はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part136 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第35譜

2019年11月27日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第35譜 指始図≫ 6七とまで

指し手 ▲9七玉


    [僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ]
 白い駒の後ろに、もう一つの扉が見えた。
「どうやるの?」ハーマイオニーは不安そうだった。
「たぶん、僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ」
   (中略)
 ロンが黒駒に動きを指示しはじめた。駒はロンの言うとおり黙々と動いた。ハリーは膝が震えた。負けたらどうなるんだろう。
「ハリー、斜め右に四つ進んで」
 ロンと対になっている黒のナイトが取られてしまった時が最初のショックだった。白のクイーンが黒のナイトを床に叩きつけ、チェス盤の外に引きずり出したのだ。ナイトは身動きもせず盤外にうつ伏せに横たわった。
「こうしなくちゃならなかったんだ」
 ロンが震えながら言った。
「君があのビショップを取るために、道を空けとかなきゃならなかったんだ。ハーマイオニー、さあ、進んで」
   (『ハリーポッターと賢者の石』J.K.ローリング著 松岡佑子訳)



 『ハリーポッターと賢者の石』にはこのように主人公たち3人(ハリー、ロン、ハーマイオニー)が「チェスの駒」になって闘うというシーンがある。ここに登場する巨大な人間サイズのチェスの駒たちは、“魔法”によって生命を吹きこまれ、動く仕組みになっている。
 このシーンは映画版でも取り入れられているが、その人間サイズの「駒たち」のデザインは、「ルイス島の駒」だそうである。

 「ルイス島の駒」とは?
 チェスの駒は、工芸品、芸術品としてつくられたものも多く、面白いデザインの駒が残っている。
 その中でもっとも有名なものが「ルイス島の駒」であろう。
 これは、スコットランド北北西のへブリディーズ諸島のルイス島で発見されたので「ルイス島の駒」と呼ばれることとなった。発見されたのは1831年のことで、つまり今からおよそ200年前のことだ。
 この表情豊かな人物デザインの「ルイス島の駒」の製作年代は、1200年頃と推定されている。なんと発見時よりさらに600年さかのぼる。 セイウチの牙でつくられていて、おそらく北欧ノルウェーでつくられたものではないかという研究者の推定がある。類似したデザインの駒がそこで作られていたからだ。
 発見された駒は、78個で、その中に「8個の王」と「8個の女王」の駒がある。つまり少なくとも4組分の駒だったことになる(チェスの駒は1組32個なので全然足らないが)
 現在その本物は、エジンバラのスコットランド博物館と大英博物館に展示されている。(『ハリーポッターと賢者の石』をその著者ローリングが執筆したのはエジンバラのコーヒーショップである)
 
 インドで生まれたボードゲーム「チャトランガ」は、7世紀には「チャトランジ」としてペルシア地方で大発展した。それがいろいろなルートでヨーロッパに伝わり、10世紀には「チェス」として、欧州の各地で楽しまれるようになった。
 「チャトランガ」、「チャトランジ」のときからそうであったが、「チェス」にはたくさんの変則ルール、地方ルールがあった。新しいルールも加えられたりして、駒の性質や呼び名も変化していった。たとえば「大臣」という斜めに一マスだけ動いていた駒が、「貴婦人」と呼ばれたり「女王」と呼ばれたりして、現在のような“最強の駒”へと進化していったりした(性転換して能力覚醒したというわけだ)
 これらのチェスの多様なローカルルールが統一されていったのは、18世紀にイギリス(ロンドン)やフランス(パリ)で始まった「チェスクラブ」の存在が大きい。それまではチェスは酒場などで「賭け」で勝負されたりしていたが、これが「コーヒーハウス」での賞金制に変わっていき、やがてルールも統一されていったのである。

  

<第35譜 選んだのは、9七玉>

≪指始図≫ 6七とまで
  〔松〕3三歩成 → 後手良し
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉
  〔桐〕9八玉

 「亜空間戦争最終一番勝負」を戦っている。
 我々終盤探検隊が「先手番」をもって、後手をもつ≪亜空間の主(ぬし)≫に運命を賭して対する、最終決戦である。
 この戦争に負けると、我々はおそらくずっとこの≪亜空間≫から抜け出すことができなくなる。 ≪亜空間≫の一部として取り込まれてしまうのだ。
 終盤探検隊は人間とソフト「激指」との連成チームであり、ここまで戦った経験から、≪ぬし≫とは互角の実力と言ってよいだろう。

 しかし、ついに、この図(指始図=6七と図)を迎えて、「勝ちが近くにある」と感じるところまで来た、と思った。
 ここで腰を落として考え、上のような結果となった(詳しい内容は前譜に書いてある)

 そして――――



≪最終一番勝負 第35譜 指了図≫ 9七玉まで

 我々――終盤探検隊――が採用した手は、▲9七玉 である。

 「激指14」が第1候補手として推している 〔桜〕9七玉 の手を我々は選んだのであった。我々の“感覚”としても、もともと 〔桜〕9七玉 が第1の候補であったので、それを指すことに違和感はなかった。



 第35譜につづく





 ここから下は、「6七と図」の“真実”に迫る、“戦後”の調査研究記録である。

6七と図
 ここで、〔松〕3三歩成 ではほんとうに勝ちがなかったのか? その“真実”を知りたい。


[調査研究:3三歩成]

3三歩成図
 〔松〕3三歩成(図)についての、我々の “戦後調査研究” の内容と結果を、以下に示していく。

 図以下、3三同銀、5二角成と進む(次の図)

5二角成図
 「3三歩成図」から、同銀、5二角成と進んだところ。
 以下5二同歩に、「3一飛」では先手負け、「4一飛」なら形勢不明の戦いになるというのが実戦中の結論だった。

 最新ソフトを使った“戦後調査”によって、この結論が変わった。
 次のことが明らかになったのである。

3一金図
 5二同歩に、「3一金」(図)と打つ手が、実は最善手だった!!!
 「3一飛」でも、「4一飛」でも、「7一飛」でもなく、「3一金」なら、はっきり先手良しになるのであった。

 その「3一金」の調査内容を示す前に、「形勢不明(先手苦戦)」だった「4一飛」の変化についても進展があったので、まずそちらから報告したい。


【4一飛の真実】

4一飛基本図(再掲4一飛図)
 「4一飛」と飛車を打ったところ。
 3四銀、3六桂、6九角、9七玉、3六角成(次の図)

変化4一飛図01(3六角成図)
 先手3六桂の“犠打”についてあらためて思うが、なんと素晴らしい“犠打”なのだろう。 後手の角を使わせたので、先手玉に詰めろがかかりにくくなっている。
 ここが先手の“攻めのターン”だが、しかし「一番勝負」戦闘中はここからの先手の勝ち筋を発見できなかった。
 ここで、(A)3一竜左、(B)4八香、(C)4五歩、(D)3九香と4つの候補手が考えられ、前譜では(C)4五歩以下の手順を示したが、うまくいかなかった。
 戦後研究で新たに有力手として浮上してきた手が、(A)3一竜左以下の手順だ(次の図)

変化4一飛図02
 3一竜左(図)は、真っ先に見える手だが。
 4四玉、3二竜右に、4二桂(次の図)

変化4一飛図03
 4二桂(図)と受け止められ、これで後手良しと、戦闘中は考えていた。
 ただし、ここで先手3九香と打つ手がある。以下、3七歩、同香、2五馬。
 しかし、3四香、6九馬と進むと―――(次の図) 

変化4一飛図04
 ここで3三香成は5四玉とされ、6五へ逃げる道があって後手玉が捕まらない。
 なのでここではその道を塞ぐ6五銀が考えられるが、それには4五玉と今度はこちらに逃げられてやはり捕まえることが難しい。以下4七歩(3五金以下詰めろ)があるが、7九馬、9八玉、7七とで後手勝ち。
 ということで、この図は後手良し。
 戦時中はこれを結論としていた。

 しかし、“戦後調査”の中でだが、「3四香が良くなかった。代えて、1五金(図)という手があった」 ということが発見でき、もういちどこの順を調べなおす必要が出てきたのである。

変化4一飛図05
 1五金(図)と打った。 この手で3四香と銀を取ると、先手はあの二枚の竜を使いにくくしてしまう。あの銀は香車で取らないほうがよいのである。
 だから1五金と、後手の馬を攻める。
 以下、5四玉、2五金、同銀、7五金(次の図)

