真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「オヤジの映画祭」だなどと、最早どこまで本気で映画を売る気があるのやら。世間と刺し違へる覚悟でクロスカウンターでも放つつもりか一昨日からやつて来た明後日企画で、スティーヴン・セガール(以下セガ)の主演映画が、例によつて日本独自の“沈黙シリーズ”として三本続けて公開された。何にせよ、セガ映画が三本続けて劇場公開されるといふのも、本国ではビデオ(DVDか)ストレート街道を驀進する昨今、極東の最果てくらゐでしか起こり得ない椿事、あるいは珍事であるのかも知れない。そんなセガ、当年とつて56歳。

 「沈黙のステルス」(2007/米・英・ルーマニア合作/製作:セガ、他/監督:ミヒャエル・ケウシュ/脚本:セガ、他/原題:『FLIGHT OF FURY』/主演:セガ)。「ドラゴン怒りの鉄拳」を髣髴させる、といふか当然にそこから取つて来たのであらう、原題だけならば頗るカッコいい。
 折角御国の為に働いたのに、非情な国家からは使ひ捨ての歯車として記憶を消去(それもいきなりどういふ作業だ)されようとしてゐたところを、それでは堪らんと隔離施設を脱走するセガ。そもそも、あのセガをどうやつて隔離し得たのかといふ話でもあるのだが。施設の敷居を内から外へと跨ぐ件が、いきなり奮つてゐる。施設から外へ出るトラックの下部に、潜り込むセガ。も、出発前の最後の検問では、兵士が鏡の付いた棒状の道具を使つて、トラックの下部まで調べてゐる。何故かセガは見付からない。ゲートを通過するトラックをカメラが上から捉へると、セガは荷台の屋根にへばりついてゐる。それは強力に目立つだろ。
 一方エドワーズ空軍基地。最新鋭のステルス戦闘機X-77の試験飛行中に、テロリストに買収されたテスト・パイロットによつて、X-77は強奪される。この、X-77の最新鋭を通り越した超新鋭ぶりが凄まじい。能動“アクティブ”ステルスと称され劇中では「電磁パルスを機体周囲に展開させることにより」とか何とか説明されるが、早い話が要はいはゆる光学迷彩。起動させるとレーダー補足はおろか、目視でも不可視となるといふ正しくトンデモ・スペックである。
 どうにかX-77がアフガニスタンに着陸したところまでは押さへた空軍は、X-77の奪回に、居合はせたコンビニ強盗を殲滅してポリスの御厄介になつてゐた、セガに白羽の矢を立てる。SR-71ブラックバードでアフガンへと向かふセガ、ともう一名。ところで、ブラックバードは旧世紀中に退役してゐる筈だが。復役させたのか?
 一方空軍将軍は、セガらがX-77の奪還に失敗した場合に備へて、海軍提督にシングルモルトのスコッチ1ケースと引き換へに要請を支援。最悪の場合X-77もろとも付近一帯を壊滅すべく、飛び立つ海軍の爆撃機。

 X-77の底抜けた超機能の他は、実はそれ程大きく足を踏み外したところも箍の外れたところもこれといつては見られない、その点では所々がどうにもルーズながらそこそこに纏まつてはゐるものの、その分却つてツッコミ処にすら欠ける如何にもな全方位的B級作。アクション・スターとしてセガは今回致命的に体を動かしてをらず、正味な話セガール拳の見せ場にすら事欠き気味。どうせ素手で既に銀河系最強設定なので、銃を持つたセガのドンパチなんて別にどうでもいいのだ。流れるやうな動きで見栄を切るショットくらゐ、二度三度は見せて欲しい。強ひて見所を挙げるならば、新撮されたものではなく、明らかに他のシーンとは画面のルックの異なるものの、在りものの実機の飛行映像がそれなりにふんだんに見られはするところと、敵の中ボスのオパーイが拝めるところくらゐか。間一髪のところでセガらはX-77の奪回に成功したにも関らず、結局海軍爆撃機は一帯を焼け野原にしてしまふところなど、パックス・アメリカーな具合が最早ゴキゲンである、とでも思はないとやつてられない。頑強、あるいは病膏肓に達したセガファン、実機の飛行映像があれば御飯何杯でもイケてしまふ戦闘機マニア、あるいはどんなB級アクションとて、大スクリーンで観られればそれで満足出来るといふ筋金入りの映画中毒者以外には、決してお勧め切れない一本である。



