はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

銀が泣いている(3)

2008年04月10日 | しょうぎ
図c(前日記事)からの指し手
  △4六歩▲同歩△6四歩▲8五歩△6五桂
  ▲8六銀△7一玉▲4八角 (図d)

 坂田三吉の100手目、▲4八角。これが名手だった。
 この手を見た関根金次郎は、
 「うーむ、これは良い手じゃ。うかつには指せんわい。」
といってうなり、長考に入った。
 五番勝負第1局の対局は、徹夜明けの二日目の朝になっていた。


図dからの指し手
  △7九角▲6九歩△8八角成▲9二香成△同香
  ▲9三歩△同香▲6七飛△7五歩▲7六歩△9八香成
  ▲9五歩△4七歩▲同飛△6六香▲7五歩△7三飛
  ▲7七金 (図e)


 ▲4八角。
 これによって坂田陣は息を吹き返した。
 この自陣に打たれた角は、敵陣の9三をにらんでいる。ここ(9三)が、関根陣の弱点なのだ。だからこそ、関根八段はその前に△7一玉と避難している。ここではすでに関根にとって、この将棋は難局になっているのかもしれない。見れば、あの「泣き銀」もはたらいてきたし、9九の香も敵陣に直通だ。(手元の本には、まだ関根優勢と書いてあるが…)
 この坂田の▲4八角、例の「真部の4二角」にちょっと似ているではないか。坂田の▲4八角の場合は、ねらいの9三との間に、6六に自分の「飛車」がいる。だから4八に角を打つというのは一層に気づきにくい。 

 坂田三吉には、こういう角打ちの名手が多い。
 また、升田幸三にも。

 この関根・坂田五番勝負が行われたのは1913年で、まだ、升田幸三は生まれていない。(5年後に生まれる)
 これより20年以上後になるが、まだ10代で将棋修行中だった升田幸三は、坂田の弟子の星田啓三と対局したことがあり、その将棋を目に留めた坂田三吉は、以後、升田の身辺に現われては「最近あんたが指した将棋を並べてみなはれ」と言ったという。言われた通りに升田が並べて見せると、坂田は何も言わず帰って行く。それが何度かくり返され、ついに升田は、なぜか、と聞いた。すると坂田三吉は升田にこう言ったという。
 「あんたの将棋は大きな将棋や。ええ将棋や。あんた、うちの星田と指したやろ。あん時に、角、打ったやろ。あの角や! あれは八段の角や!」
 (「八段」とは、当時の最高段で、「名人と同じ格」という意味をもつ。)

 4八角が置かれた図dの局面をあらためて見てみよう。
 関根陣は四枚の金銀で守られている。しかしこれらの駒には「動き」がない。
 ところが、坂田の盤面左の駒、香、銀、飛車、金… これらはバラバラに置かれているが、今にも動き出して行きそうだ。このバラバラの、苦しく喘いでいた駒に「生気」をあたえたのが、「4八角」なのだ。

 △7五歩。関根は必死で角の効きを止める。
 ▲7六歩。坂田、それをこじ開けに行く。

 1日目の夜にいったん自宅に辞した12世名人小野五平が2日目、また観戦に来ている。83歳の小野翁は言った。
 「こりゃえらい勝負になった。わしは四十年来こんな凄い将棋は見たことがない

 坂田、香車を成り捨てた後、▲6七飛と角筋を通す。カッコイイ手だ!
 関根、△4七歩。 ▲同飛に△6六香。 坂田は7七金と応じる。
 そして図eになった…。

  

 図eからの指し手
  △7七同桂成▲同銀△5六金▲8八銀△同成香

 ▲8八銀! あの、「泣き銀」が、使い道に往生していたあの「銀」が、関根の角との交換になった。「泣き銀」は最後に笑ったのである。これは坂田サイドの応援者にはたまらない展開になってきた。
 しかし、(本によれば)まだここでも関根優勢だという。
 対局が始まってからほぼ1日が経過した。二人とも寝ていない。(飯はなにを食べたのだろう?)

 今度は坂田が長考に沈んだ…。


 この対局の結末は次回ということで。(まだ続きます、笑。書くのもしんどいです。)



 今年の将棋名人戦第1局のほうは、昨日決着。森内俊之名人の勝ち。
 羽生さんは、序盤でふんわりした手で局面をリードしたと思ったら、いきなり「豪速球」で攻めかかり、ところがコントロール・ミス、それを森内さんが落ち着いて捉えて勝利、という感じでした。
 それにしても、羽生善治の指し手には、意外性がありますね! 羽生さんは久々の名人戦なので興奮して、「豪速球」を投げたくてうずうず…それで気持ちのままに投げてみた、そんなところでしょうかね。「俺は全力投球で行くよ」と。

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2 コメント

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坂田vs関根 (K島)
2008-04-11 10:45:58
「週刊将棋」も「将棋世界」も「棋譜すっとばし読み」の自分ですが、ちゃんと頭の中でコマを動かしました。面白い! 同時にお疲れ様です。その4、楽しみにしています。羽生vs森内戦は椿山荘まで行きました(会社から近いので)。解説陣が迫力あって、さすがは有料解説会(笑)。
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ありがとうございます (han)
2008-04-11 22:07:49
いやー、書いたあとで間違いに気づいて書き直すのがたいへんで。いっぱい間違いがあるので。棋譜の符号とか。人物の年齢とか。昔の人は、かぞえどしだったりするので。この図にも「下手」が「先手」になっていたり、「92手手目」になっていたりしますが、そのままにしてます。

解説会ですか。いいですね。
リアルタイムで観戦して解説してもらうのは最高です。
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