Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

リープライヒ/日本フィル

2024年03月24日 | 音楽
 アレクサンダー・リープライヒが(コロナ禍での中断後)久しぶりに日本フィルに客演した。1曲目は三善晃の「魁響の譜」(かいきょうのふ)。1991年の作曲なので、脂が乗りきった時期の作品だ。4管編成が基本のオーケストラ編成だ。三善晃の作品の中では最大規模の編成ではないだろうか。

 冒頭の暗く混沌とした響きから、武満徹を思わせる甘美な音色があらわれ、アルバン・ベルクのような練れた音楽があらわれたかと思うと、疾駆する音楽があらわれる。広瀬大介氏のプログラムノートに引用された三善晃のインタビュー記事に「今回の作品(注:「魁響の譜」)において、私の語法の論理を使いきったと思います」(岡山シンフォニーホール友の会会報『フリューゲル』インタビュー記事、1991年)とある。たしかに当時の渾身の作品かもしれない。演奏は気合の入った力演だった。欲をいえば、最後の熱狂的な部分で音にもう一段のまとまりがあればと思った。

 2曲目はシマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。ヴァイオリン独奏は辻彩奈(つじ・あやな)。辻彩奈の演奏は以前日本フィルでシベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴き、また神奈川県民ホールでフィリップ・グラスの「浜辺のアインシュタイン」を聴いた。いずれも見事だったが、今回のシマノフスキはそれらを上回る感銘を受けた。

 シマノフスキのこの曲は交響曲第3番「夜の歌」と同時期の作品で、やがてオペラ「ロジェ王」に結実する恍惚とした響きの異教的な音楽だ。その音楽を辻彩奈は完璧に自分のものにして演奏した。音楽の中に入りこみ、辻彩奈の身体から音楽があふれ出るような演奏だった。わたしは完全に魅了された。

 リープライヒ指揮日本フィルは辻彩奈にぴったり付けた。弦楽器は12‐10‐8‐8‐6の編成だったが、管楽器は3管編成が基本で意外に大きい。その編成で近代フランス音楽のような透明感のある音響を作る。オーケストラが独奏ヴァイオリンにかぶらず、しかもしっかり支えていた。

 3曲目はシューマンの交響曲第3番「ライン」。無造作に鳴らされる音がなく、慎重に吟味された音が鳴る。言い換えれば、大味な演奏ではなく、濃やかに配慮された演奏だ。そこからシューマンの抒情が漂う。どこか霞のかかったような(シューマン独特の)音響が、シューマンのやわな感性を繭のようにくるむ演奏だ。信末碩才さん率いるホルン群が朗々と鳴った。なお個人的なことだが、わたしは1974年春季から日本フィルの定期会員になったので、丸50年たった。定期会員になって初めて聴いた演奏会もメインはシューマンのこの曲だった(指揮は山田一雄だった)。懐かしく想い出す。
(2024.3.23.サントリーホール)

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