NHKが行っている教育コンテンツの映画の国際コンクール「日本賞」については、次のサイト:
https://www.nhk.or.jp/jp-prize/about/
を見ると、以下のように解説してあります:
“「日本賞」は教育コンテンツのみを対象とした国際コンクールです。1965年の設立以来、メディアの力を信じ、教育の可能性を広げる優れた作品に、賞を贈り続けています。5つの部門の最優秀作品賞、特別賞、最優秀・優秀企画賞、そしてグランプリ日本賞を目指し、毎年、300を超えるエントリーがあります。
時代や社会とともに、人間のライフサイクルが大きく変化していく中、「教育」や「学び」の形も進歩しています。そんな変化を敏感にとらえ、世界の教育コンテンツの質の向上、そして国際理解の促進に貢献することが、私たち「日本賞」の使命です。世界の制作者や研究者、教育に関心のあるすべての人とともに、「日本賞」は歩み続けています。”
私は、前にもこのコンクールの受賞作品を見たことがあるような気がしますが、近頃ボケが進んではっきり覚えていません。
去る大晦日に2020年度の受賞作品の発表放映がNHK-Eテレであり、その二つの受賞作品を観て、私はその優れた内容から大きな感銘を受け、すっかり嬉しくなりました。次のサイトに出ています:
https://www.nhk.or.jp/jp-prize/more/index.html#youth_best
一つは青少年向け部門最優秀賞(外務大臣賞)作品で、
「作品名
テロの街の天使たち
~ブリュッセル6歳児日記~
機関名
ゾーン2ピクチャーズ
国・地域
フィンランド
メディア
映画
内容時間
72分17秒
メディアに「イスラム過激派の根城」と呼ばれるブリュッセルのモレンビーク地区を舞台に、6歳の少年たちの友情を描いたドキュメンタリー。フィンランド出身でギリシア神話の英雄に夢中のアトスとモロッコ出身でイスラム教徒のアミン。異なる環境で育った二人は、同じアパートに暮らす大の仲良しだ。「神さまっていると思う?」世界に興味を持ち始めたばかりの二人は、遊びを通して人生の重大な問いの答えを一緒に探す。しかしある日、テロリストが近所を爆破したことで、大人の社会のひずみが二人の目にも明らかになっていく。宗教や文化、テロや暴力といった多民族社会の課題について若者たちが対話することをねらった作品。」
と解説があり、もう一つは一般向け部門最優秀賞(東京都知事賞)作品で、
「作品名
ディス・イズ・ノット・ア・ムービー
真実を伝えるということ
機関名
ティナム
ストール・コロンコ
カナダ国立映画制作庁 (NFB)
国・地域
カナダ
ドイツ
メディア
映画
内容時間
106分00秒
中東の紛争地域を拠点に40年以上にわたって戦争の悲惨さを伝えてきたイギリス人ジャーナリストのロバート・フィスク。彼のキャリアを振り返り、原動力の源を探るドキュメンタリー映画。現場に足を運び、自分の目と耳で確認したことを届けることが大切だと語るフィスク。彼が長年戦ってきたのは、真実を隠そうとする権力と、人々の無関心だ。「“そんなことは起こってない”、“誰も教えてくれなかった”などと決して言わせない。それがジャーナリストの仕事だ。」という彼の言葉には闘志がにじむ。戦争はなぜ繰り返されるのか?中立であるとはどういうことなのか?真実をどう見分けるのか?フェイクニュースが蔓延する今こそ、ジャーナリズムの精神を取りもどす必要があることを訴える作品。」
と解説されています。このサイトには他の部門の受賞作品も紹介されていて、鑑賞することができます。
先ず『テロの街の天使たち~ブリュッセル6歳児日記~』ですが、この二人の幼い少年の間に結ばれる友愛の絆の中に、世界平和への本当の希望があると私は思いました。これはセンチメンタルな空想ではありません。人間の魂の結びつきにはここに実証的に記録されているような次元があるのです。
しかし、私がもう一つの記録映画『ディス・イズ・ノット・ア・ムービー 真実を伝えるということ』から受けた感銘は、今の私にとって、より強烈なものです。より個人的な感銘です。
このブログの2017年8月15日付けの記事 『Robert Fisk』;
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/7f235a2b4c3fe9444d04416aba0a25f4
