっていた。
 しかし、「7八歩、7六歩」が入っているこの状態ではその筋がなく、4五金と打ったこの図は先手優勢である。
 3四角と受ける手には、2五桂(同角に2三竜、同玉、3五桂以下詰み)がある。 だから手順を尽くして7九角、8八歩、3四角が考えられるが、2五桂、同角、3七桂として、先手勝ち(3四角なら2五桂打で詰む)

研究8九香図05
 【1】7五桂 では、先手良しになった。
 しかし、【2】7六歩 図)がある。 これで「後手良し」になるというのが、戦時中の結論だった。
 後手【2】7六歩 に、「7八歩」と受けると、そこで7五桂と打たれ、以下、9七玉、7八と(次の図)

研究8九香図06
 こうなって、先手が悪い。
 以下、3三歩成、同銀、5二角成と攻めても、同歩、3一飛に、7九角(次の図)

研究8九香図07
 7九角(図)と打たれ、先手玉は詰んでいる。9八玉に、8七桂成、同玉、7七歩成以下。8八金としても、やはり8七桂成、同玉、8八と以下の詰み。

 だから「8九香は後手良し」と判断し、この手はそれ以上深堀しなかったという経緯がある。

 しかし、あらためて“戦後”に考えてみると―――【2】7六歩に、この瞬間に、3三歩成があるではないか!(次の図)

研究8九香図08
 つまり、【2】7六歩 に、7八歩と受けないで、3三歩成(図)と攻めていく―――というのが、“戦後”に発見した手段である。
 3三同銀に、5二角成、同歩、3一飛(次の図)

 先ほどのケースより、後手の攻め手が一手遅い。
 7七歩成、9七玉、7九角に、9八玉(次の図)

研究8九香図09
 この図は、先手勝ちになっている。先手の攻めのほうが一手早い。
 3四銀には4一竜がある(3一飛と打った効果)
 4二銀左は、2一飛成、3三玉、4五金で、後手“受けなし”
 後手がんばるなら1四歩だが、2一飛成、1三玉、3六桂(次の図)

 研究8九香図10
 先手勝勢である。
 3六桂(図)と打って、1二竜、同玉、1一金、1三玉、1二金打までの詰めろ。それを2二銀と防いでも、1五歩の攻めがある(1五同歩に、同香、1四歩、同香、同玉、1五金、同玉、2六金、1四玉、1二竜、1三合、1五香まで詰み)

研究8九香図11(6六銀図)
 【3】6六銀(図)ならどうなるか。
 この手は 第34譜 では、触れていない。それは、【2】7六歩 で後手良しだったので示す必要がなかったからだが、その結論が逆転したので、それなら、【3】6六銀 でどうなるかも、重要な意味をもってくる。
 しかし、結論を先に言うと、この【3】6六銀 には、「5四歩」または、「3三歩成、同銀、5二角成」で、先手が勝てる

 「5四歩」は、同銀なら、5二角成とし、以下同歩、4一飛、3一角、5三歩、6三銀、6一飛成(次に4一金を狙う)のような攻めで先手が勝てる。「5四歩」に、4四銀上や6二銀引の応手もあるが、それでも5二角成、同歩、4一飛で、先手が良い。
 「5四歩」のほうが先手勝ちやすいようには思われるが、ここはあえて「3三歩成、同銀、5二角成」のほうを紹介しておく。

研究8九香図12
 上の図(6六銀図)から、「3三歩成、同銀、5二角成」とし、以下5二同歩、3一金と進めたのがこの図である。
 「3一金」と打つのがポイントである(3一飛や4一飛ではまぎれる。こうした変化の時、3一金と打つのが良いことはすでに第35譜の〔松〕3三歩成の研究で学んでいる。3一金の手は後手の5四角~8一桂に備えている)
 〈2〉7六歩 のときには気にしなくてよかったが、〈3〉6六銀 と来た場合は、ここで 8一桂 と打つ手を気にしなければいけない。
 これは同竜と取る。 以下、5四角が「王手竜取り」である。
 9七玉に、8一角。 そこで4一飛(次の図)

研究8九香図13
 こう進んで、これは先手良し。
 以下、3四銀、8一飛成(1一角以下詰めろ)、3三玉、3六桂(次の図)

研究8九香図14
 これで後手玉は捕まっている。 2五銀なら3五金だ。
 4四歩が唯一の受けだが、4一竜、4二飛、同竜、同銀、1一角(次の図)

研究8九香図15
 後手は2二飛と受けるしかないが、それではもう後手に勝ちの目はまったくない。
 先手勝ちがはっきりした。

研究8九香図16
 それでは、先手の「3一金」に、後手が 7七と と進めた場合。 それには9八玉(図)が好手になる(9七玉でも先手が良いが9八玉のほうがより勝ちやすい)
 9八玉とした意味は、後手が1四歩から1三玉と脱走したときに、後手7九角の王手がないので、3五金と打てる―――という意味である。
 ここで5四角なら、9七玉とすればよい。以下8一桂なら、同竜、同角、4一飛と、上と同じ対応で先手良し。 これは先手が8九香と先受けしてあるのが有効に働いた変化。

 さて、9八玉としたこの図だが、後手玉には詰めろが掛かっているので放置できないが、3四銀なら、3二金、同玉、3一飛があるし、2四歩には4一竜、2三玉、3五飛で捕まる。 したがって脱出手段は1四歩の筋だけである。
 7六角、9七玉、1四歩と進めたとしよう。 以下、2一金、1三玉、3五金(次の図)

研究8九香図17
 3五金(図)と打って、これで後手玉に受けがなく、先手勝勢になっている。
 2四銀なら、2五桂、同銀、同金。
 2四歩には、どう攻めるか。 それには、3四歩が“詰めろ”となる(4四銀なら3一竜)
 受けがない後手は、8七と、同香、7五桂と攻めるが、2五桂、同歩、2三飛として―――(次の図)

研究8九香図18
 これで、後手玉 “詰み” となる。

 以上の調査の結果――――


8九香基本図(再掲)
 〔栗〕8九香 は先手良し


 結果が、ひっくりかえった。
 〔栗〕8九香 は、【2】7六歩、7八歩、7五桂、9七玉、7八と で先手負けということで、これでは勝てないと判断していたのだが、「再調査」で、それが誤りだったとわかったのである。
 7八歩と受けるのではなく、【2】7六歩 に、すぐに「3三歩成、同銀、5二角成」とすれば、先手が勝てる将棋だったのだ!!!
 しかも、これは難しいところがない。 ―――そう思うのは、第35譜 で、〔松〕3三歩成 の変化を研究した後だからかもしれないのだが。



[調査研究:7九香]

 〔柿〕7九香 も「再調査」しよう。

7九香基本図
 〔柿〕7九香 は、戦闘中は、「後手良し」という結論だったが、“ほんとうのところ” はどうだろうか。
 その内容を、しっかり確認しておこう。

研究7九香図01(7八歩図)
 7九香には、「7八歩」で、先手が悪い――――というのが、戦闘中の結論だった。
 それが正しかったかどうかを「再確認」していく。
 以下、〔R〕7八同香 には、7六歩と打つのが好手(次の図)

研究7九香図02
 この7六歩(図)で後手が良い。
 7六歩に代えて7七歩としたくなるところだが、それは、同香なら6六銀で後手良しだが、後手7七歩の瞬間に3三歩成、同銀、5二角成と攻める手段があり、これは逆に先手有望となる。

 7八香、7六歩以下、そこで3三歩成、同銀、5二角成と攻めていくと、7五桂、9七玉、7七歩成となり――(次の図)

研究7九香図03
 これでは7九に打った香車を無償で後手に献上したようなもので、こう進むなら最初から(7九香ではなく)7八歩のほうが良かったということになる。
 もう少し進めてみよう、7七同香、同と、4三馬、4二銀右、9八馬(代えて5四馬は7六歩とされ9八金に、9五歩で後手勝勢)、9五歩、同歩、9四歩(次の図)

研究7九香図04
 ここまで進めてみると、後手が「香」を持っていることが大きく影響し、先手に勝ち目はないとはっきりわかる。

研究7九香図05
 それなら、7六歩に、同香(図)と応じるのはどうか。
 以下、7六同桂、同玉、6六と、8七玉、7五桂、9七玉、7六と、7九桂、6六銀、7八歩、6九金

研究7九香図06
 後手優勢である。「香」を持っている後手の攻めには厚みがある。
 「7八歩、同香、7六歩」の図は、すでに先手に勝ち筋が期待できないことがわかるだろう。

研究7九香図01(再掲 7八歩図)
 そういうわけで、この図の「7八歩」を同香は、7六歩が好手で後手良しになる。
 とすれば、先手が7九香で勝つにはここで攻めていくしかない、ということになる。

 期待される攻めは2種類ある。
 〔S〕「3三歩成、同銀、5二角成」 の攻めと、単に 〔T〕「5二角成」 の攻めだ。

研究7九香図07(5二角成図)
 まず、〔S〕「3三歩成、同銀、5二角成」(図)から。
 ここで、5二同歩 と、7五桂 に分かれる。

 5二同歩 なら、3一金と打てば、先手が良くなる(次の図)

研究7九香図08
 3一飛でも、4一飛でも、7一飛でもなく、3一金(図)と打つのが“正解”となり、先手良しになる(4一飛や7一飛は3四銀で後手良し。3一飛は、5四角、9七玉、8一桂で後手良し)
 この3一金の筋は、〔松〕3三歩成で“戦後研究”で有力手段と認められた手で、ここでもこれが有効となる(3一金に3四銀なら3二金、同玉、3一飛以下詰みだし、2四歩には4一竜がある。 そして、5四角、9七玉、8一桂には、同竜、同角、4一飛で、先手良しになる)

 そしてこの場合、先の「7九香、7八歩」の手交換がさらに先手の有利に傾くように作用する。それは、ここで後手が1四歩とした場合に明らかになる。
 1四歩、2一金、1三玉、3五金(次の図)

研究7九香図09
 「7九香、7八歩」の手交換がない場合には、ここで7五桂、9七玉、7九角のような手で、3五金は打てなかったところだ。
 この3五金(図)に、2四銀なら、1五桂、同銀、同金がまた後手玉への“詰めろ”になっており、この図は先手勝勢だ(その場合ももし6九角が王手で打てたら後手良しになっている。)
 「7九香、7八歩」が先手に有利に働いたケース。

研究7九香図07(再掲 5二角成図)
 この図に戻って、5二同歩で後手負けということであれば、後手はここで 7五桂 と打つ手を選ぶだろう(次の図)

研究7九香図10
 以下、9七玉に、7七と(次の図)

研究7九香図11
 9八金に、そこで5二歩と手を戻して角を取る。
 今度は先の変化とは状況が変わり、3一金では、4二銀左、2一金、3三玉のときに、金がないので後手玉を寄せられない。この変化は後手良し。
 よって、先手は3一飛と打ち、以下4二銀左、2一飛成、3三玉、3五金(次の図)

研究7九香図12
 やはりここでも、後手7九角が打てないので3五金が打てた。
 4四歩に、8四馬(金を取る)。 8四同歩(同銀)なら3四金打で詰みだし、4三玉なら7五馬で先手勝勢になる。だから一見、先手勝ちに思える場面だが―――
 しかし、その瞬間、後手から攻める手段がある。
 8七桂成、同金、同玉に、7六角(次の図)

研究7九香図13
 7八玉、8七金、8九玉、6七角成、7八歩、7七歩(次の図)

研究7九香図14
 6七に成った角(馬)が「3四」に利いて、後手玉の詰めろを消している。そして先手玉には逆に“詰めろ”が掛かっている。
 3四金打、同馬、同金、3二竜が考えられるが、3三歩と打った図は、後手優勢。
 また、この図で4五桂は、4三玉で、これも後手良し。
 つまり、この「研究7九香図14」は、後手良しである。

研究7九香図01(再掲 7八歩図)
 これで、後手「7八歩」(図)に、〔S〕「3三歩成、同銀、5二角成」 と攻めていくのは、7五桂、9七玉、7七と以下、「後手良し」が結論となった。

研究7九香図15
 それなら、後手「7八歩」に、単に〔T〕「5二角成」(図)と攻めていくのはどうだろうか。
 後手は、7五桂と打つ。以下9七玉、7七と、9八金に、5二歩と手を戻し、そこでどこに飛車を打つか。

研究7九香図16
 4一飛(図)を考えてみよう。
 先手のこの攻めの狙いは、ここで後手に3一角と受けさせて、そこで5四歩のような攻めでどうかということである。それでも、やや後手良しという感じだが、ここでは8七桂成が、後手にとってより良い手順となる。
 8七桂成、同金、同と、同玉、3一金、3三歩成、同歩、6一飛成、7九歩成(次の図)

