私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

Homo Homini Homo (人間は人間に対して人間である)

2023-10-17 22:11:42 | 日記・エッセイ・コラム
 これは私の造語です。ここ数年たびたび使っている言葉です。普通に言われているhomo homini lupus(人は人に対して狼である)は間違っています。狼は人間よりはるかにマシな動物です。あの「カピトリーノの牝狼」の像を思い出すだけでもよく分かります。人間という動物は他の動物と比較を絶する凶悪極まりない動物です。

 ガザ地区の全面的包囲攻撃を決定したイスラエルの国防相ヨアヴ・ギャラントの言葉をここに記録しておきます:「私はガザ地区の完全包囲を命令した。電気も食料も燃料も、すべてが閉鎖される。我々は人間の獣(英語でhuman animals)と戦っているのだ。我々はそれに相応して行動する」
 Johannes Steizinger という人によれば、human animals という言葉は、ナチスの人種理論家達がユダヤ人やロマ人や黒人などに対して、よく使っていた呼び名だそうです。
 以下にジュリー・ウェブ-プルマン(Julie Webb-Pullman)という女性ジャーナリストの、我々人間の一人ひとりに対する呼びかけの檄文を訳出します。この人はガザ地区に9年間在住し、また、キューバ、メキシコ、ベネズエラにも居住して人権問題に深い関わりを持っています。

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ガザの民は世界に向かって叫ぶ

ジュリー・ウェブ-プルマン




「我々は孤立無援だ。声をかぎりに叫び、死んで行く。こんな非人道的なことを、今まで、見たことがない。我々が死ぬのをただ見ているすべての国よ、恥を知れ。何もしないすべてのグループ、すべての人よ、恥を知れ。フランス、ドイツ、どの国も、私たちを締め出し、人間とみなしていない。我々はひとりぽっちだ。我々は合法的な人間達であり、自分たちの家、自分たちの命のために戦っている。我々は多くの国のために戦ってきた。アフリカ、アラブ、ヨーロッパの国々で、あなた達のために戦ってきた。あなた達は我々のために戦っているか?我々みんな、アパルトヘイトや植民地主義やファシズムのもとで生きようとは思わない-我々は平等に自由に自分自身の土地で生きたいのだ。

我々は人類みんな平等に分かち合って生きたいのだ。

30年後、我々はあなた達としっかり目を合わせよう、そうすれば、あなた達が我々と共にあったかどうかを我々は知ることになるだろう。」

マジェド・アブサラマ、2023年10月13日

我々は何と答えるのか、どう答えるのか、今か、明日か、来年か? いま、私がこれを書いている間も、大虐殺は遂行されている。西側の腐敗したあらゆる政治家たち、アフリカ、アジア、アラビアの腐敗したあらゆる指導者たちの鼻先で、そのある者達は命令をさえ下しながら、大虐殺の規模は拡大しつつある。

堕落腐敗し痴呆と化したバイデンは、「イスラエル」に武器を大量に送り込み、地中海に砲艦を集結させ、パレスチナの女性や子ども達を限りもなしに根絶やしにしようとしている。恥知らずの英国首相スナックは傍観者として虐殺に声援を送っている。ヨーロッパ諸国は、街頭に立って「YA BASTA!(もう堪忍ならん!)」と叫ぶ勇気のある者も、何も言わずにパレスチナの旗を掲げるだけの者さえも、犯罪者として扱っている。弱虫で自分のことしか考えないアラブ諸国は、パレスチナの抑圧者の血にまみれた手を、数千人にのぼるパレスチナ人の死者をほったらかしにして、尻込みもせずに握っている。これからの数分、数時間、数日、数週間・・・さらなる死と苦しみを防ぐための具体的な行動を何一つしないまま、握手を続けている。

病院、難民センター、家屋、そして町の通り全体が爆撃で消し去られ、医療、市民防衛、メディアで働く人たちが、死にもの狂いで仕事をして、文字通り死んでいく今、何を語ればいいのか。何十もの家族全体が地球上から完全に抹殺されている今この時に。「子どもの遊び」が、棒切れを拾う遊びではなく、イスラエル軍の空爆を受けた「友人/母親/姉妹の切断された手足を拾う」ことになっているのに、我々はどうしてこのような事態を放置しているのか?どうして我々は事態をここにまで到らしめたのか?

