ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

2018(平成30)年もあと少しとなりました

2018年12月31日 08時00分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

 今年は、4月から大東文化大学の法学研究所長となり、11月3日には新潟大学で行われた日本財政法学会の研究報告を担当するとともに、8年以上も務めた同学会の監事から理事となりました。

 今日も23時半から、毎年一度も欠かさず見ているジルヴェスターコンサート(テレビ東京系)です。年末年始のテレビ番組はこれしか楽しみにしていないので、仕事に打ち込めたりします。

 もう一つ。このブログには書かなかったのですが、今年はフィリアホールで、アルト・サックスの矢野沙織さんの演奏を聴き(テレビ朝日系列の「報道ステーション」のテーマ曲などでおなじみですが、彼女の場合はフリーキーな演奏も魅力です)、クラリネットの橋本杏奈さんの演奏を聴き(イギリスものだけではなく、ブラームスのクラリネット・ソナタなども聴いてみたいものです)、そして11月24日の「クロード・ドビュッシー没後100年[室内楽回顧展]」(フィリアホール25周年記念コンサート。吉野直子さんを初めに7人が出演)を聴くことができました。私が行ったフィリアホールのコンサートで外れたことはほとんどありませんが、この3つのコンサートは大正解でした。

 さらにもう一つ。今年は、このブログで取り上げた"John Coltrane, Both Directions at Once, The Lost Album""Eric Dolphy, Musical Prophet : The Expanded 1963 New York Studio Sessions"が発売されました。勿論、購入しました。中学生時代に、たしか溝口でコルトレーンの「ジャイアント・ステップス」を、高校に入って間もない1984年4月下旬にドルフィーの「ラスト・デイト」を秋葉原で購入してから、この二人が残してくれた演奏を何度聴いたことでしょうか。1984年8月31日に初めて行った六本木WAVEで、購入するか否かに関わらず、必ずコルトレーンとドルフィーのアルバム(LPやCD)はチェックしていました。しかも、ドルフィーはコルトレーンのバンドに参加したことがあり、凄いという言葉では足りないくらいの演奏をしていたのです(正規で発売されたインパルス盤よりも、海賊版での"Mr. P. C."や" Miles Mode"のほうがわかります)。

 私のジャズ趣味は、かなりの程度でコルトレーンとドルフィーの影響を受けています。コルトレーンが演奏する「チェイシン・ザ・トレーン」、「マイ・フェイバリット・シングス」(これはやはり日本最終公演での演奏が最高でしょう。テナー・サックスのソロでEマイナーを抜けてEメジャーに入った瞬間の数小節のソロは、そのまま、口笛で吹けるほどに頭の中に入ってしまいました)、「アフロ・ブルー」、「至上の愛」、ドルフィーが演奏する「アウト・ゼア」、「ミス・アン」、「エピストロフィー」(モンクの演奏より好きです)、「アイアン・マン」というような曲ばかり聴いていたからかもしれません。

 コルトレーンは1967年7月に、ドルフィーは1964年6月に亡くなっていますから、1968年生まれの私は彼らと全く時を共有していませんが、良い物に時間差も何もありません。

 

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うしでんしゃ 横浜高速鉄道Y000系デハY013+クハY003

2018年12月30日 00時00分00秒 | 写真

2018年10月11日から2020年3月末までの期間限定で、横浜高速鉄道こどもの国線(第二種鉄道事業者として東京急行電鉄が運営)で「うしでんしゃ」が走っています。

 こどもの国線の起点、長津田駅(KD01、DT22)の7番線に「うしでんしゃ」が到着しました。撮影日(12月26日)はこどもの国の休園日だったのですが、何故か子どもが多かったのでした。こどもの国ではなく、この電車が目当てなのでしょうか。

 「うしでんしゃ」としてのラッピングが施されているのは、横浜高速鉄道のY000系デハY013+クハY003です。上の写真の車両はデハY013で、こどもの国側(下り側)の電動制御車です。奥(6番線)には田園都市線で長らく活躍を続ける東急8500系が停まっています。

 Y000系は1999年に製造された車両で、目黒線で活躍する東急3000系を基にしていますが、側面が3扉、ATOやTASCのための装置が付かず、など、線区に応じた違いもあります。但し、ワンマン運転対応であることは共通しています。

 なお、Y000系は、こどもの国線用の電車としては5代目にあたります(初代および2代目は東急旧3000系、3代目は東急で2両しかなかったアルミ車体の7200系デハ7200+クハ7500、4代目は東急旧7000系)。 

 こどもの国線は、元々、現在のこどもの国の位置にあった田奈弾薬庫から長津田駅までの専用線の跡を活用した路線で、1967年に開業しました。こどもの国の開園からおよそ2年後のことです。

 開通時から長らく、線路などの施設をこどもの国協会が保有しており、東急が委託を受けて運行していました。そのため、この線を定期運行のために走る車両は東急の社紋を外して(または隠して)いました。もっとも、東急では自社の路線として扱っているのですが、運賃が全くの別立てであるため、注意深く見れば東急線でないことは明白です。

 鉄道事業法の施行とともに、こどもの国協会が第三種鉄道事業者、東急が第二種鉄道事業者となりましたが、こどもの国への来園者のための路線であるという性格は変わらず、始発は8時台、終発は18時台、平日ダイヤ、休日ダイヤとは別に休園日ダイヤがありました。横浜市内の路線ですが、単線で運行本数も少なく、通勤通学には使えないような路線でした。

 しかし、1980年代から、横浜市内にしてはのどかなこの沿線にも宅地化が進み始めました。通勤路線化の要請もあったといいます。そのためには本数を増やすなどの対策を採らなければならないのですが、こどもの国線の第三種鉄道事業者がこどもの国協会であるということが問題となりました。同協会は社会福祉法人であるため、通勤路線を保有するとなれば法人の目的から逸脱します。そこで、1997年、みなとみらい線の第一種鉄道事業者である横浜高速鉄道に譲渡されました(みなとみらい線の開業は2004年です)。2000年には、列車交換が可能である恩田駅が開業し、運行本数は少ないものの、通勤路線化が果たされます。それでも、こどもの国来園者のための路線であるという性格、そして沿線に長閑な風景が多く残されている点は変わりません。

 この「うしでんしゃ」は、2018年10月11日から2020年3月31日までの実施が予定されている「こどもの国線楽しモウ」というイベント(http://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20180918.pdf)の一環で運行されています。こどもの国の中に雪印こどもの国牧場があることが、ラッピングの由来となっています。

 ちなみに、このイベントは東京急行電鉄、社会福祉法人こどもの国協会および株式会社雪印こどもの国牧場により行われています。第三種鉄道事業者の横浜高速鉄道は関与していないようです。

 こどもの国は、今上天皇の御成婚記念として開園したという歴史があります。バブル経済最盛期の1989年1月8日から始まった平成の世も2019年4月30日をもって終わりますが、その間に日本は大きく変わりました。

 長津田駅、恩田駅およびこどもの国駅の周辺も、平成の間に変化が見られました。しかし、この辺りにはまだ田園風景が残されています。こどもの国の存在が大きいのかもしれません。

 ★★★★★★★★★★

 最後に余談を。

 こどもの国は、私の小学生時代(1970年代後半)には遠足の定番コースでした。遠足以外でも家族で何度か行っています。牧場などもあり、緑豊かな場所ですが、印象に残っているのは、至る所にこれとわかる形で弾薬庫の跡があること、東急玉川線(玉電)の車両が何両か保存されていたことです。もう何年も入っていませんが、今でも弾薬庫の跡は残っていることでしょう。車両のほうは全て解体されてしまったそうです。

 私が通っていた小学校には、こどもの国にまつわる伝説があります。私より下の学年で、こどもの国へ遠足に行ったのですが、定休日で中に入れず、周囲でお弁当を食べて帰ってきた、というものです。嘘のようですが本当の話です。

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北神急行電鉄が神戸市営に?