研究7九香図17
 こう進んでみると、はっきり後手優勢である。
 今の手順の途中、6一飛成に代えて、3一同飛成と飛車を切り、同銀、3二歩、同銀、3一金と攻めていくのも考えられるが、4二銀と受けて、後手勝勢である。

研究7九香図18
 それなら、6一飛(図)ではどうか。 3一角なら、今度は4一金と打つ手がある。
 しかしここで、5一角と受けるのが、後手の好手になる(次の図)

研究7九香図19
 5一角と受ける手は一見意味不明だが、3一角と受けるより勝る受けであるというのは、示されてみれば理屈付けできる。3一角だと先手から4一金の後3一金と取られたときに、同銀、同飛成が“王手”になる。しかし「5一角」なら、4一金から5一金と取って、同角、同飛成が“王手にならない”ので、そこで後手の手番になるのである。
 具体的に手順を示すと、この図から、4一金なら、7九歩成、5一金、同銀、同飛成に、8七金以下、先手玉が詰まされてしまう。

 したがって、先手はこの図から、4一金以外の攻め筋をさがす必要がある。ぼやぼやしていると、7九歩成~8九と~9九との着実な攻めがくる。
 3三歩成、同玉、7八香、同と、3七桂でどうか。
 しかし以下、9五歩、同歩、9四歩と9筋を攻められて―――(次の図)

研究7九香図20
 先手は7八香、同とを利かすことで、5一飛成と飛車を切って攻める準備をしたが、9筋を攻められてこうなってみると、先手は指す手に困っている。 9四同歩は9五香があるし、5一飛成は、同銀、同竜のときに、9六飛以下、詰まされてしまう。
 8五歩という手もある。 同金に、8六金と打つが、しかし「香」を持っているので、9六歩、同金、9五香がピッタリの返し技になり、後手の勝ち。
 「7九香」と打った手が、結局こうしてマイナスに働いてしまっている。

 どうやら先手の手段は尽きた。

7九香基本図(再掲)
 〔柿〕7九香 は「後手良し」、であることが再確認された。



6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し → 先手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し(変更なし)
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 今回の調査研究の結果(〔栗〕8九香と〔柿〕7九香の再調査)を加え、「6七と図」の評価はこのようになった。
 〔栗〕8九香が、6つめの「先手勝ち筋」となった。


第40譜につづく
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終盤探検隊 part139 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第38譜

2019年12月15日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第38譜 指始図≫


    [アリスの不思議な省略]

「『鏡の国のアリス』はチェスの駒の話ではございませんでしたでしょうか?」
「そのとおり」アヴァロンは鷹揚に言った。権威に祭り上げられて彼はすっかり気を好くしていた。「赤と白のクイーンが芯の主役でね。白のキングも科白(せりふ)があるが、赤のキングと来たら、木の下で寝ているだけだ」
「騎士(ナイト)も出てまいりますですね?」
 アヴァロンはうなずいた。「白のナイトが赤のナイトと闘って、その後アリスを最後の目(ファイナル・スクウェア)まで連れていく。二冊を通じてこの白のナイトはもっとも好ましい正確に描かれているし、アリスに対してただ一人好意的なんだ。一般的には、この白のナイトはキャロル自身だと言われているね」
「わかった、わかった」トランブルがもどかしげに言った。「で、きみは何が言いたいんだ、ヘンリー?」

     (『黒後家蜘蛛の会1 』 アイザック・アシモフ著 池央耿訳 創元推理文庫 より)



 ある男が「黒後家蜘蛛の会」に招待され、そこで自身が直面しているある “謎” について、話すことになった。
 その男は65歳で、元土木技師、生涯独身。 男には25年来仲良くしている親友がいた。週末は二人でいつも室内ゲームを楽しむゲーム友達だった。 その “親友” は、いろいろなゲームについて考えることが大好きで、チェスやカードゲームやバックギャモン、モノポリー、囲碁などさまざまな室内ゲームに精通していた。 二人で対戦し、勝つのはほとんど “親友” のほうだった。 それでも、男は、彼とのこの付き合いが楽しかったという。
 その “親友” が死んで、その“親友”は生前からその財産の一部――1万ドル――を男のために残すと言っていたのだが、実際に弁護士のもつ遺言の中にそれはしっかりと書かれていた。 ただし、その「1万ドル」はある銀行の貸金庫に納められているというが、「貸金庫の鍵」は渡してもらえなかった。 一年以内にその銀行に行って「1万ドル」を取らないと、その遺産の贈与の条項は撤回されて、そのお金は別の処分がなされることになっていると、“親友”の弁護士は言う。 その弁護士も、「鍵」がどこにあるか、聞いていないのだった。
 そして弁護士は、男に「封筒」を渡した。 それを開けると、一枚の紙に『アリスの不思議な省略』とだけ、書かれていた。
 病院で、男は、“親友” の最期を看取ったのだったが、その彼の口から出た最期の言葉も、それ――『アリスの不思議な省略』だったのだ。
 これは、彼の残した “謎解きゲーム” なのだった。 この “謎” を解けるか、勝負だ、ということだ。

 「黒後家蜘蛛の会」は、弁護士や化学者、数学者、作家など別々の職業をもつメンバー(レギュラー6名)によって構成された、女人禁制の会である。 彼らはニューヨークのあるレストランに月に1回集まって飲み食いをしながらおしゃべりをする。 ただそれだけの会合であり、それ以上の目的はない。
 しかし、おしゃべりのための“燃料”は欲しい。 だから、誰かゲストを招待する。
 おしゃべり好き、議論好き、推理好きの彼らにとって、とくに“謎解き”は、大好物であった。

 第11話が、この『アリスの不思議な省略』の回である。
 この謎を一番先に自分が解こうと、彼らは、この『アリスの不思議な省略』というメッセージの謎について、意見を交わす。
 あれこれと、議論が進んだが、その内容はルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』を中心にしたものだった。 議論は白熱するが、やがて行き詰まる。
 答え――――「鍵」の在処は、わからないまま。

 そして終盤、黙って食事の皿や飲み物を運んでいた初老の男――「給仕」のヘンリーが口を開く(これがこの小説のお決まりのパターン)
 彼は、アリスの物語は『不思議の国のアリス』だけではなく、『鏡の国のアリス』もあることを指摘する。
 そして、『鏡の国のアリス』の中には、チェスの「駒」の役割をしたいろいろなキャラクターが登場してくる。 ところが、なぜか、6種類あるチェスの駒のうちの「ある駒」だけは、『鏡の国のアリス』には登場していないのだという。
 それは「ビショップ(僧正)」だった。
 つまり、これが “不思議な省略” の答えだった。
 すると1万ドルの金庫の「鍵」は――――



<第38譜 鮮烈の3三香>


≪最終一番勝負 第38譜 指始図≫

 この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 先手良し
  〔柏〕2六飛 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 これが、ここまでの調査結果だが、今回調査する手は2つ。
 〔橘〕3三香 と、〔柏〕2六飛 を調査する。



[調査研究:3三香]

3三香基本図
 〔橘〕3三香 は、ここにきて初めて登場した手である。

 3一銀に、5二角成。
 以下、〈A〉5二同歩 には、4一飛(次の図)


研究3三香図01
 4一飛(図)と打ってみると、後手はもう受けが難しい。 4二銀引は、同飛成で無効。
 4二角の受けも先手が勝つ。 3一飛成、同角、3二香成、同玉、4一銀、2二玉、3二金(次の図)

研究3三香図02
 以下、1一玉に、2一金、同玉、3三桂、2二玉、2一金まで、後手玉“詰み”

研究3三香図03
 しかし、5四角(図)がある。 9七玉に、8一桂と打って、ここで後手の“二枚飛車”の攻めを止めるのだ。
 8一同竜、同角、同飛成、4二銀引(次の図)

研究3三香図04
 しかしここで 3二香成が好手。同玉には、2四桂があって、同歩なら4一角から、2二玉としても3二金以下詰んでしまう。
 よって、3二香成は、同銀。
 そこで5四桂(次の図)

研究3三香図05
 この 5四桂(図)が詰めろでなければ、7七と で後手有望の変化になっていたが、“5四桂は詰めろ”なのだ。 3一銀以下。
 よって、ここで後手は 7七飛 と勝負手を放つ。 8七金に、9五歩。
 以下、7七金、9六歩、9八玉(次の図)

研究3三香図06
 後手の攻めが続かない。先手勝ち。

研究3三香図07
 戻って、5四桂に、5一飛(図)と受けた場合。
 対して、7二竜でも先手が良いが、ここでは 3三歩成以下の攻め手順を紹介しておく。
 3三歩成、同桂、5一竜、同銀、6一飛(3一角以下詰めろ)、2一飛、3四歩、9五歩、3三歩成、同銀、3四歩、9六歩、9八玉、3四銀、3五歩(次の図)

研究3三香図08
 先手勝勢。 3五同銀には3四金。 4五銀なら、3七桂。

研究3三香図09
 というわけで、5二角成を、〈A〉5二同歩 では、後手の勝ちがないとわかった。
 その手に代えて、〈B〉7五桂(図)を以下、考えていく。
 〈B〉7五桂、9七玉、7七と。後手の“希望”としては、ここで9八金と先手に受けさせたい。 それなら5二歩と手を戻して、後手勝ちとなる。
 しかし、7七とに、そこで「4三馬」がある(次の図)

研究3三香図10
 「4三馬」(図)が、好手(この手は調査報告ではもう何度も出てきた筋)
 この場合、3三香が後手陣に刺さっているので、ここで7六歩などでは、3二香成、同銀、3三金以下後手玉が詰む。
 後手はここで 4二銀引が指したい手なのだが、それも、やはり 3二香成、同銀、3三金がある(次の図)

研究3三香図11
 やはりこれで後手玉が“詰み”

研究3三香図12
 というわけで、後手は先手4三馬に、8七桂成(図)からこの馬を消す手を選ぶしかない。
 以下、8七同馬、同と、同玉となる。
 そこで 4二銀引 が後手指したい手だが 4三歩があって後手悪い。 6二銀右も 5四歩、同銀、6一竜で後手悪い。
 攻めるなら 6六銀だ。 後手の持駒は「角歩三」。 角だけでは攻め切れないので、後手は盤上の駒を生かす攻めになる。
 6六銀に、先手は5一竜(次の図)

研究3三香図13
 この5一竜(図)は、3二香成、同銀、3三金、同銀、同歩成、同玉、5三竜以下の“詰めろ”になっている。
 後手は6五角。 攻防の手だ。 これで後手玉の詰みは消えた。
 以下、8八玉、7六歩に、4四桂(次の図)

研究3三香図14
 4四桂(図)が、“決め手”
 これを同銀なら、4一飛と打って、後手は受けがない(そして桂を渡しても先手玉に詰みなし)
 7七歩成、8九玉、4二銀引と受けたが、それでも詰みがある。 3二桂成、同銀、同香成、同角(同玉は2二飛、同玉、4二竜以下)、3三金(次の図) 

研究3三香図15
 3三同銀、同歩成、同玉に、4二銀以下、並べ詰め。


3三香基本図(再掲)
 結論。 〔橘〕3三香 は「先手良し」 である。

 この「勝ち筋」は、内容的にも不安なところがなく、「一番勝負」の実戦でこの手が見えていたなら、迷わずこの〔橘〕3三香 を選んだだろう。
 つまり実戦中は、この手はまったく見えていなかったのである。
 この「3三香」の筋は、調査研究ではもう何度も目にしているが、それは“戦後”の研究だからである。一度この攻め筋があるとわかれば調べるのだが゙‥‥。 実戦中にわれら終盤探検隊が使用していたソフト「激指」はこの「3三香」の筋を軽視していたようで、ほとんど候補手として示さなかったのであった。



[調査研究:2六飛]

2六飛基本図
 〔柏〕2六飛 を再調査する。
 
 対する後手の応手は、[1]7五桂 が最善手である。

 桂馬を温存してたとえば[2]7六歩(または[3]6六銀)は 2五香で先手良し。 3一桂と受けても2三香成、同桂、2四金で受けがなくなるし、2四桂と受けても2四同香、同歩、3五桂で先手勝勢。
 [4]1四桂 とここで打つのは 3六飛(次に3三香がきびしい攻め)、4四銀引、1五歩で、先手優勢。
 また[5]6二金 は、3三歩成が好手になる。 同銀なら、5一竜、4二銀右(4二銀左は3九香がある。3一桂にも3九香)、2五香、1一桂、5五竜で先手良し。 3三同玉なら、3七桂(3五香以下詰めろ)として、やはり先手優勢である。 3三同桂は、2一金、同玉、2三飛成、1一玉、8四馬で先手勝ち (この後手3三同桂に2一金からの寄せがあるのが2六飛打ちの効果の一つ)