何故ならば、我々がそれを許したからだ。我々は皆一緒になってシオニズムという癌が転移するのを許してきた。植民地主義とファシズムの触手は、ガザやパレスチナだけでなく、平等、人権、自由、尊厳といった、我が西欧“文明”の甘っちょろい幻想の全てを扼殺しようとしているのだ。

我々の政府が、シオニストによるアパルトヘイト(人種隔離政策)国家に、現在の大量虐殺だけでなく、過去の残虐行為についても責任を問わないまま傍観していることは尊厳の喪失だ。我々自身の国の政府に、その共犯としての責任を問わないことは尊厳の喪失だ。

“イスラエル”には自らを防衛する権利があると主張する一方で、ハマスであろうとなかろうと、パレスチナ人に同じ権利がないとするのは全く平等性に欠ける。

パレスチナに自由が与えられない間は、我々も自由ではないのだ。

シオニストの戦争挑発者とそのアメリカ、ヨーロッパ、アラブの支援者たちによってガザに放たれた恐怖と地獄を前にして、私たちは街頭で、投票所で、できる限りの場所で、YA BASTA(Enough is Enough!)と叫ばなければならない!一つの民族のみならず、いわゆる文明の薄皮さえも残忍に絶滅しようとする殺戮に終止符を打て。国際法は私たちの目の前で破壊され、それを守る責務を負う機関は沈黙し、無力な傍観者-いや、故意の傍観者となっている。

ICC(国際司法裁判所)はどこにあるのか?ロシアがウクライナで特別作戦を開始した4日後に、ICC検察官はすでに調査を発表し、その行動を非難した。ところが、違法の占領、違法の包囲の下に、捕らわれの身となり残酷に扱われている住民に対する今週のイスラエルの虐殺行為に対しては、そのような非難はなされていない。ガザの人々は、水、電気、食料、医療物資の供給を断ち切ることによる集団的懲罰という、周知、周到の意図的戦争犯罪によって、生活の基本そのものを奪われ、海やシナイ半島に追いやられようとしているのだ。

ガザやパレスチナのどこであろうと、国連平和維持軍が国連決議を執行し、パレスチナの市民を保護し、パレスチナの自決権を支持することは行っていない。パレスチナの犠牲者に対する慈悲のかけらも示してない。ましてや、国連憲章に違反し、イスラエルの国連加盟の条件(“イスラエル”はこれまで一度も満たしていない)を強制すべき義務を負いながら、過去70年にわたるシオニストの抑圧計画に国連が進んで参加していることへの謝罪は一度もない。

パレスチナ人に対する国際社会(政府、機関、メディア、あらゆる政治家、一般市民)の対応の違いに見られる人種差別と偽善、反撃するパレスチナ人をテロリストや駆除されるべき動物と呼ぶ一方で、ウクライナ人を英雄的自由戦士と呼ぶ。こうした事は、これらすべてが、パレスチナ人に生命そのものを含む最も基本的な人権が与えられているという如何なる主張をも虚しいものにしている。

パレスチナ人に対するこの大量虐殺は、秘密裏に行われているわけではない。異変的な出来事でもない。これは、シオニスト・アパルトヘイト・イスラエルがパレスチナ人に行った、数十年にわたる一連の残虐で計画的で組織的な大虐殺、それも、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、そして現在はアラブの政権が、先刻承知の上でやらせている大虐殺の最新版なのだ。そしてそれは現在進行中。

パレスチナ人に対するイスラエルの大量虐殺を可能にし、それに加担しているすべての政府、組織、政権は、その責任を問われなければならない。それらのただ一つさえ残さずに。

既存の組織やメカニズムではこの責任追及は決して起こらないということの80年間の証拠を我々は持っている。

それは我々の肩にかかっている。瀕死のパレスチナ人の絶叫を我々の絶叫の大きさでかき消すことができるかどうかは、良心のある我々一人ひとりの肩にかかっている:我が家の玄関から、屋根の上から、街頭に出て、そして政府機関の建物で叫ぶのだ:YA BASTA! ENOUGH IS ENOUGH!

大虐殺を阻止せよ

包囲を解け

パレスチナを解放せよ

“イスラエル”とその支援者たちに、パレスチナにおける人道に対する破廉恥な犯罪の責任を問え

ガザで次に何が起こるかは、我々の一人ひとりに責任がある。

Every. Single. One. Of. Us.

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 諸々の賢人たち、ジャーナリストたち、中東専門家たちがガザの紛争の意義について喧々諤々の議論を展開しています。ここで私が、関西弁風に、「ああ、あほらし」と漏らしたら、その不謹慎を厳しく咎められるでしょう。しかし、正直なところ、戦後数十年にわたる私のナチ・ホロコーストへの思い入れは、一体、何だったのか。私はヨーロッパでの学会主席を機会にして、アムスレルダムの「アンネの家」を三回も訪れ、ベルリンやその他各地のホロコースト記念館の幾つかにも足を踏み入れて、ユダヤの人々の苦難に涙しました。しかし、ナチ・ホロコーストだけが大文字のHolocaust だという主張を、今度こそ、私は断固として拒絶します。
 イスラエル北部の都市ナザレに住む著名なジャーナリストであるJonathan Cookの10月17日付の記事『What the Media Forgets to Tell You about Israel and Gaza』の終わりには
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Whatever the media are telling you, the ‘conflict’ – that is, Israel’s ethnic cleansing programme – started long before Hamas appeared on the scene. In fact, Hamas emerged very late, as the predictable response to Israel’s violent colonisation project.
And no turning point was reached a week ago. This has all been playing out in slow motion for more than 100 years.
Ignore the fake news. Israel isn’t defending itself. It’s enforcing its right to continue ethnically cleansing Palestinians.
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と書いてあります。英語を読むのが苦にならない方はぜひ全文を読んでください。これが真実ならお先真っ暗です。


