真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「社長婦人と愛人秘書 入れ狂ひ」(2003『ノーパン秘書2 悶絶大股開き』の2006年旧作改題版/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:小山田勝治/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:小川隆史/監督助手:氏家とわ子・茂木孝幸/撮影助手:杉村高之・藤田明生/現場応援:田中康文/スチール:山本千里/タイミング:安斎公一/ネガ編集:フィルムクラフト/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:西園貴更・望月梨央・柏木舞・酒井あずさ・松元義和・神戸顕一・銀治・樹かず・池島ゆたか・つーくん・山ノ手ぐり子・ドラムカン・水無月ゆう・本多菊次朗/写真出演:竹本泰志・兵頭未来洋・西岡秀記)。正確なビリングは、水無月ゆうと本多菊次朗の間に写真出演を挿む。
 過去の出来事であると示す旨の、白黒場面でのプロローグ。適度な劣化が幸してか、素晴らしいモノクロ画面の色に期せずして降りて来た映画の神の微笑を感じる。社長室にて、秘書・陽子(柏木)との情事に興じる宇田川健次(池島)が絶頂を迎へ恍惚の表情を浮かべたのも束の間、精を放つたばかりのイチモツが煙を吹くと、コロンと赤い玉が―ここで画面はカラーに戻る―飛び出して来た。陽子は目を丸くし、健次は驚愕する。何処からか健次の耳だけに、福引の鐘にも似たカランカランといふ音とともに、人を小馬鹿にしたかのやうな間延びした天の声が聞こえて来る。「お客さあん打ち止めですよう」、「打ち止めですつてばあ」。赤い玉の伝説、正確には伝説の頭に“都市”がつくが。荒淫の果て射精と同時に性器から赤い玉が飛び出した者は、即ちそこで打ち止め。以後は不能となつてしまふ、といふものである。果たせるかな、男性機能を失つた健次は急激に老け込み、無駄打ちを固く戒める遺言を残し二年後に死去する。
 現在、健次の跡を継いだ満(本多)が、血筋は争へぬのか矢張り社長室にて秘書・瀬戸川まどか(西園)と情事に興じる。どうでもいいが主演女優の西園貴更、目鼻はガイコツにアヒル口、の首から上に関しては首から下に免じて百歩譲るとしても、目の覚めるやうな金髪にタトゥーまで入れた女が社長秘書、といふ配役はもう少し何とかならなかつたのか。父譲りの絶倫を誇る満ではあつたが、気懸りなのは赤い玉の伝説と、結婚して十年になる経理部長でもある妻・和美(酒井)との間に、未だ子宝を授かれずにゐる点。一戦終へた満の下に、和美から内線が入る。勤務中も口に体温計を咥へる和美は、今ちやうど妊娠するのに最適な体温状態にあるゆゑ、これからセクロスするのに社長室へ向かふ、といふのである。二人は慌てふためく、仕方がないので満はまどかをデスクの陰に隠し、自らは待ち切れない風を装ひ下着姿で和美を待ち構へる。夫婦の情事に興奮を禁じ得ないまどかは、ついつい自慰を始め、和美に見つかる。咄嗟に満は、まどかに覗かれることで余計に興奮し、妊娠し易いやうにしたのだ、などと抗弁。斯様な底の抜けた方便が通つてのける桃色の蓋然性に、一々異を唱へないと気の済まない御人は豆腐の角にでも頭をぶつけて、どうぞ正しい人生をお歩みになればよい。満の苦しい言ひ訳に何故だか閃いた和美は、満にまどか、それに部下でお気に入りの藤原友也(松元)も交へ、今度こそ子宝を授かるべく「後継者受胎プロジェクト」を立ち上げる。プロジェクトの第一弾は、まどかに覗かせた男女逆転版といふ次第で、和美は夫婦の生活に藤原を参加させる。黙つて見せておくだけで良さうなものなのに、何故だかお預けさせた満の眼前で和美は藤原に抱かれ、満の強烈な嫉妬心を煽る。然様な塩梅で、「後継者受胎プロジェクト」もへつたくれもあつたものではない、好色夫婦のめくるめく乱交プレイ三昧が手を替へ品を替へ繰り広げられる。
