真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「兄嫁の肌は熱く甘く」(2011/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:佐倉萌・国沢☆実/撮影:小山田勝治/音楽:因幡智明/録音シネキャビン助監督:小川隆史/撮影助手:海津真也/撮影助手:原伸也/撮影助手:関将史/現場応援:佐藤吏/現場応援:加藤学/スチール:本田あきら/ネガ編集:有馬潜/音響効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/現像:東映ラボ・テック/出演:灘ジュン・伊沢涼子・水井真希・久保田泰也・村田頼俊・丘尚輝・石川雄也)。出演者中、丘尚輝は本篇クレジットのみ。
 子守唄か、眠る石川雄也を膝に抱いた灘ジュンが、鼻歌を歌ふ。タイトル挿んで、明け方まで客に粘られた、終戦感漂ふバー。疲労困憊のマスター・片瀬慎一(久保田)はカウンターにつゝ伏して眠る、従業員兼彼女の柏木里奈(水井)を起こす。里奈から求められた慎一は一旦応へかけるも、結局事を中断すると鍵を投げ寄こし店を後に。「クソッタレ」と、里奈は板につかない悪態をつく。朝つぱらから、バイブも持ち出した夫婦生活を短く噛ませて、慎一の兄・圭一(石川)が、妻の未歩(灘)に見送られ家を出る。出勤する圭一と、一仕事終へた慎一とが擦れ違ふ。平然と構へる兄に対し、何故か微妙に狼狽する弟の姿を錯綜する細かく刻んだカットで捉へた後、別れ際の圭一は、一転俄に表情を凍らせる。後に一箇所、半年前に台詞がブレるやうなうろ覚えも残しつつ、三ヶ月前の交通事故より復帰した営業課長である圭一を、よしんば同期にしてもタメ口で接する中野(村田)や、休職期間中見舞ひと同時に甲斐甲斐しく仕事上のフォローに回つた、脇坂康子(井沢)が歓待する。国沢実ではなく丘尚輝(=岡輝男)が、ここでの黙したまゝ半分程度しか見切れない同僚要員。一方、兄宅の方の片瀬家。堂々と自分の家かのやうに上がり込んだ慎一は、あらうことか未歩を犯す。回想パートへの無造作な侵入と、主演女優の印象の薄さに起因するものか。あるいは単に、映画脳の未発育を臆面もなくひけらかすに過ぎないのやも知れないが、ともあれどうにも繋ぎが渾然としてゐるやうに覚える前半部を大雑把に整理すると、初登場時から観客には露な想ひを寄せる康子と、圭一は一足飛びに接近。距離を埋め難い慎一に対し、里奈が次第に鬱屈を凶暴にすら募らせる中、衝撃、あるいは悲劇的な事実が明らかとなる。レイプの形を通して重ねられる未歩と慎一の関係はそもそも、事故により男性機能を喪つた圭一から、元々義姉に性的関心を持つ弟に持ちかけたものであつた。歪んだ愛憎に拍車をかけるのも通り越し止めを刺すかの如く、未歩は妊娠の兆候を示し、里奈は慎一と未歩の逢瀬を知る。
 脚本に佐倉萌を迎へた国沢―そろそろ久し振りに、☆以外のミドル・ネームも見たい。ミドル・ネームなのか?それは―実2011年第一作は、だからといふのもあまりにも平板な物言ひに過ぎるやうな気もしないではないが、登場する人物模様の濃淡に性別のムラを感じさせる不発作。里奈が追ひ込まれる凶行は、そこに至る過程がひとまづは十全に積み重ねられる。出し抜けな康子のそれは、伊沢涼子の決定力頼りでどうにか押し込めぬでもない。反面、全般的に絞り込まれた風情が従来の弛緩した印象を覆す久保田泰也は光るものの、冒頭の交錯ショットでは確かな緊張を叩き込んでもみせた、片瀬兄弟に関してが手数だけは潤沢ながら、立ち位置の深化は一向に感じさせない。両義的に間際の凹に即応するかの如く凸は、映画的な趣向として面白く映つたが。加へて、本来ならば今作を背負ふべき灘ジュンが如何せん心許ないとでもしかいひやうがなく、ただでさへ堂々巡りに近い求心力不足の展開に、重ねて火に油を注ぐ。前半と後半とで様相を大幅に変化させる始終を、先行した片瀬兄弟を里奈と康子が猛追する主導権争ひと解するならば、一人お留守のビリング・トップがぽつねんと蚊帳の外では、ただでさへ煮え切らないお話が纏まらう筈がない。そんな灘ジュンをアテレコする佐倉萌の、声色の抑制ぶりからも窺へるのか始終抑へ気味のトーンは、悲劇、ないしは惨劇的なラストを際立たせる仕立ての戦略的選択であるのかも知れない。然し度重なる繰り返しも憚らずにいふが、私見では国沢実の場合下手に引き技を見せると、よくいへば繊細さ直截には内向性が禍(わざはひ)し兎にも角にも仕上がりが仕方なく燻つた、如何とも喰へない代物にしか現になり得ないのではなからうか。もしくは重みに欠けるゆゑ、オフ・ビートがただの非力さにしか見えない。怒涛の煽情性が爆裂する、豪腕エロ映画を撮る口でもない以上、能天気で可愛らしいポップ・チューン、それ以外には、国沢実の映画が拓けて来る可能性が、十年来追ひ続けても来てゐる一節穴としては見当たらないものなのだが。一言で事済ますならば、多義的に抜けない一作、タイトルはロマンティックなんだけどな。

 備忘録<慎一は里奈に、圭一は康子にの兄弟刺殺エンド


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