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ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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山路愛山『韓山紀行』を読む ①日露戦争中の韓国の印象を率直に記述

2012-10-10 13:46:53 | 韓国・朝鮮に関係のある本
 最近、明治後期~大正初期に活躍した評論家・史論家の山路愛山が日露戦争勃発の3ヵ月後の1904年(明治37年)5月、韓国を訪れた際の紀行文「韓山紀行」を読みました。
 1964年刊行の「現代日本思想大系 4 ナショナリズム」(筑摩書房.1964)に収められているもので、原稿用紙だと30数枚程度で、そんなに長文のものでもありません。
 その後、インターネットでも→コチラのサイトで全文見られることを知りました。(いいかげんなスキャン結果の文章が校正されないままになっていますが・・・。とくに後半部分。)

 さて、その「韓山紀行」の内容なのですが、当時の韓国の「人々の怠惰なようす」「街や民家の不潔なようす」「進取の精神に欠け、危機感もないこと」等が忌憚なく書かれています。

 したがって、いわゆる<嫌韓派>にとっては、恰好のネタ元ともいえるでしょう。現に、<植民地統治の検証 1 反日史観を糺す>というサイトには、以下の2ヵ所が引用されています。

 (釜山にて)僕の目に映じたる韓人の労働者はすこぶるノン気至極なるものにして餒ゆれば(うゆれば=食糧がなくなって腹がへる)すなわち起って労働に従事し、わずか一日の口腹を肥やせばすなわち家に帰って眠らんことを思う。物を蓄うるの念もなく、自己の情欲を改良するの希望もなく、ほとんど豚小屋にひとしき汚穢(おわい)なる家に蟄居し、その固陋(ころう)の風習を守りて少しも改むることを知らずという。僕ひとたび釜山の地を踏んで実にただちに韓国経営の容易の業にあらざるを知るなり。(5月5日) 

 水原を韓人は称して韓南第一の都会というそうなれども日本の村(原文のママ)同然の体(てい)たらくなり。さりながら城門は立派なるものなり(水原城はユネスコ世界遺産)。韓国の都会は大陸流にして廻らすに城壁をもってし四門を開き望楼を設く。遠望すれば写真で見たる万里の長城なり…  それはともあれ僕は城壁の大なると楼門の魏々たるとを見、城の内外にある民家の豚小屋同然たるに対比し、韓国には役人の建築ありて、人民の建築なきを感ぜざることを得ず。(5月8日)


 上記以外にも、たとえば次のような記述があります。

 その礼楽法度、ことごとく中華に擬するをもってみずから誇り、華人の称して小中華といいたりとて揚々たること事大根性ぜんぜん呈露す。その根底すこぶる深しというべし。この種の人物をして発憤自彊せしめんとす、僕はまず匙を投げざることを得ず。

 ところが、彼の文章には露骨な差別感情は見られず、率直に見たままを記しています。もちろん、いくら事実であっても、たとえば「不潔」と書かれた側は差別と受け止めることはむしろ当然かも・・・。また愛山自身は意識しなくても、当時の日本人なればこその「思い込み」もあったでしょう。
 山路愛山はクリスチャンであり、内村鑑三や堺利彦等と思想や政治的主張を越えて親交のあった人物ですが、当時の彼は自身帝国主義者であることを標榜していました。
 ところが、現在の「帝国主義者」のイメージを持って次のようなくだりを読むと、意外に思う人も多いのではないでしょうか?

 僕の深く恐るるところは在韓の日本人が自重せず、大国の威を借りて韓人を凌辱しかえってみずから韓人の不信を招かんことこれなり。日本国民の韓国にある者は人人みずから韓人の師表たるをもって任ぜぎるべからず。(5月7日)

 ・・・愛山がこのように書いたのは、「在韓の日本人が自重せず、大国の威を借りて韓人を凌辱し・・・」ということが見受けられた、ということでしょうか。
 そしてこの紀行文の最後の方で、彼は次のように旅を総括しています。

 さりながら韓国を見たること僕にとっては真に一大教訓なり。僕は韓国に対する日本の位置のとうてい今のままにてやむべからざるを信じ、韓国を鞭撻して、秩序あり、規律あり、文明人の棲息経営に堪ゆるものたらしむるは実に大日本国民の義務なることを深く信ずるに至れり。試みに思え比屋みな浄潔にして道路もまた平坦砥のごとき間に介在するに茅屋あり、ひとり不潔、汚穢をきわむるのみならず、破壊、危険の状あらば隣人たるもの公益を維持するの上よりしてその主人に迫りて改築の計をなさしめざるを得ず。これ隣人の権利にしてまた義務たるにあらずや。僕の韓国に来らざるや韓人のなおみずから振い、みずから彊(つよ)むるの余地あるを信ぜり。足ひとたび韓国を履(ふ)みて後はこの信仰は一変せり。韓人のみずから振作するを待つはほとんど枯木の芽を出すを待つに異ならず。如(し)かず、日本の隣人の義務としてひとりそのなすべきところをなさんのみ。この新信仰を僕の心に生ぜしめたるものは実に此遊の賜なり。(5月17日)