2018年12月29日 00時00分00秒 | 社会・経済

 山陽新幹線の新神戸駅を降り、三宮や元町へ、あるいは在来線(東海道本線、山陽本線)の各駅に向かうためには、神戸市営地下鉄西神・山手線かバスに乗り換えなければなりません。

 その西神・山手線は、新神戸駅から西神中央駅までの路線ですが、実は新神戸駅から神戸電鉄の谷上駅までの区間にも地下鉄の電車が走っています。およそ7キロ半の区間ですが途中駅はなく、ほぼトンネルを走り続けます。それが、北神急行電鉄の北神線です。開業当初から北神線と西神・山手線は相互直通運転を行っています。

 北神急行電鉄は、1979年10月29日に阪急電鉄などの出資によって設立された会社で(http://www.hokushinkyuko.co.jp/office/gaiyou.html)、阪急阪神東宝グループの一員です。1988年に北神線の営業を開始しましたが、同社の説明によれば「沿線の住宅開発の遅れやJR福知山線の利便性が格段に向上したこと等により、開業後の利用者数は、敷設免許時の想定輸送需要を大幅に下回ったうえ、建設費の償還負担が膨大であったため、当社は債務超過状態となり、不安定な経営状況が続いた」ということです(http://www.hokushinkyuko.co.jp/office/enkaku.html)。六甲山系の下に7キロ以上にもわたるトンネルを建設したことで、その建設費のために運賃が高くなったとも言われています。同社によれば、1999年4月1日より、新神戸駅から谷上駅の運賃を350円として「80円の運賃値下げを実施している」ので、それまでは430円であったということになります。確かに高額です(2014年4月1日から360円)。

 莫大な建設費のために運賃が高額に設定されるという問題は、北神急行電鉄に限らず、東葉高速鉄道や千葉急行電鉄(既に解散)などにも見られました。日本以外の国ではあまり見られないようで、根本的に見直さなければならないはずです。

 ともあれ、北神急行電鉄の債務超過の状態は続いており、2002年4月1日には北神線の鉄道施設の大部分は神戸高速鉄道に有償譲渡されました。これにより、北神急行電鉄は北神線の第二種鉄道事業者となり、神戸高速鉄道が第三種鉄道事業者となっています。また、神戸高速鉄道は、買い取った北神線の鉄道施設を20年間保有し、2022年には「残資産及び残債務を全て阪急電鉄に引き継ぐことになってい」ます(http://www.city.kobe.lg.jp/information/inspection/office/kekka/img/18-1-2.pdf)。

 (ちなみに、神戸高速鉄道は神戸市、阪急電鉄、阪神電気鉄道、山陽電気鉄道および神戸電鉄の出資によって設立された会社です。2009年4月1日、神戸市が神戸高速鉄道の株式の一部を阪急阪神ホールディングス株式会社に譲渡したことにより、阪急阪神ホールディングス株式会社の子会社となっています。)

 しかし、北神急行電鉄が抱える債務は、2018年3月31日の時点で413億円を超えています。2017年3月31日の時点では414億9000万円、2016年3月31日の時点では417億5800万円でしたので、減少傾向にはあるのですが、営業収益のほうをみると、2016年3月31日の時点で21億7800万円、2017年3月31日の時点で21億5000万円、2018年3月31日の時点で21億5800万円となっており、減少か横ばいというところです。

 兵庫県と神戸市が財政支援を行っており、兵庫県の県土整備部交通政策課・空港政策課「公共交通・航空ネットワークの整備・推進について」(https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks01/documents/koutsu.pdf)によれば、「北神急行電鉄安定運行対策費補助」として北神線の現行運賃維持のために兵庫県が1年に1億3500万円、神戸市も1年に1億3500万円を支出しています(なお、http://www.city.kobe.lg.jp/information/municipal/giann_etc/H28/img/bousai281021-8.pdfも参照)。これは2014年度から2018年度までとされています。また、「運行維持対策資金貸付金」として、兵庫県、神戸市および阪急電鉄が北神急行電鉄に対して、2003年3月25日から2023年3月25日まで、資金を貸し付けています。内訳は、兵庫県が50億円、神戸市が50億円、阪急電鉄が205億円、貸付利率が年0.68%です。

 兵庫県および神戸市による補助支援が今年度までであり、神戸高速鉄道による北神線鉄道施設の保有期間もあと3年強で終わり、貸付の期間もあと4年強ということになります。そこで、ということなのでしょう、神戸市が北神急行電鉄を市営化するということで、12月27日、阪急電鉄と協議を開始することで合意しました。地元の神戸新聞社が12月27日5時7分付で「”日本一高い”初乗り返上 人口増へ郊外開発促す」(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011937275.shtml)、同日10時7分付で「神戸・北神急行の市営化協議 阪急社長と市長会見へ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011937589.shtml)、同日20時41分付で「異例の民間鉄道運賃値下げ目的で公営化 神戸市へ北神急行譲渡の協議開始」(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011939030.shtml)として報じており、朝日新聞社が2018年12月27日23時42分付で「六甲山貫く『北神急行』、市営化に向け協議へ 神戸」(https://www.asahi.com/articles/ASLDW6QRXLDWPIHB03W.html)として報じています。

 或る程度は予想されていたことなのかもしれません。元々、北神線が西神・山手線の延長のような形で開業し、運行も一体的に行われています(北神線のみの電車は運行されていません)。そのため、確かに神戸市営地下鉄に統一するほうがわかりやすいとも言えます。ただ、北神急行電鉄が抱えている負債をどうするのかということはまだ明確になっていないようなので、そこが懸念材料になります。神戸市交通局は海岸線という、日本で一番かどうかはわかりませんが乗客が少ない地下鉄路線を抱えていますから、北神線も抱えるとなると大変な債務を抱えかねないのです。現在の神戸市長も、10月3日に甲南大学法科大学院の講義で海岸線がランニングコストすら賄うことができなかったことをあげて政策の失敗であると述べたと報じられています〔神戸新聞社が2018年10月4日21時15分付で「市営地下鉄海岸線は『失敗』 神戸市長が断言」(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201810/0011702954.shtml)として報じたところによります〕。

 それでも神戸市長が北神線を市営化したい旨を発言したのは、単に運賃を値下げしたいからではなく、神戸市北区の人口が減少しているという事実に鑑みてのことです。鉄道運賃の高さだけが人口減少の原因ではありませんが、三宮駅から西神・山手線および北神線を利用して谷上駅までは11分ですから(http://www.city.kobe.lg.jp/life/access/transport/subway/jikoku/によります)、確かに何らかの対策を立てなければ、と思うところでしょう。同区間の運賃は540円ですが、仮に北神線の区間も西神・山手線であったと仮定すれば、三宮駅から谷上駅までは8.8kmで新神戸駅から板宿駅までと同じ営業距離であるため、270円となります。ここまで下げられるかどうかはわかりませんが、京成電鉄が千葉急行電鉄の路線であった千原線について行ったような運賃設定をしなければ、或る程度は下がります。そうすれば、北区の人口減少に歯止めをかけるための施策が生きてくる、ということでしょうか。勿論、施策が悪ければ、北神線の運賃云々にかかわらず、減少を食い止めることはできません。

