ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第1部:租税法の基礎理論  第02回:租税の分類

2019年09月27日 00時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 日本の実定法が定める租税には様々なものが存在する。これらは、勿論、無秩序に、あるいは相互に無関係に存在するのではなく、一定の体系性を有する。ここで、租税の分類などを概観する。

 

 1.国税と地方税

 国税とは、国が租税主体として賦課・徴収する租税のことである。所得税、法人税、消費税、相続税・贈与税、酒税、関税などが該当する。国税の場合は、単一の法典ではなく、国税通則法や国税徴収法などの一般的な法典と、所得税法、法人税法など、個別の法典により規律される。これはドイツにならった方式である。

 一般法とは言い難いが、所得税法、法人税法などの個別法典に規定される原則を、様々な政策のために修正する特別措置をまとめた法律がある。租税特別措置法である。この法律に定められる特別措置は、主に非課税や租税負担の軽減のためのものであり、一般的に特別措置というとこの種のものを指すが、租税負担を加重する特別措置も存在する。また、単なる租税負担の加重とは意味を異にするが、国際的租税回避を防止するための規定として、租税特別措置法第40条の4および同第66条の6がある。これらも租税を軽減するための特別措置ではない。なお、租税特別措置は租税特別措置法に定められるのが一般的であるが、所得税法や法人税法などの一般法に規定されることも多い。

 地方税は、普通地方公共団体および特別区が租税主体として賦課・徴収する租税のことであり、さらに都道府県税(地方税法では道府県税という)と市町村税とに分かれる。個人住民税、法人住民税、個人事業税、法人事業税、固定資産税、都市計画税、地方消費税などが該当する。地方税の場合は、国税と異なり、租税手続を含めて地方税法という単一の法典により規律される。これはアメリカやフランスと同じ形式である。

 日本においては、国税のほうが全体に占める収入の割合が多く、また、主要な税源も国税のほうに配分されている。このため、実際の事務量などは地方公共団体全体のほうが多いにもかかわらず、租税収入は国のほうが多いという問題がある。

 なお、「第1部:租税法の基礎理論 第01回:租税とはいかなるものであるか」に述べたように地方交付税および地方譲与税が存在する。

 地方交付税は、国税のうち、所得税、法人税、酒税および消費税のそれぞれ一定割合、ならびに地方法人税の額を、国が地方自治体に交付するものである(地方交付税法第2条第1号)。従って、地方交付税という名称ではあるが、国から地方公共団体への交付金であって、租税ではない。詳細については地方交付税法を参照されたい。

 また、地方譲与税は、国税ではあるが、その収入の一定割合を地方自治体に譲与するものであり、その目的が法律に定められているものである。ここでは、例として特別法人事業譲与税および森林環境譲与税をあげておく。

 

 2.内国税と関税

 関税は、国税のうち、外国からの輸入貨物に課されるものである。これ以外が内国税である。内国税と関税とでは、扱う行政組織が異なる。内国税を扱うのは国税庁・国税局・税務署であり、関税を扱うのは税関である。また、関税については、関税法および関税定率法、さらに国際条約が適用されており、原則として、国税通則法、国税徴収法の適用が排除される。

 

 3.直接税と間接税

 伝統的な学説によると、直接税と間接税は、それぞれ、次のように定義されてきた。

 まず、直接税とは、納税義務者と担税者が同一であることを立法者が予定する租税をいう。これに該当するとされるのが所得税、法人税、相続税、固定資産税などである。

 これに対し、間接税とは、納税義務者と担税者とが異なり、納税義務者が租税負担を別の者(担税者)に転嫁することを立法者が予定する租税をいう。これに該当するとされるのが消費税、地方消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、関税などである。

 上記のような定義について、故木下和夫教授は「一般的にはわかりやすいが、厳密に定義していくときには非常にあいまいな区分になってしまうという性格を持っている」と述べる〈木下和夫「租税構造の理論と課題」木下和夫編著『租税構造の理論と課題(21世紀を支える税制の論理第1巻)』〔改訂版〕(2011年、税務経理協会)7頁〉

