私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

米国とイスラエルは地震災害を利用してシリアの人々を

2023-03-13 21:03:48 | 日記・エッセイ・コラム

 今度の大地震でシリアの北西部と北部は甚大な被害を受けましたが、米国とイスラエルは国外からの救援がシリアに届かないようにして、震災以前もすでに米国の制裁によって酷く苦しめられていたシリアの人々を、さらに一層の苦しみの中に追い込もうとしています。

 シリアの苦境に関しては、これまで3回続けて取り上げてきましたが、前回では、独断偏向に過ぎるのではないかという危惧を抱きながらも敢えて私見を述べました。しかし、私の見解は必ずしも偏り過ぎたものでもないようです。昨日はSteven Sahiounie というジャーナリストの記事に接して、その記事の後半を翻訳しましたが、今朝はClayton Morris という人のニュース解説を聞いて、更に安心しました。

 まず、Steven Sahiounieの記事から:

https://syria360.wordpress.com/2023/03/10/us-israeli-determination-to-keep-the-syrian-people-suffering/

タイトルは「米国とイスラエルはシリアの人々を苦しめ続けることを決定」となっています。外部からの援助物資はシリア政府の管轄下にあるアレッポの国際空港に輸送機を着陸させれば、イドリブのアル・ジュラニに邪魔されずにシリアの人々に届きます。しかし、あくまでもシリアの一般人民をいじめ抜きたいイスラエルは3月7日イドリブの東にあるアレッポの空港の滑走路をミサイルで破壊して使用不可能にしました。それで輸送機は遥か南の(日本のジャイカが支援物資を着陸させた)ダマスカス空港に回されました。しかし、この1月以来、イスラエルのミサイル攻撃はダマスカスの市街と空港に対しても行われていることを上掲の記事は報じています。

この報告者については

https://muckrack.com/steven-sahiounie-1

https://www.mideastdiscourse.com/2023/02/21/part-two-after-brutal-earthquake-canada-should-end-support-for-regime-change-effort-against-syria/

https://www.mideastdiscourse.com/author/steven/

を見てください。シリア政府に雇われたジャーナリストではないと判じられます。冒頭に掲げたこの人の記事の後半を以下に訳出します:

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アントニー・ブリンケン国務長官は2021年、「シリアの再建に反対する」ことが米国の方針であることを認め、その方針は今も変わっていない。建築物、家屋、商業施設、病院が破壊され、再建する必要がある。これらは再建しなければならない民間の所有物なのに、米国の方針はシリア国民を苦しめ、ホームレスにし、失業させ、医療機関を不足させることなのである。

ブリンケンの中東担当のバーバラ・リーフは担当地域を巡回しているが、ダマスカスを訪問したことはない。バイデン政権は、Hayat Tahrir al-Shamの占領下にある小さなイドリブ県を、シリアの唯一の合法的な政府と見なしている。 ムハメッド・アル・ジュラニが同地の救国政府の責任者である。彼は、すべての国際援助が届けられる相手である。彼は部下に命じて援助物資倉庫を襲撃させ、援助関係者を6万ドルの身代金で拘束し、過激なイスラム思想の支持者にのみ援助物資を配布し、イドリブに押し付けられたイスラム法の解釈に反対する民間人への援助を拒否し、援助プログラムから女性を排除している。

ジュラニはアルカイダとともにイラクで米軍と戦い、イラクでISISの指導者バグダディと個人的に関わるようになり、その後シリアに来てISISよりさらに悪質と言われるテロ集団ジバト・アル・ヌスラを結成、現在は米国・EUが保護するイドリブの飛び地での最高指導者となっている。国連の援助も、あらゆる国際人道支援団体の援助も、すべて彼の手だけを通過する。

イドリブでは、国際的な援助組織が、イドリブの約300万人の市民を助ける必要性と、テロリストの指導者とその戦闘員が非武装の市民の基本的なニーズを人質に取ることを可能にしているという事実のバランスをどうとるかという一つの倫理的な問題が生じている。(訳出終わり)