 ここまで記してきて、そして上記の諸記事を読み、課題と思われる点が頭に浮かんできました。第二次世界大戦の前や戦中であればともあれ(かつての神戸市電も私鉄を買収したものでした)、戦後に私鉄の公営化は(ほとんど)行われてこなかったのです。今年、大阪市営地下鉄が大阪市高速電気軌道の路線となったように、公営鉄道の民営化が積極的に行われてきたという流れが続いてきたのとは逆の話になります。それだけに、問題があると思われるのです。

 第一に、北神急行電鉄は神戸高速鉄道に鉄道施設を譲渡しています。そのため、北神線の市営化は神戸高速鉄道から神戸市への事業や資産の譲渡という形を採ることにもなります。その動向次第で運賃設定も変わってきます。神戸高速鉄道は阪急阪神ホールディングス株式会社の子会社ですから、阪急阪神ホールディングス、その子会社にして中核をなす阪急電鉄(や阪神電気鉄道)の意向もあるでしょう。事業の譲渡の範囲を何処までとするか、資産の譲渡価額を何円とするのかです。

 それだけでなく、最も重要なのは北神急行電鉄が抱える借入金などの債務をどうするのかという点です。上記の通り、北神線の鉄道施設は、神戸高速鉄道が20年間保有した後、阪急電鉄が引き継ぐこととされています。当然、市営化は想定されていなかったこととなります。しかし、神戸市が買い取るとなれば、同市が北神急行電鉄の債務を引き継ぐこととなるのか、それとも阪急電鉄が引き継ぐのか、という点を明確にせざるをえません。協議の結果次第では、神戸市の思惑通りに北神線の運賃引き下げにつながらないかもしれません。

 第二に、とは言っても第一と関わるのですが、北神線を市営化するということの具体的な意味です。

 現在は神戸高速鉄道が第三種鉄道事業者、北神急行電鉄が第二種鉄道事業者です。市営化という表現からすれば、最も素直なのは神戸市が第一種鉄道事業者となることです。神戸新聞社の報道〔「異例の民間鉄道運賃値下げ目的で公営化 神戸市へ北神急行譲渡の協議開始」(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011939030.shtml)〕を読む限りでは、市はこの方向性を目指しているものと思われます。

 しかし、神戸高速鉄道が第三種鉄道事業者のままで神戸市が第二種鉄道事業者となる、ということも考えられます。それでも北神線を市営化することになるのです。実例として、京都市営地下鉄東西線の三条京阪駅から御陵駅までの区間について京都高速鉄道が第三種鉄道事業者、京都市が第二種鉄道事業者であったという時代があったこと、および、都営三田線の目黒駅から白金高輪駅までの区間については現在も東京地下鉄株式会社が第一種鉄道事業者、東京都交通局が第二種鉄道事業者であることをあげておきます。

 ただ、この場合には第二種鉄道事業者が第一種鉄道事業者または第三種鉄道事業者に線路使用料を支払うこととなります。協議の内容によっては、この線路使用料を北神急行電鉄の債務の処理に充てるということも考えられますが、それでは運賃の引き下げにつながらないかもしれません。但し、これは神戸高速鉄道が引き続いて第三種鉄道事業者であることが前提ですから、神戸市が第一種鉄道事業者となるのであれば、線路使用料の支払いは生じません。勿論、その場合には市が北神急行電鉄の残債務を引き受け、処理しなければならないこととなります。

 なお、神戸市交通局の平成29年度決算(http://www.city.kobe.lg.jp/life/access/transport/kotsu/gaiyou/zaisei/img/kaiha_29.pdf)によれば、西神・山手線の純利益は59億6623万円(前年度決算比で2億7700万円の減)となっており、海岸線の純損失は42億8446万円(前年度決算費で1億9100円の減)となっています。したがって、両線を合わせた純利益は16億8177万円なのですが、累積欠損金が769億7015万円であることに注意を要します。

  第三に、北神線を市営化した場合の利用者数の見通しです。この点について、神戸市の見通しがどのようなものであるのかがよくわかりません。得てして楽観的な見通しを立てるのが日本人の習性でもありますが、それは禁物です。神戸市北区のみならず、同市全体の人口は減少傾向にあり(http://www.city.kobe.lg.jp/information/data/statistics/toukei/jinkou/suikeijinkou.html)、市の人口としては既に福岡市に第5位の座を明け渡しています(上から横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市、福岡市、神戸市、川崎市、京都市、という順番です)。海岸線の大失敗を繰り返してはなりませんから、利用客数の増加の見通しも慎重なものとせざるをえないでしょう。鉄道利用客が一度身につけた鉄道利用客の通勤・通学のパターンを変えることは難しいと考えられますから、急角度の右肩上がりという予想だけは絶対に避けなければなりません。

 第四に、このブログでも取り上げたことがある、神戸市営地下鉄西神・山手線と阪急神戸線との相互乗り入れ計画との関係です(「実現可能なのか? 阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線の相互直通運転 その1」および「実現可能なのか? 阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線の相互直通運転 その2」も御覧ください)。神戸新聞社の報道〔「異例の民間鉄道運賃値下げ目的で公営化 神戸市へ北神急行譲渡の協議開始」(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011939030.shtml)〕によれば、阪急電鉄の杉山健博社長は「市営地下鉄西神・山手線と阪急神戸線の相互直通(相直)構想と今回の事業譲渡交渉との関連については『全く別物』と否定した」とのことですが、本当にそうであるのかはよくわかりません。一部区間で西神・山手線と競合する神戸高速鉄道は阪急阪神ホールディングス株式会社の子会社であるとともに、現在も神戸市が出資する会社です。神戸市営地下鉄西神・山手線と阪急神戸線との相互乗り入れ計画は、北神線の市営化に対する直接的な影響はなくとも、間接的な影響はあるかもしれません。逆も然りで、北神線の市営化が神戸市営地下鉄西神・山手線と阪急神戸線との相互乗り入れ計画に何らかの影響を与える可能性も否定できないのです。

 第五に、谷上駅で接続する神戸電鉄有馬線との関係です。現在は北神急行電鉄が阪急阪神ホールディングス株式会社の子会社であり、神戸電鉄が阪急電鉄の子会社です(阪急阪神ホールディングスが27.3%、阪急電鉄が1.0%の株式を保有しています。但し、阪急阪神ホールディングス、阪急電鉄のいずれの公式サイトを参照しても、神戸電鉄はグループ企業としてあげられていません)。しかし、路線図をよく見ると、北神線+西神・山手線と有馬線は競合関係にあることがわかります。北神線が市営化すれば、完全な競合関係になります。ただ、この点についてはあまり重要視する必要はないのかもしれません。むしろ、相互補完関係を築ければよいということでしょう(現在もそうでしょうか)。神戸電鉄粟生線の状況が芳しくなく、存廃問題も浮上したほどですから、北神線の市営化が神戸電鉄(有馬線)に全く影響を及ぼさないとは考えられないでしょう。勿論、阪急側も神戸電鉄の存在を念頭に置きつつ、協議を進めるはずです。

