私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命よ、生き残れ(3)

2019-10-30 23:53:43 | 日記・エッセイ・コラム

 急展開を見せるシリア情勢について、中東情勢に詳しい専門家諸賢の発言が数多く出ています。その例を一つだけ挙げておきます

http://www.unz.com/tsaker/revisiting-the-win-win-win-win-outcome-in-syria/

 10月22日にロシア南部のソチで行われたロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の会談は6時間に及び、両国間で極めて重要な合意が達成されました。プーチン大統領の外交的手腕に対しては、deftという形容を超えて、exquisitという褒め言葉まで使われています。ロジャバ革命の将来を占うために、この双方合意の内容をしっかりと読んでみましょう:

https://syria360.wordpress.com/2019/10/22/memorandum-of-understanding-between-turkey-and-the-russian-federation/

https://thesaker.is/putin-and-erdogan-hold-joint-press-conference-in-sochi/

 

トルコとロシアの間の了解事項覚書

 

報道陣に対する声明 2019年10月22日

 

ロシア大統領ウラジミール・プーチン:

エルドアン大統領、ご列席の皆様

我々は、トルコの大統領が、最近の電話会談で提案した我々の申し出を受け入れられたことを感謝する。本日、彼とその使節団が、シリア・アラブ共和国における情勢の展開について、ユーフラテス河東岸のシリア北東部を含めて、討議するためにソチ市に到着した。

エルドアン氏はシリア国境沿いのトルコの軍事作戦の目標について詳細な説明を行った。我々は、トルコがその国家的安全を保証する処置をとることを強く望んでいることを理解していることを重ね重ね表明した。

我々は、その地域でのテロリズムと民族的、宗教的紛争の増大する脅威についてのトルコの懸念を共有する。それらの紛争と分離主義的心情は外部から人工的に煽られていると我々は信じている。

クルドの軍事勢力によって捕虜とされたISISの戦闘員たちのような、テロ組織のメンバーがトルコの軍隊の活動を利用して、脱走を企てることを防止することは重要である。

シリアは不法な外国軍隊の存在から解放されなければならない。 我々は、シリアが堅固な永続的安定性を得る唯一の道はシリアの主権と領土的一体性を尊重することであると信じる。これは我々の原則的立場であり、それについて我々はトルコ大統領と討議した。

この進路をトルコ側と分かち合うことが重要である。トルコ人とシリア人は国境沿いの平和を一緒に守ることが必要であろう。平和は両国間の相互尊重の協力がなければ不可能であろう。

これに加えて、シリア政府と北東部のシリアに居住しているクルド人たちの間の広範な対話が開始されなければならない。シリアという多民族国家の不可欠の一部としてのクルド人のすべての権利と利益は、そのような包括的な対話を通してのみ十分に考慮されるであろう。

言うまでもなく、トルコ大統領との会見中、我々は、シリアが国連と協力してシリアの憲法委員会の中で行う、シリア国内での平和的な政治過程を促進するための追加的手段も討議した。

アスタナ方式の保証人たちは、そのことについて、長年にわたって、注意深く努力を続けてきた。

我々は、現地での状況が、長く待たれてきた来週10月29日〜30日のジュネーブでの憲法委員会の発足を阻止することがあってはならないと信じる。 

当然のことながら、我々は人道的諸問題も討議した。我々は、シリアの避難民の帰国を援助することが必要と考える。それによって、シリア難民の受け入れに合意した国々が担った社会的経済的負担は大幅に軽減されるであろう。このことは第一に、そして、最大にトルコ共和国に当てはまる。

我々は、国際社会、とりわけ関係のある国連の諸機関が、帰国するすべてのシリア人に人道的支援の手を、何らの差別、政治問題化、前提条件なしに、差し伸べることを要請する。我々は、また本日の会合を両国間の現在の懸案の論議にも利用した。

