はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

竹のはなし

2007年04月30日 | はなし
 20代のときに東京で広島時代の仲間で僕の部屋にあつまって麻雀をすることになったとき、僕の読みかけの本を見て友人が言った「おまえもかわった本をよむのお」。その本のタイトルは「竹のはなし」。まあ、それほど面白い本でもなく、結局は少ししか読まなかったのだが、あの頃から、なぜか「竹」が気になる。ふしぎな植物だなあと。
 竹は100年に1度だけ花を咲かせるらしいじゃないの。
 たけのこが今、旬である。というわけで「たけのこごはん」をつくっている。鶏肉、人参、こんにゃくを入れてみた。うまい!!

 たけのこはいつ、どのようにして「竹」になるのか。「竹のはなし」に書いてあった。「たけのこ」はわずか3日ぐらいで一気にオトナに、「竹」になるのである。もちろん、「竹」は何時間煮ても食えない。(以前所ジョージの番組で竹を3日間煮てもやはり食えなかった、とばかな実験をしていた。) まあだから、たけのこを見つけたらすぐ取って食べないと食えなくなる。たけのこはうまいが、あればっかり食うのもたいへんだ。

 学校でも七夕とか工作のために竹をよく取りにいったが、一番大変だったのは高校のときの体育祭だ。応援合戦のためにかなり大掛かりな準備をした。それに必要な「孟宗竹」を山へ取りに行き、3人一組でかついで行った。(なぜあんなに無駄な体力が使えたのだろう。しんじられん。)
 ふと、おもいだした。
 あの体育祭の応援合戦で、たまたま手をつないだ女の子のことを。恋愛感情まではなかったが、僕は彼女のことを、クラスで(学校で)一番かわいい、とおもっていた。そのコは、ホームルームなどで堂々と「結婚が夢」としゃべっていた。体育祭でほんとうは絵を描くグループに入りたかったのに、ついつい言いそびれてしまったオレとはえらい違いだ。
 彼女は、僕と同じ大学へ進んだ。大学の合格発表を新聞で確認したあと、担任が学校へ来い、というので行った。卒業後だったので「やっぱ私服だよなあ」と迷いながらこげ茶のセーターに白いズボンで行った。職員室へいくと、担任が少し待ってくれというので廊下で待っていた。そうしたら、そこへ彼女が来た。私服だ。クリーム色のセーターと赤い丈の長いスカート。学校でみる女の子の私服は新鮮だ。
 「あっ、おめでとう!」といいあったあと、15分くらい話をした。3年間同じクラスだったが5分以上彼女と世間話をするのは初めてだった。なにしろ僕はクラスで2番目に無口な男だったから。
 卒業後は、大学内で会うことはほとんどなかったが、1年に1度くらい、偶然に街で出会うことがあった。電車の中や、本屋などで。たいがい、彼女が気づいて声をかけてきた。
 あのコはいま、お母さんをやっているのだろうか。どんなお母さんだろうか。想像すると、ちょっとたのしい。
 それにしても、「たけのこごはん」でこれだけ心をトリップさせるオレって…。
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ちゅう太(上野裕和五段)

2007年04月26日 | しょうぎ
 将棋名人戦第2局、またまた森内名人、出血サービス! 鼻の下から髭剃りによると思われる血が…。これは森内名人の、新しいキャラづくりかい? やるなあ。
(それを伝えた毎日新聞の記事をいまさがしてみたがみつからない。削除されたか? そりゃ受け狙いの記事だもんなあ。)

 勝負のほうは郷田真隆が勝って連勝です。 モリウチ、ピーンチ!!

 上野裕和五段を描いてみました。なぜ上野五段を? 

