真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「浮気妻 寝室の覗き穴」(2015/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影監督:田宮健彦/編集:中野貴雄/録音:大塚学/助監督:江尻大/監督助手:増田秀郎/撮影助手:高嶋正人/スチール:本田あきら/ポストプロ:スノビッシュ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:椿かなり・柳東史・樹カズ・あやね遥菜・和田光沙・井尻鯛・デカ増田・ピン希林・吉行由実・里見瑤子)。出演者中、井尻鯛・デカ増田・吉行由実は本篇クレジットのみ、要は全員演出部だ。撮影助手とスチールの間にクレジットされる選曲担当に力尽きる、瀬下といふ苗字だけで辿り着けるかと思つたが、結構大勢ゐらつしやるのね。
 汗ばむ胸元と首筋を舐め、憔悴しきつた下着姿の椿かなりを、女刑事(和田)が取調べる。色気を優先させたのかも知れないが、不自然なシークエンスではある。名前を訊かれた秋元梨花(椿)が、「秋元梨花、誠の妻です」と振り絞りタイトル・イン。私称第二ミサトの秋元邸、会社社長である夫・誠(柳)に誘はれた、外賓を歓迎するレセプションへの出席を何だかんだと断つた梨花は、浮気相手でジャーナリスト(笑)の仁科雄二(樹)に電話を入れる。逢瀬に着て行くつもりの白のワンピースを、誠の幼馴染でもある家政婦の一ノ瀬優子(里見)がクリーニングに―梨花の指示で―出してゐたのに激昂した梨花は、ヒステリックに取りに行かせる。慌てて走る優子と擦れ違ひ、以降散発的に顔を見せる吉行由実は、秋元家お隣のタカノ、ウォーキングが日課。樹カズが「JCVD」(2008)以降のJCVDばりの渋味を増した色気を爆裂させる、シャワー・ルームでの濡れ場初戦。二枚目と絡む主演女優をスタイリッシュに押さへるのは如何にも吉行由実らしいカットともいへ、窓から溢れるやうに差し込む外光が、白々と飛ぶ惨劇を残念ながら回避出来てゐない。飾られた絵を外すと誠夫婦の寝室を窺へる優子の覗き穴、幼女が川に落ちただか落とされる、梨花が度々苛まされる悪夢を投げつつ、仁科が出発する一週間の九州への取材旅行にどうにかして随伴したいと思案する梨花は、セレブ臭をひけらかす自ブログにコメを寄こした、怠け者の在宅プログラマー・津川七恵(椿かなりの二役)の顔写真アイコンに注目する。
 配役残り、さらだたまこが前作から使用する変名であるピン希林は、両親の去就の説明が確か見当たらない梨花の育ての親・滝山芳子。いはずもがなを憚らぬと、こちらは江尻大の変名の井尻鯛は、梨花と七恵がミーツするオサレなカフェにシュッとして見切れる、孤高のラッパーEJD、途中からは与太。何処まで温存するのか地味にハラハラさせられたあやね遥菜は、梨花をどうかした勢ひでやきもきさせる、仁科のアシスタント・楠田彩奈。もしかすると、“百鬼夜行をぶつた斬る、地獄の番犬”ことデカマスターとかけてゐるのかも知れないデカ増田―当然イコール増田秀郎―は、和田刑事に同行する刑事。何度かスナップが抜かれなくもない誠の前妻・玲子(故人)役が、画が遠過ぎて識別不能。
 画期的な新機軸で甘美なる恍惚を撃ち抜いた革命作「お昼の猥談 若妻の異常な性体験」(主演:奥田咲・羽月希)に続く、吉行由実2015年第三作。窃視家政婦ものに、デジタル化の便利な恩恵を享受しつつ、同時にメガネ地味女ver.の椿かなりの魅力を通り越した威力を撃ち抜く替へ玉サスペンスを絡める。ものかと、思ひきや。二作前の闇鍋怪作「お天気キャスター 晴れのち濡れて」といひ、ことによると椿かなりには吉行由実を狂はせる魔性といつたものでもあるのか、確かに伏線は敷設済みともいへ、それまでの一切合切を吹き飛ばす終盤の破天荒には度肝を抜かれた。替へ玉サスペンスは片足突つ込んでないにせよ、公開題を見るに、恐らく当初企画では主眼であつたのではあるまいかと思しき、寝室の覗き穴に至つては完全に意義が消滅してしまつてゐる、穴があらうとなからうと関係ない。