 きれいに整った住宅街に1軒不潔な上に壊れそうな家があったら、改築を促すのが隣人としての権利であり義務である・・・。韓国としてはなんともひどい言われようですが、愛山の気持ちとしては、差別視や収奪の対象というよりも使命感でしょう。

 ・・・と、このように書くと、私ヌルボが山路愛山を、あるいは往時の帝国主義やひいては韓国併合を肯定弁護していると思われるかもしれません。真意はそうではなくて、それらを否定するとなると、相手側の手強さを十分に認識しなければならない、ということです。

 「韓人のなおみずから振い、みずから彊むるの余地」を信じていた愛山は、韓国に行って「この信仰」を一変せざるを得ませんでした。
 もし自分がその時代にタイムスリップしたとして、愛山のような「健全な帝国主義者」を相手にどのような意見を述べることができるか、ということを自問してみると、そう簡単には答えを出せません。

 その当時のモノサシだけをもってすれば「歴史の必然」の前にほとんど立ちすくむしかなく、また現代のモノサシで過去を裁断しようとすると空論に陥るしかないようで、日韓の間の歴史認識問題もこのあたりのギャップを無視して噛み合わない議論を重ねているようです。

       
    【今年7月、渋谷・百軒店を歩いていて偶然見かけた山路愛山終焉の地の標識。】

 →山路愛山『韓山紀行』を読む ②よその国を見て「汚い」と思うこと (木村幹先生の論考を参考に)

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3 コメント

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暮らし方 (nagune)
2012-10-15 10:44:42
何時も色々な方面からの記事をアップして頂いて有難うございます。毎日読ませていただいています。

山路愛山の韓国の人々の暮らし。いまの経済大国と言う言葉にしがみついている日本に住む私にとって、特に
「(食糧がなくなって腹がへる)すなわち起って労働に従事し、わずか一日の口腹を肥やせばすなわち家に帰って眠らんことを思う。」
の部分は一面理想のような気も致します。
おそらく私はその時代ですとヤンパン階級ではないので、甘くない世界だとは思うのですが。

ご存知かもしれませんが、韓国文化院のHPを見ますとまた申さんがいらっしゃるようです。
私は残念ながら行けそうにないのですが。
私、下北沢で携帯写真を撮ったのですがたぶんヌルボさんだと思います。
返信する
そうそう、そうなんですよ! (ヌルボ)
2012-10-15 16:38:23
コメントを読んで、この記事の続編を書くつもりでいたことを思い出しました。
その要点だけを先に書いちゃうと、「怠け者だ!」とか「不潔だ!」とかの尺度も絶対的なものでもないし、一方的に責められるべきものともいえないのでは、ということです。

申京淑さんについて。11月16日(金)の催しですね。↓
http://www.koreanculture.jp/info_news_view.php?number=2441

私も10日ほど前に知りました。たぶん行けるかな、という感じです。
下北沢の件、そーだったんですか!? 今後同じような機会がありましたら、ぜひお声をかけてみてください。特徴=メガネ・背が低い・講演中は大学ノートにメモをとっている・大抵は1人で来ている
返信する
韓人という表現は良いですね。 (カイカイ反応通信愛読者)
2015-05-28 09:52:13
前の職場で在日朝鮮人(韓国籍)と話したときに私が『朝鮮料理』という言葉を使ったら『朝鮮とい う言葉は不愉快です。人が不愉快になることは言ってはいけない。』とたしなめられました。
それに対して私が『そんなこと言ったら竹島はどうするの?韓国人と話をしたときに私が『竹島』と言ったとする。そのときに相手の韓国人から『竹島という言葉は不愉快です。独島と言いなさい。人が不愉快になることは言ってはいけない。』と言われたら、それに対して唯々諾々と従うのがマナーなんですか?』と反論して、結論は出ないまま終わりました。
確かに『相手が不愉快になることは、言ってはいけない』というマナーは分からないでもないです。デブに対してデブと言ったり、ブスに対してブスと言うのは、たとえ客観的にみて正しいとしても、相手が不愉快になるから言わないにこしたことはないと思います。
今回の記事を読んで朝鮮半島=韓半島ですから朝鮮人=韓人、朝鮮料理=韓料理と言い換えれば問題ないかもしれませんね。
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