真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・SMレズ」(昭和60『緊縛の仕置き』の1992年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:北川徹/脚本:北川徹・井上潔/撮影:長田勇市/照明:三好和宏/音楽:坂田白鬼/編集:菊池純一/演出助手:井上潔・諏訪敦彦/撮影助手:斎藤幸一/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・早乙女宏美・涼音えりか・牧村耕次・下元史朗・高橋良二・中村伸次)。
 タクシーの後部ドアがガチャッと開き、ゼブラ柄のタイトスカートと黒いハイヒールの女の下半身が現れる、颯爽と歩き出す足を画面中央に据ゑタイトル・イン。御御足の持ち主は、編集プロダクション勤務の水沢ジュンコ(田口)。眩い田口あゆみの若さに感嘆ついでに軽く調べてみると、昭和末期から前世紀末まで四捨五入すると二十年連なるピンク暦は案外長い、流石といふべきか。僅か総勢四人の編プロの面々は、ジュンコの他に代表の加藤(下元)と、経理兼、現場ではアシスタント的な役割も担当するカズコ(早乙女)。どうでもよかないけど、風邪でもひいてゐたのか、下元史朗の声がガッサガサ。抜群に聞き苦しいが、アテレコもアテレコで迸る違和感は否めまい。話を戻して、そこにジュンコが殆ど秘かにでもなく好意を寄せる、河村(牧村)が一週間の東北温泉取材旅行から帰社する。ここで、早乙女宏美以外にもう一人別の女の声―ジュンコの口は動いてゐないし、田口あゆみの声でもない―でお帰りなさいが聞こえるのは、舌の根も乾かぬ内におかしかないか?『女性ファイブ』誌の特集「この秋あなたは足美人」を抱へるジュンコは、別の仕事もあるだとかで足美人の方は事実上周囲に丸投げ。涼音えりかは、そんなこんなで取材費から乏しく難航するモデル選びに、カズコが連れて来るユミ。その実は、男が出来たカズコが捨てた格好の元カレ的な元カノ。時折攻守交替しつつ、基本SのユミがMのカズコを責める間柄にあつた。
 その他それらしき登場人物は、河村が街行く女々の足を眺める。だけのことにのんびりと三分弱を費やす中盤の荒業中、マネキンの足を抱へショー・ウィンドウの前を画面向かつて左から右に横切る男と、こちらは二言の台詞も与へられる、終盤終に河村がマネキンの右足を特注する業者。出来栄えが全然違ふので、その際に取らせて貰つたジュンコの足型を使用したものか否かは不明、何れが高橋良二で残りが中村伸次なのかも特定出来ない。
 ショック映画風のさういふ幕の引き方もなくはないともいへ、起承転結でいふと転部近辺でバサッと映画が断裁されてしまつた印象が強い「緊縛 鞭とハイヒール」(主演:竹村祐佳)の二作後に、jmdbによるとシリーズ作が存在するといふので続篇かと見てみた、北川徹(=磯村一路)昭和60年第三作。磯村一路に関しては一般映画は一本も観たことがなく、北川徹名義のピンクも今回でほんの三作目につき、ひとまづ平然と通り過ぎる。してみたところが、結論からいふとジュンコの苗字が水沢であることと相変らずな早乙女宏美の仕事ぶりを除けば、清々しく全く別の物語。簡単にいへば、中途の話の続きを期待したのは勝手な早とちり乃至は勇み足でしかなかつた訳だ。それはそれとして、あるいはとはいへそれ以前に、相当に頓珍漢な一作。ジュンコが自分の企画を概ね他人に任せ、己は事務所でオナニー三昧だなどといふ間抜けな展開も大概ではあるものの、致命傷は河村が次第に女の足―だけ―に囚はれて行く過程よりも、ユミとカズコが文字通り狂ひ咲かせる百合が断然尺を喰ふ、進行をスッ飛ばされたドラマの底を抜く自縛もとい自爆配分。元新題とも本篇とのフィット感が申し分ないことをさて措くと、虚ろでショッキングなラストはそれなり以上に鮮烈ではあるのだが、所詮は木に接いだ竹。女の足で幕を開き女の足を追ふ男で幕を締めながら、間は基本一面の百合畑につき、一体何をしたい映画なのだかサッパリ判らない。もひとつ忘れてた、ジュンコは不在の中、加藤がファインダーを覗き撮影するグラビアが、単車に跨つた、積木くずしなパーマと化粧のユミ。だから女性誌だろがよ、無防備なこの辺りの感覚のダサさもどうしやうもない。三作限りに於いては未だ然程どころですらなく成程と唸らされる決定力にはお目にかゝれず、北川徹改め磯村一路に関しては、上手いこと出世したんだらうなといふ印象しか今のところない。


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