 名人戦が終了して7月になると、「順位戦」がはじまります。各棋士はそれぞれのクラスのリーグで順位戦を戦います。一番下のリーグが「C級2組」で、この中には約50人の棋士がいます。1年をかけて(総当りではなく)10局指して、成績の良い上位3名が「昇級」して上のクラス(C級1組)へ行きます。50人の中で3人ですから相当の好成績でないと上がれません。全勝ならば文句なしですが、7勝3敗ではだめ、8勝2敗でもむつかしい場合が多い。
 3月になるとその決算となる「最終局」が行われ、毎年ドラマが生まれます。棋士にとってはきびしい季節ですが、ファンにとっては楽しみの季節。その様子を将棋雑誌は伝えます。僕は「将棋世界」で記事をよみました。

 上野四段は2000年にプロ四段になり2001年度から順位戦C級2組に参加しています。そして6年目のことし3月、ついに昇級のチャンスをつかみました。9局をおえて8勝1敗。あと一つ勝てば9勝です。
 ところが、今シーズンのこのクラスは同じ8勝1敗のものが4人いました。この4人が全員最終局を勝って9-1で並んだらどうなるのか。さきに述べたようにあがれるのは「3名」と決まっています。
 その場合、上野四段が上がれないのです。
 理由はこうです。同じ勝ち星の場合、その前年の成績が良いものから昇級する、という決まりだからです。そうなった場合、上野四段は「四番手」になるのです。
9-1という成績ならば大抵は昇級できるのですが、できないこともある。そこはもう「運」なのです。このように同じ星で昇級をのがすことを「頭ハネ」と呼びます。せっかく9コも勝ったのに… でも来年度からはやりなおしになるのです。

 さて、じっさいはどうなったか。対局日は3月6日。
 まず上野は勝った。これで9勝。しかし昇級できるかどうかは残りの3人の昇級候補の成績しだい。まだ対局中だ。この中の一人が負けると、上野四段の昇級が決まる。「キャンセル待ち」だ。
 「将棋世界」誌は伝えている。19時46分、広瀬が勝つ。昇級だ。
 上野、広瀬の勝利を知ったこれも昇級候補の片上が夕食時に険しい顔をしていたそうだ。しかし、その片上も22時16分、勝って昇級決定。さあ、昇級ワクはあと1つ。上野四段はどうなるのか。
 深夜になった。あとひとりの村田四段はまだ戦っている。村田が勝てば昇級。そのとき上野は「頭ハネ」となる。盤面は村田優勢とみられていた。「もうだめだ」と上野は思った。村田の相手の村山も「まけだな、でもがんばろう」と思っていた。そこで村田がまちがえた! 一手のミスで村田の手中にあった勝利がするりとこぼれ落ちた。
 そしてその瞬間、ちゅう太、上野裕和四段の昇級が決まったのだ。

 「将棋世界」のその記事には、こう記されている。
 「午前1時をとうに過ぎた。結局最後まで検討に加わっていた上野が放心というか虚脱というか、心ここにあらずといった体でひざを抱えこんでいる。青ざめた表情で悄然とうなだれる様は全力を尽くした人だけがたどりつける境地なのであろう。」
 そして「今シーズンの途中には最愛の母が癌で他界するという不幸に見舞われた。」とあった。それでおもいだしたことがある。

 僕は神奈川県に住んでいた時期に、何度か、厚木で行われていた名人戦解説会へ行ったことがある。あれは2001年、丸山忠久と谷川浩司が戦っていた名人戦だった。解説者は鈴木輝彦七段、聞き手は中倉宏美女流。来ているひとはおっさんばかり。中倉さんが美しい…。いや、女性の客が一人いた。僕のすぐナナメ前に40歳くらいの美人が。やはり女性の客はめだつ。将棋、わかるのかな…。
 始まる前に、主催者からある青年の紹介があった。それが上野裕和四段だった。プロ棋士になったばかりで、厚木の出身だという。上野四段はこの日は「大盤操作」のしごとに来たのだった。これは、大きな解説用の将棋の駒を解説者の説明に応じてうごかす、プロの卵のアルバイトだ。毎年、名人戦の季節にはまだプロではなかった上野くんが、このしごとを引き受けていたようだ。その上野くんが四段になった。つまりプロ棋士になった。大盤操作のアルバイトももうこれが最後だ。
 厚木のおじさん達の前で、上野くんは立派にプロになった喜びの挨拶をした。拍手のなかで花束が送られた。僕のナナメ前の女性が目をきらきら輝かせて拍手をしていた。そのときに僕はわかった。「ああ、彼女、上野四段のおかあさんだったか」 そりゃあうれしいよな、と思った。

