はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part29 ≪亜空間の旅≫

2015年06月27日 | しょうぎ
≪月2二玉図≫

    [月夜のでんしんばしら]
 二人はしかたなくよろよろあるきだし、つぎからつぎとはしらがどんどんやって来ます。
  「ドッテテドッテテ、ドッテテド
   やりをかざれるとたん帽ぼう
   すねははしらのごとくなり。
   ドッテテドッテテ、ドッテテド
   肩にかけたるエボレット
   重きつとめをしめすなり。」
 二人の影かげももうずうっと遠くの緑青ろくしょういろの林の方へ行ってしまい、月がうろこ雲からぱっと出て、あたりはにわかに明るくなりました。
 でんしんばしらはもうみんな、非常なご機嫌きげんです。恭一の前に来ると、わざと肩をそびやかしたり、横めでわらったりして過ぎるのでした。
            (宮沢賢治作童話『月夜のでんしんばしら』から)



 「エボレット」とは、軍人の正装のときに両肩に付いている装飾(肩章)のことだそうだ。
 童話『月夜のでんしんばしら』を宮沢賢治が書いたのは、賢治が東京にいた時、1921年だと思われる。
 東北盛岡の大学を卒業した後、とくに就職することをせずにいた宮沢賢治が東京へ出たのは、25歳の時、1921年の1月で、前年にすでに入信していた国柱会という田中智学を創設者とする法華経系宗教団体と活動を共にするのが目的であった。ところがその1921年の8月、妹のトシが病気でたいへんだという報を聞くと、あっさり賢治は親元の花巻へ帰り、父親の用意した農業学校の教師という職に就くのである。わずか7か月の東京生活であった。志を立てて上京したにもかかわらず、妹が病気だという理由ですぐに故郷へ帰ってしまったところをみると、東京での生活のなにかがおそらく賢治を失望させたのであろう。
 その東京生活で、賢治は「トランク一杯の童話の原稿」を書き溜めていたのだった。

 風雲の時代であった。
 1914年には、“世界大戦”がヨーロッパで起こった。その戦争では、「機関銃」と「戦車」とが登場し、戦争というものが、男らしい人間の熱い血を感じさせる個の闘いを表現する部分が小さくなり、冷徹な機械による大量殺人の色合いが徐々に大きくなってきていた。
 1920年頃、欧米の空には「飛行機」が現れ始めていた。
 宮沢賢治がこの『月夜のでんしんばしら』を書いたころ、「電信柱」は、おそらく最新科学の成果を具体的に表すものだったであろう。
 1920年代はドイツおよびデンマークで「量子力学」が発展した。今日、我々の生活はコンピュータやテレビ、携帯電話など「電気」や「無線」と切り離すことができないが、その基礎理論はこの時代に確立されたのである。

 アメリカで、1921年、『宇宙のスカイラーク』という小説がE・E・スミスによって書かれていた。しかしこの小説は出版社に受け入れられず、長いこと眠っていた。1928年になって、SF雑誌に採用され、発表された。
 1921年の段階ではまだSF雑誌など存在しておらず、1926年にヒューゴー・ガーンズバックによって<アメイジング・ストーリーズ誌>が創刊したことによって、『宇宙のスカイラーク』はやっと陽の目を見たのである。ガーンズバックという男は、「ラジオ」に人生を懸けた男だった。「ラジオ無線」を世の中に普及するために「SF雑誌」というそれまでには存在しなかったものをつくったのだ。
 1920年代、「ラジオ無線」は急速に普及を拡大させつつあった。(アメリカでのラジオ局の開局は1920年、日本は1925年)
 『宇宙のスカイラーク』は発表されると、途端に大人気となった。とくに潜在的にいた「SFマニア」の心を揺さぶった。作者のE・E・スミスは本職は化学者であり、1920年代、ドーナッツの粉をつくる会社で化学主任を務めていた。
 『宇宙のスカイラーク』によって、物語の中でではあるが、人類は初めて「外宇宙」へと飛び出したのであった。「外宇宙」とは、つまり、“太陽系の外”ということである。宇宙船スカイラーク号は、この話の主人公リチャード・シートンによって発見された“X金属”によって得られた強力なエネルギーによって、光速を超えて、あっという間に太陽系を飛び出してしまったのだ。
 そういう話であれば、日本の、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』も、人が「外宇宙」(=銀河)へ飛び出した話、という見かたもできる。賢治がそのストーリーの初稿を書いたのは1924年である。しかし、宮沢賢治の『月夜のでんしんばしら』や『銀河鉄道の夜』が一般の人の目に触れるようになったのは、賢治の死(1933年)の後のことになる。

 1917年には、世界を驚かす大事件が起こった。ロシア革命、すなわち、共産主義国家ソビエト連邦共和国の誕生である。
 19世紀はずっと、「英国の時代」であった。第一次世界大戦もその強大なイギリス側が当然のように勝利を収めた。
 しかし、世界の覇権の中心点は徐々に、イギリスからアメリカ合衆国へと移りつつあった。そういう時代である。
 欧州ではソ連邦とともにドイツ連邦またも強大な勢力になってきていた。第一次世界大戦で敗れたにもかかわらず、しかしそれでもドイツはまたむくむくと立ちあがろうとしていた。ドイツの国力の魔法のタネは、「教育」と「科学」にあった。「教育」と「科学」と「国民の力」とを結びつけることで他の国の追随を許さない勢いを築くことになったのである。国家レベルで、国民の中に、「科学」における才能を見い出し、育て、花開かせるよう「教育」の充実を計ったのだ。その結果、ドイツ連邦国はこの時代、世界一の「科学」の才能を集めていたのだった。各国の、才能と未来のある若い科学者たちの多くが、ドイツへと留学に行った。
 イギリスの作家H・G・ウェルズが『解放された世界』を書いて「原子爆弾」というものを想定した戦争を描いたが、それは1914年に発表されたものである。ウェルズはこの時期に、「ドイツの国力」と「科学の発展」とに、大きな怖れと警戒心を抱いたのである。それが『解放された世界』というSF小説として表されたわけだ。
 しかしまだこの時点では「核分裂」は発見されていなかったし、そういう原子の「核」がパカッと割れてしまう、そんな発想は物理学者にも小説家にもなかった。現実の「科学の発展」は、人間の想像の上を飛んでいたのである。
 「核分裂」が最初に発見されたのは1938年ドイツ・ベルリンの実験室であり、それを原理とした「原子爆弾」が最初につくられたのはアメリカである。そしてそれが最初に使用された場所は、日本・広島であり、それは1945年8月のことだった。