変化4一飛図06
 こうなってみるともう雰囲気的には先手ペースに思える。後手玉を逃がさないで仕留められるかどうか。
 以下、4六銀(最善と思われる手)に、5六歩が好手だ(次の図)

変化4一飛図07
 5六歩(図)は次に6五角以下の“詰めろ”。5六同桂でも7六角以下の詰みがある。
 よって後手は4五玉と逃げ、6五角に、3四歩、4三竜(次の図)

変化4一飛図08
 4三竜(図)に対し、後手4四歩合なら、8四馬と金を取り、同歩に、3四竜左、同桂、同竜、同銀、3六金までの詰み。
 それを防ぐ意味で4四桂合が考えられるが、その手には、4二竜右(同銀なら5四竜で詰み)とし、以下3七銀成はあるが、同桂、3六玉、8四金の展開は、先手優勢になる。
 だからこの図では4四金と受けるのが最強の応手だが、それには、先手は同竜。
 以下、同玉に、8四馬(5五金、同銀、3五金以下の詰めろ)、7七飛、8七金(次の図)

変化4一飛図09
 後手は7七飛と王手して、先手に金を使わせて後手玉の“詰めろ”を消した。
 なお、先手が8四馬と金を取った手に代えて8四金だと、以下同じように7七飛、8七金に、7五飛成で形勢は紛れていた。
 この図の場合は、7八飛成のように飛車を逃げていては7三馬(後手玉への詰めろ)で後手に勝ち目はないので、8四銀と馬を取る。
 先手は7七金と飛車を取り、これも後手玉への詰めろ(4三飛)
 以下、7九角に、9八玉(次の図)

変化4一飛図10
 こう進んでみると、先手勝勢の図になっている。
 図以下は、4五玉、8四金(4四金以下詰めろ)、5四桂打、5五銀と進めば、後手玉は“受けなし”である(5五同銀には、4七飛、4六合、3五金以下詰み。3七銀成なら、同桂、3六玉、3八銀)

4一飛基本図(再掲)
 以上の“戦後調査研究”により、4一飛(図)以下、先手の勝ち筋が発見された。
 とはいえ、これは複雑な変化となっていて、結論は変わる可能性もある。


 実は「4一飛」の手に代えて、もっとわかりやすく先手の勝ちになる手があった!


【3一金の真実】

3一金基本図
 「3一金」(図)の登場である。 戦闘中、この手は、見えてはいても、ほとんどその先を考えなかった(ここで1四歩とされても先手勝てるかどうか不安があるし、5四角で勝てそうにないと思っていた)
 「3一飛」では5四角以下先手負け。「4一飛」や「7一飛」は3四銀で形勢難解―――
 ところが、図の「3一金」なら、はっきり先手良しになるのであった。
 なぜ、飛車よりも金打ちが良いのか。それはつまり、この手は、後手の〈1〉3四銀にも〈2〉5四角(8一桂)にも対応できているからである。
 (ただし後で示す〈5〉1四歩 の変化がこの場合ちょっと難しい)

 ここで〈1〉3四銀なら、3二金がある。以下、同玉に―――(次の図)

変化3一金図01
 3一飛(図)で後手玉は“詰み”。

変化3一金図02
 それでは、〈2〉5四角(図)でどうなるか。
 以下、9七玉、8一桂、同竜、同角、7一飛(次の図)

変化3一金図03(7一飛図)
 この図は、すでに前回の報告で出てきた変化(「4一飛」と打って5四角、9七玉、8一桂、同竜、同角、3一金)とほぼ同じ図になっている。 7一と4一と飛車の位置が違いがあるが意味的には同じで、「先手良し」の図であると結論を出している。
 この図は、先手玉に後手7七とからの詰めろが来るより前に、先に後手玉に“詰めろ”がかかっているのが重要だ。

 この図が「先手良し」であることを、以下、確かめておこう。
 後手 4二銀左 が、ここでの後手最善のがんばりとみられる手。 3三玉からの中段への脱出路を開いた(次の図) 

変化3一金図04
 4二銀左(図)に、2一金、3三玉、3五金と先手は後手玉の上空を押さえる。
 以下、7七飛、8七桂、4四歩、8四馬、4三玉、7三馬(次の図)

変化3一金図05
 先手勝勢である。

変化3一金図03(再掲 7一飛図)
 もう一度この図に戻って、ここで 3四銀 ならどうなるか。
 それには、そこで8一飛成と角を取る(次の図)

変化3一金図06
 1一角以下の“詰めろ”になっている。3三玉と先に逃げても、1一角と打てば、2四玉、3六桂、3五玉、5五角成で、先手勝ち。

変化3一金図07
 それでは、1四歩(図)ならどうなるか。
 2一金、1三玉に、ここで8一飛成と角を取る。
 以下、“7七と”(後手が一番指したい手)なら、5七角がある(次の図)

変化3一金図08
 これで先手が勝ち。 2四歩なら、2五桂、2三玉、3三桂成、同玉、3四銀以下“詰み”。
 4六飛なら、3六桂と詰めろをかけて先手勝ち。
 この5七角打ち(図)の手は、後手が“7七と”と指したから打てた角打ちであるが、しかし後手は7七と以外で先手玉に“詰めろ”をかける手がないので、“7七と”以外の手でも勝てないのだ。
 たとえば8九飛(9九飛成の狙い)には、3五金と打って後手玉に詰めろをかけて、やはり先手勝ちとなる。

変化3一金図09
 7七飛、8七桂、2四歩 と指した場合。

変化3一金図10
 それには、4一飛成(図)で、先手勝ち。

 これで、〈2〉5四角 以下は先手良しが証明された。

3一金基本図(再掲)
 「3一金図」まで戻る。 ここから、〈1〉3四銀と〈2〉5四角以外の後手の対応手について検証していく。

 まず、〈3〉2四歩ならどうなるか。

変化3一金図11
 先手は後手玉に“詰めろ”で迫る必要がある。手が緩むと、後手からの「7五桂、9七玉、7七と」で、逆に詰めろをかけられ、劣勢に陥るからだ。それと後手は角を持っているので、後手からの角打ちが“詰めろ逃れの詰めろ”にならないよう気を配る場面でもある。
 ここは、2一金、2三玉に、3七香と打つのがよい(次の図)

変化3一金図12
 この香打ちは、2二金(または2二金打)からの“詰めろ”になっている。これで先手勝勢。
 (なお3七香に代えて3五歩としてしまうと、7八角、9七玉、7七とで、逆転負けとなる)

変化3一金図13
 また、この場面での〈4〉4二銀左(図)は、あっさり先手良しになる。
 2一金、3三玉に、3五飛と打つ手がある。
 以下、3四桂に、2五桂、2四玉、5五飛(次の図)

変化3一金図14
 先手勝勢。

変化3一金図15
 〈5〉1四歩(図)。 問題はこの手だ。
 「3一金」に対する応手としては、これが一番先手にとってやっかいな道になる。これがあるから、3一金と打つ手はあまり考えたくないところであった。3一金と打つ攻めは、1四歩に、2一金と桂馬を取った後、この金の後の働きがほとんど期待できないのが不安の残るところだ。これが飛車なら竜になってまだまだ働いてもらえるのだが(だから実戦中は「3一金」は見えていてもあまり考えたくないというわけだった)

 さて、〈5〉1四歩に、2一金、1三玉と進む。 そこで先手の指し手が難しい。2六香や1五歩のような手では、詰めろになっていないので7五桂以下、先に先手玉に“詰めろ”がきて、後手が勝ちの流れになってしまう。
 1三玉に、2五桂と行くのが最善手だ(これ以外の手では先手がわるい)
 以下、2四玉、3三桂成、3五玉(3三同歩は3九香で先手良し)。
 後手玉を逃がしてしまう不安が漂ってきたが、4八香がある(次の図)

変化3一金図16
 4八香(図)と打ってみると、この手に対する後手の対応が難しい。
 4六桂が見えるが、それは―――(次の図)

変化3一金図17
 なんと、2五飛(図)から後手玉に“詰み”があるのだ!!(4六銀でも同じ)
 2五飛、同玉、3四銀、3五玉、3六歩、2四玉、2三銀成、2五玉、2六金まで。
 この詰み筋があるので、4八香で後手の受けが困難になってきている。この詰みがあることは大きかった。 ここまで読めていれば、「3一金で先手が良さそう」と感じ取れるわけである。

