僕の家内は招き猫が好き

個人的なエッセイ?

「精霊流し」 星降る街

2017年07月30日 | Book
2001年8月の「星降る街」です。
よかったら、読んでください。




先日「精霊流し」(さだまさし著・幻冬舎)という本を読みました。

今まで何度か、この星降る街で、精霊流しという詩について書いてきましたが、小説まで出版されているとは知りませんでした。
ページをめくっていくと、精霊流しという詩に込められた、切ない想いが綴られていました。

迫田一郎・秀子さん夫婦は、初めての子供を死産しました。
出産途中に赤ちゃんが仮死状態になり、母子ともに危険な状態に陥ったのです。

待合室で祈る迫田さんに届いた知らせは、赤ちゃんの死亡という残酷なものでした。

迫田さんは、小学校の教師です。
そして、子供が大好きです。

まっさらな心に最初に施される教育によって、子供の人生は変わる。
そんな大切な時期の子供たちと、一緒に過ごしたい。

教員を志したときからの夢でした。

そんな自分に、もうすぐ子供が生まれる。
父親になる。

今日まで心に描き続けた子供の笑顔が、ぼやけて見えました。

「可哀想だったね・・・」

きっとその子は、自分の生命を捧げて、母を救ったのだ。
そう思ったとたん、涙がはらはらと落ちてきました。

その子の名前を、真一郎と名づけました。

翌夏、秀子さんは一郎さんに頼みました。

「私、あれからすっと真一郎に謝ってきたと。
 お母さんが、もう少し頑張ったら、生まれてきたとにねえ、て。

 私、子供が欲しか。
 真一郎の分まで、元気な弟か妹が欲しい。

 だから真一郎を、ちゃんと送ってやりたか。
 精霊舟ば、一緒につくろう」

長崎に原爆が投下され、あたり一面が焼け野が原になったときでも、家族を喪った人たち手によって行われた精霊流し。

「チャコーン、チャコーン」と鉦が鳴り「ドーイ、ドイ」と小さな哀しい声がいつまでも続いた精霊流し。

自分の家が初盆を向かえ、喪主になったとき、初めて精霊舟の意味がわかるといいます。
肩にギシリとのしかかる、喪主の重み。

爆竹が鳴り響く喧騒の中で、静寂のときを紡ぎだし、生命の営みを手渡す、精霊船があります。

迫田さん夫婦は、小さな船をこしらえました。

そっと肩に担いだ一郎さんが歩いていきます。
その後を、秀子さんが線香の束に火をつけて、無言のままついていきます。

大きな船の間を、静かに抜けていく小さな船。
あたりに線香の匂いが漂いました・・・。

精霊舟を海に流す瞬間、遺族は哀しみを新たにするといいます。
両手を合わせて、精霊舟を見送る人たち。

涙を流しながら「あなたを思い切りますよ」と自分に約束をする。

精霊流しとは、凄絶な別離の儀式のことなのです。

今年も八月十五日なると、大小さまざまな舟が、長崎の街をねりあるくことでしょう。
多くの人たちの想いを乗せた精霊船。

さあ、お盆になると懐かしい家族が帰ってきます。

「お帰り、逢いたかったよ」

あなたは、どんな想いで、大切な人を迎えますか・・・。


◆参考文献 「精霊流し」 さだまさし著 幻冬舎
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