 第一次世界大戦中、国力が大きく増大した国がある。日本である。イギリスやドイツが戦争で船を沈没させていく中、日本は多くの造船の注文を受けたのである。
 その時代、「船」というモノが国力を表す指標となりそうであるが、1920年頃日本の海運業は船の総トン数で世界第3位になっていた。
 1919年に、国際連盟から委任されて、太平洋南海のマーシャル諸島が日本の統治領となった。
 その後、第二次世界大戦ではここは日米の戦いの場となり、大戦後に、ここはアメリカの「水素核融合爆弾」の実験場にもなった。
 そして戦後の日本の映画の中で、イメージ上でだが、この「南海」を母体として、ゴジラ、モスラが誕生したのである。
 


倉敷藤花 甲斐-山田戦
 これは甲斐智美-山田久美戦(2014-11-05 倉敷藤花第1局)の棋譜の93手目の図。
( 棋譜・中継ブログは、こちら倉敷藤花戦三番勝負の中継サイトで。)

 ここから実戦には現れなかった順に入り、ここから先の世界をこの報告では、≪亜空間≫と呼ぶ。

 3四飛成、同玉、5二金、3一銀、5一歩、2二銀成、同玉と進んで次の図となる。(そしてこの手順の途中5二金が“月の道”への入口である)

≪月2二玉図≫
 ここが問題の局面である。(この2二同玉で「甲斐-山田戦」の初手からちょうど100手目となる)
 我々としては、なんとしてもここからの「先手の勝ち筋」を見つけて、≪亜空間戦争≫を終結させたい。
 しかし、ここで我ら終盤探検隊が 最有力とみていた「4一銀」では、後手に4二桂、2五玉、4一銀と返されて、その図はどうやら先手負けになっている とわかった。それが前回のレポートである。
 
 ということで我々はここから〔一〕4一銀以外の手を探さなければならない。 ――だが、それが難しいのだ。


〔二〕2五玉

2五玉基本図
 〔二〕2五玉でどうなるか。
 後手は3三桂と跳ぶ。この桂馬を跳ぶと、後手玉にはスキができる。具体的には、3一銀、同玉、1一飛からの“詰み筋”が生じるが…
 3三桂、2六玉、3四桂、1七玉、3八金(次の図)

2五玉図1
 先手玉は2八銀、1八玉、2九銀不成、1七玉、2五桂までの“詰めろ”が掛かっている。
 これを受けるなら<ア>1五歩か、<イ>1八玉、2八銀、4九飛しかない。(2六歩は、2八銀、1八玉、2九銀不成、1七玉、2五桂打以下詰み)

 しかしここで後手玉に“詰み”はないのか。詰んでいれば、もちろん先手が勝ちだ。
 図から1八玉、2八銀と銀を使わせて、そこで3一銀から詰めに行く。
 3一銀、同玉、1一飛、2一銀打、4一金(次の図)

2五玉図2
 4一同銀、同桂成、3二玉、2一飛成、同玉、2二銀、3二玉(次の図)

2五玉図3
 いまの2二銀を“同玉”と取ってくれれば、3一角、3二玉、4二成桂、同金、同角成、同玉、3一角、同玉、5一竜以下詰むのだが…。
 しかし3二玉とかわしたこの図は“不詰”。 もしもこの図で玉が3四にいたならば3三銀成があるので詰みなのだが…。あるいはまた、「銀」がもう一枚多く先手の手駒にあればこの順で後手玉は詰むのであったが…。


2五玉図1
 もう一度この図に戻って、後手玉に詰みはないとわかったので、ここは先手玉の2八銀からの“詰み”を受けることになる。まず<ア>1五歩を検討する。
 <ア>1五歩だと、2九金がある。これは2八銀以下の“詰めろ”なので、先手はそれを受けて3八飛。
 しかし2五桂打、1八玉(1六玉は1四歩で必至)、3七歩(次の図)

2五玉図2
 以下7八飛に、2八銀で受けなし。後手の勝ち。


2五玉図3
 で、<イ>1八玉、2八銀、4九飛(図)と受けてみよう。(これでは勝てそうな気はしないが、しかたがない)
 以下2九銀不成、同飛、同金、同玉、3七銀不成(次の図)

2五玉図4
 飛車と金銀の二枚替えで先手は持駒が増えて「角角金金銀銀」となった。金銀は増えたがしかし今度は飛車がないので、3一銀、同玉、1一飛という“詰み筋”はなく、詰ますとすれば3一銀、同玉、4一金、同銀、同桂成、同玉、4二歩という攻め筋になるが、4二同金、6三角、5二銀で、届かない。
 なのでこの図では受けることになるが、しかし受けもなさそうだ。3筋に歩が利くので3九銀と受けても3八歩があるし、1七角(銀)の受けには、2五桂打がある。
 だから図で3九金と受けるが、それには2八飛(次の図)

2五玉図5
 以下、詰んでいる。2八同金、同銀成、同玉、3六桂、3九玉、3八歩、同玉、3七歩、同玉、4七金、3六玉、4六金、3五玉、4五金、3四玉、4四金(次の図)

