真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「OL監禁」(昭和60/製作:株式会社ヴイ企画/配給:株式会社にっかつ/監督:加島春海/脚本:覚一生/企画:奥村幸士/プロデューサー:白井伸明/撮影:河中金美/照明:新井真/編集:菊池純一/音楽:ミス・オータニ/助監督:広西真人/出演:平瀬りえ・水島まゆ子・橘雪子《友情出演》・佐竹一男・高岡良平・後藤正人・三宅優司・小松鷹・室井ユキ・百瀬郁夫)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。音楽のミス・オータニは本篇クレジットより、各種資料に記載の見られる古山清とは一体誰なのか。
 何がそこまで酒に溺れさせたのか、バーで泥酔する良子(平瀬)は心配するマスター(小松)を振り切り店を後にすると、タクシーを拾ふ。タクシーの運転手・田口和宏(佐竹)は、酔ひ乱れる良子の姿態に目を奪はれる。終に我慢しきれなくなつた良子は車を止めさせると、車外に飛び出し、嘔吐する。良子に続き、田口もタクシーを降りる。田口はただ介抱しようとしただけのつもりであつたが、田口の様子に恐れをなした良子は逃げる。田口は衝動的に良子を追ふと、行き止まりに追ひ詰め、良子を犯す。次の日、田口は良子が車中に残したハンドバッグから勤務先を突き止め、仕事帰りの良子を待ち伏せる。田口は良子を強引にタクシーに押し込むと、自宅に連れ帰り、監禁する。職を転々とする内に、田口は妻子に逃げられてゐた。良子は良子で、幼少時に父が再婚した継母(室井ユキ/声のみ登場)とは折り合ひが悪く、血の繋がらぬ妹・美也子(水島)には婚約者の忠彦(高岡)を寝取られたところであつた。偶さか世界の片隅で出会つてしまつた、互ひに居場所をなくした男と女。さうとも知らず男は女を犯し、監禁する。即物的に歪んだままに、小生の如き即物的に歪んだ輩にはその通貫する暗いビートが心地良くもある、買付け系ロマンポルノの一作である。
 80年度にっかつ新人女優コンテスト一位に輝き、といふ経歴が当時として実質的に如何に評価したものなのかといふ点に関しては最早潔く与り知らぬが、その割にといふか何といふか今作が二年ぶりの映画出演にして、主演作は唯一となる平瀬りえ。簡単にいふとお魚系のルックスは今世紀の目から見るとリファインの余地を大きく残しはするものの、モデル出身、空手の有段者とかいふ肩書きは全く伊達ではなく、スペックの高さを感じさせながらも同時に女性美も兼ね備へたスタイルは抜群。改装中のマンションであることにもつき、昼間でもカーテンを固く閉ざした暗い田口の部屋の中にて、両手両足を拘束された上で延々と繰り広げられる陵辱には、ドス黒い迫力が満ち溢れる。とはいへ部屋の中に篭り放しでは、映画は事済まない。良子の逃亡を恐れ田口は仕事にも出なくなり、差迫る生活の困窮に、田口は良子の身代金を要求することを思ひ立つ。ところが良子の継母は、あつさりと良子といふ娘の存在すら否定する。形式的な内実は異なれど、自らにも似た良子の来し方に愕然とする田口に、良子は自ら美也子の誘拐を働きかける。ところからの展開は些か以上に陳腐、かつ粗雑。「私、こんな生活でも良かつたのに・・・」といふ良子が引絞る台詞で締められるラストは、絶望的とでもいへば聞こえはいいものの、物語を上手いこともう一段押し上げ切れずに、中途で投げ出してしまつた感が強く漂ふ。序盤中盤をドス黒いビートの一点突破で押し切つたまでは良かつたが、そこから先一番肝心の、一体如何にその物語世界を収束させ得るのか、といつた段には必ずしも、といふか明らか寄りに成功を果たせず仕舞ひの限りなく惜しい一作である。結局は最悪の形で、暗い部屋より一歩も何処へも歩み出で得なかつた。ならばいつそのこと、閉ざされた部屋を二人だけの楽園と看做す如きの倒錯の方が、歪むにせよ歪み抜いただけでも、まだしも一欠片の突破、乃至は天晴な潔さといへたのではなからうか。

 本篇クレジットでは友情出演、ポスターには特別出演とされる橘雪子は、回想シーンに登場する田口の妻・幸恵、紛ふことなき重戦車。正直、出て来て呉れなくとも構はなかつた。良子が美也子に忠彦を寝取られる件といひ、回想シーンに入ると途端に照明を強く当て焦点は柔らかくなる撮影は、判り易いといへばこの上なく判り易い。後藤正人と三宅優司は、良子を拾ふ前に田口が乗車拒否する性質の悪さうな酔客。酔客は、三人連れであつたやうな気もするのだが。百瀬郁夫が特定不能ではあつたが、新日本映像―エクセス母体―の公式頁によると、巡査役らしい、何処に出て来たのだかよく判らない。
 本質が宿るのか否かは兎も角細部、田口の煙草はショッポ。ショッポが似合ふ、肌触りの映画ではある。


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