 さて、北神線をめぐる神戸市と阪急電鉄との協議は何時までにまとまるのでしょうか。いずれの報道を見ても書かれていないのですが、兵庫県および神戸市による財政支援が今年度までとされているからといって、今年度中、つまり来年の3月末日までに結果をまとめるとは考えにくいところです(よほど以前から非公式な協議を重ねてきたか、またはこれから日程を詰めて協議を進めるというのであれば別ですが)。しかし、北神急行電鉄の借入金(兵庫県、神戸市および阪急電鉄から見れば貸付金)の期間いっぱいというのでは遅すぎると思われます。2020年か21年が目処というところでしょうか。行方が気になります。

 

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審議未了に終わってしまいましたが(2−2)

2018年12月28日 00時00分00秒 | 国際・政治

 今回は、2018年12月26日00時05分25秒付の「審議未了に終わってしまいましたが(2−1)」の続きです。「違法な国庫金の支出等に関する監査及び訴訟に関する法律案」(第197回国会参議院議員提出法律案第61号。以下、「法律案」)の第3章「違法な国庫金の支出等に関する訴訟」を取り上げましょう。

 章の題目からして、地方自治法第242条の2に定められる住民訴訟の国家版であることがわかります。「法律案」の第10条は「訴えの提起」という見出しの下に、次のように定めています。

 第1項:「監査請求人は、第八条第一項の規定による会計検査院の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第五項の規定による各省各庁の長若しくは職員の措置に不服があるとき、又は会計検査院が同条第一項の規定による監査若しくは勧告を同条第二項の期間内に行わないとき、若しくは各省各庁の長若しくは職員が同条第五項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、第三条の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもって次に掲げる請求をすることができる。

 一 当該行為の全部又は一部の差止めの請求

 二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求

 三 当該怠る事実の違法確認の請求

 四 当該行為若しくは怠る事実に係る各省各庁の長若しくは職員又はその相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを求める請求

 第2項:「前項の規定は、前条第一項に規定する会計検査院の検定の結果若しくは当該検定に係る弁償の命令に不服があるとき、又は会計検査院が同項に規定する検定を同条第二項において準用する第八条第二項の期間内に行わないとき、若しくは弁償命令権者が前条第四項の規定に基づく弁償を命じないときについて、準用する。この場合において、前項中「次に掲げる請求」とあるのは「第二号から第四号までに掲げる請求」と、同項第二号中「行政処分たる当該行為」とあるのは「当該検定又は弁償の命令」と、同項第三号中「当該怠る事実」とあるのは「当該検定又は弁償の命令を行わないこと」と、同項第四号中「各省各庁の長若しくは職員又はその相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求」とあるのは「職員に弁償の命令」と読み替えるものとする。

 参考のために、地方自治法第242条の2第1項を示しておきます。 

 「普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。

 一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求

 二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求

 三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求

 四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求」

 「法律案」第11条は被告適格、同第12条は訴訟の管轄について行政事件訴訟法を準用する旨の規定です。

 住民訴訟に出訴期間があるように、「法律案」第10条の訴訟にも出訴期間があります。これも地方自治法第242条の2第2項および第3項と同じようなものとなっています。「法律案」第13条を御覧ください。

  第1項「第十条の規定による訴訟は、次に掲げる期間内に提起しなければならない。

 一 会計検査院の監査の結果若しくは勧告又は検定若しくは再検定の結果に不服がある場合は、当該監査の結果若しくは当該勧告の内容又は当該検定若しくは再検定の結果の通知があった日から三十日以内

 二 会計検査院の勧告を受けた各省各庁の長若しくは職員の措置又は弁償命令権者による弁償の命令に不服がある場合は、当該措置又は弁償の命令に係る会計検査院の通知があった日から三十日以内

 三 会計検査院が第三条の規定による請求をした日から六十日を経過しても監査若しくは勧告を行わない場合又は検定若しくは再検定を行わない場合は、当該六十日を経過した日から三十日以内

 四 会計検査院の勧告を受けた各省各庁の長若しくは職員が措置を講じない場合又は会計検査院が弁償責任があると検定若しくは再検定を行ったにもかかわらず弁償命令権者が弁償を命じない場合は、それぞれ当該勧告に示された期間又は当該検定若しくは再検定の結果の通知があった日から十五日を経過した日から三十日以内

 第2項:「前項の期間は、不変期間とする。

 続いて「法律案」第14条です。「別訴の禁止」として「第十条の規定による訴訟が係属しているときは、他の監査請求人は、別訴をもって同一の請求をすることができない」と定めています。これも地方自治法第242条の2第4項とほぼ同じ趣旨です。

 次に「差止めの制限」を定める「法律案」第15条です。規定ぶりは地方自治法第242条の2第6項と同じです。

 「第十条第一項第一号の請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。

 「訴訟告知」を定める「法律案」第16条第1項は地方自治法第242条の2第7項が、「法律案」第16条第2項は地方自治法第242条の2第8項が、「法律案」第16条第3項は地方自治法第242条の2第9項が基になっています。また、「法律案」第17条が「仮処分の排除」を定める点も地方自治法第242条の2第10項と同様です。

 さて、監査請求人が訴訟を提起し、その結果として損害賠償請求または不当利得返還請求を認容する旨の判決が出たとします。控訴がなされなければ、判決は確定します。その効果はどのようになるのでしょうか。「法律案」第19条は「損害賠償の請求等」の下に、次のように定めています。

 第1項:「第十条第一項第四号の請求に係る同項の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、各省各庁の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金の支払を請求しなければならない。

 第2項:「前項の規定により損害賠償金又は不当利得による返還金の支払を請求した場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、国は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。

 御覧になっておわかりの方もおられるでしょう。基本的な構造は地方自治法第242条の3と同じです(見出しは「訴訟の提起」となっていますが)。念のために示しておきます。

 第1項:「前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。」

 第2項:「前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。」

 そして、「法律案」の本則の最後が、「弁償の命令等」を定める第20条です。次のような規定となっています。

 第1項:「第十条第二項の規定により準用する同条第一項第四号の請求に係る同項の規定による訴訟について、弁償の命令を命ずる判決が確定した場合においては、弁償命令権者は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る弁償を命じなければならない。

 第2項:「前項の規定により弁償を命じた場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該弁償の命令に係る弁償金が支払われないときは、国は、当該弁償の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。

 第3項:「第一項の規定によりなされた弁償の命令について取消訴訟が提起されているときは、裁判所は、当該取消訴訟の判決が確定するまで、当該弁償の命令に係る前項の規定による訴訟の訴訟手続を中止しなければならない。

 第4項:「第一項の規定によりなされた弁償の命令については、審査請求をすることができない。

 いかがでしょうか。細かい検討は脇に置くとしても、議論するには十分な法律案であると言えないでしょうか。国会で真剣な討論が望まれるところなのですが、少なくとも現在の国会情勢では無理なのでしょうか。 

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高津駅(DT09)のホームドアが稼働した

2018年12月27日 00時00分00秒 | 写真

2018年もあと少しで終わりという時期ですが、昨日(12月26日)の朝、或る用事のために田園都市線高津駅を利用したら、ホームドアが稼働していました。

 手前は今月の2日か3日に設置された1番線(下り、長津田、中央林間方面)のホームドア、奥は11月12日に設置された4番線(上り、渋谷、半蔵門線、東武線方面)のホームドアです。

 これで、再び私の知る限りですが、田園都市線でホームドアが稼働している駅は、池尻大橋、三軒茶屋、駒沢大学、桜新町、用賀、二子玉川(田園都市線のみ設置。大井町線は未設置)、溝の口、宮前平(田園都市線で最も早く設置)、たまプラーザ、あざみ野、江田、市が尾、長津田(田園都市線下りのみ設置)、ということになります。