 しかし、まだ(4八香に)7七との後手の切り返し技が残っている(次の図)

変化3一金図18
 後手7七と(図)。 これを同玉は6六角の王手香取りがある(次の図)
 なので9八玉と逃げるが、後手は6五角。 先手は7六歩と応じて次の図となる。

変化3一金図19
 詰んでいれば先手が負けだが、ギリギリ詰みはない。
 ここで 4七桂 と、7六同角 とがある。

 4七桂 には、5七金。
 以下、7六角、8九玉と進むが、そこで後手8七角成だと、3四飛から後手玉が詰んでしまう。 よって、4五玉、4七香、5四玉の進行が想定される。
 そこで7八歩(次の図)

変化3一金図20
 先手の攻めのねらいは、8四馬と金を取って、4五金から寄せていくこと。
 しかしこの攻めは後手に角を渡すので、それを実行すると7八角から先手玉が先に詰まされてしまう。それをあらかじめ防ぐ意味の、7八歩(図)である。
 8七とでも、6七とでも、そこでねらいの8四馬からの攻めを決行するのである。
 6七とで見ていこう。6七と、8四馬、同歩、4五金、6五玉、5五金、7四玉、6六銀(次の図)

変化3一金図21
 これで、先手勝勢になっている。

変化3一金図22
 戻って、7六同角(図)の場合。
 8九玉、6七角成、9八玉。先手玉にまだ詰みはない。
 後手には詰めろが掛かっていたので、4六桂とそれを受ける(6七の馬が3四に利いていて先手2五飛、同玉、3四銀の詰み筋を消している)
 これには、先手6五銀が決め手になる手(次の図)

変化3一金図23
 6五銀(図)と銀を打って後手玉の可動範囲を狭め、この先手図は先手優勢である。このままなら3六歩以下後手玉は詰む。
 ここで8八と(同玉に6六馬のつもり)には、9七玉でよい。
 6六銀なら、3六歩、4四玉、3五飛で、先手勝ち。

 以上の調査により、「3一金」に、後手〈5〉1四歩も、先手良しとなった。

変化3一金図24
 「3一金」に、後手〈6〉7五桂(図)。 これが後手の最後の手段。
 以下、9七玉、7九角、9八玉(香車を温存してかわした)、1四歩。
 つまりこの後手の一連の手は、1四歩からの脱出路を開く前に7九角を打って攻防に利かせたという意味である。
 しかし、2一金、1三玉、2五桂、2四玉、3三桂成(次の図)

変化3一金図25
 ここで大海に逃げる3五玉は、4八香で後手玉が完全に捕まってしまう。今度は後手は桂馬と角をすでに打ってしまっていることもあって4八香を受ける手段がまったくないのだ。
 だから後手はここで3三同歩とするが、それには3九香で―――(次の図)

変化3一金図26
 やはり、先手勝勢だ。
 後手の7九角に9八玉と駒(香)を使わず受けたことで、ここで3九香と攻めに使えた。

3一金基本図(再掲)
 「3一金」に、〈1〉3四銀、〈2〉5四角、〈3〉2四歩、〈4〉4二銀左、〈5〉1四歩、〈6〉7五桂 の応手について調べてきたが、いずれも「先手良し」となった。
 この調査により、「3一金」と打ったこの図は「先手良し」、と結論できる。

 この「3一金」の手を、我々終盤探検隊は発見できなかったのだが、実は今確認すると、「激指14」はこの「3一金」を有力手としてはっきり示していたのであった。
 (3一金の評価値は -212。 第1候補手は6一飛および7一飛でその評価値は -205。 4一飛 -277、3一飛 -372)

 その戦闘時の記憶ははっきりしないが、おそらく我々は「激指」の示す「3一金」を見ても、“感覚的”に、「3一金では勝てそうもない」とそれを調べる前に切り捨てしまっていたのである。
 (もっともその「激指」も、3一金で先手良しとまでは読み切れていない。3一金に〈5〉1四歩以下の変化が難解だからであろう)


6七と図
  〔松〕3三歩成 → 後手良し → 先手良し  
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 =実戦の指し手
  〔桐〕9八玉

 つまり、〔松〕3三歩成 なら、先手勝ちがあった。しかし数手後の「3一金」が見えなかったために、その勝ち筋をつかみきれず、これを見送ることとなったのである。
 そして、▲9七玉 と指した。



[調査研究:3三歩成(追加調査)]
 さらに調査は進み、また “新たな事実” が発見された。

【3一飛の真実】

3三歩成図
 〔松〕3三歩成(図)、同銀、5二角成、同歩。
 そこで今度は、「3一飛」 に関する新発見である(次の図)

3一飛図
 「3一飛」(図)と打つのは、5四角で先手が勝てない―――というのが、戦時中の結論であった。
 しかし、ここで改めて再調査してみると―――

 「3一飛」、5四角、9七玉、8一桂に、“4一飛成” の変化がある(次の図)

変化3一飛図01(4一飛成図)
 後手の8一桂に、“4一飛成”(図)とする。
 この手は“一手パス”の手なので戦闘中は考えなかったのだが、あらためて調べてみると有力であると判明した。というか、これがどうやらこの場合(3一飛と指した場合)の最善手段で、これで先手良しの可能性さえ出てきたのであった。
 この先の調査内容を示していこう。

 後手の有力手は[X]7七と だ。(他に[Y]3四銀、[Z]1四歩 があり後述する)
 そこで8九香が“ふつう”だが、それだと3四銀、7一馬、9五歩、同歩、4五角と進み―――(次の図)

変化3一飛図02
 こうなって、先手が悪い。8九に打った香車を狙われた。7九金と受けても、6九金というぴったりとした攻めがある。

 [X]7七と に、しかし、先手“6五歩” の手が好手となる(次の図)

変化3一飛図03
 この “6五歩の発見” がこの“追加調査”の収穫だ。 これで先手に“希望の光”が見えてきた。
 これを6五同角と取ると、2一竜から後手玉は詰んでしまうのだ!(2一竜、同玉、8一竜以下)
 なので後手は3四銀。3三玉の脱出口を開く。
 そこで「7八歩」(次の図)

変化3一飛図04
 この手順で、どうやら最新ソフト的に「互角」の形勢になっている。 以下、厳密にはどちらが有望かを見極めていく。
 先手の狙い筋としては、3筋に香車を打つ手(3九香)と、3一金(詰めろ)とがある。
 しかし3九香は、6五角が“詰めろ”で後手良し。 3一金は、3三玉、3二竜、4四玉、4八香、4六銀、同香、5五玉と進んで、これはギリギリだが後手が良い。
 というわけで、先手は「7八歩」(図)と打ったわけだ。

 ここで考えられる後手の応手は次の4つ。
 (カ)7八同と、(キ)7六歩、(ク)7六と、(ケ)9三桂
 この順で、以下の変化を見ていこう。

変化3一飛図05
 (カ)7八同と は、簡単に先手が良くなる。 7八同との状態は、後手に金を渡しても大丈夫だし、後手6五角も詰めろにはならないので、3九香と打って、3三玉に、2五金、4五角、3四金、同角、4五銀(図)となって、先手勝ち。

変化3一飛図06
 「7八歩」に、(キ)7六歩(図)は、と金位置を「7七」のままでキープしようという手。
 「7八と、7六歩」の手の交換を入れることで、とりあえず後手の6五角が詰めろで入らないようになった。
 ただし、狙い筋の3九香でも3一金でもまだ勝ちきれない。
 もう一手、「7一馬」 を指す(次の図)

変化3一飛図07
 この「7一馬」(図)は、後手の9三桂の角取りを避けると同時に、攻めの下準備の手でもあり、次に3一金からの攻めを狙っている。
 しかしこの瞬間、後手に主導権を渡したようで不安もあるが、意外と後手の手が難しい。
 ここで 3三玉 の早逃げなら、4八香で先手良しになる(次に5三馬、同歩、4二銀がある)
 また 6六銀 には3九香と打って、3三玉、4六金、4四玉、5二竜で先手勝ち。
 「7一馬」の手はこのように、後手の有力手、3三玉6六銀 に対応できている。

 後手が攻めるなら9五歩だ。 この変化を以下、見ていく。
 9五歩を同歩と取ると、9六歩、同玉、6三角で後手ペースになる。以下8五香に9四歩、9七玉、8五角、同歩、同金は、後手良しだ。
 なので9五歩には、3一金から攻めあう。 以下、3三玉、3二竜、4四玉に、4八香(次の図)