 僕は上野四段の昇級の記事をよんで、あのお母さん(と思うんだけど)のよろこぶ顔を思い出したのでした。
 上野四段の通算成績は大体勝率5割。この勝率で昇級できたというのは、ずいぶんつよい「運」をもっていると思う。おめでとう、上野四段。いや、昇級して、今は五段だった。
 上野裕和五段のブログ → 「ちゅう太のつぶやき
 なんで「ちゅう太」なん? それがニックネーム? ねずみの「ちゅう」?
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置いちゃったんですけど。

2007年04月21日 | しょうぎ
 糸谷哲郎四段はこの春、広島学院高校を卒業し、大阪大学文学部に進学したらしい。僕は広島学院高出身の男を数人しっているが、イトダニ君のキャラをみると「ガクインらしいなあ」と思ってしまう。読書(カフカとか)・哲学がすきでそれを勉強したいらしい。兄弟子で同じ広島出の故・村山聖九段がやはり読書(推理小説と少女マンガ)がすきで、でも学校は小学生のときからほとんど行っていないのと対照的でおもしろいね。将棋誌のインタビューでイトダニ君、女性への興味は、と聞かれきっぱり「ありません。」 ちなみに広島学院高校は男子校である。

 さて、その糸谷哲郎四段、やっちまった。竜王戦、対戸辺誠四段戦で「反則負け」をしたらしい。な、なにをやったんだ?
 どうやらこういうことらしい。相手が△7八馬と切ってきた。それを糸谷は▲同玉と取った。そのときに、まずその「馬(角)」をとって駒台に置く。そのあと自分の玉を7八へ動かす… ハズなのだが、イトダニ四段、うっかり8七へ「玉」を置いてしまったらしい。反則というか、うっかりミスなんだけど、正式には「反則」負けとなる。
 なにかんがえてんだイトダニ~(おもしろいぞ)。

 糸谷四段にはもっと面白い反則伝説がある。
 奨励会時代12歳のときにそれは起こった。当時奨励会の幹事をしていた井上八段に糸谷少年が申し出た「あのー、置いちゃったんですけど…」。なんと、自分のコマ(銀)を相手のコマ台に乗せてしまったのだという。
 信じがたいミスである。 というか、ありえん!!
 想像してみるとおもしろい。イトダニが考える… よし、こう指そう、と決める。ところがあるはずの「銀」がコマ台にない!あれ? そんなはずは… あっ、さっきオレが相手のコマ台に乗っけちゃったんだ!! えー!? どうしよ~!?

井上「考えられない行為やし、負けかなあ」
糸谷少年「はい」 と答えたあと「ワーン」と泣き出す。
対戦相手の佐藤天彦(現四段)「なにが起きたかわかりませんでした」

 あとで井上八段が「プロになったらこれが伝説になるんやから」と慰めたら、泣きべそかいていた糸谷少年はニッコリしたそうである。
 それにしても、相手の駒台に自分の持ち駒を置くなんて、マンガ家でも思いつかない反則だよなあ。こりゃあ糸谷哲郎から目がはなせんな。その糸谷四段、明日のNHK杯に登場だ。動く糸谷が見れるんだな。

□名人戦
      森内俊之(1敗) - 郷田真隆(1勝)

□朝日オープン
      羽生善治 1-1 阿久津主税
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ヒゲの九段のA級順位戦PART3