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審議未了に終わってしまいましたが(2−1)

2018年12月26日 00時05分25秒 | 国際・政治

 2018年12月23日22時37分49秒付の「審議未了に終わってしまいましたが(1)」の続編です。今回は「違法な国庫金の支出等に関する監査及び訴訟に関する法律案」(参議院議員提出法律案第61号)です。以下、「法律案」と記すとともに、原則として「法律案」の規定を赤字で表示します)。

 「法律案」の構成は、第1章「総則」(第1条および第2条)、第2章「違法な国庫金の支出等に関する監査」(第3条から第9条まで)、第3章「違法な国庫金の支出等に関する訴訟」(第10条から第20条まで)、および附則となっています。

 違法な公金の支出に関する監査および訴訟と言えば、地方自治法第242条に定められる住民監査、同第242条の2に定められる住民訴訟をあげることができますが、国の公金支出に関する同種の制度は存在しません。そこで、このような法律を定めようというのでしょう。

 「法律案」第3条は、「監査の請求」という見出しの下、次のような規定となっています。

 「日本の国籍を有する者は、各省各庁の長又は職員について、違法若しくは不当な国庫金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に国庫金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、会計検査院に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって国の被った損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。

 一見して、地方自治法第242条を基にしているとわかります。参考までにあげておきましょう。

 地方自治法第242条第1項:「普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補塡てんするために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。

 「法律案」により、住民訴訟ならぬ国民訴訟となっている訳です。請求権者を「日本の国籍を有する者」に限定しているのは、この請求権が参政権または国務請求権(前者と考えるほうが妥当であると思われます)に由来するという理解を前提していることによるのでしょう。

 法律案が住民監査請求に倣っていることから、法律案の第4条(「請求期間」)も「当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」としています。地方自治法第242条第2項と同一です。

 他方、会計検査院への請求ということからか、「法律案」第5条は「同一の行為又は怠る事実についての請求の制限」という見出しの下、「第三条の規定による請求は、当該請求前に会計検査院により第八条第一項の規定による監査又は第九条第一項に規定する検定が行われた行為又は怠る事実と同一のものについては、することができない」としています。

 他方、「法律案」第6条は、会計検査院が請求を受理しない場合について定めています。その場合とは「第三条に規定する書面の添付がないときその他同条に規定する要件を満たさない請求であるとき」(第1号)、「正当な理由なく第四条に規定する期間を経過してなされた請求であるとき」(第2号)、「当該請求前に会計検査院により第八条第一項の規定による監査又は第九条第一項に規定する検定が行われた行為又は怠る事実と同一のものについての請求であるとき」(第3号)です。これは、速い話が門前払いとされる場合のことで、請求の中身について判断するまでもないということになります。

 会計検査院が請求を受理し、かつ「当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により国に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、会計検査院は、各省各庁の長又は職員に対し、理由を付して次条第一項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合においては、会計検査院は、当該勧告の内容を第三条の規定による請求をした者(以下「監査請求人」という。)に通知し、かつ、これを公表しなければならない」とされます(第7条)。これは「暫定的停止勧告」とされます。

 正式な監査および勧告は、「法律案」第8条に定められます。第6条の場合と異なり、請求を受理して監査を行います。その上で、請求の内容に「請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により監査請求人に通知するとともに、これを公表」することが、会計検査院に義務づけられます。逆に、会計検査院が「請求に理由があると認めるときは、各省各庁の長又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を監査請求人に通知し、かつ、これを公表」することが、会計検査院に義務づけられます(第1項)。会計検査院の監査および勧告は「請求があった日から六十日以内に行わなければならない」とされます(第2項)。

 「法律案」第8条第3項から第5項までは、会計検査院の監査および勧告に際しての手続に関する規定であり、行政手続法の趣旨にも即したものです(地方自治法第242条にも同旨の規定があります)。引用しておきましょう。

 第3項:「会計検査院は、第一項の規定による監査を行うに当たっては、監査請求人に証拠の提出及び陳述の機会を与えなければならない。

 第4項:「会計検査院は、前項の規定による陳述の聴取を行う場合又は関係のある各省各庁の長若しくは職員の陳述の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、それぞれ、関係のある各省各庁の長若しくは職員又は監査請求人を立ち会わせることができる。

 第5項:「第一項の規定による会計検査院の勧告があったときは、当該勧告を受けた各省各庁の長又は職員は、当該勧告に示された期間内に必要な措置を講ずるとともに、その旨を会計検査院に通知しなければならない。この場合においては、会計検査院は、当該通知に係る事項を監査請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。

 「法律案」第9条は「検定の実施等」に関する規定です。第1項は「会計検査院は、第三条の規定による請求があった場合において、当該行為又は怠る事実につき会計法、予算執行職員等の責任に関する法律(昭和二十五年法律第百七十二号)(特別調達資金設置令(昭和二十六年政令第二百五号)第八条又は国税収納金整理資金に関する法律(昭和二十九年法律第三十六号)第十七条の規定により適用される場合を含む。以下この条において同じ。)又は物品管理法の規定により弁償の責めに任ずべき者があると思料するときは、前条第一項の規定による監査及び勧告に代えて、又は同項の規定による監査及び勧告とともに、会計検査院法(昭和二十二年法律第七十三号)又は予算執行職員等の責任に関する法律の定めるところにより、国に損害を与えた事実の有無の審理及び弁償責任の有無又は弁償額の検定(第三条の規定による請求の前に検定を行ったときは、再検定)を行うとともに、その結果を監査請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない」と定めます(下線は引用者によります)。

 この規定にも示されているように、会計検査院による「国に損害を与えた事実の有無の審理及び弁償責任の有無又は弁償額の確定」については、既に会計検査院法第32条に規定があります。まず、第1項は「会計検査院は、出納職員が現金を亡失したときは、善良な管理者の注意を怠つたため国に損害を与えた事実があるかどうかを審理し、その弁償責任の有無を検定する」と定めており、次いで第2項は「会計検査院は、物品管理職員が物品管理法(昭和三十一年法律第百十三号)の規定に違反して物品の管理行為をしたこと又は同法の規定に従つた物品の管理行為をしなかつたことにより物品を亡失し、又は損傷し、その他国に損害を与えたときは、故意又は重大な過失により国に損害を与えた事実があるかどうかを審理し、その弁償責任の有無を検定する」とされています。

 少し先へ進むと、「法律案」第9条第4項は「会計検査院法第三十二条第三項又は予算執行職員等の責任に関する法律第四条第二項若しくは第三項の規定に基づいて弁償を命ずる者(以下「弁償命令権者」という。)は、第一項に規定する検定に従って弁償を命ずるときは、会計検査院から当該検定の通知があった日から十五日以内にこれを行うとともに、その旨を会計検査院に通知しなければならない。この場合においては、会計検査院は、当該通知に係る事項を監査請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない」と定めています。ここでは会計検査院法第32条第3項を引用しておきますと、「会計検査院が弁償責任があると検定したときは、本属長官その他出納職員又は物品管理職員を監督する責任のある者は、前二項の検定に従つて弁償を命じなければならない」と定められており、この弁償責任は、同第4項により、「国会の議決に基かなければ減免されない」のです。

 但し、「法律案」を可決・成立させるためには、会計検査院法第32条第4項および地方自治法新第243条の2(2020年4月1日施行)の再検討が必要であると思われます。「法律案」が法律になった場合には、国会による濫用が懸念されるためです。