 しかし、私には希望もあります。吉永・二宮共演の映画『母と暮せば』の中で、原爆で亡くなった家族の墓参りに来た老人が、「人間のする事じゃねえ」と原爆投下を詰る場面があったと覚えています。人間は本来もっとマシなものだという信念です。私はここに希望を置きます。ガザ紛争について「人道援助」の叫びが飛び交っていますが、ここでの“human”、“humane”、“humanistic”、“humanity”といった言葉には、洋の東西を問わず、「人間は本来いいものなのだ」という意味が込められています。もっとマシな動物になりましょう。
 シリア情勢に関する青山弘之さんのブログを私は毎日欠かさず読んでいます。10月13日の記事には「アサド大統領は、パレスチナのハマースによる「アクサーの大洪水」に伴うイスラエル軍のガザ地区への攻撃激化への対応を協議するためにシリアを訪問したイランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務大臣と同行した使節団と会談した。」とあり、その中に、パレスチナ・イスラエル情勢についてのアサド大統領の見解が出ていますので転載させて戴きます:「会談のなかで、アサド大統領は、パレスチナ人民と、70年以上にわたりはく奪されたままの権利を回復するために占領国イスラエルに対して行われている正当な闘争への支持を表明、イスラエル占領軍がガザ地区の民間人に対して行っている爆撃や強制退去がもたらす深刻さと流血の事態に警鐘を鳴らすとともに、国際的に禁止されている武器を使用してイスラエルがパレスチナ人に対して行っている犯罪を阻止するため、みなが団結しなければならないと強調、パレスチナ人民への支持を改めて表明した。
アサド大統領はまた、イスラエルが今日、パレスチナ人に対して行っている犯罪と虐殺は、パレスチナ人に正当な権利を放棄するよう圧力をかけようとする試みであるとしたうえで、パレスチナ人の国家建設の権利と、自由と尊厳をもって生きる権利を継続的に否定してきたことが、今日のパレスチナの領土の惨状をもたらした主因だと述べた。
さらに、シオニスト政体と西側諸国がこうした否定を続け、その歴史的、人道的真実を隠蔽しようとする限り、地域に安定はもたらされず、シオニス政体は占領地からの撤退を定めた国際決議を履行しなければならないと主張した。」
 私もこの意見に全く賛成です。因みに、このイラン外務大臣のシリア訪問を妨害するため、イスラエルはシリアの民間空港の滑走路を爆撃して暫く着陸不能状態に陥りました。

藤永茂(2023年10月17日)


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1 コメント

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Unknown (大橋哲嗣)
2023-10-19 15:25:37
 昨日から、ガザのアフリアラブ病院への爆撃で多くの死傷者が出た出来事(私はイスラエルの犯罪だと思いますが)に関して、テレビ、新聞などのメディアが報道しています。現在の日本のメディアに期待できる事は何も無いですけど、やはりひどいとしか言いようがないと思います。爆撃をしたのはイスラエルかアラブかわからないというスタンスで報道していますが、こういう中立を装ったやり口は、イスラエルの非をおおい隠すものでしかないと言うしかないです。藤永さんは承知しておられるのは分かっていますが、今回のことは「ハマスが仕掛けた先制攻撃にイスラエルが反撃した中で起こった事」などではないです。それはイスラエルの極悪としか言いようがない対パレスチナ政策に対するパレスチナ側の抵抗、イスラエルが建国する際に起こした、パレスチナ人の土地強奪、それに伴うパレスチナ人虐殺の歴史を念頭に置かねば、正しく理解出来ないことは間違いないです。日本のマスコミにはその理解は全くないので(ないフリをしているのかもしれませんが)、ハマスをテロリストとして報道するしか能力が無い(残念ながら)。ですから、昨日のNHKの9時のニュースに出てきた解説者(どういう人かは知らないですけど)のような、酷い発言が放送されるのですね。彼はおおむね次のように発言しました。
『ハマスがまたやった。イスラエルを挑発しておいて攻撃させ、被害を受けた事で世界の注目を集めるいつもの手口』
私もNHKに期待はしないけれど、どういう報道の仕方をしているのかは確認すべきだと思ったので視聴した訳ですけど‥‥
 藤永さんが最後に引用しておられるジョナサン・クックの最初の文章、『メディアが何と言おうと、「戦闘」-すなわちイスラエルによる民族浄化プログラム-はハマスが現れるはるか以前から始まった。』(誤訳があればご指摘ください)は頭に深く入れておくべきだと思います。

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