2007年04月15日 | しょうぎ
 大山、扇子で顔をあおぐ。一分で△2四歩。待っていた、と升田の右手が出て、▲6八角。大山はちょっと目をとじて考え、△4六歩と防いだ。
 観戦の棋士がふえ、七、八人になった。
 升田が左を向いて「これは名局だ」と言った。
「双方とも全力で指した」__突然解説が入ったので皆いっせいに苦笑する。
 大山が「名曲鑑賞の夕べか」と茶化した笑わせた。

「ここで決め損なったので泥仕合になった。私は、▲3二と、△2三玉、▲5四銀成らずの時に、と金のほうを取られるのを見落としていたんだ。」と升田の話。


 午後九時半になっている。升田は口をきかなくなった。大山は扇子をせわしなく動かしている。
 いま図の△2五歩で升田のヤリを押さえつけ、大山の受けは成功したかに見えた。
 ところが、▲2五同香、△同銀の時、▲1六歩と突いたのが絶妙の一着で、升田は容易に指し切らないのである。
 (中略)
 考え込む大山。
 モウモウと煙を出してタバコをふかす升田。
 火がついたままのを灰ザラにほうり込む。それを大山が、湯のみをとりあげて、残りの茶をプシュッとかけて消す。
 十二分考えて△8二飛。升田一分で▲1五歩。二枚替えでも、直後に▲8二飛と打てるからかまわん、と。大山小首をかしげ、△3一歩。打って、「ほんとに、ゼニになる将棋いう感じやなア」と観戦者に笑い顔で話しかけ、緊張(自身の)をほぐす。 
 升田の手が決まる。グイと▲1四歩の歩突き。

 大山の耳が赤い。


 どちらも疲れ切っているようだった。大山は残り時間に追われはじめた。升田は、必勝形をつくり上げた余裕で、冗談をいう。
「私はいくら使いました?」
「はい… 三時間と… 三十四分です」
「そんなに使いましたか。ああ、升田老いたり!」
 五分で▲5五香。大山、軽くコマを打ちつけて△6四銀。升田、▲9一とと香を取る。これを使うとすれば四本のヤリを全部使ったという将棋になる。


 感想戦は小一時間行われた。
 大山敗れて七勝二敗。最後の大内戦にすべてをかける。升田は五勝二敗と追い上げ、(中略) A級順位戦は大いに盛り上がってきたのであった。


 PART2のつづき、升田幸三・大山康晴戦。
 朝日新聞「紅」氏によるこの観戦記よんだとき、僕は、将棋の戦法や囲いなどまったく知らなかったし、将棋のプロがいるとは、それまで考えたこともなかった。だからこの「升田」「大山」という人がどういう顔でどういうキャラなのかまったく知らずによんでいたわけだ。だけども、読み始めるとおもしろくて引き込まれた。「ああ、升田老いたり!」なんてセリフ、そんなこと言うおっさんってどんな人なんだろう…、と。
 この、升田・大山はこのとき50代で、5歳ちがいの兄弟弟子なのである。(そのことは後に知った。) 升田がタバコをもうもうと吸って、その灰皿をとりかえる大山、なんだか息が合っていておもしろい。
 そして、ときどき顔を見せる27歳の中原名人。そうか、中原という人はこの二人よりつよいのか…、と子供の僕は好奇心をかきたてられたのであった。
 この期、升田は板谷、大内、大山をなぎ倒し、しかし挑戦にはとどかず、1位となり中原誠名人への挑戦権を獲得したのは大内延介八段。その名人戦7番勝負は盛り上がり大熱戦となったのであった。結果は土俵際まで追い詰められながらも4-3で中原防衛。升田はいった「大内君、おしかったな」。僕には、中原、大内、大山を「君」付けで呼ぶこの年寄りがいちばんかっこよく見えた。
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ヒゲの九段のA級順位戦PART2

2007年04月12日 | しょうぎ
<朝日新聞「紅」記者による升田幸三九段の観戦記抜粋第2弾>
       対大山康晴九段(十五世名人)戦 
この期は、新A級の大内、板谷が全勝で走り、それを大山が一敗で圧迫し、さらにその背後に升田が二敗で追うという展開でした。1位でゴールしたものが中原名人に挑戦するのです。「中原君、待っとれよ」と升田はいった。


