私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

いまシリアのイドリブは世界の中心

2018-09-16 22:10:20 | 日記・エッセイ・コラム
 世界の中心は今シリアの北西部のイドリブ県にあります。イドリブをめぐる状況の故に、ロシア、中国、米国、英国、フランス、イスラエルの核ミサイル発射基地は最高のアラート状態にあると思われます。双方とも、先制攻撃を慎む気などありません。
 9/11以来、アルカイダは、米国によって、その国際的戦略上の事実上の傭兵勢力として巧みに操られてきましたが、表面的には、もちろん、米国は、国際社会の先頭に立ってアルカイダを含む国際的「テロ」撲滅作戦に邁進していることを喧伝してきました。ウィキペディアで少し復習すると
「ウサーマ・ビン=ラーディンはアル=カーイダの精神的指導者であり、財力を用いて初期の反米闘争の組織を起ち上げた。アル=カーイダのナンバー2とされていたアイマン・ザワーヒリーはイスラーム神学者。1986年、二人はサウジアラビアのジッダで初めて会ったとされる。組織作りや資金集め、組織の代表として声明などを出す役割はビン=ラーディンが担い、テロに関する宗教的な理論面や作戦面は、学識のあるザワーヒリーが担っていたとされる。2011年5月にビン=ラーディンがアメリカ軍によって殺害されると、翌6月、アル=カーイダは、ザワーヒリーが新たな指導者に選出されたと発表した」
とあります。
 シリアのアサド大統領がテロ勢力に占領されているイドリブを解放する作戦を始めると宣言すると、米国は猛烈な脅しをかけてこれを阻止しようとしています。トランプ大統領は、9月4日、
「President Bashar al-Assad of Syria must not recklessly attack Idlib Province. The Russians and Iranians would be making a grave humanitarian mistake to take part in this potential human tragedy. Hundreds of thousands of people could be killed. Don’t let that happen!」(シリアのアサド大統領は結果を顧みずにイドリブ県を攻撃してはならない。ロシアとイランがこの人間悲劇になりうる攻撃に参加するとすれば、重大な人道的過誤をおかすことになるだろう。何百万人もが殺されるかもしれない。そんなことは起こさせてはならない!)とtweetしました。

https://www.rt.com/usa/437551-trump-assad-idlib-warning/

その2日前には、ポンペオ米国国務長官は “The 3 million Syrians, who have already been forced out of their homes and are now in Idlib, will suffer from this aggression. Not good. The world is watching.”とtweetしました。これでは、反政府のシリア国民三百万が家から追い立てられ、流れ流れてイドリブに追い詰められたように聞こえますが、そんなことではありません。ほぼ一年前の2017年7月27日、米国政府のテロ対策特命使節 Brett McGurk が“Idlib provice is the largest al-Qaeda safe-haven since 9/11, tied to directly to Ayman al Zawahiri, this is a huge problem.” (イドリブ県は9/11以来アルカイダの最大の安全な避難場所になっていて、彼らはアイマン・アル・ザワヒリに直属している。これは大問題だ。)として言明しているのです。

https://southfront.org/the-truth-about-idlib-in-the-state-departments-own-words/

つまり、イドリブに住む三百万のシリア市民はアルカイダを主力とする(多分総勢2万前後の)テロ勢力軍団に支配されて生きているのです。住民達は事実上テロリスト達の人質です。
 前回に取り上げたニューヨークタイムズの記事:

https://www.nytimes.com/2018/09/02/world/middleeast/syria-idlib-assad.html

の中に、「H.T.S. has controlled much of Idlib since 2015, acting as de facto governmental authority, facilitating trade across the long border with Turkey and organizing aid deliveries.」という文章があります。H.T.S. とはアルカイダと思ってよろしい。つまり、米国の仇敵テロ集団がいつの間にか温情深い行政機関になってしまっています。米国政府のお先棒を担ぐにしても程があるというものです。私が調べた限りにおいて、イドリブ県の行政の責任は依然としてダマスカスのシリア政府が担当していて、それにはイドリブ市内の公営病院や学校の運営も含まれています。
 要するに、米国はイドリブに追い詰められたアルカイダを保護したいのです。イスラム國テロリストたちを米国が方々で依然として温存しているのと同じことです。もし、米国が本当にシリアの一般市民に多数の死者が出ることを避けたければ、アルカイダ軍団とシリア政府軍との決戦を県都であるイドリブ市の外で行わせればよいのです。イドリブ県はそれに十分な広さがあります。あるいは、イドリブ市内の住民に、戦火を避けて市外に脱出移動する自由を十分に与えるようにしても、トランプ大統領の言う大規模な惨劇、人間悲劇は避けられます。


藤永茂(2018年9月16日)

