真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「家族ゲーム」(昭和58/製作:につかつ撮影所・NCP・ATG/配給:ATG/監督・脚本:森田芳光/原作:本間洋平/助監督:金子修介/出演:松田優作・伊丹十三・由紀さおり・宮川一朗太・辻田順一・戸川純・土井浩一郎・加藤善博・白川和子・佐々木志郎・阿木燿子・清水健太郎・・・なんて出てたんだ、他)。全くの別企画ではあるが、たまたま三ヶ月前に、「ブラックレイン」を観に行つたのと同じ小屋に観に行つた。

 「家族ゲーム」。今更この期にドロップアウト如きが、わざわざあれこれと言ふことなど最早残されてもゐないであらう。「阿修羅のごとく」(2003)は終に愛想を尽かして観に行かなかつた割には意外と評判が良かつたやうであるが、それ以前の数作では、<39>「刑法第三十九条」(1999)、「黒い家」(同)、「模倣犯」(2002)と単に詰まらないのを通り越して、観客を腹立たしくすらさせる(眠つてしまはなければ)映画ばかり撮つてゐた森田芳光の、言はずと知れた掛け値無しの最高傑作である。あれ、昨年の「海猫」(2004)は?>ええと、知りません
 兎にも角にも鑑賞。何も言ふことなど無い、などと言つてしまつては元も子も無いが、素晴らしい。間違ひ無く素晴らしい。文句無く面白い。国境はどうかは判らないが、時代は完全に超えてゐる。冒頭、優作が船にプカプカ揺られながら巨大な、そこで暮らす者の多さに反比例して呆れるくらゐに非人間的な団地にやつて来る辺りから、何だかもう訳も判らなくなつてしまふくらゐに、胸がワクワクしてワクワクして仕方がない。久し振りに、スクリーンがキラキラと輝いてゐるのが見えた。正直な所、フォーク・ボールのやうな急激な気温の低下に伴ひ、元々不安定極まりないドロップアウトの壊れ心は塞ぎがちであつたりもしたのだが、一発で復活した。ストレートに興奮した。その興奮は今でも全く冷めやらない。明日朝仕事に向かふまでは、このままこの幸福は持続するに違ひない。今デスるか?

 日本映画史上伝説の長回し、沼田家の最後の晩餐シーン。「おつとつと」、とでも言はんばかりにマヨネーズ・ドレッシングを食卓のあちらこちらに零し振り撒く優作。奇跡のやうな名シーンである。「ちよつとあんた、何やつてんだよ!」、父親、沼田孝助役の伊丹十三のツッコミ。今では二人共もうこの世には居ない哀しみなんて何処かに通り過ぎて、心から笑つた。優作は、父親は左の正拳下段突き、母親は首筋への右の手刀。兄貴には頭突き、そして教え子の弟・茂之(宮川)は張り手のブロックの応酬から、一発張らせた上で、今度は右の正拳下段突き。家族全員を仕留める。
 黙つて座つてゐるだけで、直線的な暴力も兎も角、それ以前にそれを超えて、何とも言はれぬ迫力を小屋の空気一杯に充満させる。正に松田優作といふ、稀代の映画俳優の本領が凄まじい勢ひで炸裂してゐる。お腹一杯になつた。軽く放心状態になる程満足した。優作の漂はせる暴力、乃至は迫力を心から堪能した。一言だけ故人に対して苦言を呈しておくと、優作すらの男にあつて、アクション映画を他より一段低く見る、何の根拠も無い怠惰な悪弊から逃れ得なかつたことは、重ね重ね残念なところではある。
 言つても全く詮ない上に、無茶苦茶なことを敢へて言ふと、もしも今でも優作が生きて活躍してゐたならば、たけし如きが観客を煙に巻くやうな映画ばかり撮つて悦に入ることなどなかつたであらう。哀川翔と竹内力とが日本一の男前を競ふやうなこともなかつたであらう。ドロップアウトが今一番惚れてゐるのは小沢仁志アニイであるが、かうして見ると申し訳ないが、矢張り優作とは文字通り役者が違ふ。

 とはいへ、毎年命日が近付くと銭ゲバ未亡人(長男と纏めてもうデスつて呉れんかいな)がムカつく蠢動をみせるのはひとまづさて措いて、優作が逝つてしまつてからもうオリンピックでいふと四回分にもなる。が、今は、少なくとも未だ興奮冷めやらぬ今だけは、不思議とそのことを哀しみ惜しむ気分にはない。優作が舞台俳優であつたならばまだしも、かうしてプリントは今でも残つてゐる。地方に住んでゐても辛抱強くチャンスを待つて、運が良ければかうして全盛期の輝きに今でも触れることが出来る。それはとても素晴らしいことである。前回「ブラックレイン」が掛かつたのは、パラマウント絡みのプロモーションの一環であつたが、今回の企画は、劇場自体を経営する会社の創立何十周年だとかである。今回このやうな機会に恵まれたことに、心からの感謝を表したい。

 ATG映画をスクリーンで観るのは初めてかとも思つたが、よくよく振り返つてみれば以前に神代辰巳の特集で、「青春の蹉跌」を観てゐた。「太陽を盗んだ男」は三回くらゐ観たことがあるので、何時か「青春の殺人者」も小屋で観たい。青春映画御法度のドロップアウトとしては(何となれば、人並の青春といふ奴を素通りして来てしまつてゐるからである)、青春をタイトルに冠する映画といへば、「青春の蹉跌」と「青春の殺人者」の二本しか認めない。裕也の実質的デビュー作(以前にドリフの映画にカメオ出演してゐるのは観た)「不連続殺人事件」も観たいが、まだちやんとプリントは残つてゐるのであらうか。


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