2五玉図6
 奇麗に詰め上げられてしまった。

 というわけで、〔二〕2五玉は3三桂以下、「後手勝ち」、となる。


≪月2二玉図≫再掲
 さて、どうすればよいのだろう。
 次は〔三〕6六角で勝負しよう。


〔三〕6六角

6六角基本図
 将棋というのはタイミングが大事で、さあ、ここでの角打ち――〔三〕6六角はどうだろうか。
 これまでの検討でも、この筋の角打ちが有効なこともあれば、そうでないこともあった。

 この〔三〕6六角に、3三桂なら、先手が勝つ。
 3三桂は、2五銀や4五銀、さらに4二桂という3つの“詰めろ”を狙った手だが――
 3三桂に、3一銀、同玉、4一飛(次の図)

6六角図1
 4一同銀、同桂成、同玉、3二金、同玉、3三角成以下、後手玉が“詰み”だ。

 したがって6六角に3三桂はないが、3三桂打(次の図)がある。

6六角図2
 この3三桂打が先手にとって“難敵”なのだ。
 これは放っておくと、2五銀、または4五銀の一手詰め。
 なのでそれを受けるなら<b>3六金のような受けになるが、攻めて局面をほぐす狙いの<a>3一角(次の図)から考えてみたい。

6六角図3
 3三桂打に、<a>3一角と指したところ。
 以下、3一同玉、4一飛、同銀、同桂成、同玉、2三玉で、次の図。

6六角図4
 2三玉と先手は入り、次は1二玉~1一玉をねらう。
 しかしここで後手に4二飛という手がある。
 以下、2二銀に、6七角、3四歩、1四銀、1二玉、3四角成、1一玉、2二飛(次の図)

6六角図5
 一応は入玉したものの、この図は後手勝ちになっている。
 2二同玉に、2三馬、1一玉、2二銀、2一玉、3二馬、1二玉、2三銀引までの詰み。

 3三桂打に、<b>3六金と詰みを受けた場合を次に検討する。

6六角図6
 <b>3六金に、後手は4四歩。次に4三金までの一手詰め。
 ここで4六金なら、同金。そこで4四玉には、4五銀(次の図)

6六角図7
 これでどうやら先手玉は“受けなし”。 攻める手もないので、後手の勝ち。
 (この図で、もしも先手の6六の角の位置が7七や8八だったら、5五玉と逃げる手があって、図の4五銀では決め手にならない。しかしその場合には4五銀に代えて、6四銀や、6三銀など、別の有力手があるので、それでも後手の勝ちは変わらない)

 なので後手の4四歩に対し、そのタイミングで3一角から攻めるのはどうだろうか(次の図)

6六角図8
 3一角に、同玉、4一飛、同銀、同桂成、同玉、2三玉、3一銀、1二玉、3四角(次の図)

6六角図9
 この場合は先手の3六金がいるので、後手6七角からの成角の攻めはない。しかし3四角(図)がある。
 2三香、同角、同玉、2二飛、3四玉、4二桂、4四玉、4三香(次の図)

6六角図10
 まで、先手玉は詰んだ。

 手順を尽くして頑張ってはみたが、結局、先手の勝ち筋は発見できなかった。


 以上の結果、〔三〕6六角は3三桂打で「後手勝ち」、である。


≪月2二玉図≫再掲
 この図で先手の勝てる道を見つけなければ“アウト”である。≪亜空間戦争≫は「後手勝ち」で終了となる。
 (いつのまにか)先手軍の正規応援部隊となっている我々終盤探検隊としては、それは困るのである。我々はこの≪戦争≫に勝利して、≪亜空間≫を脱出したいのだ。
 
 この図で、先手がぼやぼやしていると、後手からは2つの手段があって、先手が負ける。
 一つは、4二桂、2五玉、3三桂、2六玉、3四桂、1七玉、3八金。
 もう一つは、3三桂打。

 この二つの後手の手段を避けながら、後手玉を攻略する道を探さなければならない。

 4つ目の手として、〔四〕4五玉を考えてみよう。


〔四〕4五玉

4五玉基本図
 ここで〔四〕4五玉はどうだろうか。
 対して5三金なら、3一銀、同玉、5一竜以下の後手玉の詰みがあるので、ここで5三金はない。
 しかし問題は4二桂(次の図)である。

4五玉図1
 この図は、後手の手番ならば、4四銀、または3四銀から詰まされる。3三桂からの詰みもあり、受けが難しい。
 6六角くらいしかなさそうだ。この6六角に3三桂なら、同角成で、これは後手玉が詰んでしまうので先手勝ち。  しかし6六角に、4四銀と受けられる。以下、同角、同歩、3六玉、3四桂で、次の図。

4五玉図2
 この図は、先手玉“必至”の図で、「後手勝ち」。
 後手には角しかないが、先手玉の詰みを防ぐ手はない。後手4五角の詰みを防いでも、3五歩、2五玉、3三桂という詰み筋があるし、それを同時に防ぐ8五飛には、3七金、同桂、4七角という詰み筋がある。
 したがって、先手は図から、3一銀、同玉、4一金から攻めながら状況を打開するしかないが、それもうまくいかない。

 〔四〕4五玉は、4二桂で「後手勝ち」、が結論となる。


≪月2二玉図≫再掲
 〔一〕4一銀  → 後手勝ち
 〔二〕2五玉  → 後手勝ち
 〔三〕6六角  → 後手勝ち
 〔四〕4五玉  → 後手勝ち

 ここで先手の勝つ手段を見つけなければならない。


         →part30に続く
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終盤探検隊 part28 ≪亜空間の旅≫

2015年06月17日 | しょうぎ
≪月4二桂の図≫

    [FLY ME TO THE MOON]

 Fly me to the Moon
 And let me play among the stars
 Let me see what Spring is like on Jupiter and Mars
 In other words, hold my hand !
 In other words, darling kiss me !