 直接税と間接税との区別は、一般的に転嫁の有無を基準にするものとして説明されてきた。直接税、間接税のそれぞれについて上記のように理解するならば、転嫁を基準にせざるをえない。しかし、実際には、直接税であるから転嫁がなされない、あるいは、間接税であるから必ず転嫁がなされる、ということにはならない。市場においては、当事者の力関係などにより、転嫁の有無が決定されるから、間接税であっても租税負担が転嫁されないという場合が存在するのである。これに対し、法人税は直接税であり、納税義務者と担税者が同一であるとされるが、実際には、法人が取引活動などをなす際に、法人税負担分を価格に上乗せし、相手方に実際の負担を転嫁するという現象が存在する。

 故木下和夫教授は、次のように述べる。

 「転嫁の大きさの程度によっては、例えば消費税において完全に転嫁されれば間接税になるが、消費税が市場の状況によって全く転嫁されないときには直接税(つまり事業者課税)になってしまうことになる。あるいは、所得税を例にとってみても、被雇用者の所得税のほとんどが源泉徴収の方法によって勤務先の事業主が納税するが、その税負担は被雇用者が負うというのであれば、個人所得税の大部分は直接税ではなくて間接税なのか、ということになる。直間比率は、あいまいな定義に基づく租税の分類基準であるために、厳密な議論をする場合には混乱をひきおこすことになる。/現代では、このような状況をふまえて、直接税、間接税の分類基準はむしろ形式的かつ直観的なものであり、課税当局の行政上の分類として用いられているにすぎないというべきであろう。」〈木下・前掲書7頁。/は原文改行箇所。〉

 金子宏教授は、直接税とされる固定資産税を例にとり、固定資産の所有者が固定資産税の分を地代や家賃に含めて借地人や借家人に転嫁するという現象、すなわち、固定資産税の実質的な負担を所有者ではなく、借地人や借家人がなすという現象が存在することを指摘し、「最近では、むしろ、所得や財産など担税力(租税を負担する能力のこと)の直接の標識と考えられるものを対象として課される租税を直接税と呼び、消費や取引など担税力を間接的に推定させる事実を対象として課される租税を間接税と呼ぶことが多い」と述べる〈金子宏『租税法』〔第二十三版〕(2019年、弘文堂)16頁〉

 固定資産税(都市計画税が課されている市町村においては都市計画税も含めて)の転嫁について記すならば、固定資産の所有者が借地人や借家人に税額(少なくともその一部)を転嫁しなければ、固定資産を維持し難いという場合も少なくないであろう。同様のことは不動産所得税についても指摘しうるので、その限りにおいて所得税も転嫁されうることになる。もっとも、固定資産税や不動産所得税の場合、固定資産の所有者に転嫁の意識があるか否かについては、議論の余地もあろう。それに、転嫁云々を言い出すならば、譲渡所得税などについても認めざるをえないのではなかろうか。

 また、神野直彦教授は「直接税と間接税は、租税負担の転嫁の有無を基準とした分類だと考えてよい」としつつ〈神野直彦『財政学』〔改訂版〕(2007年、有斐閣)149頁〉、実際の転嫁の有無を判断することが難しいという事実を指摘する。その上で「法人税が転嫁されていることを実証する研究が続々と現れている」としていくつかの研究を紹介し、「法人税の転嫁を肯定する議論が、常識になっているといってもよい」、「シュタインがいうように、転嫁は不可知論の領域に属するといったほうがよいかもしれない」、「転嫁の有無を分類基準とする直接税と間接税の区別は、きわめて曖昧な租税の分類基準となる。そのため直接税と間接税の区別は、実際の転嫁の有無でなく、立法上の規定に委ねられるようになっている。つまり、法律上、納税者が負担することを予定している租税が直接税であり、納税者が負担しないで、取引相手が負担することを予定している租税が間接税、と理解されている」と述べる〈神野・前掲書177頁。結果的に、私の説明と同じ趣旨である〉

