真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ロリータ いけない戯れ」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:柳田友貴/照明:内田清/編集:金子編集室/助監督:細山智明/音楽:OK企画/脚本:水谷一二三/演出助手:石崎雅幸・羽山陽子/撮影助手:古谷巧/照明助手:山田隆/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:伊藤清美・大島ありす・佐原裕子・武藤樹一郎・久須美欽一・川倉慶三・三条まゆみ)。恐ろしく中途半端な位置にクレジットされる脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 原宿駅の駅舎にビートの利いた劇伴起動、竹の子族を捉へた画にタイトル入るまでが八秒、文字通り秒殺の開巻が鮮やかに決まる。クレジットに連動して雑踏の中に伊藤清美登場、ナンパ師の大学生・マスオ(川倉)に声をかけられた女子高生のマコ(伊藤)が、待ち合はせをしてゐると断ると一旦マスオは潔く退く。合流した同級生のサトミ(佐原裕子/一番可愛いのに濡れ場レス)は、男を知らないマコに家庭教師とのニャンニャン自慢。一応お断り申し上げておくと、この期に性交渉を称して“ニャンニャン”といふのは、あくまで劇中使用される用語、ないしは当時の風俗に従つたものに過ぎない。サトミに渡された、家庭教師との淫行を録音したテープ―何を考へてゐるのか判らないほどにフランクである―を姉のウォークマンで聞いてみたマコがオナニーに耽つてゐると、当のOLの姉・ユリ(三条)が、恋人の川合(武藤)を連れ込み帰宅。妹が部屋に潜んでゐるのも知らず、奔放にオッ始める。サトミは家庭教師とニャンニャンしてゐるにも関らず、自分は未だバージン。姐さんも姉さんでとあれやこれやにくさくさして原宿に行つたマコは、再会したマスオに再び声をかけられるや部屋までホイホイついて行く。
 さうでないと物語が進行しないともいへ、マスオが一度オトした女には棹の先も乾かぬ内に金を無心する、清々しいダニ野郎。配役残り久須美欽一は、呑むマコもマコなのだが、あらうことかマスオが捕まへてマコに取らせる客・立花。大島ありすは、マコ基準でマスオ最低二股相手のトルコ嬢・美沙。シックスナインの、引き締まつた背中から入るファースト・カット、小ぶりながら形のいいオッパイ経由で辿り着いた面相がいかりや長介ソックリなのは、ある意味的確なカメラ・ワークだと感心した。
 大雑把には前世紀末までの二十余年が和久時代、目下も伊豆映画の巨匠として健在ぶりを誇る小川欽也の、和久名義による昭和59年最終第十作。今後オーピーが新たなる弾を投入して呉れれば―小屋ならばなほさら―大歓喜するところなのだが、現状、DMMで見られる今上御大最古作にあたる。と筆を滑らせかけて、姿良三名義の「谷ナオミ しびれる」(昭和53/脚本:神田明夫/主演は勿論谷ナオミ)が入つてゐるのを思ひだした。映画の中身に入る前に、トメに座るは昭和55年から八年間大蔵に専属し、殊にこの頃の小川組には出てゐないことがあるのかとすら思はせる、昭和のビッグスター・三条まゆみ。といつてほぼ初見の三条まゆみの、三十年越しの節穴を通した印象はといふと甚だ申し訳ないが華が欠片も見当たらず、さういふいはゆる“隣のお姉さん”的な風情がウケたのかも知れないが、この人が築いた、あるいは小屋に客を呼んだ時代は正直全然ピンとは来なかつた。
 改めて見てみると若い頃から結構出来上がつてゐた伊藤清美も伊藤清美で、アイドル的人気を博してゐた歴史に対しては矢張り理解に難くもありつつ、これ以上無駄に敵を増やす与太はさて措き、女子高生がナンパされた大学生に客を取らされる。結構どころか大概シリアスな状況にも思へるものの、三度目のセックスにして覚えの異常に早いマコは、立花からマスオに支払つた金額とは別に小遣ひも貰ふとケロッと御満悦。ここで呆れるなりツッコミを入れるのはまだ早計、もしくはこれでも早計。三番手の絡みを通してマスオに幻滅したマコが、無断外泊を繰り返す一時的な不良状態から更生するのはそれなりに手堅い落とし処かと思ひきや、問題は依然四分の一残す尺。例によつて原宿にて再会した立花に、マコが監禁されるに至る出し抜けにエクストリームな終盤には度肝を抜かれたが、斯様な展開に突入してさへ暗くならない曲芸じみたドラマツルギーにはなほ驚いた、これこそ正しく逆に凄い。立花宅を適当に脱出したマコが達する結論が、“世の中には色んな人がゐるんだなあ”だなどとどうでもよさがイエローストーンの間欠泉の如く迸るラストの今と全く変らない底の抜けた大らかさは、小川欽也が早くに完成されてゐた事実を物語る。コラコラ誰だ、要はまるで進歩してゐないんだなとかいつてゐるのは。


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