私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

YPJインターナショナル

2023-04-27 15:00:15 | 日記・エッセイ・コラム

 YPJに象徴される女性達の革命的運動がシリア問題を含む中東の近未来の形成に決定的な役割を果たすだろうと私は予測します。強い希望でもあります。この運動を理解するのに大変有用な記事がありますので、その全文を以下に訳出します。初めに出た日付は2022年6月20日になっていますが、最近またANFNEWSというサイトに再掲載されて多数の読者を得ているようです:

https://anfenglish.com/news/interview-with-ypj-international-60679

私が特に興味を持ったポイントを、あらかじめ、紹介しておきます。以前この私のブログで『現代アメリカの五人の悪女』と題して三回連続の記事を書きました。初回(1)の日付は2011年7月13日です:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/428b04c02e7dee1706975f7be3196c3f

冒頭の所を書き移します:

 「ここでの悪女は“bad girls”ではなく“evil women”です。“bad girls”という言葉が含みうる愛嬌など微塵もありません。多くの無辜の人々を死出の旅に送っている魔女たちです。マドレーヌ・オールブライト,サマンサ・パワー、ヒラリー・クリントン,コンドリーザ・ライス,スーザン・ライスの五人、はじめの三人は白人、あとの二人は黒人です。」

 ご存知のようにこの米国女性達はいずれも米国政府内で極めて高い地位を占め、多数の男達の上に立って、米国の覇権政策の担い手になっていました。現在では、国務次官ビクトリア・ヌーランドもその一人と言えましょう。米欧社会でのこうした ”女性進出” に対してYPJインターナショナルのスポークパーソンは鋭い批判を投げ掛けます。以下に掲げる翻訳文の中程に

「イデオロギー的なレベルでは、私たちは自由主義を女性とその闘いに対する大きな攻撃とみなしています。それは、女性を抑圧的システムの中に組み込むことで、私たちを懐柔ようと試みます。女性の上司やリーダーの存在を女性の解放の証拠とすることで、私たちの解放の要求を不要なものと思わせることを目論んでいます。」

という鋭い指摘がありますので注目して下さい。我が国にも同じ問題があると思われます。

*******************

YPJ International

YPJインターナショナルの同志ディランは、ロジャヴァのすべての構成員が革命と民主主義社会の建設に参加し、ロジャヴァ革命のモデルは中東全体の問題の解決策を提供できると述べた。

YPJインターナショナルの同志ディランは、YPJインターナショナルは自由を求め、女性革命を理解し、発展させ、守るために働きたい女性のための場所であると述べた。

世界中から自発的にロジャバにやってくる女性たちは、自由な生活の構築のために役割を果たし続けている。

YPJインターナショナルの同志ディランは、ANFに同組織の活動と目的について語った。

YPJインターナショナルとは、どのような組織で、どのような目的を持っているのでしょうか?

YPJインターナショナルは、ロジャヴァの女性防衛部隊の中にある国際的な組織です。民主連合主義の枠組みに沿った国際的ボランティアを組織・教育し、女性革命への積極的な参加とグローバルな同盟の構築を可能にしています。2015年のコバネの戦い以降、YPJへの関心は世界的に高まり、どうすれば参加できるのかと手を差し伸べてくれる女性も増えてきました。そこで、私たちはYPJの中に国際的な部隊を組織する必要性を感じ、それ以来、YPJインターナショナルは、女性が思想的・軍事的訓練を受け、クルド語を学び、YPJ内のさまざまな活動領域で働く準備ができる場所となりました。

なぜ女性として自衛のために組織することが重要なのでしょうか、なぜ国際協調主義者はロジャヴァの防衛軍に参加するのでしょうか。

すべての生物は、バラがその美しさを守るために棘を持つように、独自の防衛システムを持っています。人類の生活の初期から、自己防衛は社会によって自然に組織された任務でした。家父長制の制度化、資本の蓄積、階級制度の出現によって、自己防衛能力は支配階級に掌握され、男も女も自己防衛の手段を剥奪されました。軍隊が設立され、社会を守るために使われるのではなく、世界中の人々を搾取する殺人的な戦争マシーンとして使われるようになったのです。

私たちが武器を取るときは、家父長的な軍国主義に反対し、資本や国民国家の利益ではなく、女性と私たちの民衆を守ることを目的として行うのです。YPJは、スペイン内戦におけるムヘレス・リブレス、第二次世界大戦中のナチズムと戦った女性パルチザン、占領から自分の土地を守ったベトナム人女性のように、ファシズムや占領から自分の土地を守り、革命を守った女性の歴史的遺産の一部であると考えます。

ロジャヴァ革命は、地域のコミューンや評議会を通じて社会を組織する草の根民主主義を築き上げました。女性は社会のあらゆるレベルで自律的な女性機構を構築しています。共同議長制度は、あらゆる政治団体への女性の参加を保証し、女性のための教育はアカデミーを通じて広範囲に組織され、女性協同組合は女性に経済的自立の機会を与えています。ジネオロジー(女性の科学)は、実証主義の教義を再生産するのではなく、女性革命の科学的根拠を提供し、女性司法評議会は正義の創造を目指し、YPJでは女性が独自の自衛軍を創設しました。これらの成果は、全世界の女性のために作られたものであり、真の民主主義国家の発展に寄与するものです。

