真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「35才・人妻の色気 不倫熟」(1997『人妻35才 不倫の悦び』の2003年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:五代暁子/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/音楽:東京スクリーンサービス/助監督:瀧島弘義・小芦陸生/緊縛師:沼田尚也/出演:沢木杏樹・田口あゆみ・真純まこ・しのざきさとみ・仲原美樹・日比野達郎・池島ゆたか・杉本まこと・神戸顕一・愛川賢剛)。前年にデビューを果たした佐々木基子が、どういふ次第でだか別の名義で主演を飾つてゐる。
 夫婦の寝室、妻・美奈子(沢木)の求めに対し、夫の尚也(日比野)はまるで取りつく島もない。美奈子と尚也は、長くセックスレスの状態にあつた。むくれる美奈子を通し妻の欲求不満を下元哲は観客に的確に伝へ、沢木杏樹、といふか要は佐々木基子は情感豊かな芝居でその欲求不満が、フィジカルな領域に止(とど)まらぬことを明確に表現する。佐々木基子といへばいふまでもなく、「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000)のリカ(あるいは綾乃)役の超絶演技によつて、私の妄想の中では、映画女優ワールドカップに於いて決勝でアメリカのシシー・スペイセクと激突する日本代表である。これでこの人にもう少し色気があれば、普通に世間一般レベルでも時代にその名を刻めてゐたやうな気もするのだが。
 酒の席で上司の岸本(神戸)からも夫婦仲に関して釘を刺されても、尚也はまるで何処吹く風。夫に見向きもされず自暴自棄気味の美奈子は、置き薬の販売員・斉藤(杉本)に勧められた精力剤だか催淫剤だか(商品名は“LOVE HUNTER”)を飲み欲情するままに、昼下がりの居間で夫以外の男と寝る。一線を越えてしまつた美奈子は、糸の切れた凧のやうにアバンチュールに溺れて行く。
 田口あゆみは隣家のバツイチ、兼レズビアンのゆかり。バツイチであるといふことは、正確にはバイといふべきか。出番数もクレジット順も二番手ながら、実は水着以上には脱がない。美奈子の悦楽探求の指南役として機能する。能動的な女の側からの快楽の追求を積極的に説く辺り、まるで浜野佐知の映画のやうでもあるが、その点下元哲の映画は半面スマートで、半面馬力に欠ける。一見真央はじめかとも見紛つた愛川賢剛は、ゆかりの手解きで美奈子が逆ナンするジョギング青年・和彦。ハンサムなマスクと日に焼けた筋肉質を誇る若々しいスポーツ色男ぶりは、判り易いことこの上ない。男優サイドから見た、濡れ場要員の好素材である。
 ゆかりの誘ひで美奈子はサウナに行く。そのサウナは、ビアン達のハッテン場であつた。しのざきさとみと仲原美樹は、美奈子とゆかりが入つたサウナで見せつけるかのやうに大胆な本番―撮影上も本番、といふ意にはあらず―行為に挑むカップル。ここで、男顔の仲原美樹に対し美奈子とゆかりは当初男が入つて来てゐる、と見間違ふ前フリからするに、役柄上仲原美樹は両性具有なのである、と解したい。あれはペニパンだ、などといふ無粋な解釈は、あくまで排するものである。とはいへ、脚本にも演出にももう一押しが足りないこともあり、最終的にこの点は不明。仲原美樹はひとまづ措いておいて、佐々木基子と田口あゆみとしのざきさとみとが一堂に会した、十年前ながらに色々な意味での迫力に溢れた濡れ場。依然佐々木基子としのざきさとみは現役であることを思ふと、一層感慨深いものがある。
 下元哲が両性具有といふ案外見慣れない飛び道具を繰り出したのか否かに加へ、今作にはそのもう一押しが足りない箇所が実に目立つ。夫に蔑ろにされた妻が男漁りに走る。すると掌を返すかのやうに狼狽し始める愚かな男と、俄かに輝きを取り戻し始める女。さういふ枠組自体に関してはひとまづ兎も角として、展開と最重要の局面に於いて見流せない瑕疵が見られる。休日ゴルフに行く風を装ひ、尚也はシティ・ホテルで部下・エミ(真純)との不倫を楽しむ。サウナでの女四人の濡れ場を挿んで、続く二度目の岸本との酒席。いきなり尚也は美奈子のことを頻りに気に揉む、弱々しく愚かしい夫の姿に豹変してしまつてゐる。プリントの状態如何によつてはシーンひとつ丸々飛んでしまふこともピンクにはなくもないが、幾ら何でも展開が明らかに一足飛ばしである。
 尚也は岸本から入手した盗聴器で、美奈子の行動の監視を始める。美奈子が盗聴器の存在を逆手に取り、斉藤と台本片手に文字通りの一芝居を打ち、別れを偽装するシーンもサスペンス調の道具立てとしてはよく出来てゐるが、窓から室内を覗き見る尚也のショット、しかも泣きながら、が全てをブチ壊してしまつてゐる。一体美奈子は欺いたのか、尚也はまんまと欺かれたのか。締めの美奈子と尚也の濡れ場を、如何に受け取つたものなのかが全く判らない。完全に映画が宙に浮いてしまつてゐる。掌を返して妻への愛を押しつけ始める尚也に対し、美奈子が「勝手ね・・・」と一刀両断に斬つて捨てる(偽装シーンの)ひとつ前の件が見事な出来栄えなだけに、途中の重大な一足飛ばしは一旦不問に付すとしても、明らかに着地を仕損じたと難じざるを得ない。

 池島ゆたかはゆかりの店(?)の客で、熟練した責めを見せる高梨。この人の台詞回しは、最終的には棒読みであるやうな気がして来た、それが偉大であるのかどうかは兎も角。


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