真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「浴衣妻の興奮 我を忘れて!」(2002『三十路浴衣妻 からみつく』の2009年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:佐々木乃武良/脚本:奥渉/撮影:創優和・佐藤文男/照明:野田友行/助監督:奥渉/監督助手:城定秀夫・小島健太郎/撮影助手:宮永昭典/照明助手:藁部幸二・山本真吾、他一名/ヘアメイク:パルティール/制作担当:佐藤文彌/出演:結城マリア・葉月螢・ゆき・坂入正三・千葉誠樹・なかみつせいじ)。
 澄子(結城)は夫・漆原康彦(坂入)が経営してゐた会社を潰してしまつたため、母親の没後六年間放置してゐた実家に越して来る。開巻から目を引くのが、兎にも角にも主演女優。よくあることではあるがエクセスの作るポスターは販促物のくせにどうしてかうなのか、漫然としたポスター写真は馬鹿にしてゐるのかとさへ思へるくらゐに、実際にスクリーンの中で動く結城マリアが何となく譬へるならば松嶋菜々子にも似た、結構高レベルの正当派美人。松嶋菜々子が、正当派美人の範疇の中に含まれるのか否かに関してはどうやら議論も分かれてゐるやうだが。加へて、ブラウスを超絶に悩ましく盛り上げるオッパイの大きさも申し分ない。何はともあれ、以降に対する期待が膨らむところではある。失業以来すつかり不貞腐れ無気力な康彦が、片付けも手伝はずに家を空ける中、澄子は古箪笥に懐かしい浴衣を見付ける。袖を通すべく澄子が裸になつたタイミングで、麗し過ぎるタイトル・イン。何事か込入つた様子で公衆電話をかける康彦の姿に、通りを挟んでゆきが目を留める。
 その夜の漆原家を、澄子の同級生の美子(ゆき)と、美穂の夫で、澄子にとつても剣道部の先輩である皆川明(千葉)とが訪ねる。澄子の結婚式には赤いドレスで出席した美子が、日中見かけた康彦の顔を覚えてゐたのだ。高校時代、澄子と明は両思ひ成就寸前の状態にすらあつたが、マネージャーを務めてゐた美子に奪はれた形にあつた。来客だといふのにまるで陰気な康彦は早々に床に就き、近況を慮つた明の提案で、澄子は美子のパート先で働いてみることになる。
 ハンサム且つ卑劣な好色漢を好演するなかみつせいじは、そんな訳でのパート先、ビル清掃の(有)エバラビルサービス社長・江原敏雄。かつて吉田祐健と葉月蛍も情を交した男子便所を掃除する澄子に手を出しかけるが、何のことはない、美子とは以前から継続した関係を持つてゐた。そんな目に遭ひながらも女房が懸命に慣れぬ仕事に汗を流してゐるといふのに、何する気力もなく日がな縁側でタバコを吹かしてゐやがる康彦を急襲する葉月螢は、康彦の過去の不倫相手・美穂。康彦の子供を堕ろしたとかいふ難癖で、当然振る袖など欠片もない無心に訪れる。澄子は目撃した美子の不貞を、何かと気にかけて呉れる明に告げたものかどうか気に病んでゐたりなんかする内に、二人は焼けぼつくひに火を点けてしまひかねなくなる。
 腑抜けの癖に体だけは無闇に求めて来る始末に負へぬ夫と、パート勤務先でのセクハラとに苦しむ主人公。主人公が戻つた郷里で再会した高校の部活憧れの先輩は、今は同級生の夫だつた。ただその同級生は現在、夫を裏切つてゐた。結局待ち合はせの場所に何故だか主人公が行かなかつたものの、高校時代に一度は受け取つてもゐたラブレターに導かれるやうに、思ひ出の場所で再会した主人公と先輩は終に一線を越える。縁側で康彦にライターを差し出す美穂と、神社の境内で明にタオルを手渡す澄子の姿との類似は、そこにシンメトリーを発生させる要など別にない以上、単なる工夫の不足か。話を戻して男と女は、全てを捨てて駆け落ちる決意を固める。と、そこまでは新味の欠片もないとはいへ、結城マリアの強力な色気にも加速され水準以上のオーソドックスなメロドラマであつたのだが、(昼の)十二時に駅前で落ち合ふといふ約束が江原の横槍で無惨にも反故になつてしまつてからが、佐々木乃武良御乱心。殆ど悪趣味の領域で無体な目に見舞はれ続けた澄子が終に完全に壊れてしまふラストに至つては、映画本体も劇中主人公の辿る悲運と命運を共にする、といふか直接にいへば共倒れる。確かソープ・オペラであつた物語が気が付くとまるで豪快なサイコ・スリラーと化す展開自体がスラッシュな結末を前にしては、万歳とは百八十度真逆の意味にて、諸手を挙げるばかりである。

 ひとつ猛烈に解せないのが、淫具も駆使して江原が澄子を陵辱する、全体的なドラマが破綻してゐる以上桃色方面を差し引いても今作のクライマックスたる濡れ場に際して、何故だか急になかみつせいじが足を引き摺つてゐる点。それまでのシーンでは別に普通に歩いてゐたやうに思へるのだが、一体何があつた、あるいは逆に治つたのか?ともあれ振り切れた澄子の裸がふんだんに拝めるこの一幕に、観る側としてはこの際エモーションを一点集中するほかない。


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