トルコのファシズムとISISのようなイスラム主義集団が、北・東シリアの解放地域を攻撃しています。彼らは、私たちの解放された土地を占領し、女性差別的で抑圧的なシステムを実施しようとします。さらに、覇権勢力はロジャヴァ革命を故意に歪めて伝え、クルド人分離主義のプロジェクトであるかのように見せかけ、彼らが我々に強要する戦争を民族間紛争として提示しようとして居ます。しかし、ロジャバ革命はクルド人の革命ではありません。それは、アブドゥッラー・オジャランの「民主国家」のパラダイムに基づくものであり、地域内のあらゆる宗教、文化、民族を含むものなのです。この地域の異なる民族の間に団結を生み出すことを目的としています。ロジャヴァのすべての民族共同体の人々が、革命と民主的な社会の構築に携わっています。ロジャヴァ革命は、宗教、文化、民族の協力のための政治モデルを提供しているため、中東全体の問題の解決策を提示することが出来ます。覇権国家は中東を活動領域として異なる民族が互いに敵対するように仕向けていますが、ロジャヴァ革命はこの計画の土台を蝕むので、彼らにとって危険なのです。

YPJインターナショナルのボランティアは、この革命の可能性を理解し、クルド人に限定された視点ではなく、自分たちのものとして捉えています。ドイツのイヴァナ・ホフマン、イギリスのアンナ・キャンベル、アルゼンチンのアリーナ・サンチェスの3人の国際的な革命家は、YPJの構成員として殉教者となりました。彼女たちの献身は、ロジャヴァに来た女性たちが求めていたもの、つまり5000年にわたる女性の抑圧から自らを解放する具体的な方法を見つけたことを私たちに証明しています。世界中の女性たちがここで自由を見つけ、それゆえに自由を守ることを望んでいるのです。

国際的協力者達と共有した経験を踏まえて、資本主義近代における女性への主な攻撃と、それに対抗する戦略は何だと思いますか?

私たちのメンバーは世界のさまざまな地域から集まっていますが、私たちには共通の敵がいます。帝国主義、植民地主義、戦争、ファシズムは、世界中の女性にとって実存的な脅威です。資本主義は女性を二重に抑圧しています。女性は男性よりも安い金額で労働力を売る必要があり、同時に家庭内での生殖労働を担う無給の労働者になることを余儀なくされています。私たちは、そうした経済状況こそが、女性を男性への依存に追い込み、暴力を受けやすくしていることを知っています。

資本主義は、あらゆるものを商品化しつつあります。世界最大の産業の一つである性産業は、女性を商品として使い、その性的搾取から利益を得ています。すべてのものを単に物質的な価値に還元することは、無形の価値、倫理的な価値を否定することになります。しかし、私たちは、倫理的な価値こそが、コミュニティを強く保つために不可欠だと考えています。このシステムは、愛の意味さえも劣化させ、「愛」が女性を殺す正当な口実になっていることを理解する必要があります。この抑圧搾取システムは生命そのものへの攻撃であり、私たちはこの殺人マシーンをこのまま放置しておくわけにはいきません。

イデオロギー的なレベルでは、私たちは自由主義を女性とその闘いに対する大きな攻撃とみなしています。それは、女性を抑圧的システムの中に組み込むことで、私たちを懐柔しようと試みます。女性の上司やリーダーの存在を女性の解放の証拠とすることで、私たちの解放の要求を不要なものと思わせることを目論んでいます。フェミニズムに対するリベラリズムの影響は、徹底的な闘争と変化を妨げているのです。女性が行うあらゆる選択が「フェミニスト」の選択として提示され、女性は、自由に選択できる限り、抑圧は抑圧ではないと信じ込まされます。私たちは、このことが、女性が選択を行う物質的・歴史的条件を完全に否定していることを理解する必要があります。それは女性を歴史から切り離し、ただ個人とその機会が重要であるかのように見せかけます。すべてを個人の選択に分解し、問題の本当の原因である搾取的な家父長制から目をそらすのです。このアプローチでは、個人の自律性が決して疑問や異議を唱えられることのないものとして使われるため、批判的な議論が出来ないことがわかります。私たちは、個人主義が強いコミュニティを築くことを妨げるものだと考えており、女性たちが互いにますます孤立していることに気づいています。女性が互いに分離していれば、コントロールしやすくなる。そして、さらに危険なのは、女性がお互いのために立ち上がることをしなくなることです。

YPJインターナショナル内で私たちが行った議論で、こうした戦略が女性の心理にどのような影響を及ぼしているかを知ることが出来ました。このシステムを抑圧の源と見なすことがないと、女性たちは搾取や暴力に直面してもそれが自分のせいだと考えるようになります。恥や罪悪感は、私たちの来歴に共通するパターンであることがわかります。これが、リベラリズムを女性に対するイデオロギー的攻撃とみなす理由です。私たちは、世界中の女性が目覚め、家父長制をこれ以上受け入れないということを目の当たりにしています。しかし、リベラリズムが解決策を提示し、女性が革命的な政治に参加することを妨げていることも、私たちは大きな懸念を持って見ています。だからこそ私たちは、リベラリズムの危険性について教育を提供し、代わりに革命的な語り口を広めることが急務だと考えています。抑圧のシステムを分析し、女性が解放のために闘うことができるようにする語り口です。

