ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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山岳写真家・白籏史朗さんが撮った韓国の寺や名山の写真集

2012-01-16 22:41:45 | 韓国・朝鮮に関係のある本

 横浜市立図書館の美術関係の書架中にたまたま韓国名山秀景」(くもん出版)という写真集を発見。
 私ヌルボが心で「!?」と思ったのは、背表紙に「写真=白簱史朗」とあるのが目に入ったからです。

 何を隠そう私ヌルボ、かつては日本第2の高峰北岳にも登ったこともある登山愛好家でした。(過去形で書かざるをえないのが残念。)
北アルプスでは槍ヶ岳に登ったこともありますが、北岳2回の他、甲斐駒&仙丈ヶ岳にも行ったこともあり、南アルプスはとくに懐かしく思い出されます。

 そして南アルプスを撮った山岳写真家といえばもちろん白簱史朗さん。岩波ジュニア新書の「山と写真わが青春」(1980年)も感動的でした。銀座で開かれていた写真展で偶然見かけた時には、そのごっついガタイに驚いたものです。

 そんな山岳登山家の白簱さんが韓国各地の、どころか全道の主要な寺を網羅した写真集を出していたとは意外でした。また、それぞれの寺にある仏像や、各種の仏教文化財の写真も数多く掲載されています。

 奥付を見ると、<協力>として韓国文化公報部、韓国文化院、韓国観光公社、日本航空が名を連ねていて、発行日は1986年11月27日
 ・・・ということは、ソウル五輪が近づいてきた頃、出版社が韓国への関心を高めようという韓国の公的機関と日航に働きかけて作った本なのかな? それとも韓国側が・・・、と考えつつ目次の次のページを見ると「企画・編集岡井耀毅」の文字が・・・。いろんな写真家についての本を出している元「アサヒカメラ」の編集長。ふーむ、彼が仕掛け人かー・・・。
※岡井耀毅さんの最新刊(2011年9月)「現代写真家の仕事術」に、白簱史朗さんについても記されていますが、内容は写真家論、作品論で、たとえば2人の間の具体的なエピソード等は記されていません。白簱さんらしい名言の紹介等、興味深くは読めるのですが・・・。

 さらに横浜市立図書館の蔵書検索をしたら、他にも同じくもん出版から韓国の美・・・歴史をたどる」「韓国の美・・・伝統をさぐる」「韓国名山秀景の3冊が同時に刊行されていることがわかりました。合わせて<韓国の美シリーズ>全4巻とされています。幸い、すべて図書館に揃っています。
 そこで、全冊一通り目を通してみました。
 ・・・で言えることは、
 「韓国古寺巡礼」「韓国の美・・・歴史をたどる」「韓国の美・・・伝統をさぐる」の3冊で、韓国全土の主要な寺、古墳、仏像、石塔、そして国宝級の陶磁器、金属器等々の写真がすべてといってよいほど網羅されています
 それぞれ、説明も詳しく記されています。類書があるかどうかよくわかりませんが、発行から26年経っても文化財はほとんど変わっていませんから、今も韓国の文化財を知る基本書としてとても重宝なシリーズだと思います。今は古書でしか入手できませんが、通販の価格を見ると2円(!)とか200円とか、ずいぶん安い値がついているようです。(定価は3,200円)
 個人的に少し不満があるとすれば、この3冊には白簱さんの名前で書かれた文章が全然載っていないこと。各文化財の説明文は客観的記述で、おそらく取材協力者として名が載っている韓国の人たちか韓国文化院等の専門家とかの執筆と思われます。

 そして今回のメインの「韓国名山秀景」について。
 このシリーズを企画した人が、寺や仏像等をたくさん撮るのになぜ白簱さんに白羽の矢を立てたか? ・・・ヌルボ思うに、長期間にわたって韓国全土を回るにはタフでなければならない、ということ。あ、しかし自然とか報道とかのカメラマンにとって体力はほとんど必須の条件みたいだから、体力のある人は大勢いるか・・・。ところが、この「韓国名山秀景」を撮るとなるとやっぱり彼でしょうね。

 さすがに山ともなると、「主要な山をほとんど網羅」というレベルにはいかないとはいえ、それでも韓国一の高山・済州道の漢拏山(한라산.ハルラサン)をはじめ全道の代表的な山を撮っています。

 <한국의산하(韓国の山河)>という韓国サイトの中に、ネチズンの接続回数によって順位をつけた「人気名山100」というリストがあるのですが、その上位20位までのちょうど半数の写真が載っています。(下のリスト参照)

色が本書掲載の山
①智異山(지리산.チリサン)  標高1,915m(2位)
②雪岳(嶽)山(설악산.ソラクサン)  標高1,708m(3位)
 ③北漢山(북한산.プッカンサン)
④徳裕山(덕유산.トギュサン)  標高1,614m(4位)
⑤小白山(소백산.ソベクサン)
⑥大芚山(대둔산.テドゥンサン)
⑦稚岳山(치악산.チアクサン)
⑧漢拏山(한라산.ハルラサン)  標高1,950m(1位)
⑨太白山(태백산.テベクサン)
⑩冠岳山(관악산.クァナクサン)
⑪鶏龍山(계룡산.ケリョンサン) 
⑫月岳山(월악산.ウォルリサン)
⑬五台山(오대산.オデサン)
 ⑭月出山(월출산.ウォルチュルサン)
⑮俗離山(속리산.ソンニサン)
⑯伽耶山(가야산.カヤサン)
⑰道峰山(도봉산.トボンサン)
⑱馬耳山(마이산.マイサン)
⑲周王山(주왕산.チュワンサン)
⑳清渓山(청계산.チョンゲサン)

 さらにこの本では、「大陸の風貌に織りなす箱庭的景観」と題した白簱さん自身の文章が掲載されています。それによると、韓国の山で最初に登ったのが漢拏山、その後智異山、雪岳山と標高順に登ったということです。本書収録の山の中でも、とくにこれら3つの山は、いくつもの場所や、季節、時刻等々、多様な美しさを何枚もの写真で紹介しています。
 山以外にも、巨済島や三陟(サムチョク)の海金剛等の海岸美も収められています。

  
        【さまざまな季節や時刻に撮られた漢拏山の山頂付近】

 前述のように「韓国古寺巡礼」等について「重宝な本」と評しましたが、写真自体の魅力でいえば、やはり本書。白簱さんの本領が発揮されています。

 不満な点をあげておくと、撮影データが記されていないこと。せめて撮影年月日は入れてほしかったと思います。漢拏山の白鹿潭辺りのキンポウゲやツツジの時期等知りたいではないですか。
それから、奥付によると「昭和60年 韓国全域の風景・史蹟・建造物・仏像などの撮影開始」、翌年に「韓国取材終了」とあります。その成果がこのシリーズ4巻というわけですが、足かけ2年の取材・撮影旅行の間にさまざまな苦労や感動の物語があったことが推測されます。せめてその一端でも記事にしてほしかったなー。これはすごく残念! 

 その後、現在に至るまでの白簱さんの業績を見ると、やはり本来の山岳写真関係のみで、彼の経歴の中で<韓国の美シリーズ>だけが異質な感じを受けます。
ご本人はこのシリーズのことを、あるいは当時の韓国のことを今どのようにふり返っていらっしゃるのか、伺ってみたいものです。

[参考:韓国の山について、役に立つブログ]  
韓国各道の代表的な山の紹介・・・ 主な山所在図(全国地図)が付いています。
한국의산하(韓国の山河)(韓国語)・・・さらにいろんなサイトにリンクしています。

          
                    【雪岳山-金剛門岩峰】

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