真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・ペッティング 激しい息づかひ」(1994『ザ・ペッティング 吸つて咬む』の2007年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/脚本:謎野搭反故仁/企画:森あきら/撮影:中尾正人/照明:井和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/照明助手:小田求/撮影協力:新宿ビッグアップル/出演:吉行由美・石原ゆり・伊藤清美・林由美香・池島ゆたか・伊藤猛・杉本まこと・樹かず)。脚本は、新版ポスターでは“謎野搭反故人”、謎野搭反とかいふ人が死んだのか。一体誰の変名なのだといふ以前に、そもそも読み方から判らない。
 マンションの一室に開かれたブルセラショップ「ビッグアップル」、店長・探偵(←これが役名/池島ゆたか)のつけた値にリサ(林)が不平を唱へると、それならばと探偵は十万の追加と引換へにビデオの撮影を持ちかける。ホイホイ乗つて来るリサに、店員の里美(伊藤清美)は眉をひそめる。玄関のドアに下つたビッグアップルの手書きの看板には、“レディース探偵所”といふ文言が書き添へてあつた。制服を売りに来たにしては凡そ不釣合ひな大人の女・吉江(吉行)が、ビッグアップルを訪れる。夫の不倫を終らせるべく、レディース探偵所の別れさせ屋の評判を頼つて来たのだ。そこに出前持ちの凶坊(伊藤猛)が、大量の料理を持つて現れる。何故だか凶坊も交へ、探偵・里美は盛大に飲み喰ひ始める。焦りを隠さない吉江に急かされ、探偵は安価でしかも事が早く済むものの、頗る乱暴な手口の“別れさせ”に着手する。
 杉本まことは、吉江の夫・政之で石原ゆりが、政之の不倫相手・未来。探偵は吉江の車で未来宅に向かふと、実は部下だつた凶坊を未来宅に突入させる。凶坊に未来を犯させると同時に政之の情けない姿を見せつけ、二人を別れさせるといふのである。車中で成り行きの次第を見守りながら、返す刀で探偵は吉江をオトしてみたりなんかする。返す刀でとはいひながら、詰まるところ探偵は仕事は実働部隊の凶坊に全て任せ、実は自分は何もやつてゐなかつたりもするのだが。
 とかいふ類型的なプロットの中、強ひて特筆すべきは。「ア・ホーマンス」時の松田優作ばりの伊藤猛の若さと、凶坊が未来に、探偵は吉江にと長々と開陳する、無闇に観念的な台詞の数々。性の本質は暴力だ、だが然し文明の爛熟が性をファッションやゲームに変へた。なので、「進歩とは退廃なのだ」だとか。世の中には男と女しか居ないのに、皆「男は」「女は」と持論に喧しい、だとか。喧(かまびす)しいなんて単語、ピンクの台詞の中では初めて聞いたやうな気がする。池島ゆたかと伊藤猛、互ひにベクトルは異なるものの、贔屓目に見てもピンク俳優の中で台詞回しの微妙、といふかアレな二大巨頭に観念的な長台詞を展開させる無謀の極みは、今となつて眺める分にはいい感じで甘酸つぱい。伊藤清美と林由美香に加へ吉行由実と石原ゆりといふ強力なツートップを揃へておきながら、中尾正人の新東宝風の、いい意味でも悪い意味でも都会的な撮影が、イマイチ質感を伴はせたいやらしさを刻み込めない辺りは少々残念だが。
 ひとつ「いいな」と思つた件、吉江と二人きりの車中、探偵はカーラジオのボタン式のダイヤルを、雑音しか入らない周波数に合はせ、吉江は不審がる。未来宅に忍び込んだ凶坊が盗聴器をセットすると、カーラジオからは室中の模様が、吉江は理解する。基本線では工夫に欠ける探偵物語の中で気が利いてゐるとも思つたが、よくよく考へてみると、そこいら辺りは全くの門外漢なのでよく判らないが、盗聴器が使用する周波数帯は中波なのか?

 未来は凶坊に後ろから突かれながら、宅配のピザを注文する。未来が眠つてしまつた隙に、凶坊は姿を消す。樹かずは、ピザを届けに上がつたところ股の虫が治まらない未来に強チンされてしまふ少年。だから、“少年”といふ役名である。役名は劇中では一切呼称されることはない反面、出演者クレジットには併記されるのが非常に助かる。


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