裸映画的には遅きに失した感もなくはない二三番手の連続投入は、力技の衝撃展開を無理から畳み込むには、要はどさくさに紛れ込ませるには寧ろ最適のタイミングであつたのかも知れないが、それにしても真の黒幕は理恵なのかミタなのか、それともなのかといつた辺りは、荒れたオフ・ロードを馬力頼みのダンプカーで強行突破したが如き結末なだけに、せめて座らせておいて欲しかつた感は残す。女子トークピンクの奇跡の前後で、椿かなりが魔女の扮装で高笑ふ2015年。荒木太郎清水大敬とともに監督デビュー二十周年を迎へる2016年、吉行由実から何を仕出かすかと色んな意味で目が離せない。

 一点些末、タカノが秋元家に自家製のパンをお裾分けに来る際にも、劇中着たきりのウォーキング・ウェアなのは、吉行由実が女であるだけになほさら、奇異あるいは一手間端折つた横着に映る。
 真の黒幕は誰なのか< 右乳下の黒子の件を想起すると、誠のセンもギリギリ残るんだよなあ


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 「お天気キャスター 晴れのち濡れて」(2015/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督・脚本:吉行由実/撮影:田宮健彦/録音:小林徹哉/編集:中野貴雄/整音:西山秀明/選曲:あるでんて/音響効果:矢島悟/美術:菊島稔章/助監督:江尻大/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:川口諒太郎/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:東映ラボ・テック、スノビッシュプロダクツ/出演:椿かなり・倖田李梨・さとう杏子・北川帯寛・国沢実・さらだたまこ・生方淳一・白石雅彦・藤本友徳・鎌田一利・吉行由実)。それにしても演出部が大勢。
 タイトル開巻、OPTV局の朝ワイド「オーピーにゅ~」。人気お天気キャスターの綾瀬花子(椿)は、本番を直前に控へ俄かに緊張。トイレに駆け込み一オナかましてスッキリすると、何事もなかつたかのやうに無事収録を務める。二年前、初陣で派手に玉砕した花子は極度のあがり症に陥り湯川(吉行)のカウンセリングを受診、自慰で精神を落ち着かせる催眠療法を施されてゐた。いやいやツッコむなんて野暮だぜ、ここでは椿かなりのオッパイがジャスティス。キャバ嬢の過去が発覚し失墜した先輩女子アナ・倉田凛子(倖田)の稚拙な嘘密告も功を奏せず、順風満帆な日々を送る花子ではあつたが、ある日例によつての本番直前onanieの音声を盗録したファイルが動画投稿サイト「YumTube」にアップ、騒ぎとなりひとまづの番組降板を強ひられる。
 配役残り藤本友徳は、ロン毛の多分ディレクター・横田。男優部メインの北川帯寛は毎朝大好きな花子の行つてらつしやいに送り出され通勤する、サラリーマンの鶴川郁夫。闇雲な突破力を暴発させる国沢実とさらだたまこは、郁夫が住むアパートの大家夫婦・野沢明と直美。親気取りで無闇に世話を焼いたかと思へば、夫婦生活を誇示してみたりもする厄介極まりない飛び道具。生方淳一は、普通の―ヴィジュアルの―プロデューサー・植木。国沢実とさらだたまこの無駄暴れを最終的には霞ませる、さとう杏子が花子の親友・塩野絵里、車椅子生活。鎌田一利は凛子に籠絡されるOPTV局長、白石雅彦も凛子と肉体関係を持ちつつ凛子の対花子決戦兵器、主にネット工作を担当するフリーライター・高木。その他どの人脈で動員したのか、「オーピーにゅ~」番組スタッフと生中継に映りたがるお調子者、醜聞の渦中の花子を追ひ回す野次馬に、出てゐたとしても江尻大が埋もれるほど―声は聞こえる―結構な人数見切れる、AD役は女の子だよね。