YPJインターナショナルは、国民国家や官僚制の支配と抑圧から解放され、女性が革命的な文脈で自らを教育することができる場所です。抑圧的システムの孤立戦略に対抗して、私たちは女性たちの間に団結と愛を築くことを目指しています。私たちは、女性の抑圧の歴史だけでなく、女性の自由の歴史についての教育も行います。私たちは、クルディスタン女性運動に根ざした概念である「女性解放思想」を教え、女性が如何にして自らを解放できるかを導く中核的な原則を提示します。私たちは教育の力を信じていますし、抑圧的システムが教育を受けた革命的な女性たちを恐れていることも知っています。だからこそ、私たちは、他の人々を鼓舞し、革命を世界に広めることのできる女性を作り上げる必要があると考えるのです。

YPJインターナショナルに入会するための条件と、女性たちがあなたに連絡する方法を教えてください。

YPJインターナショナルは、自由を求め、女性革命の理解、発展、防衛のためにエネルギーと努力を惜しまない女性のための場所です。私たちは、たくさんの理論を読んできた人に期待するのではなく、集団的ケア、思いやり、無私の精神といった価値観を学び、日常生活の中で生きることにオープンであることを求めます。自分自身を教育し、成長させることに前向きな人なら、誰でも歓迎します。革命に参加するということは、自分の中にも革命を起こすということです。私たちは日常生活の中で、批判と自己批判の方法を用いて、共に分析し、学び、成長していきます。

しかし、もちろんこのプロセスには時間が必要なので、ロジャヴァに来るときは忍耐が必要です。ロジャヴァの女性たちは多くの成果を上げていますが、まだ長い道のりがあります。すべての問題や矛盾が解決されるような完璧な革命を期待してはいけないのです。言葉を学び、文化を知り、軍事訓練を受け、革命の理念を理解する時間を持つために、ボランティアは最低1年滞在する必要があります。軍隊の経験は必要ありません。

Eメール(womensrevolution@protonmail.com)やツイッター(@YPJ_volunteers)で私たちにコンタクトを取ることができます。私たちは、ラテンアメリカ、アジア、アフリカの女性たちとの連携を強化することに特に関心があることを強調し、彼女たちが私たちに連絡するよう呼びかけたいと思います。女性革命の中心から、資本主義-家父長制に抵抗しているすべての姉妹に挨拶を送り、女性革命を守り、広めるためにあらゆることを行うと約束します。(翻訳終わり)

*******************

(付記)

 上掲の記事の始まりに近いところに

「YPJは、スペイン内戦におけるムヘレス・リブレス、第二次世界大戦中のナチズムと戦った女性パルチザン、占領から自分の土地を守ったベトナム人女性のように、ファシズムや占領から自分の土地を守り、革命を守った女性の歴史的遺産の一部であると考えます。」

とあります。

 スペイン内戦は1936年から1939年までスペインの人民戦線政府とフランシスコ・フランコが率いる軍部との間で行われた内戦です。ムヘレス・リブレス(Mujeres Libres、自由な女性たち)はその時期に行われた女性解放運動の組織の名前で、最盛期には積極的参加者2万を超えました。1936年のスペイン内戦の勃発と共に、組織としてのムヘレス・リブレスは名乗りを挙げ、今のYPJと同じく、女性達は武器を手に取ってフランコ軍と勇敢に戦いましたが、1939年の人民戦線側の敗北と共に、軍事勢力としてのムヘレス・リブレスも消滅しました。しかし、解放運動としてのムヘレス・リブレスが1936年以前から一般のスペイン女性の意識の中で大きく成長を遂げていたことは運動を推進する目的で1936年5月20日にバルセローナで発刊された機関紙「ムヘレス・リブレス」第1号がすぐに売り切れてしまったという事実によって確認されます。その出版はフランコ軍がバルセローナを占領するまで第14号まで続きました。

 スペインのムヘレス・リブレス運動については画期的な著作が出版されています。マーサ・アッケルスバーグ著『スペインの自由女性達』(Marhta Ackelsberg: Free Women of Spain, 1991 and 2005)です。出版の時点から、クルドのYPJへの言及がないのは仕方がありませんが、二つの運動には共通点があり過ぎるほどあることがこの本を読めばよくわかります。それは、ムヘレス・リブレスの女性闘士達が「ムヘレス・リブレスはフェミニスト運動ではない」と主張していたという事実に要約することが出来ます。

 何故ムヘレス・リブレスの女性たちがこの様な考えを抱いていたか? 私は、このブログ記事の始めに引いたYPJの若い女性の言葉「これは女性だけではなく人類全体を守るための戦いです」 を、またここで思い出しています。ムヘレス・リブレスは、残念ながら、現代のスペイン女性達の意識の底にしか生きていませんが、クルドのYPJはその動員結成から既に約10年間を経て、その要員は数万人に及んでいます。今もトルコとその指揮下のテロ勢力との凄惨な闘争で出血を続けていますが、シリア北部のロジャヴァ地域でクルド女性達は、男性達と力を合わせて、瞠目に値する社会的成果を着々と達成しています。このところ、シリアをめぐる情勢は激変の様相を示しつつあります。このブログの冒頭でも同じことを書きましたが、「YPJインターナショナル」に象徴される運動とそれが達成しつつある現実的成果が、シリアの地に住む全ての人たちの幸福を実現する決定的要素となるものと私は祈念し、信じています。

