真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「闇のまにまに 人妻・彩乃の不貞な妄想」(2009/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:友松直之/原作:内田春菊『闇のまにまに』/企画:衣川仲人/企画協力:石橋健司・赤荻武・遠藤祐司・住田陽一/プロデューサー:池田勝/キャスティングプロデューサー:灘谷馨一/撮影:飯岡聖英/編集:酒井編集室/助監督:躰中洋蔵・林雅之・小島朋也/撮影助手:宇野寛之・宮原かおり/音楽:大友洋二/効果:山田案山子/ヘアメイク:江田友理子/スチール:山本千里/特殊造形:西村映造/VFX:鹿角剛司/タイミング:安斎公一/挿入曲『粉雪』 エンディング曲『花』作詞・作曲:琴乃/制作協力:幻想配給社/企画協力:CINEMA-R・SODクリエイト/出演:琴乃・うさぎつばさ・坪井麻里子・山口真里・里見瑤子・竹本泰志・如春・貴山侑哉/特別出演:内田春菊)。因みに総尺は七十分。最初にお断り申し上げておくと、原作の方は怠惰に未読である、悪しからず。
 対ピンク上映館仕様か、御馴染み新東宝カンパニー・ロゴにて開巻。彩乃(琴乃)のシャワー・シーン、彩乃は別に気付いてゐない風だが、判り易いおどろおどろしさを予兆させる演出と共に彩乃の裸の右肩には女の左手が添へられ、今時Jホラーのクリシェともいふべき、ざんばらな黒髪を垂らし薄汚れた白の肌着一枚の女(坪井)が、浴室を覗く。女の左手は、無惨に切断されてゐた。
 彩乃と夫・溝口健司との生活は、冷え切つてゐた。ここで、新東宝が公式サイトとフライヤーにて堂々と仕出かしてしまつてゐるのは、健司役は今作の原作者・内田春菊との実生活に於ける関係も伝へられる貴山侑哉、ではなく、如春である。何と大らかな世界か、といふかピンク的には全く馴染みの薄い貴山侑哉は兎も角、井上如春の顔くらゐ誰か覚えておいてやれよ。健司は脱サラして起業するも失敗し、再就職を果たしたものの苦しい生活の為に、彩乃も英会話教材を販売する、USAプラザの電話勧誘員として働いてゐた。健司に話を戻すとこの如春といふ男が、例によつて弱いのも通り越して殆ど憎い。いはゆるギャル男の範疇にギリギリ片足を突つ込んでゐるのかも知れないが、背が高くなければ直截にいへば小太りで、首から上も決してハンサムといふ訳ではない。即ち凡そ魅力といふ言葉からは遠い如春が、どういふ訳だか勿体ない程の美人である琴乃―全体のスタイルとしては、首から上が少々大きいが―の旦那でしかも邪険に扱ひ倒すなどといふのは、些かならず画としてシークエンスが通らない。いや増して腹立たしいばかりである。度々他愛もない妄想に駆られながらも日々電話を受ける彩乃は、前任者が放置した女の家に、資料を届けに出向くことになる。何事か明確には語られないが不気味に荒れた集合住宅の一室、玄関からそこだけ覗いた女の美しい左手に、彩乃は魅せられる。
 映画初出演にして当然初主演といふ琴乃を巧みにサポートし、今作裏MVPともいふべきさりげない活躍を見せる、それはさて措き妙な長さの長髪の竹本泰志は、USAプラザの二枚目トップセールスマン・西條。この西條の髪型が超絶に微妙で、誰かに似てゐるやうな気がしてゐたのだがフと辿り着いてみると竹本泰志が山本圭に、あるいはハンサムな押井守に見える。慎ましやかな八面六臂を披露する山口真里は、彩乃のやうな綺麗な妻が居るにも関らず、アホンダラの健司がうつつを抜かすエロ動画の女。ジゴロ営業も噂される西條が、彩乃の妄想の中でオトす主婦。現実のUSAプラザカウンターにて、西條が応対する主婦、の三役を華麗に兼任する。後ろ二つはほぼ同じキャラクターともいへるが、全く別個の役で、二つの濡れ場をこなしてみせたアクロバットは地味に特筆すべきであらう。うさぎつばさは、USAプラザで彩乃の右隣に座る、霊感はあるが営業成績はからきしのテレオペ板倉佳子こと通称イタコ、狂言回しを担当する。里見瑤子は、焦点を当てられて顔が抜かれるのはワン・カットのみのUSAプラザ社員。里見瑤子はUSAプラザの背景に見切れるに留まり欠片も脱がず、三人目の脱ぎ役は、うさぎつばさが担当する。そして貴山侑哉の正確な配役は、浮気した妻・友梨(二役ではなく坪井麻里子)を殺害後バラバラにした赤城圭一である。
 近くは城定秀夫の「妖女伝説セイレーンX」や後藤大輔の「新・監禁逃亡」(二作とも2008)と同趣向の、新東宝製作による成人映画とはいへども厳密には非ピンク映画である。ここで友松直之が何とかオーピーにも滑り込めれば、既にサイバーパンク・ピンクの大傑作でクリアしたエクセスと三社全てに渡つての、三冠王が達成されるのだが。尤も話を今作限定に戻すと、兎にも角にも根本的に奇異に映つたのは、友梨の幽霊が何の接点も全く無い内から、何故か初期設定として彩乃の周囲に出没してしまつてゐる点。妖怪ならばさて措き幽霊譚といふのは、さういふものではないやうな気がするのだが。最低限度ではあつても、せめて何某かの因縁が必要なのではなからうか。そもそも、友梨殺害時点から、彩乃が赤城家を訪問したのと圭一が友梨の遺体を解体してゐたのが同時刻ならば、冒頭のTVニュースとの間に矛盾を生じる。加へて彩乃の妄想癖と友梨幽霊との親和度も低く、何が何だか藪から棒に、迎へた無体な結末に呆気にとられてしまつた、といふのが率直な感触である。ところがこれが他愛なく空振りしてしまつた純然たる失敗作なのかといふと、必ずしもさうとは限らない辺りが、ジャンル映画あるいはプログラム・ピクチャーの面白いところ。中盤を成人映画として一手に支へる、西條を相手に溺れる彩乃の昼下がりの情事が展開としては兎も角、絡みとして非常に充実してゐる。冒頭のシャワー・シーンに際しては硬さも感じさせつつ、竹本泰志の好リードにも助けられたか、堂々とした濡れ場を展開してみせる琴乃が拾ひもの。拭ひきれないちぐはぐさと唐突さとは色濃く残るものの、裸映画としては意外と頑丈に成就を果たしてみせた快作である。チラシにはぬけぬけと“エロティック・ホラーサスペンスの問題作”とあるが、風味としてすらホラーとサスペンスに関しては、世辞にも褒められたものではないのだが。あるいはそこが問題なのか。

 特別出演の内田春菊はラスト・シーン、矢張りカウンターで西條が応対する主婦。ここの原作者のカメオぶりは、素晴らしくスマートであつた。

 間の抜けた付記< 「老人とラブドール」と今作との間に、友松直之はオーピーでも一作発表してゐる。「わいせつ性楽園 をぢさまと私」(二月末/未見)、既に栄えある三冠王は達成されてあつた。まるつきり、ウッカリしてゐた   >直せよ


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