真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「家庭教師と未亡人義母 ~まさぐり狂宴~」(2011/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:江尻大/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/音楽:與語一平/助監督:江尻大/撮影助手:平林真実・吉川千園/監督助手:布施直輔/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/バンド演奏:Key. 八巻祥一 Ba. 小川倫広 Dr. 與語一平 Gt. 藤田満/協力:しじみ・羽生研司・宮永昭典・Blue Forest Film/出演:鮎川なお・有沢実紗・藍山みなみ・津田篤・柳東史・北川帯寛・なかみつせいじ)。強力に羽生研司!?久々に見た名前だ。
 みさと市立亜成高等学校野球部、コーチから昇格した現監督・上原達也(柳)と、同校の女子生徒・永作寛子(藍山)の情事。それを上原宅の隣に住む、野球部出身で、現在は非大絶賛大学受験五浪生の田中克巳(津田)が覗く双眼鏡のショットを挿み、外から抜いた画で後ろから突く上原にベランダのガラス戸に押しつけられた、寛子のオッパイを押さへるのは全く麗しい論理。出歯亀に熱中する克巳がフと気がつくと、部屋には野球部の同期で、今は保険外高マンの富田ヒロシ(北川)が勝手に上がり込んでゐた。本来は俳優部ではなく演出部と思しき北川帯寛は、快活なルックスは申し分ないと同時に、お芝居はといふと清々しく心許ない。克巳は、高三の夏を回想する。父親で当時監督―上原がコーチ―の幸造(なかみつ)のサインを克巳が見誤り、結果チームは負けた。後日父子のキャッチボール、幸造は克巳に、大学に入つても野球を続けるやう希望する。その二ヶ月後、幸造が死去した旨を克巳のモノローグで告げてタイトル・イン。
 際限がなくなるゆゑ、登場順に配役の形で整理すると、有沢実紗は、克巳の入浴中にも平然と風呂に入つて来たりする、羨ましい限りのフランクな幸造寡婦・康子。幸造の後妻にあたり、克巳と血の繋がりはない。実は何時の間にか富田と男と女の仲にあり、後々実は実は、そのことを克巳には勘付かれてゐた。克巳の道ならぬ恋情ないしは劣情が、描かれるでは特にない。怠惰極まりない浪人生活を送る、克巳に引き摺られる格好の袋小路に積もらせた鬱屈を、康子は終に露にする。
 協力勢から見切れるしじみは、劇中TVニュースに登場する、頻出する女子高生失踪事件の被害者・山田志染、そこはせめて詩染にでもしてやれよ。矢張り亜成高校の生徒で、女子高生ユニット・JKS69のメンバーでもある。
 申し訳ないが、何度観ても動画だとどうにも目つきに難の感じられる鮎川なおは、康子が克巳の家庭教師に招聘した、克巳らの同級生で、現役大学院生の砂原里美。見違へるほど美人になつたが高校当時は激しく不細工であつた、といふ無理のある設定を説明するために、わざとボサボサのおさげ髪は兎も角、露悪的な瓶底メガネを使用するのは今更なクリシェに閉口する以前に、世界の摂理に唾する大罪である。里美が初めて克巳の部屋に足を踏み入れた際、折悪しく克巳は自慰の最中であつた。表情としては喜んでゐる風にしか見えないが、「イヤ~ン」といふ声とともに里美に銀の紙吹雪を舞はせてみせるのは、鈴木則文から継承した加藤義一爆裂するポップ・センス。
 何のかんのといひながらもジョギングと素振りは続けてゐたりする克巳は、里美来訪に少し先駆けて、腰を痛め車椅子の生活にあつた。女体といふ人参をぶら提げられ、ひとまづは受験勉強の進む日々。克巳は里美がゐる中でも、上原家を窺ふ日課は止めないでゐた。そんなある日、ただならぬ刃傷沙汰の雰囲気に、克巳と里美は緊張する。尤も、直ぐに何事もなかつたかのやうに、事後服を着る寛子の後姿が窓越しに見えた。とはいへ更に後日、JKS69の代表曲「女装子のキモチ」―何て曲なんだ―を聞き、観客目線では見え見えの上原のトリックに漸く辿り着いた克巳は、自身は身動きが取れない以上里美と富田の力を借り、上原の正体を暴くべく“上原達也の、女子高生失踪事件の真相は何処ぢやろな作戦”を敢行する。
 動きの封じられた主人公が覗く、隣人に重要事件への関与が疑はれるところから風呂敷が拡がるサスペンス。といふと世間一般的に記憶に新しく、個人的にも一般映画なのに奇跡的に観てゐた「ディスタービア」(2007/米/監督:D・J・カルーソ/主演:シャイア・ラブーフ)の、とりあへずは翻案ピンク映画といふ寸法となる。とはいへ、といふか兎にも角にもといつた方がより相当なのか、元展開に基本的に忠実な後半部分と、闇雲なトッピングの全部乗せの如く、イントロダクションに無理から家庭教師×未亡人×義母要素をてんこ盛り―未亡人に関しては、有沢実紗が喪服の一枚も着るでなく、概ね義母属性に収斂されもするのだが―してみせる前半部分とは完全にガッチャガチャ。逆の意味で綺麗に纏まらない物語を、別の意味で堪能させて呉れる、呉れなくて別に構はない。殆どディスタービアのクライマックス以降に話を絞つたところで、あちらこちらに至らない作劇が散見される。最後の甲子園予選、克巳が仕出かしたサイン違ひは、ヒッティングとバントとの間違ひであつた点までは辿り着けるものの、それでは何れが正解であつたのかは、単なる節穴の読解力不足やも知れないが、繋ぎがゴチャゴチャしてゐて甚だ判り辛い。最終的に、一件の結末を上原ではない人物に求めるのも、ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則を持ち出すまでもなく、井尻鯛(=江尻大)を画面に載せる、端的にどうでもいいギャグに供する目的しか見当たらない。無論、蛇足でしかなからう。挙句に挙句に、締めの濡れ場で克巳が里美と終に―現実的にも―結ばれるのは全く順当な流れとしても、当初の約束は違へ、最終的に克巳は大学入試には失敗してゐるといふ二重の落とし処には、激しく理解に苦しむほかない。話のへべれけさにスカッとしない以前に、それでは康子が抱へる焦燥が半分は抜けはしないではないか。全篇を貫く中途半端さが、極大に達した感が強い。幾ら江尻大にとつては初脚本作とはいへども、そのやうな事情が商業のフィールドにあつては免罪符の写しにすらならないことなど、改めていふまでもあるまい。前作「淫乱Wナース パイズリ治療」(2010/脚本:蒼井ひろ/主演:稲見亜矢)に引き続き、加藤義一が直截には脚本の不出来に足を引かれる現況を見るにつけ、実は我々は、徒に岡輝男を過小評価してゐたのではないか。といふ思ひが、この期に胸を過ぎらぬでもない。


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