藤永茂(2023年4月27日)


女性

2023-04-23 14:40:09 | 日記・エッセイ・コラム

 

 2023年4月7日付けのブログ記事『ラッカの戦いから何を読み取るか』で紹介した佐藤慧さんの取材レポート過激派勢力“イスラム国”―その闇の最奥を探る―の中にある動画「武器を取る人々/シリア」(YouTube)で、シリアに住む若いクルド人女性の語る言葉が忘れられず、私はその部分を繰り返し視聴しています。彼女はシリア北部のYPJ(女性防衛部隊)に志願して入隊し、戦闘訓練を受けています。「これは女性だけではなく人類全体を守るための戦いです」と胸を張る女性がここにあります。「両親は戦闘に参加することに賛成しているか」との質問に「していない」と答え、「戦うことの恐怖はあるか」との問いには「ありません。私は戦うためにここに来たのですから」と答え、「平和になったら叶えたい夢は何?」と訊かれると「平和を達成することが私の夢です」と静かに言い切ります。何という強く美しく、しかし、悲しい言葉でしょう。佐藤慧さんの取材レポートの日付は3年前、この女性はもう亡くなってしまったかも知れません。シリア北部でのクルド民兵部隊とトルコ軍やISテロ勢力との戦いは未だ続いていますから。

 クルドの女性たちをここまでドライブしたのは何か。彼女自身の実体験として、女性達に襲いかかる苦難に現場で立ち会ったことがYPJ(女性防衛部隊)への参加を促したのだろうと私は想像します。しかし、クルドの女性達の革命的集団行動が近未来のシリアという国の命運を左右するかも知れない(これは私の希望的憶測ではありますが)現在の状況の発端は、実は、クルド人革命家オジャランの驚くべき着想にあります。

 アブドゥッラー・オジャラン(男性)、1949年4月4日生まれ、75歳、クルディスタン労働者党(PKK)の創設メンバー、1999年から現在までトルコのイムラル刑務所の独房に収監されています。この人物については、出版物もネット上の記事も多数あります。オジャラン自身の著作も幾つかありあり、その英訳本を読んで私は大いなる感銘を受けました。何しろ世界の多くの国々がテロ組織と指定するPKKの大親分のような存在ですから、毀誉褒貶まちまち、彼について悪意のある偽報道も流布されているようです。私のオジャラン観も「アバタもエクボ」の嫌いがあるかも知れません。

 オジャランについては、この私のブログで何度も触れてきました。中川喜与志著『クルド人とクルディスタン』 (南方新社、2001年12月)という貴重な著作があります。20年以上前の発行ですが、その中に報告されているオジャランの日本政府観には誠に驚くべき明察に満ちています。2016年2月16日付のブログ記事からコピーします:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/d/20160216

********************
オジャンラン 日本は、米国の、極めて存在感の薄い、主体性のない、無人格な共犯者としての行動をとった。まるで村人が地主の言うことなら何でもそれに従うように(笑)。つまり極めて従属的な、そして無個性な政治である。あまりに主体性がない。あまりに限度知らずだ。九十億ドルもの、しかも財源の当てのない巨額な資金を、米国の軍事独占資本家たちに送り届けた。ひと言で言えば、これは、日本政府の責任者が誰であれ、日本政府の主体性のなさを証明するものだ。明日また別の戦争が起こって、また日本が同じように米国を助け、追随するなら、日本はますます墓穴を掘ることになるだろう。
 少なくとも独自の政策をもって登場していたなら、完全中立の立場であれ、調停者の立場であれ、この巨額の資金を使っていたなら、自国民の利益にもなったろうし、同時に中東の人々の利益にもなっただろうに・・・・。しかし、米国の政策にまったく異議を唱えることもなく、米国の命令に従ったことは、日本の人民の利益にも中東の人民の利益にも反する政策である。最悪の政策だ。こんな政策をとるべきではない。
 このような隷属的な立場をとり続けるならば、それは現代において最も危険な、下男としての共犯政治となる。日本の野党がどのような態度をとったのか、詳しくは知らない。しかし私の考えでは、日本は強大な経済力をもった、しかしながら政治的な主体性を持っていない国家である。残念ながら、この事実を指摘しなければならない。言いたくはないのだが・・。経済の面ではあれほど創造的で豊かな力をもっているにもかかわらず、政治の面ではこれほどに無能である、無力である。これは深刻なる矛盾だ。・・・・・・・・
********************
これは、このインタビューの極めて豊かな内容のごく一部ですが、このインタビューが、1991年6月16日、レバノンのベッカー高原にあったPKKの“ゲリラ”キャンプで行われたことを考えると、“ゲリラ”指導者オジャランの日本政府解析の明哲さにほとほと感心させられます。彼の分析は、全くそのまま、いま現在の日本政府に100%当てはまるではありませんか!