我々は両国間の貿易の増大に満足の意を表した。昨年度は16%増大した。我々は近未来について何をなすべきかについて意見を交換し、また、10月初めに調印した国家通貨による決着支払いについての合意の実施がより一層の貿易増加を容易にするであろうことに確信を表明した。

我々は、単にルーブルとリラのより積極的な使用のみならず、ロシアのMIRカードのトルコでの使用とトルコの銀行や会社のロシアのメッセージ・システムへの連結についての重要な文書についても談合を行った。私は、これは両国間の旅行者の交流を拡大するステップの一つと、私は考える。

我々は、積極的に成功裏に進展している大型プロジェクトを含む我々二國関係全般についても話し合った。我々は、また、軍事的、技術的協力も深化させている。ロシアとトルコにおいて長年の文化と旅行の交流が成功裏に行われていることを、私は指摘したい。

最後に、私は、実務的な真摯な会話ができたことを、トルコ大統領と我々のすべての友人同僚に感謝したい。我々は、隣国であることとお互いの利益に対する敬意の原則の上に、すべての分野での協力を発展させたいと考える。

長時間にわたる徹底的な討議の結果として、この我々の声明の後に両国の外務大臣が言明する決定事項に漕ぎ着けたことを、私は喜ばしく思う。

私は、これらの決定事項は、歴史的とは言わずとも、大変重要であり、シリア-トルコ国境についてかなりはっきりした決着をもたらすものと考える。

ロシアとトルコの大統領が報道陣向けの声明を行なった後、両国の外務大臣がロシア-トルコ会談に従って採択した覚え書きを読み上げる。

 

了解事項の覚え書き 2019年10月22日

 

トルコ共和国大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンとロシア連邦大統領ウラジミール・プーチンは以下の諸点について合意した:

1.双方はシリアの政治的統一性と領土的無欠性の保存とトルコの国家的安全保障の公約を反復確約する。

2.双方はあらゆる形と表現のテロリズムと戦い、また、シリア領内での分離主義的政策を崩壊させる決意を強調する。

3.この枠組み内で、テル・アビヤドとラス・アル・アインを含む、国境から32キロメーターの深さの地域は目下の平和の春作戦が確立した現状そのままに保持されるであろう。

4.双方はアダナ合意の重要性を再確認する。ロシア連邦は現在の状況下でのアダナ合意の実施を促進する。

5.2019年 10月23日正午を期して、ロシア軍警察とシリア国境防衛隊はトルコ-シリア国境のシリア側、平和の春作戦が実施された地域外の地帯に入るであろう。それは、150時間内に終了すべき、トルコ-シリア国境から30キロメーターの深さの地帯からのYPG要員とその武器の排除、を促進するためである。その時点において、ロシアートルコ合同パトロールが、平和の春作戦が実施された地域の西側と東側で、カミシュリ市を除き、10キロの深さで開始されるであろう。

6.全てのYPG要員とその武器はマンビジュとタル・リファトから除去されるであろう。

7.双方はテロリスト要員の潜入を防止する必要手段を取る。

8.避難民が安全かつ自発的な避難民の帰還を容易にする合同の努力が開始されるべきである。

9.この覚書の内容の実施を監督し、調整するための合同の監視、確認の仕組みを設立する。

10. 双方はアスタナ・メカニズムの枠内でシリア紛争の永続的な政治的解決を見出すための努力を続け、憲法委員会の活動を支持する。 

クレムリン

<トルコとロシアの間の了解事項覚書おわり>

 上の覚書には重要な事項が多数含まれていますが、私の関心事である「ロジャバ革命」の命運は合意点の第2項で尽きているようにも見えます。念のため、英語原文を引きます:

2. They emphasize their determination to combat terrorism in all forms and manifestations and to disrupt separatist agendas in the Syrian territory.

