私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ザポリージャ原発に対する砲撃

2022-08-30 18:48:54 | 日記・エッセイ・コラム

 

 2022年3月4日未明、ウクライナ東南部のザボリージャ原子力発電所の周辺が砲撃を受けました。それ以後も多数回同様の砲撃が繰り返され、最近の2022年8月28日にも二発の着弾が報じられました。この極めて憂慮すべき事態について、私の判断を述べてみます。それが何を意味しうるか。『衆愚』と題するブログ記事(2016年5月23日)

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/m/201605

で、我々一般大衆が陥る愚かしさに言及しました。世の中の情勢に関する、大衆、庶民の一人としての私の判断の甘さや誤りについては、これまでにも多くの教示や叱咤をいただいてきましたが、私と同じような心理的姿勢でマスメディアに接している人々に、ザボリージャ原発周辺で起こっている事象について、これまでに私が接した情報に基づいて、庶民の一人としての私の認識と判断を、敢えて、お伝えしてみたいと考えます。

 現在、ザボリージャ原発はロシアの占領地域内に含まれています。ロシア軍がその占領を開始したのは、おそらく、本年2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まったすぐ後のことで、その時、発電所を守備していたウクライナ軍との普通の意味での地上戦闘があったようには報道されていません。両方のニュースメディアが一斉に報じたザボリージャ原発周辺への砲撃は3月4日未明に起こりました。ウクライナ側はロシアがやったと言い、ロシア側はウクライナ側から砲弾が着弾したと主張しました。この4日未明、発電所の占領を試みたロシア軍とそれを迎え撃ったウクライナ軍との地上戦闘が行われたと述べた報道を私は見たことがありません。その後、8月はじめまでは砲撃についての具体的な報道がなく、ロシア軍のザボリージャ原発の占拠を非難する報道、例えば、3月11日付の日本グリーンピースの報道論説:

https://www.greenpeace.org/japan/nature/story/2022/03/11/56074/

などが主体ですが、8月に入って、ウクライナ側は8月5日、6日とロシア側からの砲撃があったと発表し、その後は、ウクライナ側からの、ロシアの暴挙に対する声高の非難がマスメディに満ち満ちるようになりました。国連の安全保障理事会でも議題として取り上げられ、アントニオ・グテーレス国連事務総長によって政治問題担当事務次長に任命された米国のローズマリー・ディカルロは、「ザボリージャ原発によって供給される電力はウクライナ国家のものだから、ロシアがこれを勝手にコントロールするのは違法である」という意味の発言をして、ロシアを非難しました。8月22日、ザボリージャ原発に関する2回目の安全保障理事会で、ロシアの代表ヴァシリー・ネベンジアは、まず、ロシアの資産が一方的に凍結され、シリアでは米国はその北西部を全く違法に占領してシリアの石油を勝手に持ち出していることを指摘した後、ザボリージャ原発に対するウクライナ側からの砲撃のために、その安全がますます脅かされているとして、その攻撃の実態を具体的に示す証拠を提出しました:

https://libya360.wordpress.com/2022/08/23/evidence-of-ukrainian-shelling-of-zaporozhye-provided-to-un/

以下に、英語原文を少しコピーしますから読んでください:

According to the Russian Ministry of Defense and the military-civilian administration of the Zaporozhye region, on August 11, units of the 44th artillery brigade of Ukrainian armed forces shelled the station with 152-millimeter guns. As a result of the strikes, the equipment of the spray pools of nuclear reactor’s cooling system was damaged.

On August 14, the Ukrainian armed forces fired 10 shells at Zaporozhye NPP with 155-mm shells from American-made M-777 howitzer, and also launched two guided munitions. As a result of the shelling of the city of Energodar, one person died, another was wounded. On August 15, 30 shells were fired from 152-millimeter guns. August 17, 11 shells were launched as well as a Polish-made kamikaze unmanned aerial vehicle. Three strikes were made with loitering munition on Energodar.

On August 18, Energodar was shelled 7 times with heavy artillery. On August 20, strikes on the station were made from Ukrainian positions using heavy artillery and American-made 155-millimetre shells with American-made M-379 fuses. An artillery strike was carried out in the area of special buildings No. 1 and No. 2 and the laboratory and amenities building. As a result, the building of the laboratory and amenities building No. 2, the building of the hydraulic engineering unit and the station lighting were damaged. Immediately after the shelling of the station, fire was opened on the suburbs of Energodar.

