私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

日本映画『ひろしま』と米国映画『オッペンハイマー』

2023-08-06 07:18:17 | 日記・エッセイ・コラム

1945年8月6日午前8時15分、広島に原爆が投下されました。今日は78回目の記念日です。

今年、2023年、の7月21日に米国などでクリストッファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』が世界中で(日本は未公開)封切られ、大評判になっていて、それに関する報道や記事がネット上に溢れています。世界終末時計で有名な雑誌Bulletin of the Atomic Scientists (BAS, 「原子力科学者会報」と翻訳されています)やアメリカ物理学会の会誌Physics Today にも多数の関連記事が掲載されています。仮にこれを映画『オッペンハイマー』現象と呼ぶことにします。この米国の社会現象に対して私は極めて批判的です。ここには米国人社会の、米国ののっ引きならない深刻な病巣が露呈されています。「まだ見てもいないくせに何を言うか」という非難を受けるでしょう。私は、敢えて、“現象”という言葉を使いました。映画そのものを見る必要はないのです。反核、核兵器廃絶の立場を取る人間として、これは最悪のエンタメだと私は断言します。運命に揉みくちゃにされる一人の人間として、オッペンハイマーは稀有の標本ではありません。運命の方は稀有のものでしたが。「悪の陳腐さ(Banality of Evil)」という概念があります。この概念の定義の変更、拡大が求められています。アメリカという文明の性格そのものの問題です。「バービー人形」と「オッペンハイマー」をペアにして売り込む言語道断の行為は「悪の陳腐さ」の見事な一例です。日本で公開されても映画館に見に行くつもりはありません。やがては安価なDVDも発売されるでしょうが、その頃には、私自身のほうが“時間切れ”になっていると思います。何しろ、オスカー賞を総なめするだろうという前評判ですから。

 70年前の1953年、日本で関川秀雄監督の映画『ひろしま』が製作されました。異色の作品で、企画制作は日本教職員組合、出演者の筆頭は、広島原爆被害者、延8万8千5百人とあります。内容が反米的という事で、松竹、東宝、大映などの大手は映画館への配給を拒否しました。しかし、1955年には第5回ベルリン国際映画祭で長編映画賞を受賞しました。幸いにも、2011年、核廃絶を目指す有志の人々の手によって1953年の映画『ひろしま』がカラー映画として再製作され、我々はYouTube で1時間43分39秒の映画を見ることが出来ます:

https://www.youtube.com/watch?v=O66BcBeoSj8

俳優の出演者としては、山田五十鈴、岡田英治、加藤嘉、月丘夢路、薄田研二、三島雅夫、信欣三、などなど、私の年代の人間にとって懐かしい俳優さんが名を連ねます。音楽は伊福部昭。製作費は募金に頼り、月丘夢路は無償で出演と伝わります。

 この映画は、今の日本人にとって必見の映画です。ノーランの『オッペンハイマー』とはまるで異次元の映画です。今日この日に、是非ご覧ください。『ひろしま』にはオッペンハイマーは出て来ません。『オッペンハイマー』には広島長崎は出て来ないそうです。

藤永茂(2023年8月6日、広島原爆の日)


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3 コメント

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Unknown (どんどん)
2023-08-06 11:38:33
いつも刺激的な文章拝見しております。
今のアフリカのニジェールのことを考えてたら、昔ミニシアターで観た「ルムンバの叫び」を思い出してしまいました。
この映画に関連して、藤永茂さんのことを遅まきながら知りました。
福島原発事故で、原発や核開発のことを調べてましたら、遅まきながら藤永さんのブログに突き当たり、「カタンガのウランが広島の空に」を繰り返し読み返しています。そしてサンジェーのことも。
原爆の日の本日、午後9時〜nhkスペシャルで
「原子爆弾極秘記録
知られざるウラン争奪 謎のウラン商人が暗躍」
が放送されるそうです。
藤永茂さんのブログを愛読してる者にとっては、
当たり前、何を今さらの感じがしますが
どんな内容なるやら

このことをお知らせしたくて、コメントいたしました。まだまだ暑い日が続きますがご自愛下さい。
NHKスペシャル (藤永茂)
2023-08-06 12:48:02
どんどん様
お知らせ有り難うございました。今夜しっかりと視聴します。
原爆の子 (大橋晴夫)
2024-04-14 13:05:21
ブログ記事二つ(2024.04.11.と2023.08.06.)を読み直したところ、いま一つの映画を思い出しました。映画をあまり見ない私には、外務省により圧力をかけられた原爆映画としか記憶がなかったのですが、それは新藤兼人監督による「原爆の子」と題する映画でした。「ひろしま」とも縁のある映画でした。ウイキペデイアによると「原爆の子」は現在もヨーロッパでたびたび上映されており、アメリカでは1995年(平成7年)にカリフォルニア州の大学の博物館で、2011年(平成23年)にはニューヨーク市ブルックリン区で上映された、とあります。

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