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 本日3月13日に、もう一つ、大変興味深いニュース動画に行き当たりました。「米国はシリアでやっていることに恥を知れ」というのが標題です:

https://dissidentvoice.org/2023/03/the-us-should-be-ashamed-of-what-theyre-doing-in-syria/

話している人物は米国のフォックスニュースの元アンカーマンのClayton Morris と妻のNatali, 放送の長さは16分、この二人のシリア戦争についての考え方はほぼ全く私のそれと同じです。ただ、私が全く知らなかったことが含まれています。それは米国のシリア国土不法占領について米国の国会議員達がシリアについて如何に無知かということがドラマティックに暴露されていることです。動画の中ほどで、民主党議員ナドラー氏が「我々がシリアに止まっているのは北イラクのペシュメルガが襲いかかっているシリアのクルド人達を守ってやらなければならないからだ」と主張する場面です。これほど馬鹿馬鹿しい話を私は余り聞いたことがありません。解説する気にもなりません。

 ISISを使ってアサド政権を打倒することに失敗した米国は、サンクションという残忍な手段を使ってシリア国民を塗炭の苦しみに陥れて、それによって、国民の政権離反を促そうとする極めて残忍な政策に転じたのです。それはオバマ前大統領の着想でした。「人民から石油と食糧を取り上げてレジームチェンジを」という政策です。

 モリス夫妻は「我々は偏向(バイアス)している。戦争反対と平和を主張する偏向だ」と言っています。私も全く同じように偏向しています。

 最後に、シリア問題について、今、私が最も言語道断と思うことを、もう一度繰り返して要約しておきます。それは、米国が、ISISに勝るとも劣らぬテロ組織(HTS)の頭目でシリア北西部の小県イドリブの行政を牛耳っているテロリストであるムハメッド・アル・ジュラニをシリアの大統領として認め、滑稽にも“救済政府”と名乗るジュラニの統率下の行政機関をシリアの唯一正当な政府と認めて、アサド大統領とその政府を全く認めず、アサド政府に属するシリア住民全体を、老若男女を含めて残忍に痛めつける手段で、レジームチェンジを実現しようと企てている事実です。これを知らない人は俄には信じないでしょう。お天道様のもとでこんな無茶なことが許される筈がありません。これぞ米国の信じがたいヒューブリスです。ネメシスの罰が下ること必定でしょう。

藤永茂(2023年3月13日)

 


イドリブのショッピングモール

2023-03-09 21:11:57 | 日記・エッセイ・コラム

 「百聞は一見に如かず」という言葉があります。イドリブはシリア北西部の、反政府テロ勢力の支配地、米欧とトルコの手先としてシリアのアサド政権打倒を目指すテロ組織HTS(Hayat Tahrir ai-Sham)とその頭目モハメッド・アルジュラニ(Mohammed Al-Julani)が掌握しています。

 これから紹介する記事の多くはシリア政府寄りのサイトからで、プロパガンダ戦争の真っ只中、どの程度信じて良いのか判断に迷いますが、その中に出てくるアルジュラニ経営の豪華なイドリブのショッピングモールの三枚の写真は、イドリブで、そしてシリアで何が進行しているか(What’s going on)を何よりも明らかに示していると私は考えます。迷いはありません。まさに「百聞は一見に如かず」:

https://syria360.wordpress.com/2023/02/26/idlib-earthquake-aid-hijacked-by-terrorists/

 

 

このようなモダーンで豪華なショッピングモールは、日本のそんじょそこらの中小都市では余りお目にかかれないでしょう。こんなものが、“騒乱の地”にあるのは意外だと思う人が多いのではありますまいか。でも、このショッピングモールの話は後回しにして、まずは、今のシリアの事から話を始めます。

 シリア戦争の真実をあらためて考えて頂くために、私の「高慢と偏見」に満ちた超簡単概略を読んでいただきます。この概略はひどく荒っぽく見えますが、世上に拡がる見解より真実に近いと信じています。以下の論議では、IS,ISIS,ISILは大体同じものだとお考えください。

