ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

夕刊に載っていた記事

2019年09月13日 14時11分25秒 | 社会・経済

 大学の同僚などからも言われるとおり、私は鉄道ファンです。ただ、私鉄に、しかも通勤電車に関心を持ち続けていました。これは、幼少時から、渋谷、自由が丘、新宿、六本木などへ行く時に東急東横線を利用していたからでしょう。学部生時代からは、神保町や永田町へ乗り換えなしで行けるということから東急田園都市線を利用することが多くなりました。勿論、東京の地下鉄、小田急、京浜急行、京王、東武、西武などの私鉄も利用します(山手線は1年に数回利用する程度です。大抵の所には地下鉄に乗って行くためです)。

 逆に、国鉄の特急、急行などは、大分大学に勤務していた頃を除くと、あまり利用していません。とくに客車列車に乗ったのは、51年程生きている中で10回に満たず(5回に満たないかもしれません)、蒸気機関車に至っては実際に走っていたのを見たのが新交通システムに移行する前の西武山口線と「あそぼーい」が走っていた頃の豊肥本線だけなのです。世代的なものかもしれませんが、蒸気機関車には何の感慨も愛着も感じません(歴史的な意義は感じますが)。

 こんなことを書いてきたのは、昨日(2019年9月12日)付の朝日新聞夕刊4面3版に「e潮流 フォト 石井徹 脱石炭 SLに乗り考えた」という記事を読んだからです。

 最近では東武日光線と鬼怒川線でSL列車も走るようになっている程で、鉄道と観光との結びつきということではSLが最も効果があるからかもしれません。また、首都圏や京阪神地区でSL列車を走らせたら、沿線から苦情が来るかもしれません。あれこれ考えると、大井川鉄道、JR山口線、秩父鉄道、真岡鐵道、東武日光線・鬼怒川線などという路線でSLが動くのも当然かもしれません。

 朝日新聞の編集委員である石井さんは、JR釜石線を走るSL銀河に乗って考えたことを記事に書いています。「宮沢賢治の銀河鉄道の世界をテーマにした車内には、ギャラリーやプラネタリウムもあり、4時間余りの旅は飽きることはない。沿線から手を振って歓迎してくれる人もいて楽しい」ということです。客は蒸気機関車そのものに乗ることができないので、ギャラリーやプラネタリウムは客車にあるのが当然である訳で、それならDD51やDE10などのディーゼル機関車が牽引してもよいようなものですが、それでは味のないものになる、ということでしょうか。

 記事は、蒸気機関車が吐き出す黒煙から石炭の話になります。石井さんがJR東日本盛岡支社にたずねたところ、花巻駅から釜石駅の運行の際に消費される石炭は2.5トンになるそうです。釜石線はおよそ90キロメートルの路線なので、私には直ちに消費量が多いとも少ないとも判断が付かないのですが、同じ客車数でディーゼル機関車が牽引した場合に軽油を2.5トンも使うのでしょうか。また、石炭消費量を二酸化炭素に換算するとおよそ6トン、乗客1人当たり35キログラム程ということになるそうです。

 蒸気機関車は燃料効率の悪いことで知られています。どういう訳か、文部科学省のサイトに「昭和37年版科学技術白書」の「各論  §17  輸送  II  鉄道輸送  1.鉄道の近代化」の部分が掲載されているので(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa196201/hpaa196201_2_246.html)参照すると、「鉄道近代化の本命は,何といつても動力源の転換すなわちエネルギー効率のより高い電気動力、あるいは内燃動力への転換である。いま機関車の使用率を考慮に入れた場合の動力源の持つエネルギーの利用率—エネルギーの効率—を各種機関車について比較してみると、それぞれ蒸気5~6%、電気15~16%(火力発電)または50%以上(水力発電)、およびディーゼル20%以上になると考えられる」という記述があります。細かい条件が書かれていないので、SLの機種、路線の条件などによって異なるとは思いますが、石炭と水を積み、石炭を燃焼させてお湯を沸かし、蒸気を発生させて運転する訳ですから、効率が悪くなるのは仕方のないところでしょう。石炭のみならず、水の消費量も非常に多くなりますし、その割には速度も出ず、力もそれ程強くないということになります。日本の線路の上を走る鉄道車両は、線路と車輪との摩擦の関係で一般的に勾配に弱いのですが、蒸気機関車はとくに弱く、かつてスイッチバック構造の駅や信号所が多かったことの理由にもなっています。

 記事は本題の脱石炭に進んでいます。これは、勿論、鉄道の脱石炭ではなく、国のエネルギー政策の話です。ヨーロッパにE3Gという、気候変動のシンクタンクがあるのですが、ここが8月に発表した石炭政策の評価報告によると、G7諸国において日本は5年連続の最下位であったそうです。それは、石炭火力発電所の建設計画があるのがG7諸国の中では日本だけであるためです。日本のエネルギー政策が何処まで真剣に環境問題を念頭に置いているのかについては以前から疑問が出されていましたが、それは電力広域的運営推進機関が今年の3月にまとめた、電力各社による2028年の供給計画からもうかがわれる、と石井さんは指摘します。上記記事を参照しただけですが、次のようになっているようです。

 原子力発電:4%

 再生エネルギー:26%

 液化天然ガス:29%

 石炭:37%

 石油:3%

 政府が目指す2030年の電源構成は次の通りです。

 原子力発電:20〜22%

 再生エネルギー:22〜24%

 液化天然ガス:27%

 石炭:26%

 石油:3%

 両者を比較しても原子力発電の割合に極端な差がある程度に見えますが、原子力発電を減らすなら石炭を増やす、ということなのでしょう。エネルギー政策に限ったことではないのですが、前向きな姿勢とは見受けられません。これが高齢化社会の大きな弊害であろうか、とすら思えてきます。

 脱石炭化などを考えてSL列車に乗っていたら、それは「郷愁に浸っている自分の身の置き場に困った」ことでしょう。仕事柄と言えるのかもしれません。

 石井さんは、記事をこう締めています。

 「SLに限らず、近代文明は石炭から多くの恩恵を受けてきた。だが、感謝しつつ、きっぱりと別れる時期が来ている。今回、楽しみのために出した二酸化炭素は、普段の省エネや再エネ利用での削減を心掛けるとしよう。」

 落ち、下げなどと書いては落語になってしまいますので、結語としてはどうなのかなとも思ったのですが、こんなところに落ち着くのかもしれません。

 さて、ここからは記事と関係のないことです。

 今、かたや観光のためのSL列車が多くなっている一方で、非電化区間へのハイブリッド車や蓄電池駆動電車などの導入も進みつつあります。ハイブリッド車であればキハE200形、HB-E210系、HB-E300系(いずれもJR東日本)、蓄電池駆動電車であれば烏山線のEV-E301系、男鹿線(および直通先の奥羽本線)のEV-E810系、筑豊本線(および篠栗線)のBEC819系をあげておけばよいでしょう。気動車(ディーゼルカー)の置き換えのためですが、単純にキハ40系などの国鉄時代の気動車が老朽化しているからという訳でもありません。気動車も発車などの際に黒煙をあげることがあります。ディーゼルエンジンから排出されるガスが様々な環境問題の一因になっていることから、最新の技術が導入されていくのでしょう。今後も、このような動きにこそ注目する必要があります。

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