 空に挑んだ「沈ステ」に続いては、“オヤジ、超人に挑む。”と謳はれた「沈黙の激突」(2006/米・英・ルーマニア合作/製作:セガ、他/監督:ミヒャエル・ケウシュ/脚本:セガ、他/原題:『ATTACK FORCE』/主演:セガ)。最早原題から、早くもどうしやうもない感が濃厚に漂ふ。
 新種の合成麻薬CTX。中毒者は、どういふ訳だか超人的な戦闘力を有する殺人マシーンと化す。CTXの開発を隠密裏に進めてゐた軍の研究所を警護してゐた因縁で部下を失つたセガは、CTXで殺人兵器と化したユニ・ソル軍団と、人外の死闘を繰り広げる。
 要は順番は前後するものの「沈ステ」と同じ人間の監督作といふことで、どうでもいい物語が所々で綻びは見せつつも、かといつて大袈裟に転んで見せてすら呉れずにある意味淡々と西から一昨日へと流れて行く、矢張り凡庸で退屈な全方位的B級作。正直こんな代物を、まんじりともせず観てゐられる自分がこの期に不思議ですらある。これが日々のピンクスとしての修練の賜物であるならば、一体私は何と戦つてゐるのか。“セガール史上最強の敵”と持ち上げられるCTX軍団も、戦闘力は高いのか低いのかよく判らないが、たつた一人のマーシャルアーツ・スター、あるいはエッジの効いたアクション・コーディネーターも擁しない布陣の線はどうにも細い。あちらこちらでの含みの持たせ方といふか匂はせ具合、殊に冒頭研究所を襲撃した賊が使用してゐたものと(多分)同じナノ・テクノロジーを使用した超近代ナイフを、セガに決戦兵器として差し出した辺りで、てつきりセガの部下兼恋人で、CTXの共同研究者でもあるティア(リサ・ラヴブランド)が事件の意外な黒幕なのかと思つて観てゐたところも、結局さういふ観客のミス・リーディングも無し。セガール拳の見せ場はそこそこに溢れるものの、CTXの効果を表現してゐるつもりなのか、淫らに挟み込まれるフラッシュ・バックは強力に邪魔だ。敵も味方も無造作に死んで行くクライマックスの中で、結局セガ以外に生き残る唯一の隊員が東洋人であるといふのは、日本市場に対する配慮か。敵味方殆ど双方全滅した上で、一応の一件落着といふことでセガの運転する車が来た道をブーッと戻つて行くショットから、一切何も付け加へられずにそのまま字幕が流れ始める投げやりなラストには、潔い清々しさすら感じられる。

 とはいへ公式サイトのプロダクション・ノートには、監督のミヒャエル・ケウシュがセガの為にラストを書き直して、ジョークを一節付け加へた。とかいふ記載が見られるのだが、それは一体何処に行つたのだ?
 あともうひとつ、今作に関して明後日の方向で特筆すべきは。どういふ次第なのだかまるで理解出来ないが、通常の同録とアフレコとを併用してゐるのか、いきなり冒頭の初登場シーンから、セガの声が別人の箇所が結局全篇を通して、結構な数散見される。漫然とした粒の小さな物語の中で、一種のアクセントとして機能しないでもない。そこにまで傾ける、注意力が残されてゐたならば。



