私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ヒラリー・クリントンがクルド人女性戦士達主題のTVドラマを制作!!

2021-01-31 10:09:38 | 日記・エッセイ・コラム

 このニュースに接した時には、正直、心臓が凍る思いがしました:

https://www.rt.com/usa/513671-hillary-clinton-kurds-tv-series/

記事の英語タイトルは

‘Haven’t the Kurds suffered enough?’ Hillary Clinton to produce TV drama on Kurdish women fighters

です。“クルド人達はもう充分苦しんだではないか?” 私の思いも全く同じです。米国は、世界は、クルド人達をどこまで苦しめたら気が済むのでしょうか? 

 このTVドラマはGayle Tzemach Lemmon という人の 「The Daughters of Kobani: A Story of Rebellion, Courage, and Justice (コバニの娘達:反抗と勇気と正義の物語)」という本に基づいているようです。私はこの本に接したことはありませんが、コバニの戦い、クルド人女性戦士集団YPJ、米国空軍の関与などについては、これまでこのブログでかなり詳しく取り上げて論じて来ました。イスラム国(ISあるいはISIS)と米国との関係、米国空軍の介入の正確な時点についての判断において、レモンという人の本と私の間に食い違いがあるのは、本を見なくても明らかだと思っています。そして、私の判断の方がより真実に近いと確信しています。

 このテレビドラマのメッセージがどのようなものであるか、これも、見なくても明らかです。ヒラリー・クリントンは、出来るものならば、彼女がリビアのカダフィを真昼の太陽の下で惨殺したのと同じように、シリアのアサド大統領をも惨殺したいと考えているに違いありません。アサドのシリアを壊滅するためにクルドの女性達を冷酷に利用しているのです。この人はそうした人間です。

 今よりもっと希望の明かりが輝いていた時に、革命的なクルド人たちは、コバニでの勝利をレニングラードの勝利になぞらえました。しかし、その後のトルコと米国の悪魔的な背後連帯によって、クルド人達の希望は、今や、風前の灯火です。表面的な見せ掛けはどうであれ、米国(ヒラリー・クリントン)の関心は己の利益がその全てであり、より良き中東、より良き世界の実現を目指すクルド人達の指導者オジャランの思想に対する敵意はトルコのそれと何ら変わるところがないのです。

 コバニの戦いの記念碑的な意義を含むロジャバ革命とそれをめぐる現在の状況については、信頼できる情報源あるいは論考が幾らも存在します。例えば、少し古いですが(約1年半前)、次の「ロジャバの後のロジャバ」と題する

展望論考があります:

https://roarmag.org/essays/rojava-after-rojava-oveisy/

クルド人女性戦士集団YPJについても多数の報告や記事がネット上や出版物の形で存在します。私がこのブログの記事『クルドの女性たちは戦う』(2020年8月19日)で紹介した『女たちの中東 ロジャヴァの革命』(青土社、2020年3月)の中の松田博公さんによる解説もぜひ読んでください。

 私がクルド人の革命(ロジャバ革命)に強い関心を抱くようになったきっかけを与えてくれたディラール・ディリク(Dilar Dirik)というクルド人女性がいます。シリア北部のクルド人をめぐる状況が暗黒化していく中で、この女性の声を聞きたいとしきりに願っていた私ですが、ごく最近、彼女の『クルド人女性運動:歴史、理論、実際(The Kurdish Women’s Movement: History, Theory, Practice)』と題する著作が近く(2021年6月)出版されることを知って、大変喜んでいる所です。早速予約注文しました。この本を読めば、クルドの女性達の運動のベクトルが米国の帝国主義と全く反対の向きにあることがはっきりわかるはずです。ヒラリー・クリントン制作のテレビドラマという悪質ウィールスに対する最強力のワクチンとなるに違いありません。

 

藤永茂(2021年1月31日)