On August 22, an unmanned aerial vehicle attacked the area of ​​laboratory building No. 2. In addition, American long-range artillery was used to shell the thermal tower station in Energodar. According to reports, one civilian was killed and one injured.

これで見ると、攻撃は、8月11日、14日、17日、18日、22日と行われています。証拠写真も提供されたようです。ロシア側の自作自演のプロパガンダ芝居だと見るのは何としても無理なように思えます。Energodar はザボリージャ原発のある都市の名前で、現在はその全体をロシアが占領しています。

 国連のグテーレス事務総長はウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談し、8月18日、「原発に損害を与えることは、自滅に等しい」とロシア軍の撤退と非武装化の必要性を訴えました(朝日新聞):

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000265516.html

これに対しての上のロシア代表の発言は次の通りです:

Recently, the UN Secretary General Guterres visited Ukraine. We pinned certain hopes on his visit. We expected that the UN would finally firmly demand that Kiev stop shelling the plant. But we have not heard any words of condemnation of what is happening from Mr. Guterres, other than appeals for “military actions to bypass the Zaporizhzhya NPP.”

この後、ロシア側はIAEA(国際原子力機関)の代表のザボリージャ原発現地視察を強く求め、これは幸いに間もなく実現しそうです。この機関は、1957年に、国連の後援のもとに自治機関として設立されました。しかし、楽観は出来ません。今の国連は明らかに米国の強力な影響のもとにあります。国連のグテーレス事務総長がロシアを直接訪問してザボリージャ原発の問題の解決を試みる事はありますまい。

 1961年、アフリカのコンゴ動乱の解決に努力していた、時の国連事務総長ダグ・ハマショルドが飛行機事故で亡くなりました。1970年代からコンゴ問題に強い関心を持ち続けている私は、ハマショルドの死は暗殺であったとほぼ確信しています。(ネット上で最近また問題が再燃していることを知りました)彼は、まさに、米国とソ連の間に身を置いていました。グテーレス現事務総長も、今、ハマショルドの暗殺死を強く意識していると思います。CIAが牛耳ってきた米国は暗殺大国ですから。

 8月の初め頃から、私は、NHKテレビのニュース番組でのザボリージャ原発砲撃関連の報道を注意深く観察してきました。初旬、中旬では、ほぼ必ず「ロシア側による砲撃」とはっきり名指しの口ぶりでしたが、次第に曖昧となり、昨日今日、IAEA(国際原子力機関)の代表のザボリージャ原発現地視察についてのニュースからは、それが消えてしまいました。こうした微妙な変化がどのようにして起こるのか、指図はどこから発せられるのか、衆愚の一員、一般庶民の一員として、気になって仕方がありません。

 IAEA(国際原子力機関)の視察団の到着が間近になって、米軍当局は「ロシアが発電所周辺を砲撃しているのは確かだが、ウクライナ側がその地域からのロシア軍の砲撃に反撃した事はないとは言い切れない」と、苦しい言い逃れのようにひびく発言をしたようです:

https://www.rt.com/russia/561769-pentagon-ukraine-nuclear-shelling/

その断片を引用しますので、読んでください:

“What I know for sure is that the Russians are firing from around the plant,” the unnamed official told reporters during a background briefing at the Pentagon. “I also know that there are rounds that have impacted near the plant.”

“And I don't want to say that the Ukrainians haven't fired in that vicinity either because I think there's probably a likelihood that they have, but in good – in a number of cases, it's returning fire of the Russians who are firing from those locations,” he said.

これらの陳述のソースは、米国国防省が正式に発表した状況報告の長いトランスクリプトの最後の質疑応答の部分の一番最後のところにあります。

https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/3143393/senior-defense-official-and-senior-military-official-hold-a-background-briefing/

ついでに、このブリーフィングの文字通り一番最後の一文をコピーします:

I mean, I guess the easy thing to say here too would be, you know, the Ukrainians are very aware of the potential impacts of striking the nuclear power plant and they're going out of their way not to do that. And they have had conversations with us about that too, that they are very aware of the criticality of that nuclear power plant.

