室井絵里のアート散歩

徒然現代美術&感じたこと、みたもの日記

創元社・『ポーランドの前衛美術』生き延びるための「応用ファンタジー」

2014年12月11日 | アート他
ポーランドの前衛美術』生き延びるための「応用ファンタジー」
加須屋明子著・創元社



美術の潮流である西洋美術を中心にした場合、日本をはじめアジア各国の美術の流れもまたポーランドなど東欧の美術の状況も周縁であるということを改めて考えさせられた。

これまで東欧の美術については、著者でもある加須屋さんが国立国際美術館勤務時代に紹介されていた「転換期の作法ーーポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの現代美術」や、ヴォディチコ、バウカなどの作品に出会って来たのみである。

私のポーランドへの認識は、一度は消滅した国であるとか、ユダヤ人の大虐殺とか、ワイダの映画、首都がワルシャワだくらい、東欧には行ったこともないので加須屋さんが毎年研究のために行かれて、その様子をSNSなどで知らせてくれる、クラコフなどの地名を知ったというようなかなり貧困なものである。

つまり、ヴォディチコのように国を捨てて海外で制作を続けている世代の作家の活動や、それ以降の世代の作家の活動や、文字通り闘って勝ち得た「ホーランドの前衛」表現について、単発的にふれて来た知識でしかなかったのだ。

本書で述べられている様々なポーランドの前衛美術、中でも1967年の終わり頃に結成された「5人の秘密のクロにカル」(オカルトやチベット密教に興味が高まりユングの「内的構造の変更」について議論された。)などは全く知らなくてこれは面白そうだなと思った次第。

本書で結論としてまとめられている「芸術作品は社会の要請に応じた側面を持ち。激動の現代社会において、従来型の芸術作品とは異なる要素が見られるようになり、また社会からも必要とされている。そのような中でポーランド現代美術を位置づけることが可能である」
「社会の要請に答える目的だけでなく、人間存在や空間、時間認識に新たな発見をもたらすような、形而上学的価値を持つ作品もポーランドで多く発表されてきた」
「混迷を極める21世紀において芸術の果たす役割は一層重視されるが特にポーランドの優れた成果を「応用ファンタジー」と名付け、その重要性を指摘する。(一部抜粋)などは、この本を読むまでは体系づけて考えたことはなかった。

政治的な側面とアートという表現、戦後の日本ではこれはかなり乖離していたと思う。
前衛というのは後衛がいなければ意味がないが、戦後前衛世代が亡くなって行く中、
正直言って日本のアートの状況は混沌としている。
もちろん、アーティストはたくさんいるし社会問題を表現として扱っている作家も、空間や時間を優れて表そうとしている作家もいるが、そういうものにリアリティが無かったというのも事実だろうと思う。

3.11以降、いや、本当は二十年前の1.17や、9.11だって世界や日本にきっかけとなることがたくさんあったのだが、3.11以降の政治のあり方の急速な右傾化など否応無しに我々にその欠如したリアリティをなんとか取り戻さなければならないという危機感が生じてきたようだ。

実際に3.11以降に自らの作品の本質を問い直したアーティストもいる。もちろん、それとは関係なく自己の作業を淡々と表現へと昇華させることにも意味がないわけではないが、しかし、ポーランドでは、そういうことが脈々と受け継がれ、厳しい状況下でまさしく「生き延びる必然性から生まれ、狂気の一歩手前に踏みとどまってユーモアを交えつつ過酷な状況を逆手にとりながら智恵と技術を結集し、想像力を駆使して開いてゆく絶えざる試みの連続」であったのだな、と。

そして、私たちが見失っているけれど私たちの回りにも形を変えて様々な現実が表現や、人間の自由を脅かそうとしている現実を見つめるために本書が開いていこうとすることに共感を覚えるのである。



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今年みた中で記憶に残った展覧会

2014年12月05日 | アート他
ツィターやFace bookの更新はしているのですがこのブログのことはすっかり忘れていました。

ともかく、今年見た展覧会を振り返る季節となりました。

京都アートセンター 小谷元彦展

横浜美術館 森村泰昌ディレクション 横浜トリエンナーレ

入谷・京都 パノラマプロジェクト  小杉美穂子+安藤泰彦 + ビーコン

京都造形大学ギャラリー  無人島にて

東京国立近代美術館 常設展示 (戦争画や戦争中の作品の展示など意欲的な常設展示でした)

FB上と横浜トリエンナーレで発表された松井智恵の「今日の一枚さん」

京都元立誠小学校 ウィリアム・ケントリッジ

行けなかったけど見たら記憶に残っただろうと思う展覧会(?)

国東半島芸術祭   希望の原理
福岡アジア美術館  アジアトリエンナーレ
三菱地所アルティアム ユェン・グァン・ミン

上3つは、諸々の事情で行きたかったけど見られなかった展覧会です。
見て無いけど、記憶には残る。。

その他、各地で開催されていたトリエンナーレやビエンナーレは足を運びませんでした。
もちろん、開催している方も知っていたり参加されている方も知っているし見るべきもの、作品は多かったと思います。
ただ、誰のための、何のためのアートプロジェクトなのかということを真摯に考えて、各地で山のように開催されているアートブロジェクト
には基本行かないことにしたのです。地域でなされることは、本当は地域の方のために成されていたらいいんだろうと思うし、
観光とアートはもうそろそろ切り離してみたい。観光は普通に観光だけで遊びたいと、これが本音なのですが。

来年は、元気出して各地の山にもでかける気になるかもしれないけど。
今年は、そんなわけで都市型に集中してみてました。

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