            (ジャズ楽曲『Fly Me To The Moon』から 作詞・作曲/Bart Howard)

 
 有名なアニメ『エヴァンゲリオン』のエンディング曲にも使われ、他にも多くの歌手にカヴァーされたこの楽曲だが、この曲は1954年につくられ、1969年のアポロ11号にもその録音テープが積み込まれたそうな。
 その歌詩を見ると、上にあるように「木星や火星の春を私に見せてよ」とある。つまりこれは月に私を連れて行くだけでなく、さらにもっと遠くの世界へと私を連れて行ってよ、という意味の曲なのである。
 (無茶言うなよ。 ほんとに行くのは――、地獄だぜ。 地獄に連れて行け、というさらに深い意味があるのかもしれないがね。)

 
倉敷藤花 甲斐-山田戦
 甲斐智美-山田久美戦(2014-11-05 倉敷藤花第1局)の棋譜の93手目の図。
 実戦は後手3五飛成。以下、先手甲斐智美の玉が入玉して先手勝ち。
 しかしこの手で「3四飛成」ならどうだったか? ここからの変化に我ら「終盤探検隊」は乗りだし、≪亜空間戦争≫という泥沼にはまってしまった。ここから抜け出すには、先手の勝ち筋を見つけて勝利に導くしかない、そういう状況に追い込まれてしまったのである。≪亜空間≫とはそのような怖い空間なのである。
 
 3四飛成、同玉。

 そこで後手には4つの有力手があり(3三桂、3三銀直、4二金、5二金)、それぞれの道を我々は“花鳥風月”と名付けた。最初の3つの道は「先手勝ち」を確定させることができた。
 そして今、4つ目の“月の道”を探査してきて、我々はやっとその最終段階に辿り着いたのかもしれない。

 次の図、「5二金」の一手がその“月の道”である。

≪月5二金図≫
  (猪)3一銀  →調査中
  (鹿)2五玉  →後手勝ち
  (蝶)4五玉  →後手勝ち
  (蛙)4一桂成 →後手勝ち
  (燕)9一竜  →後手勝ち
  (雁)6四角  →後手勝ち
  (鶴)7七角  →後手勝ち

 「5二金」に、我々はなかなか(先手の)勝ち筋を見つけることができなかった。今もまだそれはできていないわけだが、「(猪)3一銀」が元々最有力とみていた手であり、これで勝てるかもしれない。
 その「(猪)3一銀」には、【B】3三銀直や、【C】4二桂という後手の手段もあるが、それらの手に対しては先手が撃破することができた。
 そこで後手は【A】5一歩とする。これまた後手の最有力と目される手である。

 すなわち、この図から、3一銀、5一歩、2二銀成、同玉、4一銀と進み、次の図となる。

≪月4一銀図≫
 「4一銀」が、これで勝ちを決めてやろう、という意思の籠った手である。
 対して、次のような手がある。
 〔I〕4一同銀  → 先手勝ち
 〔J〕3三歩   → 先手勝ち
 〔K〕3三銀   → 先手勝ち
 〔L〕3三銀打  → 先手勝ち
 〔M〕4二桂
 〔N〕3一歩   → 先手勝ち

 調査してきた結果、後手には、〔M〕4二桂、この手しか残っていない。

 これを破れば、「先手の勝ち」が確定し、≪亜空間戦争≫は終結するのである。


4二桂図1
 さあ、それでは〔M〕4二桂(図)の検討調査を始めよう。
 4二桂には、先手は2五玉しかない。

後手3三桂の変化図1
 そこで後手3三桂はどうなるか。これは2六玉に、さらに3四桂と追うことができて、後手好調にも思える。
 すなわち、3三桂、2六玉、3四桂、1七玉と進む。
 そこで4一銀(銀を取る)は、3一角、同玉、1一飛、2一銀、4一桂成、2二玉、2一飛成、同玉、2二銀以下“詰み”。
 したがって、1七玉に2五桂、1八玉として、後手の玉の脱出路(3三)を開けておいて、それから4一銀が考えられる。
 しかし、そこで先手は8八角と打ち、後手3三歩に、1一角(次の図)とすると――

後手3三桂の変化図2
 なんと後手玉はこれで詰まされてしまう。1一同玉に3一飛と打ち、2一銀、2二金(次の図)

後手3三桂の変化図3
 2二同玉、3三飛成、1一玉、3一竜で“詰み”である。
 どうも後手にとって、すぐに3三桂と王手で桂を活用するのはまずいようである。

 というわけで、後手は、4二桂、2五玉に、そこで4一銀と銀を取るのが本筋となる。 それが次の図。

4二桂図2
 さあ、ここでどう指すか。それが問題だ。(この図が「先手勝ち」なら、ついに≪亜空間戦争≫は終結するのである!)

 〔O〕4一同桂成、〔P〕7七角

 ここで、この2つの候補手がある。


4二桂図3
 〔O〕4一同桂成と指したところ。これで勝ちならさわやかだ。
 ここで3三桂と桂馬を跳ぶ。
 3三桂、1五玉、1四歩、2六玉、3七銀打で、次の図。

4二桂図4
 あっさり先手玉は詰んでしまった!
 これはいけない。だから〔O〕4一同桂成では、「先手負け」。

 そうなると先手は次の候補手〔P〕7七角に期待することになるが。

4二桂図5
 〔P〕7七角に、後手が3三歩と受けたところ。
 しかしどうもこの図は先手が勝てそうにない。というのは、後手は銀二枚を持っているので先手玉には“詰めろ”が掛かっているからだ。それを受けるために1五歩などとすれば、3二銀とされて先手の4一銀からの攻めは空振りにされてしまっていけない。
 〔P〕7七角、3三歩に、4一桂成以下、先手玉の“詰み”を確認しておこう。

 4一桂成、2四歩(次の図)