この内容はロジャバ革命に引導を渡すものではないと私は考えます。次回にはその理由を詳述します。

 

藤永茂(2019年10月31日朝)


ロジャバ革命よ、生き残れ(2)

2019-10-23 20:37:41 | 日記・エッセイ・コラム

 シリアの現状についての報道と論説は混乱を極めていますが、否定できない硬い重要な事実もいくつかあります。我々はそれらの事実に基づいて判断をしなければなりません。その最重要の事実は、ロジャバ革命の進展とその具体化として、シリア北東部の三角形地域を支配しているクルド主導の民主的自治行政機関(Democratic Autonomous Administration of North and East)の存在です。前回に言及したように、この行政組織は、いわゆる「コバネの戦い」を機に、米国が、シリアでの傭兵地上軍としてIS(イスラム國)勢力から武装組織クルド人民防衛隊(YPG,YPJ)に乗り換えた結果として生まれました。コバネでのクルド人民防衛隊の死闘とその勝利は、すでに、ISをYPG,YPJ壊滅のための傭兵勢力として意識的に使っていたトルコにとっては目的の一歩手前で当てが外れた思いだったでしょうが、この時点では、油田を含むシリア北東部を、丁度、イラク北部のクルド人たちのクルディスタン地域と同じように親米、親トルコのクルド人自治地域に仕立て上げればよいという思いがあったに違いありません。しかし、米国とトルコが共通して抱いた期待は全くの当て外れになることが時の経過とともにますます明らかになって行きました。実際、イラクのクルディスタン地域自治政府とシリアの民主的自治行政機関との仲は、現在、単に良くないどころか、むしろ、敵対しているのです。

 つい先ごろまで米国のシリア政策上の傭兵地上代理軍として働いてきたYPG,YPJを主力とするシリア民主軍(SDF)の殲滅を目指して、トルコ国軍がシリア侵攻を開始したので、米国とトルコの関係がひどく悪化し、米国に見捨てられたSDFは、途端に、宿敵シリア政権に支援を求めた、というマスコミの描像は眉に唾をつけて受け取らなければなりません。マスコミが騒ぎたてる程トルコと米国の関係は悪くなってはいません。あわや核戦争かと思われたキューバ危機の発端は、米国がソ聯の鼻先のトルコに核爆弾を持ち込んだことに発しましたが、キューバからソ聯の核爆弾が除去された後も今日に至るまで、依然として、トルコの米軍基地インジルリクには米国の核爆弾が居座ったままです。一方、ロジャバの首都カーミシュリーの空港は、クルド人側と“宿敵”アサド政権との間の合意によってアサド政権が保持しています。今回のトルコ軍の侵攻に対抗して、この空港をアサド軍の軍用機が使用することになるでしょう。

———— 数日前、ここまで書いて筆を止めていましたら、その間に目まぐるしい展開があり、北西部のマンビジュではSDFが支配していた市街部にアサド政府軍が入ってSDFと交代し、その東に位置する重要拠点コバニの市内にもアサド政府軍が入ったと報じられました。シリア北部に正規軍の侵攻を開始したトルコとその地帯から撤退した米国の間では、トランプ大統領が外交文書としては異様な言葉遣いの手紙をトルコのエルドアン大統領に送り、ペンス副大統領がアンカラに飛んでエルドアンと会見した結果、5日間の侵攻停止が宣言され、その期間内にシリア民主軍(SDF)は国境地帯から撤退することが要請されました。シリアのアサド大統領の立場からすれば、シリアの領土主権をまったく無視した言語道断の話ですが、今後の事態の展開はどうなるのか大いに気になります。

 トランプがエルドアンに送った書簡の文面は、使われている言葉使いが実に興味深いものですが、我々が読むべきもっと重要な書簡が公表されていますので、そちらの方を以下に訳出します。それはクルディスタン労働者党(PKK)が米国国民とトランプ大統領に宛てた書簡です。

https://anfenglish.com/features/pkk-letter-to-the-american-people-and-president-trump-38561

https://zcomm.org/znetarticle/pkk-letter-to-the-american-people-and-president-trump/