 上のインタビューは湾岸戦争終了後4ヶ月の時点で行われたものですが、それから32年後の現時点でも、オジャランという男の政治的観察の鋭さに改めて感銘をうけます。とにかく瞠目すべき人物です。

 次に「女性」についてのオジャランの考え方を見てみましょう。ブログ記事

中川喜与志著『クルド人とクルディスタン』、REDUX (2019年6月18日)

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/856ab46e7cc51eb0b7563f259f400640#comment-list

の一部分をコピーします。中川喜与志氏が収録された女性問題についてのジャランの長い言及のごく一部です:

********************
● 自己を認識し、民衆を認識し、人間性を認識する
中川  PKKに女性ゲリラの数が多いのに驚いている。それは、この地域のゲリラ組織としては非常に特異なことではないか、と思うのだが・・・。
オジャラン そうだ、中東では初めての現象だ。
中川  PKKは意識的に女性ゲリラの組織化に取り組んだのか?
オジャラン そうだ。これは本当に興味深い展開だ。中東には他にこのような組織は存在しない。中東においては女性というのは家内奴隷のような存在だ。想像するのだが、日本においてさえも、未だに封建社会の原理が残存しているのではないか。
 今、我々の下で萌芽している民主主義は非常に進んだ民主主義だ。平等主義がかなりの程度まで実現されている。イスマエル・ベシクチも言っているように、クルド人たちは植民地化された民族、全滅の過程にさらされていた民族であったが、そこから今の状態を造り出した。これは「奇跡」である。最も進んだ社会主義、民主主義、非常に生き生きとした暮らし。ここ(軍事キャンプ)には誰にも私生活は存在しない。しかし非常に生き生きとした生活がある。
 我々には極めて残忍な敵が存在する。しかし、この敵に対して、ひとかけらの恐怖も我々は持っていない。まったく情熱に満ちている。これは非常に重要な条件だ。我々がこういう条件を造りだせたというのも、我々は社会主義を、独自な形で、非常に創造的な形でとりいれている。また我々は、民主主義の問題に非常に敏感だ。平等、自由というテーマに特に注意している。我々は、本当の意味で、一人ひとりの人間を創造しているのだ。
 私が努力していることは、一人ひとりの人間が自分のアイデンティティを認識すること、民衆を認識すること、人間性を認識すること、もっとも進んだレベルに立つことだ。抑圧的、利用主義的な傾向(組織の傾向?)を完全に克服しようとしている。すべての関係は良心に基づいている。強制や抑圧は存在しない。完全に自分の信念と自由意志によって行動に参加する、強制的な参加はない。我々は完全な自由意志を引き出している。新しい生き方のテーゼを提示しているのだ。大きな信頼と強い信念に基づいた可能性、生き方を確信させている。これらすべてがPKKを成立させている。
 このことから人々の共感を得ているのである。これは歴史上初めての現象だ。中東において、クルド人の間で、初めてこのようなことが起こった。皆がこの生き方を熱望している。女性たちでさえこの生き方にすべてを賭けようとしている。若者たちは、この生き方を幸せだ、と感じている。かつての生き方よりずっといい、と考えている。(引用終わり)
********************

 中川喜与志氏のこの著作を今また読み返しています。(RE-REDUX!!)。私の関心をますます強く惹きつけているクルドの女性達については『女達の中東 ロジャヴァの革命』(山科彰訳、青土社、2020年3月)という好著があり、これを読めばYPJ(女性防衛部隊)の来歴がよく分かります。翻訳された原著は2015年発行で、急激に展開するロジャヴァ革命の状況下ではやや古くなったとも言えます。訳書の巻末には松田博公氏の筆になる32頁にわたる up to date な「解説」(2020.1.30) があり、これは必読の文章です。解説の表題は「ネヴァー・エンディング・レヴォリューション」で、3項目:

1  危機にあるロジャヴァ革命

2  諸勢力のせめぎ合いの中で

3  決して終わらない女性革命

から成っています。ロジャヴァ革命の危機は、米国が国際法に全く反して不法占領しているシリア北部北東部地域(シリアの全面積の3分の1を占め、その石油資源と食料生産地を含む)で、YPJを含むクルド人主体の軍事勢力がSDF(Syrian Democratic Forces)の名の下に実際上米国の傭兵としての役割を果たしていることにあります。(因みに日本の自衛隊もSDF(Self-Defense Forces)と略称されます。)シリアをめぐる最近の中東情勢の激変の中でクルド女性達がすでに達成している革命の成果が今後に果たすと期待される役割は極めて大きいと予想されます。第3項目「決して終わらない女性革命」では、「男性を“殺せ”」というオジャランの言葉が紹介されています:

*******************

 オジャランは、「男性を“殺せ”」と言う。男性に対して「自己の内なる家父長制的男性を変えろ」と要求し、女性に対して、男性支配の家父長制から「分離」し自立しなければ、女性の自由はなく、人間の抑圧、自然の収奪もなくならないと呼びかける。

「女性の革命は、革命の中の革命であり、国土の解放よりも優先される。解放された生活は、女性の革命により男性の精神構造と生活が変わらなければ不可能である。それは階級社会に立脚する5000年の文明の革命であり、男性の解放も意味している」

「女性の解放に最もふさわしい回答は、家父長的な男性をつかまえ、分析し “殺す”ことである」。(引用終わり)