4二桂図6
 1五玉、1四歩、2六玉、3七銀打(次の図)
 やはり3七銀打がある。

4二桂図7
 以下、3七同桂、同銀不成、1七玉、2八銀打、1八玉、2九銀不成、同玉、3八金、1八玉、2八金、1七玉、2五桂まで。

 さて、〔O〕4一同桂成、〔P〕7七角、そのどちらも駄目ということになれば、先手は別の手を見つけなければいけなくなった。
 状勢は一変し、逆に先手のピンチである。

 
 〔Q〕3六飛(次の図)はどうか。

4二桂図8
 〔Q〕3六飛、これは3一角から後手玉への“詰めろ”になっている。
 対して3三歩なら、これは4一桂成で先手良し。
 また、3三桂なら、同飛成、同玉、1一角、2二銀、3四歩、同桂、4五桂という攻めがある。
 〔Q〕3六飛に対する後手の最善手は、3五銀打。以下、同飛、同銀、同玉、5三金(次の図)

4二桂図9
 ここで5一竜と指したいが――
 5一竜、4四金、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、1七銀、同桂、同桂成、同玉、2五桂、1八玉、2六桂(次の図)

4二桂図10
 詰んでしまった。「先手負け」である。
 (5一竜の手で、代えて6六角は、後手4四金で、やはり先手の負け将棋)


4二桂図11
 〔R〕3六金。第4の手。 これで駄目なら、この変化は「後手勝ち」で確定する。(他に有望な手はなさそうだ)
 この3六金では、先手勝てそうな気はしないが、やってみなければわからない。いけそうな手が駄目だったということがあるように、逆に、ダメそうな手がイケていた、ということだってあるのだ。それが将棋だ。

 3三桂、2六玉、2五銀(次の図)

4二桂図12
 2五同金、3七銀打(やっぱりここでもこの銀打ちだ)、同桂、同銀不成、3五玉、3四歩(次の図)

4二桂図13
 3四同金、4六銀不成、2六玉、3四桂、1七玉、2五桂、1八玉、1七金、2九玉、3七桂不成(次の図)

4二桂図14
 3九玉、4八と、同金、3八歩、同金、同金、同玉、2六桂(次の図)

4二桂図15
 4二に打った桂が、3四→2六と跳躍。後手にとっては快感の手順。
 2六同歩(4八玉には5六桂がある)、4七金、3九玉、2七桂(次の図)

4二桂図16

 ぴったり、詰み。


 かくして、結論は出た。


≪月4一銀図≫
 〔I〕4一同銀  → 先手勝ち
 〔J〕3三歩   → 先手勝ち
 〔K〕3三銀   → 先手勝ち
 〔L〕3三銀打  → 先手勝ち
 〔M〕4二桂   → 後手勝ち
 〔N〕3一歩   → 先手勝ち

 よってこの図≪月4一銀図≫は、〔M〕4二桂があるので「後手勝ち」、と結論が出たのである。


 先手は、後手に“とどめの一撃”を見舞うことができず、「4一銀」以外の有効な手を見つけなければならなくなった。
 “勝利のチャンス”が、一転して、“敗戦の危機”へと暗転したのである。

 ああ、泥沼の≪亜空間戦争≫…。



         →part29に続く
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終盤探検隊 part27 ≪亜空間の旅≫

2015年06月07日 | しょうぎ
≪月2二銀成図≫

    [バック・トゥ・2001]
 一九六四年春……月着陸は、心理的には遠い未来の夢と思われていた。理性では当然の成行きだとわかっているが、感情ではどうも信じきれないところがあった……最初の二人乗りジェミニ宇宙船(グリソムとヤング)が成功するのは一年後であり、月の表面の状態については相変わらず激しい議論がつづいていた……NASAは、われわれの映画の全予算(一千万ドル余)に相当する額を毎日つかっていたが、宇宙探検にはまだまだ時間がかかりそうだった。だが、きざしは見えていた。映画がまだ一番館で上映されているうちに、人間が月に降り立つんじゃないか。わたしはよくスタンリーにいったものだ……というわけで、われわれにとって最大の問題は、この先数年間にどんなことが起きようと、時代遅れにならない――それどころか、爆笑ものにならない――ストーリーをこしらえることだった。つまり、未来を先取りしなければならないわけで、ひとつの方法は、現在をどこまでも先へ進み、事実に追いつかれる心配をなくしてしまうことである。その一方で、あまり先に進めば、観客との接点を失ってしまう容易ならない危険も存在した。

     (アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』2001年に改めて書かれた新版序文から
                この部分は1972年発行のノンフィクション『2001年・失われた世界』からの引用)



 映画『2001年宇宙の旅』(監督スタンリー・キューブリック)は、1964年にキューブリックがSF作家アーサー・C・クラークにコンタクトをとり、「SFで何か良いアイデアはないか」と話しかけて企画がスタートする。
 この映画の公開は1968年で、同時にクラークの小説版も発表された。
 そして、アポロ11号の乗組員による人類初の月面着陸は、翌年1969年である。

 映画『2001年宇宙の旅』は、月の地下に300万年間埋められていた「モノリス」(1:4:9の比をもつ謎の直方体)を発見した人類が、2001年にその「モノリス」から、それが太陽の光を浴びた瞬間に発っせられた電波の示す方向に向かって、その“謎”についての探査の旅をするという話である。宇宙船の目的地は木星の衛星であった。「モノリス」を月の地下に(300万年前に)埋めたのは誰なのか。その電波の示した先――木星にはいったい何があるのか。
 アーサー・C・クラークの小説では、目的地は木星ではなく、土星の衛星ヤペタスになっている。元々はそうだったのが、映画ではそれが木星の衛星に変更されている。監督キューブリックが木星に変更した理由の一つは、映画の美術制作班が、“土星の輪”をキューブリックの満足するレベルにまで表現しきれなかったということがあるらしい。
 アーサー・C・クラークは1982年になって続編『2010年宇宙の旅』を発表したが、この話の中では、映画版に考えを寄せて「木星」という設定に変えて話を進めている。どうやらクラークは、惑星無人探査機ボイジャー1号2号が1979年に木星に接近してその時に送られてきた木星の衛星等の画像に感動し、それで『2010年宇宙の旅』を書く気になったらしい。

