ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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朝鮮半島の南北統一問題と、安重根記念館の関係など

2014-02-02 15:54:39 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 1月30日発売の「週刊文春」(2月6日号)も<怒りの総力特集「韓国の「暗部」を撃て!」>と威勢よく看板を掲げて以下のような内容の記事に8ページも費やしています。
 ①「安倍はストーカー」韓国政府 ダボス会議妄言録/「朴槿恵は対話能力ゼロ」韓国発暴露本の衝撃度
 ②日本刀で少女恫喝 慰安婦マンガをフランスに大量輸出
 ③安重根記念館で共闘「中韓反日キャンペーン」最前線ルポ
 ④“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に
 ⑤「靖国失望」ケネディ大使に叱られて喜ぶマゾ新聞

 これだけ各雑誌で同様の記事が続いても、多くの読者はまだ食傷気味にもなっていないのかな? 私ヌルボとしてはあんまり引き込まれるような内容でもなかったのですが・・・。

 朴槿恵大統領は1月6日に国内では就任以来初の記者会見を開き、22日にはダボス会議で基調講演をしました。
 それらを伝える日本メディアの多くは「反日発言」の有無に重点をおいているようです。読者の関心もその点にある、という前提でしょう。

 しかし、たとえば朝日新聞・武田肇記者のツイートには次のようなことが記されていました。

武田 肇 다케다 하지무 ‏@hajimaru2 1月5日 突然ですが、1年ぶりにソウルに来ました。昨日、久しぶりに友人(30代の韓国人女性)とお茶したら、会話がすっかりかみ合わず。私「日韓関係が悪化し、残念で…」 友人「えっ、何のこと?」 私「韓国で反日感情が高まっているのでは…」 友人「本当に? 私が知らないだけかな?」 1 →

武田 肇 다케다 하지무 ‏@hajimaru2 1月5日→私「韓国民は安倍首相に不安を感じているとか?」 友人「ごめん。あんまり関心がなくて」 私「…」 友人「それより朴槿恵大統領が韓国を壊すんじゃないかと、心配で、不安で。労働者への弾圧はひどいし、国情院の事件とかめちゃくちゃで、ああ、あと4年もどうやって我慢したらいいのか…」 →2

武田 肇 다케다 하지무 ‏@hajimaru2 1月5日→私「その朴大統領のために、日本では嫌韓という言葉が広がっているのだけど」 友人「どうして?」 私「恨み千年論とか、外遊先で厳しい日本批判を続けているとかで、不信が不信を呼んで」私「親日派なのに、なぜか安倍総理と仲が悪いとは聞いたような気がするけど、そこまでは知らなかった」 3→

武田 肇 다케다 하지무 ‏@hajimaru2 1月5日→私「それに、対馬の仏像問題とか、米国での慰安婦像建立をめぐる問題もあり、日本では韓国に対する感情が悪化していて」 友人「なにそれ?慰安婦問題がもめているのは昔からのことでは?」 私「韓国が軍事的驚異になると心配する人までいて」 友人「それは北朝鮮じゃないの?信じられない」→4

武田 肇 다케다 하지무 ‏@hajimaru2 1月5日→私「結構、日本では話題のテーマなんだけどなあ」 友人「そうなの? 隣の国なのに、いろいろ考えいることが違うのね。私も武田氏みたいに国際ニュースに関心を持たないとね」私「…」5終


 また、1月31日「毎日新聞」の記事((大沢文護客員編集委員<記者の目>:<[北朝鮮・張成沢氏粛清]日韓関係改善の好機>)によると、「韓国の有権者のうち、歴史問題や領土問題を投票の基準としているのはわずか8%」とのこと。何かで見ましたが、韓国の一般市民の日本に向ける関心は、日本人が思うほど高くはないように思えます。ちょっと<自意識過剰>かも・・・。

 ぼちぼち本論。
 で、朴槿恵大統領が1月6日の記者会見でもダボス会議でも共通して強調したのは南北統一問題。
 記者会見では「南北統一は<テバク>だ」と言いました。<テバク(대박)>とは、数年前以来の新語で「大当たり!」「大もうけ!」「やった!」という意味です。またダボスでは「統一は南北朝鮮ばかりでなく周辺諸国にとってもプラスになる」と訴えました。

 南北統一問題については、6日の記者会見より前、1月1日の「朝鮮日報」で1~3面にわたって大きく特集記事が組まれ、その後も継続記事が掲載されていました。

    
 【1月1日の「朝鮮日報」1面。写真は中部戦線DMZ(非武装地帯)の北側から鉄柵を越えて南側に降りてくる鶴の群れ。】

 この「朝鮮日報」の記事中のアンケート調査の結果からも明らかなように、韓国の国民は<南北統一:「分断維持すべき」が2倍に 「早く統一を」20年間で半減>と、近年ますます統一には消極的になっています。(→「朝鮮日報(日本版)」)