*******************

 オジャランには苦い離婚の経験もあるようです。彼の言葉には自分の過去の反省が含まれているのかも知れません。

 この長文の解説の締め括りの部分で「土地の上で歴史をつむぎ、いのちの連鎖を生きる。このクルドの伝統文化の基盤の上に、オジャランはブクチンのソーシャル・エコロジーの思想を受け入れた。そして古代の民衆の自治の記憶を探り、中東の動乱のただ中に希望の未来を構想した。それは、女性が活き活きと自由に生き、そのことによって、子どもも男性も動物も植物も、全生命が連鎖し自由に生きる社会である。」と松田博公氏は述べておられます。これは筆者ご自身の美しいお考えの表出でもあるのでしょう。

藤永茂(2023年4月23日)


シリアの長い夜が明ける

2023-04-08 11:06:31 | 日記・エッセイ・コラム

 主に米国からの影響でシリアをアラブ世界から締め出していた国々が、ここにきて、俄に、シリアに対して友好の手を差し出してきました。これは地政学的に説明すべき世界政治の動きでしょうが、一般大衆の一人としての私には、アラブの人々が「米国のシリア人いじめはあまりにも酷すぎる」と強く感じ始めたのがその根本の理由のように思えてなりません。その「いじめ」のシンボルは2019年年末に発効した米国の「シーザー法」と呼ばれる米国の法律で正式の名称はThe Caesar Syria Civilian Protection Act of 201 です。この件については2月22日付のブログ記事『シリアの人々にも救援を』で説明しましたが、この米国法律が“シリアの一般市民を擁護するための法律”と謳ってあるところが米国の悪魔的偽善性を象徴しています。米帝国に反抗するシリアのアサド政権を打倒するために、アサド政権下の一般市民を“いじめる”というのが米国の政策なのです。ですから、今度の大地震の後、米国は外部からの支援物資がシリア市民の手に渡らないように極力妨害をしています。この野蛮行為については数多の報告があります。その一例:

https://syria360.wordpress.com/2023/02/10/us-is-brutally-politicizing-humanitarian-aid/

日本には「敵に塩を送る」という言葉さえあります。アラブの世界にもこうした心情は存在するに違いありません。それがバイデン/ブリンケン政権には全くないのです。米国の“いじめ”に代わって、アラブ世界の人々が友好の手を差しのべ始めたのを私はとても嬉しく思います。私の好きなウェブサイトINTERNATIONALIST 360°に好読物が出ましたので訳出してみました。この記事の最後のところに「紛争から12年経った今でもシリアでは医療や教育が無料で提供されている。」という注目に値する一文があります。

https://syria360.wordpress.com/2023/04/04/bridge-of-peace-and-prosperity-proposed-from-the-arab-world-to-syria/

******************

アラブからシリアへ提案する平和と繁栄の架け橋

投稿: INTERNATIONALIST 360° 投稿日: 2023年4月4日

Steven Sahiounie

サウジアラビアが5月19日にリヤドで開催されるアラブ連盟首脳会議にシリアのバッシャール・アル・アサド大統領を招待する予定で、シリアは回復の兆しを見せている。サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外務大臣が間もなくダマスカスに赴き、アサドにサミット出席の正式招待状を手渡す予定であり、アサドとのアラブの和解において最も重要な進展となるであろう。

リヤドとダマスカスは、シリアに関する新たな独立した立場を示す外交会議、声明、政策転換の集大成として、両国の大使館の再開に向けて協議中である。

アレッポの人々は、ある晩ベッドに入って眠り、目を覚ましてみると、米国オバマ政権、トルコ、カタールが支援する武装した戦闘員の占領下にあったと語る。

2016年12月にアルカイダとその関連組織から解放され、復興を目指しているが、復興計画に反対する米国・EUの制裁(サンクション)があり、復興は遅々として進んでいない。

アレッポに住む人々は、自分たちの生活が外敵によってひっくり返されたのと同じくらいの早さで、復興と繁栄のターニングポイントが訪れることを望んできた。シリアは今日、2100万人の住民のために近い将来平和と繁栄をもたらすかもしれない復興の入り口に立っている。

          サウジアラビア・中国・イラン

先月、サウジアラビアとイランが国交を回復したことは、中東の新時代の幕開けを告げるものであった。

2月6日にシリアとトルコで発生したマグニチュード7.8の大地震では、アラブ諸国がこぞって両国に人道支援を行った。 しかし、米国は、そのシリア政策に基づき、最も被害の大きかったアレッポとラタキアへの援助を拒否し、アルカイダ系テロリスト達の支配下にあるイドリブへの援助物資の配送に限定する事に固執している。

              エジプト

4月1日、シリアのファイサル・メクダッド外相とエジプトのサメ・シュクリ外相がカイロで会談し、完全な国交回復に向けて事前協議を行った。エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領とシリアのバッシャール・アル=アサド大統領は、イスラム教の聖なる月であるラマダンが終わる4月下旬以後、間も無く会談する可能性がある。