これを読むと、大量の最新砲撃兵器を送り込んで「ドンドン打て打て!」とウクライナ軍を唆していた米軍ですが、ここに来て、「原子力発電所そのものを砲撃しては危険が大き過ぎる」とウクライナ軍を制止しようとしている様子が窺えます。

 次期英国首相と目されているリズ・トラス(Elizabeth Mary Trussは、最近、自分が首相になったら、敵国に対して、水爆攻撃を行うと公言しました。

https://libertarianinstitute.org/news/british-pm-hopeful-says-shes-ready-to-launch-nuclear-war/

この記事が報じる彼女の発言の中にあるthermonuclear warfareとは、核の分裂ではなく、熱による核の融合、つまり、水素爆弾を使う戦争ということです。こうした発言が英国で人気を博するのだとすれば、これは恐ろしい事です。許すべからざる事です。

 

藤永茂(2022年8月30日)


二つの思想:核廃絶と核抑止

2022-08-25 22:08:43 | 日記・エッセイ・コラム

 核廃絶は戦争否定の思想、核抑止は戦争肯定の思想です。核廃絶の考えが戦争という政治的思想に断固として反対するものであることは、前回のこのブログに掲載した二つの歴史的宣言を読めば、はっきりと理解することができます。

 1954年3月1日、南太平洋のビキニ環礁で米国による最初の水爆実験が行われました。それは広島原爆の一千倍の威力、その死の灰を日本の第五福竜丸が被曝し死者が出ました。この事件は全世界に衝撃を与え、前回に全文を引用したラッセル・アインシュタイン宣言(1955年)もその一つの結果でした。この宣言の思想の下に、1957年7月、第一回のバグウォッシュ会議が開かれました。パグウォッシュはカナダの東端に位置する小さな村です。この初回の会議では、世界各国から参加した二十二人の科学者によって、核兵器は絶対悪であり、廃絶すべきものとされました。しかし、その僅か9ヶ月後に開かれた第2回会議では物理学者レオ・シラードの先導で「核抑止」の考えが「核廃絶」の思想に打ち勝ってしまいました。(Live with the bombs )の思想です。悪い国に対しては核爆弾を使ってもよいという思想です。悪い国とは、自分たちの気に入らない国ということです。嫌な国の国民ならば、百万人、千万人を一瞬に殺してもかまわないという思想です。

 歳をとると過去の記憶の多くが朧げになり、消えて行きます。しかし年を経ても、些かも鮮明さを失わない記憶もあります。核廃絶について友人ダグラス・マクリーンが放った言葉もその一つです。これまで人様に繰り返しお話ししましたが、ここでまた、同じ話を繰り返すのをお許し下さい。2010年5月19日付けのブログ記事からの抜粋です:

**********

 1969年1月ニクソンの大統領就任とともに、その補佐官(国家安全保障担当)になったキッシンジャーは、核戦略だけではなくアメリカ外交を牛耳る存在になって行きます。まず手がけたのは、旧友のエドワード・テラーと共に、弾道弾迎撃ミサイル(Anti-Ballistic Missile, ABM )計画の推進でした。

 その頃のアメリカはソ連との冷戦とベトナム侵略戦争のドロ沼の中であえいでいましたが、丁度その擾乱の時代に、実に立派な若いアメリカ人夫妻と知り合いになりました。夫君の名前はダグラス・マクリーン、分子計算の分野では良く知られた量子化学者でした。夫婦でベトナム戦争反対の運動に身を挺し、奥さんはそのため拘束拘留されたこともあり、小学生の娘さんは小学校で、両親の“反愛国的行動”のために、イジメにも遭いました。スペインのバルセローナで量子化学の国際会議があった時、海沿いの道をダグラス君と二人で散歩中に、話題がたまたま核抑止と核廃絶に及びました。普段どちらかといえば口の重い彼が、突然、私にこう言ったのです。

「アメリカ人が勇気さえ出せば、核の廃絶は可能だ。アメリカが無条件で一方的に核軍備を廃棄してしまえばよい」

私はあっけにとられて

「そんなことをしたら、ソ連が核攻撃をかけて来てアメリカを占領してしまう」

というと、彼は

「いや、そんな事はしないだろう。出来ないだろう。ソ連がアメリカに勝つために水爆で一億の人間を殺すのなら、もし、人間というものがそんなことを実際に実行するものであるならば、そんな世界は生きるに値しない」

と答えました。私が聞いていたのは冷笑的なニヒリストの声ではなく、あくまで人間のサニティを信じて、奥さんと共に体を張ってベトナム戦反対運動に参加している男の力強い声であったのです。

**********

 賢明な現実主義者と自認する人々はダグラス・マクリーンを夢遊病に冒された理想主義者と笑うでしょう。それは間違いです。彼は「人類は如何なるものであるべきか」という根源的な問いを発していたのです。プリーモ・レーヴィの『これが人間か』という問いを、レーヴィよりも根源的なレベルで問い糺しているのです。

 ラッセル・アインシュタイン宣言に戻りましょう。その主文は次のように結ばれています:

あなたが人間であること、それだけを心に留めて、他のことは忘れてください。それができれば、新たな楽園へと向かう道が開かれます。もしそれができなければ、あなたがたの前途にあるのは、全世界的な死の危険です。

 We appeal as human beings to human beings: Remember your humanity, and forget the rest. If you can do so, the way lies open to a new Paradise; if you cannot, there lies before you the risk of universal death.