 既に、住民訴訟においては、普通地方公共団体の議会の議決による損害賠償請求権等の放棄が問題となっています。最二小判平成24年4月20日民集66巻6号2583頁や最二小判平成24年4月23日民集66巻6号2789頁は、この議会による放棄を認容しているのですが、いかに賠償額が巨額になる傾向があるとはいえ、住民訴訟の意味を骨抜きにしかねないという点で、放棄には問題があるのです。しかし、地方自治法新第243条の2は「普通地方公共団体の長等の損害賠償責任の一部免責」という見出しの下、「普通地方公共団体は、条例で、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会の委員若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員(次条第三項の規定による賠償の命令の対象となる者を除く。以下この項において「普通地方公共団体の長等」という。)の当該普通地方公共団体に対する損害を賠償する責任を、普通地方公共団体の長等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、普通地方公共団体の長等が賠償の責任を負う額から、普通地方公共団体の長等の職責その他の事情を考慮して政令で定める基準を参酌して、政令で定める額以上で当該条例で定める額を控除して得た額について免れさせる旨を定めることができる」(第1項)、「普通地方公共団体の議会は、前項の条例の制定又は改廃に関する議決をしようとするときは、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない」(第2項)、「前項の規定による意見の決定は、監査委員の合議によるものとする」(第3項)と定めています。実態からして、各地の条例において賠償責任の減免を定める蓋然性、および監査委員が認容の意見を出す蓋然性は極めて高いと言わざるをえませんから、2020年4月1日から住民監査請求および住民訴訟は、少なくとも一部について意味を失うこととなるでしょう。

 同じことが、「法律案」の可決・成立によって国について起こりかねないのです。それでは意味の一部(それも少なからぬもの)が失われることになりかねません。

 なお、「法律案」には会計検査院法第31条と同旨の規定が存在しませんが、これは「法律案」に盛り込む必要がないから、ということなのでしょう。

 「法律案」第3章については、機会を改めて概観しますが、第2章の規定を見るだけでも、これは十分(いや、十二分)に国会での審査・審議に値します。勿論、現実の問題として、会計検査院が「法律案」に定められた職務を行う余裕などがあるか、などの点はあるでしょう。しかし、何故今まで同種の法律案が提出されてこなかったのか、または、提出されたことがあるのであれば何故に可決・成立しなかったのか、ということが問われます。内閣提出法律案として扱うだけの価値もあるのです。立法府の裁量権不行使による怠慢とも言いうるかもしれません。

 

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審議未了に終わってしまいましたが(1)

2018年12月23日 22時37分49秒 | 国際・政治

 2018年12月10日に終了した第197回国会(臨時会)において、参議院議員提出法律案の中に「財政法の一部を改正する法律案」がありました(第44号)。2つを除き、ことごとく審議未了となってしまった参議院議員提出法律案ですが、気になったものをこのブログであげてみようという訳です。

 改正法律案は、次のようなものです(衆議院のサイトを参照し、引用させていただきました)。

「財政法(昭和二十二年法律第三十四号)の一部を次のように改正する。

 第四条第一項中「以て」を「もつて」に改め、同項ただし書中「但し」を「ただし」に改め、「公共事業費」の下に「、文教・科学振興費」を加え、同条第三項中「公共事業費」の下に「及び文教・科学振興費」を加える。

 第二十二条中「外、左の」を「ほか、次に掲げる」に改め、同条第二号中「公共事業費」の下に「及び文教・科学振興費」を加える。

 附 則

 (施行期日)

 1 この法律は、公布の日から施行する。

 (文教・科学振興費の財源に充てるために発行した公債等の速やかな償還)

 2 政府は、この法律による改正後の財政法第四条第一項ただし書の規定により文教・科学振興費の財源に充てるために発行した公債及びなした借入金については、国家公務員の人件費の削減等の徹底した歳出の削減のための措置等を通じてその償還財源の確保を図り、その速やかな償還に努めるものとする。」

 提案理由は、次の通りです。

 「文教・科学振興費の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行すること等ができるようにするとともに、政府は、徹底した歳出の削減のための措置等を通じてその公債等の償還財源の確保を図り、その速やかな償還に努めるものとする必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」

 この改正法律案の通りに財政法が改正されたとすると、該当条文は次のように改められていたことになります(赤字が変更されるはずであった部分です)。

 第4条第1項:「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。ただし、公共事業費、文教・科学振興費出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」

 第4条第3項:「第一項に規定する公共事業費及び文教・科学振興費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。」

 第22条:「予算総則には、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為に関する総括的規定を設けるほか、次に掲げる事項に関する規定を設けるものとする。

 一 第四条第一項但書の規定による公債又は借入金の限度額

 二 第四条第三項の規定による公共事業費及び文教・科学振興費の範囲

 三 第五条但書の規定による日本銀行の公債の引受及び借入金の借入の限度額

 四 第七条第三項の規定による財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額

 五 第十五条第二項の規定による国庫債務負担行為の限度額

 六 前各号に掲げるものの外、予算の執行に関し必要な事項

 七 その他政令で定める事項」

 読んでみて「なるほどね」とは思いましたが、建設公債(財政法第4条第1項但し書きの公債をこう呼びます)の範囲を拡大してよいものなのかという疑問は湧きます。

 この条文よりも、財政法第3条および第10条を改正するほうが先でしょう。何せ、第3条は死文化していますし、第10条に至っては未施行なのですから。

 
 
 
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"Eric Dolphy, Musical Prophet : The Expanded 1963 New York Studio Sessions"

2018年12月11日 22時44分30秒 | 音楽

 私は、1984年4月、高校生になったばかりの時にエリック・ドルフィーの名を知り、秋葉原で"Last Date"(オランダはフォンタナ盤仕様の日本盤LP)を買いました。それ以来、六本木WAVEなどでドルフィーのアルバムなどを買い集めてきましたし、晶文社から刊行されていたドルフィーの伝記(ウラジミール・シモスコとバリー・テッパーマンの共著、間章の訳)を買い、ボロボロになるまで読んでいました。その本に収録されていた間章の「エリック・ドルフィ試論 不可能性と断片」は、5年前の2013年11月に月曜社から刊行された『〈なしくずしの死〉への覚え書きと断片 間章著作集Ⅱ』の冒頭に収録されており、渋谷のナディッフ・モダンで見つけてから今まで、何度も読み返しています。

 それだけに、今年の9月、この記事のタイトルに示した3枚組のCDが発売されることを知るや、予約を済ませました。"Conversations"と"Iron Man"という、1963年録音の2枚(既にLPで購入しています)を中心とし、未発表曲を含めたものです。しかも、音源は、1964年、ドルフィー自身がヨーロッパへの楽旅へ向かう直前に、スーツケースの中に入れたものなのでした。既にその一部がブルー・ノートから"Other Aspects"として1988年に発表されていますが、それから30年も経過して、今回の発売となった訳です。

 ドルフィーは1928年にロサンゼルスで生まれ、1964年にベルリンで死亡しました。わずか36年の生涯です。最も早い録音は1940年代後半のロイ・ポーター楽団のSP(?)だとのことですが、一般的には1950年代後半、チコ・ハミルトンのクインテットで早期の演奏を聴くことができます。あの「真夏の夜のジャズ」に入っている"Blue Sands"のフルートを御存知の方も少なくないでしょう。

 1960年に、プレスティッジに最初のソロ・アルバムである"Outward Bound"の録音がなされます。同年中に"Out There"および"Far Cry"の録音もなされますが、"Far Cry!"はしばらく経ってから発売されました。また、この"Far Cry!"からしばらくの間、スタジオ録音のソロ・アルバムはなかったのです。