 つまり、〔柏〕2六飛 には、[1]7五桂 が最善手で、以下9七玉、7七と と進むことになる(次の図)

研究2六飛図01
 ここで、9八金 と、8九香 とがある。
 後手としては、「7五桂、9七玉、7七と」と先に詰めろをかけることで、金か香を先手に使わせ、先手からの攻めを緩和する意味がある。
 戦闘中の検討では、次の結果となっていた。
  9八金 → 後手良し
  8九香 → 形勢不明(とくに掘り下げて調べてはいない)

 これを、「再検討」していく。 まずは 8九香 から。

研究2六飛図02(8九香図)
 8九香(図)と、香で受けた。
 2五香と打って攻めに使いたい香車を受けに使ったので、この後の方針がはっきりしない、と 第34譜 では書いている。
 しかし今なら、わかる。ここは「後手の桂馬を取って1五桂と打つ」という方針でいけばよい。
 ここで仮に先手の手番なら、7六歩か8五歩か6五金か、その3つの手が候補手となる。いずれも後手の7五桂を入手して、それを1五桂と打って攻めるという意味だ。
 実際には手番は後手にある。
 後手の有力な攻め手は、【紅】7八歩。 先手が打った8九香を取りに行く手だ。 7八歩以下、どうなるかを考えてみよう。
 【紅】7八歩 には、8五歩とこの歩を突く(次の図) 

研究2六飛図03
 8五同金ならどうなるかをまず見ておく。
 8五同金、7五馬、同金、1五桂、1四角、2五金(次の図)

研究2六飛図04
 これで、先手勝勢。 「桂馬を取って1五桂」が実現した。
 図以下、2五角、同飛、2四金は、同飛、同歩、2三金で寄り。
 図で6二金もあるが、1四金、3一玉に、6三角打で、先手の勝ちは動かない。

研究2六飛図05
 ということで、先手8五歩まで戻って、後手は7九歩成と攻め合うのが本筋の手になる。
 以下、8四歩、同銀、同馬、同歩、5二角成(次の図)

研究2六飛図06
 5二同歩なら、3三金、同歩、2一竜以下、“詰み”
 よって後手は7八角と攻めの手を指す。これは詰めろなので8六玉と逃げるが、7六とと追撃する。以下、同飛、同桂、4一馬、6四銀引、9四竜(次の図)

研究2六飛図07
 先手玉は捕まらなくなり、この図は、先手が少し良い形勢である。
 以上、見てきたように、7八歩なら、先手が良くなる。

 しかし―――――

研究2六飛図08(4四銀引図)
 8九香 に、【白】4四銀引(図)がある。 これがおそらく、8九香に対する後手の最善手と思われる。
 この手はどういう意味かというと、後手は次に3五銀を狙っているのである。先手が桂馬を入手すると1五桂が厳しい、だからその攻めが来る前に、先手の攻めの要の駒の2六飛を目標として攻めてくる、という意味の手である。
 先手は、それでもやはり 8五歩 が最善手と思われる。 8五同金ならやはり7五馬だが……、そうはならない。
 8五歩に、3五銀(次の図)

研究2六飛図09
 そして2五飛に、2四銀。 これで後手の2筋が手順に強化された。2六飛なら8五金で後手良し。
 なので先手は、5五飛と展開する。 それには後手7四金(次の図)

研究2六飛図10
 7四金(図)に代えて8五金は、7五馬があった。以下同金、同飛は先手が良い。
 7四金にも7五馬は考えられるが、同金、同飛、7九角のときに(歩で受けられないので)8八桂と受けさせられ、以下7六桂、7三飛成、8八桂成、同香、同角成、8六玉、6二金―――これはどうやら後手良し。
 ここは、調査の結果、“9四馬”がベストの手と思われる。(最新ソフトの推奨は2六歩だったがそれは後手良しになった)
 “9四馬”、9三歩、同馬、8四歩、8六玉(次の図)

研究2六飛図11
 8六玉は、9五玉からの"入玉"と、7七玉のと金取りの両狙い。
 (この8六玉を後手が未然に防ぐため、8四歩に代えて7六とが考えられるが、それは先手7七歩があって無効。 また8四歩に代えて8五金は7五馬で先手良し)
 "入玉"は許せないので、後手は8五金。
 以下、7七玉、4四銀、6五飛(代えて5九飛は7六金以下先手負けになる)、7六金、6八玉(次の図)

研究2六飛図12
 ここで5六桂も考えられるが、5九玉以下先手良し。
 よって、後手は4九金。 以下、5八玉、3九金、8三馬、6七桂成、4八玉、2九金、7三馬、6三歩、5三歩、同銀引、3三銀(次の図)

研究2六飛図13
 ここで攻めに転じる。 3三銀(図)
 3三同桂、同歩成、同銀引、3四歩(同銀なら2六桂)、4四銀左、5二角成、5七成桂、3八玉、1九金、3三桂(次の図)

研究2六飛図14
 3三同歩に、5一馬左で、先手優勢だ。
 これで、後手【白】4四銀引には、手順を尽くせば先手良しになるという結果となった。

研究2六飛図02(再掲8九香図)
 8九香(図)には、【紅】7八歩でも、【白】4四銀引でも、先手が良くなった。
 よって、8九香 で「先手良し」、を結論とする。


研究2六飛図15(9八金図)
 7七とに、9八金(図)の道も考えよう。
 この手は、実戦中の結論は「後手良し」だったが、最新ソフトを使った「再調査」ではどうなるだろうか。
 ここで「8七桂成(8七と)」で清算する手は有力だが、8七桂成、同金、同と、同玉、3五金となって―――(次の図)

研究2六飛図16
 先手の飛車が捕獲され、後手がしてやったりという感じだが、実はここで5二角成以下、先手良しになる(詳しくは 第34譜 で)
 
研究2六飛図17
 9八金 には、「6二金」(図)が後手最善手である。
 ここで先手の狙い筋の〈1〉2五香 は、3一玉で角を取りにこられて、先手不利になる。この3一玉が後手6二金のねらい。 また〈2〉3三歩成 は、同桂で難しい形勢(先手苦戦か)

 〈3〉3三香 は有力で、これは実戦中には見えなかった手(次の図)

研究2六飛図18
 〈3〉3三香(図)、同桂、同歩成、同玉、3七桂と進み―――(次の図)

研究2六飛図19
 これは形勢不明(互角)

研究2六飛図20
 戻って、「6二金」には、先手〈4〉6三歩(図)と打つのが最有力と目される手。
 対して、「7六桂」が後手の勝負手である(次の図)

研究2六飛図21
 ここで (a)「6二歩成」は、先手攻め合い負けする。 それを確認しておこう。
 (a)「6二歩成」、8八桂成、同金、同と、同玉、8七金、8九玉、7七歩、7九歩、6九金(次の図)

研究2六飛図22
 このとおり、先手負けになった。

 というわけで、後手の「7六桂」に先手は一旦受けなければいけない。

研究2六飛図23
 だから、(b)「8九香」(図)が考えられる。 しかしこれで先手は2五香を打てなくなった。
 後手は3一玉と角を取りにくる。以下、8五歩、4一玉、8四歩、7四銀(次の図)

研究2六飛図24
 こう進めてみると、どうやら「後手良し」である。 6二歩成に、7九角、8六玉、6八角成で、先手玉が逃げられない。
 この(b)「8九香」以下の変化が先手悪いとわかったので、 実戦中においては、この道は「後手良し」と判断したのだった(第34譜

 しかし、その結論を覆す、(b)「8九香」に変わる手が、“戦後調査”で、最新ソフトによって発見された!

研究2六飛図25(7九歩図)
 この(c)「7九歩」(図)が、 “新発見の手”である。
 8八桂成以下の攻めをこの歩で受けるのである。 具体的にどうなるかを見てみよう。
 〔カ〕8八桂成、同金、同と、同玉、8七金、8九玉、7七歩(先受けしてあるのでこの手が詰めろにならない)、1五桂、3一玉、6二歩成(同銀右なら5二角成)、4一玉(角を取る)、5二金、3一玉、4二金(次の図)

研究2六飛図26
 図以下、4二同銀に、2三桂不成、2二玉、1一銀で、後手玉“詰み”
 先手勝ちになった。

 というわけで、(カ)8八桂成、同金、同と、同玉、8七金 という攻めには、1五桂で先手が勝てるとわかった。

研究2六飛図27
 そこで、〔カ〕8八桂成、同金、同と、同玉に、3一玉(図)とするのはどうか。
 6二歩成、4一玉、5二金、3一玉、2三飛成(次の図)

研究2六飛図28
 こうなって、やはり先手が勝てる。
 8七金、8九玉、6七角には 7八香 と受けて先手良し(桂馬は攻めのために残しておく)
 6六角には、7七香と受ける。 以下8七金、8九玉、7七角成に、4二金、同銀、2二銀、4一玉、5三桂(次の図)

研究2六飛図29
 後手玉がピッタリ詰んだ。

研究2六飛図25(再掲7九歩図)
 〔カ〕8八桂成は、先手良しになった。
 単に〔キ〕3一玉とするのも、6二歩成、4一玉、2三飛成、6二銀右、6一竜で先手が勝ちになる。 以下5二角は、2一竜、3一銀、3三桂以下、後手玉は“詰み”である。

 他に、〔ク〕7二金、〔ケ〕7一歩、〔コ〕6六銀 が後手の候補手として考えられる。 これらの手を一つ一つ見ていこう。

研究2六飛図30
 〔ク〕7二金(図)には、2五香と打って、これも先手が良くなる(ここで香車が攻めに使えるのも7九歩で香を温存して受けたから)
 以下、3一玉に、5二角成(次の図)

研究2六飛図31
 すると、ここで後手7一歩がある。しかし後手は角を取っても、先手が7九歩を打ってあるので7九角の手がなく、その角をすぐに使う手がない。
 だからその前に8八桂成、同金、同と、同玉と先手玉を裸にして、それから7一歩と打ってどうか。
 以下、2三香成、2五歩、同飛、2四歩、同飛、5二歩、7一馬(次の図)

研究2六飛図32
 後手は角を入手できたが、7一馬(図)で、先手優勢。
 8七金、8九玉、6七角には、7八桂と受ける駒がある。 7九に打っておいた歩が有効に働いている。

研究2六飛図33
 (c)「7九歩」に、〔ケ〕7一歩(図)という手がある。
 これを 同竜 は先手おもしろくない結果になる。 すなわち、7一同竜、3一玉、6二歩成、8八桂成、同金、同と、同玉、6二銀右、6一竜、4一玉、2三飛成、5二角と進む可能性が高い(次の図)

研究2六飛図34
 ここで 9一竜、7四角、6一竜、5二角となって、千日手が濃厚の局面になる。 7二竜としても、6三角でやはり、千日手。なお、9一竜、7四角に、2一竜は、5二玉で、後手良し。

 なので、(ケ)7一歩には、6二歩成 とし、同銀右に、3三香と攻めるのが良い(次の図)

研究2六飛図35(3三香図)
 3三香(図)に、3三同桂は 8四馬、同歩に、2一金、同玉、2三飛成以下“詰み”
 よってこの図での後手の応手は、3一銀 と、3三同銀 とが考えられる。
 3一銀 には、7八歩 が好手になる(次の図)

研究2六飛図36
 7八と は、「桂馬が欲しい」という手である。 7八同と なら7六飛と桂馬を取れる(桂馬を入手して2六飛と戻り1五桂と打てば後手受けなし)
 よって後手は、8八桂成とする。 以下、同金、同と、同玉。
 しかしこれで先手には欲しかった「桂」が手に入った。 後手は、1五桂(3五桂)と先手に打たれる前に後手は攻め切りたい。
 8七金、8九玉、6七桂成、8八金(次の図)

研究2六飛図37
 これで先手玉は受かっている。
 しかし、8八金、同玉に、3五金という手がある。
 先手は 3二香成、同銀に、3三桂 と打ちこむ(次の図)

研究2六飛図38
 この手は 3二馬、同玉、4一銀以下の“詰めろ”なので、後手2六金の余裕はない。
 3三同桂に、2一金と打つ。 同銀なら2三角成、3一玉、8四馬で寄り。 同玉なら3三歩成である。
 よって後手は 3四金と応じ、2一桂成、3三玉と進む。
 そこで、4五桂が好手。 同金に、3四歩、4四玉、3二角成(次の図)

研究2六飛図39
 先手優勢。
 次に6五銀としばれば後手玉は受けなしになる。 5四玉なら3三歩成が効果的である。

研究2六飛図35(再掲3三香図)
 3三香(図)に、3三同銀 の場合はどうなるか。
 同歩成、同玉に、8二馬と馬の活用を図る(次の図)

