真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「恥ぢらひ夫人 玩具で感じて」(1998『人妻交換 恥ぢらひ狂ひ』の2007年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:佐々木乃武良/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:天野健一/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/撮影助手:田宮健彦・鷹沢幸一/照明助手:藤塚正行・平井元/助監督:羽生研司・高田亮/製作担当:真弓学/メイク:塚本ゆき/タイトル:道川タイトル/出演:つかもと友希・柳東史・佐々木基子・葉月蛍・吉田祐健・杉本まこと)。葉月蛍の、略字表記は本篇クレジットまま。
 互ひに若い、竹本陽輔(柳)と妻・成美(つかもと)の夫婦生活、コンドームに手を伸ばしかけた陽輔は思ひ留まる。そろそろ、子供を作らないかといふのである。翌朝、子作りの機運も引き摺りつつ如何にも判り易くラブラブな風情で陽輔を送り出した成美は、俄かに表情を曇らせると、食器棚の中からピンク色の錠剤を取り出す。微笑ましい新婚家庭の情景から一転、暗く歪んだ情欲のドラマの幕開けを告げる、この転調は実に鮮やか。この映画は本気なんだなと、襟を正せさせられる。一人書類箱の整理に汗を流す陽輔は、一般職の塩崎舞(葉月)と部長の上原(吉田)とが、別棟の男子トイレへと消えて行くのを目撃する。何事かと、こつそり後を追つた陽輔は目を疑ふ。男子トイレでは、何と舞と上原がセックスしてゐたのだ。ピルを常用する舞に、上原は堂々と中に出す。一方成美は、プライベートでは家族ぐるみの付き合ひもある、陽輔の上司・田島宏樹(杉本)から、性奴隷として日々陵辱と調教との限りを尽くされてゐた。田島は仕事はどうしてゐやがるのだ、とかいふツッコミはひとまづ禁止だ。
 不気味な存在感と色気を醸し出す佐々木基子は、田島の妻・恭子。さういふ次第で、威力抜群な桃色の破壊力を誇るつかもと友希を恥辱のヒロインとして先頭に、何も知らず彷徨ひ込んだ淫獄に困惑する夫に柳東史と、部下の若妻を恣に虐げる邪欲の権化には杉本まこと。全ての仔細を冷静に見守るもう一人の人妻の佐々木基子に加へ、陽輔の指南役としても機能する、成美とは別の淫獄の主人公に葉月螢。加へて濡れ場要員すらもが吉田祐健とあつては、役者が揃ふどころの騒ぎではない。他の可能性が容易には思ひつかぬほどの、正しく完璧とさへいへよう布陣である。佐々木乃武良の丹念な演出は濡れ場の一幕一幕に、即物的なエロとして百点の充実をクリアした上で、なほそのことを超えた、一本の劇映画としての十二分な強度をも有せしめる。ピンクのバジェットを決して諦めない、多彩なロケハンも煌く。
 とはいふものの。単なるエクセス本流のエロエロ映画を超えた、娯楽映画のソリッドな傑作を佐々木乃武良がモノにし得たのかといふと、残念ながら、甚だ残念ながらさうはならない。下手にエロ映画を跨いでその先に一歩二歩と踏み出しただけに、却つて展開上の大穴が二、三際立つ。成美は心では何不足なく陽輔から愛され自らも心から夫を愛しながら、底に穴の開いた鍋のやうに、肉の欲は決して満たされることがなかつた。テレクラに狂ふ成美は、その弱味を田島につけ込まれ性奴に堕したものだつた、といふ前提の大胆な省略は、後に回収されることからも等閑視しようと思へばしてしまへるとしても。恭子が興信所の調査結果を下に、陽輔に互ひの配偶者同士の不貞を突きつける件は些か唐突で、何よりも肝心な筈の、成美と陽輔とが一旦は喪はれた夫婦の絆を取り戻す、舞が上原に抱かれた男子トイレを舞台にしたクライマックスの出来が宜しくない。ピークの一言が、成美は自らの破廉恥な不貞は凡そ許されないものと認めた上で、「でも、許して欲しいの!」といふのでは、調子のいいことこの上ない以前に、あまりにも台詞として未完成に過ぎる。よしんば成美にはさう叫ぶほかはないとするならば、今度は陽輔の側に、妻の抱へる女としての業を引き受けるとでもいつた描写が、シークエンスを成立させる手続きとして一手間二手間必要となつて来るであらう。数度挿み込まれる、陽輔の見る幻想シーンもいまひとつ熟(こな)れてゐない。映画としての完成に果敢に挑んだ分、余計に平素は目立たなかつたのかも知れない陥穽に目が留まつてしまふ、微妙に惜しい一本である。エクセス本流エロエロ映画としては、全く見事に満点の出来栄えではあるのだが。


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