イドリブがシリアの最後の戦いになることを祈る

2018-09-09 22:50:48 | 日記・エッセイ・コラム
 イドリブをめぐる極めて深刻な状況が核戦争にエスカレートすることを免れ、シリア軍の勝利によって終結するとすれば、これは全世界にとって、近来にない朗報となるでしょう。歴史的なターニングポイントになる可能性も秘めています。多くの有識者がしきりに警鐘を鳴らしているように、世界核戦争勃発の危険性は今までになく極端に大きいと考えられます。現在の世界を牛耳る、いわゆる1%の人間たちの間で、ニュージーランドの秘密の場所の地下深くに特製の掩蔽住居施設を準備して、核戦争の惨害から逃れて生き残ろうとする動きが顕著だ、という報告があります:

https://dissidentvoice.org/2018/09/billionaires-plan-escape-from-apocalypse/#more-84098

以前に、ブッシュ全米国大統領の一家は、同じ目的のバンカー・核シェルターをメキシコのどこかに既に用意しているという話を読みました。こうした人々こそ絶対悪の権化です。しかし、もし、シリア政府軍がイドリブ県をテロリスト勢力から奪還して戦火が終息し、政治的交渉が本格的に始まることになれば、私としては、一つの大きな夢を描くことができるようになります。それは私の祈念するところであり、今後のシリア情勢の成り行きの予言をしようとするのではありません。
 シリア民主評議会(MSD、英語綴りではSDC)の代表はアサド大統領に直接会って話をしたことが報じられました:

http://syrianobserver.com/EN/News/34648/SDF_Officials_Met_With_Assad_Damascus

これは反政府側の報道ですが信憑性があると思います。MSD側の代表はIlham Ahmed で、この人はロジャバ革命の軍事勢力YPG/YPJ(クルド人民防衛隊)と米国との軍事的関係の調整にワシントンまで出かけた人物です。
 ところが、9月8日になって、シリア最北東部の重要都市でロジャバ革命勢力とシリア政府が分割統治しているカーミシュリー市で、ロジャバの治安部隊(アサーイシュ)がシリア軍に発砲して、双方に死傷者が出る事件が起こりました:

http://syriaarabspring.info/?p=52674   (日本語記事)
https://southfront.org/18-killed-in-clashes-between-syrian-democratic-forces-and-syrian-intelligence-in-qamishli-city-videos/

上の2番目の記事には、今回のクルド側の攻撃的姿勢は、「米国は軍事的にシリアから撤退することはない」という9月6日に行われた米国政府の声明の影響であろうという見解が示されています。このカーミシュリーでの衝突は米国政府からの直接の指示で行われた可能性も十分あります。この状況を「ロジャバのクルド人革命勢力は米国政府とシリア政府とを天秤にかける狡猾さを示している」とは、私は考えません。ロジャバのクルド人たちは決死の思いで行動しているのです。SDF(シリア民主軍)の形で米国の地上代理軍の役を担っているジャバ革命の軍事勢力YPG/YPJは、米軍の指揮下に組み入れられてから今日までに、米国軍部、米国政府、CIAの真の意図、行動のパターンについて、十分学んできた筈です。その最たるものは米国とIS(イスラム國)の関係でしょう。
 最近のニューヨークタイムズの堕落ぶりは目も当てられない有様です。イドリブ決戦に関する9月2日付の記事:

https://www.nytimes.com/2018/09/02/world/middleeast/syria-idlib-assad.html

はその典型的な一例です。ロジャバのクルド人たちも、この虚偽に満ちた記事に接しているに違いありません。もう一つだけ例をあげれば、9月7日付けのトランプ大統領に対する匿名の攻撃記事です(日本語):

https://www.nytimes.com/2018/09/07/opinion/contributors/trump-white-house-anonymous-resistance-japanese.html

私が尊敬するポール・クレイグ・ロバートは、この記事が偽造文書であると断言し、ここまで堕落したとなれば、「何についてであれ、ニューヨークタイムズを信じる理由は全然ない」(There is no reason whatsoever to believe the New York Times about anything.)とまで言い切ります:

https://dissidentvoice.org/2018/09/i-know-who-the-senior-official-is-who-wrote-the-new-york-times-op-ed/

今、ロジャバ革命の推進に当たっている指導者たちの最大の関心事は米国との関係である筈であり、「米国とは何か」という判断の正否が革命の死活問題であることを心得ている筈です。クルド人の指導者たちは、ポール・クレイグ・ロバートのような人々の発言にも耳を傾けていると私は信じます。米国の世界戦略とロジャバ革命の目指すものとが本質的に背反していることは、誰の目にも明らかであるのに対して、ロジャバ革命の基本的な思想傾向とアサド大統領下のシリアのそれとの間には顕著な類似点があります。これが私の夢の拠点です。

藤永茂(2018年9月9日)