真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢ストーカー 狙はれた美人モデル」(2001/製作・配給:新東宝映画株式会社/監督:藤原健一/企画:福俵満/プロデューサー:寺西正己/撮影:中尾正人/照明:東海林毅/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/音楽:川口元気/現像:東映化学工業/スチール:山本千里/メイク:横瀬久美子/制作主任:中村和樹/撮影助手:田宮健彦/照明助手:吉田誠二郎/パソコン画面:Freeks/協力:中山潔・愛染恭子・室賀厚・松嶋正樹・大将軍・大西裕・長谷川千夏・こばぴょん・ファントムラインジャパン・ファン・幻想配給社・ライトブレーン/助監督:石川二郎・斉藤一男・斉藤勲/制作協力:フィルムワークス ムービーキング/出演:沢木まゆみ・亜村佳史・西野美緒・中川真緒・河内正太・土田良治)。藤原健一の筈の脚本が抜けてゐる他、あちこち不自然な箇所は本篇クレジットに従ふ。表記自体は何もおかしくはないが、この順番で助監督が来るのも非常に珍しい。
 重村佳史と中川真緒の絡みで開戦、リアルタイムでm@stervision大哥は土田良治が真田広之に似てゐると書いてをられるが、今の目で見ると重村佳史も結構堤真一に見える。女は二人の逢瀬がその日で最後であることを惜しみ、男にとつて新しい仕事が入れば終りとなることは、初めから決めてゐたことだつた。四分弱費やし正常位→騎乗位→対面座位、再び女が上に乗る騎乗位へと華麗に移行。三番手の濡れ場を開巻に消化する奇襲作戦に加へ、巧みに互ひの、特に男の立ち位置に関する情報を練りこむオープニング・シークエンスがピンクで映画なピンク映画的に実に秀逸、先制は鮮やかに決まる。事後、「夢幻堂探偵社」の矢野彰一(重村)は夢幻堂公式サイトをチョコチョコ弄り、木下沙織(中川)が矢野の次なる標的で女子大生モデル・新庄道世(沢木)のファイルを勝手に触る。所変り雨中の張り込み、道世を送つた所属プロダクション社長の小川雅也(土田)が車中でキスを交し、その模様を矢野は撮影する。矢野が音声も拾へる仕組みがよく判らない、割愛した事前に盗聴器を車載させたのか?矢野は動画を、小川の妻で依頼人の緑(西野)に見せる。後半口に上る劇中用語によると矢野は“ホスト探偵”、対象となる女を寝取り依頼者の望まぬ関係に終止符を打つ、要は別れさせ屋であつた。緑が捌けたところで、吃驚するくらゐにショボいタイトル・イン。カメラマンに化けた矢野は道世のヌード写真の嘘企画を、小川の事務所に持ち込む。2001年当時の自分の感覚を覚えてはゐないが、さういふアプローチの仕方には、直截にトレンディな底の浅さを覚えぬでもない。大体が、名前の通らない人間の企画に、何処の事務所が金の卵を任せるんだ?兎も角、小川は時期尚早とNGを出すものの、何故だか道世は矢野が仕掛けた揺さぶりにケロッと動揺する。一方、番号を変へても辿つて来る、部屋にまで侵入してはオッカナイ血文字を残す。妙に高機動なストーカーの影に、道世は怯えてゐた。
 m@stervision大哥が五つ星をおつけになつた、藤原健一ピンク映画デビュー作。因みに藤原健一の純然たるピンク映画といふのは、今作とPINK‐Xプロジェクト第三弾でもある次作、「につぽん淫欲伝 姫狩り」(2002/主演:西村萌)の意外と僅か二本である。新東宝がここから本道回帰路線に振れることはまづ考へ難いゆゑ、断定しても問題あるまい。m@ster大哥に弓引くのは野蛮な勇気を要するが、器用にも天涯孤独を二枚揃へた在り来りなミイラ取りがミイラになる物語に、然程の魅力は感じない。世界と正対することを拒み、女を喰ひ物としか捉へてゐなかつた矢野が、“一人ぼつちでも、夢を持つて生きてゐる”道世との出会ひに感化され始まるロマンスだなどと、小癪、あるいは惰弱といふ感触しか覚えない。曲がつたものは曲がつたまゝ生きるのも、ひとつの真直ぐな生き方といへるのではないのか、私は常々さう思ふ。さういふ単なるへそ曲がり自慢はさて措き、実際に矢野による道世の撮影に突入する段、道世がテレーッと自転車で走つて来る最初の画の間抜けさや、初めてのキスの口火に、スタジオ気取りの夢幻堂のクーラーが効き過ぎで手の悴んだ道世がブラウスの釦をかけられない、といつた不自然さには、如何にも藤原健一的な脇の甘い無造作さも看て取れる。小川のお人形さんであることに疑問を懐き始めた道世が、虚ろに見やるのが鉢の中の金魚といふクリシェのどうしやうもなさは、殆どギャグにしか見えない。ところが、志賀勝ばりの渋い凄味を匂ひ立たせる河内正太が、劇中最強を誇る、そして二人目のミイラ取りとして飛び込んで来る辺りで始終がグッと締まる。とはいへ、ここに室賀厚が協力してゐるのか、無理出来ないぶりが涙ぐましいカー・アクションと大雑把な修羅場との間に挿まれた、道世と矢野の平板なクライマックスは矢張り生温い。ものの、締めの二幕、殊に一幕目が抜群に素晴らしい。男と女の後日譚を、もう一人の女も絡めて素敵に纏め上げるスマートな作劇の、さりげなさをも含めてなほさら一撃必殺の決定力には全力で惚れ惚れした。オーラスの数カットの他愛なさは蛇足臭を爆裂させつつ、完成された冒頭と洗練された幕引き際が鮮烈な印象を残す、都会の恋愛映画の秀作。となると今作に於ける真のMVPならぬアクトレスだからMVAは、実は中川真緒だ。


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