 以上と異なる説明をなすのが吉田浩教授である。吉田教授は、納税義務者と担税者との異同による直接税と間接税との区別について「これではサラリーマンの給与からの源泉徴収による所得税を直接税と説明することができない」として「最近の説明では直接税は『税負担者の個別事情を考慮できる税』、間接税は『税負担者の個別事情を考慮できない税』とも説明されている」と述べる〈畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』(2008年、有斐閣)204頁。源泉徴収による所得税については、故木下教授も「被雇用者の所得税のほとんどが源泉徴収の方法によって勤務先の事業主が納税するが、その税負担は被雇用者が負うというのであれば、個人所得税の大部分は直接税ではなくて間接税なのか、ということになる」と指摘する(木下・前掲7頁)〉。また、鈴木将覚教授は「直接税が個人の経済的事情を反映させることが可能な税であるのに対し、間接税は無記名の課税ベースに対して課税が行われるという点が重要である」と述べる麻生良文・小黒一正・鈴木将覚『財政学15講』(2017年、新世社)89頁[鈴木将覚担当]〉。表現は異なるが、後に示す北野博士の説明と同旨である、と考えてよいであろう。

 租税負担の転嫁の可能性は、財政学の観点に立った場合の議論であると言うべきである。勿論、法律学においても、立法政策などを考慮に入れるならば、転嫁の可能性の有無は重要であるが、法律学の観点に立った場合には、租税法律関係に着目すべきであろう。北野弘久 博士は「直接税の場合には、税法上は納税義務者と担税者とが一致することが予定されているために、ほんとうの納税者である担税者も租税法律関係の当事者としての法的地位を取得することが予定されている。逆に、間接税の場合には、ほんとうの納税者である担税者は、租税法律関係の当事者としての法的地位が与えられず、法形式的にも租税法律関係から排除されることが予定されていることを意味する」と述べる〈北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)7頁[北野弘久担当]〉

 (4)人税と物税

 人税とは主体税ともいい、主に人的な側面に着目して課されるものであり、所得税、相続税などが該当する。これに対し、物税とは客体税ともいい、主に物的な側面に着目して課されるものであり、消費税や固定資産税などが該当する。

 (5)収得税・財産税・消費税・流通税

 これは、担税力の標識および課税物件の相違を基準とした区別である。

 収得税は、収入に着目して課される租税であり、直接的に所得を対象とする所得税(法人税、住民税なども含まれる)と、人が所有する生産手段から得られる収益を対象とする収益税(事業税や鉱産税など)とに分かれる。なお、相続税および贈与税は、所得税の補完税として考えるならば収得税であるが、次に説明する資産課税(財産税)と捉える説も存在する。

 北野編・前掲書は、所得税のうち、譲渡所得および山林所得を「所得課税法」の項目においてではなく、「資産課税法」の項目において扱う。

 財産税は、財産の所有に着目して課される租税であり、人の財産の全体や純資産を対象とする一般財産税と、特定の種類の財産を対象とする個別財産税とに分かれる。日本においては、かつて、一般財産税として富裕税が存在したが、既に廃止されている。相続税および贈与税は、財産税とすれば一般財産税に含まれることとなる。これに対し、個別財産税には、地価税、固定資産税、自動車税などがあり、重要な地位を占めている。

 金子・前掲書17頁は、一般財産税の例として、1946(昭和21)年に導入された財産税と1950(昭和25)年に導入された富裕税をあげる。

 消費税は、物品やサービスを購入し、消費することに着目して課される租税である。ゴルフ場利用税や入湯税のように、消費行為そのものに課されるのが直接消費税であり、製造業者や小売人により納付された租税が販売価格に含められて消費者などに転嫁されることが予定されるものが間接消費税である。例として、消費税、酒税、たばこ税などをあげうる。

 さらに、間接消費税は、課税対象に応じて個別消費税と一般消費税とに分かれ、課税段階に応じて単段階消費税と多段階消費税に分かれる。このため、理念的には単段階個別消費税、多段階個別消費税、単段階一般消費税、多段階一般消費税の四種が存在しうることとなるが、日本の税制には、現在、多段階個別消費税と単段階一般消費税は存在しない。