 1961年にプレスティッジが手掛けたドルフィーのソロ・アルバムは全てライヴ録音であり、しかも"Eric Dolphy in Europe"の全3枚でプレスティッジでの録音は終わってしまいます(ドルフィーの生前に発売されたのはVol. 1だけであったようです)。1962年にはほとんど録音はなされておらず、死後かなりの時間が経過してから未発表ものとして発売されたものもありますが、伝記やディスコグラフィーによれば、彼自身のバンドは機会に恵まれなかったようですし、サイドマンとしてもソロの機会に恵まれなかったようです。

 そして1963年です。アラン・ダグラスのプロデュースで"Conversations"および"Iron Man"となる録音がなされましたが、生前に発売されたのは"Conversations"のみです。もし、この2枚の録音がなされなければ、ドルフィーの足跡をたどることはいっそう難しくなっていたことでしょう。この年に彼がサイドメンとして参加した録音などでも、ソロの機会はあまりなかったからです。

 しかし、"Conversations"および"Iron Man"の2枚は、ドルフィーのソロ・アルバムとしても非常に重要な位置を占めています。収録されている曲を見ると、小オーケストラ的な多人数編成、クインテット、デュオ、ソロと多彩ですが、どの曲も興味深いだけでなく、深く引き込まれていくものです。とくにクインテットは、1964年に録音されたあの"Out to Lunch"(ブルー・ノート)と同じく、ドルフィーのアルト・サックス/バス・クラリネット/フルート、トランペット、ヴィブラフォン、ベースおよびドラムという編成である点にも注意が向かいます(但し、トランペットとドラムの奏者は異なります)。間章も日本コロムビア盤のライナーノーツ(前掲『間章著作集Ⅱ』に掲載)で指摘していますが、一聴しての印象とは逆に、"Conversations"および"Iron Man"のほうが"Out to Lunch"よりも実験的な演奏となっています。このことは、とくに"Iron Man"に収録されている"Burning Spear"および"Music Matador"に顕著ですが、今回の3枚組には両曲の別テイクも収録されており、いっそう「"Out to Lunch"よりも実験的な演奏」の感を強くしました。また、"Conversations"のほうにはドルフィー自身が作った曲が1つもないということも注目に値します("Music Matador"はプリンス・ラシャが作曲したものです)。ドルフィーのソロ・アルバムのうち、スタジオ録音のものには、たいてい、ドルフィー自身の手による曲が収録されているからです。

 (ドルフィーの場合、時には曲名を変えたりしながら自作曲の再録音を行っていることも知られているところでしょう。例えば、"Out There"のタイトル曲は"Far Cry"のタイトル曲として再演奏されており、"Iron Man"に収録されている"Mandrake"は、1964年6月2日録音の"Last Date"に"The Madrig Speaks, the Panther Walks"として収録されています。)

 また、"Conversations"および"Iron Man"の2枚には、ドルフィーとリチャード・デイヴィスのデュオが3曲収録されています。"Alone Together"、"Come Sunday"、そして"Ode to Charlie Parker"です。正直なところ、"Ode to Charlie Parker"については、"Far Cry"における演奏と比べてもデュオである必然性を感じにくく、何故に"Iron Man"に収録されたのかと不思議に思ったのですが、今回の3枚組でいっそうその印象を強くしました。未発表であった"Muses for Richard Davis"のどちらかのヴァージョンを入れたほうがよかったのではないかと思ったのです。やはり、圧倒的に多くのファンは"Alone Together"を推すでしょう(今回の3枚組には別テイクも入っています)。ベース・クラリネットとベース(コントラバス)という低音楽器の絡み合い、ベースがソロを取る時のベース・クラリネットのバッキングの巧さ、曲の解体と再構成の方法などが理由でしょう。しかし、私は、"Come Sunday"でのベースに惹かれました。リチャード・デイヴィスによるアルコ(弓で弾くこと)の音の美しさは特筆に値するでしょう。大体、ジャズにおけるベースのアルコと言えば、ポール・チェンバースに代表されるように、フレーズはともあれ音そのものが汚く、鋸を挽いた時のような音が出る場合が多いので、ジャズにおけるベースのアルコはそういうものだと思われるのかもしれません。少なくとも、私はそう思っていました。しかし、"Come Sunday"では深めのヴィブラートをかけていることもあって、豊かに響くのです(スタンリー・クラークのアルコでも時折聴けますが、もっと深い音かもしれません)。クラシックのコントラバスの演奏に近いとも言えます。ちなみに、私は1985年の夏に、六本木ピットインで、エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンの一員としてのリチャード・デイヴィスの演奏を聴いていますが、アルコを聴くことができたのかどうかは覚えていません。

 独奏にも触れておきましょう。ドルフィーは、何度か独奏を披露しています。今、ちょうど"Last Date"の名演奏と言われる"You Don't Know What Love Is"を聴いており、この曲の最初と最後に彼のフルート独奏を聴くことができますが、これはいわばカデンツァのようなものです。最初から最後まで独奏というのであれば、ベース・クラリネットによる"God Bless the Child"が特に有名で、いくつかのヴァージョンが残されています。また、アルト・サックスによる"Tenderly"("Far Cry"に収録)もありますが、やはり"Conversations"に入っている"Love Me"でしょうか。冒頭に彼らしい音の(上下の激しい)跳躍が入り、その後、過多とも言える装飾音を伴ったテーマが演奏されます。おそらく、原曲は断片的にしか利用されていないのでしょう。

 その他ということで記しておけば、私は"Conversations"での"Jitterbag Waltz"を好んでいます。ドルフィーのフルートもよいのですが、ウディ・ショウのトランペットによるソロが曲の良さを引き立てているような気がします。彼も短命の音楽家でしたが、"Conversations"および"Iron Man"での演奏を聴く度に、ドルフィーとショウがこの後もレギュラー・バンドで演奏を続けられたとすれば"Out to Lunch"を超える素晴らしい成果をあげられたのではないでしょうか。それほどに、この二人の相性は合っていたように思えるのです。

 私は、今でもジャズやクラシックのCDをよく買うのですが、今年買ったものとしては、このブログでも取り上げた"John Coltrane, Both Directions at Once, The Lost Album"と"Eric Dolphy, Musical Prophet : The Expanded 1963 New York Studio Sessions"を筆頭にあげたいところです。

 最後に。明日、つまり12月12日は、間章の命日です。彼は1978年12月12日に、脳出血により、32歳で亡くなったのでした。

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中枢中核都市? 「『地域魅力創造有識者会議』報告書(案)」を読んでみる

2018年12月07日 11時48分50秒 | 国際・政治

 共同通信社が配信した記事のようですが、神奈川新聞社のサイト「カナロコ」に、昨日(2018年12月6日)の20時15分付で「東京一極集中の是正へ中枢市選定 政府、年内にも80候補公表」(https://www.kanaloco.jp/article/376155)という短い記事が掲載されています。

 昨日、内閣官房の「有識者会議」が「政令指定都市や中核市などから地域経済を支える拠点となる『中枢中核都市』を選び、機能強化のため財政、人材両面で支援することを柱とする報告書をまとめた」とのことです。その内容は、政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に明記されるとも書かれています。この「有識者会議」の正式な名称は記事に書かれていませんが、「まち・ひと・しごと創生本部」の中に設けられた「地域魅力想像有識者会議」であり、報告書の案も既にウェブで公表されています(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/chiikimiryoku_souzou/h30-12-06-shiryou1.pdf)。