 「オヤジの映画祭」に棹尾を飾るあるいは止めを刺すは、“沈黙シリーズ”遂に完結 !? なんて心にもない惹句が躍る、「沈黙の報復」(2007/米?/製作:セガ、他/監督・撮影監督:ドン・E・ファンルロイ/脚本:ギルマー・フォーティス二世《公式サイトにあるジル・フェンテスてのは誰だ》/原題:『RENEGADE JUSTICE』/主演:セガ)。原題を訳すると、正義の氾濫、もとい正義の反乱とでもいふことになる。序に今作では、オヤジは死に挑むことになつてゐる。次は、宇宙か時間にでも挑んで呉れよ。
 ギャング同士の抗争に荒れるイースト・ロス。一人の刑事が、悪党の凶弾に倒れる。但し悪党は知らなかつた。刑事の父親は、何とセガだつたのだ。組織の目的も、誰が命令を下したのかも知つたことではない。ただ息子を撃つた実行犯を捜し出し、殺す。最も治安の悪い一帯の、酒屋二階の安アパートに居を構へたセガは、息子殺害の実行犯のみを標的としてゐる筈なのに、みるみる死体と瓦礫の山とを築いて行く。
 今回のセガは、刑事でもなければ軍人でもない。FBIやCIAの類の工作員でも、伝説の凄腕でも何でもない。いはば市井の犯罪被害者の一遺族が、純粋に息子の死を贖はせる為だけに大暴れする物語である。目的は息子を殺した人間を殺すこと、即ち全く以て純然たる復讐で、返す刀で序にギャングを一掃して街を綺麗にするだのといつた、余計な社会正義には一瞥だに呉れない。毒を以て毒を制すといふか、毒を制しに鬼が出張つて行くやうなものである。最早清々しいまでのアンチ・ヒーローぶりである。といふか、セガの職業は、劇中終には明示されない。矢鱈と強い、といふか野砲図に強過ぎる無敵設定は何時ものことなのでさて措くにしても、ハイテク探査装置や市街戦でも展開する勢ひで重火器を揃へてみせる財力とコネクションとを鑑みると、一歩間違へれば(劇中世界の中で)セガ自体が既に堅気の人間でないのかも知れない。(ギャングよりも)「俺の方がワルだぜ」といつた台詞や、息子が刑事とはいへ、妻とは離婚してゐた、他にも息子と過ごす時間は余り持てなかつたといつたキャラクター設定は、さういふ推定に関する傍証たり得るであらうか。
 全てはセガを心ゆくまで暴れさせる為だけにしても、破天荒にも程があるプロットに関してはひとまづ等閑視すると。今作にはメキシコ人ギャングや人種差別的な白人不良グループも少しは登場するものの、悪党のメインは、何処までネーム・バリューのある人なのかは知らないが、エディ・グリフィンをリーダーに据ゑる、悪徳警官と結託した黒人ギャングである。といふことは要は、例へばセガ映画でいへば「DENGEKI 電撃」(2001/監督:アンジェイ・バートコウィアク/製作:ジョエル・シルバー、他)と同じやうな、今時ブラックスプロイテーションである。今時とはいへ、今でも相変らずかういふジャンルが受けてゐるのかどうかもよく判らない。相変らず、矢張り彼の地では一定数の商業的成果が保障されてゐるやうな気も、しないではないが。ともあれ個人的には、正確には何と称すればよいのか判らないのでザックリいふとHIP-HOP系の音楽も纏めて好きではないこともあり、柄の悪い不良黒人が下品な英語でピーピー喚き散らしてばかりのドラマは、少なからず苦手なところではある。
 今作殆ど唯一の収穫は撮影。美しく荒れた画調は(35ではなく、16ミリらしい)、何もかもが最後にカッコ良かつた時代を想起させる。下手に処理してゐる分、回想パートの方が画面がクリアになつてしまふといふ、訳の判らない屈折は御愛嬌である。とはいへ、肝心のアクション・シーンに入ると。最早セガは、どうやらどうにもかうにも動けなくなつてしまつたのか、コマとコマとの間のカットを始め誤魔化し三昧で、元々人を煙に巻く機能性が肝のセガール拳とはいへ、画面が余りにもゴチャゴチャで何をやつてゐるのだか殆ど全く判らない。それ以外のドラマ部分はオーソドックスな、おとなしくも的確なカメラ・ワークに徹してゐるだけに、アクションが始まると映画が乱れてしまふといふ、アクション映画としては致命的な情況を呈してしまつてゐる。その上でなほ、全般としての撮影はウットリと映画を感じさせて呉れる素晴らしいものであるのだが。後もう一つ気になつたのは、セガ自体の衰へを微妙に映画の中に採り入れたのか、劇中セガの手数が若干増えてゐるやうに、今回は見えた。これまではメキョッと片手で首の骨をヘシ折つてゐたところを、両腕でシッカリと、しかも時間を掛けて絞めて止めを刺す、といつた具合に。
 心に残つた名台詞がひとつ。銃を持つた黒人ギャングに、取り囲まれるセガ。「不運な野郎だぜ」と鼻で笑ふギャングに対し、例によつて一瞬の早業で銃を奪ひ取る前に、セガが余裕綽々と言ひ返す一言。「いいことを教へてやる。運は、瞬きする間に変る」。何をヌカしてやがんだとギャング達がポカンとしてゐる隙を突いて、パッパッパッと光速を超えた早業ならぬセガ業で、銃を奪ふ。これはカッコいい名シーンだ。