変化3一飛図08
 4六銀、同香、5五玉、5七銀と進む。
 そこで後手6五玉なら、3四竜で先手が勝てる。
 6五玉でダメだとすると、6七としかないが―――(次の図)

変化3一飛図09
 それには、5二竜(図。 この変化のための、「7一馬」であった。
 まだ変化は多いが、この図は、先手良しの形勢。
 図以下、5七と、5三馬、2七角成なら、4四馬から後手玉には詰みがある。 6二歩が考えられるが、5三竜、5七と、8一馬、6三銀、同馬、同歩、5一竜左で、先手が良い。

変化3一飛図10
 「7一馬」のところまで戻って、後手 6二銀右(図)を調べていく。 これが後手の最強手のようだ。
 この手にも、先手はやはり3一金から攻めていく。
 以下3三玉、3二竜、4四玉、4八香、4六銀、同香、5五玉、5七銀(次の図)

変化3一飛図11
 後手は詰みを防いで6七と。
 ここまでは同じだが、今度は5二竜の手が無効なので、3四竜と銀を取る。5七とに、8一馬とする。
 以下、6六玉に、7九桂で、次の図になる。

変化3一飛図12
 6八銀、5四馬、同銀、8八角、7七歩成、5四竜、5三銀、5五銀

変化3一飛図13
 後手の指した5三銀は(後手苦しいながらも)先手を焦らせる好手のようだ。
 5五銀(図)に、5六玉、3六銀、4七と、4五竜、5七玉、6六銀、5八玉、4七銀、同玉、7七銀(次の図)

変化3一飛図14
 先手が少し良い形勢(手の複雑さを考慮すれば実戦的には互角)

変化3一飛図15
 「7八歩」に、(ク)7六と(図)の変化が、さらにきわどい。
 ここで7一馬は、6五角が“詰めろ”になり、以下8八香に7五金があって、先手が勝てない。
 だから、3九香(3二竜以下詰めろ)で勝負することになる。
 以下、3三玉、2五金、4五角、5二竜(次の図)

変化3一飛図16
 5二竜(図)とするのがこの場合の好手。 これは次に7一馬の活用を見ていて、4四玉なら7一馬とする予定である。
 ただし、ここで7八角成が気になる手である。しかしそれには、3四金、同馬、同香、4四玉に、7八角という手が用意されている(次の図)

変化3一飛図17
 この7八角(図)で、形勢は先手良しである。
 なので前図からは、4四玉、7一馬と進む(次の図)

変化3一飛図18
 7一馬(図)に6二歩は、8一馬で先手が良い(7一馬に6二銀右は同馬で無効)
 だからここから7八角成、5三馬という激しい変化に突入する。 以下、4五玉、5四馬、5六玉、5五馬、6七玉、8八金、7七歩、8九銀(次の図)

変化3一飛図19
 5六歩、6四歩、5七歩成、4八銀(次の図)

変化3一飛図20
 4八銀(図)を 同と と取ると、7八銀から後手玉が詰む。 よって、ここは後手6八馬が最善だが、3四金で、どうやら先手が良さそうだ。

 以上、(ク)7六と 以下、きわどかったが、結果としてはなんとか、「先手良し」となった。

変化3一飛図21
 「7八歩」に、(ケ)9三桂(図)の変化。 角を取った。
 以下、7七歩。
 そこで後手は6六銀が指したい手だが、3九香(3二竜以下詰めろ)、7九角、9八玉(さらに6五角には8九玉)、3三玉に、5五金(取ると3二竜以下詰み)の好手があり、この変化は先手良し。
 よって、後手は7九角と先に角を打ってくる。今度は9八玉では6五角、8九玉、3五角成で後手良しになるので、7九角には8八金と受けることになる。
 そこで6六銀。以下、7八金打、5七角成に、2一竜、3三玉、3一竜左、4四玉、3二竜右、4五銀、6七香(次の図)

変化3一飛図22
 最新ソフトの評価値はまだ「互角」(+100くらい)だが、どうやらこの図は「先手良し」のようである(後手の良くなる変化が見当たらない)
 6七香(図)を同銀成、同金、同馬なら、4七桂と打ってはっきり先手優勢。
 なので9五歩、6六香、3四歩のようなひねった手順が予想されるが、4六歩で先手ペースの戦いである。

変化3一飛図01(再掲 4一飛成図)
 後手の8一桂に、“4一飛成” と指したところまで戻って、([X]7七とに代えて) [Y]3四銀(図)ならどうなるのかを見ていく(次の図)

変化3一飛図23
 7一馬(後手9三桂で角を取られる手を避けた)は、そこで7七ととされ、これは「先手が悪くなる変化」に入ってしまう。
 6五歩は、9三桂と角を取られ、以下3九香、7九角、9八玉、2四角成で、これは形勢不明。
 しかしここでまた先手にすばらしい勝ち手順があるのだ。
 “8一竜左、同角、2五桂” がそれである(次の図)

変化3一飛図24 
 この “2五桂” はどういう意味なのか。 意味がわからないと指せない手だが、これは実は、同銀 と取らせて、後で「3五」に駒(金)を打つ空間をつくった “犠打” なのである。
 “2五桂” は3三金以下の“詰めろ”で、2五同銀と応じるしかないが、そこで3一金と打つ(次の図)

変化3一飛図25
 これで先手良し。
 3三玉に3五金と打ち、後手玉は4二飛くらいしか受けがないが、そこで8一竜と角を取って、先手勝ち。
 ここで3六飛という手をソフトは示してくるが、それも8一竜が1一角以下の“詰めろ”。 以下、早逃げの3三玉に、1一角で、2二桂合なら3七香、3四玉なら5五角成で、先手が優勢だ。
 また、7七飛には、8七香と受けておく。以下、1四歩、3二竜、1三玉に、3七桂がぴったりした手で、先手勝ち。
 
変化3一飛図26
 もう一度 “4一飛成” まで戻って、そこで[Z]1四歩(図)ならどう攻めるか。
 それには、6五歩 で先手が良くなる(次の図)

変化3一飛図27
 6五同角なら、8一竜左で先手が勝ちになる。
 9三桂も、2一竜、1三玉、2六香(1二竜以下詰めろ)で、先手勝勢。
 7七となら、7八歩と打って、後手がどう応じてもそこで3九香で、先手良しとなる。

 後手の最善手と思われる9五歩以下を見ていく。これには、3九香と打って、6六銀のような手なら3一金で先手が勝てる。
 9六歩、同玉、4九金(後手は香車がほしい)とされたときの対応が、おもしろい。今度は3一金では勝てないが―――。
 1一金と打つ手が正解手になる(次の図)

変化3一飛図28
 3九香と打つ手を3七香にしていれば4九金の手はなかったわけだが、3七香には4六銀があって同じようなことになる。
 「3一金では勝てないが、1一金なら勝てる」というのが面白い。
 この手を放置されて3九金とされたとき、3一金だったら、先手の2一金、1三玉、3五金に、2四銀とされて先手悪くなる。しかし1一金の場合は、2一竜、1三玉、3五金で、(2五桂と1二金の二つの詰み筋があるので)後手に受けがないというわけなのだ。
 1一金(図)を、同玉 の場合を用意しておかねばならないが、3一金、2二玉、3二竜とすれば、1三玉に3三香成が “詰めろ” で、しかも “受けがない”。 よって、先手勝ち。

変化3一飛図01(再掲 4一飛成図)
 以上の調査結果から、「3一飛」に、5四角、9七玉、8一桂には、“4一飛成”(図)で、どうやら「先手良し」、ということが新たに判明したのであった。(ただし、勝ちにまで結びつけるには針の穴を通すような正確な手順が必要となり、実戦的には選びにくい順ではある)

 もう一つ、気になる変化が残っている。

変化3一飛図29
 さて、それなら、「3一飛」 に、5四角と8一桂の手を入れ代えて、先に8一桂にしたらどうだ、というのが、後手の工夫。 最後にこれを考えよう。
 この8一桂(図)を同竜だと、5四角、9七玉、8一角で、これは以下「先手が悪くなるコース」に乗っかってしまう。
 ここで先手に、“なにか良い手” がないと、今の研究手順がすべてひっくりかえされてしまうが……
 “良い手”はあった!! ここで2一飛成とすればよい。 以下、同玉に、8一竜―――(次の図)