 「姉妹どんぶり 抜かずに中で」(1997/脚本:五代暁子/主演:貴奈子)をセルフリメイクした、「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(2014/主演:奥田咲)を追ひ越し着弾した吉行由実2015年第一作は、単に自身が画期的に仕出かしたに止(とど)まらず、デジタル・オーピーが第三弾にして弱点を完全に露呈した問題作。何はともあれ、花子と郁夫がミーツする、即ち二人のロマンスが起動する重要な一幕の底の抜けぷりが凄まじい。秒殺で突きとめられた自宅に居られなくなつた花子は、一旦絵里の下に身を寄せる。とはいへ何時までもさうしてゐる訳にも行かず恐々絵里宅も後にしてみたものの、速攻で野次馬に見つかり追ひ駆けられた花子が、たまたまその場を通りがかつた―綾瀬花子の大ファンである―郁夫に抱きつきキスをして、路チューカップルを偽装し追手を撒くシークエンスは一体全体何だこりや。登校途中に出会ひ頭でぶつかつた―食パン咥へた―美少女と、転校生の形で再会するクリシェの二十一世紀進化形誕生の瞬間を、この時我々は目撃したのであらうか。挙句に花子がそのまゝ郁夫の部屋に転がり込む葱を背負つた鴨が餡子の代りに入つた牡丹餅が、棚からグロスで雪崩を起こして来さうな御都合主義にはクラクラ来る。ところが恐ろしいのが、この映画そんなこんなは全然序の口。何だかんだの末に、花子の復帰が決定。となると喜ばしい反面、郁夫にとつてはアクシデンタルな蜜月の終焉も意味する。郁夫の複雑な表情も噛ませさういふ定石通りの流れを窺はせておいて、驚くなかれ花子はといふと今後も鶴川家に留まることを希望し、二人はラブラブの熱い一発。確かに、椿かなりのハッピーな絡みの要ならば酌めぬでもないにせよ、それでは劇中事態の推移に付随しての葛藤が生じず、一体吉行由実は如何なるドラマを描かうとしたのか、現に成立などしてゐないのだが。ところがところが、それでもまだ今作は止まらない。幾度か匂はされた不審な人物の影を、忘れかけた頃に恵子を超える真の大ボスが飛び込んで来る木にガンダリウム合金を接ぎ損なふ魔展開は、普通の映画監督にはさうさう何度も撮れない鮮やかな支離滅裂。波乱万丈の女子アナ奮闘記、ふんはかしたラブコメ、綺麗な化粧の下に隠した女のドス黒い捻じ曲がつた悪意。描きたいものを手当たり次第にブチ込んだ結果、見事なまでの木端微塵、闇鍋かといふ話である。更にここで露呈するのが、デジタル・オーピーの限界。ヒロインの度肝を抜く、誰かと誰かが寝る、衝撃的―である筈―なショット。デジタル・オーピー観戦三作目にして毎回同じ不平を垂れるのも工夫がないと自嘲しながらも、同じ有様で三連敗ゆゑ仕方がない。誰かと誰かが寝る花子を激しく動揺させるショットが、相変らず暗くて何が何だか殆ど判らない。殊に男が誰が誰やら判然としないでは、この場合全く意味を成すまい。シネロマンや光音座の状況に関しては存じ上げないと留保した上で、業界の旗艦館たる上野オークラが故天珍シネマと同程度と伝へ聞くに、天珍よりも―本当に―格段に良好な上映を見せる我等が前田有楽で見えないものが、全体何処で満足に見えるといふのか。地元駅前ロマンや熊本の桃天等、プロジェク太への移行自体が早い小屋も、まづ厳しいと考へてさうゐない、実際駅前には無理だと断言出来る。もう一度いふ、現状、デジタル・オーピーは少し暗い画は途端に不可視の領域に突入する。フィルムで普通に映写してゐれば見えたものが、DVDに落としたがために見えなくなるのとは訳が違ふ、恐らくどんなに頑張つても見えないのだ。となると商業映画が、木戸銭を落とした客に見えないものを撮ることに果たして何の意味があるのか。加へて粗いサスペンスが物語を粉砕する返す刀で、三番手の濡れ場をほぼオミットしてしまふとあつては裸映画としてもチェックメイト、何をかいはんやといふ以外に言葉が見当たらない。寧ろ唯一狙ひ通りに機能してゐるのは、純然たる枝葉といふいはば安全圏で爆散する本筋の被弾を免れ得た、大家夫婦の素頓狂な造形くらゐとさへいへるのか。ツッコミ処といふ意味でのとつかゝりには事欠かない、グルッと一周した貧しさが豊かな一作。逆に考へると、久々に喰らつたレベルの破壊力。如何とも形容し難い観後の感興は、何年かに一度級の台風にさんざ酷い目に遭つた末に、振り返つてみると正体不明な清々しさを覚えるやうな心持ちに似てゐるのかも知れない。


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