 

<PKKが米国国民とトランプ大統領に宛てた書簡>

 

クルディスタン労働者党(PKK)の国際関係委員会は、クルド人に対するトルコ國の虐殺作戦が進行中の今、PKKのクルド運動とISISとの比較論議に応答して、米国国民とトランプ大統領に宛てた書簡を公表した。書簡の内容は次の通り;

米国の人々とドナルド・トランプ大統領に。 

我々は、我々の運動とISISという非道残酷な殺し屋集団と比較論議を拒絶する。我々の応答は次の通りである:現在、4千万人以上のクルド人が中東に住んでいる。第一世界大戦が終った時に、中東外諸強国がそれらのクルド人を4つの独裁的国家、イラン、イラク、シリア、トルコに分割したが、それが我々の運動の始まりとなったのだ。

長年の間、クルド人たちはこれらの政府に、誰もがその日々を楽しんで生きる基本の民主的権利だけを、つまり、存在する権利、自分たちの言語を話し、固有の文化に生き、自由な平等の市民として政治に参加する権利だけを求めたのだった。

“PKK はトルコの国家暴力に抵抗するために結成された”

その度ごとに、彼らは容赦なく制圧されたのだ:先進的な兵器によって爆撃され、真夜中に家屋から追い出されて、行方不明になり、投獄され、拷問にさらされ、彼らの住んでいた村落は破壊し尽くされ、そして、彼らの言葉と文化さえもが禁止されてしまった。クルド人に対するトルコ国家の暴力に抵抗するために1978年に我々がPKKを結成するまでに、トルコはトルコのクルド人地域の何十万のクルド人を虐殺していた。時間的に大して遡る必要はない;1990年代にもトルコ國は4千のクルド人村落を破壊し、非合法的に17000人のクルド人を殺害した。

“我々の努力は無視された”

 トルコの指導者たちは、歴史上のあまりにも多くの独裁者たちと同じく、自由な生活を求める基本的な人間の希求を暴力と恐怖で粉砕できると思い込んだ。彼らの軍隊が国際法の全ての原理に違反する言語に絶する残虐行為を行なっている一方で、我々(PKK)にテロリストと犯罪者の烙印を押し、何十億ドルもの金を費やして、アメリカ合州國のような国々にも同様の立場をとらせるようにした。我々はジュネーブ条約に調印し、戦争は直ちに終結し、クルド人の権利は制度化されうると了解して、1993年以来いろいろの機会に和平交渉を求めた。これらの努力は無視された。

“PKKはこれまで一度もUSや他のいかなる国も攻撃目標にしたことはない”

 PKKはこれまで一度もUSや他のいかなる国も攻撃目標にしたことはない。我々はこのトルコとの紛争を平和裡に政治的に解決するための交渉の機会から身を引いたことはこれまで一度もなかった。実際、1993年以来、話し合いにの道を開くために、我々は8回も停戦を宣言してきた。PKKの政治的企画は基本的人権と自由、ジェンダー解放、宗教的共存、環境保護権利に基礎を置いている。

 ISISがシリアとイラクでテロ軍事行動を開始した時、我々は立ち上がらねばと覚悟した。このグループは、我々が長年にわたって擁護のために戦ってきた諸理想のみならず、何百万の人々の安寧をも脅かしたのだ。この地域と世界の軍事的経済的に強力な諸国は、数百万人がこの過激集団に征服されているのに、行動の費用を気にして、すぐに対応しなかった。

 2014年8月、我々はイラクのシンジャールで人道的軍事行動を遂行した;そこでは、ヤジディ人集団に対して、やがて国連がゼノサイドと認定することとなる、残虐行為をほしいままにしていた。ヤジディの人たちはローカルな軍事勢力ではどうにも止められなかった敵に直面して、世界から全く無防備に見捨てられていた。我々がそこに最初に派遣した軍事勢力はたったの7人からなっていた。これに始まって、我々は北東シリアに続く人道的回廊を開くことに成功して、シンジャール山中に閉じ込められた3万5千人の民間人たちを安全の地に導いた。続いて、我々は、他の軍事勢力と力を合わせて、ISISの支配からその地域を解放したのであった。

