私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

アサド大統領に物申す:ロジャバを救いなさい(1)

2017-11-16 22:45:43 | 日記
英国放送協会(BBC)は巨大な公共放送機関で我が国のNHKが何かと真似をしています。そのBBCの11月13日日付のニュース記事『ラッカの汚い秘密』:

http://www.bbc.co.uk/news/resources/idt-sh/raqqas_dirty_secret

は、米国が主導する代理地上軍SDF(クルド人部隊が主力)とSDFが殲滅を目指しているはずのIS軍が、共に、アサド政権軍に対する反政府軍勢力として米国によって動かされていることを明らかに示しています。記事は
The BBC has uncovered details of a secret deal that let hundreds of IS fighters and their families escape from Raqqa, under the gaze of the US and British-led coalition and Kurdish-led forces who control the city.
と始まっています。長い記事ですが多数の写真もあり、読みやすいので是非見てください。これらの大護送トラック集団がたどった道筋の地図を見れば、このIS兵力の移動の目的がなんであったかがよく分かります。デリゾール市からアルブカマルに至る地帯を制覇すべく急進撃したアサド政府軍を急遽迎撃するために、米国はSDFとISの戦闘員を慌てて輸送したのです。私は、やや手探り的な推測で前回のブログに以下のように書きました:
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 2017年10月22日、SDFはデリゾール市の東約25キロにあるエルウマール(Al-Umar)の油田地帯をISの支配から解放したと発表しました。27日には、SDFはさらに30キロほど進撃してイラクの国境に近いシリアでのIS最後の拠点al-Bukamalに迫り、ISとの交渉が成立して、その地域の無血占領に成功する見通しであることが報じられています。
 一方、前にも述べましたように、アサド政府軍の精鋭部隊はラッカの南方を急進撃してデリゾール市に達し、続いてユーフラテス川の両岸のシリアの油田地帯を制圧しようとしましたが、IS軍の熾烈な抵抗、反撃にあって、このところ、進撃は停滞してしまいました。
 デリゾール市周辺からユーフラテス川の東に広がる油田地帯をめぐるアサド政府軍、IS、SDFの三つ巴の争奪戦に関しては、報道が錯綜して詳細は必ずしも明確ではありませんが、ISとSDFの両方の指揮系統が米軍によって掌握されていることは否定の余地がありません。そうでなければ、ラッカからアルブカマルに到る距離は200キロ以上、SDFが僅か2週間ほどの間にISの占領地帯を貫通してアルブカマル市に到達できる筈がありません。
 米国の意図はもはや明白です。ISが占領したシリア北部と北東部を、“ISとSDFとの激闘”という芝居を打って、SDF勢力に肩代わり占領をさせる。(今回のSDFのアルブカマル奪還は、2014年にKRGのペシュメルガが当時のISISからキルクークを“奪還”した手口と同じです。)ISの戦闘能力はシリア南部に温存したまま、米国は“シリアからISが駆逐された”後の「和平会議」に臨み、あくまでアサド政権の打倒の執念を燃やし続けて、SDFに占領させた地域をシリア国土内の自治地域と規定することを要求することになります。現在すでにSDFのクルド人司令官たち(つまりYPG/YPJの代表者)に「我々が解放したラッカはアサド政権には戻さない」と繰り返し言明させています。
ラッカはもともとクルド人が多数を占める地域ではありません。YPG/YPJの代表者たちは「ラッカにはロジャバ革命の理念に基づく行政組織を育て、YPG/YPJ軍は一部を残してラッカから撤退する」と具体的に発言もしています。これらの政治的発言は明らかに米国の指導指令によって行われている国際的「和平会議」の準備工作です。また、勿論、米国がロジャバ地域内に(もちろんアサド政府の了承なしに、つまり、不法に)建設した米軍基地もそのまま保持して、「和平会議」の取引の材料にするでしょう。
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今回のBBCの記事で私が描いたことの裏が取れたと見て良いと思います。アルブカマル市の周辺ではまだISの根強い抵抗が続いています。抵抗勢力は、米国の差し金でラッカから急遽送り込まれた援軍によって力づけられたに違いありません。
 ISがその首都と称していたラッカからシリア/イラクでのISの最後の拠点とされるアルブカマルへ、IS“テロリスト”の殲滅を約束していた米国がISの戦闘員を多数輸送したことについて、トルコの首相ビナリ・イルディリムが強い非難の声を挙げています:

https://www.almasdarnews.com/article/turkish-pm-slams-us-supporting-isils-withdrawal-raqqa/

それによると、護送集団は50台のトラック(写真で見ると超大型)からなり、その10台は重火器を満載していたとか。しかし、米国がISを援助したとトルコが米国を非難するのは全くの噴飯ものです。シリア紛争の始まりから最もおおっぴらにISを支援して来たのはトルコなのですから。
 米国の代理地上軍SDF(つまりロジャバのクルドYPG/YPJ)は約4ヶ月の戦闘の末、2017年10月20日に、ISの首都ラッカの完全制圧を宣言しました。2014年以降、クルド人軍YPG/YPJの戦死者は約4千人、その四分の一は女性兵士とされています。米空軍機の爆撃も浴びたIS側の戦死者数はさらに大きいでしょうから、両方合わせて1万人と見積もれば、これだけの数の(主に)若い人間たちが米国の仕組んだフェイク・ウォーのために死んでいったことになります。許されることではありません。この残酷性こそ帝国主義国家アメリカの真骨頂です。私は以前(2015年2月18日)のブログ記事『もっとも残酷残忍な国は?』でもこのことに触れました。しかし、この度のシリア戦争での米国の残酷行為には、私の見地から特に許せないものがあります。それは、ロジャバ革命を“throw under the bus”しようとしているからです。

次回に説明します。

藤永茂(2017年11月16日)