真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「や・り・ま・ん」(2008/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vパラダイス/監督:坂本礼/脚本:中野太/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/撮影:中尾正人/助監督:大西裕/編集:蛭田智子/録音:シネ・キャビン/撮影助手:佐久間栄一・俵謙太/撮影応援:坂本啓一/監督助手:飯田佳秀・山口通平/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/協力:渡辺護・荒井晴彦・中村謙作・石川二郎・伊藤一平・永井卓爾・佐藤吏・中矢名男人・小嶋謙作・にいがたロケネット・シネウインド・フィルムクラフト・沖田中旅館/出演:華沢レモン・石川裕一・真田ゆかり・佐々木基子・佐野和宏・伊藤猛・川瀬陽太・伊藤清美・花村玲子・鈴木敦子・馬場衝平・細江祐子・服部由衣・中村良美・中村夢実・仲村弘美・辻久美・山岸亜紀・)。出演者中、伊藤清美と馬場衝平以降は本篇クレジットのみ。
 香川美紀(華沢)の部屋で、恋人・鈴木賢一(石川)とセックス。賢一は手に取つた美紀の乳房を「女つていゝよなあ、フワフワで」と満喫するが、美紀に無理矢理勃たされた上で挿入すると、賢一の男性自身は途中で中折れする。最近賢一は勃たなくなつてゐた、若干飽き気味の美紀相手には。悪戦苦闘の末に結局行為はまゝならず、美紀が匙を投げたところでタイトル・イン。賢一に対し、おどれのやうな贅沢者はデスれだなどといふのは、意図的に滑らせた筆である。
 別れ際、美紀が行きたがつてゐたライブのチケットを渡しながら、賢一はひとまづ美紀宅を後にする。浮気性の賢一は地下鉄駅への下り口にて、座り込み泣く女(不明)に声をかけるも突つ撥ねられ、ホームでは隣に立つ女(矢張り不明)の携帯を覗き込み怪訝な顔をされつつ、続けて高校時代の彼女・中村嘉子(真田)と不意に再会する。今は結婚し、仕事で東京に出て来たといふ嘉子とラーメンを食ふと、そのまゝ賢一が実家の直ぐ近く別に借りてゐるアパートへ。部屋に入るなり嘉子は捌けた様子で服を脱ぎ始め、二人は寝る。翌朝、目を覚ました賢一の隣に嘉子の姿は既になかつた。賢一が窓に向かふと、嘉子は未だ今しがた家を出たところだつた。別れの挨拶を軽く交し、窓からのほゝんと見送る賢一の眼前、嘉子はトラックに轢かれて死ぬ。作劇上の段取りとはいへ、少々強引に過ぎはしないか。少なくともその強引を無理矢理にでも定着せしめ得る馬力を、坂本礼は持ち合はせまい。
 嘉子は賢一に、素性を偽つてゐた。結婚などしてをらず新潟で一人暮らしの美紀の、縁者は全て死没してゐた。引き取り手がなくこのまゝでは無縁仏だといふ警察署員(川瀬)の言葉に、不憫に思つた賢一は衝動的に美紀の遺骨を盗み出し、菩提寺を自ら探しに新潟に向かふ。常ならざる賢一の様子に不安を覚えた美紀も、事情は知らぬまゝ同行する。
 互ひに心が離れた訳ではないのものの、微妙な位置にある一組の男と女。不意の再会から男が一夜を共にしたかつての恋人は、翌朝男の目の前で事故死する。死んだ女の墓を探しに男は限りなく当てもない旅に出、女も男と行動をともにする。その旅は、要は男の浮気相手のためのものだといふのに。賢一はまづ、嘉子最終住所のアパートを訪れてみる。その際嘉子宅のドアを乱暴に叩いてゐた男(相変らず不明)や、賢一に対し嘉子への不満を露にする別の部屋の主婦(つくづく不明)の洗礼を受け、三連撃の三撃目で止めを刺すアパート大家の伊藤清美は、賢一に嘉子がいはゆる“ヤリマン”であつたといふ残酷な事実を告げる。スーパー勤めの真由美(花村)を経て、翌日賢一は一人で嘉子の元同僚・安藤英理子(佐々木)の下へ向かふ。夫婦で旅館を営む英理子の、夫は観光シーズンオフの時期は建設現場の出稼ぎに出てゐた。嘉子は島田秋雄(伊藤猛)といふ男との不倫を機に、ヤリマンへと変貌した来し方を突き止めつつ、賢一はガランとした宿の中、余裕に欠ける求めに応じて英理子を抱く。一方海岸で一人黄昏る美紀は、ビーチカフェを営む佐山和幸(佐野)から声をかけられる。誘はれるまゝ入つた店で、賢一への対抗心からか、美紀は佐山と寝る。
 坂本礼監督作品の濡れ場が箸にも棒にもかゝらない点に関しては、百兆歩譲つてこの際最早仕方のないいはずもがなだとしても。どうにもかうにもお話が纏まらないのは、唐突極まりない退場後、結局嘉子といふ女の既に終つてしまつた人生の核心、乃至は真実が欠片も描かれない華麗なスルー。賢一(と美紀)の墓探しの旅を通して、出て来るものは断片的でアウトラインな証言ばかりで、嘉子のヤリマンへの変貌の鍵を握、つたのかも知れない島田も、現在の幸せに汲々とするのみで何も語らず。天涯孤独の身で、男を取つ替へ引つ替へするほかはなかつた嘉子の姿をそのまゝで、それだけの話で通過してゐては、片手が落ちるどころの騒ぎでは済むまい。ここで嘉子を救はずして、何のための物語かといふ次第である。尤も、嘉子は単なる物語の展開因に過ぎず、あくまで主眼はあれやこれやの末に壊れかけたところから元鞘に納まる、賢一と美紀とのロードムービーであつたにしても、流れる尺が満ちた辺りで予め決められた着地点に落ち着きましたといふだけで、中途半端かつ説得力には凡そ乏しい。そもそも、さういふ方便として人死にを軽んじる態度も如何なものか、ともいへる。嘉子に対する、憐憫の情が残されるばかりである。加へて、それらは今作特有の敗因として、もう一つ改めて気になるのが主演の石川裕一。昨今の国映作に好んで重用され、ひとまづ男前であるのと一通りのお芝居はこなせるのは兎も角、兎にも角にも、カッコいい場面にせよ情けない場面にせよ、画面に漲らせる力に決定的に欠けてゐる。今作散発的に映画が充実する華沢レモンとのツーショットを飾る佐野和宏と見比べてみれば、如何ともし難い正しく役者の違ひが歴然としよう。
 さうかうしてみると今作に唯一残された肯定的な評価の途としては、林由美香亡き後の“ピンク最強の五番打者”華沢レモンがまたしても見せた、終に全力を出すことはなかつたジャンボ鶴田ばりの余裕とでもいつたところか。第二作「18才 下着の中のうづき」(2001/脚本:井土紀州/主演:笹原りな)は確か面白かつたやうな感触もウッスラ残つてはゐるのだが、以降どうにも坂本礼が一向に喰へない。

 とこ、ろで。ズラズラズラッと結構多数クレジットされるその他出演者であるが、地下鉄駅入口で座り込んで泣く女に、賢一が嘉子と入る、白くはなつたもののリーゼントが昔と変らぬラーメン屋の大将。鈴木の妻子以外に・・・・・何処にそんな出てたかな?前田有楽にて再戦を果たしてなほ、鈴木敦子が如何なる形で見切れてゐたのか確認出来なかつたロストは、重ね重ね無念。


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