メクダッドとシュクリは、シリアの統一と全領土の主権の回復、地震の復興、シリアへの外国の干渉の停止について話し合った。

シュクリは2月にシリアとトルコを訪問し、地震被災国へのカイロの連帯を表明し、両国との関係融和を示唆した。

エジプトのシシは、カイロの外交政策をリヤドのそれと同調させている。 2015年のカタール外交危機では、カイロの立場はリヤドのそれと一致していた。

エジプトもシリアも、政権交代によって新しい中東を作るというオバマ大統領のプロジェクトの下で苦しんだ。 米国によるモルシの不正選挙により、National Institute of Democracyのカイロ事務所の所長であった米国人のLila Jaafarに5年の実刑判決が下された。

エジプトは、ムスリム同胞団を支持するモルシ政権下で、国民が反乱を起こし、シシ政権下で国を取り戻すまでの約1年間、殺人や拷問に苦しんだ。トルコと米国はムスリム同胞団を支援しており、米国は「アラブの春」でムスリム同胞団を利用した。 トルコは最近、大統領選挙が近づくにつれてムスリム同胞団から離れつつあるが、カタールはまだ米国の指令支配から独立しようとしない、最後の生き残りである。

                 UAE

2,000トン以上の援助物資を積んだ首長国連邦の船がシリアのラタキアに入港停泊した。食料品、医療機器、冬服などが満載されている。

UAEの「ギャラントナイト2作戦」は、シリアと隣国トルコで発生した地震の被災者を支援するための人道支援活動である。エミレーツは3月にもシリアに1,000トンの支援物資を送っており、サウジアラビアも同様に支援物資を送った。

アサド大統領とファーストレディは最近UAEを訪問し、温かく迎えられた。UAEとバーレーンは以前、ダマスカスにある大使館を再開していたが、オマーンはこれまで一度も出大使館を閉じていない。

                 トルコ

4月3日から4日にかけて行われるシリア、ロシア、イラン、トルコの4カ国外務大臣補佐官会合に参加するため、アイマン・スーサン外務・駐在大臣補佐官が率いるシリア・アラブ共和国の代表団がモスクワに到着した。

会議では、シリアにおけるトルコの軍事占領の終結、テロとの闘い、シリアにおける外国の干渉の終結に焦点が当てられる予定である。

トルコのメルブト・カブソウル外相は、ロシアのセルゲイ・ラブロフ相が4月6-7日にトルコを訪問し、シリア問題について議論すると述べた。

トルコのタイイップ・レシプ・エルドアン大統領は来月、最後の選挙に臨むが、有権者は300万人以上の難民がトルコに押し寄せたシリア危機における彼の役割を評価することになるであろう。

            米国-クルド人-ISISの監獄

ロンドンに滞在中のバーバラ・リーフ国務次官補は、「正常化するつもりはない」と語った。リーフ氏は最近、ヨルダン、エジプト、リビア、レバノン、チュニジアを訪問しているが、ダマスカスを訪問する予定はないということだ。

カナダ人は、シリア北東部のクルド人勢力によって運営されているシリアのキャンプにいる多くの外国人達の一部をなしている。 米国はクルド人の軍事パートナーである一方、約900人の米兵がシリアの主要油田を占拠し、シリア国民が自国のエネルギー資源を利用するのを阻止している。

カナダとの間で送還の合意がなされ、19人のカナダ人女性と13人の子どもがシリアからカナダへ飛ぶ予定だ。収容所はテロリズムの危険な温床であり、人間にとっても安全とは言えない。 食料も水もほとんどなく、外国人ジャーナリストがよく訪れる粗末な収容所では、コレラが蔓延している。米国の支援を受けたクルド人が指揮を執っているが、資金不足と米軍パートナーの汚職腐敗が、このような住みにくい状況を招いている。

多くの西側民主主義国家は、自国の若者をシリアのテロリストとして戦場に送り出した。米国、カナダ、英国、オーストラリア、フランス、ドイツ、ベルギーは、シリア北東部のクルド人収容所に囚人を抱えている上位国である。いずれ、米国はシリアを去らなければならず、クルド人はダマスカスとの関係を修復しなければならない。その時点で、外国人テロリストとその妻や子供たちを何とかしなければならないことになる。

             沖合い天然ガス田

2011年の紛争直前、シリアでは大規模な海底ガス田が発見された。 しかし、紛争のため、まだ開発されていない。 このガス田の収益で、病院や学校を建設することができる。紛争から12年経った今でもシリアでは医療や教育が無料で提供されている。

2011年、アラブの指導者たちの多くは、ワシントンのホワイトハウスから出された命令に従った。サウジアラビア、カタール、UAE、エジプト、レバノン、ヨルダンはいずれも、オバマ政権と、政権交代を目的とした米・NATOによるシリア攻撃にしっかりと歩調を合わせていた。

時代は変わった。中東における最大の変化のひとつは、ムハンマド・ビン・スルタン皇太子(MbS)率いるサウジアラビアの方向性である。 この地域で最も強力な国の若きリーダーは、「ビジョン2030」を掲げ、かつてのリヤドとワシントンの関係を逆転させるなど、大きな変化を遂げている。MbSはバイデンから命令を受けることはなく、サウジアラビアの国益に基づいて意思決定をしている。

Steven Sahiounieは2度の受賞歴のあるジャーナリスト。

******************

藤永茂(2023年4月8日)