変化3一飛図30
 8一竜(図)に、後手は、3一角合3一飛合 しかない。
 まず 3一角合 には、4一金と打つ。 自玉は後手の飛車だけでは詰まない。後手4二銀引に、3四桂(次の図)

変化3一飛図31
 先手勝ち(3四同銀なら、3一金、同銀、2二香、同玉、1一角以下詰み)

 3一飛合 には、同竜、同玉、6一飛と打って、4一角合なら、5一金(詰めろ)で先手良し。
 そして4一飛合なら、同飛成、同玉、5一金、同玉、6三桂(次の図)

変化3一飛図32
 後手玉は、“詰み”だ。


 以上、再調査の結果、≪指始図≫より、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩に、「3一飛」でも、先手に(ギリギリではあるが)勝ち筋があると判明した。


3三歩成図(再掲)
 まとめると、≪指始図≫より、〔松〕3三歩成、同銀、5二角成、同歩 と進んで、そこで、「3一飛」「4一飛(7一飛)」でも、それから、「3一金」でも、先手に勝ち筋がある。
 ただし、どの勝ち筋も道はけわしい。 比較して選ぶとすれば、やはり、「3一金」 になるだろう。



6七と図
  〔松〕3三歩成 → 後手良し → 先手良しに変更  
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉 = 実戦の指し手
  〔桐〕9八玉

 今回の調査結果により、「6七と図」の評価は、こういう結果になった。
 〔松〕3三歩成の “真実” はこれで「先手良し」と明らかになった。
 しかし、他の手については、再調査をしないと、ほんとうのところはわからない。
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終盤探検隊 part135 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第34譜

2019年11月11日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第34譜 指始図≫ 6七とまで



    [ドラえもんの鏡面世界 ]
ドラえもん「ザンダクロスは鏡面世界にいるんだ。あたらしく出入り口を作らなきゃならない、鏡のようにまったいらな反射する平面をさがして。」
ジャイアン「さっきの川は?」
のび太「流れているからダメだよ。」
のび太「さしあたり思いつくのは……、」
のびた「しずちゃんちのおフロ。」
   ( 藤子・F・不二雄作 漫画『長編ドラえもんVOL.7 のび太と鉄人兵団』より)



 1986年劇場映画版の原作として描かれた「長編ドラえもん・シリーズ」の第7作目『のび太と鉄人兵団』の中に、「鏡面世界」というものが出てくる。
 この「鏡面世界」は、“現実世界”を左右反転にしたのび太とドラえもんの巨大プライベート空間で、“現実世界”とちがって人間や動物が存在しないので、破壊して遊んでもだれにも迷惑がかからない。
 その「巨大プライベート空間」が、宇宙の遠くから地球侵略のためにやってくるつもりの「鉄人兵団(ロボット)」の秘密基地として利用されてしまい、さあたいへん―――というのが、この物語の基本となる筋である。
 『ドラえもん』には、意外と「鏡」を利用した小道具は少ない。鏡自体が少しばかり“不思議な道具”なので、これをさらにつくりかえてもそれほど面白さは生まれないかもしれない。
 実際、この「鏡面世界」自体のおもしろさは、それほどでもない。

 『ドラえもん』の中で主人公ののび太たちは、「タケコプター」で空を飛ぶことができる。
 藤子・F・不二雄は1933年生まれである。手塚治虫(1928年生まれ)以降、この世代までの漫画家は、よく“空を飛ぶ主人公”を描いた。『オバケのQ太郎』も『パーマン』も『忍者ハットリくん』も空を飛んだ。
 1934年生まれの横山光輝の描いた『鉄人28号』は巨大ロボットだがジェットエンジンで空を飛び、『バビル二世』の主人公の少年は大きな怪鳥ロボット(ロプロス)に乗って空を飛んだ。
 最近の少年漫画雑誌の中で「空を飛ぶことのできる主人公」はたいへんに稀(まれ)である。
 アニメ作家の宮崎駿(1941年生まれ)が「主人公に空を飛ばせることのできる作家世代」の列の最後尾の人という感じがある。
 物語の中で「主人公を空に飛ばさせる」というのは、実は強大な才能・エネルギーが必要なのだろう。



<第34譜 さあ、“勝ち筋”をさがせ>

≪指始図≫ 6七とまで
 この図を迎えて、我々(終盤探検隊)は、いよいよ、“最終局面が来た!!” という感覚だった。
 ここで、先手の勝ち筋があるのではないか―――と感じていた。「激指14」の評価値はまだマイナス(-250くらい)だったが、これまでの≪亜空間戦争≫の経験から、これくらいのマイナス評価は気にしてはいけないとわかっていた。

≪指始図≫ 6七とまで
  〔松〕3三歩成
  〔梅〕2五香
  〔桜〕9七玉
  〔栗〕8九香
  〔柿〕7九香
  〔杉〕5四歩
  〔柏〕2六飛
  〔桐〕9八玉

 「激指」の評価値を見て、そしてこれまでの経験値からの、終盤探検隊の“感覚”は、〔桜〕9七玉が第1候補、しかし、〔松〕3三歩成と〔梅〕2五香もたいへんに有力で、これで勝ちがあるのではないか、というものだった。(「激指14」の第1候補手も〔桜〕9七玉で、第2が〔梅〕2五香)
 他に、〔栗〕8九香、〔柿〕7九香、〔杉〕5四歩、〔柏〕2六飛 を考えた。
 (「激指14」は、〔桐〕9八玉も第3位の有力候補に挙げていたが、これについては、我々ははほとんど考慮しなかった。同じ早逃げの9八玉を考えるなら、第1候補の9七玉のほうを選ぶ、という感覚だったので。それに後手5四角のラインに入る9八玉には違和感があった)

 以下は、それらの候補手(9七玉と9八玉を除く)についての、先手番をもつ我々終盤探検隊の“読み”の内容である。


3三歩成図
 〔松〕3三歩成(図)は、我々が、「これで勝てるならこの手を指そう」と思っていた手である。
 調べはじめたときは「きっと先手の勝ち筋が見つかるだろう」という感覚だった。

 〔松〕3三歩成、同銀、5二角成と進む(次の図)

変化3三歩成図01(5二角成図)
 ここで7五桂は、9七玉、7七と、4三馬となって―――(次の図)

変化3三歩成図02
 この図は先手良しが確定している。手順の違いはあるがこの図は前譜[調査研究1]ですでに調べている図である。

 なので前の図(5二角成図)からは、5二同歩と進む。そこで先手は「3一飛」だが―――

変化3三歩成図03
 4一や7一ではなく、「3一」に飛車を打ったのは、後手の3四銀に、4一竜を用意している。
 しかし、読んで行くうちに、ここでの「3一飛」では、先手が苦戦するとわかってきたのだった。
 「3一飛」(図)には、5四角 が後手の最善の応手。 以下、9七玉に、8一桂(次の図)

変化3三歩成図04
 以下、8一同竜、同角、同飛成、7七と と進む(次の図)

変化3三歩成図05
 ここで8九香と受けても、9八金と受けても、9五歩で、先手玉はもうたすからない。
 しかし、7八金という唯一の受けがある(次の図)

変化3三歩成図06
 7八金(図)と犠打を放って、攻めの主導権を取ろうということ。さあ、これでどっちが勝っているか。
 7八同と、3一金(詰めろ)、1四歩、2五桂、4七飛(次の図)

変化3三歩成図07
 後手玉には“詰めろ”がかかっている。それを解除するには2四歩しかないが、単に2四歩では2一金、2三玉、4五角、3四銀、3五桂まで、詰んでいる。
 だから、4七飛(図)なのである。王手をかけながら「4五」に利かせていまの手順の先手4五角の手を消した。
 そこで先手は(1)8七香と(2)5七歩とがある。

 (1)8七香、2四歩に、4八歩がある(次の図)

変化3三歩成図08
 4八歩(図)と歩を打った。これを同飛成だとどうなるのか。
 それには、3二金の好手がある。以下、同玉に、4一角、4二玉、8四馬だ(次の図)

変化3三歩成図09
 金を取って、後手玉は3二金の一手詰。なので5四銀が考えられるが、そこで4八馬と竜が取れるというしくみである。
 4八同飛成の変化は、こうなって、先手良し。

