真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「新婚性教育 制服の花嫁」(2006/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:樫原新辰郎・国沢☆実/撮影:石山稔/照明:鳥越正夫/音楽:因幡智明/助監督:中川大資/監督助手:関力男/撮影助手:松下茂/照明助手:近藤樹里/出演:星月まゆら・小峰由衣・水原香菜恵・高見和正・世志男、他六名・川美幸)。出演者中川美幸が、ポスターには“りぼん”、他六名は、本篇クレジットのみ。
 死ぬ前に孫の花嫁姿が見たい、といふ死期の迫る祖父(声と手先のみ/国沢実)の懇願に従ひ、高校三年生の清村明日香(星月)は幼馴染で高校教師の高井達也(高見)と結婚する。新居での新婚生活がスタートする中、明日香は、内緒で達也が勤める高校に編入してしまふ。二人が夫婦であることを知られてしまつた校長の幸田(川)からは、二人の秘密が暴かれた場合学内から放逐する旨を厳命される。
 同じ高校に教師と女子高生として通ふ、幼い夫婦。隣家の淫乱人妻やそれぞれ夫と若妻とに纏はりつく級友に夫婦である秘密を脅かされつつ、二人はケンカしてみたり仲直りしてみせたりなんかする。この期に蛮勇すら感じさせる古典的なプロットによる、純然たるラブコメ・アイドル映画である。渡邊元嗣の独壇場にこの期にノコノコと国沢実がやつて来た、とはいひつつも、敢ていはう。国沢実完全復活!2000年から2003年にかけての、南あみや橘瑠璃らを主演に良作、好作を量産してゐた第一期黄金期の、キラキラと輝くときめきが国沢実の映画に戻つて来た。
 主演の星月まゆらが、口元に締りの無いポスター写真に、事前は半ば諦め気味に小屋の敷居を跨いだものであるが、まあこれが、ど真ん中に可愛い。可愛いこと可愛いこと。個人的に女の好みは厳然たる高目狙ひの小生ではあるが、メッチャクチャに可愛い、2006年ピンク最速に可愛い。たとへばメインストリームのアイドルとして、別に脱いで呉れたりしなくとも全然事足りよう可愛いらしさである。アヴァンタイトルで二人の結婚までを手短に片付けた後、二人の新居への転居。おどけた明日香がレポーターを模してカメラの前に飛び込んで来る演出に、私は今作に於ける国沢実の勝利を確信した。“別に脱いで呉れたりしなくとも”と、先にらしくもないことを述べた。星月まゆらといふ人はあくまでメソッドは未だ類型的に過ぎないものながら、喜怒哀楽の表現は実に豊かでポップである。対して、妹属性が爆裂する肢体は勿論美しくないことはないものの、演技ならぬ艶技の方はそれ程達者でもない。星月まゆらとアイドル女子高生映画鉄板のツー・トップを担ふのが、明日香の同級生・田の中アキコ役の小峰由衣。一言で説明すると、ハイ・エンド美少女にしたSEX MACHINEGUNSのヴォーカル。この星の上をくまなく探し歩いたところで、恐らくは虚構の世界に於いてのみ成立可能であらう、一人称は“俺”の、ステレオタイプといふ非など鮮やか且つ軽やかに蹴倒すツンデレ完成形を披露する。アグレッシブな所作と、細い手足が醸す矢張り少女としてのか弱さのハイブリッドは絶品。二人が連れ立つて歩くだけで、銀幕が眩しく煌いてすら見える。その煌きは、時に他の全てを凌駕しよう。構成の妙なのか単なる結果論なのか、ところで小峰由衣の絡みが何時まで経つても始まらない。もうこのまま脱がないのかと諦めかけた残り尺も殆どギリギリのところで、ラストの明日香と達也とのオーラスの夫婦生活直前に、ツンデレの“デレ”が高らかに鳴り響くエクストリームに感動的な濡れ場を漸く披露。可愛かずみの「セーラ服色情飼育」(昭和57/監督:渡辺護)にも匹敵する、極大のカタルシスが爆発する。素晴らしいシークエンスは随所に溢れてゐるのだが、個人的に今作に於けるエモーションの最高潮はこのアキコ唯一、そして随一の濡れ場。