“トルコはISIS過激集団を阻止する事を何もしなかった”

 我々の運動とクルド人たちはこの戦いに数千の生命を捧げたが、我々を‘テロリスト’と呼ぶトルコ国家は、世界中で無辜の人々を恐怖に陥れているISIS過激集団を阻止する事を何もしなかった。今、トルコ国家は、国境のすぐ南の地域からISISが国際的な攻撃を企てていた時に行ったより激しい凶暴さで北東シリアの攻撃を始めた。トルコは、アル・カエダと関連しているテロリスト暴力団を送り込んで、ISISを打ち負かした人々を苦しめ殺害している。トルコは、単にクルド人だと自己同定する人々を、シンジャールやコバニだけでなく、パリ、マンチェスター、ニューヨークの無辜の人々を殺害の目標とする集団よりも大きな脅威だと見るのである。

 2017年5月、あなた達の首都ワシントンで、トルコのエルドアン大統領が、彼のボディガードたちに、平和的に抗議しているクルド人たちを如何に野蛮に襲わせたかを、あなた達は目撃した;クルディスタン現地で彼らがどんなことをするか、想像してほしい。 我々はテロの罪を犯してはいない;我々が国家によるテロの犠牲者なのだ。我々が我々自身を守っていることが罪とされているのだ。アメリカの人々が、この世界の危険なテロリストは誰なのかを自分自身で判断できるものと、我々は信じている。

<書簡終わり> 

 上記のワシントンでの騒ぎに関する報道としては、次のネット記事の中に2017年5月16日の両デモ・グループのもみ合いの写真が見つかっただけです。 

https://www.al-monitor.com/pulse/originals/2017/12/dissidents-minorities-assassinations-abroad.html

 しかし、海外でのエルドアン政権の指示による実際の暗殺事件として有名なのは、2013年1月10日、パリでのPKK女性運動家3名の惨殺です(和文記事):

https://jp.wsj.com/articles/SB10001424127887323942504578234641766294614

今では、これはトルコ政権側のテロ的犯罪だったと広く信じられています。

 「テロリズム」とは一体何か? テロ行為を実行しているのはPKKか、それとも、トルコ政権の方なのか? これは慎重に判断すべき問題です。

 2019年10月23日、本日のマスコミには、シリア北東部のトルコ国境沿いの地帯からクルド人民防衛隊を排除する合意がトルコ、ロシア両政府の間で成立したことが報じられました。これは、重大な事態です。「これでロジャバ革命も一巻の終わり」という声もしきりに上がっています。

私は、そうは思いません。次回に説明します。

 

藤永茂(2019年10月23日)


ロジャバ革命よ、生き残れ(1)

2019-10-14 22:06:42 | 日記・エッセイ・コラム

 ロジャバのクルド人勢力に対するトルコ軍の越境侵略攻撃が10月9日に開始されました。攻撃は国境に沿って長さ600キロ、幅40キロの地帯で行われていると報じられています。ロジャバ(西の意味、西クルディスタンの呼び名)の元々の武装組織クルド人民防衛隊(YPG,YPJ)を主力として構成されたシリア民主軍(SDF)は、事実上、米国の傭兵的な役割を担って、シリアのユーフラテス河東岸の三角形の地域(面積でシリア全土の約3分の1弱)を支配占領することになりましたが、その北部のトルコとの国境沿いの東西に細長くのびたロジャバ地区には以前からクルド人が集中して居住していて、そこでロジャバ革命が発祥したのです。