 さて、『2001年宇宙の旅』の話だが、この物語の中では、月で「モノリス」が発見されたのは1995年になっている。小説をよく読めば、その1995年の段階ですでに人類は火星にも足を踏み入れている。
 そして2001年には木星の衛星に何かがありそうだということで宇宙船(ディスカバリー号)を建造し、それでその“謎”の調査に出発するのだが、それは途方もない距離で、何年もかかる。乗組員の何年分もの食料を積んでいくのは無理だが、そのかわり「冷凍睡眠」という技術が発展しているので大丈夫。「冷凍睡眠」は(この小説の中の2001年では)人間にとって危険性はゼロと科学的には確定している。
 小説版では上で述べたように、宇宙船ディスカバリー号は土星を目的地としているのだが、最初からこの宇宙船の旅は“片道の旅”という計画であった。数年をかけて土星まで行き、衛星ヤペタスを周回する“衛星の衛星”になって、ディスカバリー号はそこにずっとヤペタスの“観測者”として固定されるのである。では、この宇宙船の乗組員はどうするのか。ヤペタスに着いたその5年後に到着する予定のディスカバリー2号が到着するのを待って、それに乗って地球に帰るという計画だ。もちろん、それまでの間、「冷凍睡眠」で大部分の時を過ごすわけである。

 このように、1969年、アポロ宇宙飛行士が月に降り立った頃、人類の気分は「月の次は火星に行くぜ!」、であった。
 だから当然21世紀にはそうなっているだろうし、もっと進んでいるかもしれない。「冷凍睡眠」だって実現しているかもしれない…。「タイムマシン」だって、もしかしたら…。
 1956年に発表されたロバート・A・ハインライン著『夏への扉』では、「冷凍睡眠」技術はすでに1970年には実用化されているし、1950年単行本発行のレイ・ブラッドベリ著『火星年代記』では1999年に人類は火星への移住・植民を開始している。
 1950年~1970年の人類の「気分」はそのようなものであった。
 無理もない、1890年から1970年までの間、科学はすさまじい発展をした。1900年には存在しなかった「飛行機」という物体が数十年後には空を舞うようになっていたし、「電波」の利用によって夢の無線遠隔通信さえ可能になり、映像までも送信できるようになった。一つの都市を吹っ飛ばすほどの爆弾もつくられ、それが「水爆」という形でさらに巨大になっていく――1960年代はそういう時代であった。
 だが、その時には10年後か20年後には実現しているだろうと思われていた「核融合エネルギーの実用化」は、いまだに実現していない。
 未来を予測するのはむつかしい…。
 人間の安全な「冷凍睡眠」がこの先、実現することなど、あるのだろうか?

 『2001年宇宙の旅』の映画版、およびクラークの小説『2010年宇宙の旅』では、木星の衛星をめざして宇宙船ディスカバリー号は出発した。この物語の中では、どうやら木星の衛星エウロパに、“知的生命”が育ってきているらしい、という設定になっている。
 現在では木星の衛星は50個以上も発見されているが、大きい衛星の4つ、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストは17世紀にすでに発見されていた。発見者は、あのガリレオ・ガリレイである。よってこの4つは「ガリレオ衛星」とまとめて呼ばれることもあるが、その大きさは地球を周回する我らの「月」とだいたい同じくらいである。
 そうであれば、そこに住む「宇宙人」がいて――という物語も当然生まれてくる。そういうSF小説は確かに書かれた。
 しかし、そのほとんどは1940年代以前に書かれた小説である。
 月や火星にどうやら生命はないようだと科学的な観測から明らかになってくると、安易にそのような宇宙生物を描くと、マンガチックになってしまう。
 SF文化は、1970年頃からすでに実は難しくなり、衰退の兆しを含んでいたのである。
 映画『スター・ウォーズ』は1977年に公開されたが、あの世界は、古い、1930年代のSFのような古典的な香りがある。見かけは「SF」ではあっても、科学性はほとんどない。

 マンガ『生物都市』(諸星大二郎作1974年)は、1980年代の設定で、木星の衛星イオの探査から帰還した宇宙船からもたらされたものによって、人間と機械とがひとかたまりになって融合していく、という物語。日本は戦争の影響もあって国全体が貧乏になり、海外旅行もほとんどできず(1ドル=360円時代)、そのために本格的にアメリカSF文化が輸入され広がっていくのはずいぶんと遅れていて、1970年代になって活発になった。SFに関して本家のアメリカとはかなりの“時差”があった。
 しかし『生物都市』の設定――わずか10数年後、1980年代には宇宙船が木星まで行って帰る、そういう設定――からも、そのころの「人類の宇宙や未来への力強い気分」が日本でも反映されていることが見てとれる。
 日本の人工衛星の打ち上げも1970年に成功している。
 ちなみに、現在では、木星の衛星イオでは活発な火山活動があるとわかっている。

 今では、観測技術が進歩していくにつれ、宇宙にはあれが「ない」、これが「ない」というということが色々と確かになった。月にも火星にも「宇宙人」はいない。「ない」となればやる気も出ない。
 1970年頃、アポロ11号の持ち帰った「石ころ」を見てコーフンしていた人類も、火星の赤い石ころを拾うためだけのために、死にもの狂いの努力をする気にはもはやなれないだろう。ましてや木星は……遠すぎる。
 しかし現実のエウロパには、どうやら海があるとわかっている。「宇宙人」はいないにしても、生命存在の可能性はあるようだ。

 『2001年宇宙の旅』の目的地=木星の衛星エウロパ(または土星の衛星ヤペタス)で宇宙飛行士ボーマンが見たものは、衛星上空に浮かぶ「巨大モノリス」であった。
 それは別世界への通路、「スターゲイト」だった。



 ≪亜空間戦争≫は、ついに最終局面である。

≪月3一銀図≫再掲
 【A】5一歩      
 【B】3三銀直  →先手勝ち
 【C】4二桂  →先手勝ち

 この図は、後手92手目5二金(ここから始まる変化を≪月の道≫と呼んでいる)に、先手が「3一銀」としたところである。これ以外の先手の手ではすべて「後手良し」となった。先手が勝つためには、どうやらこの「3一銀」しかないようだ。