 シリア戦争は内戦ではありません。国外勢力とシリアの間の争いです。米欧、ロシア、イラン、それにトルコとイスラエルが参加しています。一〇年ほど前シリアに猛然と襲いかかり、ごく最近もシリアを攻撃しているIS(イスラム国)は本質的には米国とトルコの傭兵の役割を担っています。米国は、現在、シリアの北東部でシリア国の面積の3分の1を占める地域を国際法的には全く不法に占領していますが、それは その地域のクルド人軍事勢力をも巧妙に籠絡して傭兵集団にしてしまうことに成功したからです。米国は国外の軍事勢力集団を自己の利益のために冷血に酷使するのが極めて巧みで、今のウクライナ軍もその立派な一例と見ることが出来ます。

 第一次世界大戦中の1918年5月ギリス、フランス、帝政ロシアの間で結ばれた秘密協定「サイクス・ビコ協定」が現在の中東世界の紛争の根源です。クルドの苦難もパレスチナの苦難もここに発します。この政策の推進母体は当時の世界帝国英国であり、現在は米国によって継承されています。

 「アラブの春」の自然発生的要素は僅かなもので大部分は米国権力機構の操作(manipulation)によるものです。発生当時囁かれたCIAやソロスなどによる陰謀論は、今は、“陰謀”ではなく、誰の目にも明白な“顯謀”です。リビアで何が起こったか、シリアで何が起こっているかを凝視すればわかります。

 大問題はすでに言及したISIL(イラク・レバントのイスラム国)です。ISILについては日本の公安調査局(PSIA)の調査をはじめ、膨大な文献があり、私のような者が軽率に口を出す問題ではないのでしょうが、この組織を発生の頃からから見守り続けて来た私にも発言をさせてください。「読書百遍意おのずから現わる」という古い言葉があります。この宗教集団の宗教性については何も申しますまい。私が言いたいことは「この集団はお金を払えば雇える」ということです。このテロ集団は現在ではDaesh,ISIS,ISの名称でも呼ばれています。

 シリア紛争の歴史で「コバニの戦い」「コバニの包囲戦」として知られる、クルド軍とイスラム国(IS)軍との間の重要な戦いがあります。2014年9月のことでした。この激戦の最終的勝者であるクルド人達の中にはこの戦いを「クルドのスターリングラードの戦い」と呼ぶ人もいます。私の見解が世界の諸賢の見解と全く違うのは「コバニの戦い」の勝利が米軍のクルド側への参加援助、ISに対する米空軍の空爆によって得られたのではないとするところにあります。破竹の勢いでシリア北部まで攻め上がり、すでに制圧していたラッカをイスラム国の首都とすることに決めたIS軍は、ラッカの西の、当時シリア最大の都市アレッポの攻略には向かわず、北のトルコ国境に接する小都市アイン・アル=アラブ(コバニ)に進撃したのは何故か?それは、トルコがそれを強く望み、米国も内内それを許容することにしていたからだと私は考えます。コバニのあたりのクルド人達は、トルコのエルドアン大統領が嫌悪し、米国も危険人物とみなすクルドの革命指導者オジャランの強い影響下にありました。ISは事の初めから実質的にトルコの傭兵勢力として行動して来ましたし、米国は、ISを国際テロ組織として認め、それを殲滅する方針を公言しておきながら、裏ではISを結構「傭兵」として使っていたのです。しかし、ISに対してシリア北部のトルコ国境線のすぐ南側に居住するクルド人達が見せた軍事勢力としての優秀性を認識した米国は、この勇猛な軍事勢力も米国の傭兵として採用する事を決心します。クルド人を主体とする軍隊SDF(シリア民主軍)を組織してこの軍事勢力を使ってシリアの北東部の油田地帯と穀倉地帯を占領し、今はシリア国民からエネルギーと食料を奪い、国外に運んで収入を得ています。占領地域の面積はシリア国土のほぼ三分の一に及びます。つまり、この米国の大胆な策略は大成功を収めました。

