真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「義母かあさんと半熟息子」(2005/制作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:周知安/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/制作担当:榎本靖/助監督:加藤義一/監督助手:髙田宝重/撮影助手:梶野考/撮影助手:中村拓/録音:シネキャビン/協力:報映産業、東映ラボ・テック/出演:出雲千尋・里見瑶瑤子・持田さつき・佐藤広佳・なかみつせいじ)。出演者中、里見瑤子がポスターには里見瑶子。恐らく現像が脱けてゐる、間抜けなクレジットは本篇ママ。そして脚本の周知安は、片岡修二の変名。
 開巻、カンパニー・ロゴ時から何やら妖しげな薄つぺらいSEに乗せ、「アァ~、オォ~」と尋常ならざる嬌声が劇伴代りに木魂する。何事かといふと、浪人生の倉田雄一(佐藤)が受験勉強もそつちのけに、勉強机の傍らに置かれたテレビで洋ピンにうつゝを抜かす、渋い浪人生だ。そこに、若く魅惑的な義母・由美子(出雲)がお茶なんか持つて来て呉れる。勉強の中身を覗き込む、由美子の悩まし過ぎる胸の谷間にカメラが寄ると、雄一はこの上なく判り易くドギマギする。オープニング・シークエンスとしては、完璧の向かう側まで完成されてゐるといはざるを得ない。量産型裸映画といふのは、かういふものを指すのだと思ふ。
 典型的な家父長制父親像を独走する―単に独りで走る、の意―武志(なかみつ)の後妻として由美子は結婚、家族は他に、新しい母親として家庭に現れたさして齢も違はない由美子に対し、母とは認めず激しい敵意を顕にする雄一の姉・涼子(里見)。
 主演の出雲千尋、遠くからキョトンとこちらを見やるやうな、いはゆる小動物系の可愛らしいルックスながら、同時に成熟した大人の色香も漂はせ、肉感的な肢体はもう、申し分ないとしかいひやうもない。主力装備が強力なピンク映画は、よしんばそのピンクといふ縛りを外したとて、それ以降余程舵取りを誤らぬ限り、その時点での勝利が半ば保障される。
 洋ピン好きといふ設定に恐ろしいまでに欠片も意味はないが、若く美しい義母に直線的な劣情を抱く弟。義母に向けられた顕な敵意は、弟への愛情と合ひ混ざりしばしば禁忌すら犯しかねない姉。家庭の全ては妻に任せきりで、自らは外に女を作りもする父親。十重二十重に取り囲まれた義母母さんがやがて半熟息子と一線を越えてしまふ物語は、実はさりげなく充実してゐる。ひとつひとつ積み上げられて行つたものが、終に峠を越える構成は何気に手堅い。映画の四番打者をガッチリ果たす出雲千尋に加へ、続く五番で、佐藤広佳は単に役柄に即してゐるといふだけで基本的には心許ない中、受けのキャラクターの出雲千尋も向かうに回し、展開の牽引役を着実な馬力を以てして堂々と果たす里見瑤子が逞しい。出雲千尋の強さはいはば素材としての強さにつき、技術論的には、真の勝因は里見瑤子に帰せられるのが相当であるのやも知れない。出雲千尋が銀幕から小屋中に放散するいやらしさも満点に、無駄に前に出て来るでなくとも、完成度の高い商業ピンクの佳篇である。実は登場人物の全てが、玄関先を除くと一歩も屋外に出でないといふ省力設計も清々しい。
 持田さつきは武志の浮気相手・吉岡良美。武志が家に帰れば出雲千尋がゐるにも関らず、何故持田さつきを外の女に作らなければならないのかといふ、至極全うな脊髄で折り返した疑問が解消されはしないのだが、武志から突かれる良美が、両の乳首を自ら摘み悶える演出ならぬ艶出は、地味に的確な一手と評価したい。論理的なプロフェッショナルの仕事といふのは、さういふ一手一手を積み重ねて行くものなのであらう。

 唯一の難点は、終に一線を越えるに至る導入で由美子が雄一らの母親が残した着物を着る件に於いて、着付けがあんまりなところくらゐ。良美との会話の中、武志が前妻とは死別した訳ではなく単に離婚したに過ぎない筈なので、となると、どうしてその女の着物が未だ家に残つてゐるのか?といふ疑問に関してはさて措く。一線を越えた由美子と雄一が、峠越えの力学に身を任せるまゝに、都合よく涼子も一人暮らしを始め家を出たところで二人きりの昼下がり、浴室にて恣な情交に溺れるラストは、ヤリたいやうにヤリ抜いてゐる感じが実に素晴らしい。オッパイを揉みたいから揉む、男根を咥へたいから咥へる。そこに描かれる情景をひとつの理想郷だなどといふてのけては、年の瀬にいゝ齢もして、些か呑気に過ぎるかしらん。
 雄一が、由美子の入る手洗ひに聞き耳をそばだてる一幕。排泄の喜悦を異常に尺もタップリ使ひ丹念に描くのが下元哲といふ人の持ち芸である点に、この期に及んで気づいた。


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