 統一問題には冷めた世論は当然承知の上で朴槿恵大統領や「朝鮮日報」がずいぶん<本気>で統一問題についてアピールしているのはもちろん最近の北朝鮮情勢を見ての上でしょう。

 1月1日の「朝鮮日報」で、南北の統一についての各国の識者たちの発言を紹介した記事の見出しに"눈사태처럼 올 통일… 지금 준비 안하면 北은 중국의 속국 될 것"(雪崩のようにやってくる統一・・・今準備しなければ中国の属国になるだろう)」という文言がありました。

 つまり、国民(あるいは政府首脳等)が望むが望むまいが、北朝鮮が崩壊する可能性が増してきており、またそのような状況下で中国の影響力が韓国として座視できないほど大きくなっている、という判断から朴槿恵大統領も「朝鮮日報」も新たな世論形成に打って出たということでしょう。

 実は、この問題については日本経済新聞社編集委員の鈴置高史氏が1月30日付で<このままでは北も南も中国の属国だ 「北の自壊」に公然と備え始めた韓国>という興味深い記事を書いています。(→コチラ。)
 ※鈴置高史氏の<早読み 深読み 朝鮮半島>はどれもおもしろいです。前回(1月16日)は<靖国で「しめた!」と叫んだ韓国だが・・・>(→コチラ)。

 さて、このような南北統一問題と直接関係ないかのようにみえる中国・ハルビンの安重根記念館の建設ですが、つい先日(1月30日)の「毎日新聞」の連載コラム<木語>で金子秀敏専門編集委員が<北朝鮮の人、安重根>と題して興味深い記事を書いています。(→コチラ。※会員制)
 会員でないと読めないので、一応記事の要旨を記しておきます。

 昨年(2013年)6月、朴槿恵大統領は訪中した際、習近平国家主席にハルビン駅に安重根記念碑、重慶市に光復軍(上海臨時政府の軍隊)総司令部記念碑を建てることを要望した。 
 この2つのモニュメントを合わせると、反日とは別の意味が浮かび上がる。
 韓国の憲法には、現在の韓国は「大韓民国臨時政府の法統を継承している」と記されている。 要するに、抗日独立武力闘争の本流は韓国だから、朝鮮半島を統一する権利は韓国にあるということだ。2つをセットにすると、朝鮮半島の唯一合法政府は南にあることを示す法統のモニュメントになる。しかも、それを中国に作らせれば、中国がこの法統を認めたことになる。朴大統領の狙いはこれだろう。
 一方、北朝鮮にはもちろん金日成の「抗日パルチザン伝説」がある。中国共産党軍はその抗日パルチザンの兄弟軍だった。1950年に北朝鮮軍が38度線を破って南進したときも中国は義勇軍を派遣した。北朝鮮を正統と見なしていたからだ。北朝鮮にすれば、韓国の法統モニュメントを建設するとは中国の裏切りだ。
 中国は1月19日、ハルビン駅内に安重根義士記念館を開館した。韓国紙によると、重慶の光復軍総司令部の復元も決めた。(→1月23日「中央日報(日本版)」)
 韓国メディアは「外交勝利」で高揚している。
 北朝鮮の官製メディアは26日「中国が安重根烈士の壮挙をたたえたのは極めて正当」と記念館を容認した。安重根の生まれ故郷は黄海道で、もともと北朝鮮の人だ。だが光復軍への言及はなかった。


 金子秀敏専門編集委員は、昨年7月の<木語>でも朴槿恵大統領の訪中について、同趣旨の記事を書いています。
 それについては、本ブログでも取り上げたことがありました。(→コチラ。)
 その過去記事のネタとなった「文藝春秋」(2013年10月号)の座談会で、松本健一先生が「(韓国が)独立戦争らしきものを求めると、金日成の抗日ゲリラ伝説くらいしか見いだせない。だから、韓国が国家の正当性をいおうとすると、北朝鮮と手を組むしかないわけです」というピントはずれの発言をしていますが、だからこそ逆に、北朝鮮の<建国神話>に対抗すべく、独自の<建国神話>を90年前後からせっせと構築してきたわけです。

 北朝鮮と中国との関係がギクシャクしてきている現在、また張成沢処刑にみられるような北朝鮮権力層内の不安定要因がさまざまに伝えられる現在、「<抗日の同志>でしょ」とモニュメント建設等により中国にすりより、北朝鮮をソデにして中国との結びつきを強化するとともに、「南北統一は周辺諸国(もちろん中国も含む)にとってプラス」と宣伝する・・・、とまあこういった外交戦略の構図が見てとれます。
 ・・・といっても、韓国政府や韓国メディアがそのように説明してくれてるわけではないし、ただそう考えると合点がいくな、ということを上記の金子秀敏氏や鈴置高史氏の記事や韓国各紙の記事を読んで思った次第です。

 そういえば、リンク先の過去記事の続きをまだ書いていませんでしたね。近いうちに書きます。

[2月5日]さっそく書きました。
 →[韓国の<聖地>上海 ②] 現行憲法前文にある「大韓民国臨時政府の法統」の意味を考える

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