真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟女藤本聖名子 悶絶色狂ひ」(1992『女医聖名子 私をベッドに連れてつて』の2000年旧作改題版/製作:CARNIVAL カーニバル/提供:Xces Film/監督:林功/脚本:林功/プロデューサー:熊谷博史/キャスティング・プロデューサー:鳥海雅明/撮影:伊東英男/照明:柴崎江樹/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/美術:今井英明/編集:金子尚樹/メイク:酒井智恵子/音楽:姫田伸也/スチール:池之平昌信/助監督:高田宝重/制作進行:沖本健一/主演:藤本聖名子/出演:水野ありさ・中西弓子・牧村耕治・木下雅之・野沢明弘・玉井謙介)。出演者中牧村耕治と野沢明弘が、ポスターには牧村耕次と野沢明宏。
 室内を軽く舐めて、ベッドの上では藤本聖名子が木下雅之に抱かれてゐる。これで伝はり易いのかにくいのか我ながらよく判らない物言ひで恐縮ではあるが、男女の結合部とカメラの間に花瓶等を置くのにちやうどいい中間距離を定位置に、適宜寄るのが―主演女優の―絡みに際して全篇を貫く顕著なカメラワーク。良質の撮影と端正な演出とに支へられた、ねつとりと綺麗な絡みは女の喘ぎ声と男の呻き声のほか一言の台詞もなく五分突破、ところがいざ挿入してからは案外早く、女医の聖子(藤本)は同業者の交際相手・沢村(木下)に不平を垂れる。聖子の勤務先は、大先輩の戸田(牧村)が開業する歯科医。大学で教鞭も執る戸田は週三日医院を空けざるを得ず、その間は聖子が診察してゐた。その間はといふか、半分以上ぢやないか。ある日忘れ物を取りに戻つた聖子は、閉院後の院内にて受付兼歯科助手(ビリング推定で水野ありさ)と出入りの製薬会社セールスマン・湯浅(野沢)が致す現場を目撃。未だ絶頂を知らない聖子は、ノジーに抱かれ達する受付嬢の姿に、元々募らせる不満を一層拗らせる。
 配役残りjmdbにも記載がない―最後に記載されてゐるのは昭和60年の加藤文彦ロマポ―ゆゑ、もしかすると今作がラスト・アクトとなるのかも知れない玉井謙介は、大して悪くもないのに病院に入り浸る入れ歯爺。もう三名見切れる患者要員には手も足も出ないが、その中に一瞥といふか一撃でその人と知れる高田宝重はゐない。不完全消去法で中西弓子が、膳を据ゑる気満々で聖子が戸田に連れられた、クラブ「アデン」のママ。結構な美人であるのに脱ぐ気配がなかなかどころかまるで窺へず、時機を失した投入が展開を散らかす危惧を徐々に膨らませてゐたところ、結局三番手を温存もしくは封印したまゝ済ますそれはそれとしての賢慮には、グルッと一周して感服した。出すと決まつてゐる、あるいは普通出るものを、あへて出さない勇気。
 ロマポ終焉後は二作早志宏二の変名も使用してゐた、林功の名義を戻した1992年第一作にして、純正ピンク第三作。恋人の拙いセックスに飽き足らない女が、年長者の熟達した性戯にうつゝを抜かす。話としては如何にも量産型裸映画らしいお話とはいへ、丁寧な画作りだけで一時間をそれなりにサクサク見させるのが逆に凄いともいへるのか、“うつゝを抜かす”と掻い摘んだそこから微動だにしないスッカスカの物語には寧ろかある意味、裸映画に裸以外のものを求める色気を許さない強い意志が感じられなくもない。沢村の下手は下手なりの努力ないしは、聖子が妻子ある戸田と関係を持つことに対してのアデンのママの忠言。展開の舵を切る契機なりタイミングが必ずしもない訳ではなかつたにも関らず、聖子はといふと戸田との情交に喜悦するに一貫して終始。締めの濡れ場で振り逃げるまで、一直線に駆け抜けるラストは清々しいといへば清々しいものの、となると根本的な問題を残すのが、聖子の対沢村と戸田とで、濡れ場のトーンが特にどころか全然変らない点。戸田と沢村の上手下手が観客にも判る形で描かれてゐないではそもそも聖子が来す中毒症状が成立しないのだが、ホケーッと藤本聖名子の痴態を眺めてゐる分には、別に困りはしない些細な難癖であつたりもする。それと間違ひなくいへるのは、玉井謙介を起点に投げる、高齢化社会もしくは老人医療に関して口先で転がす程度の時事意識は、枝葉が繁る幹が存在しもしないのに確実に要らん。

 咥へて、もとい加へて。エクセスの―特に―新題にツッコミを入れるのも大概大人げないのは重々承知の上で、それにしても劇中二十五歳のヒロイン―因みに藤本聖名子は公称昭和45生―を捕まへて、“熟女”と称する熟女の低年齢化。あるいは、筋金入りの幼児性愛視点からだと、二十五歳なんてとうに熟女の領域に突入してゐるとかいふのか。尤も、その昔のAV畑では逆に、十分に成熟してゐる女でも、“美少女”一点張りの風潮があつたやうな気もする。


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