「時間かな?」__やわらかい声で大山九段がそう言ってサッと上座にすわった。升田九段も、無意識にだったと思うが上座にすわろうとしたので、ちょっと大山さんに席を取られたかっこうになってしまった。私のうしろを回って反対側にすわった。
 大一番である。板谷、大内をひねった升田は火と燃えている。「次は大山君だったな」と言ったのは、大内を負かして、感想戦を終わった時だった。
 大山の心境、私には全然わからない。口元を引き締め、兄弟子にあたる升田の、無意識な視線をがっちりと受け止めた姿。
 ▲7六歩、△3四歩、▲7五歩で始まった。
 「升田式石田流」__しかし手堅い△6二銀を見た升田が、あっさり▲6六歩とやって、まっとうな振り飛車に転換した。


「テレビ局はよう知っとる」と升田がいった。「今日は名人決定戦や。イナカでカイコ飼うとった本当の名人が、二十年ぶりに出て来ました」

 ここで大山は△4五歩と応じた。すごい闘志を感じた。升田がタバコを一本吸って▲5六歩と突けば、ごく普通の手を指すような態度で△4五銀と進めた。これで私の思い通りです、とコマに語らせているようだった。


 タバコを吸わない大山、記録の青年に「灰ザラとり替えて」と命じる。
 升田の灰ザラを、である。ハイ、と青年が立ち上がる。升田、タバコをくわえた。が、火をつけない。マッチを右手に持ったまま盤上をにらむ。灰ザラが来る。升田、マッチをシャッと擦る。そっと口もとへ持ってゆく。
 大山、△9九と。▲6六銀は味わい深い手。△8三飛、▲6二とを交換して大山、△6四金と進める。勝負だ。
「みんなこっちを見てる。参考になるんかしら」大山は私にそんなひとりごとを聞かせた。二上も米長も隣席から注目し、ほかに四人か五人、立って見ている。


 大山、ちょっと席をはずして、戻ってきた。
「どうもどうもという将棋か」と何だかわからないことをいい、着手は△2四角だった。
「名人戦より迫力があるだろう」と升田が、観戦の龍記者にいった。
 読者も気づかれたと思うが、3五の歩を取られた災いを逆用している。大山のこの柔軟さこそ、よく升田の剛を制するところである。
 ▲5二歩成りに△5六歩。
「えらい強い手だな」と升田。
 中原名人が見に来ている。升田、バチンとたたいて▲6七金。大山△7四香。恐ろしいパンチだ。▲7五歩の合いを△同香と払う。
 ▲7五同銀、△同金。
 升田は、かなりフラついているように見えた。しかし、金を取らずに▲5六飛と歩のほうを取って、持ちこたえたのである。升田は疲労が出ているように見えた。また、大山も風邪気味なのを、このあたりで私は知った。


「扇子がないから調子がおかしいんだ」と升田がいった。
「扇子買うてこよう」と立ち上がり、升田は廊下に出て行く。

 六時十分、夕食のため休憩。
 七時に再開された。▲4三と、△同金、▲3四銀打と進んだ。
「大野流の攻め方やな」と升田がいった。
 中原名人がまた見に来た。何か連盟の仕事で来ているらしかった。二十七歳の四タイトル保持者、いま副会長の職にあって多忙である。
 大山、△5四金とかわす。
 きわどいしのぎである。△5四金ではなく、単に△4二金では▲6三とと引かれる。(中略) 金二枚が去り、大山陣に秋風が吹き込む。升田は香車のことを常にヤリというが、コマ台のヤリ一本が、△4二金と引かせず、また△2四歩と突かせぬ立派な働きをしている。
 升田優勢である。