 旧題が“2”と銘打たれてゐるやうに、今作は一応、間にオーピー作を一作挿んだ二作前「ノーパン秘書 悶絶社長室」(脚本:森角威之/主演:まいまちこ)の続篇に当たる。尤も、二作続いて夫婦役を演じるメイン二人を先頭にキャストの多くと、社長室を初めとした撮影場所の幾つかを共有してゐるだけで、作品舞台も物語にも互ひに全く関連はない。社長室のデスクの上には、前作にも登場した色とりどりの網タイツ満載の黒いトランクが置かれてはゐるものの、秘書は網タイツに限る、といふ社長の性癖は一言台詞でなぞられるだけで、特に今作の中では重要に機能する訳でもない。振り返るならば、よくよく考へてみれば前作に於いても既にその点は同様か。お世辞にも十全とは必ずしもいへない布陣で、大オチの一ネタ頼みの一点突破に挑まざるを得なかつた第一作と比べると、後述する実親子まで繰り出した潤沢な共演陣にも恵まれ、彩り豊かな濡れ場濡れ場が同時に矢継ぎ早の新展開として機能して行く、今作の方が明らかに面白い。
 配役残り樹かずは、営業の大森裕子(柏木)が満に引き会はせた、漢方薬から武器まで何でも調達出来るといふ触れ込みの支那人ブローカー・ヤン。赤い玉の伝説を肯定した上で、それならば打ち残した分を買へばよい、と若くして死んだ人間の睾丸を満に売りつける。半信半疑ながら赤い睾丸の燻製を口にした満は俄かに爆発的に発奮し、その場で裕子を抱く。ヤンの持つて来た睾丸の燻製を五百万で買ひ取つた満ではあつたが、何のことはない。ヤンは裕子ヒモの劇団員で、燻製はバイアグラを混ぜたイカの燻製であつた。神戸顕一と銀治は、権力を手に入れた者のみが為し得る酒池肉林、といふ満の豪胆なコンセプトの犠牲となる、ダメ社員の葉山と鈴木。椅子に拘束された和美と、傍らには背中合はせに縛り上げられた葉山と鈴木。らの前で、満はまどかと裕子を交互に抱くのである、最早何が目的なのだかサッパリ判らない
 プロジェクトに万全の体調で臨むべく、満と和美はジョギングに汗を流す。山の手ぐり子とつーくんは、満が公園で束の間仲良くなる親子。山ノ手ぐり子とは脚本の五代暁子の女優名義で、つーくんとは五代の愛息・円(つぶら)くんである。つーくんはどうしてもカメラの方を向いてしまふところに目を瞑ると、まあ子役としては十二分に合格点。ドラムカンと水無月ゆうは社内要員、ドラムカン―誰なんだ―は汗かきの経理部のデブ、水無月ゆうは、今月も生理が来たのにガックリ肩を落とす和美と、洗面所で会話を交はすオールドミス。瞬間的な端役ともいへ、普通に芝居をこなしてゐる点に興味を持つて検索してみたが、同姓同名のBLマンガ家ばかりが出て来てどうにも要領を得なかつた。
 写真出演の竹本泰志・西岡秀記・兵頭未来洋は、藤原に加へ和美がプロジェクトに参加させようとするものの、満に却下されるイケメン社員の竹本・西岡・兵頭、宣材写真のみでの登場。

 特に何かが優れてゐる訳でも全くないのだが、何れもテンションの高い絡みがテンポも宜しく繰り出されてゐる内に、気づくと一時間が一息に過ぎてゐる。何がどうといふこともないのだが、ひとまづは満足。さういふ程度でいい、娯楽映画といふものもあらう。


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