 昨今グン、ググンとギアを二つばかり前に入れて一線を跨いだ色気が出て来た水原香菜恵は、転居して来た達也を一目見るなり俄然色めきたつ、隣家の淫乱人妻・富士山真奈美。女の悦びを覚えた人妻の淫乱ぶりはいいとして、役柄上は犯罪的な出歯亀に終始。判り易くいふと美人にした漫才師の宮川花子、とでもいつたキャラクター造形の純然たるコミック・リリーフのポジションに止まり、ドラマの中で大人の色香を一斉射するまでには至らず。くどいやうだが、誰か水原香菜恵を主演に迎へての、大人の本格恋愛映画に早く取り掛かるべきだ、だから関根和美本気出せ。真奈美が昼下がりに連れ込む間男・ハナオカ役で、顔は達也のつもりらしいヘタクソなお面で隠し放しの国沢実が再び登場。世志男は明日香のキモオタ風同級生・霧島五郎、アイアンキングか。ここは、水をガブ飲みする小ネタは挿んでおくべきではなかつたか、とも思ふ。自らが考案した新スポーツ、バドピンポンに明日香を執拗に誘ふ霧島は、幼稚園時代から、アキコには暴力的に苛められてゐた。後に必殺技「オーロラ稲妻落とし」を頼りに明日香を巡り達也に決闘を挑み、二段構へのクライマックスへの導入を果たす。今作最大のエモーションの片翼を担ふ、何気にイイ役でもある。その他顔も名前も見慣れぬ男女込み込みで六名が、生徒要員に見切れる。
 盟友(?)杉浦昭嘉を髣髴とさせるフニャフニャとした劇伴も、使ひ方は必ずしも完全に適宜ではないともいへ、呑気なビートのアイドル映画の中、惰弱ながらにロマンティックの補完をキッチリ果たしてゐる。ケンカして、仲直りがてら二人で作つた夕食を経ての風呂場での文字通りの濡れ場。フニャフニャしたシンセが鳴りながら、キャッキャと戯れ合ふ二人を飾り恐ろしくもあるいは素晴らしく、画面一杯にシャボン玉が舞ひ踊る!流石にナベも、ここまではやらない、滅多に。堂々と、臆面もなくそんなことをやつてのけられるのも、国沢実を措いては吉行由実くらゐしか居まい。ただ国沢実のいい意味でも悪い意味でも繊細なところが、かういふ箱庭演出には上手く作用し得よう。暗目の物語やシリアスな路線を志向したところで、救ひやうもなく暗鬱としてしまふだけなので、少々安くとも軽からうとも、国沢実はかういふポップなコメディ基調に潔く特化するべきではないかと、常々素人見も憚らず見受けるところである。
 ひとつ惜しいのは、オーラス校内保健室での明日香と達也との情交が、時制は夕方といふことで少し落とし目の照明の下で執り行はれるのだが、ここはさういふ瑣末には囚はれずに、ど真ん中に温かみのある照明を当てた上で微温ながらも狂ほしいエモーションを最高点にまで喚起すべきであつたやうに思はれる。エモーションの最高潮を、直前のアキコの濡れ場に譲つたものとする所以である。

 神出鬼没を華麗に繰り広げながら、明日香と達也とを温かく見守る幸田まで含めて、主要登場人物の何れもが然るべき納まり処に落ち着く娯楽映画として極めて万全な着地を見せる中、一人真奈美の扱ひのみが、中途半端に宙ぶらりんのままエンド・クレジットが流れ始める。と、したところが。クレジット後に真奈美再登場、あくまで本篇の延長に過ぎない登場の仕方ではあるが、騒々しくも幸せに彩られた劇中世界の日常の継続を予感させる。今回国沢実は何処まで冴え抜くつもりなのか、続いて更なる驚愕の終幕を迎へる。明日香と達也二人声を合はせて「つ・づ・く♪」、明日香「ホント?」、達也「判んない・・・」。そしてエンド・マークはハートの中に“終”。何と、この物語は続くのか?南あみと橘瑠璃に続く、国沢映画第三の天使、星月まゆらが遂に本格始動か!・・・・・と、一旦ぬか喜んではみたものの。小屋から帰福後国沢実のその後、2007年の仕事ぶりを軽く調べてみると、四月と八月にそれぞれ一本づつ発表。現時点で、撮影中ならば兎も角公開待機中の新作も恐らくは無い模様。四月作は脚本は今作と同じく樫原新辰郎との共同脚本である一方、中身の方は全く別の物語。八月作は、よせばいいのに間宮結との共作。何れにも、星月まゆらは出演してゐない。“国沢実完全復活!”を初めに高らかに謳つてしまつたが、それも、一時的な紛当たりに過ぎぬのやも知れぬ。何処が“完全”なのだ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 厚顔無恥な恥... 痴母の強制愛... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。