 今日は8月25日、マスメディアのニュースでは、原子力発電に関する岸田総理の方針転換がしきりに報じられていますが、誰も(私の気付く限り)広島被爆の日に関連して岸田総理が、20日前に、発表した「ヒロシマ・アクション・プラン」への言及がないのは一体どういうことでしょうか?これが政治的忖度というものなのでしょうか? このプランの第4項目について、私は前回のブログ記事で、“「原子力の平和利用促進」とは、一体、何の事でしょう!?”とだけ控えめの言及をしましたが、現存の原子力発電所の原子炉の運転再開と新規の原子炉建造については、原子力発電に関係する、政治、経済、テクノロジーの専門家たちの間では、岸田総理が発した「原子力の平和利用促進」という言明の意味を20日前の時点で十分承知していたに違いありません。市井の一老人でさえ、「次世代革新炉」と呼ばれる発電用原子炉のプロモーションが世界的に始まっていることを知っていたのですから。経済界は岸田総理のこの方針転換に大賛成の意向を大っぴらに表明していますが、これが政治的現実主義の智恵というものであるならば、我々の前途にあるものは、ラッセル・アインシュタインが67年前に喝破した通り、ヒューマニティの死です。

 ヒロシマ・ナガサキから77年目のこの8月、ネット上に注目すべき記事が多数出ましたが、中でもRichard Falk(リチャード・フォーク)の論考には深く考えさせられました:

https://www.counterpunch.org/2022/08/12/connecting-toxic-memories-hiroshima-and-nuremberg/

表題は Connecting Toxic Memories: Hiroshima and Nuremberg です。

リチャード・フォーク(91歳)は米国の著名な国際法、国際政治学の学者でノーム・チョムスキーとも親しい関係にあります。「敗戦国はその戦争犯罪で処罰されるが、戦勝国は処罰されないのは正しくない」というのは彼の以前からの持論ですが、今回の論考では、戦敗国ドイツの戦争犯罪を裁くためのニュルンベルク裁判開廷の決定が1945年8月の6日(ヒロシマ)と9日(ナガサキ)の間の8月8日に行われたことに改めて気がつきショックを受けたと書かれています:

I was recently shocked to realize that the 1945 signing of the London Agreement by the U.S., Soviet Union, France, and the UK arranging the  establishment of a tribunal in Nuremberg charged with prosecuting  major Nazi war criminals occurred on August 81945, wedged in between the days when the atomic bombs were dropped. A parallel tribunal in Tokyo was set up to try Japanese war crimes some months later. 

私は、フォーク氏の論旨からは少し離れ、むしろ、米欧が、その政治的判断に基づいて、大量の人間を一挙に惨殺する行為についての悪の意識が欠如していたことを此処にはっきりと認めて、唖然、暗然たる思いに引きずり込まれてしまいました。

 終戦の1日前の8月14日に約150機の米空軍B29爆撃機が大阪市に約700個の1トン爆弾を投下し、数百人の一般市民が死にました。米国空軍正史によれば、ヒロシマ・ナガサキの後も、対日戦の“A Big Finale”として、一千機の爆撃機による日本の都市爆撃が計画され、三番目の原爆投下も予定に上がっていました。この史的事実はノーム・チョムスキーの1993年の著書『YEAR 501』のp238に指摘してあります。第二次世界大戦の戦争裁判と米国による日本空襲に関連して表面化した「罪の自覚」の欠如こそ、人間の心に潜む根源的悪(radical evil)の存在を如実に暴露しています。我々は、渾身の力を奮って、この根源悪、絶対悪に立ち向かわなければなりません。

藤永茂(2022年8月25日)