 僕のイナカでも「香車」のことは「ヤリ」という。(升田さんは広島生まれだ。)「きょうしゃ」なんてのはよそ行きの言葉だ。東京では、相手がじいさんでも「ヤリ」と言って通じなかったりするのは、ちょっと悲しい気分だ。
 どうです、升田ー大山戦。迫力あるでしょう? PART3ではこの対局のつづきをお届けします。
 これを書き写しながら、「なぜに東公平氏は、灰皿を灰ザラとカタカナ表記したのだろう」と思ったのでありました。
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平歩青天

2007年04月11日 | しょうぎ
 僕がはじめて将棋の大会に参加したのが高1のとき。そのときに参加賞として扇子をもらった。中原名人の書で「平歩青天」と揮ごう(印刷でしょうが)してあった。以後、片手で扇子をバッと開き、シュタッと閉じる練習をした。開いて、閉じて「ギーッ、パタッ、ギーッ、パタッ」と鳴らす練習をした。
 そのころ、僕の周囲ではギターの練習が流行っていたが、へそまがり流の僕は流行りものには興味がもてなかった。
 あれ(扇子)は、人前で鳴らすためにあるとおもう。一人で部屋にいて鳴らしても意味ないもの。
 とはいえ、アマチュアの将棋で扇子なんてもっていても使い道はない。まる1日かけてゆったり将棋を指すプロだからあれが似合う。
 僕の中原扇子はあそびすぎて、紙の折り目がちぎれた。「平歩青天」ってどういう意味だろ? 「天気がいいから、散歩でもするか」ってことかな?
 今は、やはり大会でもらった谷川浩司の「月下推敲」の扇子をもっている。これは「もう一回(月の明かりの下で)よーく考えてみようよ」という意味だ。

  名人戦 →「扇子の音」で異例の中断
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名人戦開幕デスヨー

2007年04月10日 | しょうぎ
なんか、名人戦、おもしろいことになっているらしい。(毎日主催の名人戦は月500円払わないと中継が見られない)
扇子の音がうるさいとか、鼻ヂ出たとか。ホント?
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ヒゲの九段のA級順位戦PART1

2007年04月08日 | しょうぎ
僕がむかーし読んだ、ふるーい将棋観戦記より一部を抜粋してお送りする。朝日新聞A級順位戦、升田幸三九段・熊谷達人八段戦、書いたのは「紅」こと東公平氏。


 升田と熊谷は昔から親しい仲である。年齢が違うし、同じ関西棋界でも同系統の育ちではないが人間的にウマが合うようだ。
 前日上京してきた熊谷、元気そうな姿をあらわす。病弱な人の明るい表情は良いものだ。
 九段も今日は元気そう。和服が少し乱れたのか、なんとなくぞろりとした姿で対局場へ入って来た。
 あの九段でも、さすが、対局の際はスタイルを気にする。しきりに帯の辺に手をやっていた。
 正十時、対局開始。


 隣が大内と板谷で、うしろが花村と松田。こう配置されると、話好きの九段は黙ってはいられなくなる。
「年をとっても気は強いなあ」と言った。
「だれのことや」 __振り向いた花村八段が、お日様みたいな笑顔をみせる。
「私も、年老いたわ」
芝居がかったセリフで九段がもじゃもじゃ頭を手でかきむしれば、
「けど升田さんは強いなあ。ハゲよりヒゲのほうが上かなあ」

 冗談を言いながら恐ろしいことを考えるのが棋士である。字で書けば楽しそうにうけとられるかも知れないが、酒席の冗談とは違う。話がとぎれれば、瞬間に勝負師の顔に戻ってしまう。
 升田は8八飛と、早くも飛の位置を変えた。


 同室の花村・松田戦は、昼の休憩中に松田八段が急病を発して棄権した。めずらしい事故だった。
 たいしたことがなかったのは幸いだったが、ここまで三連勝で、昇級争いの先頭を走っていた松田八段には痛恨の黒星になった。
 その騒ぎがおさまったころからだが、私には熊谷八段が発熱しているように見えて来た。顔が赤い、メガネをはずしている。時々目の辺を手で押さえている。
「これよ」と昔の人みたいに言い、升田は真剣に先を読んでいた。
 熊谷は「しつれいします」と律儀にことわりを言って席をはずした。何か薬を手に持っていた。
 熊谷が戻って来てすぐ、升田は▲8五桂という強烈な手を指した。