パレスチナの人々にもコロナワクチンを

2021-01-20 20:30:49 | 日記・エッセイ・コラム

 前回のブログでは、教育コンテンツ国際コンクールという形でNHKが行っている情報伝達行為は、フェイクニューズが意識的に広められ、真実の伝達が意図的に妨害されるこの世界で、貴重な役割を果たしていることを称揚しました。私が特に取り上げた故ロバート・フィスクの伝記的ドキュメンタリー『ディス・イズ・ノット・ア・ムービー 真実を伝えるということ』の制作機関名として出ているカナダ国立映画制作庁 (NFB) は、カナダでは、ナショナル・フィルム・ボードの呼び名で一般によく知られている機関です。この組織もNHKと同じように国家予算で運営されていますが、政府や政党の監視統制をうまく、あるいは、勇敢に掻い潜って、有意義な報道をしてくれることがあります。

 しかし、私はNHKを褒めすぎたかもしれません。数日前のNHKニュースで特集的に「コロナワクチンの接種はイスラエルが世界で一番速く進んでいる」ことが報じられていました。内容的には日本経済新聞の記事:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR12BR80S1A110C2000000?unloc「コロナワクチン接種、イスラエル最速 人口の2割超に」

と同一です。問題は、NHKも日経もイスラエルが力づくで支配している地域に住むパレスチナ人たちがワクチン接種の対象から外されているという事実を伝えていないことです。しかし、世界のマスメディアがイスラエルに遠慮して口を噤んでいるのではありません。週刊誌「タイム」も「国連ニュース」も「アルジャジーラ」も「ワシントン・ポスト」でさえもこの憂慮すべき事実をちゃんと伝えています:

https://time.com/5930060/israel-covid-vaccine-palestinians/

https://news.un.org/en/story/2021/01/1082152

https://www.aljazeera.com/news/2021/1/13/how-will-palestinians-get-the-covid-vaccine

https://www.washingtonpost.com/world/2021/01/12/israel-palestine-coronavirus-vaccine-disparity-analysis/

この状況を見ると、NHKも日経も忖度のしすぎではありますまいか。

このブログの記事『人種差別(racism)(1)』(2020年9月9日)で、北米先住民が、入植白人が持ち込んだ天然痘菌で多数殺戮された事実を少し取り上げましたが、今回のイスラエルでのコロナワクチン接種に関する差別は全く同じ入植者心理から生み出されたことです。邪魔になる先住民にはなるだけ多く死んでもらいたいのです。殖民植民地主義あるいは開拓移民植民地主義と訳されるsettler colonialism というものは極めて残酷な国家経営様式です。

 私のご贔屓の黒人ジャーナリスト、グレン・フォード、の最近の記事『White Settler Uprising at the Capital』:

https://www.blackagendareport.com/white-settler-uprising-capitol

の中に次の文章があります。

“In the case of the United States, American exceptionalism erases actual history and denies U.S. commonality with any other nation. New York Times reporter Katrin Bennhold can get away with pretending that the United States is both unique and a bellwether for “democracy” everywhere on the planet – which is ridiculous on its face. The events at the Capitol are absolutely consistent with racist white mob behavior throughout U.S. history, and totally understandable in the white colonial settler context. Outside of that context, these events make far less sense.

The U.S. is best understood as the first of the planet’s white colonial settler states – a species of state that includes most of the rest of the western hemisphere, Australia, New Zealand, and the last of the settler breed, Israel.“

 このグレン・フォードの言説は、とりわけ、イスラエルのことを考える時に役に立ちます。ある人間集団が他の人間集団を抹殺しようと企てることは、決して許されることではありません。抹殺の対象がユダヤ人であってもパレスチナ人であっても同じことであるべきです。

 

藤永茂(2021年1月20日)


教育コンテンツ国際コンクール「日本賞」受賞作品

2021-01-16 15:21:43 | 日記・エッセイ・コラム

 NHKが行っている教育コンテンツの映画の国際コンクール「日本賞」については、次のサイト:

https://www.nhk.or.jp/jp-prize/about/

を見ると、以下のように解説してあります:

“「日本賞」は教育コンテンツのみを対象とした国際コンクールです。1965年の設立以来、メディアの力を信じ、教育の可能性を広げる優れた作品に、賞を贈り続けています。5つの部門の最優秀作品賞、特別賞、最優秀・優秀企画賞、そしてグランプリ日本賞を目指し、毎年、300を超えるエントリーがあります。
 時代や社会とともに、人間のライフサイクルが大きく変化していく中、「教育」や「学び」の形も進歩しています。そんな変化を敏感にとらえ、世界の教育コンテンツの質の向上、そして国際理解の促進に貢献することが、私たち「日本賞」の使命です。世界の制作者や研究者、教育に関心のあるすべての人とともに、「日本賞」は歩み続けています。”

私は、前にもこのコンクールの受賞作品を見たことがあるような気がしますが、近頃ボケが進んではっきり覚えていません。

 去る大晦日に2020年度の受賞作品の発表放映がNHK-Eテレであり、その二つの受賞作品を観て、私はその優れた内容から大きな感銘を受け、すっかり嬉しくなりました。次のサイトに出ています:

https://www.nhk.or.jp/jp-prize/more/index.html#youth_best

一つは青少年向け部門最優秀賞(外務大臣賞)作品で、

「作品名

テロの街の天使たち
~ブリュッセル6歳児日記~

機関名

ゾーン2ピクチャーズ

国・地域

フィンランド

メディア

映画

内容時間

72分17秒

メディアに「イスラム過激派の根城」と呼ばれるブリュッセルのモレンビーク地区を舞台に、6歳の少年たちの友情を描いたドキュメンタリー。フィンランド出身でギリシア神話の英雄に夢中のアトスとモロッコ出身でイスラム教徒のアミン。異なる環境で育った二人は、同じアパートに暮らす大の仲良しだ。「神さまっていると思う?」世界に興味を持ち始めたばかりの二人は、遊びを通して人生の重大な問いの答えを一緒に探す。しかしある日、テロリストが近所を爆破したことで、大人の社会のひずみが二人の目にも明らかになっていく。宗教や文化、テロや暴力といった多民族社会の課題について若者たちが対話することをねらった作品。」

と解説があり、もう一つは一般向け部門最優秀賞(東京都知事賞)作品で、

「作品名

ディス・イズ・ノット・ア・ムービー
真実を伝えるということ

機関名

ティナム
ストール・コロンコ
カナダ国立映画制作庁 (NFB)

国・地域

カナダ
ドイツ

メディア

映画

内容時間

106分00秒

中東の紛争地域を拠点に40年以上にわたって戦争の悲惨さを伝えてきたイギリス人ジャーナリストのロバート・フィスク。彼のキャリアを振り返り、原動力の源を探るドキュメンタリー映画。現場に足を運び、自分の目と耳で確認したことを届けることが大切だと語るフィスク。彼が長年戦ってきたのは、真実を隠そうとする権力と、人々の無関心だ。「“そんなことは起こってない”、“誰も教えてくれなかった”などと決して言わせない。それがジャーナリストの仕事だ。」という彼の言葉には闘志がにじむ。戦争はなぜ繰り返されるのか?中立であるとはどういうことなのか?真実をどう見分けるのか?フェイクニュースが蔓延する今こそ、ジャーナリズムの精神を取りもどす必要があることを訴える作品。」

と解説されています。このサイトには他の部門の受賞作品も紹介されていて、鑑賞することができます。

先ず『テロの街の天使たち~ブリュッセル6歳児日記~』ですが、この二人の幼い少年の間に結ばれる友愛の絆の中に、世界平和への本当の希望があると私は思いました。これはセンチメンタルな空想ではありません。人間の魂の結びつきにはここに実証的に記録されているような次元があるのです。

しかし、私がもう一つの記録映画『ディス・イズ・ノット・ア・ムービー 真実を伝えるということ』から受けた感銘は、今の私にとって、より強烈なものです。より個人的な感銘です。

このブログの2017年8月15日付けの記事 『Robert Fisk』;

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/7f235a2b4c3fe9444d04416aba0a25f4

の冒頭に私は次のように書きました:

「シリア戦争に関して、私が最も信頼するジャーナリストはロバート・フィスクです。彼の名をここに掲げようとして、私は、初めて、ウィキペディア(英文)の記事をチェックして、彼が極めて高い国際的評価を受けている卓抜なジャーナリスト兼著作家であることを知りました。この人に対する私の信頼は、中東の情勢についてのロバート・フィスクの多数の報道記事、論考を読み続けるうちに固められたものです。彼は独特のスタイルを持った文章を書きます。私の英語力では読みこなせない面があると思われますが、文面からひしひしと伝わってくるものがこの人の強靭な精神と柔軟な感性であることは疑う余地がありません。」

シリアとパレスチナの状況についての私の考え方は、決定的にこの優れたジャーナリストの影響のもとにあります。私がこの人の報道と判断に信を置いた理由は上掲の受賞記録映画をご覧になれば分かります。

 残念な事に、ロバート・フィスクは、昨年2020年10月30日、アイルランドの大学病院で病死、享年74歳、生まれは英国のケント、英国とアイルランドの国籍を持っていました。

 私が全面的に信頼するもう一人のジャーナリストであるジョン・ピルジャーは、「ロバート・フィスクが亡くなった。私はこの最後の偉大なリポーターの一人に心からの敬意と賛辞を捧げる。・・・彼は世に逆らって事に踏み込み、目覚しくも真実を語った。ジャーナリズムは最高の勇者を失った」とオマージュを献じました。私が一貫して尊敬の念を抱いている英国の政治家ジェレミー・コービンは「ロバート・フィスクが亡くなったと聞いてとても悲しい。中東の歴史、政治、人々について比較を絶する知識を持った最高の人物を失ったのだ」と述べています。

 実は、別のブログ記事『ジャーナリストの苦衷』(2018年3月8日);

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/5d2591752dba7a153ecb084b0949ff94

でも、ロバート・フィスクが支配的なマスメディアの牽制をかいぐってって、真実を我々に届けてくれている手法に私は言及した事がありました:

「以前にロバート・フィスクという英国人(ベイルート在住)の優れた老練ジャーナリストを紹介したことがあります。2月15日付と2月26日付の二つの記事をここでは取り上げます。

https://zcomm.org/znetarticle/acknowledging-the-facts-of-history/

https://zcomm.org/znetarticle/the-bombardment-of-ghouta/

始めの記事は、トルコが行なった Armenian Holocaust(アルメニア人大虐殺)についての考察であり、二番目は、今、シリアのグータをめぐる状況についての記事ですが、こうしたロバート・フィスクの記事を読む者は、少し持って回ったような記事作りが、かえって、彼の語りたいシリア戦争の真実の核心を伝えてくれているのだという感じを強く持ちます。外部の権力機構からの制約の下にある日本の新聞ジャーナリストたちが、フィスクのこうした語り口のスタイルを学び、身につけて欲しいものです。そうすれば、検閲をかいくぐり、ベネズエラやシリアやウクライナの現地の真実を、プロパガンダの煙幕をかいくぐって、我々に告げることができるのではありますまいか?」

 私は、この部分を読み返しながら、NHKが主宰しているこの教育コンテンツの映画国際コンクールが果たしうる、いや、現在すでに見事に果たしている思いがけない貴重な役割に気がつきました。いま取り上げている「日本賞」受賞記録映画『ディス・イズ・ノット・ア・ムービー 真実を伝えるということ』から人々が受け取るシリアやパレスチナに関する報道事実は、通常、NHKや大新聞が伝えているニュースとは大変異なる内容であり、調子も違います。つまり、NHKが主宰しているこの教育コンテンツ国際コンクールを通じて、検閲をかいくぐって、真実が我々の手元に届けられているのです。私としては、この貴重な抜け穴を見事に保持し機能させている人たちに大いなる声援を送りたいと思います。授賞者である東京都の知事さんは、ここに描かれて稀有のジャーナリスト故ロバート・フィスクを果たしてご存知でしょうか?

 

藤永茂(2021年1月16日)