悪魔の代弁者

2022-08-15 19:44:44 | 日記・エッセイ・コラム

悪魔の代弁者(Devil’s Advocate)という言葉があります。核兵器の問題について、敢えて、その役を演じてみたいと思います。

 長崎の爆心の近くで兄が被爆したこともあって、私は長崎の原爆記念日には特別強い関心を持ち続けています。今年の記念式典で、長崎市長も被爆者代表も、その式辞の冒頭で、ロシアのウクライナ侵攻が言及され、被爆者の御老人は、ロシア軍によるウクライナ市民に対する無差別爆撃が長崎での被爆経験を想起させた、と述べられました。この御自身の想いに対して異議を唱える者は居ますまい。しかし、この二つの式辞が、心ならずも、ウクライナ戦争、ロシアによる核爆弾使用の可能性についての、熾烈を極めるプロパガンダ戦争に、実質上、一方の側からの参戦を布告したものであったように私は感じました。この戦争に参加すべきではありません。

 長崎原爆の日のNHK番組の中に、ニューヨークで開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議に参加した岸田総理が8月1日(現地時間)発表した「ヒロシマ・アクション・プラン」なるものの解説も含まれていました。それによれば、岸田総理は、演説の冒頭で、ウクライナを侵略したロシアが核による威嚇を行ったとして、「核兵器の惨禍が繰り返されるのではないかと深刻に懸念している」と批判し、「核兵器による威嚇、使用はあってはならない」と訴えました。これも明らかにプロパガンダ戦争への参加です。「ヒロシマ・アクション・プラン」は次の5項目からなり、

*核兵器不使用の継続の重要性の訴え

*核保有国に核戦力の透明化を促す

*核兵器の減少傾向を維持

*原子力の平和利用促進

*各国の首脳、若者を被曝地に招聘

そして、最後の招聘事業のために国連に1000万ドル(約13・3億円)を拠出する基金の創設も表明されたとのことです。 NHK放送の解説には何のコメントも含まれていませんでしたが、「*原子力の平和利用促進」とは、一体、何の事でしょう!? 岸田総理の「アクション・プラン」は全く政治レベルでの提案です。この世界から核兵器を廃絶するには政治のレベルを超越することが必要です。「アクション・プラン」が象徴する政治のレベルにとどまっている限り、いま人類が直面している核問題の解決は絶望的です。

 このブログの2016年4月19日付の記事として『核廃絶は政治を超える』を掲載したことがありました。

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/m/201604

やや長文ですが、読んでいただければ幸いです。しかし、むしろ、今は、問題を根源的に考え直していただくために、二つの基本的宣言、

#ラッセル・アインシュタイン宣言

#湯川・朝永宣言「核抑止を超えて」

を今一度しっかりと読んでいただきたいと思います:

 

日本パグウォッシュ会議[訳](2021 年 5 月 3 日公開、11 月 10 日改訂版)

ラッセル・アインシュタイン宣言

1955年7月9日 ロンドン

人類に立ちはだかる悲劇的な状況を前に、私たちは、大量破壊兵器の開発の結果 として生じている様々な危険を評価し、末尾に付記した草案の精神に則って決 議案を討議するために、科学者が会議に集うべきだと感じています。

私たちは今この機会に、特定の国や大陸、信条の一員としてではなく、存続が危 ぶまれている人類、ヒトという種の一員として語っています。世界は紛争に満ち ています。そして、小規模の紛争すべてに暗い影を落としているのが、共産主義 と反共産主義との巨大な闘いです。

政治的意識の強い人のほとんど誰もが、こうした問題に思い入れがあります。し かし、できればそうした思い入れを脇に置き、自分自身のことを、こう考えてほ しいのです。すばらしい歴史を持ち、その消滅を望む者などいるはずもない、そ んな生物学上の種の成員以外のなにものでもないと。

私たちは、ある集団に対して別の集団に対するよりも強く訴えかけるような言 葉を、一切使わないようにしたいと思います。すべての人が等しく危険にさら されています。そして、その危険の意味が理解されれば、それを共に回避する望みがあります。

私たちは新しい考え方を身につけなければなりません。私たちが自らに問うべ きは、自分が好ましいと思う集団を軍事的勝利に導くためにいかなる手段をと るべきか、ということではありません。そのような手段はもはや存在しないから です。私たちが自らに問うべき問題は、すべての当事者に悲惨な結末をもたらす に違いない軍事的な争いを防ぐためにいかなる手段を講じることができるのか、 ということです。

一般の人々だけでなく、権威ある地位にいる多くの人たちでさえ、核兵器が使わ れる戦争で何が起こるのかを理解していません。一般の人々は今なお、諸都市の 消滅という次元で考えています。新型爆弾は旧型爆弾よりも強力であり、原子爆弾が 1 発で広島を完全に破壊できたのに対し、水素爆弾ならば 1 発でロンドン やニューヨーク、モスクワのような世界最大級の都市を跡形なく消し去ってし まう、ということは理解されています。