研究2六飛図40
 これに対し、6四歩なら、8一馬と活用していく手が継続手になって、先手が良い。
 なので後手は 8二馬に、6四銀引と応じる(8一馬なら、今度は6三歩の受けがある)
 先手は3六飛。 以下3四香に、4六飛(次の図)

研究2六飛図41
 先手優勢である。
 次に3一金の寄せがある。 なので8八と、同金、同桂成、同玉、3一金が考えられるが、5五桂、4四歩、1一銀で寄っている。

研究2六飛図42
 (c)「7九歩」に、〔コ〕6六銀(図)が、意外性のある勝負手だ。
 後手の〔コ〕6六銀 のねらいは、同飛と取らせることで、先手の2筋の攻めを遅らせ、主導権を握って攻めようという意味である。
 対して先手は、2五香の攻め合いもあるかもしれないところだが、ここは 6六同飛と素直に銀を取る手を選んでみよう。
 〔コ〕6六銀、同飛、8八桂成、同金、同と、同玉、8七金、8九玉、7六歩(次の図)

研究2六飛図43
 先手の6二歩成や、2六飛~3五桂の攻めが来る前に、後手は攻め切ろうとしている。
 7六同飛、7八歩と進む。
 そこで 3三歩成(次の図)

研究2六飛図44
 3三同銀に、5一竜。 この手は詰めろではないが、「金」が入れば詰めろになる。
 後手6九金。 先手7八歩に、7七歩(次の図)

研究2六飛図45
 これには、7七同飛しかない。 以下、同金、同歩、7九飛、8八玉、1四歩。
 そこで3七香(次の図)

研究2六飛図46
 3七香(図)で、後手玉に 3二角成、同玉、3一金以下の“詰めろ”を掛けて、先手優勢。
 後手〔コ〕6六銀 の勝負手を、不発に終わらせることができた。


研究2六飛図15(再掲9八金図)
 これで、9八金 と受けた場合は、6二金、6三歩、7六桂に、(c)「7九歩」という好手があり―――

研究2六飛図25(再掲7九歩図)
 これで先手良しになるとわかった。 「香」を温存して受けることができ、その香を攻めに使うことができる。 角を渡しても7九角打ちがないし、「歩」一枚で後手のねらいを全て受けているというのが奇跡的なところだ。

 すなわち、9八金 以下「先手良し」、が明らかになった。 最初の調査から結果が逆になった.

 後手7七とに、9八金 でも、8九香 でも、先手勝ち筋があることがわかった。


2六飛基本図(再掲)
 以上の調査により、〔柏〕2六飛 は「先手良し」、と確定した。

 なお、この〔柏〕2六飛 と飛車を打ったは局面は、最新ソフト「dolphin1/orqha1018」の評価値は -328。 「激指14」の評価値は -662。 どちらのソフトも、「6七と図」での10個の候補手に、この〔柏〕2六飛 は挙げていない。
 それでも、調べていくと、「先手良し」になったわけである。
 これを我々(終盤探検隊)が調べはじめたのは、“直感”である。 〔柏〕2六飛は(勝ちの)可能性のある手だと、“感じた” からであった。



今回の調査結果を加えた「6七と図」のまとめ

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 先手良し
  〔柏〕2六飛 形勢不明 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉
  〔橘〕3三香 → 先手良し

 「6七と図」の調査結果は、このように書き替えられた。



第39譜につづく
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終盤探検隊 part138 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第37譜

2019年12月08日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第37譜 指始図≫


    [チェス人形]
 二人がチェスをしている間、ポーンはテーブルチェス盤の下でじっと聞き耳を立てていた。時折、少年のぶらぶら揺れる足に尻尾を巻きつけたり、マスターの爪先を舐めたりした。
 よし、遠慮せずにとことんまで考えてやろう、とある瞬間から少年は覚悟を決めた。
「ポーンを抱いてもいい?」
    (中略)
 マスターは少年の好きにさせた。少年はテーブルチェス盤の下に潜り込み、ポーンを抱き寄せ、チェス盤の裏側の一点に視線を集中させた。
    (中略)
「はい」
 掛け声とともに少年はテーブルの下から頭を出し、自分の白いナイトでc6のポーンを取った。今度はマスターは何も言わず、駒を元に戻しもしなかった。
 ポーンは自分の役目を心得ているかのように、テーブルチェス盤の下で、じっとされるがままになっていた。 
       (小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』より)



 後にリトル・アリョーヒンと呼ばれることになった少年は、“マスター”にチェスを習った。
 “マスター”は猫を飼っており、その猫に“ポーン”という名前をつけていた。「ポーン」は“マスター”の一番好きな駒だった(「ポーン」は将棋の「歩兵」に対応する地味な動きをする駒)
 リトル・アリョーヒンは、テーブルの下に潜って“ポーン”(猫)を抱いてとことん考えるというスタイルが身についた。 “マスター”はそれを許した。
 少年は強くなっていったが、しかし、少年の「テーブルの下に潜って考える」というスタイルはルール違反ということで、公式戦では認められなかった。つまり、正式なプロ棋士にはなれないということである。
 やがて悲しみが少年を襲う。 
 “マスター”に死がおとずれ、猫の“ポーン”は姿を消してしまった。
 そして少年は、「チェス人形」の “中の人”、としての道を歩み、美しい棋譜を残すリトル・アリョーヒンと呼ばれるものとなるのである。

 小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』は、そのような話である。
 時代設定は書かれていないが、おそらく20世紀後半の物語ということになるだろう。
 小説としては、少年と“マスター”との関係が、とても美しい物語となっている。


 ところで、現実の世界で、それよりも200年ほど昔に、「自動チェス人形」という存在があった。
 その「チェス人形」は、頭にターバンを巻いて長いキセルを持った人形で、「トルコ人(ターク)」という名前で呼ばれた。
 製作者はハンガリー人ヴォルフガング・フォン・ケンペレン。 ケンペレンはハプスブルク家女王マリア・テレジアを喜ばせるために、1770年にこの「自動チェス人形トルコ人」を制作した。
 その後、1783年に、この「トルコ人」を連れて、パリやロンドンにツアーを行い、評判を得た。 
 この「チェスを指せる人形」は、テーブルの下に人間が入って動かす“マジック”だったが、なかなかそのからくりを見破ることができなかった。
 しかもチェスの腕前も強く、だいたいの挑戦者には勝利した。 “中の人” には、テーブルの上のチェス盤の動きが磁石をつかってわかる仕組みになっており、“中の人”の操作で、「トルコ人」は機械の腕をつかって、チェスの駒を正しく運んだ。

 ケンペレンは1804年に死去し、「トルコ人」はその息子が所有していたが、それをヨハン・ネポムク・メルツェルという男が買い取った。
 このメルツェルは、音楽に使用する機械メトロノームの最初の特許所有者として名を残してもいる(ただし、本当のメトロノームの最初の発明者はまた別にいるようだ)
 「自動チェス人形トルコ人」を手に入れたメルツェルは、それを修理・改造し、1809年から約10年間、フランス、イギリス、イタリアなどをめぐるツアーを敢行した。「トルコ人」は評判を呼び、この興行は大成功となりメルツェルに富をもたらした。その後1820年代にはアメリカに渡っている。

 「トルコ人」は、1854年にその生涯を終えることになる。アメリカのある美術館が所有していたが、火事とともに消失してしまったのであった。
 その後、「トルコ人」の内部構造がそれを最後に所有していた人物らによって明らかにされた。
 「トルコ人」の、メルツェルのツアー時の “中の人” も、今では正体がわかっている。
 ウィリアム・シュルンベルジェという人物で、「トルコ人」の操作者としてのチェスの戦績は9割以上で、ほとんど負けなかった。 この「自動チェス人形トルコ人」のツアー大成功の要因として、この人物のチェスの強さは欠かせないものであろう。 “人間よりもチェスの強い機械”というものに、人々は興味をそそられたのである。 そして実際には “中の人” が指していたのであった。

 1800年頃の欧州は、「機械の大発展の時代」であった。
 1810年代の「チェス人形トルコ人」のロンドンでの興行を見た数学者チャールズ・バベッジ(当時は20代の青年)は、“考える機械”というものに、強い興味を持った。以後、「計算する機械」の作成に意欲的に取り組むこととなる。現代のコンピューターの先駆けとなるもので、バベッジが設計した蒸気機関で動くその「計算する機械(解析機関)」は、機関車の車両よりも大きなものだった。 残念ながら、その「巨大な計算する機械」の製作は実現しなかった。最終的には資金的に行き詰ったようである。



<第37譜 5四歩の研究>


≪最終一番勝負 第37譜 指始図≫

 今回も、この図を一手戻した図、「6七と図」を研究する。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 形勢不明
  〔柏〕2六飛 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 今回の、“戦後研究”は、〔杉〕5四歩 についてである。 これは再調査になる。


[調査研究:5四歩]

5四歩基本図
 〔杉〕5四歩 は、敵陣を乱す手である。
 この手は、実戦中の判断は「形勢不明」。
 ある程度読んで、先手がやれそうという感触はあったのだが、変化が多いので、読み切れなかった。 正確に言うと、読み切ることをあきらめたのであった。
 実戦中の我々の“相棒”は「激指」であったが、今は“戦後”なので、最新ソフトを使用することができる。 最新ソフトなら、実戦中はあきらめたこの〔杉〕5四歩 のその先を、“読み切る” ことができるかもしれない。

 〔杉〕5四歩 には、4通りの対応がある。
 [A]5四同銀、[B]6二銀左、[C]4四銀上、[D]7五桂の4つ。

 最も有力とみられるのが、[D]7五桂だが、[A]から順に見ていく。
 [A][B][C]については、いずれも、5二角成と攻めていって、先手良しになる。 まず、それを示していこう。

研究5四歩図01
 [A]5四同銀(図)に、5二角成と指す。
 以下、5二同歩 には、4一飛、3一角、5三歩、6三銀(次の図)

研究5四歩図02
 先手の5三歩を、同歩なら5二金で先手良し。 よって、後手は6三銀(図)と応じる。
 この手には、6一竜とすればよい。
 次に5二歩成が入れば後手は困るので、その前に攻めようと7五桂。以下、9七玉、7七と、8九香(次の図)

研究5四歩図03
 後手の攻めはもう続かない。3一角と打ってしまって攻めがなくなるのでは後手に希望がない。
 先手優勢。

研究5四歩図04
 今の手順を途中まで戻って、先手5二角成のときに、後手7五桂(図)としてどうか。
 以下、9七玉、7七と、9八金。ここは「金」で受けないといけない。8九香では、5二歩と角を取って、それが次に後手7九角からの“詰めろ”になってしまい、その変化は後手良しになる。
 つまり後手が早く7五桂以下先に詰めろで攻めていけば、先手は「金」を使って受けるしかないのだ。これによって、先手の手を限定できる。
 9八金と受けさせて、後手は5二歩と手を戻す。
 やはり先手は4一飛と打ち、後手は3一角と受ける(次の図)

研究5四歩図05
 さて、先手はどう攻めるか。
 ここでも、先ほどと同じように5三歩でよい(最新ソフトの推奨手は7八歩だが5三歩がわかりやすい)
 以下6三銀、6一竜、9五歩、5二歩成、9六歩、同玉、5二銀(次の図)

研究5四歩図06
 単純に5二同竜でもよいが、ここで“3三歩成”がよりきれいな決め手になる。
 3三同桂は、3一飛成、同銀、1一角以下、“詰み”
 3三同玉には、5二竜と銀を取る。次に3六香がきびしい。
  以下9五歩、9七玉、2二玉(代えて4四玉には4八香)、3六香(次の図)

研究5四歩図07
 3六香(図)は、3二香成、同玉、3一飛成以下の“詰めろ”で、受けもない。
 先手勝ち。

研究5四歩図08
 “3三歩成”に同歩の場合は、3二金(図)がある。
 3二同玉なら、3一飛成、同銀、5二竜、4二金(飛)、4一角以下、“詰み”
 1一玉なら詰まないが、3一飛成で先手勝ちとなる。

研究5四歩図09
 [B]6二銀左(図)にも、5二角成 でよい。
 以下、7五桂、9七玉、7七と、9八金、5二歩、4一飛と、同じように進む(次の図)

研究5四歩図10
 ここで7九角は、8八香で先手が良い(7九角を打つなら、[C]4四銀上の場合のほうが良い。その変化は後述する)
 よってここでも、3一角と受ける手を見ていく。
 先手は3三歩成を利かす。同玉(代えて同歩には5三歩成、同銀右、7一飛成で先手良し)に、6五金(次の図)