変化3三歩成図10
 そういうわけで、先手の4八歩に、後手は4六飛成(図)とする(4五飛成は3七桂があるので4六に成った)
 また、後手はできれば7七飛成と先手玉に迫りたいところだったが、それは2一金、2三玉、4五角があるので駄目なのだ。
 図以下、2一金、2三玉、3三桂成、同玉(同歩もあるが、2六桂、2五歩、3一竜以下、先手良しになる)、4七歩(次の図)

変化3三歩成図11
 ここで4七歩(図)として、これを同竜なら、3五銀で先手が良い。
 なので後手は3五竜だが、以下、3六歩、同竜、1一角、3四玉、5五角成、4四銀(次の図)

変化3三歩成図12
 これはどっちが良いのか?
 どうやら後手が良いようである。先手は後手に角や銀を渡しにくい。
 ここからは手順の一例を示しておく。4六桂、3五玉、6五馬、5三桂、4三馬、4七竜(次の図)

変化3三歩成図13
 4七竜(図)として、後手の手番なら7七竜で先手玉は“受けなし”になる。
 それを防いで、3四馬、4六玉、7八馬はあるが、7七金で、これも後手の勝ち。
 4一竜の攻めがあるが、その手には3三金と受けて、やはり後手が良い。
 この図では、6六銀が一番怪しそうな手だが、それには4六玉とし、4四馬、5六玉と進めて、これも後手が良い。
 (1)8七香以下は、どうやら後手優勢であると結論が出た。

変化3三歩成図14
 では、後手4七飛に、(2)5七歩(図)ならどうなるか。
 これを同飛成と取ると、8七香で先手が勝ちになる(2四歩に2一金、2三玉、4五角があるので後手の“詰めろ”が解消できない)
 したがってここで後手2四歩しかない。以下2一金、2三玉、3三桂成は、やはり同玉で後手が良い(2二角~5五角成は、5七竜、8七香、5五竜で成角を取られる)
 しかし、この場合、3二金がありそう(次の図)

変化3三歩成図15
 3二同玉に、そこで8四馬が、後手玉への“詰めろ”。
 なので後手は4一金と受け、先手は3六香(次の図)

変化3三歩成図16
 3六香に代えて、3三桂成は同玉でうまくいかない。以下4一竜なら、8四歩と角を取って、その手が先手玉への“詰めろ”になって、こうなると後手が良い。
 3六香(図)以下は、2五歩、2四金(詰めろ)、2二金、1一角と攻める。
 後手は4四飛成と受けるのが最善手(次の図)

変化3三歩成図17
 7三馬なら2四竜で、後手良し。
 ここで3三香成と攻めてどうか。以下同金、同金、同竜と応じる。
 以下、7三馬に、7七と(次の図)

変化3三歩成図18
 ついに先手玉に“詰めろ”がかかった。
 9五歩には8四桂があるし、9八金と受けても8七金、同金、同玉、7五桂、7八玉、3八竜、6八歩、7七歩以下、詰んでいる。
 だからここは9八銀と受けることになる。以下、8八金(詰めろ)、8九銀打、9八金、同香に、2二銀(次の図)

変化3三歩成図19
 どうやらこれで、後手優勢がはっきりした。
 図以下、3四歩、同竜、2二角成、同玉、4一竜はあるが、7九角、8八銀打(または金)、同と となって、後手勝勢である。

 以上の調査の結果、「3一飛」は「後手良し」と決まった。

変化3三歩成図20
 だから、「3一飛」に代えて、「4一飛」(図)ならどうかということになる(代えて7一飛もあるが以下3四銀に2一飛成が予想され、その場合4一でも7一でも同じことになる)
 飛車を、「3一」に打つのと「4一」に打つのでは、この場合は大きな違いが出てくるのである。
 ここで先ほどと同じように、5四角と後手が打ってきた場合に、その“違い”があらわれるのだ。
 5四角、9七玉、8一桂、同竜、同角(次の図)

変化3三歩成図21
 ここで8一同飛成なら、7七とで、上の変化に合流し、それは「先手負け」となる。
 ところがこの場合は8一同飛成の一手ではないのだ。ここで“3一金”と打つのが“正解手”だ(次の図)

変化3三歩成図22
 先ほどの「3一飛」の場合と違い、先手が先に“詰めろ”を敵玉にかけることができた。これが“大きな違い”なのである。「8一飛成」の角取りの一手を、“3一金”の一手に使って、“詰めろ”を先にかけることができたわけである。
 この図は、「先手勝ち筋」に入っている。
 後手は“詰めろ”を解除しなければいけないが、2四歩や3四銀なら、そこで8一飛成と角を取って先手良し。1四歩にも、2一金、1三玉、8一飛成だ.
 ここでは後手4二銀左が最善のがんばりとみられる応手だが、その手には2一金、3三玉、3五金(次の図) 

変化3三歩成図23
 依然として先手は“詰めろ”を継続して攻め続けている。なので後手は指したい手「7七と」をまだを指すひまがない。
 後手は“詰めろ”を受けて4四歩だが、そこで先手には8四馬がある。以下、4三玉に、8三馬で、先手勝勢である。

 このように、「4一飛」に、後手 5四角 は「先手良し」となる。

変化3三歩成図24
 ところが、「4一飛」には、今度は、3四銀(図)が難敵となるのだ(もともと「3一飛」を最初に考えたのはこの3四銀を警戒していたからだ。「3一飛」に3四銀は4一竜の用意がある)
 3四銀以下、2一飛成、3三玉(次の図)

変化3三歩成図25
 これが先後どちらが良いのか、それが問題だ。
 3一竜左で勝てればよいが、うまくいかない。3一竜左、7八角(好手)、9七玉、7七と、3二竜右、4四玉(次の図)

変化3三歩成図26
 7八に打った後手の角が「3四」に利いていて、後手は詰みを逃れており、先手玉には“詰めろ”がかかっている。
 以下予想される手順は、8八香、7五桂、7九桂、8九角成、9八金、9五歩、同歩、9六歩、同玉、7八馬(次の図)

変化3三歩成図27
 この変化(3一竜左以下)は、どうやら先手が負けである。

 しかし実は先手にも、“秘手”があって、先手が悪いとも言い切れないのであった。
 2一竜、3三玉のところまで戻って―――

変化3三歩成図28
 そこで3六桂(図)が、“その手”である(ソフト「激指14」はすぐにこの手を示していた。さすがである)
 この桂は後手が6九角と打てば、“タダ取り”できるのだが、それを承知で打つ桂馬なのだ。つまり“犠打”である。この手があるので、形勢不明の勝負となる。
 3六桂は、2四金以下の詰めろになっている。
 ここで6九角以外の手を後手が指すとすると、7五桂、9七玉、7九角(王手をかけつつ2四にも利かせる)だが、以下、8八香、2五銀(後手玉にはまだ先手3二馬、同玉、3一金以下の詰みがあったのでそれを解除した手)、4一竜左、3四玉、3七桂、3五玉、4七金(次の図)

変化3三歩成図29
 こう進んで、これは先手勝ち。

変化3三歩成図30
 なので、先手の3六桂には、素直に6九角(図)が後手の最善の応手である。
 以下、9七玉、3六角成(次の図)

変化3三歩成図31
 戦闘中、ここまでは読めたが、ここから先が、我々(終盤探検隊)にはさっぱりわからなかった。ここから変化がまた多いのである。
 ここで先手の有力手は、(A)3一竜左、(B)4八香、(C)4五歩、(D)3九香とある。
 我々が期待した手は(C)4五歩で、これを本線として考えてみた(次の図)

変化3三歩成図32(3六角成図)
 (C)4五歩(図)、同馬、4八香、4六銀(次の図)

変化3三歩成図33
 4八香に4六銀(図)は、後手最善の応手である。代えて4六桂なら3七桂で先手ペースになるところだった(こういうところを数秒で判断できるのがソフトのすごいところだ)
 ここでは3一竜左と、3七桂の2つの有力手がある。戦闘中は、3七桂しか考えなかった(3一竜左の変化は後で調べたが、結局は後手良しとなった)
 3七桂、5五馬、4六香、同馬、4五歩(次の図)

変化3三歩成図34
 4五歩(図)には、後手同銀だが、そこで〈あ〉4五同桂と、〈い〉4七金とがある。
 〈あ〉4五同桂は、4四玉、5三桂成、7五桂、8八銀、7六桂打と進んでみると―――(次の図)