水爆戦争になれば諸々の大都市が消滅することに疑いの余地はありません。し かしながら、これは、私たちが直面しなければならない小さな惨事のひとつにす ぎないのです。もしロンドンやニューヨーク、モスクワのすべての人が滅亡した としても、数世紀のうちに、世界はその打撃から回復できるかもしれません。し かし、今や私たちは、とりわけビキニ実験以来、それ以前に想定されていた以上 にはるかに広範囲にわたって、核爆弾による破壊がじわじわと広がっていくこ とを知っています。

非常に信頼できる確かな筋は、今では広島を破壊した爆弾の2500倍も強力な爆 弾を製造できると述べています。そのような爆弾が地上近く、あるいは水中で爆 発すれば、放射能を帯びた粒子が上空へ吹き上げられます。これらの粒子は死の 灰や雨といった形でしだいに落下し、地表に達します。日本の漁船員と彼らの魚 獲物を汚染したのは、この灰でした。

死を招くそのような放射能を帯びた粒子がどれくらい広範に拡散するかは誰に もわかりません。しかし、水爆を使った戦争は人類を絶滅させてしまう可能性 が大いにあるという点で最も権威ある人々は一致しています。もし多数の水爆が使用されれば、全世界的な死が訪れるでしょう――瞬間的に死を迎えるのは 少数に過ぎず、大多数の人々は、病いと肉体の崩壊という緩慢な拷問を経て、 苦しみながら死んでいくことになります。

著名な科学者たちや軍事戦略の権威たちが多くの警告を発してきました。その 誰も最悪の結果が確実に起こるとは言わないでしょう。そうした人々が言って いるのは、その可能性があるということであり、それが現実のものとはならないと確信できる人は誰ひとりいません。この問題に関する専門家の見解が専門 家各自の政治的見解や偏見に左右されるのを、私たちはまだ見たことがありま せん。私たちの調査で明らかになった限りにおいて、専門家の見解は、専門家 各自が有する知識の範囲のみに基づいています。最もよく知る人が最も暗い見 通しをもっていることもわかっています。

ここで私たちからあなたたちに問題を提起します。それは、きびしく、恐ろし く、そして避けることができない問題です――私たちが人類を滅亡させますか、それとも人類が戦争を放棄しますか1。人々は、この二者択一に向き合お うとしないでしょう。戦争の廃絶はあまりにも難しいからです。

戦争の廃絶には、国家主権に対する不快な制限2が必要となるでしょう。しか しながら、事態に対する理解をおそらく他の何よりもさまたげているのは、 「人類」という言葉が漠然としていて抽象的に感じられることです。危険は自 分自身と子どもたち、孫たちに迫っているのであり、おぼろげに捉えられた人 類だけが危ないわけでないことに、人々が思い至ることはまずありません。 人々は、自分自身と自分の愛する者たちがもだえ苦しみながら滅びゆく危急に 瀕していることを、ほとんど理解できないでいます。だからこそ人々は、近代 兵器が禁止されれば戦争を継続してもかまわないのではないかと、期待を抱い ているのです。

このような期待は幻想にすぎません。たとえ平時に水爆を使用しないという合 意に達していたとしても、戦時ともなれば、そのような合意は拘束力を持つと は思われず、戦争が勃発するやいなや、双方ともに水爆の製造にとりかかることになるでしょう。一方が水爆を製造し、他方が製造しなければ、製造した側 が勝利するにちがいないからです。

軍備の全般的削減3の一環として核兵器を放棄するという合意は、最終的な解 決に結びつくわけではありませんが、一定の重要な目的には役立つでしょう。 第一に、緊張の緩和をめざすものであるならば何であれ、東西間の合意は有益 です。第二に、熱核兵器の廃棄は、相手がそれを誠実に履行していると各々の 陣営が信じるならば、真珠湾式の奇襲の恐怖を減じるでしょう。その恐怖のた め現在、両陣営は神経質で不安な状態にあります。それゆえに私たちは、あく まで最初の一歩としてではありますが、そのような合意を歓迎します。

私たちの大半は感情的に中立とはいえませんが、人類として、私たちには心に 留めておかねばならないことがあります。それは、誰にとっても――共産主義 者であろうと反共産主義者であろうと、アジア人、ヨーロッパ人またはアメリ カ人であろうと、あるいは白人であろうと黒人であろうと――なにがしかの満 足をもたらすような形で東西間の諸問題を解決しようというなら、これらの問 題を戦争によって解決してはならない、ということです。私たちは、このこと が東西両陣営で理解されることを願わずにはいられません。