研究5四歩図11
 「6五」に金を打った(この金打ちは「後手5四銀型」だったら打てない場所だった)
 この6五金(図)は、5五の銀取りであり、しかし、5六銀なら7五金があり先手良しになる。
 両方は受からないので、後手は9五歩と攻めてくる。
 5五金、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、7一歩。
 7一歩で、後手は先手からの3九香、2二玉、3三歩の攻めに備えた。
 それなら、2六香(次の図)

研究5四歩図12
 2六香(図)と打って、次に4五金とし、3四銀~2三銀成がねらいになる。後手に適当な受けはない。
 それよりも早く後手が先手玉に迫るなら7六桂だが、4五金、8八桂成、同金、同とのときに、3四銀、2二玉、2三銀成、1一玉、2二成銀、同角、2三桂(詰み)がある。
 先手勝勢である。

研究5四歩図13
 [C]4四銀上 の場合。これも同じように進める。
 5二角成、7五桂、9七玉、7七と、9八金、5二歩、4一飛(次の図)

研究5四歩図14
 ここで 3一角7九角 の2つの応手がある。
 3一角 には、7一飛成とする(次の図)

研究5四歩図15
 銀をたすける7四銀なら、4一金で先手の攻めのほうが早い。 6六銀も遅い。
 よって後手は7六桂。
 先手は、5三歩成(詰めろ)、同歩、8九香と応じる(5筋の歩を成り捨てることで2段目に竜が行くときの変化を効果的にした)
 こう受けられると、(先手4一金よりも早そうな攻めは)後手はもう9五歩の攻めしかない。
 以下、9五歩、同歩、9六歩、同玉、9四歩、8五金(次の図)

研究5四歩図16
 こう進んで、先手優勢になっている。もう少し進めてみる。
 6四銀引、7四歩、9五歩、同金、7四金、8三馬、8七桂成、7四馬、同銀、同竜、(次の図)

研究5四歩図17
 先手玉が捕まる見込みはほとんどなく、先手優勢である。

研究5四歩図18
 戻って、先手の4一飛に 後手7九角(図)の場合。
 先手は8八香と受け、対して1四歩が後手期待の一手。
 そこで4二飛成と銀が取れるが、しかしそれは8八とで後手勝ちになる。
 だから先手は8九金と受ける(次の図) 

研究5四歩図19
 後手玉はもう1三から逃げるしかないが、そうなったときに、4四銀や7九角が後手玉の脱出をアシストしている―――というのが、この一連の手順である。
 8九金(図)に、8八と、同金寄、3五角成と進む(4六角成は1五歩で先手良し)
 そこでどう指すか。4二飛成もあるが、2一飛成、1三玉、3二竜と指すのがより早い攻めになる(次の図)

研究5四歩図20
 先手の次のねらいは、8四馬で金を取って2二金と打つこと。
 図で2四玉の早逃げは考えられる手だが、それは2一竜左と“二枚竜”で追って、先手良し。
 後手は、攻めるなら、9五歩だ。しかしそれにはやはり8四馬がピッタリの切り返しになる(9一竜が受けに利いてくる)
 9五歩、8四馬以下、3一歩、4二竜、8四銀、3三銀、同銀、同歩成、6七角、3四銀、2一香、3七桂(次の図)

研究5四歩図21
 どうやら後手玉は捕まり、先手勝勢になった。
 後手玉は次に2五桂打、2四玉、2三と、3四玉、3三竜までの“詰めろ”になっている。2五桂打を同馬と取っても、2三と、同香、2五桂、2四玉、4六角、同銀、3三竜、3五玉、2六金まで。

5四歩基本図(再掲)
 [A]5四同銀、[B]6二銀左、[C]4四銀上はいずれも“5二角成”と指して先手が良くなった。
 [D]7五桂が4番目の候補手である(次の図)

研究5四歩図22
 〔杉〕5四歩 に、[D]7五桂(図)。 この手が、最大の“強敵”だ。
 以下、9七玉、7七と と進み―――(次の図)

変化5四歩図23
 ここで、「8九香」 と、「9八金」 があり、どちらも有力で判断が難しい(どちらを選んでもたいへんな変化になる)
 ここでは、「9八金」 の道を進んでいく。

研究5四歩図24(9八金図)
 7七とに、「9八金」(図)
 ここで5四銀や6二銀左、あるいは4四銀上では、上の変化に合流する。つまり、「先手良し」である。
 なので、後手はここで「7六桂」と指す。 6四に打った桂を活用する手だ(次の図)

研究5四歩図25
 「7六桂」に、「8九香」(図)と受ける(代えて5三歩成は8八桂成で後手が勝つ)
 金と香の両方を受けに使わされたのは悔しいが、これで後手の攻めは止まった。ここで後手は手を戻すことになる。
 ここで4通りの応手がある。
 (タ)4四銀上(チ)5四銀(ツ)6四銀左上(テ)6二銀左 の4つだ。
 (タ)(チ)(ツ)は、7一飛と打って、先手が勝てる。まずその手順を紹介する。

研究5四歩図26
 (タ)4四銀上 には、7一飛と打って次に5二角成の寄せをねらう。1四歩とそれを受ければ7三飛成(銀を取る)だ。
 だから、7一飛に、6二銀右が考えられるが、それでも5二角成(図)が成立するのである。
 図以下、7一銀に、4二馬が後手玉への“詰めろ”で、先手優勢である。金と香とを投資して受けてある先手陣は飛車を渡しても詰みがない。

研究5四歩図27
 (チ)5四銀 にも、同じように7一飛(図)と打って、先手が勝てる。
 先手の2つの狙い(5二角成と7三飛成)を受けて、〈s〉6二金が考えられる受け。
 これには3三歩成(次の図)

研究5四歩図28
 3三同銀は5一飛成。 3三同桂でも、5一飛成とし、同銀、同竜で先手勝勢である。
 よって、ここは3三同玉と取る。
 この手に対しては、8五歩。 以下、7四金に、同角成、同銀、同竜、6三金、7五竜、7九角(次の図) 

研究5四歩図29
 先手は相当駒得をしたが、7九角(図)、8六玉、7四歩となって、先手の竜が詰まされた。
 以下、6六竜、同銀、同馬、4四歩、6一竜、6八角成(次の図)

研究5四歩図30
 ここで2二銀がある。同玉なら4四馬以下詰むので、4三玉とかわすが、これで後手玉が狭くなった。
 5五桂が継続手。3四玉に、5六馬で王手。
 4五歩(代えて4五銀では2五銀、同玉、4七馬以下詰む)に、3五歩(次の図)

研究5四歩図31
 3五同玉だと、3六銀、4四玉、3五金、同馬、同銀、同玉、1七角で先手勝ちになる。
 よって、3五同馬だが、そこで2六銀は逆転して、5三馬、7七玉、5五銀以下、後手良しになる。
 3五同馬に、「6三竜、同銀、2六銀」が、正解手順である(次の図)

研究5四歩図32
 「6三竜、同銀、2六銀」としたことで、5五の桂馬を後手は外せない。5五桂が「4三」を押さえている。それがこの場合大事なのである。
 図以下、5三馬、7七玉と進めば、後手玉は2五金以下“詰めろ”になっており、先手優勢である。

研究5四歩図33
 7一飛に、〈t〉6三銀(図)という手もある。
 先手の5二角成を受けた手で、3三歩成、同銀、5三歩には、6二銀があって後手良し。
 〈t〉6三銀 には、3三歩成、同銀を利かし、7三飛成と銀を取っておく(次の図)

研究5四歩図34
 後手はここで7二歩を入れる。先手は8二竜。(この「7二歩、8二竜」を入れないで6六銀は、先手の5三歩が厳しかった)
 以下、6六銀、8一竜直、6七銀不成、5三歩と進む(次の図)

研究5四歩図35
 後手のねらいは7八銀不成~8九銀不成である。
 7八銀不成に、5二歩成。これは3二角成、同玉、3一金以下、“詰めろ”になっている。よって、5二同銀 と応じる(1四歩は後述)
 これを同角成ならその瞬間後手玉は詰まないので、8九銀不成(詰めろ)で後手勝ちになる。
 だが、3一銀なら、先手が勝てるのである(次の図)

研究5四歩図36
 3一同玉に、5一竜で、後手玉は“必至”。
 銀を後手に渡したが、先手玉は詰まない。 よって、先手勝ちになっている。

研究5四歩図37
 後手が5五の銀を一直線に6七~7八と進めていくと、先手勝ちになった。
 それでは、どこかで後手が一手“1四歩”と玉の懐(ふところ)を広げる手を入れるとどうなるか。
 この図は、上の手順の 5二同銀 に代えて、1四歩 としたところ。
 これには、8五歩とする。7四金には、8六玉、8九銀不成、4二と(同銀は6三角成)で先手が良い。
 よって後手は8五同金と応じ、それには先手8六金が用意の一手(次の図)

研究5四歩図38
 この「8五歩、同金、8六金」という手順は、上部脱出を図っている。 8四歩なら、8五金、同歩、7五馬で先手良し。
 後手は7四銀として、8五金(これを同銀なら7五馬がある)に、8九銀不成とする。以下、8六玉、8七桂成、同金、同と、同玉、8五銀(次の図)

研究5四歩図39
 これが7四銀からの後手の意図。 8六歩なら、8四香、8五歩、7五金で後手良しになる。
 先手ピンチかに見えるが、大丈夫。
 3二角成、同玉、3一金、2二玉、2一金、3二玉、3一金、2二玉、1一銀(次の図)

研究5四歩図40
 1一銀(図)で、後手玉は詰んでいる。
 1一同玉は、2一金、同玉、5一竜、2二玉、3一竜、1三玉、2五桂、2四玉、3三竜以下。
 1三玉と逃げても、5七馬がある。2四歩、2五桂、2三玉、5六馬、3四銀、3五桂まで。

 これで、(チ)5四銀 も7一飛で先手良しと示された。

研究5四歩図41
 (ツ)6四銀左上
 この手にも、7一飛と打つ。
 6四銀と出た手が7三の銀とつながっているところがこれまでと違う。
 しかし先手の次の5二角成の攻めを、後手はどう備えるか。
 ここで後手3つの候補手を挙げておく。 〈1〉6二金、〈2〉6一歩、〈3〉1四歩 の3つの手。

研究5四歩図42
 〈1〉6二金(図)には、8五歩と突くのが良い。7四金ならそこで6三歩と打ち、7八と、6二歩成、8九と、5三歩成、同銀引、3三歩成、同玉、7四角成、同銀、同竜で、先手が攻め合い勝ちできる。
 なので、後手は8五歩に、3一玉で勝負する。角を取りに来た。8四歩と金を取ると4一玉で形勢ははっきりしない。
 それよりも先手は、後手の3一玉に、5三歩成、同銀引、5二歩とするのが良い。
 以下、6一歩、5一歩成、同銀、8四歩、4一玉、8三歩成(次の図)

研究5四歩図43
 先手優勢である。
 ここで8五歩が最新ソフトが示す手だが、7五馬、6四角、同馬、同銀引、2二角(次に6一飛成、同金、同竜をねらう)で、先手が勝てる。
 また図で8八桂成には、同香、同と、8六玉でやはり先手が良い。

研究5四歩図44
 〈2〉6一歩(図)という手がある。
 これを同飛成と取るのは、6二金で、後手に“一手”を稼がれて、これは後手ペースになる。同飛成と取れないようでは、7一飛は失敗にも見えるが……
 ここで7八歩 が先手の好手となる。同と と取らせて、そこで5二角成、同歩、6一飛成と攻めるのだ。
 後手は7九角と打つ(次の図)

研究5四歩図45
 7九角(図)には、8八香と受けるのが予定の受けだ(持駒の金は攻めに使う)
 これが「7八歩、同と」を利かせた効果で、もしも7七と型のままだったら8八香では8七桂成以下詰まされていた。
 そして、1四歩、2一飛成、1三玉に、1五桂が、“必殺の寄せ”(次の図)

研究5四歩図46
 この1五桂(図)があるので、7八歩から5二角成以下の綱渡りのような一連の攻めが成立した。
 この1五桂を同歩なら、1二竜、同玉、1四香以下、後手玉が詰むのだ。
 よって、後手は2四玉と逃げるが、1二竜、3四玉、3六金、1五歩、8四馬(次の図)

研究5四歩図47
 先手勝ち。

研究5四歩図48
 7一飛に、〈3〉1四歩(図) と、玉の懐(ふところ)を広げて応じた場合。
 ここで5二角成は、同歩、2一飛成、1三玉で、後手良し。
 1五歩が良さそうだ。 同歩なら、5二角成、同歩、2一飛成、1三玉に、1二竜(同玉に1四香)がある。
 しかし、そこで6一歩と受ける手がある(次の図)

