真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「OL官能日記 あァ!私の中で」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:小沼勝/脚本:宮下教雄/プロデューサー:樋口弘美/撮影:水野尾信正/照明:木村誠作/録音:橋本文雄/美術:徳田博/編集:鍋島惇/音楽:高田信/助監督:中川好久/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:高橋信宏/出演:小川亜佐美《新人》・中島葵・日野道夫・立原昌子・工藤麻屋・山田克朗・村国守平・浜口竜哉・堺美紀子・雪丘恵介・森みどり・小見山玉樹・影山英俊・中平哲仟)。出演者中、小見山玉樹と影山英俊は本篇クレジットのみ。各種資料に見られる企画の奥村幸士が、本篇クレジットには見当たらず。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 団地外景で開巻、朝食の洗ひものを片付ける鈴村亜佐美(小川)に、父親の耕平(日野)は帰つてからにするやう促す。二人暮らしの父娘―全く登場しない母親は既に故人―で仲良く出勤、電車と雑踏の画を連ねた上で、オフィスビルの窓の海にタイトル・イン。総務か営業以外の、明示はされない何課かでタイピストとして薄らぼんやり働く亜佐美は、如何にも機械機械した当時のタイプで手を怪我したか汚したらしく手洗ひに。手を洗つてゐた亜佐美が妙な気配を感じ身を潜めると、個室から誰彼構はず寝るゆゑ“公衆便所”の異名を誇、れない同僚の泉田駒子(中島)が、矢張り同じ課の戸倉(浜口)と出て来る。一方、亜佐美の後方の席の葉子(?濡れ場ありのビリング推定だと立原昌子なのだが、工藤麻屋の気がする)も目配せした亀田(影山)と物置に消え、かくいふ亜佐美は亜佐美で、課長の松木(山田)と不倫関係にあつた。
 配役残り、兎にも角にもこの二人の劇中固有名詞を呼称して呉れないのが致命傷。影山英俊と物置部屋にて致すのが工藤麻屋で当たつてゐるとすると、消去法で立原昌子が、亜佐美の隣席、間食大好きはつ子。村国守平は、亜佐美がはつ子・葉子とブラブラしてゐたところ、はつ子が喰ひつく形でミーツする一見ニヒルなヒヨコ売り・犬山。赤青に着色されたケミカルなヒヨコが、時代を感じさせる。小学生時分校門の表に時々ヒヨコ売りが来てゐた記憶があるけれど、今でも残存してるのかな?小学校敷地を一歩外に出た子供を捕まへる、今にして思へば大概な商売ではある。黒い宮内洋こと中平哲仟―何だそれ(´・ω・`)―は、亜佐美と犬山の再会を御膳立てする格好の、犬山をボコる強面のトラック運転手。小見山玉樹と堺美紀子に雪丘恵介は、鈴村が亜佐美に見合を薦める年の離れた同僚の塚本と、その両親。そもそもコミタマを娘と見合させる神経からどうかしてゐるとしか思へないが、二人きりで会つた喫茶店。アッサリ見切られたコミタマが、颯爽と立ち去る亜佐美に追ひ縋らうとして椅子に激突し前のめりに倒れる撃沈芝居が何気に絶品。ロマンポルノ如きシネフィルの観るものと捻くれた高を括つてはゐつつ、イイ情けなさで端役のキャリアを量産する、コミタマを見つけたり追つ駆けるのが楽しくなつて来た。俺なりのロマポが、始まつたのかも知れない。何処にどういふ形で飛び込んで来るのか全然読めなかつた森みどりは、亜佐美と松木が泊まる湖畔の宿の仲居。
 大体ロマポ一筋に戦ひ抜いた感の強い小川亜佐美のデビュー作は、OL日記シリーズが終了したのちの小沼勝昭和52年第一作。日活製作狭義のOL日記は、「OL日記 牝猫の匂ひ」(昭和47/監督:藤井克彦/脚本:西田一夫/主演:中川梨絵)から、「OL日記 猥褻な関係」(昭和50/監督:白井伸明/脚本:佐治乾/主演:二條朱実)まで全六作。その他東映ニューポルノの「純情OL日記 誘惑」(昭和49/監督:早坂紘/脚本:佐久次郎/主演:高畑梨絵)とナウポルノの「夜のOL日記 肉人形」(昭和54/監督:東元薫/脚本:宗豊/主演:東祐里子)、山本晋也の買取系「OL日記 しやぶり責め」(昭和57/脚本:山田勉/主演:松原玲子)に、元号と世紀をも超えて森山茂雄第五作「OL日記 あへぐ牝穴」(2003/脚本:佐野和宏/主演:佐々木日記)。時代に埋もれたOL日記の掉尾を、忘れた頃に森山茂雄が飾つてゐるのが感慨深い。
 映画の中身に、入る前に。兎にも角にも良くも悪くも凄いのが、凄まじくリップシンクがへべれけ、間違つてもよかねえか。そこかしこどころでなくあまりにもズレッズレで、否応なき拭ひ難い違和感がシュールレアリズムの界隈にでも突入しかねない始末。この時何を考へてだか血迷ふたか、腐つても天下の日活が斯様な代物を世に出したのか。シネキャビンでアドリブを爆走させる、唇と台詞の親和なんぞ取るに足らない些末とばかりに、予め放棄してのける久保チンの方がまだしも芸になつてゐる。
 改めて映画の中身も映画の中身、駒子が予想外にカッ飛ばした逆転ホームランや、松木の利己的な姿に亜佐美が揺れ動く。今でいふ自分探し的な物語は、ヒヨコに乗つた王子様たる犬山の造形が、まるで以てエバーグリーンたり得ない古めかしい類型性の範疇に囚はれる逆風にも足を引かれる。二人が一旦結ばれるのが、全体的な構成上些か早過ぎたのではなからうかと思へたのは、逆算すると仕方がなかつたのかも知れない、としても。挙句レギュレートされた尺さへ派手に持て余し、確かにタイプで一文字だけ打つた伏線もなくはないとはいへ、延々と流し倒すカルメン・マキ&OZの「私は風」に頼りきりのラストは、失するほどの求心力もそもそも疑はしく、ついでに小川亜佐美は走り姿があまりでなく決して美しくはない。


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