 シリアの油田地帯と広大な農業生産地を含むこの三角形地域を、米国が鮮やかな策謀で占領した次第は、以前に説明しました。シリアのアサド政権打倒のための事実上の傭兵代理地上軍としてのIS(イスラム国)軍と、その怒涛の進撃をコバニで見事に食い止めたクルド人民防衛隊(YPG,YPJ)を、これまた、もう一つの傭兵代理地上軍としてシリア民主軍(SDF)を仕立て上げ、米国は、この二つの傭兵的軍事勢力を実に巧みに操って、アサドの軍隊がユーフラテス河東岸に進攻する前にシリア北東部の広大な三角形地域をSDFに制圧させてしまったのでした。しかし、「策士、策に溺れる」とはまさにこの事、IS(イスラム国)軍をアサド政権打倒の傭兵的軍事力として操ってきた米国とトルコの間の軋轢が嵩じて、その果てがトルコ正規軍のシリア侵攻という現前の非常事態です。

 

 

 シリア北東部の三角形地域を現在支配している自治行政機関(Autonomous administration of North and East)は、シリアの国境線を維持し、シリアの主権を守るためにアサド政権と一つの合意に達したことを表明しました。それを伝えるANFのニュース記事(英文)を転載します:

https://anfenglish.com/news/autonomous-administration-announces-agreement-with-the-regime-38377 

The Autonomous Administration of North and East Syria released a statement announcing that an an agreement has been reached for the Syrian regime to fulfil the duty of protecting the country's borders and preserve Syrian sovereignty.

The statement includes the following;

“The self-administration of northern and eastern Syria, through its military forces, the Syrian Democratic Forces formed out of all the components of the Syrian self-management areas, fought terrorism starting from Kobani in 2014 and then continued the battles of liberation against this terrorist group in northern and eastern Syria, as it managed to liberate Manbij west of the Euphrates, Tal Abyad, Tabqa until it reached the alleged capital of ISIS “al-Raqqa” and then to Deir ez-Zor and declared victory over this group after five years of fighting on March 23, 2019.

This liberated geographical area is equivalent to one third of the total territories of Syria. The SDF lost 11 thousand martyrs and 24 thousand wounded, including permanent disabilities during these battles.

This was a high price to liberate the Syrians and all the components from the oppression and brutality of these terrorist organizations and to preserve the territorial integrity of Syria.

Our political project in northern and eastern Syria did not call for secession, but we have been calling for dialogue and resolving the Syrian crisis peacefully. We did not attack any country, especially Turkey, though it persists to call us terrorists while it played an important role in supporting terrorism in Syria. Today, Turkey is invading the Syrian territory liberated by the SDF with the blood and sacrifices of its children.

During the past five days, the most heinous crimes against unarmed civilians have been committed. The SDF has responded with dignity and courage resulting in the death and injury of its fighters, in order to save the Syrian integrity, however Turkey is continuing its assault. As a result, we had to deal with the Syrian government that has the duty of protecting the country's borders and preserve Syrian sovereignty, so that the Syrian army can enter and deploy along the Syrian-Turkish border to support the SDF to repel this aggression and liberate the areas entered by the Turkish army and its hired mercenaries. This agreement offers an opportunity to liberate the rest of the Syrian territories and cities occupied by the Turkish army as Afrin and other Syrian cities and towns.

Therefore, we call on all our people and all components in northern and eastern Syria, especially the border areas, that this deployment came through coordination and compatibility with the self-administration of the North and East Syria and the Syrian Democratic Forces.”

要を得た立派な文章です。中程の一部を訳出しましょう:

「この解放された地理的面積はシリアの総領土の三分の一に等しい。SDFは、これらの戦いを通じて1万1千人の戦死者と、永久的障害者を含め、2万4千人の負傷者を出した。これは、シリア人全体をこれらのテロリスト組織の抑圧行為と残酷性から解放し、シリアの領土的統一を維持するための高価な代償であった。」

 

藤永茂(2019年10月14日)