研究5四歩図49
 「1四歩、1五歩」の手交換が入ることによって、今度はここで7八歩~5二角成はうまくいかない。
 この場合は、じっと「1四歩」と端を詰める手を指すのが正しい(次の図)

研究5四歩図50(1四歩図)
 ここで、6六銀9五歩 が有力手。

研究5四歩図51
 6六銀 と銀を出た手には、7八歩(図)が好手となる。
 7八同とで後手の駒を呼び込むことにもなるが、7八同との瞬間は角を渡して7九角と打たれても先手玉が詰まないので、この瞬間に攻め切ってしまうという意思を持った手である。
 7八歩、同と、5二角成、同歩、6一飛成。
 6一飛成で、後手玉は2一竜までの“詰めろ”になっている。後手7九角は、8八香で受かる。
 後手はしかたなく5一角と受けるが、先手は1三金(次の図)

研究5四歩図52
 1三同香、同歩成、同桂、1四歩、1二歩、1三歩成、同歩、2五桂(次の図)

研究5四歩図53
 受けがなくなった。1二金と受けても、5一竜、同銀、3三角から詰んでいる。

研究5四歩図54
 「1四歩」に、9五歩(図)。 これは厳しい手で、先手は正確に対応しないとやられてしまう。
 これには同歩とするのが良い(8五歩もあるが形勢不明)
 9五同歩、8八桂成、同香、9六歩、同玉、9四歩、9七玉、9五歩、5二角成(次の図)

研究5四歩図55
 このタイミングでの5二角成(図)が先手唯一の道(代えて8五歩は、8八と、同玉、6六銀で、後手良し)
 5二同歩に、8四馬が連続した好手になる(次の図)

研究5四歩図56
 8四同銀 は、6一飛成で先手良し(1三金以下の詰めろなので5一角と受けるしかない)
 なので、ここで 8八と と香を取る。同玉に、8四歩と手を戻し、6一飛成に、5一香と受ける。
 先手は2五桂(詰めろではない)
 後手は香車を受けに使い、後手は角を二枚手にしている。 その角を6八角と打つが―――(次の図)

研究5四歩図57
 5二竜(図)で、先手良し。 5二同香は、1三金から詰んでしまう。
 また、後手玉はこのままでも、3三金、同桂、同歩成、同銀、2一金、同玉、5一竜直以下の“詰めろ”になっている。その詰みを2四角打で受けても、それでも3三金以下詰んでしまう。 
 この図で考えられる手は7九角打だが、それには8九玉と逃げる。そこで5二歩と手を戻せば、後手の二枚の角が1三に利いていて、1三金以下の詰みは消えている。
 しかし、先手玉も詰めろは掛かっていないので、3三歩成、同歩、4一竜と迫って、先手の勝ちは揺るがない。
 正確に指せば、この図は「先手勝ち」である。

研究5四歩図58
 先手8四馬のところまで戻って、そこで 9六歩(図)もある。
 これを同玉と応じると、先手は負けになってしまう。それをまず確認しておこう。
 9六同玉、8四銀、6一飛成、7八角、8七桂、7四角、9七玉、9六歩(次の図)

研究5四歩図59
 9六同竜に、3四角成で後手玉にかかっていた詰めろが解除されてしまう。後手優勢。
 9六歩を、同玉と応じるとこうなってしまう。 7八角~3四角成が入ると先手たいへん。

研究5四歩図60
 9六歩には、同竜(図)が正着だ。
 後手は8四銀。次に後手から9五歩と打たれる手が厳しいが、この瞬間は駒を渡しても詰まされにくい。だから、ここで“"詰めろの連続”で後手玉にせまれば、先手が勝てる。
 6一飛成(1三金以下詰めろ)、5一角、1三歩成、同香、5一竜(3三金以下詰めろ)、同銀、1三香成、同玉、3一角(次の図)

研究5四歩図61
 2四玉、2六金、4五飛、3八香、4四角、1六桂、1四玉、3五金打(次の図)

研究5四歩図62
 次に2五金直までの一手詰。それを防ぐ2四香には、同桂、同歩、1六香、2三玉、4五金として先手勝ち。
 図では、後手1三桂もある。 その手には、6四角成で、やはり先手勝ち。

研究5四歩図63
 後手の最後の候補手 (テ)6二銀左(図)はどうなるか。(これを攻略すれば「先手良し」が確定する)
 対して先手は、「6一竜」または「6三歩」が有力のようである。 ただしどちらも変化は多い。
 「6一竜」については省略し、「6三歩」を本筋として紹介していく。

研究5四歩図64(6三歩図)
 「6三歩」(図)と打って、後手の対応を待つ。
 〔ⅰ〕6三同銀、〔j〕6三同金 があり、他に攻める手としては〔k〕9五歩 が候補になる。

 〔ⅰ〕6三同銀には、「3三歩成」だ(次の図)

研究5四歩図65(3三歩成図)
 「3三歩成」(図)は、同銀 と取るのが最善だが、同桂同玉 ではなぜダメなのかをまず見ておこう。

研究5四歩図66
 3三同桂 には、8五歩(図)だ。
 8五同金でも、7四金でも、7五馬と桂馬を取るのがねらいである。桂馬が入れば3四桂の“必殺手”がある。
 7四金、7五馬に、4五桂なら、そこで5二角成とする(次の図) 

研究5四歩図67
 5二同銀には、4二馬がある。 先手勝勢だ。

研究5四歩図68
 「3三歩成」に、3三同玉(図)の場合。
 これには、8四馬がある。金を入手。
 8四同銀に、3五飛、3四角、4五金(次の図)

研究5四歩図69
 先手勝ち。

研究5四歩図70
 というわけで、3三同銀(図)と銀で取るのが正しい。
 すると、ここで5三歩成が入る。 これを同金は5一竜で先手優勢だ。
 なので、5三歩成に、後手は9五歩。
 先手は4三と が良い手になる(5二とでは先手悪い)(次の図)

研究5四歩図71
 9六歩、同玉、9五歩、9七玉、4三金、5一竜(次の図)

研究5四歩図72
 後手玉は3二角成以下“詰めろ”。
 それを防ぐ1四歩には、6三角成。 4二銀なら、5五竜で銀を取っておく。
 はっきり先手優勢である。

研究5四歩図73
 〔j〕6三同金(図)はどうなるか。
 これには、3三歩成、同銀、4七飛がある(次の図)

研究5四歩図74(4七飛図)
 薄くなった「4三」をねらって4七飛と飛車を打つ。
 4三飛成とされては後手困るので、4四銀引。 以下、7七飛、6八桂成、8五歩、6七桂成、7六飛、7四金寄、8六玉(次の図)

研究5四歩図75
 7八成桂寄、9五玉、7七成桂寄、2六飛、8九成桂、7五歩、6四金、9四玉、7一歩、9二馬(次の図)

研究5四歩図76
 9二馬は、後手の狙っていた9一香に対応した手。
 しかしまだここで3一玉(角を取りにいく)や8八成桂引(金を取りにいく)などの手があり、たいへんなところはあるが、先手優勢はまちがいない。

研究5四歩図74(再掲4七飛図)
 4七飛と打ったこの図に戻って、ここで 8八と を見ておく。「8八と、同香」を決めておくことで、いつでも香車を取れるようにした。そうしておいて、4四銀引だ。
 8八と、同香、4四銀引、8五歩、7四金、7七歩(次の図)

研究5四歩図77
 7七歩(図)で、8八香成を催促する。先手は攻め駒が欲しいのだ。
 8八香成、同金、9五歩(同歩なら8五金で後手良し)、5五桂(次の図)

研究5四歩図78
 5五桂(図)の絶好手があった。4五香と打っても、4三桂成、4七香成、3二角成、1一玉、4四成桂で先手良しがはっきりする。
 よって5五同銀と取るが、4三飛成、3一香、3四歩、2四銀、8六玉、8四歩、9五玉(次の図)

研究5四歩図79
 玉を8六~9五とさばいて、一転して先手は"入玉"を計る。玉が8三まで侵入すればもう捕まらない。
 しかたなく後手は8二桂と打つが、これを先手は待っていた。8二同竜、同銀、同馬。
 これで攻め駒(銀桂)が手に入った。
 7三銀に、1五桂と打つ。同銀に、3三銀(次の図)

研究5四歩図80
 後手玉は寄り。3三同歩に4二竜と入り、3二桂に、3三歩成、同桂、1五歩で、先手勝勢である。

研究5四歩図64(再掲6三歩図)
 もう一度この図に戻る。 〔ⅰ〕6三同銀、および〔j〕6三同金は、先手良しになった。
 それ以外の手だとすると、後手が攻める手になる。
 攻めるとすれば、〔k〕9五歩だ(次の図) 

研究5四歩図81
 〔k〕9五歩(図)は、8八桂成、同香、同ととする手と組み合わせて「香」を手にして、それを9筋に打って攻める狙い。
 〔k〕9五歩、6二歩成、8八桂成、同香、9六歩、同玉、8八と(次の図)

研究5四歩図82
 うっかり8八同金とすると、9五香で先手負けだ。
 ここは、8五歩とする。以下、9八と、8四歩、同銀に、3二角成(次の図)

研究5四歩図83
 先手は、「6三歩」を打った時点では歩以外の持駒は「飛」のみであったが、こう進んで「飛金銀桂」と持駒が増えた。そして3二角成(図)以下、後手玉に“詰み”が生じていた。
 3二角成、同玉、4一銀、同玉、5二と、同玉、6二金、同玉、6一飛(次の図)

研究5四歩図84
 5二玉に、5三金以下、詰んでいる。先手勝ち。

 これで、(テ)6二銀左には、6三歩(または6一竜)で、先手良しが結論となった。

研究5四歩図25(再掲)
 この図は、「先手良し」が確定した。
 すなわち――――


5四歩基本図(再掲)
 この〔杉〕5四歩 は、「先手良し」が結論である。


研究5四歩図85(8九香図)
 なお、この図は、〔杉〕5四歩、7五桂、9七玉、7七とに、「8九香」 と受けた場合。(上の研究は「9八金」
 これでも「先手良し」になると、我々の調査研究では結論が出たということを書き添えておく(その内容については省略する)


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 形勢不明 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 以上の調査により、〔杉〕5四歩 は、最新ソフトによって、「先手良し」と結論付けることができた。 実戦では読み切れなかったのを、なんとか“読み切る”ことに成功したのである。(使用したソフトは主に「dolphin1/orqha1018」)



第38譜につづく
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終盤探検隊 part137 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第36譜

2019年12月01日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第36譜 指始図≫


    [銀が怒っている]

 「お前に将棋の駒にされた者の気持ちがわかるか!」
 
   (永井豪作 漫画『真夜中の戦士』より)



 漫画『真夜中の戦士』は、1974年に『週刊少年ジャンプ』誌に発表された永井豪の短編読み切り作品で、「主人公火鳥ジュンはアンドロイドだった」というオチになっている。 これが、ショッキングな結末として当時の読者の印象に残る作品となった。
 そういえばこの翌年の1975年に『週刊少年ジャンプ』で漫画家デビューした星野之宣のSF短編にも「主人公はアンドロイドだった」というオチの短編作があった。
 この時期は、こういうドラマ(実はロボットでしたというオチ)がショッキングに感じる時代だったということである。
 ちなみに、映画『ブレードランナー』(1982年)の原作小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック著)は1968年の作品である(日本語版は1969年)。 このSF小説はアンドロイドと人間の区別が難しい未来世界を描いている。
 
 そして、『真夜中の戦士』は、主人公たち戦士がアンドロイドとして作られた理由がユニークな作品である。 この戦士たちは、このアンドロイドの製作者が、「将棋の駒として戦わせると面白いんじゃないか」というお遊びでつくった舞台(戦場)の「駒(戦士)」だったのである。
 しかし、よく考えてみると、「将棋の駒」を「アンドロイド(人間風のロボット)」にしてしまうと、もはやそれは将棋とは全く別のものである。
 この漫画作品の主人公火鳥ジュンは、将棋の「銀」の役割を与えられた戦士であるが、しかし、将棋の「銀」という駒は、5つの方向に一マスだけ進める、という特徴を持つ。それ以外の動きはできない。この “不器用さ” こそが将棋のおもしろさを作っている要素である。 これを人間風の「戦士」にして、人間風の「感情」をもたせてしまえば、それはもう単なる「人間同士の戦う戦場」に似せた何かであって、「将棋」ではない。
 将棋の駒には本来、感情はない。 時々、「銀が泣いている」などと駒を擬人化して表現することもあるけれど。
 「駒」が、お前の愛が足らないから不満だ、今は動きたくない、などと棋士の命令を聞かなかったら将棋にならない。 それは別の種類のドラマにはなるが、「将棋の面白さ」は消滅してしまう。

 『鏡の国のアリス』のアリスは、「面白そう。このチェスに参加したい」と思って、自ら望み「白のポーン(歩兵)」になったのであった。 これももはや「チェス」ではないのであるが。
 しかし『鏡の国のアリス』の登場人物の愛すべき「不器用さ」は、チェスの駒のそれと重なるところがあり、それはたいへんにおもしろい。



<第36譜 戦後の研究>


≪最終一番勝負 第35譜 指了図≫ 9七玉まで

 「最終一番勝負」は、▲9七玉 まで進んでいる。


 ここで実戦の進行を止めて、一手指し手を戻った図―――「6七と図」を研究したい。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し 
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 「6七と図」の結論はいまのところ、こうなっている。
 “戦後”の調査研究の内容を解説したのは、今のところは〔松〕3三歩成だけである。 調査の結果、実戦中はわからなかった「先手の勝ち筋」が確認された(前譜参照のこと)
 
 今回調査するのは、〔梅〕2五香 と、
 それから〔竹〕5二角成 である(5二角成は実戦中には全く考慮しなかった手)




[調査研究:2五香]

 〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い) という判断だった。

2五香基本図

 そして、“戦後調査”によって、「〔梅〕2五香 でどうやって勝つか」を追って調査を重ねていくうちに、「重大な事実」が発見された。
 なんと、〔梅〕2五香 は後手良し」という、逆の結論が出た のである!

