真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「OLの愛汁 ラブジュース」(1999/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:田尻裕司/脚本:武田浩介/企画:朝倉大介/撮影:飯岡聖英/助監督:菅沼隆・吉田修/撮影助手:岡宮裕・高尾徹/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/協力:《有》ライトブレーン・日本映機・清水正二・荒木太郎・細谷隆弘・榎本敏郎・星川隆宣・坂本礼・大西裕・早大映研/出演:佐藤幹雄・林由美香・澤山雄次・コマツユカ・森永徹・羅門ナカ・久保田あつみ)。
 28歳のOL・榊原友美(久保田)は六年間付き合つた彼氏から、不意に一方的な別れを告げられる。半ば放心状態で揺られる終電車、友美は終点の一つ前の駅で降りなければならない筈が、左肩に寝こけた若い男の頭を預けられ降り損ねてしまふ。ハンサムな若い男に、フと友美は吸ひ寄せられるやうに唇を寄せる。流石に気づいた男が目を覚ました瞬間の、ハッとした佐藤幹雄とドギマギする久保田あつみのショットには、評判に違はぬ強く高く、そして美しい映画的緊張度が漲る。終点駅で当てもなく放り出された友美を、ある意味元凶ともいへる二十歳の美大生・タカオ(佐藤)が追ひ駆けて来る。二人は成り行きのやうに、ホテルでセックスする。常時カメラを持ち歩き、ヴィデオ・ジョッキーといふひとまづの夢もあるタカオに、友美は憧れも入り混じつた感情を抱く。対して、ジェネレーションXといふには若干下の世代ではある―然しいふことが旧いな、俺も―ものの、似たやうな体温の刹那的なタカオも、もしもさういふものがあるならば、真意のほどは伝はらないまゝ結構律儀に友美の部屋に通ふ。
 澤山雄次は、友美を捨てた六年来の彼氏・西澤。濡れ場には参加しないコマツユカは、バンダナを巻いたダンサー風の西澤の新しい彼女。優しい西澤は二股をかけたコマツユカを捨てられずに、友美を捨てる。優しい男などといふ手合は、得てしてさういふものでもあるのであらう。東京の街を颯爽と闊歩するアクティブなワーキング・ウーマンと、狭苦しい住まひに侘しく暮らす三十路目前独身女との隔絶を超絶に演じ分ける林由美香は、友美と、西澤とも共通の友人・真紀。友美を案じつつ、自身の不倫相手(森永)との関係にも、男が必ず十二時には自宅へ帰つてしまふことに終に疲れた真紀は、自ら終止符を打つ。
 田尻裕司第二作である今作は、当時PG誌主催のピンク映画ベストテンにて作品部門一位・監督賞・脚本賞・男優賞(佐藤幹雄)をブチ抜いたのに加へ、一般映画の賞にも喰ひ込んだ話題作である。とはいへ最近はすつかり偏屈も拗らせ、ロマポも国映も、いつそシネフィルに呉れてやればいゝだなどと野放図な態度を臆面もなく採る当サイトとしては、「OLの愛汁 ラブジュース」といふピンクにしてはそれなり以上に名の通つたタイトルや、田尻裕司の名前に対して、格段のさしたる重きを置くものではない。以降の田尻裕司のピンクに特に激しく揺さぶられるでもなく、時にプロジェク太上映の駅前ロマンにて仕方なく前にする、昨今レジェンド・ピクチャーズで撮り流す毒にも薬にもならぬVシネに関しては、精々プロットをあつらへた辺りで以降は立ち止まる、度し難い空疎に呆れるばかりでわざわざ骨を折つて感想を書いてみる気にもなれない、巨大な世話だが。タカオの殆ど唯一明確な意思に司られるかの如く、決して展望の開かれぬ友美とタカオの関係が、やがて力ない命が尽きるやうに無体な結末を迎へる意図的にドラマティックではない顛末には、正直尺の長さを物理時間以上に覚えた。どの際だか判らないこの際、瀬々敬久が絶対に切るなと田尻裕司に助言したといふ、歩道橋の件に於いてバッサリとバッド・エンドで物語を断裁してしまつた方が、まるで二昔以上前のATG映画のやうな、絶望的な暗さに満ち満ちてまだしも喰へたのではなからうかと、我ながら訳の判らない感興も覚えた。ところが、一体何時出て来るのか、あるいは見落とした何処かに既に見切れてゐたのではあるまいかと本気で不安になりかけた羅門ナカ(=今岡信治)が、かつて見たことがない神妙な面持でオーラスに漸く登場するに至つて、何て素敵なラスト・シーンなのかと本気で感動した。依然明確な着地点といふものは提示されないまゝに、開巻を引つくり返しなほその先に繋げて行くアイデアが素晴らしくスマートで、手放しで感心した。何といつたらよいのか、言葉の選び方を間違へてゐるやうな気もしつつ、その時小屋の暗がりの中で感じたまゝをいふならば、斯様に薄汚れた小生ではあるが、心が洗はれた気がした。終り良ければ全て良し、この言葉は、個人的には映画に殊に当てはまるやうにも感ずる。よしんば田尻裕司がビギナーズ・ラックにも似たワン・ヒット・ワンダーであつたとしても、いい映画を観たと思ふ。

 尤も、といふかところで現実論としては、友美はそれ行けグッド・タイミングとばかりに西澤とヨリを戻してのけるのが、最も無難ではないのかとも歳の所為か老婆心的に思はぬでもないが、それでは流石に、あまりにも映画にならないのか。


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