私たちの前途には――もし私たちが選べば――幸福や知識、知恵のたえまない進 歩が広がっています。私たちはその代わりに、自分たちの争いを忘れられない からといって、死を選ぶのでしょうか?私たちは人類の一員として、同じ人類に対して訴えます。あなたが人間であること、それだけを心に留めて、他のこ とは忘れてください。それができれば、新たな楽園へと向かう道が開かれま す。もしそれができなければ、あなたがたの前途にあるのは、全世界的な死の 危険です。

決議:私たちはこの会議に、そしてこの会議を通じて、世界の科学者、および 一般の人々に対して、以下の決議に賛同するよう呼びかけます。

「私たちは、将来起こり得るいかなる世界戦争においても核兵器は必ず使用さ れるであろうという事実、そして、そのような兵器が人類の存続を脅かしてい るという事実に鑑み、世界の諸政府に対し、世界戦争によっては自分たちの目的を遂げることはできないと認識し、それを公に認めることを強く要請する。 また、それゆえに私たちは、世界の諸政府に対し、彼らの間のあらゆる紛争問 題の解決のために平和的な手段を見いだすことを強く要請する。」

署名者:

マックス・ボルン
P. W. ブリッジマン 

アルバート・アインシュタイン

L. インフェルト
F. J. ジョリオ・キュリー
H. J. マラー ライナス・ポーリング
C. F. パウエル
J. ロートブラット  

バートランド・ラッセル

湯川秀樹


1 ジョリオ・キュリー教授は、「国家間の紛争を解決する手段として」という言 葉を加えることを希望する。
2 ジョリオ・キュリー教授は、これらの国家主権の制限は、すべての国家によっ て合意され、すべての国家の利益にかなうものでなければならない、と加えることを希望する。
3 マラー教授は、軍備の全般的削減は「すべての軍備の同時並行的な均衡のとれ た削減」を意味すると解されるべきだとの留保を付ける。

訳者注:以下の第 1 回パグウォッシュ会議議事録に収録された宣言(英文)及び 脚注に基づいて、この和訳は作成された。

Joseph Rotblat, ed., Proceedings of the First Pugwash Conference on Science and World Affairs, Pugwash, Nova Scotia, Canada, 7-10 July 1957. Pugwash Council, 1982, pp. 167-170.

本和訳の作成経緯に関する補足説明(2021 年 11 月 10 日) 本和訳は、日本パグウォッシュ会議が 2021 年 5 月 3 日に本ウェブサイトで発 表した「ラッセル=アインシュタイン宣言」新和訳の改訂版である。その新和訳 はパグウォッシュ会議のウェブサイトに掲載された宣言(英文)を基に作成され た。その後、日本パグウォッシュ会議内部からの指摘を受け、新和訳ワーキング グループが調査した結果、1955 年に発表された宣言文と比較すると、同宣言文 からは一部の言葉が抜けていること、パラグラフの分け方が一部異なっている ことなどが判明した。そのため、1955 年の宣言文と同一であり、かつパグウォ ッシュ会議の公式の議事録に所収されていることを考慮し、第 1 回パグウォッ シュ会議議事録に収録された宣言に基づいて新和訳を改訂することになった。 声明本文の変更点は以下の 3 点である。

・新和訳の第 8 パラグラフと第 9 パラグラフを接続する。
・新和訳の第 15 パラグラフと第 16 パラグラフを接続する。
・新和訳の第 10 パラグラフに、パグウォッシュ会議ウェブサイトの宣言文で は欠落していた“quite”を訳出する。

 

「核抑止を超えて」-湯川・朝永宣言

いまから二十年前、ラッセルとアインシュタインが宣言を発表し、核時代における戦争の廃絶を呼び かけ、人類の生存が危険にさらされていることを警告した。その宣言の精神に基いて、私たちは、人類 の一員としてすべての人々に、次のことを訴えたいと思う。

広島・長崎から三十年、私たちは、核兵器の脅威が増大している危険な時代に生きている。今私たち は、一つの岐路に立っている。即ち、核兵器の開発と拡散がやむことなく行われていくか、或いは、こ の恐るべき核兵器が絶対に使用されないという確実は保証が人類に与えられるように大きな転換の一歩 を踏み出すか、その重大な岐れ路に立っている。