 地方創生という大看板の下に広げられている諸政策は、地方が提案し、政府が選定するという色彩を非常に濃く映し出すものですが、「中枢中核都市」もその一つでしょう。政府がおよそ80市を候補として示すようです。

 「政令指定都市や中核市など」の中から「中枢中核都市」を選ぶというのですが、「中核市」と「中枢中核都市」との違いは何でしょうか。記事には書かれていませんので、報告書を見るしかありません。

 そこで、ウェブに掲載されている報告書の案を見ることとします。「『地域魅力想像有識者会議』報告書(案)」となっており、欄外に行番号が付されたままというものです。

 東京圏(東京都の他、神奈川県、千葉県および埼玉県。概ね南関東と言える地域です)への「一極集中」を防ぐための策ということらしいのです。報告書の案の「3.中枢中核都市の強化等まちづくり」に示されています。この部分の頭は、次のようになっています。

 「人口移動の面では、東京一極集中の傾向が継続しており、近年その度合いが強まっている。転出超過数の多い地方公共団体は、政令指定都市や県庁所在市などの中枢中核都市が大半を占め、上位 63 市で全体の約5割を占めている。

 都市毎に比較すると、類似の人口規模や立地条件でも、人口移動の状況は異なっており、産業構造や雇用の受け皿、周辺地域との相対的な魅力の差等、様々な要因があると考えられる。

 他方、中枢中核都市は、対東京圏以外では転入超過の都市が多くなっており、このように周辺から集めた人口を地域内にとどめる都市力の向上が共通的な課題である。」

 現在、政令指定都市は20あります。県庁所在市は、東京圏を除けば43市です。こうしたところで転出超過数が多いと書かれていますから、政令指定都市や中核市という制度の意味が問われかねない事態に陥っている訳です。一方で、「中枢中核都市」の多くにおいては、対東京圏以外について転入超過が進んでいると書かれていますから、二重の問題が存在していることとなります。

 すなわち、対東京圏については転出超過、それ以外では転入超過です。

 これは、例えば、次のような例があげられるでしょう。A県の県庁所在市であるB市は、A県の中では最も人口が多く、県内の他の市町村から転入する人口が多く、逆は少なくなっています。そのため、A県ではB市への人口集中が起こっています。他方、A県を全体として見るならば、人口は減少し、東京圏に人口が流出しています。そのため、A県のB市以外の市町村では極端な過疎が進行しています。

 私が1997年4月から2004年3月まで住んでいた大分県が、まさにこの状況の中にありました。当時、大分県には58の市町村がありましたが、県庁所在地である大分市には県の人口の3分の1以上が居住していました。報告書の案で「中枢中核都市が『ミニ一極集中」となり、周辺市町村が疲弊するようなこと」と書かれている状態が続いていた訳です。これは、他の都道府県についても同様でしょう。九州を例にとれば、各県内では県庁所在市に人口が集中し、九州地方では福岡市に人口が集中する一方で、九州地方全体としては東京圏や京阪神地区に転出する人が多い、というような図式を描けるのではないでしょうか。

 こうなると、「地方から東京圏への転入超過」という、長らく続いてきた傾向を改めなければならなくなります。「所得格差や有効求人倍率と高い相関を示しており、地方の所得水準や雇用を支える経済基盤の強化が必要と考えられる」というのはその通りですが、そのために、東京圏のみを悪者扱いするのでは何の解決策にもなりません。私自身、どれほど朝のラッシュ時で混雑し、多少の遅延は当たり前となっているとしても、東京での電車通勤を辞める気は起こりません。車社会の不便さを、7年間の大分県での生活で思い知ったからです。

 また、現在、至る所に高速道路網の整備が進められていますし、新幹線、航空便も増えています。このような状況では、わざわざ高いコストをかけて地方に支店網を維持する必要性が、完全にとまではいかないまでも失われてきています。産業構造の転換(報告書の案でも示されています)を進めない限り、東京への一極集中は止まりませんし、むしろ地方に支店網を広げるだけ無駄なコストをかけるのみに終わります。「各都市がシティセールス等により世界と直接つながり、その強みを生かして対内直接投資を呼び込むとともに、海外の成長や需要を取り込んでいくことも求められる」というのであれば、たとえばオリンピック(冬期を除く)や国際万博を東京、大阪で開く意味は全くない訳で、むしろ、国が本気で一極集中の是正に取り組むのであれば、あくまでも一環としてですが、こうした国際的行事を他の都市で開催するようにすればよいのです(先進国首脳会談が参考となります)。

 報告書の案によると、「中枢中核都市」は「東京圏以外の政令指定都市、中核市及び施行時特例市並びにその他県庁所在市及び連携中枢都市に該当する市(原則として昼夜間人口比率が概ね 1.0未満の都市を除く。)を中枢中核都市として位置付けることが適切と考えられる」とされています。理由として、「中枢中核都市には、①産業活動の発展のための環境、②広域的な事業活動、住民生活等の基盤、③国際的な投資の受入環境、④都市の集積性・自立性等の機能が備わっていることが求められる」ことがあげられています。

 今、手元に詳細な資料がないのでよくわからないところもありますが、「中枢中核都市」の位置づけに既視感(déjà vu)を覚えます。古くは政令指定都市、最近では中核市や特例市についても、同じような位置づけがなされていたように思えるのです。すであるならば、「ミニ一極集中」は止まらず、再び市町村合併の大波が来そうな予感さえします。報告書の案は「中枢中核都市には、活力ある地域社会を維持するための中心・拠点として、近隣市町村を含めた圏域全体の経済、生活を支え、圏域から東京圏への人口流出を抑止する機能を発揮すること、すなわち、圏域住民が、東京圏に行かずとも就業、就学等の自己実現を果たし豊かな生活環境を享受できる、広域的な地域の核としての役割を果たすことが期待される」と述べているのですが、「中枢中核都市」の中にあるショッピングモールが「ミニ東京化」するなどというようなことで終わる可能性もあります。

 何故、東京圏への一極集中が止まらないのか、という問題意識は大事です。ただ、そのためには、人々の意識を深く探る必要も出てきますし、何よりも東京圏の魅力なり長所なりを十分に分析することが必要でしょう。東京圏に人が集まるのは、人を惹きつける複数の何かがあるからです。よく「地域おこし」などに失敗した例を示した文献などを見ると、偏狭な「ムラ意識」、若年世代のアイディアを受け入れない、というような閉鎖性が指摘されています。もしかしたら、東京圏には、良くも悪くもこのような閉鎖性がない、とまでは言わなくとも稀薄であるのかもしれません(他の地域と比べれば、ということです)。

 私は、時々、プライドは捨てろ、変な誇りは捨てろ、ふるさと意識は捨てろと言い、記します。そのようにしなければ、衰退した地域の再興は難しいと考えるからです。また、プライドは誇りではなく、傲慢さであり、偏狭な性格です。誇りはプラウドです。プラウドが視野を狭くすることは、よく観察されることでしょう。

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おしらせです(2018年12月6日)

2018年12月06日 21時20分09秒 | 本と雑誌

 管理人の権限を利用して、お知らせです。

 大東法学(大東文化大学法政学会)の第71号(2018年11月)が発行されました。

 この中に私の「国税としての『森林環境税』」が掲載されています(113~135頁)。お読みいただければ幸いです(なお、こちらも近々、PDFで読めるようになるのではないかと思われます)。

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