 羽織ハカマの中原名人が観戦に来た。なぜか、今にも笑いがこぼれそうな顔をしていた。ひとわたり見て歩いて観戦である。
 ▲6八金と引いた升田は、続けて考える熊谷の顔を見ながらヒゲをなでていた。ここでは升田が良いのかと思ったが、そうではない。「攻めは飛角銀桂」というその四枚が4筋に集中して爆発寸前である。升田陣は一発で壊滅の恐れがある。


「大ポカでもしそうな気がする」と言いながら升田は▲9五角だ。
 △7二金に▲5九香と打った。
 この瞬間に熊谷は、しまったと思った。△8三歩が逸機だったことに気づいたのである。


 升田は「向こうはヤケか」と言った。▲5八金とコマ音を立てずに引いた。
 熊谷は残り三分。秒を読まれながら二分を使い果たし「残り一分です」の宣告を「ハイ」と聞いて、まぶたを手で押さえていた。


 終局は午後七時三十八分。これで升田は三勝一敗となり、米長、二上と首位を争う。
 熊谷は一勝三敗。終わって、成績よりも病気の悪化が案じられた。失明の恐れがあると聞いている。


 升田幸三のA級順位戦の成績は抜群だ。139勝53敗1持将棋、勝率.724。升田にとって朝日の主催するA級順位戦こそ「本場所」だった。
 熊谷達人八段はこの対局の2年後、46歳の若さで亡くなっている。ハゲ頭で笑わせてくれた花村(東海の鬼!)も、松田も、板谷も、そして升田も、いまは故人だ。
 この年、升田は4勝5敗とふるわず、この期を最後に二年後に引退した。この期に8勝1敗で名人戦の舞台へ初挑戦となったのが米長邦雄である。
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阿久津主税五段

2007年04月04日 | しょうぎ
あくつちから五段。 平成18年度勝率1位(.776 45勝13敗)、24歳。
                         →写真
 この男が明日から始まる5番勝負朝日オープンに登場する。なかなか男前(死語?)だね。和服が似合いそう。プロ8年目だからもはや新鋭とは呼べないが、タイトル戦は初登場。朝日オープンは正式には7大タイトルに含まれないが、タイトルなみの賞金がかかっている。相手は羽生善治だ。
 阿久津五段は八王子将棋クラブの出身だそうである。ここは羽生がこどものときから指していた道場でもある。あこがれの先輩と注目の舞台で将棋を指す…。棋士として最高にしあわせな瞬間ではなかろうか。たのしい将棋をみせてくれ。

 そして明日4月5日は、升田幸三の命日である。なぜ覚えているかといえば、僕が熱烈な升田ファンだからであり、その人が逝った日が平成3年4月5日と並び数字だったからである。升田さんは朝日新聞社と親密な間柄であったが、その朝日オープンの開幕の日にあわせて逝ったのだ。ことしも同じ日に開幕か…。
 僕がこどものときに読んだ朝日新聞の将棋欄で、僕は升田さんのファンになった。(あんなにかっこいい人はいないよ。) 来年の名人戦は朝日と毎日が共催するという。(今年の名人戦は毎日主催で10日に開幕。)
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@Xの正体は

2007年04月03日 | しょうぎ
 1月18日の記事で書いていた初代「@X」の正体は中田功七段でした。中田七段は、偶然ですが僕のブログで、1月15日に後ろ姿を絵に描いていました。毎日のように登場し、軽快な指しまわしに「さすがプロ」とファンになったひともいたようです。中田七段は、あの、大山康晴十五世名人のお弟子さんなのですよ。
 そして2月の2代目@Xは中井広恵女流。中井さんもこのブログではお馴染み。チャットの会話が丁寧なので、「女流では?」という声が挙がっていましたが、中井さんだったんですね。タイトル戦のさなかに… いそがしいところ、お疲れ様です。
 この@Xの企画は「将棋倶楽部24」と「将棋世界」誌の企画ですが、好評のようで、いまもつづいています。