 次の、もう一つの大成功は、すでにブログ記事『シリアの人々にも救援を』で解説した米国のシリアに対する残酷な制裁(sanctions)です。このため、シリア政府は今回の大地震の後の復興事業を行う力を、地震の以前に奪われてしまっていました。

 イスラム国の“首都”ラッカは2017年の後半にSDFによって占領されましたが、この作戦では米空軍による猛烈な市街爆撃が行われ、又、多数のイスラム国戦闘員とその家族がSDFの捕虜になりました。私が、この「ラッカの戦い」にもかかわらず、米国の傭兵としてのイスラム国戦闘員の実質を読み取ったのはラッカの戦いで捕虜となった人々とSDFとの関係、米国との関係の観察からです。ISIL(ISIS)は米国から金で雇われて、世界中で働いていると私は考えます。最近もシリアの東南部で事件がありました:

https://syria360.wordpress.com/2023/03/05/recent-isis-attacks-in-syrian-desert-carried-out-with-us-support/

https://syria360.wordpress.com/2023/03/05/syria-is-fighting-for-its-life/

 この記事のタイトルのイドリブのショッピングモールの三枚の写真に話を戻します。トルコ南部を震源地とする今回の大地震で、イドリブを含むシリアの北西部も大きな被害を受けました。死者は6千人を超えています。前回のこのブログで「Idleb はオバマ大統領時代からのアサド政権に対するレジームチェンジ政策の遂行を目指す反政府勢力の支配下にあります。ですから、この地域に対しては、米欧は制裁を全く加えず、積極的にその軍事活動、経済活動を支持して来たのです。」と書きましたが、この地域はテロ組織HTS(Hayat Tahrir ai-Sham)とその頭目モハメッド・アルジュラニ(Mohammed Al-Julani)が独裁者として支配していて、The Salvation Government(救済政府)という名称を僭称しています。驚くべきことに、米国は、アサドを大統領と認めず、彼を倒して、アルジュラニをその座に据えようと目論んでいるのです。ベネズエラで、米国はマドゥロを大統領と認めず、グアイドを大統領として認めているのと同じような事です。マドゥロのベネズエラが、米国の制裁(サンクションズ)によって、悲惨な状態に陥ったのも、アサドのシリアの状態と同じです。

 今回のトルコ・シリアス大地震の救援物資はトルコ領内に送られ、それから米欧支配下の地域に運ばれています。そのルートをアルジュラニは掌握していて、物資を搬入するトラックの一台ごとに千ドル(US$)のみかじめ料を巻き上げ、アルジュラニの「救援政府」に近い富裕層に救援物資を渡す際に彼等からもピンはねをする始末です。もともと写真に示された豪華なショッピングモールもアルジュラニが自分の懐に取り込んだ潤沢な資金を使って私的に建設したもので、一般市民は停電続きの配電事情に苦しんでいるのに、写真に見るように常時煌々と照明され、エスカレーターも動いているという状態でした。米国が「札束で頬を張った」この小粒の独裁者アルジュラニは、自分も札束で周囲を腐らせて「救済政府」を運営しているのです。(この大地震でこのショッピングモールがどのような被害を受けたかを私は把握していません。)

 前々回に説明した米国の「シーザー法」にもとでは、アサド政権下のシリアには救援物資を運び込むことは酷く制限されます。米国はこの大地震災害を考慮して、半年間、この封鎖処置を緩和すると発表しました。しかし、これは“米国の寛大さ”を示すプロパガンダ効果があるだけで、実際の救済効果は全くありません。

 私は、ここで再び、米国の狡猾さと傲慢さを思わずにはいられません。以前、このブログサイトで、Hubris(ヒューブリス)とNemesis(ネメシス)について論じたことがあります:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/8

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/7685a50bd200f25220d6d771844df24b

「老子」には「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉があります。悪者どもを天網が捕らえて罰を与えてくれる事を私は切に願っています。

 

藤永茂(2023年3月9日)