私たちは、戦争と核兵器の廃絶のために努力を傾けてきた。しかし、それが見るべき成果をあげられ たとは考えられない。むしろ、その成果の乏しいことに憂いを深めざるをえない。

ラッセル・アインシュタイン宣言が発表された当時は、まだ大量の核兵器は存在せず、世界平和の実 現のためにその手始めとして熱核兵器の廃絶をすればよいという考えが成り立つ時代であった。だが遺 憾ながら、その後、私たちは、核軍備競争をくいとめることができなかったばかりでなく、核戦争の危 険を除去することもできていない。また種々の国際的な取決めによって、軍備管理という枠組みの中で の努力と苦心が積み重ねられたけれども、その成果に見るべきものはない。

従って、核軍備管理によって問題の解決が可能であるという期待をもつべきではないと、私たちは信ず る。そして核軍縮こそが必要であるという確信を深めざるをえない。というのは、軍備管理の基礎には核 抑止による安全保障は成り立ちうるという誤った考え方がある。従って、もし真の核軍縮の達成を目指す のであれば、私たちは、何よりも第一に核抑止という考え方を捨て、私たちの発想を根本的に転換するこ とが必要である。

もとより私たちは、核・非核を問わず、すべての大量殺戮兵器を廃棄し、最終的には通常兵器の全廃 を目指して軍備削減を行うことがきわめて重要であると考える。しかしながら私たちは、今日の時点で 最も緊急を要する課題は、あらゆる核兵器体系を確実に廃絶することにあると信ずる。

たしかに核軍縮は全面完全軍縮を実現するための中間目標にすぎない。しかし、その核軍縮ですら、 それに必要な政治的・経済的・社会的条件を満たさない限り、その実現はとうていありえない。

また私たちは、私たちの究極目標は、人類の経済的福祉と社会正義が実現され、さらに、自然環境と の調和を保ち、人間が人間らしく生きることのできるような新しい世界秩序を創造することであると考 える。

もし核戦争が起れば、破局的な災厄と破壊がもたらされ、そうした新しい世界を創ることは不可能と なるばかりでなく、史上前例のないほどに人間生活が破壊されるであろう。このように見れば、核兵器 を戦争や恫喝の手段とすることは、人類に対する最大の犯罪であるといわざるをえない。このように核 兵器の重大な脅威が存在する以上、私たちは、一日も早く、核軍縮を実現するために努力しなければな らない。

私たちは、全世界の人々、特に科学者と技術者に向かって、時期を逸することなく、私たちと共に、道 を進まれんことを訴える。さらに、私たちは、核軍縮の第一歩として、各国政府が核兵器の使用と、核兵 器による威嚇を永久かつ無条件に放棄することを要求する。

一九七五年九月一日 湯川秀樹・朝永振一郎(宣言署名者 26名 略)

このブログの次回では、核廃絶と核抑止について、もう一度よく考えてみたいと思います。

 

藤永茂(2022年8月15日)


グレン・フォード追悼

2022-08-08 11:09:06 | 日記・エッセイ・コラム

優れたジャーナリストの先見の明が如何に驚くべきものであり得るかを如実に示す例をお知らせしたいと思います。

 2014年2月後半、ウクライナで騒乱が起こりました。マイダン革命、ユーロ・マイダン革命という呼び名も使われます。今では、広い範囲で、米国のオバマ大統領が画策したクーデターであったと理解されています。

 進歩的なウェブサイトBlack Agenda Reportの主宰者であったグレン・フォードがこのクーデターのすぐ後に行った発言を記録した動画がBlack Agenda Reportの2022年7月27日の日付で『Glen Ford’s Ukrainian Cristal Ball』と題して復元再放送されています。

https://www.blackagendareport.com/glen-fords-ukrainian-crystal-ball

7分44秒の短さで、画面下の印をクリックすると字幕も出ますので是非見てください。8年後の今のウクライナ戦争の本質と来るべき結果を冷徹に見通しています。恐ろしいほどです。これが優れたジャーナリストというものでしょう。

 甚だ悲しいことですが、グレン・フォードは昨年7月28日71歳で亡くなりました。私のブログ「私の闇の奥」でも取り上げたことがあります:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/e4d5a50f13ad4146fbc49c88b724cd88

 長い間、真実の伝達者として、私が親しみ、信頼して来た人々が次々と亡くなっています。2020年9月22日にはAndre Vltchek が、同年10月30日には Robert Fisk が亡くなりました。私は John Pilger のことを心配しています。彼はもう83歳になります。

 

藤永茂(2022年8月8日)