今度の大地震でシリアの北西部と北部は甚大な被害を受けましたが、米国とイスラエルは国外からの救援がシリアに届かないようにして、震災以前もすでに米国の制裁によって酷く苦しめられていたシリアの人々を、さらに一層の苦しみの中に追い込もうとしています。
シリアの苦境に関しては、これまで3回続けて取り上げてきましたが、前回では、独断偏向に過ぎるのではないかという危惧を抱きながらも敢えて私見を述べました。しかし、私の見解は必ずしも偏り過ぎたものでもないようです。昨日はSteven Sahiounie というジャーナリストの記事に接して、その記事の後半を翻訳しましたが、今朝はClayton Morris という人のニュース解説を聞いて、更に安心しました。
まず、Steven Sahiounieの記事から:
タイトルは「米国とイスラエルはシリアの人々を苦しめ続けることを決定」となっています。外部からの援助物資はシリア政府の管轄下にあるアレッポの国際空港に輸送機を着陸させれば、イドリブのアル・ジュラニに邪魔されずにシリアの人々に届きます。しかし、あくまでもシリアの一般人民をいじめ抜きたいイスラエルは3月7日イドリブの東にあるアレッポの空港の滑走路をミサイルで破壊して使用不可能にしました。それで輸送機は遥か南の(日本のジャイカが支援物資を着陸させた)ダマスカス空港に回されました。しかし、この1月以来、イスラエルのミサイル攻撃はダマスカスの市街と空港に対しても行われていることを上掲の記事は報じています。
この報告者については
https://muckrack.com/steven-sahiounie-1
https://www.mideastdiscourse.com/author/steven/
を見てください。シリア政府に雇われたジャーナリストではないと判じられます。冒頭に掲げたこの人の記事の後半を以下に訳出します:
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アントニー・ブリンケン国務長官は2021年、「シリアの再建に反対する」ことが米国の方針であることを認め、その方針は今も変わっていない。建築物、家屋、商業施設、病院が破壊され、再建する必要がある。これらは再建しなければならない民間の所有物なのに、米国の方針はシリア国民を苦しめ、ホームレスにし、失業させ、医療機関を不足させることなのである。
ブリンケンの中東担当のバーバラ・リーフは担当地域を巡回しているが、ダマスカスを訪問したことはない。バイデン政権は、Hayat Tahrir al-Shamの占領下にある小さなイドリブ県を、シリアの唯一の合法的な政府と見なしている。 ムハメッド・アル・ジュラニが同地の救国政府の責任者である。彼は、すべての国際援助が届けられる相手である。彼は部下に命じて援助物資倉庫を襲撃させ、援助関係者を6万ドルの身代金で拘束し、過激なイスラム思想の支持者にのみ援助物資を配布し、イドリブに押し付けられたイスラム法の解釈に反対する民間人への援助を拒否し、援助プログラムから女性を排除している。
ジュラニはアルカイダとともにイラクで米軍と戦い、イラクでISISの指導者バグダディと個人的に関わるようになり、その後シリアに来てISISよりさらに悪質と言われるテロ集団ジバト・アル・ヌスラを結成、現在は米国・EUが保護するイドリブの飛び地での最高指導者となっている。国連の援助も、あらゆる国際人道支援団体の援助も、すべて彼の手だけを通過する。
イドリブでは、国際的な援助組織が、イドリブの約300万人の市民を助ける必要性と、テロリストの指導者とその戦闘員が非武装の市民の基本的なニーズを人質に取ることを可能にしているという事実のバランスをどうとるかという一つの倫理的な問題が生じている。(訳出終わり)
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本日3月13日に、もう一つ、大変興味深いニュース動画に行き当たりました。「米国はシリアでやっていることに恥を知れ」というのが標題です:
https://dissidentvoice.org/2023/03/the-us-should-be-ashamed-of-what-theyre-doing-in-syria/
話している人物は米国のフォックスニュースの元アンカーマンのClayton Morris と妻のNatali, 放送の長さは16分、この二人のシリア戦争についての考え方はほぼ全く私のそれと同じです。ただ、私が全く知らなかったことが含まれています。それは米国のシリア国土不法占領について米国の国会議員達がシリアについて如何に無知かということがドラマティックに暴露されていることです。動画の中ほどで、民主党議員ナドラー氏が「我々がシリアに止まっているのは北イラクのペシュメルガが襲いかかっているシリアのクルド人達を守ってやらなければならないからだ」と主張する場面です。これほど馬鹿馬鹿しい話を私は余り聞いたことがありません。解説する気にもなりません。
ISISを使ってアサド政権を打倒することに失敗した米国は、サンクションという残忍な手段を使ってシリア国民を塗炭の苦しみに陥れて、それによって、国民の政権離反を促そうとする極めて残忍な政策に転じたのです。それはオバマ前大統領の着想でした。「人民から石油と食糧を取り上げてレジームチェンジを」という政策です。
モリス夫妻は「我々は偏向(バイアス)している。戦争反対と平和を主張する偏向だ」と言っています。私も全く同じように偏向しています。
最後に、シリア問題について、今、私が最も言語道断と思うことを、もう一度繰り返して要約しておきます。それは、米国が、ISISに勝るとも劣らぬテロ組織(HTS)の頭目でシリア北西部の小県イドリブの行政を牛耳っているテロリストであるムハメッド・アル・ジュラニをシリアの大統領として認め、滑稽にも“救済政府”と名乗るジュラニの統率下の行政機関をシリアの唯一正当な政府と認めて、アサド大統領とその政府を全く認めず、アサド政府に属するシリア住民全体を、老若男女を含めて残忍に痛めつける手段で、レジームチェンジを実現しようと企てている事実です。これを知らない人は俄には信じないでしょう。お天道様のもとでこんな無茶なことが許される筈がありません。これぞ米国の信じがたいヒューブリスです。ネメシスの罰が下ること必定でしょう。
藤永茂(2023年3月13日)