※ここからは、一部ネタバレにつき伏字
 ギャング組織自体には興味は無い、俺の目的は息子を殺した犯人を捜し出して、殺すことだけだ。とはいひながらも、結局セガは何時もの愉快痛快な無敵ぶりを大発揮して、憐れな悪党共を虫ケラの如くジェノサイドして行く訳だが。クライマックス、派手なドンパチの果てに<終にセガは辿り着いた息子殺害の実行犯である悪徳警官を始末する。すると、そこで気が済んだのか、更なる巨悪である筈のギャングのボスは見逃して>、スタスタと悠然と歩き去つて行くのである。そんなセガの背中に、エディ・グリフィンが「ギャング・スターだぜ」といふ賛辞を呟きで投げるのがオーラスである。この際改めてハッキリいふが、ラストがこんなにいい加減な映画といふのも、滅多に観たことがない。小林悟にも匹敵する破壊力である。さういふ大いなる投げ放しが、それでも大らかに成立してしまへるのも我等がセガならではである。といふならば、贔屓の引き倒しにも過ぎるであらうか。
 珍しいのは、セガがギャングのボスの銃弾を喰らつて昏睡するシーンがある。とはいへカットが変ると、大家の従姉妹の看護士の手当てを受けコロッと目を覚ますのだが。眠つてゐたのは、せいぜい七時間か。



 詰まるところは三本甲乙つけ難い、といふか三本共全て丙だといつてしまつては、正しくそこで話も終つてしまふのだが。ここから先は、純然たる一ファンとしての繰言である。セガ映画なんて観たら観たで、といふか半ば以上に観る前から、どうせよくて別に大して面白くもない映画、悪くすれば地雷を踏む羽目に陥つてしまふことくらゐならば判つてゐる。セガ本人にも、態勢としてのプロダクションにも、昨今衰へが顕著であることは、性懲りもなくセガ映画に付き合つて来た我々は、勿論身に染みて知つてゐる。その上でなほ、あくまで個人的には。一年に一本くらゐは、銀幕にセガの雄姿を拝んでおきたくもなつてしまふところである。今回三本纏めて観たので、あと二年はもうお腹一杯、なんて尻の穴の小さなことは私は言はない。相変らずのセガ映画が、相変らず“沈黙の”何とかといふ適当極まりない邦題で公開される。世の中には、そんな変らないものも残されてゐていいのではないかと思ふのだ。加へて、特に映画になんて全く詳しくなくとも、タイトルに“沈黙の”とついてあれば、即ち誰しもが「ああ、スティーヴン・セガールのアクション映画なんだな」と判る。それは実に、素晴らしく鮮やかなことではないか。


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