変化3三歩成図35
 これは、後手良し。後手玉を攻略するのが難しくなっている。

変化3三歩成図36
 しかし、〈い〉4七金という手を我々は発見し、その瞬間、勝利への希望を抱いたのだった。
 この4七金を同馬なら、3五銀と打って、先手が勝てる。
 ところが、ここから7九馬、8八銀に、8五桂という返し技があった(次の図)

変化3三歩成図37
 なんと、先手玉はここから詰まされてしまうのである。
 8五同歩に、8八馬、同玉、8六香、8七桂、7六桂、7七玉、8七香成、同玉、7五桂、7六玉、8七銀(このとき後手の4五銀が居るために6五に逃げられない)、8六玉、7四桂(次の図)

変化3三歩成図38
 人間にはとても読み切れないクラクラするような桂馬地獄的な詰み筋が潜んでいたのである。
 ここからは、9七玉、9六銀成、同玉、9五金以下、難しくない詰みになる。
 この詰み筋さえなければ、先手良しになっていたと思われるのだが。

変化3三歩成図32(再掲3六角成図)
 結局、この図から(C)4五歩では先手の勝ち筋は見つからなかった。
 (A)3一竜左、(B)4八香、(C)4五歩、(D)3九香
 他の有力手も調べてみたが、勝ち筋は発見できず。


 こうして、〔松〕3三歩成 以下は「後手良し」、という結論になった。
 そういうわけで、結局、この 〔松〕3三歩成(同銀、5二角成)の道は、選べなかったのである。


2五香図
 〔梅〕2五香 は“理屈的”にも、有力とみられる手である。その理屈とはこうだ。
 後手は6四桂と打って持駒の桂を一枚手放した。だからもう、歩以外の持駒は後手は「桂一枚」しかない。そういう状況で「2三」を狙えば、後手は受けにくいのではないか、という考えだ。次に2六飛と打てば、それを後手は3一桂(1一桂)となりそうだが、2三同香成、同桂、2四金とすれば、後手はもう受けがない。これは先手勝ちではないか。(2六飛に2四桂は同香、同歩、1五桂、2三香、3五金で受からない)
 6四桂と後手が打った時に、先手を持つ我々(終盤探検隊)が「先手が良くなったのでは?」と感じたのは、こういう手順が有効手になる可能性を知っていたからである。

 「しかし、そう簡単にうまくいくのだろうか」と疑って、しっかり“読み”を入れていくわけである。
 この図で、後手6六銀なら、2六飛以下、いまの手順でたしかに先手が勝ちになる。
 3一桂と先受けしても、2六飛に、後手は指す手がない。
 しかし―――

 この図では、7五桂が後手最善手である。以下、9七玉に、7七とが“詰めろ”。
 先手は9八金と受けるしかない(次の図)

変化2五香図01
 後手は、先手に「金」を受けに使わせた。先ほどとは状況が少し変わった。
 しかし後手はさらに「桂」を使ってしまい、受ける駒がなくなった。次に2六飛と打てば、「2三」を確実に突破できるではないか。
 しかし、手はあった―――(次の図)

変化2五香図02
 「6二金」(図)という手があるのだ。
 ここで2六飛なら、3一玉と玉を引かれ、4一の角を取りにいく。角を取れば、後手7九角と打つ手が激痛の手になる。こうなると、先手が悪い。
 3一玉が入るともう先手は困るので、ここは2三香成、同玉、2五飛と行くしかない。2五飛は、「王手銀取り」だ。
 以下、2四歩、5五飛、6九金(次の図)

変化2五香図03
 形勢はまだわからない。つまり、「互角」である。(少なくとも「2三」を攻めて簡単に勝てるという最初のイメージ通りの展開にはならなかった)
 先手は「銀」を取ったが、後手に「香」を渡してしまった。なのでここで後手の手番なら、9五歩からの攻めがある。しかし一応、4一の角が利いているのでまだ大丈夫だ。
 ここからの先手の指し手が難しい。
 ここで、3三歩成、同玉、5七飛というのが最善と思われるむずかしい手順。
 以下、6七歩、7八歩、7六と、3七飛、4四玉(後手は香車を温存して玉をかわす)、3二飛成、3三桂が予想される手順である(次の図)

変化2五香図04
 竜をつくって、先手がやれそうに見えるが、実はまだ難しい。
 ここで4六銀と打つのは、4五香で先手が困る。
 なので、「7七歩、同と」と7筋で工夫をしてから、4六銀と打つ。
 どう違うかと言えば、4六銀に4五香なら、そこで8四馬と指すつもりだ。以下4六香に、7五馬として、これは先手勝勢である。この最後の手7五馬を可能にするための「7七歩、同と」の細工であった。
 よって後手は4五香ではなく、5四銀と受ける(次の図)

変化2五香図05
 4二竜で銀が取れるが、それは後手の用意した“毒饅頭”。 4二竜なら、6五銀で、その局面はなんと、後手良しになっている。先手玉は8七桂成以下の“詰めろ”である。
 先手は7八歩とする。 同とでも、7六とでも、7六歩でも、その場合は今度は4二竜で先手良しになる。
 しかし、後手5五銀がある(次の図)

変化2五香図06
 この図は、最新ソフトで調べると、ここで5七銀と引けば(評価値+300くらいで)わずかに先手が良いようだ。
 (5五同銀、同玉の展開は後手ペースになる。4二竜も8七と以下後手ペース)
 とはいえ、これは我々(終盤探検隊)が望んだ展開ではない。我々はもっと“さわやかに勝つ”つもりで、この 〔梅〕2五香 の手に期待をかけていたのだ。こんなに難しいことになるのなら、この道は行きたくない。

 以上のような検討の結果を受けて、この 〔梅〕2五香 を我々は選ばなかった。


8九香図
 〔栗〕8九香 は、「激指14」が6番目の候補手として挙げている。
 この図から、7五桂、9七玉、7七とが一つの想定局面だが、これは「7八歩」と打つ手が、あとの変化を考慮した好手になる。「7八歩」に、同歩か7六とと対応するのは、先手からの「3三歩成、同銀、5二角成」が成立して先手の攻めが成功する。
 なので、「7八歩」には7六歩だが、この手の交換があとで先手にプラスに働く。
 そこで8五歩がまた好手(次の図)

変化8九香図01
 7四金なら、3三歩成、同銀、5二角成と攻めて先手優勢になる。後手からの7九角に8六玉と逃げるスペースができている(「7八歩、7六歩」の手交換が入れてあるのでそこで後手7六との手がない)
 よって、後手は8五歩(図)に、同金と応じる。
 8五同金に、3三歩成、同銀、5二角成と、先手はやっぱりこの攻めを敢行する。
 5二同歩に、7五馬と桂馬をはずし(この手を指すための8五歩だった)、これで後手からの7九角が詰めろではなくなった。
 7五同金に、3一飛(詰めろ)と攻めていく。1四歩なら、今取った桂を2五に打って先手勝ちだ。
 3一飛以下、4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金と進む(次の図)

変化8九香図02
 こう進めたときに、先の「7八歩、7六歩」の手交換がまた意味をもってくる。もしも「7八歩、7六歩」が入ってなければ、ここで後手からの8六角、9八玉に、“5四角”の角打ちがあって、以下同金、同銀となったとき先手が負けになっているのである。この角打ちの筋を消すための先の「7八歩」でもあった。
 この図は、先手勝勢になっている。この図でも、7九角、8八歩、8七と、同玉、7七歩成、同歩、5四角という手順はあるが、この場合は、以下、同金、同銀、3七桂(詰めろ)で、先手の勝ちは動かない。
 後手7五桂 以下は、いま示した手順で「先手良し」になる。

変化8九香図03
 戻って、〔栗〕8九香 に、7六歩 と指したのがこの図。
 以下、7八歩に、そこで7五桂と打ち、9七玉、7八とと進んで―――(次の図)

変化8九香図04
 こう進むと、これは逆に「後手良し」になっている。「7六歩、7八歩」を利かせてからの7五桂が好手順だった。
 角を渡すと7九角から詰まされるので(7九角、9八玉、8七桂成、同玉、7七歩成以下)、5二角成を含んだ攻めができない。
 この図で8五歩とするのも、8九と、8四歩に、8五香があって、先手負け。

 この手順があるので、どうやら先手は〔栗〕8九香 では勝てない、と我々は判断したのだった。


7九香図
 〔柿〕7九香 には、7八歩と打たれる手がある(次の図)