<同じ内容の記事が既に「マスコミに載らない海外記事」さんによって訳出されていましたが、私の記事もこのまま掲載を続けさせていただきます>


ラッカの戦いから何を読み取るか

2023-04-07 18:43:46 | 日記・エッセイ・コラム

 「ラッカの戦い」と聞いても何も頭に浮かばない人が多いでしょう。しかし、シリア北西部の都市ラッカで起きたことを正確に見極める事は、今の、これからの日本にとって、極めて重要な事だと思います。それは我々日本人を次の世界大戦に巻き込もうとしている強大凶悪な軍事勢力の真の姿を見据える事になるからです。

 「ラッカの戦い」は二つあります。一つは2013年3月初旬の戦闘、シリアの反政府勢力がシリア陸軍を破ってシリア北部の重要都市ラッカを占領しました。その後、いわゆるイスラム国(IS)がイラクとシリアで急速に勢力を拡大して、シリアの東部と南部から侵攻し、ラッカを占領してこの都市をイスラム国の首都としました。しかしイスラム国はラッカの西の、当時はシリア最大の都市アレッポや首都ダマスカスの攻略に向かわず、ラッカから北上してトルコとシリアの国境の少都市コバニの制圧占領を目指して進撃しました。シリア北部のトルコとの国境沿いに200万人程のクルド人が住んでいて、コバニ(アイン・アル=アラブ)はその拠点都市の一つですが、当時の人口は周辺を含めて約10万。コバニ包囲戦は2014年9月16日に始まりました。IS側は短期でコバニを制圧できるつもりだったのでしょうが、クルド人民兵組織の頑強な抵抗に遭い、2015年1月26日、遂に撤退敗走に追い込まれました。この壮絶なコバニの防衛戦を「スターリングラードの戦い」に擬するクルド人もいます。

 この戦いの後、米国は、国際的テロ組織ISと戦う傭兵集団として、勇敢なクルド人民兵を主体とする軍事勢力を育て上げ、これにSDF(Syrian Democratic Force)という名前をつけました。2016年5月、SDFは2014年からイスラム国(IS)が首都としていた都市ラッカに対する攻撃を開始し、これを援護する形で米国空軍は大規模の都市爆撃を行い、10月下旬にラッカ一帯を占領し、ISは決定的な敗北を喫したかに見えました。これが二回目の「ラッカの戦い」です。

 この二回目のラッカ周辺の戦争についてはネット上に大量の記事がありますが、私はそこに重大な見落とし、あるいは、隠蔽があると考えます。それは米国と国際テロ組織ISとの本当の関係です。端的に言えば、SDFもISも軍事勢力としては米国の傭兵です。

 「SDFもISも軍事勢力としては共に米国の傭兵」であるという私の考えの萌芽は「コバニ包囲戦」で殆ど誰も予期しなかったクルド人民兵たちが勝利した時点に遡ります。米国は米空軍のおこなった対IS爆撃によってコバニの解放が勝ち取られたように報道しましたが、それに抗議してクルド人民兵が「そうではない。我々の決死の反撃がISを打ち破ったのだ。我々は米空軍機が援助物資をIS側に投下するのを目撃した」と発言したことがありました。私はその時から、米国の、いわゆる、「テロとの戦い」を強い疑惑を持って観察し続けて今日に至り、現在では、「IS(Daesh)も米国の傭兵」として世界で(現在のシリアを含めて)行動していることを確信するようになりました。

 私の確信を確証するような記事が最近数多く出るようになっています。ここではその2例を挙げておきます:

https://syria360.wordpress.com/2023/02/13/us-training-isis-al-qaeda-fighters-in-syria-to-deploy-to-russiaand-cis/

https://syria360.wordpress.com/2023/03/05/recent-isis-attacks-in-syrian-desert-carried-out-with-us-support/

 「IS(Daesh)も米国の傭兵だなんてそんな馬鹿な!米国空軍はラッカのIS勢力に対して大規模の徹底的空爆を行ったではないか!」と反論される方々もおいででしょう。あの爆撃ではラッカとその周辺のインフラが徹底的に破壊されました。その意味で大空爆はシリアの一般住民に対して行われたのです。サンクションと同じです。その目的はアサド政権の打倒、レジーム・チェンジ以外の何物でもありません。

 私が「ラッカの戦い」という、大多数の日本人が何の興味も持っていないシリアでの出来事を取り上げているのは、ここに恐るべき悪の大帝国アメリカの真の姿が露呈しているからです。日本は台湾と共に東亜のウクライナになってはなりません。

 ISについて是非読んでいただきたい和文記事があります:

https://d4p.world/news/5429/

その結語の部分をコピーさせていただきます。

**********

平穏に生きていきたいだけなのに、自分の国には安全な居場所がない難民の方々。大切な人々を守りたいのに、構造的格差のなか貧困に喘いでいる家庭。自分に非はないのに、いわれなき差別を受けている人々。その他多くの問題の責任は、当事者だけのものではないはずだ。「戦争の世紀」は今世紀にも及んでいるが、その負のバトンを手放し、「戦争を克服した世紀」を築けるよう、まずは問題の本質を見誤らないよう、知り、考えることから始める必要があるのではないか。ISをめぐる取材から、そんなことを考えて今に至る。いまだ燻る憎しみの鬼火を、温かな灯火と変えていけるように。(2020.7.6 / 写真・文 佐藤慧)

**********

藤永茂(2023年4月7日)