 そこで、後手の手段は上の【A】【B】【C】の3つだが、そのうちの【B】【C】は「先手勝ち」になった。
 よって、後手は今度は【A】5一歩を選ぶ。

≪月5一歩図≫
 後手5一歩に、2二銀成、同玉となって、次の図になる。

≪月2二玉図≫
 ここでどう攻めるか。それが問題だ。
 やはりここは 「4一銀」 と攻めたい。これが最有力の攻めだ。

≪月4一銀図≫
  「4一銀」 は“詰めろ”である。
 「同銀、同桂成」と進んだその局面もやはり後手玉は“詰めろ”になっている。しかしそれで先手は勝てるのかどうか。
 これが今回のテーマである。

  「4一銀」 に、考えられる後手の応手は、〔I〕4一同銀、〔J〕3三歩、〔K〕3三銀、〔L〕3三銀打、〔M〕4二桂、〔N〕3一歩の6つ。
 このうち、有力なのは〔I〕4一同銀、〔L〕3三銀打、〔M〕4二桂だが、先手が勝利を掴むためにはこの6つの指し手、そのすべてを粉砕し、先手が勝てることをそれぞれ明らかにしていく必要がある。
 明解にわかるのは〔N〕3一歩で、これは3二銀成、同玉、4一角、4二玉、5二角成、同歩、5一銀、5三玉、4二角…、以下“詰み”である。よって、〔N〕3一歩は「先手勝ち」


3三歩図1
 〔J〕3三歩(図)だとどうなるか。
 2五玉、4一銀、同桂成と進むが、そこで後手にうまい攻め手があるかどうかが焦点となる。
 2四歩、2六玉、3七銀打、3六玉(次の図)

3三歩図2
 どうも攻めは続かないようだ。後手玉には“詰めろ”が掛かっているが、適当な受けもない。(3一歩が打てればよいのだがそれは“二歩”)
 〔J〕3三歩は「先手勝ち」になる


3三銀図1
  「4一銀」 に、〔K〕3三銀なら、先手は4五玉(図)と逃げる。
 ここで後手が(詰みを防いで)3一歩と受ければ、先手5四玉。入玉がねらいである。
 以下、6三銀、6五玉、7四銀、7六玉、1一玉、3二歩(次の図)

3三銀図2
 後手は先手玉の入玉は阻止したが、それ以上攻め手がないので、先手に手番がまわる。図の3二歩は、次に3一歩成となれば後手玉は“詰めろ”になる。その攻めで間に合う。
 図では後手は2二銀と受ける手が考えられるが、3一歩成、同銀、5二銀成で、「先手勝ち」である。
 〔K〕3三銀も「先手勝ち」とわかった

4一同銀図1
 次に、先手の 「4一銀」 に、図のように、素直に〔I〕4一同銀と取る手を考える。
 結論から言えば、これは「先手優勢」となる。
 〔I〕4一同銀には2通りの勝ち方がある。一つは(ア)3一角、もう一つは(イ)4一同桂成である。

4一同銀図2
 (ア)3一角と打って、同玉に、2三玉(次の図)

4一同銀図3
 玉自らが敵玉を仕留めようと前進して、「2三玉」。 後手の持駒に金がないので、この先手玉は捕まらないのだ。同時に攻めの拠点にもなる。(先手の手番なら3二金の1手詰)
 3二銀、1二玉、7八角、1一玉、2三角成、2二香。

4一同銀図4
 これでどうやら先手が良いらしい。(ここで3三銀打は1二金で大丈夫)
 3一玉、7七角、5五桂、8六角、4二桂、3三銀(次の図)
 
4一同銀図5
 3三銀(図)がうまい手。これは、このままだと2二馬で先手玉が詰んでしまうので、それを防ぎつつ、3三同馬と取らせて、1二金と打つ。
 すなわち、図から、3三同馬、1二金、2三銀打、3四歩と進む(次の図)

4一同銀図6
 3四同銀なら、5三歩で先手が勝てる。
 そこで後手は4四馬とかわすが、さらに4五歩。(ここに先ほど後手に5五桂と打たせた効果が出ている。4五同馬なら2一香成が実現する)
 4五歩以下、1二銀、4四歩、2三銀左(詰めろ)、1二角(詰みを逃れるための犠打)、同銀、5三歩(次の図)

4一同銀図7
 以下5三同金、同角成、4一金、4三歩成…、という感じで「先手勝ち」になる。


4一同銀図8
 今の手順を途中まで戻って、先手の2三玉に、7八角(図)として、3四歩に、同角成、同玉と、角を犠牲に先手玉をバックさせる手段もある。
 そこで後手2二歩とする。
 だが、そこで先手に好手がある。「4二歩」(次の図)だ!!

4一同銀図9
 このカッコいい手裏剣の歩で先手が勝ちになる。
 同金には6三角と打って、以下5二銀、5一竜、同玉、6二銀、同玉、7三歩成、同玉、7四金以下詰む。
 4二歩を同玉の場合は、6四角と打つ。対して後手5三桂合なら5四歩で良い。
 そこで6四角に5三銀合(次の図)とするが…
 
4一同銀図10
 これは同角成。
 同玉、8六角、6四歩、6二銀で、次の図。

4一同銀図11
 後手玉は“詰み”。
 6二同玉なら6一飛。 6二同金なら、4四金、6三玉、7三歩成、同玉、7四歩以下。


4一同銀図12
 さて、4一同銀に(ア)3一角の手段は、先手勝ちになることは判明したが、難易度が高そうだ。ソフト「激指」はその手を第一に推薦していたが、(イ)4一同桂成で勝てるならこちらのほうが(人間的には)選びやすそうだ。こちらの変化も紹介しておこう。
 この図は(イ)4一同桂成としたところ。 ここで後手は「銀銀桂」と持っているが、これで後手からの攻めがどれくらいのものか。
 ここで後手3三歩は、上の〔J〕3三歩の変化に合流する。それは「先手の勝ち」だった。
 3三銀だとどうなるか。先手は2五玉(次の図)