 里見香奈(里美と間違えとったネ)は清水市代に敗れ、タイトル戦初登場ならず~。 →女流王将戦ブログ 
 やっぱり一番つよい女流は清水か。
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「タブロイド」

2007年04月01日 | はなし
 去年のことでしたが、コーヒーショップでとなりで30代らしき男の人と40代らしき女の人が話をしていました。ふたりは病院でおともだちになったようです。男の人は時事通信社に記者として勤めていたらしく、その仕事がとてもハードで、その結果心身がぼろぼろになって記者の仕事をやめて病院へ通うようになったというような話でした。
 まったく、「記者」って仕事は大変そうですね。あんな仕事をずっと続ける人というのはちょっと特殊な人間という気がします。

 TUTAYAで「タブロイド」というタイトルのビデオを借りてきて観ています。タブロイド紙というのは駅売り専門の夕刊紙のこと。10年くらい前にフジテレビで放映されのこのドラマは、そんなタブロイド紙の記者たちの活躍の話。
 脚本は井上由美子。僕はあまりテレビを見ませんが、井上由美子のものは「きらきらひかる」(原作は郷田マモラの漫画)以来注目しています。ストーリーが骨太で人物がいきいきしているので好きなのです。最近では「白い巨塔」の脚本が井上由美子。この「白い巨塔」は高視聴率だったようですが、僕としては物足らなかった。「白い巨塔」の主人公は男(ザイゼン教授だ)でしたが、井上さんのホンは女性を主役にしたほうが面白いとおもいます。
 さてドラマ「タブロイド」のこと。
 このドラマの主人公は女性記者片山咲(常盤貴子)。脇をかためる役者は、佐藤浩市、ともさかりえ等。この片山咲は、ドラマによくあるキャラの、青臭くてやる気満々キャラで、第1回目の話では「わたしは真実が知りたいの! うその記事を書くのは恥ずかしい!」とたんかをきります。
 そんな主人公は、タレント青島ビンゴ殺人事件に興味をもつ。その事件の容疑者は真鍋(真田広之)といい、地方裁判所の判決では刑が確定しているが、真鍋は3年間「無罪」を叫び続けている。片山咲はこの事件と真鍋に興味をもち調べていくうちに、「これは無罪ではないか」と思いはじめる。そのうち、咲は真鍋と「信頼関係」(恋愛感情こみ)を築くようになり、咲の記事が周囲や世論を動かして、ついに真鍋は「無罪」となり、拘置所から開放される。その記事で、廃刊になりそうな「タブロイド紙」も販売数をのばす。
 ふつうのドラマならば、これでめでたしめでたし、となる。しかし井上脚本の面白さはここからだ。
 「無罪」となって自由になった真鍋は「行動」を開始する。彼には、「うらみをはらすべき相手」がまだいたのだった。その「相手」を真鍋は襲う。
 真鍋が無罪になった決め手は、「彼と殺された青島ビンゴの間に接点がない」ということだった。ところが、本当は接点はあったのである。そのことを咲たちは知り、愕然とする。青島ビンゴを殺したのも真鍋だったのか? だとしたら自分たちは真鍋に利用され、ウソの記事を書いたことになる。すでに真鍋の「無実」は確定している…! 真鍋を捜せ!!
 このあとはレンタルして観て下さい。主人公の書いた冤罪記事がデタラメで大失敗だった、なんてストーリーのドラマは他に見たことがありません。その意味でこれは隠れた名作とおもいます。(主題歌をうたうのはGLAY)

 上図は、ともさかりえを描いてみました。(似てないね、不調だ~)
 ドラマのストーリーとは関係なく、僕は彼女の「顔」に魅かれてしようがなかった。このひと、すごく整った顔なのに、同時に、いつもゆがんでいるですよねー。
コメント (2)
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