 7五桂、9七玉、7七と、9八金と進行して次の図になり―――

研究2五香図01
 この図は後手の 7七と の “詰めろ” に、先手が9八金と受けた場面。
 そこで 「6二金」 以下を調べてきた。 「6二金」、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛と進み、その結果は、「やや先手良し」という形勢判断になった。
 とはいえ、実質的にはほぼ「互角」の形勢で、だから我々はこの手選ぶことを見送ったのだった。(〔桜〕9七玉がより勝ちやすいと判断した)
 しかしこの図は「先手良し」ということを疑っていなかった。(「6二金」以下の変化は第34譜で示した)

 しかし―――それをひっくり返す手順を我々は発見することとなったのである。

 ここで、「2四歩」(図)が後手最善の一手のようである。

研究2五香図02
 「2四歩」(図)
 最新ソフトも「激指」も、「6二金」「2四歩」 とこの2つの手を示していた。
 どちらも、2三香成、同玉、2五飛という流れになるが、後手の金の位置と持ち歩の数という違いがある。それがどう影響するのかわからなかったので、実戦中は 「6二金」 のみに絞って考えていたのだった。
 わざわざ2四歩として一歩を損するより6二金のほうが本筋であろうと思い、「6二金」 以下を、この「一番勝負」を戦っている時には調べたのである。

 “戦後調査” で、「2四歩」 を調べ始めた。すると―――

 調べるうちにだんだんとその手の意味がわかってきた。 「2四歩」 は、「6二金」 にはないメリットがあるのである。(人間は理由がないときは動きが重くなるが、理由がわかると活発に動けるようになる)
 この手の意味は、後手はまず「香車がほしい」ということである。「香」を手にして、9五歩からの端攻めをねらう。
 そしてその時に、「6二金型」だと、4一の角が遠く9六や8五にまで利いてくる。 しかし、“5二金型のままで” 香車を取れば、その角の利きがないので、後手からの9五歩の攻めが厳しいという理屈なのだ。
 まとめると、「一歩を犠牲に5二金型のままで9五歩から攻める」というのが、「2四歩」 の意味なのである。

 2四同香、2三歩、同香成、同玉、2五飛。
 同じような展開になったが後手陣が「5二金型」なのが大きな違いだ。
 以下、2四歩、5五飛(次の図)

研究2五香図03
 そして、5五飛(図)に、そこで“4四銀” が継続する好手になるのだ。 この手にも、説明すれば明快にわかる理由がある。
 5五の飛車を5九に引かせたい―――ということである。

 後手のねらいは「9五歩からの端攻め」である。 しかしここですぐに9五歩と指した場合、7五飛、同金、同馬で、先手良しになる。 まずまずそれを確認しよう。
 以下、7六とに、1五桂、3四玉、9五竜(次の図)

研究2五香図04
 9五竜(図)で、竜を活用できた。これは後手の「9五歩の端攻め」を先手はうまく逆用できた形。
 こう進むと、先手優勢である(4七飛には8七銀と受けておく。先手は次に3五歩をねらう)

研究2五香図05
 だから、“4四銀”(図)である。
 これはつまり、先手の5五飛を、5九飛と引かせて、そこで「9五歩」のつもりである。
 ここで7五飛、同金、同馬もあるが、それは、今度は後手7六ととなったとき、先手に思わしい手がないのではっきり後手良しとなる。
 よって、5九飛、9五歩と後手の思惑どおりに進む。 9五同歩に、9四歩(次の図)

研究2五香図06
 端攻めが厳しい。
 7八歩、9五歩、7七歩、9六香、8八玉、9八香成、同香、8七金、7九玉、6七桂成(次の図)

研究2五香図07
 6七桂成がこの場合は正着手で、6七桂不成だと6九玉で先手良し。
 6八金の受けに、7七金(8八金にも7七金でよい)
 以下、同金、同成桂、6八金、6七金、同金、同成桂(次の図)

研究2五香図08
 後手の攻めがほどけない。 6八金は、7八歩(同金は7七歩)、8八玉、7六桂、8七玉、6八桂成で寄っている。
 先手負けになった。 「まさか…」の結果だった。


2五香基本図12
 こうして、評価が裏返り、〔梅〕2五香 は後手良し」が結論となった。


 先手がこの手〔梅〕2五香 を選ばなかったのは、正しかったということである。 選んだらこの勝負を負けにしていた可能性もあるわけだ。

 それにしても、我々が直感で「先手に勝ちがありそう」と思い、ソフトも“有力”と判断していたこの〔梅〕2五香で、逆に「後手良し」が確かになるというのは、思いもよらない、驚きの結果だった。



[追加調査:5二角成]

 次は、〔竹〕5二角成 の調査。

5二角成基本図
 「3三歩成、同銀」を入れないで、“単に5二角成” なら、どうなるのか。
 これが次の研究テーマである。

 戦闘中に我々が相棒としていた「激指」は、10個の候補手の中にこの手を入れていなかったこともあって、その時はまったく “単に5二角成” は読まなかった。
 “戦後”になった今でも、最新ソフト(「dolphin1/orqha1018」)もこの〔竹〕5二角成 は候補手として示さない。
 ということであれば、おそらく5二角成では勝てないのであろう―――と思ったが、それなら、どういう手順で後手が良しになるのか、それをはっきり見極めたいと思い、調べてみることにした。

 調べていくと、実は、〔竹〕5二角成 は、相当に有力だったことが明らかになっていくのである。

 〔竹〕5二角成 に、後手の応手は、(あ)5二同歩 と、(い)7五桂 とがある。
 まず (あ)5二同歩 だが、そこで4一飛や7一飛は、5一桂と受けられて後手良し。
 しかし、「3三歩成」がある―――(次の図)

研究5二角成図01
 3三同銀は、前譜で調査した〔松〕3三歩成(同銀、5二角成、同歩)に合流する。すなわち「3一金以下先手良し」である。
 それ以外の応手はどうなるか。
 3三歩成(図)に、同歩は、4一飛、3一桂、3二歩(同玉なら4二飛成以下詰み)で、先手良し。
 3三同桂は2一金までの一手詰。

 なので、3三同玉でどうなるかを調べておこう。

研究5二角成図02
 3三同玉には3五飛(図)。
 3四桂合なら4五金で先手勝勢になるが、2二玉で、まだわからない。最新ソフトも「互角」を示している。
 以下、3九香、3三桂打、3四歩、4四銀引、3三歩成、同歩、3七飛(次の図)

研究5二角成図03
 ここで後手の手が難しいが、たとえば7八角、9八玉、7六歩のような手だと、4一竜、3一銀、3四歩、同歩、2六桂で先手勝勢になる。
 だからこの図では、3一銀が後手最善手とみる。次に4二銀引と強化もできる。
 対して先手は、1五桂と打つ(次の図)

研究5二角成図04
 この1五桂(図)は、8四馬、同銀に、2三桂成、同玉、2四金、同玉、3四金(詰み)という寄せをねらっている。 持駒の少ない後手は、この受けが難しい。
 こう進んでみると、どうやら「先手良し」に傾いてきたようである。
 7八角、9八玉、6六と。 2三に角を利かせて受ける。
 先手は4一金と打ち、4二銀引に、3二歩、同玉、6一竜(次の図)

研究5二角成図05
 6一竜(図)を発見できれば、もう先手の勝ちはあと一歩というところまできた。
 次に3一金、同銀、5二竜、4二金、4一銀、2二玉、4二竜以下、後手玉は詰む。
 9六角成とすればその詰みは受けられるが、その場合は2三桂成、同玉、4二金で先手勝ち。

 よって、後手5三銀引が考えられる(3一金、同銀、5二竜、4二金は後手良し。以下4一銀、2二玉、4二竜は同銀引と取れるので詰まない)
 だが、問題ない。 5三銀引には、8四馬がある。 同銀に、3一金、同銀、4一銀とすればよい(次の図)

研究5二角成図06
 これで後手玉は詰んでいる。 2二玉、3二金、1一玉、2一金、同玉、3二銀成、同玉、3三飛成以下。 後手5三銀引で「3三」が弱くなったため、3筋の飛香が働いてこの手順で詰ますことができた。

5二角成基本図(再掲)
 以上のことから、「(あ)5二同歩なら、3三歩成で先手良し」が明らかとなった。

 では、(い)7五桂 なら、どうだろうか(次の図)

研究5二角成図07
 (い)7五桂(図)、9七玉、7七と、9八金と金を使わせ、そこで5二歩と手を戻す。
 そこで3三歩成は、今度はもう同銀でも同歩でも同玉でも後手良しになる(その手順は省略する)
 だから、先手は飛車を打つ(次の図)

研究5二角成図08
 7一飛(図)と打った。 後手は桂を手放したので、もう5一桂のような受けない。
 だからといって、3一角や5一角と受けに角を使うようでは、後手に勝ち目はなくなる。
 なのでここは後手は7九角と打ち、先手8八香の受けに、1四歩と端からの脱出を図る。
 先手陣はそのまま放っておくと、8八とから寄せられてしまうので、8九金と金を投入して受ける(次の図)

研究5二角成図09
 8九金に、〈ア〉3五角成とするか、あるいは〈イ〉4六角成か。
 (なお、5七角成では、2一飛成、1三玉に、3六桂があって先手勝勢になる)
 
 〈ア〉3五角成は、2一飛成、1三玉 の次に、4一竜左が好手になる。

研究5二角成図10
 4一竜左(図)に2四玉と逃げても、3二竜左が詰めろになるのが大きい。 以下3六馬、3三歩成、3五玉、4二とが予想され、先手優勢。
 したがって、後手は4一竜左に、8八と、同金寄、9五歩と攻める。 9五同歩、9六歩、同玉、9四歩、9七玉、9五歩、9八玉、9六歩、7八金上、3一香(次の図)

研究5二角成図11
 これ以上は先手陣に“詰めろ”で迫る手がないので、ここで後手は3一香(図)と受けた。
 しかし、これは、同竜左と取って、同銀に、2六香と打てばよい。
 以下、2二銀に、1五歩(次の図)

研究5二角成図12
 先手優勢である。2六馬、同歩、6九飛にも、7九歩と受けて先手良し。

 〈ア〉3五角成は、4一竜左と迫る手があって、先手良しになった。

研究5二角成図13
 〈イ〉4六角成(図)は、2一飛成、1三玉。
 今度は、4一竜左では、後手良しになる。2四玉と逃げられ、3二竜左に、3五玉と逃げられるところが上の場合と違うところ。 これは後手優勢である。
 では、どうするか。 ここからの手が広く、どちらが良いのかわからない。 最新ソフトは、7八歩や1七桂や3二竜や3三歩成や7一竜などの手を候補手として示している。どれも決め手に欠き、はっきりしない。
 だから、「形勢不明(互角)」として調査を打ち切ろうと思っていたが――――“好手”を見つけたのである(次の図)

研究5二角成図14(2六歩図)
 “2六歩”(図)。 この手は、偶然見つけた。
 最新ソフト(「dolphin1/orqha1018」)はこの2六歩を上位の候補手として示してはいなかった(8位~10位に時々現れたり消えたりしていた手)
 なんとなくこの手を調べてみて、そして調べるにつれ、この“2六歩”(図)が最有力手ではないかという感触になってきたのであった。 これで「先手良し」なのではないか。
 検討していこう。

