真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セクハラ就職面接 女子大生なぶり」(1997/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:上妻敏厚・新井豊/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:井戸田秀行・飯塚忠章/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:小泉志穂・青木こずえ・杉本まこと・久須美欽一・佐々木恭輔・小川真実)。
 これ東大なのか?殆ど闇に沈んだ夕刻の大学校舎、超氷河期の女子大生就職戦線に乗り遅れた旨の小泉志穂のモノローグが入つてチャッチャとタイトル・イン。世間は既に正月、ゼミの大先輩のデザイナー・福沢か福澤慶子の紹介で銀座にオフィスを構へる広告代理店、その名も「銀座広告社」の面接を取りつけた東大哲学科四年生―劇中履歴ママ、文学部が抜けてるよね―後に語られる専攻は現代フランス哲学の緒方涼子(小泉)は、依然正月休みにつき人事担当の杉村(杉本)一人の雑居ビルの一室を訪ねる。のつけから涼子の全身を思はせぶりに視線で舐めた杉村は絵に描いたやうなセクハラ面接全開、男性関係や月々の生理を問ひ質すに止(とど)まらず、直線的に押し倒し愛人契約を迫る。涼子が口唇性交の強要に歯を立てその場を離脱すると、要は杉村に涼子を売つた慶子(小川)が悠然と登場。慶子と杉浦がわざわざ屋上で一戦交へる一方、腹の虫の納まらぬ涼子の前には、結局涼子を落とした建設会社のリクルーター(佐々木)が現れる。一時期涼子は佐々恭と男女の仲にあり、以来別れた後も佐々恭は涼子をストーキングしてゐた。
 配役残り久須美欽一は、銀座広告社の一件は白々と惚けてみせた慶子が続けて涼子に紹介する、印刷業界の業界紙の面接官、机のデカさを見るに社長かも。青木こずえは、久須りんが涼子を面接する正にその最中、デスクの下に潜み久須りんの尺八を吹く名目上は秘書。一流の軽妙なメソッドで次第に悶え始め、激しく挙動不審に陥る久須りんに恐れをなした涼子はその場を退散。机下に沈み青木こずえと対面した久須りんは何故か明後日に発奮、放つ名台詞が「あの娘を入れてあの娘に挿れる!」。久須美欽一の類稀なバランスなり安定感は、もう少し博く評価されても罰は当たらないやうな気がする。久須りんとの事後涼子を追ひ駆けた青木こずえは、デスクの下に潜んでゐたことを白状し、慶子が涼子を売つた事実を突きつける。挙句にフリーのレンタルボディと自己紹介する青木こずえの颯爽とした姿に、涼子は動揺する。
 2001年新題が「女子大生 いたづら就職面接」、新旧ともにタイトルはポップな山邦紀1997年第二作。窮地に追ひ込まれたヒロインが、果敢に開き直り女の武器で逆襲、卑劣か惰弱な男供を蹴散らし華麗なる女性上位時代を築く。まるでプロットを旦々舎ジェネレーターに放り込んで自動出力させたが如き定番中の大定番の物語ながら、流石に些かならず苦しい。結局展開の動因が青木こずえの一押し一発勝負といふのは、そもそも“レンタルボディ”なる珍奇な意匠の外堀を埋める作業を清々しくスッ飛ばしてのけるところから無理がある。加へて、邪悪なハンサム・杉本まこと、綺麗に屈折する佐々木恭輔、晴々しく好色な久須美欽一。酸いも甘いも噛み分けた貫禄を漂はせる小川真実に、持ち前のフットワークの軽さで奇矯に飛び抜ける青木こずえ。曲者揃ひの俳優部の中で、三戦目にしてなほエクセスライクが抜けない主演女優が如何せん弱く、行間の果てしない突飛な後半を独力では凡そ支へきれない。女が勝利し男が負ければパブロフの犬よろしく喜ぶ幸福な観客でなければ、釈然としない物足りなさは否めない一作。寧ろ未だ世間を知らぬ涼子の青臭い理想主義を排し、冷たいリアリズムを吐き捨て捌ける、小川真実のラスト・カットにこそ深い映画的叙情を覚えた。


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