4一同銀図13
 後手玉には“詰めろ”がかかっているので、後手も先手玉に単純に“詰めろ”で迫るだけでは間に合わない。
 <u>2四歩と、 <v>3一歩が考えられる。

4一同銀図14
 <u>2四歩とした場合。
 2四歩とこの空間を開けることで、“詰めろ”を解除しようという意味がある。
 以下は、2六玉、3七銀打、同桂、同銀不成、1七玉、2五桂、1八玉、3六桂となって、この図になる。
 ここはもう先手に受けはない。2九銀は2八桂成以下詰みだし、3九角は3八金でどうにもならない。
 だから先手は後手玉を詰めるしか勝ち目がないわけだが、実はこの図は後手玉に“詰みあり”で、先手勝ちなのである。
 詰め手順は、2三銀、同玉、3二銀、同玉、3一飛、2二玉、2三金(次の図)

4一同銀図15
 2三同玉、4五角、2二玉、1二角成、同玉、3二飛成以下、“詰み”。
 つまり2四歩としても後手玉の“詰めろ”は(攻めながら銀を先手に渡すことになり)結果的に解除されていなかったのである。
 (この攻めの途中、2四歩、2六玉に、3五銀打、1七玉、3八金の攻めならば、後手玉に詰みはないのだが、この攻めは先手玉へ厳しく詰めろで迫っているわけではないので、3一銀、2三玉、4五角、3四歩、1一角として、やはり先手勝ちとなる)


4一同銀図16
 3三銀、2五玉の図まで戻って、そこから後手が一旦<v>3一歩と受けた場合。
 以下8六角、4二桂、同成桂、同金、5一竜となる。

4一同銀図17
 ここで3四銀打、2六玉、2五桂という攻めを考えてみる。これは“詰めろ”になっている。(詰めろで迫らないと後手に勝ち目はない)
 以下3六歩、3七金、6三角で、次の図。

4一同銀図18
 6三角は“詰めろ逃れの詰めろ”である。後手からの3六金以下の詰みを消しつつ、後手玉は3一竜、同玉、4一飛以下の詰みがある。
 これで「先手勝ち」。
 図で5二歩と受けても、先手6一飛と打てば後手には受けがない。



 以上の結果から、〔I〕4一同銀は「先手勝ち」となるとはっきりした。


≪月4一銀図≫
 〔I〕4一同銀  → 先手勝ち
 〔J〕3三歩   → 先手勝ち
 〔K〕3三銀   → 先手勝ち
 〔L〕3三銀打
 〔M〕4二桂
 〔N〕3一歩   → 先手勝ち

 あとは〔L〕3三銀打と〔M〕4二桂である。


3三銀打図1
 〔L〕3三銀打には、2五玉。
 そこで後手がどうするかだが、4一銀だと、同桂成で、それは上ですでに検討済みの〔I〕4一同銀から、同桂成、3三銀、2五玉の変化と合流する。結果は「先手勝ち」だった。
 ということで、後手が勝つには、ここで4一銀以外の手を探さなければならない。
 
3三銀打図2
 そこで、3一歩はどうだ、ということになる。
 ここで先手には有効に見える手が3つある。3四歩と、3二銀成と、それから5二銀成である。
 実は、我々の調査結果から先に書くと、この3つの手はいずれも「先手良し」になる。

 ここでは「5二銀成」からの手順を紹介する。(この変化が最もシンプル)
 5二銀成、同歩、7一飛、4二銀打、4一桂成、2四銀、2六玉、2五桂、4五金(次の図)

3三銀打図3
 この図の4五金は、先手玉の後手3五銀引の一手詰めを防いだもの。もちろん後手玉へのプレッシャーにもなっている。
 しかしここで後手4一銀。桂馬を取って、次は1四桂までの一手詰がある。それを防いで先手1五歩。後手は3二銀と戻る。
 後手は先手の4一の成桂を“食い逃げ”したわけだが、手番は先手に。
 先手は8六角。

3三銀打図4
 8六角と打って、これは3一飛成からの“詰み”を見ている。
 実はここで後手に受けがない。5三桂と打つ手が見えるが、それは同角成、同歩、3四桂がある。
 よって、8六角には、5三歩と受けることになるだろうが、その手に対しても寄せがある。
 5三歩には、3一飛成、同銀、同竜、同玉、5三角成、4二飛(次の図)

3三銀打図5
 5三歩に3一飛成からの寄せは飛車を二枚捨てることになって決断が必要だが、この図までくればあとはそう難しくはない。
 5三角成に4二桂合は、同角成、同玉、5四桂から詰むので、後手は4二飛合と受けたところ。
 これも同角成と取る。同玉、7二飛、5二歩、5三銀(次の図)

3三銀打図6
 詰み。

 ということで、〔L〕3三銀打も「先手勝ち」となった。
 


≪月4一銀図≫
 〔I〕4一同銀  → 先手勝ち
 〔J〕3三歩   → 先手勝ち
 〔K〕3三銀   → 先手勝ち
 〔L〕3三銀打  → 先手勝ち
 〔M〕4二桂
 〔N〕3一歩   → 先手勝ち

 後手の残りの手段は、〔M〕4二桂のみ。



4二桂図

 後手のこの〔M〕4二桂を打ち砕けば、≪月の道≫(=96手目5二金からの変化)の「先手勝ち」が確定する。 そうなれば“花鳥風月”、その4つのすべての道で「先手勝ち」の結論となるので、我々終盤探検隊も参加することになった≪亜空間戦争≫の決着がつくことになる。 「先手の勝利」として!!

 さあ、我々が応援している「先手」の勝利は、いよいよ目前、“あとひと押し”である。


         →part28に続く
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