研究5二角成図15
 “2六歩”(図)に、後手が 9五歩 とすると、1五桂(図)があって先手が勝つ。
 1五同桂は、8四馬がぴったりとした手になり、同銀は、1二竜、同玉、1四香以下の“詰み”がある。
 1五桂に、2四玉は、2三竜、3五玉に、2五竜で、これもぴったり詰んでいる(4六馬が後手玉の行く道を塞いでしまっている)

研究5二角成図16
 なので、後手は8八と と香車を取る。 同金寄に、そこで 9五歩 と突けば、今度は「香」を持っているためこの手が先手玉への “詰めろ” になっており、先ほどの1五桂の返し技が利かない(次の図)

研究5二角成図17
 後手 9五歩(図)の端攻め。 9五同歩に、9六歩、同玉、9四歩と攻めてくる。
 これには同馬とするのが正着(次の図)

研究5二角成図18
 9四同馬(図)に代えて、9七玉と逃げるのは、9五歩、9八玉、9六歩、7八金上、7六桂となって、先手が悪い。
 だから9四同馬しかないのだ。
 以下は、9四同金、同竜、6九角(王手をしながら2五にも利かせている)、7八歩、2四玉、8三竜、6二銀引と進む(次の図)

研究5二角成図19
 後手は6二銀引(図)とし、8二香のような手を含みに残しておく。
 ここで先手は3二竜(8五桂も有力)
 以下3五玉、3三歩成、4七角成(8三竜に当たっている)、4二と、3四歩、8五竜、7四銀、9四竜(次の図) 

研究5二角成図20
 後手は持駒が少ない分だけ少し苦しい形勢だ。正しく指せば先手が勝てるという将棋。
 もう少し進めてみよう。
 2九馬、4三竜、3六玉、4八銀(次の図)

研究5二角成図21
 4八銀(図)で、後手玉は入玉が難しくなった。
 2七玉には3九金、1九馬行なら3九桂がある。また4九金には、3七金、同馬、同銀、同玉、4九竜がある。
 先手優勢。

研究5二角成図22
 戻って、9五歩 に代えて、3六馬(図)の場合。
 この手は攻防の意味があり、攻めては6九馬と入る手や、9五歩、同歩、9六歩、同玉、6三馬のような狙いがある。そして受けとしては「2五」に利かせて、次に2四玉と脱出したときの先手8四馬~2五金を防いでいる。また図で1五桂なら同歩と応じて後手が良い(1二竜、同玉、8四馬、同銀、1四香の詰み筋を3六馬が防いでいる)
 ここは、2五歩と歩を突くのが良い。
 2五同馬に、3七桂、6九馬、7八歩と進む(次の図)

研究5二角成図23
 ここで後手9五歩は、8四馬(8四同銀には3五金)で先手勝ち。
 だから後手は2四玉としたいところ。しかしそれには2七桂がぴったりした手になり、以下4六銀に、8四馬、同銀、3二竜(次の図)

研究5二角成図24
 3二竜(図)として、次に2五歩、同馬、2一竜左がねらい。適当な受けもない(3一歩は同竜左で無効)
 よって、先手勝勢である。 2四玉には2七桂が良い手になった。

研究5二角成図25
 後手2四玉でダメだととすれば、攻める手になる。7六桂という手がある。その手には7七金と応じ、以下8八香で、この図である。
 8八香(図)を同金、同桂成となれば、先手負け。
 しかしここは攻めて、先手が勝てる場面になっている。たとえば8四馬(同銀なら3五金)、8九香成、7五馬、7九馬、8七玉で先手良し。
 もっと鋭い寄せは、この図で1二竜だ。 同玉に、2五桂打(次の図)

研究5二角成図26
 これで後手玉は寄っている。図は1三香以下の3手詰だが、2四歩、8四馬、2五歩、2四香、3一桂、同竜、同銀、2三金が想定手順で、先手勝ち。


5二角成基本図(再掲)
 〔竹〕5二角成 は以上のように、(あ)5二同歩 も、(い)7五桂 も、いずれも「先手良し」になった。
 つまり、「先手良し」が確定である。

 ただし、この〔竹〕5二角成と〔松〕3三歩成(同銀、5二角成)、実際にどちらを選ぶかを考えた場合、〔竹〕5二角成 は、(あ)5二同歩、3三歩成、同銀となると、〔松〕3三歩成 の手順に合流し、それに加えて後手には (い)7五桂 の選択権がある。 その変化を考慮しなければいけない分だけ、先手は苦労(読まなければいけない量)が倍増する。
 だから選ぶとすれば、〔松〕3三歩成 のほうになるだろう。 理論的、現実的には、そういうことになる。




6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し 
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い) → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉
  〔竹〕5二角成 → 先手良し

 これまでの結果をまとめると、このようになる。




[調査研究:2五香(追加調査)]

 さて、〔梅〕2五香 について、もう少し深く調査したので、その内容を以下に書いておく。

2五香基本図(再掲)
 〔梅〕2五香 、7五桂、9七玉、7七と、9八金、2四歩、同香、2三歩、同香成、同玉 と進んで、次の図。

研究2五香図09
 上での調査研究では、ここで、以下(1)2五飛 と打った。 以下進めた結果は「後手良し」となった。

 しかしここで、(1)2五飛 以外の手があるのでは――――というのが、次の研究テーマとなる。
 (2)7八歩、それから、(3)3七桂 という有力手があるので、それでどうなるかを以下検証していく。

 まず(2)7八歩 だが、7八歩 に、後手が 7六歩 と応じるなら、5二角成以下、先手良しになる―――というのが、(2)7八歩 と打つ意味である。

 その効果を知るために、まずここで(4)5二角成 と攻めていくとどうなるかを先に示しておく。
 (4)5二角成、同歩、2一竜、2二歩、2五飛、2四香(次の図)

研究2五香図10
 5五飛、7九角、8八桂(次の図)

研究2五香図11
 桂馬があれば、図で先手1五桂、1四玉、2三銀以下の“詰めろ”が後手玉にかかる状態になる。 だから7九角には“8八金打”と受けたいのだが、それは、同角成、同金、8七金以下、先手玉が詰まされてしまう。
 だから、8八桂(図)と桂合で受けたのだが、これで後手玉への詰めろは消えた。
 よって、後手は8八同と と取り、しかたなく先手はこれを 同金 と応じることになる。
 そして、8八同角成、同玉、7六桂打(次の図)

研究2五香図12
 7六桂打(図)で先手玉は、ぴったり詰まされてしまう。

研究2五香図13(7八歩図)
 さて、(2)7八歩(図)
 7八同と なら、先手玉は今の詰み筋がないので、7九角に8八金打と打って先手良しになる。
 そして、(2)7八歩に、7六歩 の時にも、またこの(2)7八歩の手の効果が現れる。

研究2五香図14
 先ほどと同じように進めたとき、7九角、8八桂(図)と受けてこの図となる。
 今度は、8八同と、同金、同角成、同玉 と進めたときに、後手“7六桂打”の手がないのがこの図を見ればわかるだろう。先手玉に詰みがないので今度は「先手良し」になるのである。
 一例として、ここから、8八と、同金、4四銀と進んだとする。この4四銀は、5九飛なら、8八角成、同玉、8七金、8九玉、6七桂成と、先手玉に迫る狙い。
 先手は、飛車を引かず、4一銀と打つ(次の図)

研究2五香図15
 後手玉に “詰めろ” をかけて、以下 3四玉、3二竜、3三歩、3五歩、同角成、5九飛が予想され、先手優勢である。

研究2五香図13(再掲7八歩図)
 「7八歩図」に戻る。 ここで 7八同と および 7六歩 なら、先手良しになるとわかった。
 しかしまだ後手の応手として、7六と がのこっている(他に9五歩も有力だ)

研究2五香図16
 「7八歩、7六と」の手交換で先手が良くなっているかどうか。
 ここで5二角成は9五歩とされて先手勝てないので、「2五飛、2四歩、5五飛」を選ぶことになる。
 以下、9五歩、同歩、同金(次の図)

研究2五香図17
 「7六と」の手を利用して9五金と攻めてきた。
 先手は7五馬と桂馬を取る。 もちろん 同と なら9五竜だ。
 7五馬以下、9六香、8八玉、9八香成、同玉、8七金、8九玉、6七と(次の図)

研究2五香図18
 進めてみると、どうやら「後手勝ち」になった。(1五桂は2二玉で惜しくも後手玉は詰まない)

 つまり、「(2)7八歩は、7六と で後手良し」である。

研究2五香図19
 それでは、(3)3七桂(図)はどうか。
 この手は、次に5二角成をねらっている。3七桂と後手玉の上部を押さえているので、後手玉が詰みやすくなっていて、ここで6六銀なら5二角成(同歩なら後手玉詰み)で先手良し。
 また、2二玉としても、5二角成で先手が良い。
 (3)3七桂には、9五歩が後手ベストの手。 先手玉への詰めろなので、先手は9五同歩と取る。
 以下、“9六歩”、同歩、9四歩(次の図)

研究2五香図20
 ここで8四馬と取って、先手優勢になる。
 8四馬、同銀、2五飛、2四角となる。 後手としては、角は攻めに使いたいので2四角と打ちたくはないが、代えて2四香では、同飛、同玉、2五金以下詰んでしまうので、2四角合はしかたがない。
 そこで9四竜(次の図)

研究2五香図21
 先手勝勢である。
 次に先手3五金と打つ手がある。それを受ける4四銀上には、8四竜、同歩に、2四飛、同玉、2五銀、2三玉、1一角で、後手玉は“必至”となる。

研究2五香図22
 上の手順は、9五歩、同歩、9六歩、同歩、9四歩と後手が攻めたが、“9六歩” に代えて、“9二歩”(図)と工夫する手がある。
 同馬 と取らせて、今の変化に出てきた8四馬のような筋をなくす意味である。  
 〈a〉9二同馬と、〈b〉9二同竜 とがある。
 
研究2五香図23 
 〈a〉9二同馬に、後手は7六と(図)
 7六とは、次に9五金とするねらいである。
 先手は8一馬。これは9一竜を受けに利かせて後手の9五金を防ぎつつ、4五馬の活用をみた手。

研究2五香図24
 後手は5六銀(図)。 この手が好手で、先手の4五馬を防ぎながら先手玉の活動域を狭めている。 3六馬なら、8六と、同玉、7四銀が“詰めろ”で、後手優勢。
 ここは、5七歩が最善手になる。5六の銀が動けば、4五馬(後手玉への詰めろ)が入り先手勝ちになる。
 後手は9四歩。 以下5六歩、9五金と進む(次の図)

研究2五香図25
 これで、どっちが勝っているのか。
 8八玉、8六金、8九玉、8七と(次の図)

研究2五香図26
 早逃げしてみたが、どうやら、後手が勝てる将棋となっている。
 ここで2五飛、2四歩、7五飛という手はあるが、7六香で後手勝勢である。

研究2五香図27
 戻って、“9二歩” に、〈b〉9二同竜(図)と、竜で歩を払うのはどうか。
 〈b〉9二同竜には、2二玉とする。 この手は(先手の手を見ながら)次に3一玉を狙っている。
 そこで 4五桂 と攻めたいところだ。しかし4四銀引、5三桂成、同銀引となって、桂を渡すと後手からの 9五金、9六歩、8四桂 という攻め筋もできて、どうやら後手良しになるようだ。
 2二玉に、9一竜 とするのもあるが、後手2三歩とキズを消しておいて、これでやや後手が良い形勢である。この変化は “9二歩” の犠打によって後手が手を稼いで自玉を整備したということになる。

 それなら、〈b〉9二同竜、2二玉に、2五飛 でどうなるか。 以下、2四歩、5五飛、3一玉(次の図)

研究2五香図28
 5二角成、同歩、9一竜、5一香(次の図)

研究2五香図29
 こう進んで、やはりこれも後手良し。
 先手は5九飛と金を取れるが、7八角で後手勝勢になる。7五飛、同金、同馬の二枚替えもあるが、やはり6九角、9六銀、7六とで先手勝てない。
 7八歩と打つのも、7六とで、次に6八角が厳しい。

 つまり、(1)2五飛に代えて、(2)7八歩 も、(3)3七桂 も、「後手良し」になった。

 すなわち、〔梅〕2五香 は後手良し」である。




 今回の調査結果を加えた「6七と図」についてのまとめは、次のようになる。

6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し 
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 後手良し
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 〔梅〕2五香で後手良し というのも、〔竹〕5二角成で先手良し というのも、“思いもよらない結果” であった。 この調査を始める段階では、「〔梅〕2五香で先手良し、〔竹〕5二角成で後手良し、を証明しよう」という、そのつもりで調査を開始したはずだったのが、それが完全にひっくりかえった結果になったのだから。



 第37譜に続く
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