 個別消費税は、課税対象が特定の物品またはサービスに限定されるというものであり、酒税、たばこ税などが該当する。これに対し、一般消費税は、課税対象が原則として全ての物品およびサービスであるというもの、すなわち、課税対象が原則として限定されないものをいう。消費税および地方消費税が該当する。

 また、単段階消費税は、一つの取引段階のみで課税を行うものであり、酒税、たばこ税などが該当する。これに対し、多段階消費税とは、複数の取引段階で課税を行うものであり、消費税および地方消費税が該当する。

 流通税は、権利の取得や移転など、取引に関する様々な事実行為や法律行為を対象として課される租税である。登録免許税、印紙税、不動産取得税などが該当する。

 (6)普通税と目的税

 普通税とは、収入の使途を特定の経費に充てることを予定せずに課される租税である。近代立憲国家においては普通税が原則とされている。これはノン・アフェクタシオンの原則と言われるものであり、財政法第14条、会計法第2条および地方自治法第210条にいう総計予算主義の要請でもある。

 これに対し、目的税とは、当初から収入の使途を特定の経費に宛てることを予定して課される租税である。法律によって支出目的が規定されているため、例外として扱われる。

 しかし、最近では、支出目的の限定という面に着目し、目的税が応益原則に資することが強調され、再評価の機運も見られる。また、地方分権に伴う課税自主権の強化の一環として、法定外目的税の活用例が増えている。

 たしかに、目的税により、税収の使途の明確化が期待できる部分があることは否定できないのであるが、次に示すような問題があり、法定外普通税を含めて懸念を抱かざるをえない。

 第一に、目的税を多用するならば「財政の統一的運営を困難に」し〈金子・前掲書20頁〉、財政の硬直化を招きやすくなる。特定財源についても同様のことを指摘しうる。

 金子・前掲書20頁、拙稿「地方目的税の法的課題」『地方税の法的課題(日税研論集46号)』(2001年、日本税務研究センター)284頁。なお、碓井光明『要説地方税のしくみと法』(2001年、学陽書房)37頁、伊川・前掲35頁を参照。

 第二に、議会の予算審議権・議決権の範囲を狭め、結局は国民主権、地方自治における団体自治・住民自治の原則に反する結果につながりかねない。

 拙稿・前掲日税研論集46号285頁。なお、碓井・前掲書38頁、宮入編著・前掲書31頁[松井吉三担当]、同書134頁[松井]も参照。

 第三に、本来、地方税は住民生活の基盤整備という目的を有するはずであるが、第一次地方分権改革による法定外普通税・法定外目的税の制定の動向はこの目的と異なる方向に進んでおり、結局は課税しやすいところに課税するという傾向が見受けられる。東京都の宿泊税はその典型であり、東京都に居住し、都内の宿泊施設を利用する住民はもとより、課税団体である地方公共団体の域外に居住する住民や企業など、参政権がなく、当該地方公共団体の住民税の納税義務者でもない者を宿泊税の納税義務者としている※。地方自治法第10条第2項に規定される負担分任の原則から逸脱していることは否めず、第二の点と同様に国民主権・民主主義の観点からは問題とせざるをえないし、租税体系に歪みを生じさせる危険性が高いことも否定できない※※。

 ※「ホテル等」は、東京都宿泊税条例第6条第1項により、特別徴収義務者とされる。なお、ここにいう「ホテル等」は、同第2条において「旅館業法(昭和23年法律第138号)第3条第1項の許可を受けて行う同法第2条第2項又は第3項の営業に係る施設」と定義される。

 ※※東京市町村自治調査会『課税自主権と法定外税調査研究報告書』(2004年3月)178頁。これは、大分大学教育福祉科学部助教授であった私へのインタビューをまとめた記事である。同書179頁には増田英敏教授へのインタビューをまとめた記事も掲載されているので、参照されたい。

 

 ▲第3版における履歴:2019年9月27日掲載。

 ▲第2版における履歴:「第1部:租税法の基礎理論 第1回:租税とはいかなるものか」を参照。本記事は、第2版における「01 租税と租税法」の一部を分離独立させたものである。

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