変化7九香図01
 7八同香は、7六歩が正しい対応で、どうやら先手が勝てない(7八同香に7七歩なら3三歩成、同銀、5二角成以下先手有望)
 だから、この瞬間に、3三歩成、同銀、5二角成と攻めてどうか、ということになる。この場合、角を渡しても後手から7九角や6九角と王手で打たれる手がないので、それでうまくいかないか―――というところだが、しかし、7五桂、9七玉、7七と と後手に応じられ、どうやら後手勝ちになるとわかった。

 〔柿〕7九香 は、後手良し。


5四歩図
 〔杉〕5四歩 については、「変化が多くて手に負えなかった」ということで、これをあきらめざるを得なかった(「激指」が5番目に推奨していた手)
 この手の意味は、敵陣の金銀の連結を崩すということである。
 5四歩(図)を「同銀」なら、5二角成、同歩、4一飛、3一角と進む。角を受けに使わせて、先手がやれそうに思えるが、その後が案外難しい。5四歩(同歩なら5二金で先手良し)には6三銀と引かれる手がある。しかしそこで6一竜として、先手が良くなるのでは―――というのが検討調査の結論。
 だが、ここで後手が素直に「5四同銀」とは限らない。他に「4四銀上」や「6二銀左」もある。
 そしてもう一つ、先手の5四歩に手を抜いて、「7五桂、9七玉、7七と」がある。これが後手にとって最有力の手順だ(次の図)

変化5四歩図01
 そしてここで、今度は先手側に2つの選択肢がある。
  8九香 と、9八金 だ。どちらも同じくらい有力な手。

変化5四歩図02
 8九香(図)なら、そこで後手は手を戻して、先ほど先手が打った「5四歩」に対処する手を選ぶことになる。後手の選択肢は、5四銀4四銀上6二銀左と、3通りある。

変化5四歩図03
 また、先手が 9八金 を選んだ場合には、そこで後手は7六桂と跳ねてくる手が有力だ。それには、先手は8九香(図)と受ける(5三歩成は8八桂成で先手悪い)
 この図で、また後手の選択肢があり、今度は4通りある。
 “5四銀”、“4四銀上”、“6二銀左”、そして“6四銀左上”。

 数学的に、「場合の数」で考えると、3+(3+4)=10通りの場合の数になる。これらについて全部読み、それを比較検討して結論を出さねばならないのだ。
 調べていて、先手が少し良くなりそうという感じはたしかにあるのだが、読む量が多く読み切れない。読み切れないままに、この道に突入するのは間違いだ、と思った。

 そういうわけで、〔杉〕5四歩 を読むことは、途中で断念した。


2六飛図
 〔柏〕2六飛 はどうか。
 この手は、「激指14」の10個の候補手中にはなかった。しかし我々の“感覚”の中では、あった手で、有力ではないかと思っていた。(「激指14」評価値は-742)
 この手は先に調べた〔梅〕2五香と“対(つい)”になる作戦で、「2五香+2六飛」という「2三」を狙う2段ロケットを設置する意味で、この場合は先に「2六飛」を設置してどうか、ということ。
 ここで後手が7六歩(桂馬を温存して攻める手)なら、2五香と打って、先手の勝ちになる。3一桂(1一桂)なら、2三香成、同桂、2四金で後手は“受けなし”だ。 2五香に、2四桂としても、同香、同歩、3五桂、2三香、同桂成、同玉、3五金で先手勝ちとなる。
 よって、〔柏〕2六飛 には、後手は7五桂しかないということになる。
 以下、9七玉、7七と、「9八金」と進む(次の図)

変化2六飛図01
 先手は2五香と香は攻めに使いたいので、「9八金」(図)と金で受けた。
 後手としては、先手に「金」を受けに“使わせた”。 しかし同時に、後手は「桂」を盤上に使ってしまったので、もう受けに使う駒はない。
 だからもしここで先手の手番なら、2五香で先手の勝ちが確定するが、実際には、手番は後手にあり、2五香の攻めへの“対応策”はある。
 ここで後手は2つの有力手がある。
 8七桂成(8七とでも同じ)と、6二金 だ。

 8七桂成 は、以下、同金、同と、同玉に、“3五金”と打つのが後手のねらいだ。(次の図)

変化2六飛図02
 “3五金”(図)と打たれてみると、先手の飛車は逃げることができない。
 (この筋があるから「激指」は〔柏〕2六飛を候補手に挙げていないのだろう。だがここまできてみると「激指」の後手寄りの評価の数値が小さくなって -190 になっている)
 しかし、先手にも、ここで「5二角成、同歩、3三桂」という“切り返し”がある(次の図)

変化2六飛図03
 これはきわどい勝負になりそうだ。
 図以下、3三同銀、同歩成、同玉に、3九香がある。
 4四玉、3五香、7五桂、9七玉と進む(次の図)

変化2六飛図04
 ここから後手に色々手があるが、先を読んでみると、どの変化もどうやら「先手良し」になる。
 たとえばここで7九角、8八銀、3五角成があるが、3六金と打って、どうやら先手良しだ。
 この図から派生する詳しい変化は省略するが、この図の形勢は「先手良し」。

変化2六飛図05
 後手の“3五金”に、先手5二角成(図)としたところまで戻って、そこで素直に 5二同歩 と応じるのではなく、2六金 と飛車を取る手は、後手の側としては当然考えてみたい手である。その先はどうなるか。
 2六金 に、3三歩成とする。同玉(代えて同歩なら4一馬で先手良し)に、6三馬(次の図)

変化2六飛図06
 これで、どうか。まだ難しいが、正しく指せば、これも先手が勝てるように思われる。
 すなわち、8七桂成 から金を取って“3五金”と打つ変化は、5二角成以下、先手がやれそうだ。

変化2六飛図07
 戻って、もう一つの後手の有力手、6二金(図)を考える。
 これは、先手ねらいの2五香には、3一玉とする意味(角を取りにいく)で、その道は一気に先手が負けとなる。後手に角を持たれると、7九角が厳しいからだ。
 しかし、先手にはここで6三歩がある。7二金なら6一竜で先手良しになる。なので後手は金取りを放置して攻めてくる。
 7六桂で“勝負”だ。
 これに対して6二歩成では8八桂成で先手負けなので、先手は8九香と受ける。
 後手は先手に「香」を受けに使わせた。なので先手の2五香はなくなったのでここで5二金と戻す手は考えられるが、それは3七桂とし、次に5二角成を狙って、先手良し。
 3一玉が後手の最善手である(次の図)

変化2六飛図08
 ここで6二歩成は、4一玉で、やはり後手7九角が厳しく、後手良しになる。
 しかしここで先手には、8五歩の手がある。7四金なら、今度は6二歩成で先手良しとなるのだ。7九角に8六玉と逃げるスペースができたから。
 よって8五歩に、後手は4一玉。以下、8四歩に、7四銀(次の図)

変化2六飛図09
 7四銀(図)が好手で、先手苦戦。
 先手は6二歩成か2三飛成が指したい手だが、7九角、8六玉、6八角成の進行はどうやら後手が良い。

変化2六飛図10
 それでは先手が悪いかというと、それはまだ決められない。
 〔柏〕2六飛 、7五桂、9七玉、7七とに、(「9八金」に代えて)「8九香」(図)とする手もあるからだ。「激指14」の評価値は-745 で後手有利だが、手を追っていくとむしろ先手良しになる場合が多い。
 しかし香車を受けに使ったので2五香と打つねらいが消え、ここからの先手の指し方の方針が、我々にはよくわからない。変化も多く、先を考え進めることができなかった。
 といって、後手がはっきり良いということでもなく、この図は、「形勢互角」ということになる。

 よって、〔柏〕2六飛 の手の評価は「形勢不明」としか言いようがない。
 「互角だが先手の勝ち筋が見えない」という状況なので、この手は選べない(これしか指せそうな手が他にない場合は別だが)




 以上の終盤探検隊の“読み”の結果をまとめると、こうなる。

≪指始図≫(再掲) 6七とまで
  〔松〕3三歩成 → 後手良し
  〔梅〕2五香 → 先手良し(ただし互角に近い)
  〔栗〕8九香 → 後手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 形勢不明
  〔柏〕2六飛 → 形勢不明
  〔桜〕9七玉
  〔桐〕9八玉


 我々が何を指したかは、次の譜で。
 しかし、今回の“読み”につきあってきた読者は、すでにお分かりだろう。



 第35譜につづく
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