の冒頭に私は次のように書きました:
「シリア戦争に関して、私が最も信頼するジャーナリストはロバート・フィスクです。彼の名をここに掲げようとして、私は、初めて、ウィキペディア(英文)の記事をチェックして、彼が極めて高い国際的評価を受けている卓抜なジャーナリスト兼著作家であることを知りました。この人に対する私の信頼は、中東の情勢についてのロバート・フィスクの多数の報道記事、論考を読み続けるうちに固められたものです。彼は独特のスタイルを持った文章を書きます。私の英語力では読みこなせない面があると思われますが、文面からひしひしと伝わってくるものがこの人の強靭な精神と柔軟な感性であることは疑う余地がありません。」
シリアとパレスチナの状況についての私の考え方は、決定的にこの優れたジャーナリストの影響のもとにあります。私がこの人の報道と判断に信を置いた理由は上掲の受賞記録映画をご覧になれば分かります。
残念な事に、ロバート・フィスクは、昨年2020年10月30日、アイルランドの大学病院で病死、享年74歳、生まれは英国のケント、英国とアイルランドの国籍を持っていました。
私が全面的に信頼するもう一人のジャーナリストであるジョン・ピルジャーは、「ロバート・フィスクが亡くなった。私はこの最後の偉大なリポーターの一人に心からの敬意と賛辞を捧げる。・・・彼は世に逆らって事に踏み込み、目覚しくも真実を語った。ジャーナリズムは最高の勇者を失った」とオマージュを献じました。私が一貫して尊敬の念を抱いている英国の政治家ジェレミー・コービンは「ロバート・フィスクが亡くなったと聞いてとても悲しい。中東の歴史、政治、人々について比較を絶する知識を持った最高の人物を失ったのだ」と述べています。
実は、別のブログ記事『ジャーナリストの苦衷』(2018年3月8日);
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/5d2591752dba7a153ecb084b0949ff94
でも、ロバート・フィスクが支配的なマスメディアの牽制をかいぐってって、真実を我々に届けてくれている手法に私は言及した事がありました:
「以前にロバート・フィスクという英国人(ベイルート在住)の優れた老練ジャーナリストを紹介したことがあります。2月15日付と2月26日付の二つの記事をここでは取り上げます。
https://zcomm.org/znetarticle/acknowledging-the-facts-of-history/
https://zcomm.org/znetarticle/the-bombardment-of-ghouta/
始めの記事は、トルコが行なった Armenian Holocaust(アルメニア人大虐殺)についての考察であり、二番目は、今、シリアのグータをめぐる状況についての記事ですが、こうしたロバート・フィスクの記事を読む者は、少し持って回ったような記事作りが、かえって、彼の語りたいシリア戦争の真実の核心を伝えてくれているのだという感じを強く持ちます。外部の権力機構からの制約の下にある日本の新聞ジャーナリストたちが、フィスクのこうした語り口のスタイルを学び、身につけて欲しいものです。そうすれば、検閲をかいくぐり、ベネズエラやシリアやウクライナの現地の真実を、プロパガンダの煙幕をかいくぐって、我々に告げることができるのではありますまいか?」
私は、この部分を読み返しながら、NHKが主宰しているこの教育コンテンツの映画国際コンクールが果たしうる、いや、現在すでに見事に果たしている思いがけない貴重な役割に気がつきました。いま取り上げている「日本賞」受賞記録映画『ディス・イズ・ノット・ア・ムービー 真実を伝えるということ』から人々が受け取るシリアやパレスチナに関する報道事実は、通常、NHKや大新聞が伝えているニュースとは大変異なる内容であり、調子も違います。つまり、NHKが主宰しているこの教育コンテンツ国際コンクールを通じて、検閲をかいくぐって、真実が我々の手元に届けられているのです。私としては、この貴重な抜け穴を見事に保持し機能させている人たちに大いなる声援を送りたいと思います。授賞者である東京都の知事さんは、ここに描かれて稀有のジャーナリスト故ロバート・フィスクを果たしてご存知でしょうか?
藤永茂(2021年1月16日)